説明

単純ヘルペスウイルスおよびウイルス複製法

単純ヘルペスウイルスゲノムが、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単純ヘルペスウイルスを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルスの複製法、および疾患の治療における単純ヘルペスウイルスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
新規増殖阻害剤4(ING4)は、候補腫瘍抑制因子タンパク質の新規増殖阻害剤ファミリーのメンバーであり、該タンパク質のうち6つがヒトにおいて報告されている(Garkavstevら 1996)。ING4遺伝子の喪失が、頭部および頸部扁平上皮癌(Gunduzら 2005)およびグリオーマ(Garkavtsevら 2004)において報告されてきており、そしてこのタンパク質に関してはいくつかの異なる機能が記載されてきているが、その正確な作用様式は、まだ解明されていない。
【0003】
ING遺伝子産物は、細胞増殖を阻害し(Russellら 2006、Camposら 2004、ShiおよびGozani 2005)、そしてその過剰発現は、アポトーシス増加と関連づけられる(Nagashimaら 2001)。ING4による細胞増殖の阻害は、おそらく、ING4がp53およびアセチルトランスフェラーゼp300に結合し、こうしてp53のアセチル化および活性化を促進することによって仲介される(Shisekiら 2003)。ING4は、正常細胞周期進行およびヒストンH4アセチル化の大部分に必要とされるHBO1 HAT複合体の構成要素として報告されてきており(Doyonら 2006)、クロマチンリモデリングおよび転写制御における役割が示唆される。ヒト癌発展中にヒストンH4アセチル化が広範に喪失することから、ING4が腫瘍抑制因子の役割を果たすことが強く示唆される。ING4は、NF−κBのRelAサブユニットと相互作用して、IL−6、IL−8およびCox−2などの血管形成関連遺伝子の発現抑制を生じることが示されてきており(Garkavtsevら 2004)、そしてグリオーマにおけるその喪失は、より攻撃的な腫瘍増殖および血管新生と関連づけられる。腫瘍抑制因子遺伝子の喪失は、癌進行の共通の特徴である。多発性骨髄腫細胞におけるin vitroのING4抑制は、おそらく、低酸素中の血管形成遺伝子の上方制御に関与する低酸素誘導性因子−1(HIF−1)の活性増加を通じて、血管形成促進性IL−8およびオステオポンチンの発現増加を生じ、そして多発性骨髄腫患者において、ING4レベルの減少は、高いIL−8産生および高密度の微小血管の両方と関連づけられる(Collaら 2007)。やはり血管形成遺伝子を制御する際に関与するHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HPH)−2との相互作用を介しておそらく仲介される、HIF転写因子のING4抑制もまた、報告されてきている(Ozerら 2005、Collaら 2007)。
【0004】
単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノムは、長(L)および短(S)と称される2つの共有結合したセグメントを含む。各セグメントは、逆位末端反復配列対が隣接するユニークな配列を含有する。長反復(RLまたはR)および短反復(RSまたはR)が特徴的である。
【0005】
広範に研究されているHSV ICP34.5(γ34.5とも称する)遺伝子が、HSV−1 F株およびsyn17+株、ならびにHSV−2 HG52株において配列決定されている。ICP34.5遺伝子の1コピーがRL反復領域の各々の内部に位置する。ICP34.5遺伝子の両方のコピーを不活性化する突然変異体(すなわちヌル突然変異体)、例えばHSV−1 17株突然変異体1716(HSV 1716)、あるいはF株における突然変異体R3616またはR4009は、神経毒性を欠く、すなわち非病原性(非神経毒性)であることが知られており、そして遺伝子送達ベクターとして、または腫瘍退縮(oncolysis)による腫瘍の治療においての両方で有用性を有する。HSV−1 17株突然変異体1716は、各RL反復のBamHI 制限断片内に位置するICP34.5遺伝子の各コピーにおいて、759bp欠失を有する。
【0006】
HSV1716などのICP34.5ヌル突然変異体は、事実上、第一世代腫瘍退縮ウイルスである。大部分の腫瘍は個々の特性を示し、そして広域性第一世代腫瘍退縮ウイルスが、すべての腫瘍タイプにおいて複製するか、またはすべての腫瘍タイプに関して有効な治療を提供する能力は、保証されない。
【0007】
HSV1716は、腫瘍退縮性、非神経毒性HSVであり、そしてEP 0571410およびWO 92/13943に記載されている。HSV1716は、1992年1月28日、寄託番号V92012803のもとに、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(本明細書において、「ブダペスト条約」と称する)の規定にしたがって、European Collection of Animal Cell Cultures, Vaccine Research and Production Laboratories, Public Health Laboratory Services, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, 英国に寄託されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP 0571410
【特許文献2】WO 92/13943
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Garkavstevら 1996
【非特許文献2】Gunduzら 2005
【非特許文献3】Garkavtsevら 2004
【非特許文献4】Russellら 2006
【非特許文献5】Camposら 2004
【非特許文献6】ShiおよびGozani 2005
【非特許文献7】Nagashimaら 2001
【非特許文献8】Shisekiら 2003
【非特許文献9】Doyonら 2006
【非特許文献10】Collaら 2007
【非特許文献11】Ozerら 2005
【発明の概要】
【0010】
ING4ポリペプチドをコードする核酸を含む単純ヘルペスウイルスは、腫瘍増殖を遅延させる能力が増進されていることが、現在、見出されている。特に、本発明者らは、ING4ポリペプチドをコードする核酸を含む変異体単純ヘルペスウイルスを生成し、そしてこの変異体を、腫瘍移植物を持つマウスに投与した効果を調べた。本発明者らは、単純ヘルペスウイルス変異体を投与されたマウスの生存期間が、対照に比較して有意に改善され、そしてさらに、変異体を投与されたマウスが、有意により小さい平均腫瘍体積を有することを見出した。これらの結果は、ING4ポリペプチドが、単純ヘルペスウイルスが仲介する腫瘍退縮を増進させることを立証する。
【0011】
これらの観察のありうる説明の1つは、ING4ポリペプチドが血管形成を阻害し、それによって腫瘍が増殖可能な速度を減少させることである。したがって、この機構は、単純ヘルペスウイルスが腫瘍細胞殺傷能改善を提供する、腫瘍退縮能と相乗的に相互作用する。
【0012】
しかし、さらなる研究を行う一方、本発明者らは、ING4をコードする核酸を含む単純ヘルペスウイルス変異体に感染した腫瘍細胞が、対照に比較して、in vivoおよびin vitroの両方で、子孫ビリオンの有意により高い産出量を有することを予期せず見出した。さらなる実験によって、ING4ポリペプチドを恒常的に発現し、そして野生型単純ヘルペスウイルスに感染した細胞もまた、対照に比較して、子孫ビリオンのより高い産出量を有することも示された。これによって、ING4発現が単純ヘルペスウイルスに対して増殖上の利点を与えることが示される。
【0013】
これらの結果は、単純ヘルペスウイルスの投与を伴う治療の有効性を改善するための新規アプローチの基礎を提供する。特に、これらの結果は、非常に必要とされる、癌および他の状態のための新規でそして改善された治療につながる潜在能力を有する。
【0014】
HSV1716ING4は、PO Box 1716, Glasgow, G51 4WF, 英国に住所を有するCrusade Laboratories Limitedの名のもとに、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(本明細書において、「ブダペスト条約」と称する)の規定にしたがって、European Collection of Cell Cultures(ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, 英国に寄託されている。
【0015】
広い側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルスゲノムが抗血管形成ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を含む、単純ヘルペスウイルスに関する。他の広い側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルスゲノムが単純ヘルペスウイルスの複製効率を増進させるポリペプチドをコードする核酸を含む、単純ヘルペスウイルスに関する。抗血管形成ポリペプチドは、HSV複製効率を増進させるポリペプチドであってもよい。
【0016】
抗血管形成ポリペプチドまたはタンパク質、あるいはHSV複製効率を増進させるポリペプチドは、好ましくは、HSVに対して異種であり、すなわち通常、対応する野生型HSVによってコードされずまた発現されない。より好ましくは、抗血管形成ポリペプチドまたはタンパク質、あるいはHSV複製効率を増進させるポリペプチドは、哺乳動物ポリペプチドまたはタンパク質である。さらにより好ましくは、これは候補腫瘍抑制因子遺伝子である。HSVは、好ましくは、抗血管形成ポリペプチドまたはHSV複製効率を増進させるポリペプチドを発現可能である。抗血管形成ポリペプチドまたはHSV複製効率を増進させるポリペプチドは、好ましくは、ING4ポリペプチドである。
【0017】
より詳細には、本発明は、ING4を発現可能なHSV、およびHSVの複製効率を改善する際のING4の使用に関する。
したがって、1つの側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルスゲノムが抗血管形成ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単純ヘルペスウイルスに関する。好ましい態様において、抗血管形成ポリペプチドはING4である。単純ヘルペスウイルスはまた、非神経毒性であってもよい。
【0018】
さらなる側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルスゲノムがING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単純ヘルペスウイルスに関する。単純ヘルペスウイルスは、非神経毒性であってもよい。
【0019】
HSVは、腫瘍退縮性HSVであってもよい。本発明において使用可能なHSV、例えば腫瘍退縮性HSVには、それぞれの遺伝子が、機能するICP34.5タンパク質を発現すること、例えばコードすることが不能であるように、γ34.5(ICP34.5とも称される)遺伝子の一方または両方が修飾されている(例えば欠失、挿入、付加または置換であってもよい突然変異によって)HSVが含まれる。好ましくは、本発明記載のHSVにおいて、修飾されたHSVが、機能するICP34.5タンパク質を発現すること、例えば産生することが不能であるように、γ34.5遺伝子の両コピーが修飾されている。ウイルス、例えば腫瘍退縮性ウイルスは、好ましくは非神経毒性である。
【0020】
特定の配置において、単純ヘルペスウイルスは、ICP34.5ヌル突然変異体などの遺伝子特異的ヌル突然変異体であってもよい。単純ヘルペスウイルスが、機能するICP34.5遺伝子産物を産生不能であるように、単純ヘルペスウイルスゲノムに存在するICP34.5遺伝子のすべてのコピー(通常、2コピーが存在する)が破壊されている場合、ウイルスはICP34.5ヌル突然変異体であると見なされる。他の配置において、単純ヘルペスウイルスは、少なくとも1つの発現可能なICP34.5遺伝子を欠いていてもよい。別の配置において、単純ヘルペスウイルスは、1つの発現可能ICP34.5遺伝子のみを欠いていてもよい。他の配置において、単純ヘルペスウイルスは、両方の発現可能なICP34.5遺伝子を欠いていてもよい。さらに他の配置において、単純ヘルペスウイルス中に存在する各ICP34.5遺伝子は発現可能でなくてもよい。発現可能なICP34.5遺伝子の欠如は、例えば、ICP34.5遺伝子の発現が、機能するICP34.5遺伝子産物を生じないことを意味する。
【0021】
本発明記載のHSVのゲノムは、ポリペプチドが核酸から発現可能であるように、抗血管形成ポリペプチドの少なくとも1コピーをコードする核酸を含有するようにさらに修飾されている。該ポリペプチドをコードする核酸は、単純ヘルペスウイルスの少なくとも1つのRL1遺伝子座に位置してもよい。例えば、該核酸は、単純ヘルペスウイルスゲノムのICP34.5タンパク質コード配列の少なくとも1つの中に位置するか、または該配列と重複していてもよい。これは、ICP34.5遺伝子を不活性化し、それによって非神経毒性を提供する、好都合な方式を提供する。
【0022】
抗血管形成ポリペプチドまたは複製効率を増進させるポリペプチドは、選択されたING4ポリペプチドであってもよい。こうしたものとして、好ましい態様において、修飾されたHSVは、抗血管形成ポリペプチドまたはタンパク質、あるいは細胞、好ましくは哺乳動物細胞の感染に際して複製効率を増進させるHSVポリペプチド(例えばING4)を発現可能な発現ベクターである。別の好ましい態様において、HSVは腫瘍退縮性発現ベクターである。
【0023】
抗血管形成ポリペプチドまたは複製効率を増進させるポリペプチド(例えばING4)の発現を達成するため、該ポリペプチドをコードする核酸は、好ましくは、該ポリペプチドをコードする核酸の転写を達成可能な制御配列、例えばプロモーターに、機能可能であるように連結されている。ヌクレオチド配列に機能可能であるように連結されている制御配列(例えばプロモーター)は、制御配列が該ヌクレオチド配列の産物の発現を達成および/または調節可能であるように、その配列に隣接して、またはごく近接して位置してもよい。ヌクレオチド配列にコードされる産物は、したがって、その制御配列から発現可能であってもよい。
【0024】
本明細書において、用語「機能可能であるように連結された」には、ヌクレオチド配列の発現を制御配列の影響または調節下に置く方式で、選択されたヌクレオチド配列および制御ヌクレオチド配列が共有結合している状況が含まれうる。したがって、制御配列が、選択されたヌクレオチド配列の一部またはすべてを形成するヌクレオチド配列の転写を達成可能であるならば、制御配列は、選択されたヌクレオチド配列に機能可能であるように連結されている。次いで、適切な場合、生じた転写物を所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳してもよい。
【0025】
本発明の単純ヘルペスウイルスを生成するのに有用な核酸ベクターが、例えば、WO 2005/049845の41ページ19行目〜55ページ30行目に記載される。これは、本明細書に援用される。本発明者らによって提供される1つのこうしたベクターは、Crusade Laboratories Limitedの名のもとに、ブダペスト条約の規定にしたがって、European Collection of Cell Cultures(ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, 英国に、寄託番号03090303のもとに寄託される、プラスミドRL1.dIRES−GFPである。
【0026】
ING4ポリペプチドをコードする核酸配列は、選択された単純ヘルペスウイルスのゲノム中に相同組換えによって挿入されている核酸カセットの一部を形成してもよい。カセットの一部であってもまたはなくても、挿入部位は、選択された任意のゲノム位置中であってもよい。1つの好ましい挿入部位は、長反復領域(R)の一方または両方の中にあり、そしてカセットの1つのコピーは、好ましくは、長反復(R)の各コピー中に挿入される。より好ましくは、挿入部位は、少なくとも一方(好ましくは両方)のRL1遺伝子座にあり、そして最も好ましくはHSVゲノムDNAのICP34.5タンパク質コード配列の少なくとも一方(好ましくは両方)の中に挿入される。挿入が、2つの反復領域、RL1遺伝子座またはICP34.5タンパク質コード配列の各々の同一のまたは実質的に類似の位で起こることが好ましい。
【0027】
挿入は、哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞へのin vivoおよびin vitroのトランスフェクションに際して、コードされるING4ポリペプチドを発現可能な非神経毒性突然変異体である修飾ウイルスを産生するようなものであってもよい。非神経毒性突然変異体は、ICP34.5ヌル突然変異体であってもよい。
【0028】
核酸カセットは、任意のサイズ、例えば長さ5、10、15、20、25、30、35、40、45または50kbpまでであってもよい。
本発明記載のHSVは、疾患の医学的治療、より詳細には癌性状態の治療に使用するために提供される。本発明記載のHSVをこうした治療の必要がある個体に、例えば治療上有効な量で投与する工程を含む、癌性状態の治療法を提供する。また、癌性状態の治療用の薬剤の製造において使用するためにもまた、本発明記載のHSVを提供する。腫瘍の治療、例えば腫瘍の腫瘍退縮治療で使用するためにもまた、本発明記載のHSVを提供する。
【0029】
本発明記載の単純ヘルペスウイルスを含む、薬剤、薬学的組成物またはワクチンもまた提供し、これらは、本発明記載のHSVを、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と一緒に含んでもよい。
【0030】
本発明の単純ヘルペスウイルスは、HSVの任意の実験室株または臨床単離体(非実験室株)を含む、任意のHSVに由来してもよい。好ましくは、HSVは、HSV−1またはHSV−2の突然変異体である。あるいは、HSVは、HSV−1およびHSV−2の種間(intertypic)組換え体であってもよい。突然変異体は、実験室株HSV−1 17株、HSV−1 F株またはHSV−2 HG52株の1つのものであってもよい。突然変異体は、非実験室株JS−1のものであってもよい。好ましくは、突然変異体は、HSV−1 17株の突然変異体である。単純ヘルペスウイルスは、HSV−1 17株突然変異体1716、HSV−1 F株突然変異体R3616、HSV−1 F株突然変異体G207、HSV−1突然変異体NV1020の1つのさらなる突然変異体であってもよい。好ましくは、単純ヘルペスウイルスは、HSV−1 17株突然変異体1716の1つのさらなる突然変異体である。
【0031】
in vitroまたはin vivoの「遺伝子送達」法で本発明の単純ヘルペスウイルスを用いてもよい。本発明の非神経毒性単純ヘルペスウイルスは発現ベクターであり、そして抗血管形成ポリペプチドまたはタンパク質、あるいは単純ヘルペスウイルスゲノムにコードされるHSV複製効率を増進させるポリペプチド(ING4)を発現するため、選択された細胞または組織を感染させるのに使用可能である。
【0032】
1つの配置において、本発明の単純ヘルペスウイルスに感染した患者、ドナー、または任意の他の供給源から、細胞を採取してもよく、場合によって、コードされるING4の発現および/または機能に関してスクリーニングし、そして場合によって患者の体内に、例えば注射によって戻しても/導入してもよい。
【0033】
裸のウイルスを用いて、あるいはキャリアー、例えばナノ粒子、リポソームまたは他の小胞にウイルスを被包することによって、選択された細胞への本発明の単純ヘルペスウイルスの送達を実行してもよい。
【0034】
本発明のウイルスで形質転換されたin vitro培養細胞、好ましくはヒトまたは哺乳動物細胞、ならびに好ましくはING4ポリペプチドを発現している細胞、ならびに前記ウイルスを用いて、in vitroでこうした細胞を形質転換する方法は、本発明のさらなる側面を形成する。
【0035】
HSVゲノムは、さらなる突然変異および/または異種ヌクレオチド配列を含有してもよい。さらなる突然変異には、無能化突然変異が含まれてもよく、こうした突然変異は、ウイルスの毒性または複製能に影響を及ぼしてもよい。例えば、突然変異は、ICP6、ICP0、ICP4、ICP27の任意の1以上で作製されてもよい。好ましくは、これらの遺伝子の1つ(場合によって、適切な場合、遺伝子の両コピー)における突然変異は、対応する機能ポリペプチドをHSVが発現するのを不能にする(またはその能力を減少させる)。例えば、HSVゲノムのさらなる突然変異は、ヌクレオチドの付加、欠失、挿入または置換によって達成可能である。
【0036】
癌性状態は、任意の望ましくない細胞増殖(または望ましくない細胞増殖によって自然に現れる任意の疾患)、新生物または腫瘍、あるいは望ましくない細胞増殖、新生物または腫瘍のリスクまたはこれらに対する素因の増加であってもよい。癌性状態は、癌であってもよいし、そして良性または悪性癌であってもよいし、そして原発性または続発性(転移性)であってもよい。新生物または腫瘍は、細胞のいかなる異常な成長または増殖であってもよいし、そしていかなる組織に位置してもよい。組織の例には、結腸、膵臓、肺、乳房、子宮、胃、腎臓、精巣、中枢神経系(脳を含む)、末梢神経系、皮膚、血液またはリンパが含まれる。
【0037】
治療可能な癌/腫瘍タイプは、原発性または続発性(転移性)腫瘍であってもよい。治療すべき腫瘍は、中枢または末梢神経系に由来する神経系腫瘍、例えばグリオーマ、髄芽腫、髄膜腫、神経線維腫、上衣腫、神経鞘腫、神経線維肉腫、星状細胞腫および乏突起膠腫であってもよいし、あるいは非神経系組織に由来する非神経系腫瘍、例えば黒色腫、中皮腫、リンパ腫、肝癌、類表皮癌、前立腺癌、乳癌細胞、肺癌細胞または結腸癌細胞であってもよい。本発明のHSV突然変異体を用いて、非神経系組織に由来する中枢または末梢神経系の転移性腫瘍を治療してもよい。例えば、本発明によって治療可能な癌性状態には、扁平上皮癌、卵巣腫瘍/癌、肝細胞癌、および乳腺癌が含まれる。
【0038】
本明細書において、非神経毒性は、動物、例えばマウス、またはヒト患者におけるLD50が≧10pfuのおよその範囲であるように、致死的脳炎を引き起こすことなく、動物または患者に高力価のウイルス(およそ10プラーク形成単位(pfu))を導入する能力によって定義される。
【0039】
治療しようとする患者は、任意の動物またはヒトであってもよい。患者は、非ヒト哺乳動物であってもよいが、より好ましくはヒト患者である。患者は男性または女性であってもよい。
【0040】
本発明はまた、細胞に本発明の単純ヘルペスウイルスを投与する工程を含む、in vitroまたはin vivoで腫瘍細胞を溶解するかまたは殺傷する方法も提供する。
本発明はまた、in vitroまたはin vivoでING4ポリペプチドを発現する方法であって、本発明の単純ヘルペスウイルスに、関心対象の少なくとも1つの細胞または組織を感染させる工程を含む、前記方法も提供する。
【0041】
さらなる側面において、本発明は、細胞に、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させる工程を含む、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞において、単純ヘルペスウイルスの複製効率を増加させるin vivoまたはin vitro法に関する。
【0042】
複製増加は、細胞によって産生されるビリオン量の増加、例えばHSV収量の増加であってもよい。HSV複製効率の増加は、対照に比較したもの、例えば野生型レベルでING4を発現する細胞に比較したものであってもよい。細胞に、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させる、例えばそのように細胞を刺激する工程は、例えば対照に比較して、細胞におけるING4ポリペプチド濃度の増加を引き起こしそして/または達成する工程を含んでもよい。例えば、方法は、ING4ポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる工程を含んでもよい。これは、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む異種構築物を細胞内に導入することによって達成可能であり、例えば、異種という用語は、構築物が通常、野生型細胞に存在しないことを意味する。ING4ポリペプチドをコードする核酸配列は、ING4ポリペプチドの転写を調節する際に役割を果たす制御ヌクレオチド配列に、機能可能であるように連結されてもよい。ING4をコードする核酸の発現は恒常性であってもよい。
【0043】
HSVに感染した細胞におけるING4の存在(該細胞種に通常存在するING4の内因性レベルより高いレベル)は、HSVの複製効率増加を導きうる。これは、感染細胞(単数または複数)からのHSVビリオンのより高い収量を生じうる。複製効率は、HSVに感染し、そして過剰なING4(すなわち内因性発現のために通常存在するものに付加されたING4)が存在する細胞によって産生されるビリオンの数を、同じHSVに感染しているが過剰なING4が存在しない対照細胞と比較することによって、複製効率を測定可能であり、すなわち対照細胞は、同じHSVに感染しているが通常の内因性レベルより高いING4ポリペプチドを産生しない。場合によって、ING4が存在する細胞および存在しない細胞に関して、感染HSVのpfuあたりに産生されるHSVビリオンの数に関する値を決定してもよい。過剰なING4が存在する細胞が、対照に比較して、産生されるHSVビリオン量の増加、好ましくは統計的に有意な増加を示す場合、複製効率の増加が存在する。複製効率の増加は、対照のものの1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000(またはそれ以上)倍であるビリオン産生レベルを導きうる。
【0044】
細胞は、HSVに感染可能な任意の細胞であってもよいが、好ましくは腫瘍細胞、例えばHSVによって溶解されることが可能な腫瘍細胞、例えば扁平上皮癌、卵巣腫瘍、ヒト乳腺癌、卵巣癌および肝細胞癌である。
【0045】
さらなる側面において、本発明は、in vivoまたはin vitroの、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞であって、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む異種構築物を含む前記細胞を提供する。ING4をコードする核酸の発現は、恒常性であってもよい。
【0046】
さらなる側面において、本発明は、治療の必要がある患者に非神経毒性単純ヘルペスウイルスを投与する工程を含む療法において使用するための、ING4ポリペプチドをコードする核酸を提供する。さらなる側面において、本発明は、治療の必要がある患者にING4をコードする核酸を投与する工程を含む療法において使用するための、非神経毒性単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0047】
さらなる側面において、本発明は、治療の必要がある患者に非神経毒性単純ヘルペスウイルスを投与する工程を含む療法用の薬剤の製造における、ING4ポリペプチドをコードする核酸の使用を提供する。さらなる側面において、本発明は、治療の必要がある患者にING4をコードする核酸を投与する工程を含む療法用の薬剤の製造における、非神経毒性単純ヘルペスウイルスの使用を提供する。
【0048】
さらなる側面において、本発明は、非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4ポリペプチドをコードする核酸を患者に投与する工程を含む、患者を治療する方法を提供する。
【0049】
治療の必要がある患者は、癌性状態を持つ患者であってもよい。治療は癌および/または腫瘍の治療であってもよい。
治療法で使用するためのING4ポリペプチドをコードする核酸を、ベクター中で提供してもよい。ベクターは遺伝子治療ベクターであってもよく、例えば投与に際して患者の細胞に進入してもよい。例えば、ベクターはウイルスベクターであってもよく、例えば非腫瘍退縮性HSVであってもよい。
【0050】
さらなる側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルス、ならびにING4ポリペプチドをコードする核酸および/またはING4ポリペプチドを含む組成物を提供する。組成物は、例えば、非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4ポリペプチドをコードする核酸を含む薬学的組成物であってもよい。
【0051】
本発明者らは、細胞への過剰なING4ポリペプチドの導入(すなわち細胞によって通常発現されるものを超えるさらなるING4)が、野生型および突然変異体HSVの発現レベル増加につながることを示してきた。したがって、本発明は、(i)過剰なING4を有する単数または複数の細胞を提供し、そして(ii)細胞(単数または複数)を感染させることが可能なHSVと細胞(単数または複数)を接触させる工程を含む、in vitroまたはin vivoでHSVを複製する方法を提供する。感染細胞における複製を通じたHSVのin vitro産生のため、このアプローチは、HSV複製の有意な改善を導き、そしてより高いウイルス力価が得られることを可能にしうる。該方法は、細胞(単数または複数)に、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させる工程を含んでもよい。これは、ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む異種構築物を、細胞(単数または複数)内に導入する工程を含んでもよい。
【0052】
細胞に、細胞内にトランスフェクションされたベクターからING4を発現させる、例えば発現ベクターから組換えING4を発現させることによって、細胞に過剰なING4を導入してもよい。ベクターは、HSV1716ING4などのHSVであってもよいが、また、任意の適切な発現ベクター、例えばプラスミドベクターであってもよい。さらにまたはあるいは、例えば対応するプロモーターの制御または増進を通じて、細胞に、内因性ING4を過剰発現させてもよい。さらにまたはあるいは、細胞をING4ポリペプチドと接触させてもよく、該ING4ポリペプチドは、例えばING4をコードする発現ベクターでトランスフェクションされた細菌の発酵を通じて、組換えING4として得られてもよい。
【0053】
したがって、本発明のさらなる側面は、ING4ポリペプチドと細胞を接触させる工程を含む、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞において単純ヘルペスウイルスを複製する方法を提供する。さらなる側面において、本発明は、ING4をコードする核酸ベクターと細胞を接触させ、そして細胞にING4を発現させる工程を含む、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞において単純ヘルペスウイルスを複製する方法を提供する。
【0054】
上記にしたがって、さらにさらなる側面において、(i)単数または複数の細胞に過剰なING4を提供し、(ii)細胞(単数または複数)をHSVに感染させ、(iii)細胞(単数または複数)をin vitroで培養し、そして(iv)細胞(単数または複数)からウイルス子孫を採取する工程を含む、HSVのin vitro複製のための方法を提供する。
【0055】
HSVは、本明細書に記載するような任意のHSVであってもよい。
細胞は、HSVによる感染が可能であり、そしてHSVが該細胞中で複製可能である、任意の細胞であってもよい。これらはin vitro培養細胞であってもよい。これらはヒトまたは非ヒト細胞であってもよい。例えば、ウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他のげっ歯類(げっ歯目(Rodentia)中の任意の動物由来の細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類あるいは他の非ヒト脊椎動物生物;および/または非ヒト哺乳動物細胞;および/またはヒト細胞由来であってもよい。
【0056】
本発明のさらなる側面において、本発明は、寄託番号・・・のもとに、ブダペスト条約にしたがってECACCに寄託されている、HSV1716ING4を提供する。
ING4
本明細書におけるING4に対する言及には、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において、寄託番号NM_016162 GI:38201669のもとに記載されるアミノ酸配列を有するING4ポリペプチドに対する言及が含まれる。ING4に対する言及にはまた、ING4のアイソフォーム、相同体および誘導体に対する言及も含まれる。誘導体は、個体間またはファミリーメンバー間に存在しうる天然変異体または多型を含んでもよい。Genbankデータベース中に寄託されるING4ポリペプチドの多くの相同体がある。例えば、データベースのBlast検索は、およそ100の相同体を同定した。相同体には、例えば、BC007781などの他のヒトING4アイソフォーム、マウス(Mus musculus)ING4(例えば、NP_579923.1)、イヌ(Cannis familiaris)ING4(XP_534907.2)、ラット(Rattus norvegicus)(NP_001073356.1)、チンパンジー(Pan troglodytes)ING4(XP_001169091.1)、ウマ(Equus caballus)(XP_001496617.1)、ニワトリ(Gallus gallus)ING4(NP_001006241.1)、アカゲザル(Macaca mulatta)(XP_001118270.1)、オオカンガルー(Monodelphis domestica)(XP_001365016.1)、ウシ(Bos Taurus)(NP_001030466.1)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(NP_001018304.1)、アフリカツメガエル(Xonpus laevis)(NP_001088224.1)が含まれる。本発明が関連するING4ポリペプチドまたはタンパク質は、好ましくはヒトING4である。
【0057】
すべてのこうした相同体および誘導体が、本発明の範囲内に含まれる。純粋に例として、こうした多型中に見られてもよい保存的置換は、以下の群内のアミノ酸間であってもよい:
(i)アラニン、セリン、スレオニン;
(ii)グルタミン酸およびアスパラギン酸;
(iii)アルギニンおよびロイシン;
(iv)アスパラギンおよびグルタミン;
(v)イソロイシン、ロイシンおよびバリン;
(vi)フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン。
【0058】
特に、寄託番号NM_016162 GT:38201669のもとに示されるING4のアミノ酸配列と、少なくとも70%、より好ましくは75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%および100%の1つの配列同一性を有するペプチドおよびポリペプチドが、本明細書の目的のためのING4ポリペプチドとして含まれる。これらのING4ポリペプチドの任意の1つをコードする核酸配列を、本発明にしたがったING4発現の目的のために用いてもよい。
【0059】
高ストリンジェンシー条件下で、配列番号4または配列番号5の核酸にハイブリダイズする能力によって、ING4ポリペプチドをコードする核酸を選択してもよい。
ING4ポリペプチドは、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞におけるその存在が、前記細胞における単純ヘルペスウイルスの複製効率の増加を導くポリペプチドであってもよい。特に、ING4ポリペプチドは、単純ヘルペスウイルス17株または1716株に感染した細胞におけるその存在が、前記細胞における単純ヘルペスウイルス17株または1716株の複製効率の増加を導くポリペプチドであってもよい。
【0060】
例えば、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞におけるING4ポリペプチドをコードする核酸配列の発現増加は、単純ヘルペスウイルスの複製効率の増加を導く。上述のように、複製効率の増加、例えばより高い複製効率は、例えば、細胞がより多数の子孫ビリオンを産生する、例えば細胞由来のHSV粒子の収量がより大きいことを意味する。複製効率の増加は、対照に比較してであってもよく、例えば、内因性レベルを発現するか、またはING4を発現しない細胞に比較してであってもよい。例えば、HSVゲノムがING4ポリペプチドをコードする核酸を含む場合、HSV複製効率の増加は、ING4ポリペプチドをコードする核酸を含まない、対応するHSVに感染した同じ細胞に比較してであってもよい。
【0061】
HSVは、17株または1716株であってもよい。好ましくは、複製効率の増加は統計的に有意であり、例えばスチューデントt検定または分散分析(ANOVA)を用いて決定した際、例えばp<0.05である。
【0062】
発現増加は:BHK、A431ヒト扁平上皮癌、CP70ヒト卵巣腫瘍、MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌およびHuH7ヒト肝細胞癌からなる群より選択される細胞株における発現の増加であってもよい。実施例2の実験は、複製効率を比較するのに適した方法を示す。例えば、腫瘍細胞を、1000pfuで72時間感染させてもよい。
【0063】
ING4ヌクレオチド配列は、全長転写物またはポリペプチドをコードしてもよい(すなわち完全ING4タンパク質コード配列を含んでもよい)。あるいは、ポリペプチド産物がING4活性、例えば増加したHSV複製効率を保持するという条件で、ING4ヌクレオチド配列は、全長転写物の断片または一部切除(truncated)ポリペプチドをそれぞれコードする、全長配列の1以上の断片を含んでもよい。
【0064】
断片は、対応する全長配列の少なくとも10%をコードするヌクレオチド配列を含んでもよく、より好ましくは、対応する全長配列の少なくとも20、30、40、50、60、70、80、85、90、95、96、97、98または99%を含む。好ましくは、断片は、少なくとも20ヌクレオチドを含み、すなわちこうした最小の長さを有し、より好ましくは少なくとも30、40、50、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900または2000ヌクレオチドを含む。断片は、20ヌクレオチドの最大の長さを有してもよく、すなわちこれより長くなくてもよく、より好ましくは、30、40、50、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900または2000ヌクレオチドより長くなくてもよい。断片長は、前記の最小および最大の長さの間のいずれかであってもよい。
【0065】
1つの好ましい配置において、単純ヘルペスウイルスは、PO Box 1716, Glasgow, G51 4WF, 英国に住所を有するCrusade Laboratories Limitedの名のもとに、ブダペスト条約の規定にしたがって、European Collection of Cell Cultures(ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, 英国に寄託されるHSV1716ING4である。
【0066】
NCBIデータベースの寄託番号NM_016162.2 GI:38201669のもとに示されるようなヒトING4のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、配列番号3および配列番号4として、以下にコピーされる。
【0067】
アミノ酸配列:
【0068】
【化1】

【0069】
ヌクレオチド配列:
【0070】
【化2−1】

【0071】
【化2−2】

【0072】
【化2−3】

【0073】
【化2−4】

【0074】
ヒトING4(配列番号5)をコードする747bp cDNA配列は、配列番号4中の38〜784位(包括的)の間に見られる。
単純ヘルペスウイルス
本明細書において、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、任意の単純ヘルペスウイルスであってもよい。適切なHSVには、HSVの任意の実験室株または臨床単離体(非実験室株)が含まれる。好ましくは、HSVは、HSV−1またはHSV−2である。あるいは、HSVは、HSV−1およびHSV−2の種間組換え体であってもよい。HSVは、実験室株HSV−1 17株、HSV−1 F株またはHSV−2 HG52株の1つであってもよい。HSVは、非実験室株JS−1であってもよい。好ましくは、HSVは、HSV−1 17株またはその突然変異体である。HSVは、HSV−1 17株突然変異体1716、HSV−1 F株突然変異体R3616、HSV−1 F株突然変異体G207、HSV−1突然変異体NV1020の1つのさらなる突然変異体であってもよい。
【0075】
本発明のウイルスが由来する親単純ヘルペスウイルスは、任意の種類、例えばHSV−1またはHSV−2であってもよい。1つの好ましい配置において、単純ヘルペスウイルスは、HSV−1 17株の変異体であり、そして17株ゲノムDNAの修飾によって得られてもよい。適切な修飾には、単純ヘルペスウイルスゲノムDNA内への、抗血管形成性ポリペプチドまたは複製効率を増進させるポリペプチドをコードする核酸配列の挿入が含まれる。挿入は、選択された単純ヘルペスウイルスゲノム内への外因性核酸配列の相同組換えによって実行可能である。
【0076】
本発明の単純ヘルペスウイルスの非神経毒性表現型は、RL1遺伝子座における核酸配列の挿入の結果であってもよいが、本発明記載の単純ヘルペスウイルスは、非神経毒性親株、例えば、European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, 英国に、寄託番号V92012803のもとに、ブダペスト条約のもとで寄託されるHSV1716を利用して、そして標準的遺伝子操作技術、例えば相同組換えによって、ゲノムの別の位置に核酸配列を挿入することによって得られうる。この側面において、ING4核酸配列または前記配列を含有するカセットの挿入のために選択される単純ヘルペスウイルスゲノムの位置は、中立の位置であってもよい。
【0077】
本発明の単純ヘルペスウイルスは、本発明の単純ヘルペスウイルスが由来した、既知の「親」株の変異体であってもよい。特に好ましい親株は、HSV−1 17株である。他の親株には、HSV−1 F株またはHSV−2 HG52株、あるいは上述の任意の実験室または非実験室株あるいは他の任意のHSVが含まれてもよい。変異体は、ゲノムが実質的に親のものに似ているHSVを含み、核酸配列を含有し、そして単純ヘルペスウイルスの病原性特性を不能にさせるように導入されてもよい、限定された数の他の修飾、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは10未満の他の特定の突然変異、例えばリボヌクレオチド還元酵素(RP)遺伝子、65Kトランス誘導因子(TIF)における突然変異、および/またはin vitroまたはin vivoの複製および選択中に天然に取り込まれうる天然変異から生じる少数の突然変異を含有してもよい。それ以外は、変異体ゲノムは、親株のものであろう。
【0078】
例えば、いくつかの態様において、単純ヘルペスウイルスゲノムは、ICP34.5遺伝子およびリボヌクレオチド還元酵素遺伝子中に突然変異を有してもよく、例えばICP34.5およびリボヌクレオチド還元酵素遺伝子は、機能する産物を産生不能であるが、ゲノムは、それ以外は、HSV−1 17株またはF株、あるいはHSV−2 HG52株のゲノムに実質的に似ていてもよい。他の態様において、単純ヘルペスウイルスゲノムは、ICP34.5遺伝子およびリボヌクレオチド還元酵素遺伝子中に突然変異を有してもよく、例えばICP34.5およびリボヌクレオチド還元酵素遺伝子は、機能する産物を産生不能であるが、ゲノムは、それ以外は、HSV−1 17株またはF株、あるいはHSV−2 HG52株のゲノムであってもよい。用語「実質的に似ている」は、単純ヘルペスウイルスゲノムが、HSV−1 17株またはF株、あるいはHSV−2 HG52株のゲノムに、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、99.9または99.99%同一であることを意味してもよい。
【0079】
本発明の単純ヘルペスウイルスは、好ましくは、突然変異体単純ヘルペスウイルスである。突然変異体単純ヘルペスウイルスは、非野生型単純ヘルペスウイルスであり、そして組換え単純ヘルペスウイルスであってもよい。突然変異体単純ヘルペスウイルスは、野生型に比較して修飾を含有するゲノムを含んでもよい。修飾には、少なくとも1つの欠失、挿入、付加または置換が含まれてもよい。
【0080】
上述のように、単純ヘルペスウイルスは、実験室HSV株または非実験室株であってもよい。実験室株は、例えば、HSV−1 17株またはF株、あるいはHSV−2 HG52株であってもよい。実験室株は、場合によって、連続継代HSV株、例えば少なくとも100、200、500、1000、または10000回連続継代されている株であってもよい。非実験室株は、臨床単離体、例えば最近の臨床単離体であってもよい。実験室株は、例えば、最近の臨床単離体ではない。
【0081】
配列同一性
配列同一性パーセント(%)は、配列を並列させ、そして最大配列同一性を達成するために、必要であればギャップを導入した後、そして配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮せずに、所定の列挙される配列(配列番号によって言及される)中の残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の割合として定義される。配列同一性は、好ましくは、それぞれの配列の全長に渡って計算される。
【0082】
並列配列が異なる長さである場合、より短い比較配列の配列同一性を、より長い所定の配列の全長に渡って決定してもよいし、または比較配列が所定の配列より長い場合、比較配列の配列同一性を、より短い所定の配列の全長に渡って決定してもよい。
【0083】
例えば、所定の配列が100アミノ酸を含み、そして候補配列が10アミノ酸を含む場合、候補配列は、所定の配列の全長に対して10%の最大同一性しか持つことができない。これはさらに、以下の例において例示される:
(A)
所定の配列:XXXXXXXXXXXXXXX(15アミノ酸)
比較配列 :XXXXXYYYYYYY(12アミノ酸)
所定の配列は、例えばING4をコードするもの(例えば配列番号3)であってもよい。
【0084】
配列同一性%=より長い所定の配列中のアミノ酸残基総数によって割った、並列後の同一マッチアミノ酸残基数、すなわち(5割る15)x100=33.3%。
比較配列が所定の配列より長い場合、配列同一性は所定の配列の全長に渡って決定可能である。例えば:
(B)
所定の配列:XXXXXXXXXX(10アミノ酸)
比較配列 :XXXXXYYYYYYZZYZZZZZZ(20アミノ酸)
ここでも、所定の配列は、例えばING4をコードするもの(例えば配列番号3)であってもよい。
【0085】
配列同一性%=所定の配列中のアミノ酸残基総数によって割った、並列後の同一アミノ酸数、すなわち(5割る10)x100=50%。
アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のための並列は、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えばClustalW 1.82 T−coffeeまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いて、当業者に知られる多様な方法で達成可能である。こうしたソフトウェアを用いる場合、例えばギャップペナルティおよび伸長ペナルティに関して、好ましくはデフォルトパラメーターを用いる。ClustalW 1.82のデフォルトパラメーターは:タンパク質ギャップオープンペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ伸長ペナルティ=0.2、タンパク質マトリックス=Gonnet、タンパク質/DNA ENDGAP=−1、タンパク質/DNA GAPDIST=4である。
【0086】
核酸配列の同一性は、配列を並列させ、そして最大配列同一性を達成するために、必要であればギャップを導入し、そしてそれぞれの配列の全長に渡って配列同一性を計算する工程を伴う類似の方式で、決定可能である。並列配列が異なる長さである場合、配列同一性は、上記のようにそして実施例(A)および(B)に例示するように決定可能である。
【0087】
ハイブリダイゼーションストリンジェンシー
本発明にしたがって、適切なストリンジェンシーのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を用いることによって、核酸配列を同定してもよい。
【0088】
相補的核酸配列は、ワトソン−クリック結合相互作用を通じて、互いにハイブリダイズするであろう。100%相補性でない配列もまたハイブリダイズ可能であるが、ハイブリダイゼーションの強度は、通常、相補性の減少とともに減少する。したがって、ハイブリダイゼーション強度を用いて、互いに結合可能な配列の相補性の度合いを区別することも可能である。
【0089】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能である。
所定の反応のストリンジェンシーは、プローブ長、洗浄温度、および塩濃度などの要因に応じうる。長いプローブの適切なアニーリングには、一般的に、より高い温度が必要である一方、より短いプローブはより低い温度でアニーリング可能である。プローブおよびハイブリダイズ可能な配列間の望ましい相補性の度合いがより高くなれば、使用可能な相対的温度はより高くなる。その結果、より高い相対的温度は、反応条件をよりストリンジェントにする傾向がある一方、より低い温度は、その傾向がより少ないということになる。
【0090】
例えば:5xSSC、5xデンハルト試薬、0.5〜1.0%SDS、100μg/ml変性断片化サケ精子DNA、0.05%ピロリン酸ナトリウムおよび最大50%のホルムアミドを含むハイブリダイゼーション溶液を用いて、Sambrookら(“Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)の方法にしたがって、ハイブリダイゼーションを実行してもよい。ハイブリダイゼーションは、37〜42℃で、少なくとも6時間行われる。ハイブリダイゼーション後、以下のようにフィルターを洗浄する:(1)2xSSCおよび1%SDS中、室温で5分間;(2)2xSSCおよび0.1%SDS中、室温で15分間;(3)1xSSCおよび1%SDS中、37℃で30分〜1時間;(4)1xSSCおよび1%SDS中、30分ごとに溶液を変えながら、42〜65℃で2時間。
【0091】
核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するのに必要なストリンジェンシー条件を計算するための1つの一般的な式は、融点Tを計算することである(Sambrookら、1989):
=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/n
式中、nはオリゴヌクレオチド中の塩基数である。
【0092】
上記式の例として、42%のGC含量および200塩基の平均プローブサイズとともに[Na+]=[0.368]および50%ホルムアミドを用いると、Tは57℃である。DNA二重鎖のTは、配列相補性が1%減少するごとに、1〜1.5℃減少する。
【0093】
高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションは、Tm−15以上の温度で、ハイブリダイゼーションを実行することを伴いうる。中程度のストリンジェンシーは、Tm−25〜Tm−15と見なされうる。低ストリンジェンシーは、Tm−35〜Tm−25と見なされうる。
【0094】
したがって、ヌクレオチド配列は、上記等式を用いることによって選択可能な、異なるハイブリダイゼーションおよび洗浄ストリンジェンシー条件下で、ターゲット配列にハイブリダイズする能力によって分類可能である。Tを用いて、ハイブリダイゼーション強度の指標を提供してもよい。
【0095】
条件のストリンジェンシーに基づいて、配列を区別する概念は、当業者によってよく理解され、そして容易に適用可能である。
95〜100%の配列相補性を示す配列は、非常に高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすると見なされることも可能であり、85〜95%の相補性を示す配列は、高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすると見なされることも可能であり、70〜85%の相補性を示す配列は、中程度のストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすると見なされることも可能であり、60〜70%の相補性を示す配列は、低いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすると見なされることも可能であり、そして50〜60%の相補性を示す配列は、非常に低いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすると見なされることも可能である。
【0096】
核酸およびポリペプチド
本明細書において、ING4ポリペプチドをコードする核酸は、配列番号4または配列番号5、これらの配列のいずれか1つのRNA転写物、先行する配列のいずれか1つの断片、あるいはこれらの配列または断片のいずれか1つの相補配列に、特定の度合いの配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する、任意の核酸(DNAまたはRNA)であってもよい。あるいは、ING4ポリペプチドをコードする核酸は、高いまたは非常に高いストリンジェンシー条件下で、これらの配列の1つにハイブリダイズするものであってもよい。特定の度合いの配列同一性は、少なくとも60%〜100%の配列同一性であってもよい。より好ましくは、特定の度合いの配列同一性は、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性の1つであってもよい。
【0097】
本明細書において、ING4ポリペプチドは、配列番号3またはこれらの配列の1つの断片に特定の度合いの配列同一性を有するアミノ酸配列を有する任意のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であってもよい。特定の度合いの配列同一性は、少なくとも60%〜100%の配列同一性であってもよい。より好ましくは、特定の度合いの配列同一性は、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性の1つであってもよい。
【0098】
投与
本発明で使用するためのHSVは、臨床的使用のための薬剤および薬学的組成物としての製剤とされてもよいし、そして薬学的に許容されうるキャリアー、希釈剤またはアジュバントを含んでもよい。組成物は、局所、非経口、全身、静脈内、動脈内、筋内、クモ膜下腔、眼内、腫瘍内、皮下、経口または経皮投与経路用の製剤とされてもよく、これには注射が含まれてもよい。注射可能な製剤は、無菌または等張媒体中の選択される化合物を含んでもよい。薬剤および薬学的組成物は、液体または固体(例えば錠剤)型の製剤とされてもよい。液体製剤は、ヒトまたは動物の体の選択される領域への注射による投与用の製剤とされてもよい。
【0099】
投与は、好ましくは、「治療上有効な量」で行われ、この量は、個体に利益を示すのに十分な量である。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療中の疾患の性質および重症度に応じるであろう。治療の処方、例えば投薬量に関する決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内であり、そして典型的には、治療すべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与法および開業医に知られる他の要因を考慮する。上述の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins刊行に見出されうる。
【0100】
あるいは、ターゲティング療法を用いて、抗体または細胞特異的リガンドなどのターゲティング系の使用によって、特定の種類の細胞に対してより特異的に活性剤を送達してもよい。ターゲティングは、多様な理由のために望ましい可能性もあり;例えば剤が許容不能なほど毒性である場合、またはそうでなければ非常に高い投薬量を必要とする場合、またはそうでなければターゲット細胞に進入不能である場合に望ましい可能性もある。
【0101】
細胞および組織をターゲティングすることが可能なHSVは、本明細書にその全体が援用される(PCT/GB2003/000603; WO 03/068809)に記載される。
【0102】
治療しようとする状態に応じて、組成物を単独で、あるいは同時にまたは連続してのいずれかで、他の治療と組み合わせて投与してもよい。
本発明には、こうした組み合わせが明らかに許容しえないかまたは明確に回避される場合を除いて、記載される側面および好ましい特徴の組み合わせが含まれる。
【0103】
本発明の側面および態様は、ここで、付随する図に言及して、例として例示されるであろう。さらなる側面および態様が当業者には明らかであろう。この本文に言及されるすべての文書は、本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
ここで、本発明の原理を例示する態様および実験を付随する図に言及して論じる:
【図1】図1は、肝臓(レーン1)または胎盤(レーン2および3)cDNAライブラリーのいずれかから増幅されたPCR産物を示す1%アガロース/TAEゲルを示す。c750bp ING4 cDNAを矢印で示す。レーンM=2−log DNAラダー。
【図2】図2は、1:500の抗ING4抗体で探査したウェスタンブロットを示す。矢印は、1pfu/細胞のHSV1716ING4に感染させたBHK細胞由来の全細胞抽出物に存在する29kDA ING4タンパク質のレーン1および2中の位置を指す。このバンドはまた、0.1pfu/細胞のHSV1716ING4に感染した細胞(レーン3および4)でもかすかに可視であるが、偽感染細胞(レーン5)では存在しない。
【図3】PBS、HSV1790またはHSV1716ING4の第1日および第3日の腫瘍内注射後の、CP70皮下腫瘍移植物を所持する6匹のマウスの群由来の生存データ。ING4を発現するHSV1716は、HSV1716単独に比較して、皮下卵巣腫瘍移植物を持つマウスにおいて腫瘍殺傷を改善する。ING4の発現減少は、グリオーマ進行と関連する。ING4は、血管形成の阻害によって新規増殖を防止する。
【図4】PBS、HSV1716またはHSV1716ING4の第1日および第3日の腫瘍内注射後の、A431皮下腫瘍移植物を所持する6匹のマウスの群由来の腫瘍増殖データ。ING4を発現するHSV1716は、HSV1716単独に比較して、皮下SCC腫瘍移植物を持つマウスにおいて腫瘍負荷を減少させる。
【図5】PBS、HSV1716またはHSV1716ING4の第1日および第3日の腫瘍内注射後の、A431皮下腫瘍移植物を所持する6匹のマウスの群由来の生存データ。ING4を発現するHSV1716は、HSV1716単独に比較して、皮下SCC腫瘍移植物を持つマウスにおいて腫瘍殺傷を改善する。
【図6】生存中央値。ING4を発現するHSV1716は、HSV1716単独に比較して、皮下SCC腫瘍移植物を持つマウスにおいて生存期間を延長する。
【図7】PBS、1x10pfu HSV1716または1x10pfu HSV1716ING4の第1日および第3日の静脈内注射後の、A431皮下腫瘍移植物を所持する10匹のマウスの群由来の腫瘍増殖データ。
【発明を実施するための形態】
【0105】
本発明を実行するため、本発明者によって意図される最適な様式の具体的な詳細を、例として以下に示す。本発明が、これらの具体的な詳細に限定されずに実施可能であることが、当業者には明らかであろう。
【0106】
腫瘍抑制因子遺伝子、新規増殖阻害剤4を発現するHSV1716変異体
方法および結果
ING4腫瘍抑制因子遺伝子を発現するHSV1716変異体を以下のように構築した。NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/寄託番号NM_016162 GI:38201669のもと)に寄託されるヒトING4配列を用いて、ING4のPCR増幅用のプライマーを設計した。順方向プライマー
【0107】
【化3】

【0108】
は、ING4(太字)のATG開始コドンでハイブリダイズし、そして翻訳開始部位の上流にEcoR1およびNot1制限部位(下線)を取り込む。逆方向プライマー
【0109】
【化4】

【0110】
は、ING4のTAG停止コドンから36ヌクレオチド下流(太字のING4配列)にハイブリダイズし、そしてXho1およびXba1部位(下線)を取り込む。ING4をコードするc750bp cDNA(配列番号5)は、商業的に入手可能なヒト肝臓および胎盤cDNAライブラリーから成功裡に増幅され(図1)、そして胎盤cDNA(レーン2および3)ライブラリーでより強いバンドが得られたため、これをING4クローニングに用いた。
【0111】
PCR産物をpGEM−Teasyベクター内に連結し、そして配列決定によって、NM016162との100%マッチが確認された。次いで、PCR産物を直接EcoR1、その後、Xba1で消化し、そして同様に消化した哺乳動物発現ベクターpCDNA4−myc−His(Invitrogen、英国ペーズリー)内に連結した。ミニプレップしたDNAのBamHI消化によって陽性クローンを同定し(ヌクレオチド608に、内部ING4 BamHI部位がある)、そして陽性クローンから、NruI/XhoI消化によって、ING4発現カセット(ING4 cDNAを加えたプラスミド由来のCMV−IEプロモーター)を切除し、Klenowを用いて平滑末端化し、そしてBglII消化し、平滑末端化し、そしてCIAP処理した、相同組換えによるHSV1716変異体の産生に用いたRL1シャトルベクターpRL1del/gfp内にクローニングした。RL1del/gfpは、pRL1−delの修飾型であり、gfpの発現カセット(PGK−gfp)を含有する。RL1−delはプロモーターを含まないクローニングベクターであり、ICP34.5ヌルHSV−1を生成するのに適している。該ベクターは、以前はRL1遺伝子および隣接配列からなったHSV−1断片であって、RL1遺伝子の大部分が除去されて、そしてマルチクローニング配列(MCS)で置き換えられた、前記HSV−1断片を含有する。RL1遺伝子座内に挿入しようとする導入遺伝子を、RL1−delのMCS内に連結し、そしてRL1隣接配列によって駆動されるHSV−1 DNAとの相同組換えの結果、ICP34.5オープンリーディングフレームが同時に欠失され、そして適切な導入遺伝子が取り込まれる。組換えウイルスのプラーク精製を補助するため、緑色蛍光タンパク質遺伝子もまた、RL1−delのMCS内に挿入する。
【0112】
RL1−delは、HSV−1 BamHI k DNA断片123459−129403を含有し、これにはプラスミドpGem−3Zf(Promega、英国サザンプトン)のBamHI部位内にクローニングされたRL1遺伝子およびその隣接配列が含まれる。RL1 ORF(125292−125769)由来の477bp PflMI/BstEII断片は、ICP34.5遺伝子を不活性化するために取り除かれて、そしてBglII、NruIおよびXhoIに関するものを含めて、多様な制限酵素を提供するMCSで置き換えられている。
【0113】
RL1−delは、WO2005/049844に記載されている。
RL1−del/gfpを生成するため、PGKプロモーター/gfp遺伝子を含有する1.3kbpの平滑末端化EcoRI/AflII断片を、ベクターpSNRG(OligoEngine、米国ワシントン州シアトル)から制限消化後にKlenow処理することによって得て、そして制限酵素NruIで切断し、次いで、アルカリホスファターゼ処理したRL1−delベクター内に連結した。
【0114】
制限酵素消化によって、pRL1−del/gfpにおけるING4発現カセットの挿入を確認し、そしてScaI消化によってプラスミド50μgを直線化し、そしてGFXキット(GE Healthcare、英国リトルチャルフォント)を用いてカラム精製した後、HSV−1 DNAと組み合わせて用いて、BHK細胞を同時トランスフェクションした。RL1−del/gfp/ING4およびウイルスDNA(c100μg)を、250μlのDMEM/F12血清不含培地中の20μlのリポフェクタミン2000と混合し、そして50%集密BHK細胞を含有する60mmプレートに添加した。37℃で4時間インキュベーションした後、培地を取り除き、そして細胞を正確に4分間、25%DMSOで刺激した。5ml培地で3回洗浄した後、細胞を5mlのBHK培地とともに37℃に戻し、そして72時間放置した。次いで、細胞を上清内に掻き取り、混合物を超音波槽中で2分間超音波処理し、そして必要になるまで、−70℃で保存した。次いで、60mmプレート中、Vero細胞上に連続希釈をプレーティングし、個々の緑色蛍光プラークを摘み取り、1ml培地に添加し、そして超音波槽中で2分間超音波処理した後、連続希釈を再び、Vero細胞上にプレーティングした。HSV1716ING4のストックを産生する前に、プラーク精製を6回反復した。プラスミドpGEM34.5由来のAluI/RsaI ICP34.5断片を用いたサザンブロッティング、およびHSV1716のICP34.5欠失領域に渡って増幅するプライマーを用いたPCRの両方によって、HSV1716のRL1遺伝子座中のING発現カセットの存在を確認した。挿入されたING4導入遺伝子の発現を確認するため、60mmプレート中のBHK細胞の集密単層を、0.1または1pfu/細胞いずれかのHSV1716ING4に感染させ、そして24時間後、0.2mlのSDS PAGE試料緩衝液を添加することによって、全細胞抽出物を調製した。ING4抗体(Abcam、英国ケンブリッジ)を用いて、SDS PAGE/ウェスタンブロッティングによって、1pfu/細胞のHSV1716ING4に感染した細胞において、c29kDaタンパク質が同定された(図2、レーン1および2)。0.1pfu/細胞のHSV1716ING4に感染した細胞において、より弱いバンドが観察され(図2;レーン3および4)、そしてこのタンパク質は、偽感染細胞では存在しなかった(図2、レーン5)。
【実施例】
【0115】
実施例1−in vivo実験
皮下腫瘍移植物を所持するヌードマウスの腫瘍内注射
最初の実験において、CP70卵巣腫瘍細胞株の皮下移植物を所持する6匹のマウスに、第1日および第3日に、1x10pfuのHSV1716ING4を腫瘍内注射し、そして腫瘍増殖および生存を毎日監視した。対照マウスには、HSV1790、酵素、ニトロ還元酵素を発現するHSV1716変異体のいずれかを注射するか、あるいは同様の体積のPBSを注射した。生存データを図3に示す。
【0116】
HSV1716ING4で処置した6匹のマウスのうち、1つの腫瘍が完全退縮を示し、4つの腫瘍が未処置腫瘍よりも緩慢な速度で増殖し、そして1つの腫瘍は潰瘍化し、そして該マウスは分析から取り除かれた。各処置を評価するため、生存期間(腫瘍が許容されうる上限に達した時点によって測定されるようなもの)を用いると、それぞれ11日または18日の生存期間を有した、ウイルスなしで処置した動物またはHSV1790で処置した動物に比較すると、ING4ウイルスで処置した動物は、23.5日の平均生存を有した。図3に示す生存曲線の対数順位比較は、有意な相違を示し、p値は0.03であった。HSV1790に感染したマウスにはCB1954はまったく投与されず、そしてこれらの状況下では、このウイルスがHSV1716と同等であることに注目されたい。
【0117】
続く実験において、ヒトSCC A431腫瘍細胞の皮下移植物を所持する6匹のマウス群に、1x10pfuのHSV1716ING4またはHSV1716のいずれか、あるいは同等の体積のPBSを、第1日および第3日に注射し、そして腫瘍増殖および生存を毎日決定した。
【0118】
図4は、平均腫瘍体積を示し、そしてHSV1716ING4で処置した群が、ウイルスなしで処置したか、または親HSV1716で処置した群のいずれよりも小さい平均腫瘍体積を有したことを示す。第15日でのHSV1716ING4およびHSV1716間、ならびにHSV1716ING4およびウイルスなしの間の腫瘍体積相違は有意に異なり、それぞれp=0.03およびp=0.007であることが、統計分析によって示された。
【0119】
図5は、ウイルスなし、HSV1716またはHSV1716ING4で処置した腫瘍所持マウスに関するKM生存グラフを示す。ウイルスなしで処置したマウスは、8日間の生存中央値を有し、HSV1716で処置したものは、12日の生存中央値を有し、そしてHSV1716ING4で処置したものは、21日の生存中央値を有した。対数順位分析による図5の曲線の比較は、これらの間の相違が、p=0.004で有意であることを示し、したがってこの腫瘍モデルにおいて、HSV1716ING4が腫瘍負荷を有意に減少させ、そして生存を増進させることを明らかに立証する。
【0120】
静脈内注射
皮下ヒトSCC A431腫瘍を所持する10匹のマウスの群に、第1日および第3日に、PBS(ウイルスなし)、あるいは1x10pfuのHSV1716またはHSV1716ING4を静脈内注射し、そして腫瘍増殖および生存を毎日監視した。静脈内注射後、HSV1716ING4は、ウイルスなしの対照または非修飾HSV1716に比較して、腫瘍増殖を有意に減少させた(図6)。注射10日後、HSV1716注射マウスの平均腫瘍体積は、HSV1716ING4注射マウスの193±152mmに比較して、421±55mmであり、そしてスチューデントt検定を用いると、この相違は、p=0.0022で非常に有意である。同様に、第14日または20日、HSV1716注射マウスの平均腫瘍体積は、HSV1716ING4を投与されたマウスの、それぞれ476±448mmまたは776±438mmに対して、それぞれ1096±402mmまたは1253±155mmであり、そしてスチューデントt検定を用いると、これらの相違は、それぞれp=0.0125または0.0162で、どちらも有意である。ウイルスを投与されないか、または1x10pfuのHSV1716を投与されたマウスは、およそ14日の生存中央値を有し、一方、HSV1716ING4を投与されたマウスは17日の生存中央値を有し、4/10のマウスが第20日を超えて生存し、この時点では、PBSまたはHSV1716を注射されたすべてのマウスは屠殺されていた。マウス群各々からいくつかの腫瘍を屠殺時点で取り除き、そして機械的にホモジナイズした後、腫瘍抽出物中のウイルスを力価決定し、結果を表1に示した。
【0121】
ウイルスは、静脈内HSV1716ING4を投与されたマウスから採取した3つの腫瘍すべてから容易に抽出されたが、HSV1716を投与されたマウスの1/3でしか検出されず、そしてHSV1716ING4腫瘍で検出されるウイルスの量は、HSV1716腫瘍から抽出された量よりもおよそ1000倍多く、腫瘍内ではHSV1716よりもHSV1716ING4の複製がより優れていることが示唆された。先の研究は、免疫適格性ラットにおけるものであるが、投与24時間後、0.001%の静脈内注射ウイルスのみが、腫瘍中に留まることを示しており(Schellingerhoutら 1998、2000)、そしてこれがSCIDマウスに関して合理的な近似値を提供すると仮定すると、静脈内投与された2x10pfuのうち、最初には、20pfuのみが腫瘍に到達するであろう。HSV1716およびHSV1716ING4間で、生体分布の相違がないと仮定すると、上記データは、HSV1716ING4が、HSV1716よりもヒトA431 SCC腫瘍移植物内での複製が有意に優れており、そしてこの増進された増殖が生存を改善することを立証する。HSV1716ING4マウスの1匹は、第30日まで生存し、この時点までに、腫瘍は増殖を停止し、そしてほぼ完全に退縮した。このマウスを屠殺した後、残った腫瘍組織を含めてすべての臓器を採取し、そして機械的ホモジナイズおよび力価決定後、これらの組織のいずれにもウイルスはまったく見られず、このマウスにおける完全な回復およびウイルスクリアランスが示唆された。実際、HSV1716ING4を投与されたマウスのいずれにもウイルス毒性の証拠はまったくなく、ウイルスが親HSV1716の制限された複製適格性を保持し、その増殖が活発に分裂中の腫瘍細胞に限定されることが示された。
【0122】
実施例2−in vitro実験
異なる細胞株上でのHSV1716ING4の増殖
上記in vivoデータは、HSV1716ING4が、非修飾HSV1716より高い効率で複製することによって、増進された腫瘍退縮を示すことを示唆し、そして低い感染多重度で感染した多様な異なる細胞株を用いて、これをin vitroで確認した。用いた細胞株は、BHK、Vero、A431ヒトSCC、CP70ヒト卵巣腫瘍、MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌およびHuH7ヒト肝細胞癌であり、そしてこれらの株におけるHSV1716ING4の増殖を、野生型HSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4およびHSV1716EGFR(ING4とほぼ同じ分子量のターゲティング部分を発現するEGFRターゲティング化HSV1716変異体)と比較した。
【0123】
細胞を60mmプレートにプレーティングし、そして24時間後、およそ100pfu(BHKのみ)または1000pfu(すべての他の細胞種)のHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染させた。これらの感染に関する各ウイルス調製の希釈をBHK細胞上で力価決定して、投入ウイルスの量を正確に確認した。各細胞種上の各ウイルス感染を少なくとも4つ組で実行した。感染72時間後、細胞および培地を採取し、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてBHK細胞上で力価決定した。以下の表2〜8に、ANOVAを用いて行った統計的比較とともに、結果を収量/投入ビリオンで報告する。
【0124】
BHK細胞に関しては、HSV−1 17+、HSV1716およびHSV1716ING4に関する高いウイルス収量/投入ビリオンは非常に類似であり、これらの3つのウイルスが、この細胞種において類似の複製効率を有し、そして投入ビリオンあたりおよそ5x10ウイルスに同等である収量は、おそらくこの実験において、BHK細胞の100pfu感染から達成可能な最大産出量であろうことが示される。HSV1716EGFRに関しては、収量/投入ウイルスは、HSV−1 17+、HSV1716およびHSV1716ING4に関してよりもおよそ10倍少なく、これはこの実験において、このウイルスがBHK細胞におけるよりより効率的に複製しないことを示唆する。表2を参照されたい。
【0125】
Vero細胞において、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRよりもより効率的に複製し、収量/投入ビリオンは少なくとも2倍増加する。表3を参照されたい。HSV1716ING4に関する収量/投入ビリオンを、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンの各々と比較すると、これらの相違が有意であることが示された。表3におけるデータのANOVA分析によって、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに比較したHSV1716ING4に関して、それぞれp<0.01、p<0.05またはp<0.001の有意なp値が生じ、そしてこれらの値はすべて95%信頼限界より高いため、HSV1716ING4中のING4発現カセットの存在が、この細胞種においてウイルス複製を改善すると結論づけ可能である。
【0126】
別個の実験において、5x10 Vero細胞を60mmプレートにプレーティングし、そして1pfu/細胞の感染多重度で、HSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに2つ組で感染させる前に、6時間付着させた。正確に24時間培養した後、細胞および培地を採取し、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてBHK細胞上で力価決定した。HSV1716ING4に関しては、ウイルス収量/感染細胞は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関するウイルス収量/感染細胞のおよそ2倍であった。1pfu投入/細胞では、HSV1716ING4は、HSV−1 17+の50/70、HSV1716の80/88またはHSV1716EGFRの50/70に比較して、140/250のビリオン/感染細胞を生じた。したがって、Vero細胞における24時間の感染中(ウイルス複製の1周期と同等)、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRよりもより効率的に複製するはずである。
【0127】
ヒト卵巣癌細胞株Ovcar3細胞に関しては、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRよりもより効率的に複製し、収量/投入ビリオンは2〜4倍増加する。表4を参照されたい。HSV1716ING4に関する収量/投入ビリオンを、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンの各々と比較すると、相違が有用であることが示される。表4のデータをANOVA分析すると、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRの各々に比較して、HSV1716ING4に関して、すべてp<0.001のp値が生じ、そしてこれらはすべて非常に有意であり、99.9%信頼限界より高いため、HSV1716ING4は、この細胞種においてより効率的に複製するはずである。
【0128】
ヒト扁平上皮癌細胞株A431に関しては、HSV1716ING4は、HSV1716またはHSV1716EGFRのいずれよりもより効率的に複製し、HSV1716に比較して収量/投入ビリオンは100倍増加し、そしてHSV1716EGFRに比較して10倍増加する。表5を参照されたい。ANOVAによって、HSV1716ING4に関する収量/投入ビリオンを、HSV1716またはHSV1716EGFRいずれかに関する収量/投入ビリオンと統計的に比較すると、両方に関してp<0.05のp値が生じ、相違が有意であり、95%信頼限界より高いことが示され、これは親HSV1716またはHSV1716変異体HSV1716EGFRに比較して、HSV1716ING4が、この細胞種においてより効率的に複製するはずであることを示す。HSV1716ING4に関する平均収量/投入ビリオンは、野生型HSV−1 17+に関する平均収量/投入ビリオンよりも高いが、相違は有意ではない(p>0.05)。しかし、HSV−1 17+はHSV1716またはHSV1716EGFRのいずれよりも高い平均収量/投入ビリオンを有するが、これらの相違のいずれも有意ではない(どちらもp>0.05)。同様に、HSV1716EGFRに関する平均収量/投入ビリオンは、HSV 1716に関する平均収量/投入ビリオンよりも高いが、相違は有意ではない(p>0.05)。HSV1716ING4およびHSV−1 17+に関する収量/投入ビリオンを、より厳密でないスチューデントt検定を用いて比較すると、相違はp=0.004で有意であり、HSV1716ING4がHSV−1 17+よりもA431細胞においてより効率的に複製することが示唆される。
【0129】
ヒト乳腺癌細胞において、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRよりもより効率的に複製し、収量/投入ビリオンがおよそ10倍増加する。表6を参照されたい。HSV1716ING4に関して、収量/投入ビリオンを、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンの各々と比較すると、相違が有意であることが示される。表6のデータのANOVA分析によって、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRの各々に比較して、HSV1716ING4に関して、すべてp<0.001の有意なp値が生じ、そしてこれらは非常に有意であり、99.9%信頼限界より高いため、HSV1716ING4は、この細胞株においてより効率的に複製することが示される。
【0130】
ヒト卵巣癌細胞株CP70に関して、HSV1716ING4は、HSV1716またはHSV1716EGFRのいずれよりもより効率的に複製し、HSV1716またはHSV1716EGFRに比較して収量/投入ビリオンは3倍増加する。表7を参照されたい。HSV1716ING4に関する収量/投入ビリオンを、HSV1716またはHSV1716EGFRいずれかに関する収量/投入ビリオンと、ANOVAによって統計的に比較すると、両方に関してp<0.01のp値が生じ、相違は有意であり、99%信頼限界より高いことが示され、これは、親HSV1716またはHSV1716変異体HSV1716EGFRに比較して、HSV1716ING4が、この細胞種においてより効率的に複製するはずであることを示す。HSV1716およびHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオン間に、有意な相違はなかった(p<0.05)。HSV1716ING4に関する平均収量/投入ビリオンは、野生型HSV−1 17+に関する平均収量/投入ビリオンとは有意には異ならなかった(p>0.05)。しかし、HSV−1 17+はHSV1716またはHSV1716EGFRのいずれよりもより効率的に複製し、そしてこれらの相違は有意であり(p<0.01)、HSV1716/HSV1716EGFRは、この細胞種において複製に関して損傷されていることが示される。重要なことに、ING4の発現は、この損傷を克服し、そして複製効率を野生型レベルに回復させる。
【0131】
ヒトHuH7肝細胞癌細胞において、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRよりもより効率的に複製し、収量/投入ビリオンはおよそ5倍増加する。表8を参照されたい。HSV1716ING4に関して、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンの各々と収量/投入ビリオンを比較すると、相違が有意であることが示された。表8中のデータのANOVA分析によって、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRの各々に比較して、HSV1716ING4に関して、すべてp<0.001の有意なp値が生じ、そしてこれらは非常に有意であり、99.9%信頼限界より高いため、HSV1716ING4は、この細胞株においてより効率的に複製するはずである。
【0132】
in vitroの弱毒化HSV1716表現型の特質は、ウイルスがNIH 3T6細胞において複製不能であることであり、一方、これらの細胞は、HSV−1 17+複製に関して完全に許容性である。60mmプレート中、2つ組で、NIH 3T6細胞を1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4およびHSV1716EGFRに感染させた。感染72時間後、細胞および培地を採取して、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてBHK細胞上で力価決定した。HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRで3T6細胞を感染させた後、ウイルスはまったく検出されず、一方、2つ組の3T6細胞のHSV−1 17+感染からの収量は、2.0x10/3.0x10pfuであった。したがって、ING4発現がHSV1716の複製を増進させる能力は、弱毒化表現型の負担分には到達せず、そして感染細胞内のING4活性は、ICP34.5遺伝子の欠失によって引き起こされる複製制限を克服することは不可能である。
【0133】
恒常的にING4を発現するよう操作されたBHK細胞上での増殖
HSV1716ING4を生成するため、ING4 cDNAをまず、哺乳動物発現プラスミドpCDNA4/myc−HisA内にクローニングし、そしてこのベクターを用いて、ING4を恒常的に発現するBHK細胞株を生成した。250μlの血清不含DMEM/F12培地中の10μlリポフェクタミン2000(Invitrogen)と混合した100μgのING4発現ベクターまたは空のpCDNA/myc−HisAプラスミドでBHK細胞をトランスフェクションした。トランスフェクション72時間後、細胞をトリプシン処理し、そして1mg/mlゼオシン(Invitrogen)を含有する増殖培地を用いてプレーティングした。ゼオシン抗生物質を用いて細胞を2〜3週間選択し、その後、個々のクローンは明らかに可視であった。細胞をトリプシン処理し、そして24ウェルプレート中の限界希釈によってクローニングした。BHK/ING4またはBHK/pCDNA4の5クローンを拡大し、そして0.5mg/mlゼオシンを含有する適切な培地中で維持した。
【0134】
ゼオシンを含まない培地中、各クローンを60mmプレート中にプレーティングし、そして24時間後、およそ10pfuのHSV−1 17+またはHSV1716に感染させた。感染72時間後、細胞および培地を採取し、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてBHK細胞上で力価決定した。感染用に調製した各ウイルスの希釈もまた力価決定して、投入ウイルス量を正確に確認し、そして以下の表9および10に、スチューデントT検定を用いて行った統計的比較とともに、収量/投入ビリオンの結果を報告する。
【0135】
トランスフェクション/抗生物質選択によって、恒常的にING4を発現するように操作されたBHK細胞上のHSV−1 17+の増殖は、空のpCDNA.myc−Hisベクターを用いて産生されたゼオシン耐性BHK細胞上の増殖と比較すると、およそ10倍より効率的である。スチューデントt検定を用いて平均を比較することによって、この相違がp<0.0001で非常に有意であることが示され、99.99%を超える信頼限界で、ING4発現がBHK細胞におけるHSV−1 17+複製を改善することが示される。
【0136】
トランスフェクション/抗生物質選択によって、ING4を恒常的に発現するように操作されたBHK細胞上のHSV1716の増殖は、空のpCDNA4.myc−Hisベクターでのトランスフェクションによって生成されたゼオシン耐性BHK細胞上の増殖と比較すると、およそ10倍より効率的である。スチューデントt検定を用いて平均を比較することによって、この相違がp=0.02で非常に有意であることが示され、98%信頼限界で、ING4発現がBHK細胞におけるHSV1716複製を改善することが示される。
【0137】
実施例3−予備的in vitro実験
in vivoデータによって、非修飾HSV1716よりも高い効率で、HSV1716ING4が複製することが示唆された。これは、最初に、以下に記載するように、低い感染多重度で感染した多様な異なる細胞株を用いてin vitroで確認された。これらの実験には、実施例2に記載する実験が続いた。
【0138】
用いた細胞株は、BHK、Vero、3T6、A431ヒトSCC、CP70ヒト卵巣腫瘍、MDAヒト乳癌、Ovcar3ヒト卵巣癌およびUVWヒト神経膠芽腫であり、そしてこれらを主に、HSV1716、HSV1716ING4およびHSV1716EGFRに感染させた。
【0139】
実験1.細胞を60mmプレートにプレーティングし、そして24時間後、1、10または100pfuのHSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染させた。感染72時間後、細胞および培地を採取し、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてこれらのウイルスの各々がgfpを発現しているため、TCID法を用いて、各試料中のウイルス量を概算した。結果を以下の表11〜14に示す。
【0140】
実験1は、3T6細胞を除くすべての細胞種において、HSV1716ING4がHSV1716よりもより効率的に複製し、1、10および100pfuの投入量でウイルスのより高い収量を生じることを明らかに立証する。用いた3つのウイルスはすべて、3T6細胞において複製できず、これらがHSV1716表現型であることが確認された。
【0141】
実験2.細胞を60mmプレート中にプレーティングし、そして24時間後、2つ組で、5または20fuのHSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染させた。感染72時間後、細胞および培地を採取し、1回の凍結/融解周期(−70℃)に供し、そしてこれらのウイルスの各々がgfpを発現しているため、TCID法を用いて、各試料中のウイルス量を概算した。結果を以下の表15〜17に示す。
【0142】
再び、実験2は、すべての細胞種において、HSV1716ING4がHSV1716よりもより効率的に複製し、5または20pfuの投入量で子孫ウイルスのより高い収量を生じることを明らかに立証する。HSV1716ING4増殖の増進は、特にOvcar3およびA431細胞において、5pfuウイルスでより顕著であり、ここで、HSV1716ING4収量は、HSV1716より最大100倍大きい。
【0143】
実験3.上記細胞種の各々をT175フラスコに植え付け、そしてひとたび集密となったら、細胞をHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染させた。96時間培養した後、脱離細胞および上清の両方から高速遠心分離によってウイルスを採取し、そしてBHK細胞上で力価決定した。フラスコを感染させるのに用いた希釈もまた、BHK細胞上で力価決定して、投入ウイルス量を正確に定量化した。各細胞種に関して、ウイルス総量/フラスコ、投入由来の収量%およびHSV1716収量比%に比較した収量比%を表18に提示する。
【0144】
結論
候補腫瘍抑制因子遺伝子ING4を発現するHSV1716変異体は、HSV1716単独と比較した際、有意に増進された腫瘍増殖阻害、および延長された生存期間を示す。実際、上記実験において直接比較したのではないが、HSV1716ING4で処置したCP70腫瘍所持マウスの生存期間は、プロドラッグCB1954と組み合わせたニトロ還元酵素発現変異体HSV1790での処置後に得られるものと類似であった。転写を制御する際に関与する多様な複合体のサブユニットとしてのING4の仮定される活性を考慮すると、感染した腫瘍細胞におけるこうした作用様式が、HSV1716溶解性感染の背景に対して、細胞毒性に対するこうした劇的な効果を有するとは予期されないため、2つのモデルにおける生存期間の増進は予期されず、そして驚くべきことである。したがって、ウイルス自体は、ING4過剰発現から生じるいかなる毒性効果よりも迅速に、分裂中の腫瘍細胞を、効率的に殺す。ING4発現は、感染しているがウイルス腫瘍退縮に耐性である腫瘍細胞を破壊する可能性があるが、いかなる所定の腫瘍中のこれらの細胞の比率もHSV1716ING4で見られる腫瘍破壊増進を説明するのに十分ではないため、これは可能性が低いようである。
【0145】
あるいは、感染腫瘍細胞中で発現されるING4は、IL−6またはIL−8などの抗血管形成剤の放出を生じ、これらは腫瘍内部にある周囲の未感染細胞に局所的に作用して、血管形成を抑制し、腫瘍破壊増進を導きうる。したがって、この仮説によれば、ING4発現は、感染細胞からの局所作用メッセンジャーの放出を刺激し、これが隣接する未感染細胞に作用する結果、血管形成を促進する遺伝子の発現抑制を生じ、腫瘍血管新生の減少および腫瘍破壊の増進を導くであろう。
【0146】
さらに、CP70ヒト卵巣癌細胞またはA431 SCC移植物のいずれかへのPBS腫瘍内注射を受けたマウスは、それぞれ11日または8日の生存中央値を有した。HSV1716による腫瘍細胞の腫瘍退縮性感染は、これらのモデル両方で、生存中央値を、それぞれ18日または12日まで延長した。HSV1716ING4を注射すると、生存期間が23.5日または21日までさらに延長され、これによって、ING4発現がHSV1716腫瘍退縮強度を有意に増大させることが示された。HSV1716ING4の静脈内投与はまた、静脈内注射されたHSV1716に比較して、腫瘍増殖を減少させ、そして生存を延長し、そして屠殺マウスの腫瘍移植物由来のウイルスの抽出および力価決定によって、HSV1716ING4による腫瘍細胞殺傷増進のための潜在的な作用様式が示された。非修飾HSV1716で処置されたマウスに比較して、HSV1716ING4を静脈内注射されたマウスの腫瘍から、少なくとも1000倍多いウイルスが抽出され、これによって、HSV1716感染細胞におけるING4の発現は、ウイルス複製の効率を改善して、増大した子孫産生を生じることが示唆される。したがって、HSV1716ING4感染中、ING4タンパク質は、HSV1716複製のために改善された環境を提供するように、細胞を調整する。その結果、感染した腫瘍細胞あたり、より多くの子孫ビリオンが産生され、そして腫瘍退縮のこの増進は腫瘍細胞数を減少させ、そして生存を促進する。一団の異なる細胞株を用いたin vitroでの実験によって、ING4発現が一団の異なるヒト腫瘍細胞株におけるHSV1716複製の効率を改善することが確認された。
【0147】
BHK細胞は、この細胞株がウイルス複製の優れた支持体であり、そして常に高い収量が得られるため、野生型HSV−1 17+およびHSV1716ならびにその変異体の増殖にルーチンで用いられる。HSV−1 17+、HSV1716およびHSV1716ING4に関しては、60mmプレートをc100pfuウイルスに感染させることによって、およそ5x10〜1x10pfuが得られ、そしておそらく、これがこの培養形式でのBHK細胞に関する最大産出量であるため、収量/投入ビリオンにはほとんど相違はなかった。HSV−1増殖にはまた、Vero細胞も用いてもよいが、この実験では、HSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4およびHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンは、BHK細胞に関するより低かった。低いmoiでは、HSV1716ING4は、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに比較して、2倍高い効率で複製し、そしてHSV1716ING4のこれらの他のウイルス各々との厳密なANOVA検定を用いた統計的比較によって、相違が有意であることが示された。HSV−1 17+、HSV1716およびHSV1716EGFRの間では、収量/投入ビリオンにおいて、有意な相違は検出されなかった。さらに、1回の溶解周期に関して、Vero細胞を感染させるのに1pfu/細胞のはるかにより高いmoiを用いると、HSV1716ING4はやはり、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに比較して、2倍の効率で複製し、ING4発現によって与えられる増殖の利点が、単回溶解周期内で起こることが示された。
【0148】
一団のヒト腫瘍細胞株(CP70ヒト卵巣腫瘍、MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌、UVWヒト神経膠芽腫およびA431 SCC細胞)を用いた予備的in vitro実験において、HSV1716ING4は、HSV1716またはHSV1716EGFRいずれに比較しても、これらの細胞種各々で、複製増進を示した。統計的に意味がある比較を可能にするいくつかの複写物を用いた、続く実験において、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンに比較して有意に増加したHSV1716ING4に関する収量/投入ビリオンが、CP70ヒト卵巣腫瘍、MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌、HuH7ヒト肝細胞癌およびA431 SCC細胞において得られ、これらの細胞種において、HSV1716ING4産出量は、それぞれ2倍、10倍、5倍、5倍および10〜100倍増進した。有意な相違はまた、MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌およびHuH7ヒト肝細胞癌細胞におけるHSV1716ING4およびHSV−1 17+複製間でも得られたが、CP70ヒト卵巣腫瘍細胞においてこれらの2つのウイルス間で複製効率の相違はなかった。A431 SCC細胞に関しては、HSV1716ING4産出量は、HSV1716またはHSV1716EGFRに比較して、それぞれ100倍または10倍、有意に増加し、そしてANOVAを用いると、2倍高いHSV1716ING4収量/投入ビリオンは、HSV−1 17+のものと有意には異ならなかったが、スチューデントt検定を用いて平均を比較した場合、相違は有意であった。MDA−MB−468ヒト乳腺癌、Ovcar3ヒト卵巣癌およびHuH7ヒト肝細胞癌細胞に関しては、A431細胞において、HSV−1 17+、HSV1716またはHSV1716EGFRに関する収量/投入ビリオンに有意な相違はなかった。したがって、5/5ヒト癌細胞株において、HSV1716ING4複製は、親HSV1716またはHSV1716変異体HSV1716EGFR(類似のサイズのタンパク質ターゲティング部分を発現する)に比較して、有意により効率的であり、そして野生型HSV−1 17+に比較して、HSV1716ING4複製は、これらの株の4/5において改善された。
【0149】
さらに、10pfu HSV−1 17+または10pfu HSV1716のいずれかに感染した場合、収量/投入ビリオンは、空のpCDNA4ベクターでのトランスフェクションから抗生物質耐性を得たBHK細胞に比較して、トランスフェクション/抗生物質選択によって、ING4を恒常的に発現するように操作されたBHK細胞の5つの異なるクローンにおいて、有意に10倍増進された。ING4を恒常的に発現するこうしたBHK細胞は、HSV1716およびその変異体、特にウイルス増殖を制限するDNA挿入物を含むものの増殖のための改善された支持体を提供しうる。
【0150】
HSV−1 17+/HSV1716感染中のING4発現は、細胞内のウイルス複製効率を改善するように作用するはずであり、感染細胞あたりの子孫ビリオンのより多い産出量を生じる。重要なことに、ING4による複製効率のこの増進は、動物腫瘍モデルにおいて、HSV1716ING4が毒性でなく、そして該ウイルスがHSV1716耐性3T6細胞株においてin vitroで複製に失敗するため、HSV1716表現型を損なわなかった。ING4は、ウイルス遺伝子に直接作用して、発現を改善するか、またはウイルスタンパク質と直接相互作用して、その活性を増進させるか、あるいは細胞遺伝子/タンパク質に作用して、細胞環境がウイルス複製をより受け入れるように、細胞環境を調整しうる。in vivoで、このウイルス複製改善は、HSV1716の腫瘍退縮強度を増大させ、より優れた腫瘍細胞殺傷のために、より多くのウイルスを生じる。さらに、血管形成の抑制などの、腫瘍血管新生の減少につながる、他の認識されるING4の活性もまた、HSV1716ING4の腫瘍退縮強度増進に寄与しうる。
【0151】
参考文献
【0152】
【化5】

【0153】
表1.
第1日および第3日に、PBSあるいは1x10pfuのHSV1716またはHSV1716ING4の2回の静脈内注射後、皮下A431 SCC腫瘍から抽出されたウイルスの量。
【0154】
【表1】

【0155】
表2. 100pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したBHK細胞由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0156】
【表2】

【0157】
表3. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したVero細胞由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0158】
【表3】

【0159】
表4. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したヒト卵巣癌Ovcar3細胞由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0160】
【表4】

【0161】
表5. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したA431ヒトSCC細胞由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0162】
【表5】

【0163】
表6. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したヒト乳腺癌MDA−MB−468細胞株由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0164】
【表6】

【0165】
表7. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したヒト卵巣癌細胞株CP70由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0166】
【表7】

【0167】
表8. 1000pfuのHSV−1 17+、HSV1716、HSV1716ING4またはHSV1716EGFRに感染したヒト肝細胞癌細胞株HuH7に関する収量/投入ビリオン(pfu)
【0168】
【表8】

【0169】
表9. 100pfuのHSV17+に感染したBHK/ING4またはBHK/pCDNA4いずれかの5つの異なるクローン由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0170】
【表9】

【0171】
表10. 100pfuのHSV1716に感染したBHK/ING4またはBHK/pCDNA4いずれかの5つの異なるクローン由来の収量/投入ビリオン(pfu)
【0172】
【表10】

【0173】
表11. 1pfuのHSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716/ING4に感染した後の、異なる細胞種由来の総収量
【0174】
【表11】

【0175】
表12. 10pfuのHSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716/ING4に感染した後の、異なる細胞種由来の総収量
【0176】
【表12】

【0177】
表13. 100pfuのHSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716/ING4に感染した後の、異なる細胞種由来の総収量
【0178】
【表13】

【0179】
表14. 1、10または100pfuでの感染後の、異なる細胞種各々における収量の比(HSV1716ING4:HSV1716)
【0180】
【表14】

【0181】
n.d.=HSV1716に関する収量が0であったため、決定不能。
表15. 5pfuのHSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716/ING4に2つ組で感染した後の、異なる細胞種由来の総ウイルス収量
【0182】
【表15】

【0183】
表16. 20pfuのHSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716/ING4に2つ組で感染した後の、異なる細胞種由来の総ウイルス収量
【0184】
【表16】

【0185】
表17. 5または20pfuで感染した後の、異なる細胞種各々におけるHSV1716ING4:HSV1716の収量比
【0186】
【表17】

【0187】
表18. HSV−1 17+、HSV1716、HSV1716EGFRまたはHSV1716ING4でのT175フラスコの感染に関する、産生ウイルス総量/フラスコ、収量%(産出量/投入量)およびHSV1716収量%/細胞種に比較した収量比/細胞種。
【0188】
【表18−1】

【0189】
表18続き
【0190】
【表18−2】

【0191】
産出ウイルス量/投入ウイルス量
**HSV1716収量%に比較したウイルス収量%の比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルスゲノムがING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単純ヘルペスウイルス。
【請求項2】
ING4ポリペプチドがヒトING4ポリペプチドである、請求項1記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項3】
核酸配列が、配列番号4または配列番号5、あるいは配列番号3のポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項1または請求項2記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項4】
核酸配列が、配列番号4または配列番号5、あるいは配列番号3のポリペプチドをコードする核酸配列に、少なくとも75%の配列同一性を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項5】
配列同一性の前記度合いが少なくとも90%である、請求項4記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項6】
前記核酸配列が、配列番号4または配列番号5の核酸配列に、その相補体に、あるいは配列番号3のポリペプチドをコードする核酸配列に、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、請求項1〜5のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項7】
ING4ポリペプチドが、単純ヘルペスウイルスに感染した細胞に存在すると、前記細胞における単純ヘルペスウイルスの複製効率の増加を導くポリペプチドである、請求項1〜6のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項8】
ING4ポリペプチドが、単純ヘルペスウイルス17株または1716株に感染した細胞に存在すると、前記細胞における単純ヘルペスウイルス17株または1716株の複製効率の増加を導くポリペプチドである、請求項1〜6のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項9】
前記単純ヘルペスウイルスゲノムが、ING4をコードする前記核酸に機能可能であるように連結された制御ヌクレオチド配列をさらに含み、前記制御ヌクレオチド配列が前記ING4ポリペプチドの転写を調節する際に役割を果たす、請求項1〜8のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項10】
非神経毒性である、請求項1〜9のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項11】
ICP34.5遺伝子が機能するICP34.5遺伝子産物を発現不能であるように、ICP34.5遺伝子の一方または両方が修飾されている、請求項1〜10のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項12】
ICP34.5遺伝子が機能するICP34.5遺伝子産物を発現不能であるように、ICP34.5遺伝子のすべてのコピーが修飾されている、請求項1〜10のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項13】
ICP34.5ヌル突然変異体である、請求項12記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項14】
少なくとも1つの発現可能ICP34.5遺伝子を欠く、請求項1〜11のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項15】
前記核酸が、単純ヘルペスウイルスゲノムの少なくとも1つのRL1遺伝子座に位置する、請求項1〜14のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項16】
前記核酸が、単純ヘルペスウイルスゲノムのICP34.5タンパク質コード配列の少なくとも1つの中に位置するか、または該配列と重複する、請求項1〜15のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項17】
腫瘍退縮性(oncolytic)である、請求項1〜16のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項18】
HSV−1 17株またはF株、あるいはHSV−2 HG52株の1つの突然変異体である、請求項1〜17のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項19】
HSV−1 17株突然変異体1716である、請求項1〜17のいずれか一項記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項20】
寄託番号・・・のもとに、・・・にECACCに寄託されたHSV1716ING4。
【請求項21】
疾患の医学的治療法において使用するための請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルス。
【請求項22】
癌性状態の治療において使用するための請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルス。
【請求項23】
腫瘍の腫瘍退縮治療において使用するための請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルス。
【請求項24】
癌性状態の治療用の薬剤の製造における請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスの使用。
【請求項25】
腫瘍の腫瘍退縮治療用の薬剤の製造における請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスの使用。
【請求項26】
請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスを含む、薬剤、薬学的組成物またはワクチン。
【請求項27】
薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤をさらに含む、請求項26に請求されるような薬剤、薬学的組成物またはワクチン。
【請求項28】
請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスを、治療の必要がある患者に投与する工程を含む、癌性状態の治療のための方法。
【請求項29】
請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスを、治療の必要がある患者に投与する工程を含む、腫瘍の治療のための方法。
【請求項30】
請求項1〜20のいずれか一項に請求されるような単純ヘルペスウイルスを、細胞に投与する工程を含む、in vitroまたはin vivoで腫瘍細胞を溶解させるかまたは殺傷する方法。
【請求項31】
請求項1〜20のいずれか一項に定義されるような単純ヘルペスウイルスに、関心対象の少なくとも1つの細胞または組織を感染させる工程を含む、in vitroまたはin vivoでING4ポリペプチドを発現する方法。
【請求項32】
(i)過剰なING4を有する単数または複数の細胞を提供し、そして(ii)細胞(単数または複数)を感染させることが可能なHSVと細胞(単数または複数)を接触させる工程を含む、in vitroまたはin vivoでHSVを複製する方法。
【請求項33】
ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む異種構築物を、細胞(単数または複数)内に導入する工程を含む、請求項32記載のin vivoまたはin vitro法。
【請求項34】
ING4ポリペプチドをコードする核酸配列を含む異種構築物を含む、単純ヘルペスウイルスに感染した、in vivoまたはin vitroの細胞。
【請求項35】
ING4ポリペプチドをコードする核酸配列が恒常的プロモーターに機能可能であるように連結されている、請求項34記載の細胞。
【請求項36】
ING4ポリペプチドおよび非神経毒性単純ヘルペスウイルスを、治療の必要がある患者に投与する工程を含む療法において使用するための、ING4ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項37】
非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4ポリペプチドをコードする核酸を、治療の必要がある患者に投与する工程を含む療法において使用するための、非神経毒性単純ヘルペスウイルス。
【請求項38】
ING4ポリペプチドをコードする核酸および非神経毒性単純ヘルペスウイルスを、治療の必要がある患者に投与する工程を含む療法用の薬剤の製造における、ING4ポリペプチドをコードする核酸の使用。
【請求項39】
非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4をコードする核酸を、治療の必要がある患者に投与する工程を含む療法用の薬剤の製造における、非神経毒性単純ヘルペスウイルスの使用。
【請求項40】
非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4ポリペプチドをコードする核酸を患者に投与する工程を含む、患者を治療する方法。
【請求項41】
単純ヘルペスウイルス、ならびにING4ポリペプチドをコードする核酸および/またはING4ポリペプチドを含む、組成物。
【請求項42】
非神経毒性単純ヘルペスウイルスおよびING4ポリペプチドをコードする核酸を含む、薬学的組成物。
【請求項43】
単純ヘルペスウイルスに感染した細胞において前記単純ヘルペスウイルスの複製を増加させる方法における、ING4ポリペプチドをコードする核酸またはING4ポリペプチドのin vitroでの使用。
【請求項44】
ING4ポリペプチドをコードする核酸が請求項2〜9のいずれか一項に定義される通りである、請求項31〜43のいずれか一項記載の方法、細胞、核酸、非神経毒性単純ヘルペスウイルス、使用、または組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−518816(P2010−518816A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549472(P2009−549472)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000527
【国際公開番号】WO2008/099189
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(506164453)クルセイド ラボラトリーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】