説明

単細胞化植物食品素材の製造方法

【課題】植物組織が柔らかい葉菜類や果実類などの植物食品素材において、熱や光にさらされるような過酷な条件化でも色目や風味を充分に長時間保持すること、またそのような植物食品素材を効率良く製造すること。
【解決手段】生の状態の植物食品素材を、凍結解凍やブランチングすることなく酵素液に浸漬し、吸引圧力1〜7.5kPaで減圧した状態で放置した後常圧に放置することを2回以上繰り返すことを特徴とする単細胞化植物食品素材の製造方法に従って単細胞化植物食品素材を得、それを用いて食品を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単細胞化植物食品素材の製造方法、およびその製造方法により得られた単細胞化植物食品素材を用いてなる食品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物食品素材は、通常経時的に色目や風味が変化し、生の状態に近い色目や風味を長時間保持することが困難である。
【0003】
そこで、野菜や香辛料、茶葉等の有効成分の長時間保存法として、アルカリ性温水に浸漬した後磨砕する方法(特許文献1)、機械粉砕とペクチナーゼといった細胞間物質分解酵素の作用の併用による植物加工品の作製方法(特許文献2、3)、生あるいは加熱した植物食品素材を凍結した後、解凍し、酵素液に浸漬して吸引圧力10mmHg(1.3kPa)〜60mmHg(7.9kPa)での減圧下に放置することで植物組織への酵素導入する方法(特許文献4)などに従って単細胞化が行われている。
【0004】
しかしこれらの方法は、アルカリ処理により植物食品素材の風味が劣化してしまったり、機械粉砕の時に植物細胞が破壊され単細胞化できなかったりする場合がある。また、植物食品素材の凍結処理は、比較的細胞組織が強固な根菜類などではある程度有効であるが、植物組織が柔らかい葉菜類や果実類などの食品素材に適用すると組織が壊れすぎてしまい、色目や風味を充分に長時間保持することができなかったり、凍結処理によって植物組織が変性し、酵素の導入が困難になり酵素分解できない場合がある。
【0005】
また、これらの方法では、処理直後の有効成分保持には効果があっても、熱や光にさられるような過酷な条件の下では、効果を保持することが出来ない場合がある。
【特許文献1】特開2007−135534号公報
【特許文献2】特開平6−105661号公報
【特許文献3】特開平9−75026号公報
【特許文献4】特開2003−284522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物組織が柔らかい葉菜類や果実類などの植物食品素材において、熱や光にさらされるような過酷な条件化でも色目や風味を充分に長時間保持すること、またそのような植物食品素材を効率良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、植物組織が柔らかい葉菜類や果実類などの植物食品素材において、従来の方法では、粉砕、凍結などの物理的処理や、過度の酵素反応により細胞が崩壊したものが多く存在する事で、有効成分の保存性が悪くなるが、凍結解凍やブランチングすることなく、ある特定の組み合わせの酵素液に浸漬し、特定の圧力に減圧した状態での放置と徐圧した状態での放置を数回繰り返す事で、得られた単細胞化植物食品素材は長時間色目や風味を保持でき、熱や光に対しても耐性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、生の状態の植物食品素材を、凍結解凍やブランチングすることなく酵素液に浸漬し、吸引圧力1〜7.5kPaで減圧した状態で放置した後常圧に放置することを2回以上繰り返すことを特徴とする単細胞化植物食品素材の製造方法に関する。好ましい実施態様は、植物食品素材が、葉菜類又は果実類である上記記載の単細胞化植物食品素材の製造方法に関する。より好ましくは、果実類が、仁果類、核果類、液果類、小果樹類より選ばれる少なくとも1種である上記記載の単細胞化植物食品素材の製造方法に関する。本発明の第二は、上記記載の製造方法により得られた単細胞化植物食品素材を用いてなる食品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、植物組織が柔らかい葉菜類や果実類などの植物食品素材において、熱や光にさらされるような過酷な条件化でも色目や風味を充分に長時間保持すること、またそのような植物食品素材を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。なお、本発明の単細胞化植物食品素材の製造方法は、生の状態の植物食品素材を凍結解凍やブランチングすることなく酵素液に浸漬し、特定の吸引圧力で減圧した状態で放置した後常圧に放置することを、2回以上繰り返すことを特徴とする。
【0011】
本発明の植物食品素材とは、本発明の単細胞化植物食品素材の製造方法に従って単細胞化でき、且つ食用であれば特に限定はないが、植物組織が柔らかければよく、多くの葉菜類や殆どの果実類などに好適に用いられる。それらを用いる際、生の状態で用いることが好ましい。生の状態でないと、植物食品素材の風味が損なわれたり、単細胞化の歩留まりが悪い場合がある。
【0012】
前記葉菜類としては、植物組織が柔らかくて食用であれば特に限定はなく、例えばキャベツ、タマネギ、ニラ、シソ、ニンニク、ネギ、ハクサイ、フキ、ホウレンソウ、レタス、フダンソウ、コマツナ、アブラナ、アサツキ、アシタバ、アスパラガス、ウド、ウルイ、ウワバミソウ、エンダイブ、クレソン、コゴミ、シュンギク、セロリ、チコリ、チャービル、チンゲンサイ、ツクシ、ナバナ、ノビル、ハスイモ、パセリ、ハマボウフウ、フェンネル、フキ、マコモ、ミズナ、ミツバ、ミョウガ、リーキ、ルバーブ、ワラビなどが挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0013】
前記果実類としては、植物組織が柔らかくて食用であれば特に限定はなく、例えばリンゴ、ナシ、ビワなどの仁果類、モモ、スモモ、ウメ、アンズ、オウトウなどの核果類、カキ、ブドウ、グレープフルーツ、オレンジなどの液果類、キイチゴ、スグリ、ブルーベリーなどの小果樹類が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0014】
本発明における酵素液とは、酵素を水で溶解したもので、酵素を植物食品素材の重量の0.2〜25倍量の水で溶解しておくことが好ましい。植物食品素材の種類にもよるが好ましくは1〜10倍量、さらに好ましくは1〜5倍量の水で酵素を溶解しておく。加水量が0.2倍量より少ないと酵素液から植物食品素材が浮出てしまい、酵素導入ができず、単細胞化できない場合がある。また25倍量より多いと、酵素分解に長時間を要する場合がある。
【0015】
前記酵素としては、ペクチナーゼを主体とする細胞間物質分解酵素を用いることができる。効率よく植物食品素材を分解することができるためTrichosporon属、Rhizopus属及びBacillus属の何れかを起源とするものが好ましく、より好ましくはRhizopus属を起源とするものであり、例えばセルロシンME(Rhizopus属、エイチビィアイ(株)、マセロチームA(Rhizopus属、ヤクルト薬品工業(株))、スミチームMC(Rhizopus属、新日本化学工業(株))、 Pectinase−GODO(Trichosporon属、合同酒精(株))、ペクチナーゼXP−534NEO(Bacillus属、ナガセケムデックス(株))などが挙げられる。また、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼ、ガラクトシダーゼなどの酵素をペクチナーゼと組み合わせて用いることもできる。
【0016】
本発明の単細胞化植物食品素材の製造方法を以下に例示する。但し、例示の製造方法以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜製造方法は変更してもよい。
【0017】
<酵素液浸漬工程>
まず、生の状態の植物食品素材を減圧のできる分散・混練用容器に入れ、凍結解凍やブランチングすることなく酵素液に浸漬する。植物食品素材が葉菜類などの場合は、酵素液面上に浮き出てしまいやすいため、ステンレス製のメッシュなどの重しをし、酵素液に浸漬させるとよい。容器としては、例えばプライミクス株式会社製「T.K.ハイビスミックス」を用いることができる。
【0018】
<酵素浸透工程>
植物食品素材を酵素液に浸漬したまま、好ましくは吸引圧力1〜7.5kPa、より好ましくは1〜3.8kPaで減圧した状態で、25〜50rpmで撹拌しながら5〜30分間放置し、その後徐圧する。吸引圧力が7.5kPaより高いと単細胞化に長時間を要したり、単細胞化できない場合がある。吸引圧力は低いほど効率よく単細胞化できるが、設備に多大なコストがかかる場合がある。そこで、上記のような減圧徐圧を総計2回以上繰り返すことが好ましく、2〜5回繰り返すことがより好ましい。減圧徐圧を繰り返すことで酵素液を植物食品素材の内部まで浸透させることができ、そのため次の単細胞化処理の時間を短縮することができる。また機械磨砕等の粉砕工程が不要になり、単細胞化数を増加させることができる。しかし、5回以上繰り返しても単細胞化処理の時間や単細胞化数が頭打ちになる。
【0019】
本工程において酵素は、植物食品素材100重量部に対して0.01〜1.0重量部使用することが好ましい。より好ましくは0.05〜0.5重量部、さらに好ましくは0.1〜0.3重量部である。酵素使用量が0.01重量部より少ないと、酵素分解できなかったり、分解に長時間を要したりする場合があり、1.0重量部より多いと、酵素そのものの味が出てしまう場合がある。
【0020】
<酵素処理による単細胞化工程>
酵素浸透工程で酵素を組織内に導入した後、酵素処理による単細胞化を行う。その際の撹拌条件は、植物細胞の破壊を防ぐため、25〜50rpmの緩やかな条件が望ましい。酵素処理の温度は10〜50℃が好ましく、より好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは20〜40℃である。酵素処理温度が10℃より低いと酵素活性が低くなり分解できなかったり、分解に長時間を要したりする場合がある。また50℃より高いと、酵素が失活し、分解できない場合がある。酵素処理は、植物食品素材が単細胞化されたことが確認できた時点で終了すればよいが、0.5〜3時間が好ましく、より好ましくは0.5〜2時間である。このとき、酸化防止目的でアスコルビン酸ナトリウムを添加したり、葉菜類の緑色の改善目的で水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を添加してもよい。また、使用する酵素の至適pHに調整するために酸性剤やアルカリ剤を添加してもよい。
【0021】
前記工程が終了したら、熱交換器などで60〜140℃に加熱することで酵素を失活させて、本発明の単細胞化植物食品素材を得ることができる。得られた単細胞化植物食品素材は、繊維などの残渣を完全に分離した液体状や、さらにペースト状、粉末状などに形態を変えても良く、保存のため凍結してもよい。
【0022】
本発明の単細胞化植物食品素材の製造方法により得られた単細胞化植物食品素材は、それを利用した食品に制限はなく、例えばジュースなどの飲料、パスタソース、シチュー、スープなどの調理食品、パン、ケーキ、クッキー、ゼリー等のパン・菓子類等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0024】
<単細胞数の計測>
単細胞数の計測は細胞計数盤(株式会社ワンセル製)を用いて次のように行った。まず単細胞化植物食品素材の含有量が乾燥重量換算で1〜3重量%になるように任意に水で希釈した後、篩目0.5mmのメッシュでろ過し、ろ液を回収した。その後、残渣を水洗し、篩目0.5mmのメッシュで再びろ過し、洗浄液を回収した。洗浄、ろ過を3回繰り返した後、ろ液と洗浄液を合わせ試料(1)とし、単細胞数を計測した。試料(1)と洗浄した残渣を合わせ試料(2)とし、乾燥重量を測定した。得られた単細胞数を試料(2)の乾燥重量1g当たりに換算し、単細胞化植物食品素材の単細胞数とした。
【0025】
<風味評価>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材を熟練したパネラー10名に試食してもらい、その風味を5点満点で評価した結果を平均化し、評価点とした。その際の評価基準は以下の通りであった。5点:フレッシュな風味があり非常に良好、4点:フレッシュな風味があり良好、3点:フレッシュな風味が少し感じられる、2点:発酵臭、萎凋香、加熱臭などの異臭が感じられる、1点:発酵臭、萎凋香、加熱臭などの異臭が強く感じられる。
【0026】
<風味の耐熱性評価>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材の風味の耐熱性は、単細胞化植物食品素材を80℃で30分間湯煎にて温調した後、前記の風味評価と同様の方法で行った。
【0027】
<風味の耐光性評価>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材の風味の耐光性は、単細胞化植物食品素材を15W白色蛍光灯照射下にて5℃で1日保存した後、前記の風味評価と同様の方法で行った。
【0028】
<鮮緑度の測定方法>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材の中で、クロロフィルを含有するものは、色度を色差計(ミノルタカメラ株式会社製、色彩色差計「CR−200」)で測定し得られた色度a、bから計算される(−a)×(−a)/bを鮮緑度とした。その際、測定物がホール状のものは直接計測し、液状、ペースト状、粉末状のものは、ガラス製フラットシャーレ(高さ15mm)に気泡が入らないように充填し、蓋の上から計測した。
【0029】
<色調の耐熱性評価>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材の中で、クロロフィルを含有するものは、80℃で30分間湯煎にて温調した後、鮮緑度を測定することで、耐熱性を評価することができた。すなわち、80℃で30分間の加熱前と加熱後の鮮緑度の変化率が20%以下のとき、耐熱性を有しているとした。
【0030】
<色調の耐光性評価>
実施例、比較例で得られた単細胞化植物食品素材の中で、クロロフィルを含有するものは、15wの蛍光灯照射下にて5℃で1日保存した後、鮮緑度を測定することで、耐光性を評価することができた。すなわち、蛍光灯照射前と照射後の鮮緑度の変化率20%以下のとき、耐光性を有しているとした。
【0031】
(実施例1) 植物食品素材(コマツナ)
埼玉県産コマツナを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表1に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(1kPa)にした後5分間放置し、その後除圧した。さらにもう1回減圧徐圧を繰り返して総計2回酵素導入を行った後、40℃で2時間、50rpmで撹拌することで酵素分解を行った。2時間後、コマツナが単細胞化されていることを確認後、熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化食品素材(コマツナ)1を得た。得られた単細胞化植物食品素材(コマツナ)1の単細胞数、鮮緑度、色調の耐熱性、色調の耐光性、風味を評価し、表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例2) 植物食品素材(コマツナ)
実施例1において減圧(2kPa)すること以外は、実施例1と同様にして単細胞化食品素材(コマツナ)2を得た。得られた単細胞化植物食品素材(コマツナ)2の評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0034】
(実施例3) 植物食品素材(コマツナ)
実施例1において減圧(4kPa)にすること以外は、実施例1と同様にして単細胞化食品素材(コマツナ)3を得た。得られた単細胞化植物食品素材(コマツナ)3の評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0035】
(実施例4) 植物食品素材(コマツナ)
実施例3において減圧(7.5kPa)で5分間放置し、その後徐圧を行う操作を総計5回繰り返すこと以外は、実施例1と同様にして単細胞化植物食品素材(コマツナ)4を得た。得られた単細胞化食品素材(コマツナ)4の評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0036】
(比較例1) 植物食品素材(コマツナ)
埼玉県産コマツナを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表1に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(1kPa)にした後5分間放置した。その後徐圧し、酵素導入を行った後、40℃で撹拌し、酵素分解を行った。しかし、10時間撹拌を行っても完全に単細胞化はできなかった。
【0037】
(比較例2) 植物食品素材(コマツナ)
埼玉県産コマツナを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表1に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(10kPa)で5分間放置した後徐圧した。さらにもう4回減圧徐圧を繰り返して総計5回の酵素導入を繰り返し行った後、40℃、25rpmで撹拌し、酵素分解を行った。しかし、10時間撹拌を行っても完全に単細胞化はできなかった。
【0038】
実施例1〜4で製造した単細胞化植物食品素材(コマツナ)1〜4の単細胞数はいずれも乾燥重量1gあたり約90〜150万個で、鮮緑度は7以上と高く、鮮やかな緑色を有していた。また、風味はフレッシュな良好な風味であった。加熱や蛍光灯照射による鮮緑度の変化率はいずれも20%以下と少なく、耐熱性、耐光性を有していた。一方、比較例1〜2においては、単細胞化が進まず、非常に薄い緑色の水溶液しか得られなかったため、評価は行わなかった。
【0039】
(実施例5) 植物食品素材(ホウレンソウ)
千葉県産ホウレンソウを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表2に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(2.5kPa)にした後5分間放置し、除圧した。さらにもう1回減圧徐圧を繰り返し、総計2回酵素導入を行った後、35℃で2時間、25rpmで撹拌し、酵素分解を行った。2時間後、ホウレンソウが単細胞化されていることを確認後、熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を得た。得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1の単細胞数、鮮緑度、色調の耐熱性、色調の耐光性、風味を評価し、表2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
(比較例3) 植物食品素材(ホウレンソウ)、特開2007−135534号公報準拠
千葉県産ホウレンソウを重曹でpH7.1に調整し、92℃に温調した水溶液に60秒間浸漬後、ホウレンソウを引き上げ流水し余分なアルカリを取り除いた後、25℃まで冷却した。次にサイレントカッターでペースト状になるまで粉砕し、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2を得た。得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2の評価を実施例5と同様に行い、その結果を表2に示した。
【0042】
(比較例4) 植物食品素材(ホウレンソウ)、特開平09−75026号公報準拠
千葉県産ホウレンソウを90℃で5分間ブランチングした後、流水で25℃まで冷却した。その後1cm角に粉砕し、表2に記した割合で酵素を添加し、T.K.ハイビスミックスに入れ、35℃で2時間、25rpmで撹拌し、酵素分解を行った。2時間後、熱交換器にて140℃、2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3を得た。得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3の評価を実施例5と同様に行い、その結果を表2に示した。
【0043】
(比較例5) 植物食品素材(ホウレンソウ)、特開2003−284522号公報準拠
千葉県産ホウレンソウを−15℃で凍結した。次に表2に記した割合で溶解した酵素溶液を40℃に加温し、凍結したホウレンソウと酵素溶液をT.K.ハイビスミックスに入れ30分間浸漬し解凍した。その後、40mmHg(5.26kPa)に減圧し60分間静置したが、単細胞化はできなかった。
【0044】
実施例5で製造した単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1の単細胞数は乾燥重量1gあたり約157万個で、鮮緑度は9.99と非常に高く、鮮やかな緑色を有していた。また、風味はフレッシュな良好な風味であった。加熱や蛍光灯照射による鮮緑度の変化率はいずれも20%以下と少なく、耐熱性、耐光性を有していた。一方、比較例3で製造した単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2の単細胞数は2800個で単細胞化ホウレンソウ1と比較して明らかに少なかった。鮮緑度は9.65と非常に高く、フレッシュで良好な風味であった。しかし、加熱や蛍光灯照射による鮮緑度の変化率はそれぞれ、46.32%、56.37%と大きく、耐熱性や耐光性は有していなかった。
【0045】
比較例4で製造した単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3の単細胞数は8100個で、単細胞化ホウレンソウ1と比較して明らかに少なかった。鮮緑度は8.99で鮮やかな緑色であり、フレッシュで良好な風味であった。しかし、加熱や蛍光灯照射による鮮緑度の変化率がそれぞれ52.61%、77.64%と大きく、耐熱性や耐光性は有していなかった。
【0046】
また比較例5においては、単細胞化が進まず、非常に薄い緑色の水溶液しか得られなかったため、評価は行わなかった。
【0047】
(実施例6) 植物食品素材(ハクサイ)
茨城県産ハクサイを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表3に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(2.5kPa)にした後10分間放置し、除圧した。さらにもう4回減圧徐圧を繰り返し、総計5回酵素導入を行った後、40℃で2時間、50rpmで撹拌することで、酵素分解を行った。2時間後、ハクサイが単細胞化されていることを確認後、熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(ハクサイ)1を得た。得られた単細胞化植物食品素材(ハクサイ)1の単細胞数、風味、風味の耐熱性および風味の耐光性を評価し、その結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
(比較例6) 植物食品素材(ハクサイ)、特開平09−75026号公報準拠
茨城県産ハクサイを90℃で5分間ブランチングした後、流水で25℃まで冷却した後「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表3に記した割合で溶解した酵素液を注入し、35℃で撹拌し酵素分解を行ったが、10時間撹拌しても単細胞化はできなかった。
【0050】
実施例6で製造した単細胞化植物食品素材(ハクサイ)1の単細胞数は乾燥重量1gあたり約144万個で、フレッシュな良好な風味であった。加熱や蛍光灯照射後もフレッシュな風味を呈しており、耐熱性および耐光性を有していた。一方比較例6では、単細胞化植物食品素材(ハクサイ)が得られなかったため、評価は行わなかった。
【0051】
(実施例7) 植物食品素材(プラム)
皮付きのまま3cm角にカットした山梨県産プラムを撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表4に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(1.5kPa)にした後10分間放置し、除圧した。さらにもう1回減圧徐圧を繰り返し、総計2回酵素導入を行った後、40℃で2時間、50rpmで撹拌し、酵素分解を行った。2時間後、プラムが単細胞化されていることを確認後、篩目0.5mmのメッシュでろ過し、ろ液を回収した。このろ液を熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(プラム)1を得た。得られた単細胞化植物食品素材(プラム)1の単細胞数、風味、風味の耐熱性および風味の耐光性を評価し、その結果を表4に示した。
【0052】
【表4】

【0053】
(比較例7) 植物食品素材(プラム)、特開平06−105661号公報準拠
種を取り除いた山梨県産プラムを皮付きのままフードカッターで0.5mm角程度に切断し、「T.K.ハイビスミックス」に入れた。次に表4に記した割合で溶解した酵素液を「T.K.ハイビスミックス」に入れ、40℃で2時間、50rpmで撹拌することで、酵素分解を行った。2時間後、プラムが単細胞化されていることを確認後、篩目0.5mmのメッシュでろ過し、ろ液を回収した。このろ液を熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(プラム)2を得た。得られた単細胞化植物食品素材(プラム)2の評価を実施例7と同様に行い、その結果を表4に示した。
【0054】
実施例7で製造した単細胞化植物食品素材(プラム)1の単細胞数は乾燥重量1gあたり約166万個で、フレッシュな良好な風味であった。加熱や蛍光灯照射後もフレッシュな風味を呈しており、耐熱性および耐光性を有していた。一方、比較例7で製造した単細胞化植物食品素材(プラム)2の単細胞数は3600個で単細胞化プラム1と比較して明らかに少なかった。風味はフレッシュで良好であったが、加熱や蛍光灯照射後の風味は発酵臭や加熱臭などが感じられた。
【0055】
(実施例8) 植物食品素材(柚子果皮)
高知県産柚子の果皮を撹拌・振とう・混合機(プライミックス株式会社製)「T.K.ハイビスミックス」に入れ、そこに表5に記した割合で溶解した酵素液を注入し、減圧(2kPa)にした後5分間放置し、除圧した。さらにもう4回減圧徐圧を繰り返し、総計5回酵素導入を行った後、35℃で2時間、50rpmで撹拌することで、酵素分解を行った。2時間後、柚子果皮が単細胞化されていることを確認後、篩目0.5mmのメッシュでろ過し、ろ液を回収した。このろ液を熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1を得た。この単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1の単細胞数、風味、風味の耐熱性および風味の耐光性を評価し、その結果を表5に示した。
【0056】
【表5】

【0057】
(比較例8) 植物食品素材(柚子果皮)、特開平06−105661号公報準拠
高知県産柚子の果皮をフードカッターで0.5mm角程度に切断し、「T.K.ハイビスミックス」に入れた。次に表5に記した割合で溶解した酵素液を「T.K.ハイビスミックス」に入れ、40℃で2時間、50rpmで撹拌することで、酵素分解を行った。2時間後、プラムが単細胞化されていることを確認後、篩目0.5mmのメッシュでろ過し、ろ液を回収した。このろ液を熱交換器にて140℃で2秒間加熱した後ただちに25℃まで冷却し、単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2を得た。得られた単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2の評価を実施例8と同様に行い、その結果を表5に示した。
【0058】
実施例8で製造した単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1の単細胞数は乾燥重量1gあたり約119万個で、フレッシュな良好な風味であった。加熱や蛍光灯照射後もフレッシュな風味を呈しており、耐熱性および耐光性を有していた。一方、比較例8で製造した単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2の単細胞数は9600個で単細胞化柚子果皮2と比較して明らかに少なかった。風味はフレッシュで良好であったが、加熱や蛍光灯照射後の風味は発酵臭や加熱臭などが感じられた。
【0059】
(実施例9) ポタージュスープ評価
実施例5で得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を用いて表6の配合に従い、以下のようにしてポタージュスープを作製した。スライスしたタマネギを炒め、ジューサーミキサーでペースト状にし、牛乳、水で延ばしてから90℃まで加温した。固形スープを加えて塩コショウで調味した後、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を加えた。3方パウチに入れ、80℃で30分間加温しポタージュスープを作製し、鮮緑度、風味を評価し、表6に示した。
【0060】
【表6】

【0061】
(比較例9) ポタージュスープ評価
単細胞化食品素材(ホウレンソウ)2を用いた以外は、実施例9と同様にしてポタージュスープを作製し、得られたポタージュスープの評価を実施例9と同様にして行い、その結果を表6に示した。なお、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2は、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1と乾燥重量に換算した時同量になるように添加量を調整した。
【0062】
(比較例10) ポタージュスープ評価
単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3を用いた以外は、実施例9と同様にしてポタージュスープを作製し、得られたポタージュスープの評価を実施例9と同様にして行い、その結果を表6に示した。なお、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3は、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1と乾燥重量に換算した時同量になるように添加量を調整した。
【0063】
単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1用いたポタージュスープは鮮やかな緑色で、フレッシュで良好な風味を呈していた。一方、単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2、3を用いたポタージュスープは緑褐色や赤褐色になった。また、加熱臭が感じられた。
【0064】
(実施例10) シフォンケーキ評価
実施例5で得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を凍結乾燥して粉末状にし、それを用いて表7の配合に従い、以下のようにしてシフォンケーキを作製した。まず、卵黄、上白糖をホバートミキサー低速でクリーム状になるまで攪拌し、そこへナタネ油を加え、ホバートミキサー中速で油分が抱き込まれるまで攪拌した。さらに薄力粉、水を加え、ゴムべらで均一になるまで混ぜ合わせ、生地1とした。次に、卵白、上白糖(メレンゲ用)をホバートミキサーで低速1分間、中速1分間、高速3.5分間攪拌し、しっかりとしたメレンゲを作製した。そしてメレンゲ、生地1、粉末状の単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を加えて混ぜ合わせ、生地2とした。生地2を型に流し込み、175℃のオーブンで17分間焼成し、シフォンケーキを作製した。得られたシフォンケーキは1/8にカットし、脱酸素剤と一緒に透明パウチに入れ、25℃の照射下で1日間保存した後、鮮緑度、風味を評価し、その結果を表7に示した。
【0065】
【表7】

【0066】
(比較例11) シフォンケーキ評価
比較例3で得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2を凍結乾燥して粉末状にし、それを用いてシフォンケーキを作製した。得られたシフォンケーキの評価を実施例10と同様にして行い、その結果を表7に示した。
【0067】
(比較例12) シフォンケーキ評価
比較例4で得られた単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)3を凍結乾燥して粉末状にし、それを用いてシフォンケーキを作製した。得られたシフォンケーキの評価を実施例10と同様にして行い、その結果を表7に示した。
【0068】
粉末状の単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)1を用いたシフォンケーキはケーキカット面が鮮やかな緑色であり、フレッシュで良好な風味を呈していた。一方、粉末状の単細胞化植物食品素材(ホウレンソウ)2、3を用いたシフォンケーキのカット面は褐色になっていた。また、風味は弱く感じられた。
【0069】
(実施例11) マヨネーズソース評価
実施例8で得られた単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1を遠心分離して上澄みを除去し、ペースト状にした。得られたペースト状の単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1を用いて表8の配合に従い、キユーピーマヨネーズ、マスタード、スイートバジル加工品を所定量ずつ混ぜ合わせマヨネーズソースを作製した。得られたマヨネーズソースは、5℃で30日間保存後、風味を評価し、その結果は表8に示した。
【0070】
【表8】

【0071】
(比較例13) マヨネーズソース評価
比較例8で得られた単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2を遠心分離して上澄みを除去し、ペースト状にした。得られたペースト状の単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2を用いた以外は、実施例11と同様にしてマヨネーズソースを作製した。得られたマヨネーズソースの評価を実施例11と同様にして行い、その結果を表8に示した。なお、単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2は、単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1と乾燥重量に換算した時同量になるように添加量を調整した。
【0072】
単細胞化植物食品素材(柚子果皮)1を用いたマヨネーズソースは非常にフレッシュで良好な風味を呈していた。一方、単細胞化植物食品素材(柚子果皮)2を用いたマヨネーズソースの風味は弱く感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の状態の植物食品素材を、凍結解凍やブランチングすることなく酵素液に浸漬し、吸引圧力1〜7.5kPaで減圧した状態で放置した後常圧に放置することを2回以上繰り返すことを特徴とする単細胞化植物食品素材の製造方法。
【請求項2】
植物食品素材が、葉菜類又は果実類である請求項1に記載の単細胞化植物食品素材の製造方法。
【請求項3】
果実類が、仁果類、核果類、液果類、小果樹類より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の単細胞化植物食品素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の製造方法により得られた単細胞化植物食品素材を用いてなる食品。

【公開番号】特開2010−130984(P2010−130984A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312269(P2008−312269)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】