説明

単結晶の育成方法

【課題】 要求に応じて種結晶の長さ(種結晶端面の高さ位置)を調節することが可能であり、種結晶の全体が溶融してしまうことを十分に防止でき、単結晶を容易に育成することが可能な単結晶の育成方法を提供する。
【解決手段】 種結晶Sを収容するための種結晶収容部と単結晶原料Mを収容するための原料収容部とを有するルツボを用い、前記単結晶原料を前記ルツボ中で溶融した後、冷却することで前記種結晶の結晶面に沿って単結晶を育成する単結晶の育成方法であって、 前記種結晶収容部に収容する種結晶を2以上とし、当該種結晶を同一の結晶方位となるように接触させることを特徴とする単結晶の育成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化カルシウム等の単結晶原料を溶融した後、冷却することにより単結晶を育成する単結晶の育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ化カルシウムを溶融した後、冷却することにより単結晶を育成する垂直ブリッジマン法による単結晶の育成方法において、種結晶の結晶面に沿ってフッ化カルシウムを単結晶に育成する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ここで、単結晶の育成に用いられるルツボは、フッ化カルシウムの原料が投入される大径の原料収容部と、フッ化カルシウムの種結晶が収容される小径の種結晶収容部とがテーパ状のコーン面を介し連続して形成されている。
【0004】
上記ルツボを用いてフッ化カルシウムの単結晶を育成する際には、種結晶収容部に種結晶、原料収納部にフッ化カルシウムの原料をそれぞれ収容したルツボを結晶成長炉内に配置し、結晶成長炉内を真空にすると共に温度勾配を形成し、ルツボを昇降させて種結晶の一部及び原料を溶融した後、冷却することにより単結晶が育成される。
【0005】
【特許文献1】特開平10−265296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような単結晶の育成方法では、種結晶収容部に収容された種結晶が全て溶融することなく、その一部が溶融するように調節する必要がある。そのため、使用する種結晶には、種結晶収容部の長さ(高さ)方向に生じている温度勾配により、種結晶が一部溶融した状態を形成することができる十分な長さが要求されている。
【0007】
しかしながら、種結晶は、予め製造した単結晶から所定の寸法及び形状に切り出すことで得られるものであり、切り出し時に割れが発生しやすいなど加工が難しいため、上述のように十分な長さを有する種結晶を製造するのは非常に困難であった。
【0008】
また、上記の事情により長さの不十分な種結晶を用いて単結晶の育成を行った場合には、種結晶の全体が溶融しやすく、目的の結晶方位の単結晶を得ることが困難になるという問題が生じていた。
【0009】
更に、種結晶は、上述のように所定の長さに切り出されているため、要求に応じて(例えば、ルツボの種結晶収容部の長さを変動させた場合等)種結晶の長さ(種結晶を種結晶収容部に収容した時の種結晶端面の高さ位置)を調節することが困難であるという問題があった。
【0010】
また、近年、レンズ材料等の用途において、フッ化カルシウム等の単結晶に要求される結晶サイズが大型化している。しかしながら、上述したように、十分な長さを有する種結晶を得ることは容易ではなく、長さが不十分な種結晶を用いた場合には、種結晶が一部溶融した状態で単結晶を育成することが困難であり、要求に応じて種結晶の長さ(種結晶端面の高さ位置)を調節することも困難であるために、従来の単結晶の育成方法では、特に大型の単結晶を育成することが非常に困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、要求に応じて種結晶の長さ(種結晶端面の高さ位置)を調節することが可能であり、種結晶の全体が溶融してしまうことを十分に防止でき、単結晶を容易に育成することが可能な単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、単結晶を育成する際に、所定の条件で複数の種結晶を用いることによって上記目的を達成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、種結晶を収容するための種結晶収容部と単結晶原料を収容するための原料収容部とを有するルツボを用い、前記単結晶原料を前記ルツボ中で溶融した後、冷却することで前記種結晶の結晶面に沿って単結晶を育成する単結晶の育成方法であって、前記種結晶収容部に収容する種結晶を2以上とし、当該種結晶を同一の結晶方位となるように接触させることを特徴とする単結晶の育成方法を提供する。
【0014】
かかる単結晶の育成方法によれば、1つの種結晶としては十分な長さを有していなくとも、2つ以上の種結晶を同一の結晶方位となるように(すなわち、全体として単一の結晶方位となるように)接触させることによって、全体として十分な長さを得ることができる。また、種結晶の数を増減させることが可能であるため、ルツボに対応させる等の要求に応じて、種結晶全体としての長さ(種結晶端面の高さ位置)を容易に調節することが可能となる。したがって、種結晶をより適切な高さまで種結晶収容部に収容した状態で単結晶の育成を行うことができ、種結晶の全体が溶融することを十分に防止し、目的の結晶方位の単結晶を容易に育成することが可能となる。
【0015】
更に、上記単結晶の育成方法によれば、単独で十分な長さを有する種結晶を製造する必要がないため、種結晶の加工が容易であり、歩留まりを向上し、種結晶の製造に要するコストを低減することが可能となる。
【0016】
また、1つの種結晶としては、従来使用していた種結晶よりも長さを短くすることができるため、取り扱いが容易となり、ルツボの種結晶収容部への収容が容易となる。
【0017】
更にまた、上記単結晶の育成方法によれば、2以上の種結晶が全て同一の結晶方位となるように種結晶収容部に収容されているため、1つの種結晶を単独で用いて単結晶を育成した場合と同等の、多結晶等が十分に低減された単結晶を得ることができる。
【0018】
また、本発明の単結晶の育成方法において、種結晶は、全体として柱状をなし、且つ、平坦な端面を有していることが好ましく、全体として円柱状をなしていることがより好ましく、種結晶収容部に収容する2以上の種結晶において、隣り合う2つの種結晶を端面同士で接触させることが好ましい。
【0019】
種結晶として、上記の形状のものを採用し、その端面同士を接触させることにより、上述した本発明の単結晶の育成方法によって得られる効果をより十分に得ることができる。特に、隣り合う種結晶が平坦な端面同士で接触することにより、密着性が向上し、2以上の種結晶の結晶方位のずれの発生、及び、隣り合う種結晶同士の間に不純物が混入することを防止することができ、多結晶等の発生が十分に低減された単結晶を育成することが可能となる。ここで、柱状の単結晶としては、角柱状や円柱状等のものが挙げられ、通常、ルツボの種結晶収容部の形状に合致する形状のものが用いられる。特に、円柱状の種結晶を採用することにより、種結晶の角部を少なくすることができるため、欠けの発生や不純物の発生を低減することができる。更に、柱状、特に円柱状の種結晶は、もととなる単結晶からの種結晶の切り出し加工が容易となる。
【0020】
また、本発明の単結晶の育成方法において、隣り合う2つの種結晶のうち少なくとも一方は、他方と接触する端面側の周縁部が面取りされていることが好ましく、いずれの種結晶も、端面の周縁部が面取りされていることがより好ましい。
【0021】
種結晶を種結晶収容部に収容する際には、種結晶の角部、例えば種結晶の端面の周縁部が種結晶収容部の壁面と接触(衝突)することにより、欠けの発生や、種結晶収容部の壁面が削られてルツボ材料の粉末が不純物として生じるといった問題が起こりやすい。そして、これらの問題に起因して、育成する単結晶に多結晶等が発生しやすい。
【0022】
しかし、上述したように、種結晶の端面の周縁部が面取りされていることによって、種結晶の欠けの発生や種結晶収容部の壁面が削られることによる不純物の発生を低減することができる。また、隣り合う種結晶の端面同士を接触させて種結晶収容部に収容した時に、端面の周縁部が面取りされていることにより、その分の隙間が生じることとなり、不純物が種結晶収容部内に入り込んだとしても、上記の隙間に不純物が溜まり、接触する種結晶同士の間に不純物が入り込むことが防止される。そのため、多結晶等が十分に低減された目的の結晶方位を有する単結晶を容易に育成することが可能となる。
【0023】
ここで、上記の面取りは、例えば、機械加工によって容易に行うことができる。面取りの形状は、曲面や平面などがあるが、いずれの形状でもよい。また、面取りの範囲は、種結晶の直径の1/10以下であることが好ましい。
【0024】
また、種結晶には、他の種結晶と結晶方位が同一となるように接触させるための位置決め部が設けられていてもよい。
【0025】
これにより、複数の種結晶を接触させて種結晶収容部に収容する際に、複数の種結晶の結晶方位を容易に揃えることができる。
【0026】
ここで、種結晶に設けられる位置決め部としては、例えば、種結晶の所定の箇所に設けられた切り欠き部等を採用することができる。
【0027】
更に、本発明の単結晶の育成方法においては、2以上の種結晶を、種結晶収容部の壁面が露出しないように種結晶収容部に収容することが好ましい。また、ルツボとして、原料収容部と種結晶収容部とがテーパ状のコーン面を介して連続して形成されているものを用い、2以上の種結晶を、種結晶収容部の底部を基準として、種結晶収容部の壁面とコーン面との境界位置の高さをH、コーン面と原料収容部の壁面との境界位置の高さをH、収容時の2以上の種結晶の最上位位置の高さをHとした場合に、下記式:
−3≦{(H−H)/(H−H)}×100≦10
の条件を満たすように種結晶収容部に収容することが好ましい。
【0028】
ここで、種結晶収容部の壁面は、当該壁面と原料収容部の底面又はコーン面との境界部分が曲面(凸曲面)で形成されていたり、面取りされていたりする場合、この曲面部分や面取り部分を除いた部分を意味する。また、種結晶収容部の壁面とコーン面との境界位置とは、それぞれの面が接する位置を意味し、種結晶収容部の壁面とコーン面との境界部分が曲面(凸曲面)で形成されている場合には、壁面を延長した面とコーン面を延長した面とが交わる位置を意味する。同様に、コーン面と原料収容部の壁面との境界位置とは、それぞれの面が接する位置を意味し、コーン面と原料収容部の壁面との境界部分が曲面(凹曲面)で形成されている場合には、コーン面を延長した面と壁面を延長した面とが交わる位置を意味する。
【0029】
このようにして2以上の種結晶を種結晶収容部に収容することにより、種結晶収容部内に不純物(例えば、ルツボ材料の粉末等)が混入すること、及び、最も上に収容される種結晶上に不純物が堆積することを防止することができる。特に、種結晶上に不純物が堆積した場合には、この種結晶近傍で多結晶等が発生しやすくなるという問題が生じるが、上記のように2以上の種結晶を収容することで、種結晶上への不純物の堆積を防止し、多結晶等の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、要求に応じて種結晶の長さ(種結晶端面の高さ位置)を調節することが可能であり、種結晶の全体が溶融してしまうことを十分に防止でき、多結晶等が十分に低減された単結晶を容易に育成することが可能な単結晶の育成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本実施形態では、種結晶として、円柱状で且つ平坦な端面を有する種結晶を2つ使用する場合について説明する。また、種結晶がフッ化カルシウムからなるものとして説明する。参照する図面において、図1は本発明の一実施形態において用いられるルツボを備えた真空VB炉の概略構造を示す模式図、図2は図1に示したルツボの構造を示す断面図、図3は、図1の種結晶収容部近傍を示す拡大図である。
【0032】
本発明の単結晶の育成方法において、単結晶の育成は、垂直ブリッジマン(以下、VBと略記する)法等により行われ、例えば、図1に示すルツボを備えた真空VB炉を用いて行われる。
【0033】
図1に示すように、本発明において用いられるルツボ1は、VB法による単結晶育成装置としての真空VB炉2内において、ヒータ2Aの内側に配置され、シャフト2Bを介して極微速度で昇降されることにより、フッ化カルシウム(CaF)の原料Mを溶融した後、冷却し、これをフッ化カルシウム(CaF)の単結晶からなる2つの種結晶(シード)Sの例えば(1,1,1)方位の結晶面に沿って単結晶に育成するためのものである。
【0034】
真空VB炉2の内部は、真空ポンプ2Cによって減圧され、ヒータ2Aによって加熱される。このヒータ2Aの加熱によって種結晶Sの全体が溶融するのを防止するため、真空VB炉2のシャフト2Bは、冷却水循環路を構成するように構成されている。
【0035】
すなわち、シャフト2Bは、内管2B1の上端が外管2B2の上端より後退した2重管で構成されており、その上端部にはキャップ状の伝熱部材2Dが嵌合固定されている。そして、この伝熱部材2Dが後述するルツボ1の底部材1Cの中央部に接続されることにより、種結晶Sの下部を強制冷却するように構成されている。
【0036】
ここで、図2に示すように、本実施形態のルツボ1は、ルツボ本体1Aと、ルツボ本体1Aの開口部を覆う蓋部材1Bと、ルツボ本体1Bの下部に固定される底部材1Cとを備えて構成されている。ルツボ本体1Aは、耐熱性があり、かつ、内面の平滑度を高められる材料として、高純度カーボン材(C)で構成されており、その内面が光沢を有するガラス状カーボン(GC)でコーティングされている。
【0037】
ルツボ本体1Aには、フッ化カルシウム(CaF)の原料M(図1参照)が収容される原料収容部1Dが形成されている。原料収容部1Dは、円柱状の壁面1Hと、壁面1Hの底部材1C側に連続して形成される凹曲面1Jと、凹曲面1Jの底部材1C側に連続して形成されるテーパ状(ロート状)のコーン面1Fとを有している。従って、コーン面1Fは原料収容部1Dの底を構成する。
【0038】
また、ルツボ本体1Aから底部材1Cに亘ってその中心部には、円柱状の2つの種結晶S(図1参照)を収容する種結晶収容部1Eが形成されている。種結晶収容部1Eは、平坦な底面と、底面に連続し底面に垂直な円柱状の壁面1Kとを有しており、壁面1Kの径は、種結晶Sの直径とほぼ一致している。なお、種結晶収容部の壁面1Kは、原料収容部1Dの壁面1Hよりも小径となっている。
【0039】
また、コーン面1Fと種結晶収容部1Eの壁面1Kとの境界部分には凸曲面1Lが形成され、この凸曲面1Lを介してコーン面1Fと種結晶収容部1Eの壁面1Kとが滑らかに連続している。
【0040】
一方、蓋部材1Bおよび底部材1Cも耐熱性のある高純度カーボン材で構成されている。そして、底部材1Cの下面中央部には、真空VB炉2のシャフト2Bの上端部に固定された伝熱部材2D(図1参照)を嵌合固定するための接続筒部1C1が突設されている。
【0041】
上記ルツボ1において、コーン面1Fのコーン角度θが小さ過ぎると、原料収容部1D内で育成されるフッ化カルシウム(CaF)の結晶内に残留応力や歪みが発生し、これに起因して多結晶等が発生し易い。一方、コーン面1Fのコーン角度θが大き過ぎると、フッ化カルシウム(CaF)の単結晶の育成が阻害され易い。そこで、コーン面1Fのコーン角度θは、95°〜150°であることが好ましく、これらの範囲のうち120°〜130°であることがより好ましい。
【0042】
また、凹曲面1Jおよび凸曲面1Lは、曲率半径が小さ過ぎて角張っていると、原料収容部1D内で溶融されたフッ化カルシウム(CaF)が冷却により結晶化する際、角張った凹曲面1Jおよび凸曲面1Lの部分が核となって多結晶等が発生し易い。加えて、フッ化カルシウム(CaF)が冷却により収縮する際、これらの角張った凹曲面1Jおよび凸曲面1Lにフッ化カルシウム(CaF)が付着して結晶内に残留応力や歪みが発生し、これに起因して多結晶等が発生し易い。
【0043】
そこで、凹曲面1Jおよび凸曲面1Lの曲率半径は、原料収容部1Dの壁面1H間の内径(例えば250mm)の1/10以上の大きな曲率半径に設定されている。例えば、凹曲面1Jの曲率半径は60mm程度に設定され、凸曲面1Lの曲率半径は50mm程度に設定されている。
【0044】
さらに、原料収容部1Dの壁面1Hやコーン面1Fなどの表面粗さが粗いと、原料収容部1D内で溶融されたフッ化カルシウム(CaF)が冷却により結晶化する際、壁面1Hやコーン面1Fなどの微小な凹凸が核となって多結晶等が発生し易い。加えて、フッ化カルシウム(CaF)が冷却により収縮する際、壁面1Hやコーン面1Fにフッ化カルシウム(CaF)が付着して結晶内に残留応力や歪みが発生し、これに起因して多結晶等が発生し易い。
【0045】
そこで、上記ルツボ1において、ルツボ本体1Aの原料収容部1Dの壁面1Hから凹曲面1J、コーン面1F、凸曲面1Lを経て種結晶収容部1Eの壁面1Kにわたるルツボ内面は、例えば、最大高さ法による表面粗さがRmax3.2s以下に仕上げられている。すなわち、高純度カーボン材(C)からなるルツボ本体1Aの内面が例えばRmax6.4s程度に仕上げられており、その表面がガラス状カーボン(GC)によりコーティングされてRmax3.2s程度に仕上げられている。
【0046】
そして、このようにRmax3.2s以下の表面粗さを有するガラス状カーボン(GC)で構成されたルツボ内面は、水滴との接触角が少なくとも100°以下の例えば90°となっている。
【0047】
本発明の単結晶の育成方法は、上記ルツボ1を用いて、図3に示すように、種結晶収容部1Eに、2つの種結晶Sを同一の結晶方位となるように端面同士を接触させて収容することを特徴とする方法である。
【0048】
すなわち、ルツボ1の蓋部材1Bを取り外して、種結晶収容部1Eにフッ化カルシウムからなる2つの種結晶Sを、同一の結晶方位となるように端面同士を接触させて収容する。ここで、2つの種結晶Sとしては、それぞれ形状が円柱状であってその端面が平坦である同一形状のものであり、その直径が種結晶収容部1Eの壁面1Kの径とほぼ一致したものを用いる。そして、この2つの種結晶Sを、結晶方位を揃えて接触させ、その接触状態を維持したまま種結晶収容部1Eに収容する。ここで、2つの種結晶Sは、いずれも端面の周縁部が面取りされている。
【0049】
また、種結晶収容部1Eに2つの種結晶Sを収容した状態で、種結晶収容部1Eの壁面1Kが原料収容部に向けて露出していない状態となっている。
【0050】
更に、種結晶収容部1Eの底部1Nを基準としたときの、2つの種結晶Sの最上位位置である端面S1(種結晶収容部1Eの底部1Nから最も遠い側の面)の高さHは、種結晶収容部1Eの壁面1Kとコーン面1Fとの境界位置P1の高さをH、コーン面1Fと原料収容部1Dの壁面1Hとの境界位置P2の高さをHとして、下記式:
−3≦{(H−H)/(H−H)}×100≦10
の条件を満たしている。なお、端面S1の高さHは、下記式:
−1≦{(H−H)/(H−H)}×100≦5
の条件を満たしていることがより好ましく、下記式:
0≦{(H−H)/(H−H)}×100≦3
の条件を満たしていることが特に好ましい。これにより、種結晶収容部内への不純物の混入、及び、最も上に位置する種結晶Sの端面S1上への不純物の堆積を防止することができ、多結晶等の発生を防止することができる。なお、{(H−H)/(H−H)}×100の値が上記範囲の上限値を超える場合にも多結晶等の発生は防止されるが、上限値以下とすることで十分な効果が得られるとともに、コストを低減することができる。
【0051】
以上のように2つの種結晶Sを種結晶収容部1Eに収容した後は、フッ化カルシウムの原料Mを原料収容部1Dに収容する。
【0052】
続いて、蓋部材1Bでルツボ本体1Aの原料収容部1Dを閉じる。
【0053】
次に、真空VB炉2内を真空ポンプ2Cによって10−4Pa以下に減圧し、ヒータ2Aを1400〜1500℃前後に加熱する。そして、シャフト2Bにより10mm/h程度の微速度でルツボ1を上昇させ、10時間ほど上昇位置に保持する。その際、種結晶Sの全体が溶融すると、目的の結晶方位の単結晶を得ることが困難になるため、シャフト2B内を内管2B1から外管2B2へ循環する冷却水により伝熱部材2Dを介して種結晶Sの下部を強制冷却する。
【0054】
フッ化カルシウムの原料Mを溶融した後は、ルツボ1を、シャフト2Bにより1.5mm/h以下の例えば1.0mm/h程度の極微速度で下降させ、5時間ほど真空VB炉2内の下降位置に保持する。これにより、溶融したフッ化カルシウム(CaF)の原料Mを冷却して種結晶Sの例えば(1,1,1)方位の結晶面に沿って単結晶に育成する。
【0055】
その後、ルツボ1内のフッ化カルシウム(CaF)は、クエンチ(熱衝撃による割れ)を防止するため、真空VB炉2のヒータ2Aをオン・オフ制御することにより、70℃/h以下の例えば30℃/h程度の冷却速度で冷却される。
【0056】
ここで、ルツボ1においては、ルツボ本体1Aの原料収容部1Dの壁面1Hから凹曲面1J、コーン面1F、凸曲面1Lを経て種結晶収容部1Eの壁面1Kにわたるルツボ内面が例えばRmax3.2s程度の平滑面に仕上げられている。このため、原料収容部1D内で溶融されたフッ化カルシウム(CaF)が冷却により種結晶Sの(1,1,1)方位の結晶面に沿って結晶化する際、多結晶の原因となる核がルツボ内面に発生するのが抑制される。
【0057】
また、フッ化カルシウム(CaF)が冷却により収縮する際にルツボ内面から容易に離れるため、フッ化カルシウム(CaF)の結晶内に残留応力や歪みが発生するのが抑制される。その結果、フッ化カルシウム(CaF)の単結晶が容易に育成される。
【0058】
また、ルツボ1内のフッ化カルシウム(CaF)は、70℃/h以下の例えば30℃/h程度の冷却速度で冷却されるため、クエンチ(熱衝撃による割れ)が防止されて良好な単結晶に育成される。
【0059】
加えて、溶融したフッ化カルシウム(CaF)を冷却して単結晶に育成するためにルツボ1を極微速度で下降させる速度、すなわち育成速度が1.5mm/h以下の例えば1.0mm/h程度とされているため、育成される単結晶の結晶方位は、安定した結晶方位を有する単結晶を育成することができる。なお、育成速度を1.5mm/h以上の例えば2mm/hとした場合には、結晶方位が分散してしまうため、安定した結晶方位を有する単結晶を育成することが困難である。
【0060】
以上、本発明の単結晶の育成方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ルツボ1の種結晶収容部1Eの壁面1Kが円柱状となっているが、壁面1Kの形状は、角柱状の種結晶を収容する場合には角柱状であってもよい。
【0061】
また、種結晶収容部1Eの底面は平坦面となっているが、本発明の種結晶収容部の底面は平坦面に限られるものではなく、円錐状であってもよい。但し、種結晶収容部の底面に接する種結晶Sの底部を十分に冷却して、種結晶Sの全てが溶融することを防止するために、種結晶収容部の底面は、種結晶Sの底部と合致した形状とし、種結晶Sの底部と種結晶収容部1Eの底面との間の空隙を十分に小さくすることが好ましい。
【0062】
更に、2つの種結晶Sには、それぞれ位置決め部が設けられていてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、種結晶Sを2つ用いる場合について説明したが、種結晶Sの数は2以上であれば特に制限されない。必要に応じて用いる種結晶Sの数を増減させることで、最も上に収容される種結晶Sの端面S1の位置を適宜調節することができる。なお、種結晶Sの数が2つであると、隣り合う種結晶S同士の間にカーボン粉等の不純物が混入する可能性を低減でき、多結晶等の発生がより十分に防止されるという利点があり、一方、種結晶Sの数を3つ以上に増やしていくと、1つ当たりの種結晶Sの長さを短くすることができるため、種結晶Sの製造が容易になるという利点がある。なお、2以上の種結晶Sの形状や長さは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0064】
更に、上記実施形態では、種結晶がフッ化カルシウムである場合について説明しているが、本発明の単結晶の育成方法は、種結晶がフッ化カルシウム以外の他の材料(例えば、フッ化バリウムやフッ化マグネシウム等の光学部品材料)である場合にも、適用可能である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
まず図1に示すルツボ1を用意した。ルツボ本体1A、蓋部材1B及び底部材1Cは全て高純度カーボン(日本カーボン製高純度カーボン)で構成した。種結晶収容部1Eの壁面1Kは円柱状とし、その内径は20mm、長さは18cmとした。また種結晶収容部1Eの底面は壁面1Kに垂直な平坦面とした。また原料収容部の壁面も円柱状とし、その内径は250mmとした。凹曲面1Jの曲率半径は60mmとし、凸曲面の曲率半径は50mmとした。更に原料収容部1Dの内面、種結晶収容部の内面(壁面)には、含浸層厚さ1.0mmのガラス状カーボン(日清紡製ガラス状カーボンコート)をコーティングし、水滴との接触角が90°となるようにした。
【0067】
このルツボ1において、蓋部材1Bを取り外し、ルツボ1の種結晶収容部1Eに、直径19mm、長さ9.2cmの円柱状で両端面が平坦である種結晶Sを2個、同一の結晶方位となるように端面同士を接触させて収容した。ここで、用いる種結晶Sは、材質がフッ化カルシウムであり、種結晶Sの両端面の周縁部が1mmで平面の面取りがされているものとした。
【0068】
また、ルツボ1の種結晶収容部1Eに種結晶Sを収容した時、種結晶収容部1Eの壁面1Kは原料収容部に向けて露出しておらず、端面S1の高さHと、境界位置P1の高さHと、境界位置P2の高さHとの関係は、{(H−H)/(H−H)}×100の値が8となる関係であった。
【0069】
次いで、フッ化カルシウムの原料Mを原料収容部1Dに収容した。続いて、蓋部材1Bでルツボ本体1Aの原料収容部1Dを閉じた。
【0070】
次に、真空VB炉2内を10−4Pa以下に減圧し、ヒータ2Aを1400〜1500℃前後に加熱し、シャフト2Bにより10mm/h程度の微速度でルツボ1を上昇させ、10時間ほど上昇位置に保持した。その際、シャフト2B内を内管2B1から外管2B2へ循環する冷却水により伝熱部材2Dを介して種結晶Sの下部を強制冷却した。
【0071】
フッ化カルシウムの原料Mを溶融した後は、ルツボ1を、シャフト2Bにより1.0mm/h程度の極微速度で下降させ、5時間ほど真空VB炉2内の下降位置に保持した。こうして、溶融したフッ化カルシウム(CaF)の原料Mを冷却して種結晶Sの(1,1,1)方位の結晶面に沿って単結晶に育成した。
【0072】
その後、ルツボ1内の単結晶は、真空VB炉2のヒータ2Aをオン・オフ制御することにより30℃/h程度の冷却速度で冷却した。
【0073】
〔結晶品質の評価〕
実施例1で得られたフッ化カルシウムの単結晶について、Edmund Industrial Optics社製Polar Film(色:グレー、面積:15インチ×8.5インチ、厚さ:0.29mm)を2枚用いてフィルム面同士が平行になるように設置し、そのフィルム間に結晶を入れて、一方のフィルムの外側に光源を配置し、他方のフィルムの外側から結晶を観察し、結晶の角度や位置を変えて単結晶でない部分を多結晶体として計測した。最終的に多結晶部分の体積を計算し、結晶全体体積と多結晶体積の比率を多結晶体の発生率とした。その結果、実施例1の単結晶においては多結晶体の発生率は10%以下であった。このことから、実施例1では、良好な結晶品質の単結晶が得られていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態において用いられるルツボを備えた真空VB炉の概略構造を示す模式図である。
【図2】図1に示したルツボの構造を示す断面図である。
【図3】図1の種結晶収容部近傍を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0075】
1…ルツボ、1A…ルツボ本体、1B…蓋部材、1C…底部材、1D…原料収容部、1E…種結晶収容部、1F…コーン面、1H…原料収容部の壁面、1J…凹曲面、1K…種結晶収容部の壁面、1L…凸曲面、1N…底面、2…真空VB炉、2A…ヒータ、2B…シャフト、2C…真空ポンプ、2D…伝熱部材、M…フッ化カルシウム(CaF)の原料、S…フッ化カルシウム(CaF)の種結晶、S1…種結晶の端面。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶を収容するための種結晶収容部と単結晶原料を収容するための原料収容部とを有するルツボを用い、前記単結晶原料を前記ルツボ中で溶融した後、冷却することで前記種結晶の結晶面に沿って単結晶を育成する単結晶の育成方法であって、
前記種結晶収容部に収容する種結晶を2以上とし、当該種結晶を同一の結晶方位となるように接触させることを特徴とする単結晶の育成方法。
【請求項2】
前記種結晶は、全体として柱状をなし、且つ、平坦な端面を有しており、
前記種結晶収容部に収容する2以上の種結晶において、隣り合う2つの種結晶を端面同士で接触させることを特徴とする請求項1記載の単結晶の育成方法。
【請求項3】
前記種結晶は、全体として円柱状をなしていることを特徴とする請求項2記載の単結晶の育成方法。
【請求項4】
隣り合う2つの種結晶のうち少なくとも一方は、他方と接触する端面側の周縁部が面取りされていることを特徴とする請求項2又は3記載の単結晶の育成方法。
【請求項5】
前記種結晶は、端面の周縁部が面取りされていることを特徴とする請求項2又は3記載の単結晶の育成方法。
【請求項6】
前記種結晶には、他の種結晶と結晶方位が同一となるように接触させるための位置決め部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項7】
2以上の種結晶を、前記種結晶収容部の壁面が露出しないように前記種結晶収容部に収容することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。
【請求項8】
前記ルツボとして、前記原料収容部と前記種結晶収容部とがテーパ状のコーン面を介して連続して形成されているものを用い、
2以上の種結晶を、前記種結晶収容部の底部を基準として、前記種結晶収容部の壁面と前記コーン面との境界位置の高さをH、前記コーン面と前記原料収容部の壁面との境界位置の高さをH、収容時の2以上の種結晶の最上位位置の高さをHとした場合に、下記式:
−3≦{(H−H)/(H−H)}×100≦10
の条件を満たすように前記種結晶収容部に収容することを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の単結晶の育成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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