説明

単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼ

【課題】双晶欠陥の発生を十分に抑制することが可能な単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼを提供する。
【解決手段】単結晶の製造方法は、るつぼ1内に種結晶を配置する工程と、るつぼ1内の種結晶上に原料を配置する工程と、るつぼ1内の原料上に封止剤を配置する工程と、原料を溶融させた後、凝固させることにより、種結晶上に単結晶を成長させる工程とを備えている。るつぼ1の内面には、深さ方向に延在する溝部13が形成されている。そして、種結晶を配置する工程では、種結晶が、単結晶のファセットの発生方向に溝部13が位置するようにるつぼ1内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼに関し、より特定的には、双晶欠陥の発生を抑制することが可能な単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼに関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶の製造においては、VB(Vertical Bridgman)法やVGF(Vertical Gradient Freeze)法など、るつぼ内において原料を溶融させ、これを当該るつぼ内において凝固させることにより単結晶を製造する方法が採用される場合がある。このような単結晶の製造方法は、他の製造方法である引き上げ法に比べて、大口径の単結晶の製造において転位密度を容易に抑制できるという利点がある。一方、上記VB法やVGF法などの製造方法においては、双晶欠陥が発生しやすいという問題がある。
【0003】
これに対し、成長結晶のファセット発生方向に対応するるつぼの側壁を、るつぼの深さ方向に垂直な円形断面から内側に凹ませた(すなわち内壁を内側に突出させた)るつぼを使用することにより、双晶欠陥の発生を抑制する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−295887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に記載の方法によれば、双晶欠陥の抑制について一定の効果が得られる。しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、双晶欠陥の発生を抑制する効果が必ずしも十分であるとはいえなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、双晶欠陥の発生を十分に抑制することが可能な単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った単結晶の製造方法は、るつぼ内に種結晶を配置する工程と、るつぼ内の種結晶上に原料を配置する工程と、るつぼ内の原料上に封止剤を配置する工程と、上記原料を溶融させた後、凝固させることにより、種結晶上に単結晶を成長させる工程とを備えている。上記るつぼの内面には、深さ方向に延在する溝部が形成されている。そして、種結晶を配置する工程では、種結晶が、単結晶のファセットの発生方向に溝部が位置するようにるつぼ内に配置される。
【0008】
本発明者は、上記特許文献1に記載の単結晶の製造方法において、双晶欠陥が発生する原因について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を得て、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、上記特許文献1に記載の単結晶の製造方法では、成長結晶のファセット発生方向に対応するるつぼの内壁を内側に突出させることにより、成長結晶のファセット面を小さくし、双晶の発生を抑制している。しかし、このようなるつぼ内に、下から順に種結晶、原料および封止剤を積層させた場合、上記るつぼの突出部と原料との隙間が小さくなる。そのため、原料および封止剤を溶融させる際、原料よりも低温で溶融して原料を覆うべき封止剤が当該隙間に流れ込みにくくなる。その結果、成長結晶のファセット発生方向に対応する領域において原料が封止剤によって十分に覆われない状態となり、双晶欠陥発生の原因となる。
【0010】
また、上記特許文献1に記載の単結晶の製造方法では、成長結晶のファセット発生方向に対応するるつぼの側壁と原料との隙間が小さくなるため、原料投入時に原料がるつぼに接触し、成長結晶のファセット発生方向に対応するるつぼの側壁に損傷が発生する場合がある。この場合、当該損傷の存在に起因して、双晶欠陥が発生する。
【0011】
これに対し、本発明の単結晶の製造方法では、内面に溝部が形成されたるつぼが用いられ、種結晶が、単結晶のファセットの発生方向に溝部が位置するようにるつぼ内に配置される。そのため、ファセット発生方向において原料とるつぼとの隙間が大きくなり、溶融した封止剤がファセット発生方向において原料をより確実に被覆する。その結果、双晶欠陥の発生が抑制される。つまり、特許文献1に記載の単結晶の製造方法では、成長結晶のファセット面を小さくすることにより双晶欠陥の発生を抑制するのに対し、本発明ではファセット発生方向において原料を確実に被覆することにより、双晶欠陥の発生を抑制する。また、本発明の単結晶の製造方法では、ファセット発生方向において原料とるつぼとの隙間が大きくなるため、原料投入時におけるるつぼの損傷も抑制される。
【0012】
以上のように、本発明の単結晶の製造方法によれば、双晶欠陥の発生を十分に抑制することが可能な単結晶の製造方法を提供することができる。
【0013】
上記単結晶の製造方法においては、上記単結晶は、IV族半導体、III−V族化合物半導体およびII−VI族化合物半導体からなる群から選択されるいずれかの半導体の単結晶であってもよい。これらの半導体の単結晶においては、双晶欠陥の低減が重要であるため、本発明の単結晶の製造方法の採用に適している。
【0014】
上記単結晶の製造方法においては、種結晶を配置する工程では、種結晶の<100>方向がるつぼの深さ方向と一致するとともに、平面的に見て、<100>方向に垂直な種結晶の<110>方向に溝部が位置するように種結晶が配置されてもよい。
【0015】
種結晶の<100>方向がるつぼの深さ方向と一致するように種結晶が配置されると、平面的に見て、<100>方向に垂直な種結晶の<110>方向にファセットが形成される。そのため、平面的に見て、<100>方向に垂直な種結晶の<110>方向に溝部が位置するように種結晶を配置することにより、双晶欠陥の発生を有効に抑制することができる。
【0016】
上記単結晶の製造方法においては、るつぼの深さ方向に垂直な断面において、溝部の周方向両端を結ぶ線分の中点とるつぼの中心軸とを通る直線が、上記単結晶のファセットの発生方向に対してなす角は15°以内であってもよい。これにより、双晶欠陥の発生をより確実に抑制することができる。
【0017】
上記単結晶の製造方法においては、上記るつぼは、種結晶を保持する種結晶保持部と、種結晶保持部上に接続され、原料を保持するとともに単結晶を成長させる単結晶成長部とを備え、単結晶成長部は、軸方向小径側において種結晶保持部に接続された円錐状の形状を有する円錐部と、円錐部の軸方向大径側に接続され、円筒状の形状を有する直胴部とを含み、単結晶成長部には上記溝部が形成されていてもよい。この場合、上記るつぼの深さ方向に垂直な断面において、溝部の周方向両端を結ぶ線分の長さをL、単結晶成長部において溝部が形成されていない領域の内径をDとすると、D/20≦L≦2D/3の関係が満たされていてもよい。これにより、双晶欠陥の発生をより確実に抑制することができる。
【0018】
本発明に従った単結晶製造用るつぼは、内部に原料および封止剤を配置した上で、原料を溶融させた後、凝固させることにより、単結晶を成長させるための単結晶製造用るつぼである。このるつぼは、単結晶の種結晶を保持する種結晶保持部と、種結晶保持部上に接続され、原料を保持するとともに単結晶を成長させる単結晶成長部とを備えている。そして、単結晶成長部には、深さ方向に延在する溝部が形成されている。
【0019】
本発明の単結晶製造用るつぼの単結晶成長部には、深さ方向に延在する溝部が形成されている。そのため、種結晶保持部に、単結晶のファセットの発生方向に溝部が位置するように種結晶を配置することによって、ファセット発生方向における原料とるつぼとの隙間を大きくすることができる。これにより、溶融した封止剤がファセット発生方向において原料をより確実に被覆し、双晶欠陥の発生を抑制することができる。また、ファセット発生方向において原料とるつぼとの隙間が大きくなるため、原料投入時におけるるつぼの損傷を抑制することができる。このように、本発明の単結晶製造用るつぼによれば、双晶欠陥の発生を十分に抑制することが可能な単結晶製造用るつぼを提供することができる。
【0020】
上記単結晶製造用るつぼにおいては、上記単結晶成長部は、軸方向小径側において種結晶保持部に接続された円錐状の形状を有する円錐部と、円錐部の軸方向大径側に接続され、円筒状の形状を有する直胴部とを含んでいてもよい。この場合、深さ方向に垂直な断面において、溝部の周方向両端を結ぶ線分の長さをL、単結晶成長部において溝部が形成されていない領域の内径をDとすると、D/20≦L≦2D/3の関係が満たされていてもよい。これにより、双晶欠陥の発生をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から明らかなように、本発明の単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼによれば、双晶欠陥の発生を十分に抑制することが可能な単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】るつぼの構造を示す概略図である。
【図2】単結晶の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図3】単結晶の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図4】単結晶の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図5】溝部の形状の詳細を示す概略部分断面図である。
【図6】るつぼの他の構造を示す概略図である。
【図7】るつぼのさらに他の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0024】
まず、本発明の一実施の形態における単結晶製造用るつぼについて説明する。図1を参照して、本実施の形態における単結晶製造用るつぼであるるつぼ1は、種結晶保持部11と、種結晶保持部11上に接続された単結晶成長部12とを備えている。種結晶保持部11は、単結晶成長部12に接続される側に開口し、その反対側に底壁が形成された円筒状の空洞部を有する円筒状の領域であり、当該空洞部において種結晶を保持することができる。
【0025】
単結晶成長部12は、軸方向小径側において種結晶保持部11に接続された円錐状の形状を有する円錐部12Aと、円錐部12Aの軸方向大径側に接続され、中空円筒状の形状を有する直胴部12Bとを含んでいる。単結晶成長部12は、その内部において単結晶の原料を保持するとともに、溶融状態になるように加熱された当該原料を凝固させることにより単結晶を成長させる機能を有する。そして、単結晶成長部12には、深さ方向に延在する溝部13が形成されている。より具体的には、溝部13は、単結晶成長部12の中心軸に垂直な断面において、当該中心軸とは反対側に凸形状を有するように形成されている。また、溝部13は、単結晶成長部12の中心軸に垂直な断面において、円形形状を有する内壁を周方向に4等分する位置に形成されている。なお、るつぼ1を構成する材料としては、原料溶融時の温度に耐え得る種々の材料を採用することができるが、たとえば熱分解窒化硼素(PBN)を採用することができる。
【0026】
次に、上記るつぼ1を用いて実施される本発明の一実施の形態における単結晶の製造方法について、InP(リン化インジウム)の単結晶を製造する場合を例に説明する。図2を参照して、本実施の形態における単結晶の製造方法では、まず、工程(S10)として種結晶装入工程が実施される。この工程(S10)では、図3を参照して、るつぼ1の種結晶保持部11の内部に単結晶InPの種結晶21が装入される。このとき、種結晶21は、後工程において種結晶21上に成長する単結晶のファセットの発生方向にるつぼ1の溝部13が位置するように配置される。より具体的には、たとえば種結晶21の<100>方向がるつぼ1の深さ方向(中心軸方向)と一致するとともに、平面的に見て、<100>方向に垂直な種結晶の4つの<110>方向のそれぞれに、4つの溝部13のいずれかが位置するように種結晶21が配置される。
【0027】
次に、工程(S20)として原料装入工程が実施される。この工程(S20)では、図3を参照して、たとえば多結晶InPからなる円筒状の原料22が、るつぼ1内に複数個装入され、積み重ねられる。
【0028】
次に、工程(S30)として封止剤配置工程が実施される。この工程(S30)では、たとえばB(酸化硼素)からなる封止剤23が、工程(S20)において積み重ねられた原料22上に配置される。
【0029】
次に、工程(S40)として単結晶成長工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S10)〜(S30)において種結晶21、原料22、および封止剤23が内部に配置されたるつぼ1が、結晶成長装置内に装填され、単結晶の成長が実施される。ここで、図4を参照して、本実施の形態において使用される結晶成長装置5は、高圧容器51と、高圧容器51内においてるつぼ1を保持するるつぼ保持台52と、るつぼ1を取り囲むように配置される発熱体53とを備えている。
【0030】
そして、図4を参照して、るつぼ保持台52により保持されるようにるつぼ1が高圧容器51内に装入された後、図示しない電源から発熱体53に電流が供給され、るつぼ1が加熱される。これにより、原料22上の封止剤23が溶融して液状封止剤33となるとともに、原料22が溶融して原料融液32となる。このとき、るつぼ1の軸方向において種結晶21側の温度が低く、原料融液32側の温度が高くなるように適切な温度勾配を形成すると、種結晶21に接触する原料融液32が凝固してInPからなる単結晶31が成長する。さらに、るつぼ1内の温度分布を調整することにより、具体的にはたとえばるつぼ1を軸方向下側(種結晶保持部11側)に向けて、発熱体53に対して相対的に移動させることによって、単結晶31をさらに成長させる。そして、原料融液32が完全に凝固して単結晶31となることにより、本実施の形態におけるInP単結晶の製造が完了する。
【0031】
ここで、本実施の形態におけるInP単結晶の製造方法においては、軸方向(深さ方向)に延在する溝部13が単結晶成長部12に形成されたるつぼ1が使用される。また、種結晶21は、単結晶31のファセット発生方向に溝部13が位置するように、種結晶保持部11内に配置される。したがって、ファセット発生方向において原料22とるつぼ1との隙間が大きくなる。そして、加熱が開始されると、原料22よりも融点が低く、原料22よりも先に溶融する封止剤23がファセット発生方向において原料22をより確実に被覆する。その結果、双晶欠陥の発生が抑制される。また、本実施の形態におけるInP単結晶の製造方法では、ファセット発生方向において原料22とるつぼ1との隙間が大きくなるため、原料投入時におけるるつぼの損傷も抑制され、双晶欠陥の発生が一層抑えられる。このように、本実施の形態におけるInP単結晶の製造方法によれば、双晶欠陥の発生を十分に抑制することができ、歩留まりの向上を達成することができる。
【0032】
ここで、本実施の形態におけるInP単結晶の製造方法においては、種結晶21は、単結晶31のファセット発生方向に溝部13が位置するように、種結晶保持部11内に配置される必要があるが、より詳細には以下の条件が満たされることが好ましい。図5を参照して、軸方向(深さ方向)に垂直なるつぼ1の断面において、溝部13の周方向両端を結ぶ線分αの中点Pと中心軸Oとを通る直線が、ファセット発生方向に対してなす角をθとした場合、θは15°以内であることが好ましく、10°以内であることがより好ましく、5°以内であることがさらに好ましい。
【0033】
また、図5を参照して、上記線分αの長さをL、直胴部12Bにおいて溝部13が形成されていない領域の内径をDとすると、Lの下限値に関してL≧D/20であることが好ましく、L≧D/15であることがより好ましく、L≧D/10であることがさらに好ましい。一方、Lの上限値に関してL≦2D/3であることが好ましく、L≦D/2であることがより好ましく、L≦D/3であることがさらに好ましい。さらに、線分αと、直胴部12Bにおいて溝部13が形成されていない領域の内壁の形状に沿って溝部13の周方向両端を結ぶ弧βとの距離の最大値をH、上記中点Pを通る径方向における弧βと溝部13の壁面との距離をTとした場合、H<T≦L/2−Hの関係が満たされることが好ましい。
【実施例1】
【0034】
本発明の単結晶の製造方法による双晶欠陥の抑制効果を確認する実験を行なった。まず、上記実施の形態において説明したInP単結晶の製造方法と同様の方法によりInP単結晶を製造した。具体的な製造条件は以下の通りである。
【0035】
図1〜図5を参照して、まず、単結晶InPからなる種結晶21を種結晶保持部11に配置した。このとき、種結晶21の<100>方向がるつぼ1の軸方向に一致するとともに、平面的に見て、<100>方向に垂直な種結晶の4つの<110>方向のそれぞれに、4つの溝部13のいずれかが位置するように種結晶21を配置した。ここで、るつぼ1の素材としてはPBNを採用した。また、るつぼ1の直胴部12Bの内径Dは55mmとした。さらに、溝部13は、円錐部12AにおいてL=3〜10mm、T=L/2−H、直胴部12BにおいてL=10mm、T=L/2−Hを満たす形状とした。
【0036】
そして、るつぼ1内の種結晶21上に、2kgのInP多結晶からなる原料22および0.3kgのBからなる封止剤23を図3に示すように配置した。さらに、これを図4に示す結晶成長装置5にセットし、InP単結晶を製造した(実施例)。この実施例の製造方法によるInP単結晶の製造は、同一条件で10回実施した。
【0037】
一方、比較のため、溝部13の形成を省略したるつぼ1を準備し、上記実施例と同一の条件でInP単結晶を製造した(比較例)。この比較例の製造方法によるInP単結晶の製造は、同一条件で5回実施した。
【0038】
そして、上記実施例および比較例により製造されたInP単結晶における双晶欠陥の発生の有無を調査した。その結果、上記実施例の製造方法により製造されたInP単結晶は、上記10回の製造により得られたいずれの単結晶においても、双晶欠陥の発生は認められなかった。一方、上記比較例の製造方法により製造されたInP単結晶は、上記5回の製造により得られたいずれの単結晶においても、双晶欠陥の発生が認められた。
【0039】
この結果より、本発明の単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼによれば、双晶欠陥の発生を有効に抑制することが確認された。
【0040】
なお、上記実施の形態および実施例においては、本発明の単結晶の製造方法により製造される単結晶の一例としてInPについて説明したが、本発明の単結晶の製造方法によって製造可能な単結晶はこれに限られない。本発明の単結晶の製造方法によれば、上記InPのほか、たとえばSi、Ge、GaAs、CdTeなどの単結晶を製造することができる。また、上記実施の形態および実施例においては、本発明の単結晶製造用るつぼを構成する素材としてPBNが採用される場合について説明したが、採用可能な素材はこれに限られず、たとえばグラファイト、パイロリティックグラファイト、グラッシーカーボンなどを採用することもできる。
【0041】
さらに、上記実施の形態および実施例においては、るつぼの単結晶成長部(円錐部および直胴部)の全域にわたって溝部が形成される場合について説明したが、本発明のるつぼはこのような構造に限定されるものではない。双晶欠陥は単結晶成長部の直胴部よりも円錐部において発生し易い傾向にある。そのため、図6に示すように、直胴部12Bには溝部13を形成せず、円錐部12Aのみに溝部13を形成してもよい。また、図3を参照して、単結晶の製造時において、封止剤23は原料22よりも先に溶融し、るつぼ11の直胴部12Bと原料22との隙間を通って流れ落ちることにより、原料22を被覆する。そのため、図7に示すように、円錐部12Aには溝部13を形成せず、直胴部12Bのみに溝部13を形成しても、双晶欠陥の発生を抑制する効果が得られる。さらに、図3を参照して、双晶欠陥の発生を抑制するためには、積上げられた原料22の高さに対応する領域に溝部が形成されていればよい。
【0042】
以上のように、溝部は、積上げられるべき原料の高さに対応する領域に形成されていることが好ましい。また、溝部は、円錐部および直胴部のいずれか一方のみに形成されていてもよい。さらに、溝部は、双晶欠陥の発生し易い領域に対応するように、円錐部の一部および/または直胴部の一部に形成されていてもよい。
【0043】
また、単結晶のファセットの発生方向に溝部が形成されている状態とは、ファセットの発生方向に対応するるつぼの内壁に、深さ方向に延在する凹部が形成され、ファセットの発生方向に対応するるつぼの内壁と中心軸との距離が大きくなっている状態だけでなく、ファセットの発生方向に対応しないるつぼの内壁に、深さ方向に延在する凸部が形成されことにより、相対的にファセットの発生方向に対応するるつぼの内壁と中心軸との距離が大きくなっている状態をも含む。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼは、双晶欠陥の抑制が求められる単結晶の製造方法および単結晶製造用るつぼに、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0046】
1 るつぼ、5 結晶成長装置、11 種結晶保持部、12 単結晶成長部、12A 円錐部、12B 直胴部、13 溝部、21 種結晶、22 原料、23 封止剤、31 単結晶、32 原料融液、33 液状封止剤、51 高圧容器、52 るつぼ保持台、53 発熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼ内に種結晶を配置する工程と、
前記るつぼ内の前記種結晶上に原料を配置する工程と、
前記るつぼ内の前記原料上に封止剤を配置する工程と、
前記原料を溶融させた後、凝固させることにより、前記種結晶上に単結晶を成長させる工程とを備え、
前記るつぼの内面には、深さ方向に延在する溝部が形成されており、
前記種結晶を配置する工程では、前記種結晶が、前記単結晶のファセットの発生方向に前記溝部が位置するように前記るつぼ内に配置される、単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記単結晶は、IV族半導体、III−V族化合物半導体およびII−VI族化合物半導体からなる群から選択されるいずれかの半導体の単結晶である、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶を配置する工程では、前記種結晶の<100>方向が前記るつぼの深さ方向と一致するとともに、平面的に見て、前記<100>方向に垂直な前記種結晶の<110>方向に前記溝部が位置するように前記種結晶が配置される、請求項1または2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記るつぼの深さ方向に垂直な断面において、前記溝部の周方向両端を結ぶ線分の中点と前記るつぼの中心軸とを通る直線が、前記単結晶のファセットの発生方向に対してなす角は15°以内である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記るつぼは、前記種結晶を保持する種結晶保持部と、前記種結晶保持部上に接続され、前記原料を保持するとともに前記単結晶を成長させる単結晶成長部とを備え、
前記単結晶成長部は、軸方向小径側において前記種結晶保持部に接続された円錐状の形状を有する円錐部と、前記円錐部の軸方向大径側に接続され、円筒状の形状を有する直胴部とを含み、
前記単結晶成長部には前記溝部が形成されており、
前記るつぼの深さ方向に垂直な断面において、前記溝部の周方向両端を結ぶ線分の長さをL、前記単結晶成長部において前記溝部が形成されていない領域の内径をDとすると、D/20≦L≦2D/3の関係が満たされている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項6】
内部に原料および封止剤を配置した上で、原料を溶融させた後、凝固させることにより、単結晶を成長させるための単結晶製造用るつぼであって、
前記単結晶の種結晶を保持する種結晶保持部と、
前記種結晶保持部上に接続され、前記原料を保持するとともに前記単結晶を成長させる単結晶成長部とを備え、
前記単結晶成長部には、深さ方向に延在する溝部が形成されている、単結晶製造用るつぼ。
【請求項7】
前記単結晶成長部は、
軸方向小径側において前記種結晶保持部に接続された円錐状の形状を有する円錐部と、
前記円錐部の軸方向大径側に接続され、円筒状の形状を有する直胴部とを含み、
深さ方向に垂直な断面において、前記溝部の周方向両端を結ぶ線分の長さをL、前記単結晶成長部において前記溝部が形成されていない領域の内径をDとすると、D/20≦L≦2D/3の関係が満たされている、請求項6に記載の単結晶製造用るつぼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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