単結晶引上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法
【課題】長寿命化を可能とした単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】石英ルツボ1を保持する黒鉛ルツボ2は、黒鉛ルツボ成形体としての黒鉛ルツボ基材3と、黒鉛ルツボ基材3の表面全体に形成された熱分解炭素被膜4とから構成されている。被膜4は黒鉛ルツボ基材3表面に存在する開気孔の内面まで生成されている。この被膜4はCVI法によって形成されたものである。被膜4形成は、黒鉛ルツボの表面の全体に限らず、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)のみに、又は湾曲部と直胴部のみに析出させることも可能である。
【解決手段】石英ルツボ1を保持する黒鉛ルツボ2は、黒鉛ルツボ成形体としての黒鉛ルツボ基材3と、黒鉛ルツボ基材3の表面全体に形成された熱分解炭素被膜4とから構成されている。被膜4は黒鉛ルツボ基材3表面に存在する開気孔の内面まで生成されている。この被膜4はCVI法によって形成されたものである。被膜4形成は、黒鉛ルツボの表面の全体に限らず、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)のみに、又は湾曲部と直胴部のみに析出させることも可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という。)によるシリコンなどの単結晶引上げ装置に使用される石英ルツボを支持するために用いられる黒鉛ルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの製造に用いられるシリコンなどの単結晶は、通常CZ法により製造されている。CZ法は、高純度の石英ルツボの中にシリコン多結晶を入れ、石英ルツボを所定速度で回転させながらヒーターによりシリコン多結晶を加熱溶融し、シリコン多結晶の溶融液の表面に種結晶(シリコン単結晶)を接触させて、所定速度で回転させながらゆっくりと引き上げることによりシリコン多結晶を溶融液凝固させて、シリコン単結晶に成長させるものである。
【0003】
しかしながら、石英ルツボは高温においては軟化し、強度も充分でないので、通常、石英ルツボは黒鉛ルツボ内に嵌合され、黒鉛ルツボで石英ルツボを支持することにより補強して用いられている。
【0004】
上記の石英ルツボと黒鉛ルツボとを有するルツボ装置では、高温加熱時には石英ルツボ(SiO2)と黒鉛ルツボ(C)とは接触する嵌合面において反応してSiOガスを発生し、発生したSiOガスは黒鉛ルツボと反応し、特に黒鉛ルツボ表層部の開気孔内を浸透しながら黒鉛ルツボ(C)と反応して黒鉛ルツボの開気孔内を次第にSiC化していく。従って、このような加熱処理が繰り返し行われると、黒鉛ルツボが徐々にSiCへと転化して黒鉛ルツボの寸法が変化してしまったり、材質的に脆弱化してミクロンクラックが発生し遂には黒鉛ルツボの割損を招くこととなる。
【0005】
そこで、かかる問題点を解決するため、従来から石英ルツボと黒鉛ルツボとの間に膨張黒鉛材料からなる保護シートを介在させ、黒鉛ルツボの内面を覆うことにより黒鉛ルツボのSiC)化を抑制して寿命を長く保たせることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2528285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例のように保護シートを介在させても、現実には黒鉛ルツボのSiC化を十分に抑制することはできなかった。
そこで、従来から長寿命化を可能とした単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボが所望されていた。
【0008】
本発明は、上記の実情を鑑みて考え出されたものである。その目的は、長寿命化を可能とした単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボであって、黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、該被膜は前記表面に存在する開気孔の内面まで生成されていることを要旨とする。
【0010】
ここで熱分解炭素(PyC)とは、炭化水素類、例えば炭素数1〜8特に炭素数3の炭化水素ガスもしくは炭化水素化合物を熱分解させて基材の深層部まで浸透析出せしめる高純度で高結晶化度の黒鉛化物である。
上記構成によれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
なお、熱分解炭素の被膜形成は、黒鉛ルツボの表面の全体に限らず、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)のみに、又は湾曲部と直胴部のみに析出させることも可能である。
【0011】
本発明において、前記熱分解炭素被膜の厚みの平均は100μm以下であるのが好ましい。100μmを超えると、コスト高となり、100μm以上の熱分解炭素被膜を形成するには極めて長時間の処理が必要となり生産効率が低下する。
【0012】
本発明において、前記被膜はCVI法によって形成されたものであるのが好ましい。
【0013】
ここで、CVI法(Chemical Vapor Infiltration :化学的気相浸透法)とは前述した熱分解炭素(PyC)を浸透析出させる方法であって、炭化水素類あるいは炭化水素化合物に対して濃度調整用として通常窒素ガスまたは水素ガスを用い、炭化水素濃度3〜30%好ましくは5〜15%とし、全圧を100Torr好ましくは50Torr以下にして反応操作をすればよい。このような操作を行った場合、炭化水素が基材表面付近で脱水素、熱分解、重合などによって巨大炭素化合物を形成し、これが黒鉛ルツボ基材上に沈積、析出し、更に脱水素反応が進み、最終的に緻密なPyC膜が黒鉛ルツボ基材の表面から内部にかけて形成される。
【0014】
析出の温度範囲は一般に800〜2500℃までの広い範囲であるが、黒鉛ルツボ基材の深部まで析出させるためには1300℃以下の比較的低温領域でPyCを析出させることが望ましい。また析出時間は50時間好ましくは100時間以上の長時間にすることが、100μm以下のように薄いPyCを形成させるのに適している。また熱分解炭素の析出効率を高めるために、いわゆる等温法、温度勾配法、圧力勾配法、パルス法等を適宜使用することも可能である。なお、参考までに述べると、CVD法(化学気相蒸着法)は分解生成する炭素を組織中に直接沈着させるものであって、CVI法のように基材の内部までが含浸成膜させることはできず、短時間に厚い熱分解炭素を沈着させるにとどまる。
【0015】
また、本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法であって、黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、且つ該被膜が黒鉛ルツボ基材の表面に存在した開気孔の内部表面にまで生成されるように、CVI法によって熱分解炭素の被膜を形成する工程を含むことを要旨とする。
【0016】
上記構成であれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填された黒鉛ルツボを製造することができ、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【0017】
本発明において、前記熱分解炭素の被膜形成工程により熱分解炭素の被膜が形成された黒鉛ルツボ基材をハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化する工程を含むのが好ましい。黒鉛ルツボから生じる不純物を少なくでき、高品質の金属単結晶が得られることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの縦断面図。
【図2】実施の形態に係る黒鉛ルツボ基材の表面の一部拡大断面図。
【図3】合成石英製造用に用いられる黒鉛製の型の概略断面図。
【図4】試験用サンプルCの採取位置を示す図。
【図5】SiC化反応試験前後の細孔(開気孔)の分布状態を示すグラフ。
【図6】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図7】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図8】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(未処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図9】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(未処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図10】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(本発明処理品)のSEM写真。
【図11】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(本発明処理品)のSEM写真。
【図12】SiC化反応試験後の試験用サンプルC(本発明処理品)のSEM写真。
【図13】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(未処理品)のSEM写真。
【図14】SiC化反応試験後の試験用サンプルC(未処理品)のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は本発明に係る単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの一例についての縦断面図である。石英ルツボ1を保持する黒鉛ルツボ2は、黒鉛ルツボ成形体としての黒鉛ルツボ基材3と、黒鉛ルツボ基材3の表面全体に形成された熱分解炭素被膜4とから構成されている。黒鉛ルツボ基材3は、ルツボに必要な機械的強度を確保すると共に熱分解炭素の析出のし易さを考慮して、その特性として、嵩密度が1.65Mg/m3以上、曲げ強さが30MPa以上、ショア硬さ40以上の値を有するものを使用する。
【0022】
ここで、黒鉛ルツボ2の形状は、一般的にはカップ状であり、底部2aと、底部2aに連続して湾曲しながら上方へ立ち上がる湾曲部(小R部)2bと、湾曲部2bに連続して真っ直ぐ上方に伸び上がる直胴部2cとによって構成されている。黒鉛ルツボ基材3の形状も黒鉛ルツボ2の形状に対応しており、底部3aと、湾曲部(小R部)3bと、直胴部3cとによって構成されている。このような構成の黒鉛ルツボ基材3において、熱分解炭素被膜の形成は、図1に示すように、黒鉛ルツボ基材3の表面の全体に形成してもよいし、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)3bのみに、又は湾曲部3bと直胴部3cのみに析出させるようにしてもよい。
【0023】
次いで、黒鉛ルツボ基材3の表面を熱分解炭素被膜4により被覆したものの状態を、図2を用いて説明する。図2は黒鉛ルツボ基材3の表面の一部拡大断面図であり、同図(a)は黒鉛ルツボ基材3の表面全体に熱分解炭素の被膜4が良好に形成されている状況を模式的に示しており、同図(b)、(c)はその形成が良好でない状況を模式的に示している。黒鉛ルツボ基材3には表面に微小な孔が存在し、これは同図に示すように、開気孔5とよばれるが、開気孔5は表面において窪みを形成する。そのため、黒鉛ルツボ基材3の表面積は見かけ以上に大きく、図示のような入口が狭く内部が広い窪みについて図2(a)に示すように窪みの内側まで熱分解炭素膜で十分に被覆する必要がある。
【0024】
CVD法のような短時間に被膜を形成した場合には、図2(b)に示すように開気孔の開口部を覆うにとどまり、その内部にまで十分に被覆することができない。この場合には強度的に不安定な上記の開口部に亀裂を生じ、熱分解炭素膜で被覆されない内側部分をSiOガス存在下の外部に晒す恐れがある。あるいは開気孔5の開口部を塞ぐことがないとしても、図2(c)に示すように開気孔5の内部にまで十分に被覆することができなくなり、上記の場合と同様に熱分解炭素膜で被覆されない部分をSiOガス存在下の外部に晒すことになる。従って、その表面に多くの開気孔が存在する黒鉛ルツボ基材3を十分に被覆するためには、熱分解炭素膜の析出速度を十分に遅くし、開気孔の内部まで成膜させる必要がある。このような観点からすると、熱分解炭素膜の析出速度は0.2μm/h以下とするのが望ましい。このような析出速度が遅く薄い熱分解炭素膜を得るためには、前記CVI法が適している。
【0025】
本実施の形態においては、上記CVI法を用いることにより基材の内部まで十分に含浸された熱分解炭素被膜で被覆された黒鉛ルツボを得ることができた。
このように黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【0026】
なお、熱分解炭素被膜で被覆された黒鉛ルツボを、ハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化するのが好ましい。黒鉛ルツボから生じる不純物を少なくでき、高品質の金属単結晶が得られるからである。
【0027】
(その他の事項)
上記実施の形態では、単結晶引上げ装置用黒鉛ルツボを表面処理の対象としたが、合成石英製造用に用いられる黒鉛部材、例えば、図3に示すように、合成石英製造用に用いられる黒鉛製の型10や蓋11等について、実施の形態と同様にCVI法によって表面に熱分解炭素被膜を形成するようにしてもよい。合成石英製造用に用いられる黒鉛部材型や蓋は、合成石英と接触した際、発生するSiO2ガスによりSiC化が進行し、寸法が変化してしまったり、材質的に脆弱化してミクロンクラックが発生し遂には割れを招くことが従来問題となっていたが、CVI法によって表面に熱分解炭素被膜を形成することにより、SiC化を抑制でき、長寿命化を図ることができる。なお、図3中において、12は棒状体、13はヒーター、14は不活性ガス導入口、15は排気口である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0029】
[試験例1]
以下の試験用サンプルについて、寸法の変化を調べた。
(試験用サンプル)
黒鉛材を上記実施の形態と同様のCVI法で表面処理し、この表面処理された黒鉛材と、表面処理されていない未処理の黒鉛材の2種類について、試験用として以下の形状のサンプンを作製した。
3分割黒鉛ルツボの分割片 :各1片
以下、表面処理された黒鉛材を用いた分割片を本発明処理品と称し、未処理の黒鉛材を用いた分割片を未処理品と称する。
【0030】
(CVI処理)
CVI処理としては、以下の要領で行った。即ち、黒鉛材を真空炉内に配置し、1100℃まで昇温した後、CH4ガスを10(l/min)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ100時間保持した。
【0031】
(試験結果)
本発明処理品と未処理品とについて、高さ、ルツボ上端から50mm及び150mmのそれぞれの内径、及び小R部の半径の各寸法の変化を調べたので、その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(試験結果の評価)
表1より明らかなように、本発明処理品の寸法変化は極めて小さく、実用上何ら問題がないことが確認された。
【0034】
[試験例2]
以下の試験用サンプルについて、SiC化反応試験を行い、SiC反応前後の物理的特性(嵩密度、硬さ、電気抵抗率、曲げ強さ、細孔(開気孔)分布)の変化を調べた。
【0035】
(試験用サンプル)
形状が異なる以外は、試験例1と同様の本発明処理品と、未処理品の2種類を、試験用サンプンとして作製した。
試験用サンプルとしては、以下の形状のものを用いた。
10×10×60(mm)の棒状サンプル:以下、この棒状サンプルを試験用サンプルAと称する。
100×200×20(mm)の板状サンプル:以下、この板状サンプルを試験用サンプルBと称する。
試験用サンプルBから100×20×厚み20(mm)の試験片を切り出した切断片:(図4に示すように6面中4面が被覆された面で、残り2面が被覆されていない面である。)以下、この切断片を試験用サンプルCと称する。
但し、試験用サンプルA、Bは本試験例2の他に、後述する試験例3、4のそれぞれのサンプルとして使用され、試験用サンプルCは後述する試験例4の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の場合にのみサンプルとして使用される。
なお、試験用サンプルA〜Cのうち、CVI法で表面処理されたものを本発明処理品と称し、表面処理されていない未処理のものを未処理品と称する。
【0036】
(SiC化反応試験)
試験用サンプルA〜Cを合成石英(高純度SiO2)と高温熱処理し、SiC化の反応性を比較した。この場合の具体的条件は、以下の通りである。
処理炉 :真空炉
処理温度 :1600℃
炉内圧力 :10Torr
処理ガス :Ar 1ml/min
処理時間 :8時間保持
処理方法 :試験用サンプルを合成石英粉末に埋め込み、熱処理する。
【0037】
(試験結果)
上記試験用サンプルA、Bについて、表面処理前後の物理的特性(嵩密度、硬さ、電気抵抗率、曲げ強さ)を調べたので、その測定結果を表2、表3に示す。また、細孔(開気孔)分布の測定結果を図5に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
(試験結果の評価)
表2、表3から明らかなように、未処理品に比べて本発明処理品は、嵩密度、硬さ、曲げ強さがいずれも向上しており、高密度化及び高強度化されたことが認められる。なお、表2と表3とでは、サンプルサイズが異なるため、嵩密度の値に差が確認された。
【0041】
また、表面処理前後の物理的特性として、細孔(開気孔)分布について調べたので、その測定結果を図3に示す。なお、測定方法としては、本発明処理品の表層から約2.4mm厚さで測定用試験片を採取し、この測定用試験片について測定した。
図5において、L1は本発明処理品の分布を示し、L2は未処理品の分布を示す。図5から明らかなように、本発明処理品は大きい細孔の容積が小さくなった。CVIは細孔の大きさを小さくしていた。
【0042】
[試験例3]
上記試験例2のSiC化反応試験を行った試験用サンプルA、Bについて、SiC反応前後の質量変化及び体積変化を調べた。
(試験結果)
SiC反応試験前後の質量変化及び体積変化の測定結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
(試験結果の評価)
表4から明らかなように、質量変化率について、サンプルサイズによらず、本発明処理品に比べて未処理品が質量減少が少ないことが認められる。また、体積変化率については、本発明処理品が未処理品に比べ値が低くなった。試験前後では、反応による減肉とSiC化による質量の増加が起こるため、一概に質量変化率と体積変化率で反応性を評価できないが、結果からCVI処理によるSiC化抑制効果があると考えられる。特に、処理時間が8時間という短い時間であったので、顕著な差はでなかったが、処理時間を100時間程度とすれば、顕著な差がでて明確な評価ができたものと考えられる。
【0045】
[試験例4]
上記試験例4と同様のSiC反応試験を行った試験用サンプルA〜Cについて、反応試験後のSiC層の厚さを以下、(1)灰化後の観察、(2)走査型電子顕微鏡による観察、の2種類の方法で観察した。
【0046】
(1)灰化後の観察の場合
SiC反応試験後の試験用サンプルA、Bで残存した黒鉛材部位を、800℃の大気雰囲気下で加熱灰化させ残ったSiC層の厚さついて調べたので、その結果を表5に示す。また、試験用サンプルA、Bについての灰化後の状態を図6〜図9に示す。なお、図6は試験用サンプルA(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真、図7は試験用サンプルB(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真、図8は試験用サンプルA(未処理品)の灰化後の状態を示す写真、図9は試験用サンプルB(未処理品)の灰化後の状態を示す写真である。
【0047】
【表5】
【0048】
(試験結果の評価)
図6〜図9及び表5から明らかなように、未処理品と比較して、本発明処理品の方がSiC化抑制効果が認められる。サンプルサイズでSiC層の値に差があるものの、未処理品に比べて本発明処理品ではSiC層は約50%薄くなった。
【0049】
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の場合
SiC反応試験後の試験用サンプルA〜Cの表面状態についてのSEM写真を、図10〜図14に示す。なお、図10は試験用サンプルA(本発明処理品)のSEM写真、図11は試験用サンプルB(本発明処理品)のSEM写真、図12は試験用サンプルC(本発明処理品)のSEM写真、図13は試験用サンプルA(未処理品)のSEM写真、図14は試験用サンプルC(未処理品)のSEM写真である。図11〜図14において、「}」はSiC層を示している。
(試験結果の評価)
SEM写真から、SiC層の厚さは灰化の結果と同じ傾向となった。未処理品に比べて本発明処理品による効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0051】
1:石英ルツボ
2:黒鉛ルツボ
3:黒鉛ルツボ基材
4:熱分解炭素被膜
5:開気孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という。)によるシリコンなどの単結晶引上げ装置に使用される石英ルツボを支持するために用いられる黒鉛ルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの製造に用いられるシリコンなどの単結晶は、通常CZ法により製造されている。CZ法は、高純度の石英ルツボの中にシリコン多結晶を入れ、石英ルツボを所定速度で回転させながらヒーターによりシリコン多結晶を加熱溶融し、シリコン多結晶の溶融液の表面に種結晶(シリコン単結晶)を接触させて、所定速度で回転させながらゆっくりと引き上げることによりシリコン多結晶を溶融液凝固させて、シリコン単結晶に成長させるものである。
【0003】
しかしながら、石英ルツボは高温においては軟化し、強度も充分でないので、通常、石英ルツボは黒鉛ルツボ内に嵌合され、黒鉛ルツボで石英ルツボを支持することにより補強して用いられている。
【0004】
上記の石英ルツボと黒鉛ルツボとを有するルツボ装置では、高温加熱時には石英ルツボ(SiO2)と黒鉛ルツボ(C)とは接触する嵌合面において反応してSiOガスを発生し、発生したSiOガスは黒鉛ルツボと反応し、特に黒鉛ルツボ表層部の開気孔内を浸透しながら黒鉛ルツボ(C)と反応して黒鉛ルツボの開気孔内を次第にSiC化していく。従って、このような加熱処理が繰り返し行われると、黒鉛ルツボが徐々にSiCへと転化して黒鉛ルツボの寸法が変化してしまったり、材質的に脆弱化してミクロンクラックが発生し遂には黒鉛ルツボの割損を招くこととなる。
【0005】
そこで、かかる問題点を解決するため、従来から石英ルツボと黒鉛ルツボとの間に膨張黒鉛材料からなる保護シートを介在させ、黒鉛ルツボの内面を覆うことにより黒鉛ルツボのSiC)化を抑制して寿命を長く保たせることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2528285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例のように保護シートを介在させても、現実には黒鉛ルツボのSiC化を十分に抑制することはできなかった。
そこで、従来から長寿命化を可能とした単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボが所望されていた。
【0008】
本発明は、上記の実情を鑑みて考え出されたものである。その目的は、長寿命化を可能とした単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボであって、黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、該被膜は前記表面に存在する開気孔の内面まで生成されていることを要旨とする。
【0010】
ここで熱分解炭素(PyC)とは、炭化水素類、例えば炭素数1〜8特に炭素数3の炭化水素ガスもしくは炭化水素化合物を熱分解させて基材の深層部まで浸透析出せしめる高純度で高結晶化度の黒鉛化物である。
上記構成によれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
なお、熱分解炭素の被膜形成は、黒鉛ルツボの表面の全体に限らず、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)のみに、又は湾曲部と直胴部のみに析出させることも可能である。
【0011】
本発明において、前記熱分解炭素被膜の厚みの平均は100μm以下であるのが好ましい。100μmを超えると、コスト高となり、100μm以上の熱分解炭素被膜を形成するには極めて長時間の処理が必要となり生産効率が低下する。
【0012】
本発明において、前記被膜はCVI法によって形成されたものであるのが好ましい。
【0013】
ここで、CVI法(Chemical Vapor Infiltration :化学的気相浸透法)とは前述した熱分解炭素(PyC)を浸透析出させる方法であって、炭化水素類あるいは炭化水素化合物に対して濃度調整用として通常窒素ガスまたは水素ガスを用い、炭化水素濃度3〜30%好ましくは5〜15%とし、全圧を100Torr好ましくは50Torr以下にして反応操作をすればよい。このような操作を行った場合、炭化水素が基材表面付近で脱水素、熱分解、重合などによって巨大炭素化合物を形成し、これが黒鉛ルツボ基材上に沈積、析出し、更に脱水素反応が進み、最終的に緻密なPyC膜が黒鉛ルツボ基材の表面から内部にかけて形成される。
【0014】
析出の温度範囲は一般に800〜2500℃までの広い範囲であるが、黒鉛ルツボ基材の深部まで析出させるためには1300℃以下の比較的低温領域でPyCを析出させることが望ましい。また析出時間は50時間好ましくは100時間以上の長時間にすることが、100μm以下のように薄いPyCを形成させるのに適している。また熱分解炭素の析出効率を高めるために、いわゆる等温法、温度勾配法、圧力勾配法、パルス法等を適宜使用することも可能である。なお、参考までに述べると、CVD法(化学気相蒸着法)は分解生成する炭素を組織中に直接沈着させるものであって、CVI法のように基材の内部までが含浸成膜させることはできず、短時間に厚い熱分解炭素を沈着させるにとどまる。
【0015】
また、本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法であって、黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、且つ該被膜が黒鉛ルツボ基材の表面に存在した開気孔の内部表面にまで生成されるように、CVI法によって熱分解炭素の被膜を形成する工程を含むことを要旨とする。
【0016】
上記構成であれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填された黒鉛ルツボを製造することができ、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【0017】
本発明において、前記熱分解炭素の被膜形成工程により熱分解炭素の被膜が形成された黒鉛ルツボ基材をハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化する工程を含むのが好ましい。黒鉛ルツボから生じる不純物を少なくでき、高品質の金属単結晶が得られることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの縦断面図。
【図2】実施の形態に係る黒鉛ルツボ基材の表面の一部拡大断面図。
【図3】合成石英製造用に用いられる黒鉛製の型の概略断面図。
【図4】試験用サンプルCの採取位置を示す図。
【図5】SiC化反応試験前後の細孔(開気孔)の分布状態を示すグラフ。
【図6】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図7】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図8】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(未処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図9】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(未処理品)の灰化後の状態を示す写真。
【図10】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(本発明処理品)のSEM写真。
【図11】SiC化反応試験後の試験用サンプルB(本発明処理品)のSEM写真。
【図12】SiC化反応試験後の試験用サンプルC(本発明処理品)のSEM写真。
【図13】SiC化反応試験後の試験用サンプルA(未処理品)のSEM写真。
【図14】SiC化反応試験後の試験用サンプルC(未処理品)のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は本発明に係る単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの一例についての縦断面図である。石英ルツボ1を保持する黒鉛ルツボ2は、黒鉛ルツボ成形体としての黒鉛ルツボ基材3と、黒鉛ルツボ基材3の表面全体に形成された熱分解炭素被膜4とから構成されている。黒鉛ルツボ基材3は、ルツボに必要な機械的強度を確保すると共に熱分解炭素の析出のし易さを考慮して、その特性として、嵩密度が1.65Mg/m3以上、曲げ強さが30MPa以上、ショア硬さ40以上の値を有するものを使用する。
【0022】
ここで、黒鉛ルツボ2の形状は、一般的にはカップ状であり、底部2aと、底部2aに連続して湾曲しながら上方へ立ち上がる湾曲部(小R部)2bと、湾曲部2bに連続して真っ直ぐ上方に伸び上がる直胴部2cとによって構成されている。黒鉛ルツボ基材3の形状も黒鉛ルツボ2の形状に対応しており、底部3aと、湾曲部(小R部)3bと、直胴部3cとによって構成されている。このような構成の黒鉛ルツボ基材3において、熱分解炭素被膜の形成は、図1に示すように、黒鉛ルツボ基材3の表面の全体に形成してもよいし、SiC化が進みやすい部分のみであってもよい。例えば、ルツボの内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうち湾曲部(小R部)3bのみに、又は湾曲部3bと直胴部3cのみに析出させるようにしてもよい。
【0023】
次いで、黒鉛ルツボ基材3の表面を熱分解炭素被膜4により被覆したものの状態を、図2を用いて説明する。図2は黒鉛ルツボ基材3の表面の一部拡大断面図であり、同図(a)は黒鉛ルツボ基材3の表面全体に熱分解炭素の被膜4が良好に形成されている状況を模式的に示しており、同図(b)、(c)はその形成が良好でない状況を模式的に示している。黒鉛ルツボ基材3には表面に微小な孔が存在し、これは同図に示すように、開気孔5とよばれるが、開気孔5は表面において窪みを形成する。そのため、黒鉛ルツボ基材3の表面積は見かけ以上に大きく、図示のような入口が狭く内部が広い窪みについて図2(a)に示すように窪みの内側まで熱分解炭素膜で十分に被覆する必要がある。
【0024】
CVD法のような短時間に被膜を形成した場合には、図2(b)に示すように開気孔の開口部を覆うにとどまり、その内部にまで十分に被覆することができない。この場合には強度的に不安定な上記の開口部に亀裂を生じ、熱分解炭素膜で被覆されない内側部分をSiOガス存在下の外部に晒す恐れがある。あるいは開気孔5の開口部を塞ぐことがないとしても、図2(c)に示すように開気孔5の内部にまで十分に被覆することができなくなり、上記の場合と同様に熱分解炭素膜で被覆されない部分をSiOガス存在下の外部に晒すことになる。従って、その表面に多くの開気孔が存在する黒鉛ルツボ基材3を十分に被覆するためには、熱分解炭素膜の析出速度を十分に遅くし、開気孔の内部まで成膜させる必要がある。このような観点からすると、熱分解炭素膜の析出速度は0.2μm/h以下とするのが望ましい。このような析出速度が遅く薄い熱分解炭素膜を得るためには、前記CVI法が適している。
【0025】
本実施の形態においては、上記CVI法を用いることにより基材の内部まで十分に含浸された熱分解炭素被膜で被覆された黒鉛ルツボを得ることができた。
このように黒鉛ルツボ基材の表面に存在する多数の開気孔の内面にまで熱分解炭素が析出、充填されることにより、黒鉛ルツボ基材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を抑制することができる。この結果、黒鉛ルツボの使用寿命の長期化を図ることができる。
【0026】
なお、熱分解炭素被膜で被覆された黒鉛ルツボを、ハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化するのが好ましい。黒鉛ルツボから生じる不純物を少なくでき、高品質の金属単結晶が得られるからである。
【0027】
(その他の事項)
上記実施の形態では、単結晶引上げ装置用黒鉛ルツボを表面処理の対象としたが、合成石英製造用に用いられる黒鉛部材、例えば、図3に示すように、合成石英製造用に用いられる黒鉛製の型10や蓋11等について、実施の形態と同様にCVI法によって表面に熱分解炭素被膜を形成するようにしてもよい。合成石英製造用に用いられる黒鉛部材型や蓋は、合成石英と接触した際、発生するSiO2ガスによりSiC化が進行し、寸法が変化してしまったり、材質的に脆弱化してミクロンクラックが発生し遂には割れを招くことが従来問題となっていたが、CVI法によって表面に熱分解炭素被膜を形成することにより、SiC化を抑制でき、長寿命化を図ることができる。なお、図3中において、12は棒状体、13はヒーター、14は不活性ガス導入口、15は排気口である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0029】
[試験例1]
以下の試験用サンプルについて、寸法の変化を調べた。
(試験用サンプル)
黒鉛材を上記実施の形態と同様のCVI法で表面処理し、この表面処理された黒鉛材と、表面処理されていない未処理の黒鉛材の2種類について、試験用として以下の形状のサンプンを作製した。
3分割黒鉛ルツボの分割片 :各1片
以下、表面処理された黒鉛材を用いた分割片を本発明処理品と称し、未処理の黒鉛材を用いた分割片を未処理品と称する。
【0030】
(CVI処理)
CVI処理としては、以下の要領で行った。即ち、黒鉛材を真空炉内に配置し、1100℃まで昇温した後、CH4ガスを10(l/min)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ100時間保持した。
【0031】
(試験結果)
本発明処理品と未処理品とについて、高さ、ルツボ上端から50mm及び150mmのそれぞれの内径、及び小R部の半径の各寸法の変化を調べたので、その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(試験結果の評価)
表1より明らかなように、本発明処理品の寸法変化は極めて小さく、実用上何ら問題がないことが確認された。
【0034】
[試験例2]
以下の試験用サンプルについて、SiC化反応試験を行い、SiC反応前後の物理的特性(嵩密度、硬さ、電気抵抗率、曲げ強さ、細孔(開気孔)分布)の変化を調べた。
【0035】
(試験用サンプル)
形状が異なる以外は、試験例1と同様の本発明処理品と、未処理品の2種類を、試験用サンプンとして作製した。
試験用サンプルとしては、以下の形状のものを用いた。
10×10×60(mm)の棒状サンプル:以下、この棒状サンプルを試験用サンプルAと称する。
100×200×20(mm)の板状サンプル:以下、この板状サンプルを試験用サンプルBと称する。
試験用サンプルBから100×20×厚み20(mm)の試験片を切り出した切断片:(図4に示すように6面中4面が被覆された面で、残り2面が被覆されていない面である。)以下、この切断片を試験用サンプルCと称する。
但し、試験用サンプルA、Bは本試験例2の他に、後述する試験例3、4のそれぞれのサンプルとして使用され、試験用サンプルCは後述する試験例4の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の場合にのみサンプルとして使用される。
なお、試験用サンプルA〜Cのうち、CVI法で表面処理されたものを本発明処理品と称し、表面処理されていない未処理のものを未処理品と称する。
【0036】
(SiC化反応試験)
試験用サンプルA〜Cを合成石英(高純度SiO2)と高温熱処理し、SiC化の反応性を比較した。この場合の具体的条件は、以下の通りである。
処理炉 :真空炉
処理温度 :1600℃
炉内圧力 :10Torr
処理ガス :Ar 1ml/min
処理時間 :8時間保持
処理方法 :試験用サンプルを合成石英粉末に埋め込み、熱処理する。
【0037】
(試験結果)
上記試験用サンプルA、Bについて、表面処理前後の物理的特性(嵩密度、硬さ、電気抵抗率、曲げ強さ)を調べたので、その測定結果を表2、表3に示す。また、細孔(開気孔)分布の測定結果を図5に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
(試験結果の評価)
表2、表3から明らかなように、未処理品に比べて本発明処理品は、嵩密度、硬さ、曲げ強さがいずれも向上しており、高密度化及び高強度化されたことが認められる。なお、表2と表3とでは、サンプルサイズが異なるため、嵩密度の値に差が確認された。
【0041】
また、表面処理前後の物理的特性として、細孔(開気孔)分布について調べたので、その測定結果を図3に示す。なお、測定方法としては、本発明処理品の表層から約2.4mm厚さで測定用試験片を採取し、この測定用試験片について測定した。
図5において、L1は本発明処理品の分布を示し、L2は未処理品の分布を示す。図5から明らかなように、本発明処理品は大きい細孔の容積が小さくなった。CVIは細孔の大きさを小さくしていた。
【0042】
[試験例3]
上記試験例2のSiC化反応試験を行った試験用サンプルA、Bについて、SiC反応前後の質量変化及び体積変化を調べた。
(試験結果)
SiC反応試験前後の質量変化及び体積変化の測定結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
(試験結果の評価)
表4から明らかなように、質量変化率について、サンプルサイズによらず、本発明処理品に比べて未処理品が質量減少が少ないことが認められる。また、体積変化率については、本発明処理品が未処理品に比べ値が低くなった。試験前後では、反応による減肉とSiC化による質量の増加が起こるため、一概に質量変化率と体積変化率で反応性を評価できないが、結果からCVI処理によるSiC化抑制効果があると考えられる。特に、処理時間が8時間という短い時間であったので、顕著な差はでなかったが、処理時間を100時間程度とすれば、顕著な差がでて明確な評価ができたものと考えられる。
【0045】
[試験例4]
上記試験例4と同様のSiC反応試験を行った試験用サンプルA〜Cについて、反応試験後のSiC層の厚さを以下、(1)灰化後の観察、(2)走査型電子顕微鏡による観察、の2種類の方法で観察した。
【0046】
(1)灰化後の観察の場合
SiC反応試験後の試験用サンプルA、Bで残存した黒鉛材部位を、800℃の大気雰囲気下で加熱灰化させ残ったSiC層の厚さついて調べたので、その結果を表5に示す。また、試験用サンプルA、Bについての灰化後の状態を図6〜図9に示す。なお、図6は試験用サンプルA(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真、図7は試験用サンプルB(本発明処理品)の灰化後の状態を示す写真、図8は試験用サンプルA(未処理品)の灰化後の状態を示す写真、図9は試験用サンプルB(未処理品)の灰化後の状態を示す写真である。
【0047】
【表5】
【0048】
(試験結果の評価)
図6〜図9及び表5から明らかなように、未処理品と比較して、本発明処理品の方がSiC化抑制効果が認められる。サンプルサイズでSiC層の値に差があるものの、未処理品に比べて本発明処理品ではSiC層は約50%薄くなった。
【0049】
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の場合
SiC反応試験後の試験用サンプルA〜Cの表面状態についてのSEM写真を、図10〜図14に示す。なお、図10は試験用サンプルA(本発明処理品)のSEM写真、図11は試験用サンプルB(本発明処理品)のSEM写真、図12は試験用サンプルC(本発明処理品)のSEM写真、図13は試験用サンプルA(未処理品)のSEM写真、図14は試験用サンプルC(未処理品)のSEM写真である。図11〜図14において、「}」はSiC層を示している。
(試験結果の評価)
SEM写真から、SiC層の厚さは灰化の結果と同じ傾向となった。未処理品に比べて本発明処理品による効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ及びその製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0051】
1:石英ルツボ
2:黒鉛ルツボ
3:黒鉛ルツボ基材
4:熱分解炭素被膜
5:開気孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボであって、
黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、該被膜は前記表面に存在する開気孔の内面まで生成されていることを特徴とする単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項2】
前記被膜の厚みの平均は100μm以下である請求項1記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項3】
前記被膜はCVI法によって形成されたものである請求項1又は2記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項4】
単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法であって、
黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、且つ該被膜が黒鉛ルツボ基材の表面に存在した開気孔の内部表面にまで生成されるように、CVI法によって熱分解炭素の被膜を形成する工程を含むことを特徴とする単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法。
【請求項5】
前記熱分解炭素の被膜形成工程により熱分解炭素の被膜が形成された黒鉛ルツボ基材をハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化する工程を含む請求項4記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法。
【請求項1】
単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボであって、
黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、該被膜は前記表面に存在する開気孔の内面まで生成されていることを特徴とする単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項2】
前記被膜の厚みの平均は100μm以下である請求項1記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項3】
前記被膜はCVI法によって形成されたものである請求項1又は2記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボ。
【請求項4】
単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法であって、
黒鉛ルツボ基材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の被膜が形成され、且つ該被膜が黒鉛ルツボ基材の表面に存在した開気孔の内部表面にまで生成されるように、CVI法によって熱分解炭素の被膜を形成する工程を含むことを特徴とする単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法。
【請求項5】
前記熱分解炭素の被膜形成工程により熱分解炭素の被膜が形成された黒鉛ルツボ基材をハロゲンガス雰囲気下で熱処理して高純度化する工程を含む請求項4記載の単結晶引き上げ装置用黒鉛ルツボの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−158504(P2012−158504A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20814(P2011−20814)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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