説明

単結晶引上装置

【課題】チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、グローイン欠陥の発生を抑制すると共に、結晶の有転位化を抑制することができる単結晶引上装置を提供する。
【解決手段】ルツボ3の上方に設けられ、上部と下部とが開口形成されて、引き上げられる単結晶Cの周囲を包囲すると共に、前記単結晶を冷却する冷却筒7を備え、前記冷却筒7の内周面側には、複数の環状凹部7aが周方向に沿って並列状に形成されている。このような構成により、単結晶Cからの輻射熱は前記冷却筒7によって単結晶に向けて反射されることが無く、複数の環状凹部7aにおいて効果的に吸収されるので、単結晶Cを効率よく冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、図23に示すように、炉内においてヒータ52の熱によりルツボ50内にシリコンの溶融液Mを形成し、その表面に種結晶Pを接触させ、ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
ところで、単結晶Cの引き上げにあっては、育成している単結晶Cに対する周囲からの輻射熱を遮断し、単結晶Cを所定温度以下に冷却しなければ、結晶の凝固が遅れ、引上速度が低下するため生産効率が悪化するという課題があった。
また、引上速度が低下すると、COP欠陥が発生する中温帯(1200〜1000℃)およびOSF欠陥が発生する低温帯(1050〜850℃)での冷却速度が遅くなり(その温度帯の滞在時間が長くなり)、前記COP欠陥、OSF欠陥などのグローイン欠陥が発生しやすくなるという課題があった。
そのため従来から、育成する単結晶Cの外周面への輻射熱を遮断するために輻射シールド51が設けられている。この輻射シールド51は、単結晶Cの引上領域を囲むように、ルツボの上方に設けられ、これにより、育成した単結晶Cに対するある程度の冷却効果を得ることができる。
【0004】
しかしながら、前記輻射シールド51のみでは、単結晶Cに対する輻射熱を遮断する能力が充分とは言えず、さらに輻射熱の遮断能力を高めるために、図示するようにシールド内側に筒状の冷却筒53を配置した構成が提案されている(特許文献1参照)。
この冷却筒53は、その内部に例えば単結晶Cを取り囲むように螺旋状に水管(図示せず)が配管され、連続的に冷却水が供給されることによって、その表面が所定温度に維持されている。
このような冷却筒53を設けることにより、輻射シールド51のみの構成よりも効果的に単結晶Cに対する輻射熱を吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−92272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図示するような冷却筒53の構成にあっては、単結晶Cから発せられる輻射熱が冷却筒53の内周面で反射し、再び単結晶Cに戻るため、冷却効果が不十分になるという課題があった。
一方、冷却能力の向上のために冷却筒53を溶融液面に接近させると、結晶外周近傍の溶融液Mが過分に冷却されることがあり、単結晶Cの有転位化を引き起こすという課題があった。
【0007】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、育成する単結晶を効果的に冷却し、グローイン欠陥の発生を抑制すると共に、結晶の有転位化を抑制することができる単結晶引上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、前記ルツボの上方に設けられ、上部と下部とが開口形成されて、引き上げられる単結晶の周囲を包囲すると共に、前記単結晶を冷却する冷却筒を備え、前記冷却筒の内周面側には、複数の環状凹部が周方向に沿って並列状に形成されていることに特徴を有する。
尚、前記環状凹部は、その断面底部が放物線状または円弧状に形成されていることが望ましい。
また、上下に隣り合う前記環状凹部は隙間無く隣接し、その隣接部は尖形形状となされていることが望ましい。
また、前記断面底部が放物線状または円弧状に形成された環状凹部において、その開口部の単結晶引上軸方向の幅寸法をhとし、前記開口部の幅方向の中点と該環状凹部の底部頂点とを結ぶ線分の長さをtとし、前記線分の延長線と単結晶引上軸との交差角度をαとすると、前記幅寸法hは1〜100mm、前記線分長さtは10mm以上、前記交差角度αは、10°〜170°の範囲内でそれぞれ規定されることが望ましい。
また、前記冷却筒は、下方に向けて縮径するように形成されていることが望ましい。
【0009】
このように構成することにより、引上軸に沿ってルツボから単結晶が引き上げられる工程において、単結晶からの輻射熱は前記冷却筒によって単結晶に向けて反射されることが無く、複数の環状凹部において効果的に吸収される。
これにより、単結晶を効率よく冷却することができ、所定の引上速度を維持して単結晶を育成することができる。その結果、COP、OSF等のグローイン欠陥が発生する中低温帯の通過時間(滞在時間)を大幅に低減し、その発生を抑制することができる。
また、冷却筒と溶融液面との距離を一定に保持した状態で、より速い速度で単結晶の引き上げを行うことができるため、溶融液の過冷却を抑制して結晶の有転位化の発生を抑制し、生産性を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、育成する単結晶を効果的に冷却し、グローイン欠陥の発生を抑制すると共に、結晶の有転位化を抑制することのできる単結晶引上装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る単結晶引上装置の主要部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置が備える冷却筒の一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図2の冷却筒が有する環状凹部の断面形状を示す図である。
【図4】図4は、図2の冷却筒が有する環状凹部の断面形状の変形例を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明に係る実施例における実験1の結果を示す結晶温度分布のグラフである。
【図6】図6は、本発明に係る実施例における実験1の結果を示す結晶温度分布のグラフである。
【図7】図7は、本発明に係る実施例における実験1の結果を示すグラフであって、結晶軸方向の温度勾配を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明に係る実施例における実験1の結果を示すグラフであって、COP発生領域通過時間を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明に係る実施例における実験1の結果を示すグラフであって、OSF発生領域通過時間を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明に係る実施例における実験2において用いた冷却筒の形状を示す断面図である。
【図11】図11は、本発明に係る実施例における実験2の結果を示すグラフであって、結晶軸方向の温度勾配を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明に係る実施例における実験2の結果を示すグラフであって、COP発生領域通過時間を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明に係る実施例における実験2の結果を示すグラフであって、OSF発生領域通過時間を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明に係る実施例における実験3の結果を示すグラフであって、結晶軸方向の温度勾配を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明に係る実施例における実験3の結果を示すグラフであって、COP発生領域通過時間を示すグラフである。
【図16】図16は、本発明に係る実施例における実験3の結果を示すグラフであって、OSF発生領域通過時間を示すグラフである。
【図17】図17は、本発明に係る実施例における実験4の結果を示すグラフであって、結晶軸方向の温度勾配を示すグラフである。
【図18】図18は、本発明に係る実施例における実験4の結果を示すグラフであって、COP発生領域通過時間を示すグラフである。
【図19】図19は、本発明に係る実施例における実験4の結果を示すグラフであって、OSF発生領域通過時間を示すグラフである。
【図20】図20は、本発明に係る実施例における実験5の結果を示すグラフであって、結晶軸方向の温度勾配を示すグラフである。
【図21】図21は、本発明に係る実施例における実験5の結果を示すグラフであって、COP発生領域通過時間を示すグラフである。
【図22】図22は、本発明に係る実施例における実験5の結果を示すグラフであって、OSF発生領域通過時間を示すグラフである。
【図23】従来の単結晶引上装置を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る単結晶引上装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る単結晶引上装置の主要部構成を示す断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ2aの上にプルチャンバ2bを重ねて形成された炉体2と、炉体2内に設けられたルツボ3と、ルツボ3の内面に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融してシリコンの溶融液Mとする抵抗加熱ヒータ4(以下、単にヒータと呼ぶ)と、育成される単結晶Cを引上げワイヤ5により引上げる引上げ機構(図示せず)とを有している。
【0013】
前記ヒータ4には、ルツボ3を囲むように円筒状のスリット部4aが発熱部として設けられている。
また、ルツボ3は二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ3a、外側が黒鉛ルツボ3bで構成されている。このルツボ3は、回転モータ(図示せず)により引上げ軸周りに回転制御されると共に、単結晶Cの引上げ(育成)に伴い、昇降装置(図示せず)によりメインチャンバ2a内で上昇可能となされている。
また、前記引上げ機構により引き上げられる引上げワイヤ5の先端には、種結晶Pが取り付けられている。
【0014】
また、メインチャンバ2a内において、ルツボ3の上方且つ近傍には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド6が配置されている。この輻射シールド6は、上部と下部が開口形成され、筒状の形状をなし、育成中の単結晶Cへのヒータ4等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド6は、炉体2内において位置固定されるが、輻射シールド6下端と溶融液面との間の距離寸法(ギャップ)は、単結晶Cの育成に伴いルツボ3を上昇させることにより、所定の距離を維持するよう制御される。
【0015】
また、本実施形態において、輻射シールド6の内側には筒状の冷却筒7が設けられている。この冷却筒7は、単結晶Cを取り囲むように上部と下部とが開口し、下方に向けて縮径している。このように冷却筒7が、下方に向けて縮径していることにより、その下部ほど単結晶Cとの距離が短くなり、固化して間もない単結晶Cの下部を効果的に冷却することができる。
【0016】
また、冷却筒7の内周面側には、複数の環状凹部7a(溝)が周方向に沿って並列状に形成されている。各環状凹部7aの断面は、図1に示すように、その底部が放物線状に形成されている。また、上下に隣り合う環状凹部7aは隙間無く隣接し、その隣接部は尖形形状となされている。このため、図示するように冷却筒7の内周面側の断面は鋸歯状となっている。
【0017】
また、図2に示す冷却筒7の内部空間7bには例えば水管(図示せず)が設けられ、その水管の中を所定温度の冷却水が循環することによって、冷却筒7の表面温度を所定温度(30℃)に維持するようになされている。尚、冷却筒7において、水管を設けずに、内部空間7bに直接的に冷却水を循環させることによって冷却筒7の表面を所定温度に維持するようにしてもよい。
【0018】
この冷却筒7に形成された各環状凹部7aの形状は、図2,図3に示すように規定される。
即ち、図3に示すように環状凹部7aにおいて、その開口部の単結晶引上軸方向の幅寸法hは1〜100mm、より好ましくは5〜50mmの範囲内で規定される。
また、前記開口部の幅方向の中点Pt1と環状凹部7aの底部頂点Pt2とを結ぶ線分の長さ寸法tは10mm以上の範囲内で規定される。前記長さ寸法tは好ましくは10mm以上50mm以下の範囲内である。
また、図2,図3に示すように、前記線分の延長線L1と単結晶引上軸L2との交差角度αは10°〜170°、より好ましくは30°〜120°の範囲内で規定される。
このように環状凹部7aの形状を規定することにより、単結晶Cから発せられる輻射熱が冷却筒7の内周面側に反射しても、それが再び単結晶Cに戻り難い構成とすることができる。
【0019】
このように構成された冷却筒7を備える単結晶引上装置1によれば、ワイヤ5によってルツボ3から単結晶Cを引き上げる工程において、単結晶Cからの輻射熱は冷却筒7によって単結晶Cに向けて反射されることが無く、複数の環状凹部7aにおいて効果的に吸収される。
これにより、単結晶Cを効率よく冷却することができ、所定の引上速度を維持して単結晶Cを育成することができる。その結果、COP、OSF等のグローイン欠陥が発生する中低温帯の通過時間(滞在時間)を大幅に低減し、その発生を抑制することができる。
また、冷却筒7と溶融液面M1との距離を一定に保持した状態で、より速い速度で単結晶Cの引き上げを行うことができるため、溶融液Mの過冷却を抑制して結晶の有転位化の発生を抑制し、生産性を向上することができる。
【0020】
尚、前記実施の形態にあっては、環状凹部7aの底部断面が放物線状に形成された例を示したが、それに限定されるものではない。
例えば、環状凹部7aの底部断面は円弧状でもよく、或いは、図4(a)に示すように三角形状、もしくは4(b)に示すように矩形状であってもよい。
また、底部断面が放物線状又は円弧状の環状凹部と、三角形状又は矩形状の環状凹部とを組み合わせて構成してもよい。
また、前記実施の形態にあっては、冷却筒7は、下方に向けて縮径する形状としたが、径を一定とした直胴状に形成されたものであってもよい。
【実施例】
【0021】
本発明に係る単結晶引上装置について、実施例に基づきさらに説明する。
[実験1]
実験1では、本発明に係る単結晶引上装置の効果について検証した。
具体的には、図1乃至図3に示す前記実施の形態に基づき、表1に示す条件で単結晶引き上げを行った。
尚、表1において、交差角度α、幅寸法h、深さ寸法tは、それぞれ図3に示したパラメータである。また、全ての条件において、直径310mmのシリコン単結晶を100本育成した。ルツボ内径は、788mmであり、ルツボ側方に配されたヒータ発熱部の高さは450mmである。
【0022】
【表1】

【0023】
図5のグラフに実施例1と比較例1とにおける結晶温度分布を左右対称に比較して示し(左側が比較例1、右側が実施例1)、図6に実施例2と比較例1とにおける結晶温度分布を左右対称に比較して示す(左側が比較例1、右側が実施例2)。
図5,図6の結晶温度分布に示されるように、実施例1、実施例2において、共に比較例1よりも明らかに単結晶の冷却効果が大きくなり、本発明の効果が確認された。
【0024】
また、図7に各条件における結晶軸方向の温度勾配、図8に各条件におけるCOP発生領域通過時間、図9に各条件におけるOSF発生領域通過時間をグラフで示す。尚、比較例1として、図23に示したように冷却筒の内面側の断面形状において凹凸部が形成されない条件を加えた。また、図7のグラフにおいて、縦軸は温度勾配(K/mm)、横軸は結晶軸方向の位置(mm)である。また、図8、9のグラフにおいて、縦軸は時間(min)、横軸は結晶軸方向の位置(mm)である。
また、前記図7〜図9の結果に基づき、比較例1(従来構成)に対する実施例1の効果(改善率)を表2に示し、比較例1(従来構成)に対する実施例2の効果(改善率)を表3に示す。
【表2】

【表3】

【0025】
この実験1の結果、実施例1,2では、結晶軸方向に沿った温度勾配が比較例1よりも大きくなり、その結果、実施例1では引上速度が比較例1に比べて約3%上昇し、実施例2では引上速度が比較例1に比べて約5%上昇した。
また、実施例1,2では、引上速度の上昇により、COP発生温度領域、およびOSF発生温度領域の滞在時間(通過時間)が短くなり、COP欠陥密度、およびOSF欠陥密度を共に大きく低減することができた。
【0026】
[実験2]
実験2では、冷却筒の内周面側に形成すべき凹凸形状について検証した。具体的には、図1に示した冷却筒7の内周面側に、図10(a)に示すように複数の環状凸部7c(断面円弧状)を形成した条件(比較例2)、図10(b)に示すように複数の環状凹部7a(断面円弧状)を形成した条件(実施例3)、図10(c)に示すように環状凹部7a(断面円弧状)と環状凸部7c(断面円弧状)とを交互に形成した条件(比較例3)について、それぞれ検証した。
図11に各条件における結晶軸方向の温度勾配、図12に各条件におけるCOP発生領域通過時間、図13に各条件におけるOSF発生領域通過時間をグラフで示す。尚、図23に示したように冷却筒の内面側の断面形状において凹凸部が形成されない条件(比較例1)を加えた。
【0027】
図11に示すように冷却筒の内周面側に複数の環状凹部7aが形成された実施例3において最も温度勾配が大きくなった。そのため、従来の冷却筒の構成(比較例1)に比べ引上速度が最も上昇した。
また、図12、図13に示すように、実施例3においてCOP発生温度領域、およびOSF発生温度領域の滞在時間(通過時間)が短くなり、COP欠陥密度、およびOSF欠陥密度を共に低減することができた。
この実験2の結果により、冷却筒の内周面側には、実施例3のように複数の環状凹部を形成することが好ましいと確認した。ただし、環状凸部が交互に形成した条件は、効果が低いものであった。
【0028】
[実験3]
実験3では、冷却筒の内周面側に環状凹部を形成する場合の、その好ましい断面形状について検証した。
具体的には、図1に示した冷却筒7の内周面側の凹部7aの断面形状が、図4(a)に示したように三角形状に形成された条件(実施例4)、図4(b)に示したように矩形状に形成された条件(実施例5)、図1に示したように放物線状に形成された条件(実施例6)について、それぞれ検証した。
図14に各条件における結晶軸方向の温度勾配、図15に各条件におけるCOP発生領域通過時間、図16に各条件におけるOSF発生領域通過時間をグラフで示す。尚、図23に示したように冷却筒の内面側の断面形状において凹凸部が形成されない条件(比較例1)を加えた。
【0029】
図14に示すように冷却筒の内周面側の凹部断面形状が放物線状の実施例6において最も温度勾配が大きくなった。そのため、従来の冷却筒の構成(比較例1)に比べ引上速度が最も上昇した。
また、図15、図16に示すように、実施例6においてCOP発生温度領域、およびOSF発生温度領域の滞在時間(通過時間)が最も短くなり、COP欠陥密度、およびOSF欠陥密度を共に低減することができた。
この実験3の結果により、冷却筒の内周面側の凹部断面形状は、放物線状であることが最も好ましいと確認した。
【0030】
[実験4]
実験4では、冷却筒の内周面側に断面放物線状の環状凹部を設ける場合、表4の条件に基づき、図3において定義した凹部7aの深さtについて検証した。
【表4】

【0031】
各条件(実施例7〜11)における結晶軸方向の温度勾配を図17に示し、COP発生温度領域の通過時間を図18に示し、OSF発生温度領域の通過時間を図19に示す。
図17に示すように深さ寸法tが大きいほど温度勾配が大きくなり、特に深さ寸法tが10mm以上となると顕著に温度勾配が上昇した。また、図18、図19に示すように、深さ寸法tが大きいほどCOP発生温度領域、およびOSF発生温度領域の滞在時間(通過時間)が短くなった。
これらの結果から、深さ寸法tは10mm以上であることが好ましいと考えられる。
[実験5]
実験5では、表5の条件に基づき、図3において定義した交差角αについて検証した。
【表5】

【0032】
各条件(実施例12〜16)における結晶軸方向の温度勾配を図20に示し、COP発生温度領域の通過時間を図21に示し、OSF発生温度領域の通過時間を図22に示す。
図20に示すように、交差角度αが50°付近において最も温度勾配が大きくなった。また、図21、図22に示すように、交差角度αが50°付近においてCOP発生温度領域、およびOSF発生温度領域の滞在時間(通過時間)が最も短くなり、より好ましいことを確認した。
【0033】
以上の実施例の結果より、本発明に係る単結晶引上装置によれば、育成する単結晶に対し効果的に冷却することができ、グローイン欠陥の発生を抑制し、また、結晶の有転位化を抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0034】
1 単結晶引上装置
2 炉体
3 ルツボ
4 ヒータ
4a スリット部
5 ワイヤ
6 輻射シールド
7 冷却筒
7a 環状凹部
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、
前記ルツボの上方に設けられ、上部と下部とが開口形成されて、引き上げられる単結晶の周囲を包囲すると共に、前記単結晶を冷却する冷却筒を備え、
前記冷却筒の内周面側には、複数の環状凹部が周方向に沿って並列状に形成されていることを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項2】
前記環状凹部は、その断面底部が放物線状または円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項3】
上下に隣り合う前記環状凹部は隙間無く隣接し、その隣接部は尖形形状となされていることを特徴とする請求項2に記載された単結晶引上装置。
【請求項4】
前記断面底部が放物線状または円弧状に形成された環状凹部において、その開口部の単結晶引上軸方向の幅寸法をhとし、前記開口部の幅方向の中点と該環状凹部の底部頂点とを結ぶ線分の長さをtとし、前記線分の延長線と単結晶引上軸との交差角度をαとすると、
前記幅寸法hは5〜50mm、前記線分長さtは10mm以上、前記交差角度αは、30°〜120°の範囲内でそれぞれ規定されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された単結晶引上装置。
【請求項5】
前記冷却筒は、下方に向けて縮径するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された単結晶引上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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