説明

単結晶窒化インジウムナノチューブの製造方法

【課題】マイクロエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス分野に応用が期待されてい
る単結晶の窒化インジウムナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの混合物を横型石英管状炉など
の反応炉中で、減圧にした後、窒素ガスを流しながら、1100±50℃に1.5〜2時間加熱する
ことにより、ウルツ鉱型六方晶系の単結晶の窒化インジウムナノチューブを製造する。こ
のとき、酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの重量比は10:1〜9:1の範囲が好ま
しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用電子デバイス、可視-近紫外線用オプトエレクトロニクスデバイスへ
の応用に有用な単結晶窒化インジウムナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広いバンドギャップエネルギーを有するIII-N族に属する(Al,Ga,In)N半導体のうち、窒
化インジウムは光学特性や高電子移動度のため、電界効果型トランジスター、ナノスケー
ル電子デバイス、オプトエレクトロニクスデバイスへ応用した場合、ガリウム砒素や窒化
ガリウムよりも特性が優れている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
しかし、窒化インジウムは分解温度が低いため、結晶性のナノ構造物を合成することが
難しかった。そのため、窒化インジウムナノワイヤーの合成法が知られているだけであっ
た(例えば、非特許文献2)。また、チューブ状ナノ構造物や結晶性構造物の方がナノワイ
ヤーや非晶質構造物よりも特性が優れていると言われている。現在まで、単結晶の窒化イ
ンジウムナノチューブの製造方法は、まだ確立されていない状況にある。
【0004】
【非特許文献1】Tansley,他、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(J.Appl.Phys.)59巻、3241頁、1986年
【非特許文献2】Dingman,他、アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)39巻、1470頁、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたもので、高温用電子デバイス、可視-近紫外線
用オプトエレクトロニクスデバイスへの応用に際して有用な単結晶の窒化インジウムナノ
チューブの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの混合物をアルミナボートに入れ、このア
ルミナボートを反応炉の中央部に設置する。炉を減圧にした後、アルゴンガスを流しなが
ら、1100±50℃に加熱し、この状態に約30分維持した後、窒素ガスを流しながら、同じく
1100±50℃で1.5〜2時間加熱する。この加熱中に反応炉の温度が約600℃であった部分に
暗灰色の生成物が堆積する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法を用いることにより、電子デバイスやオプトエレクトロニクス用として有
用な単結晶の窒化インジウムナノチューブが製造可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの混合物をアルミナボートに入れ、このア
ルミナボートを反応炉の中央部に設置する。反応炉としては横型石英管状炉などを用いる
。このとき、酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの重量比は10:1〜9:1の範囲が好ましい。この範囲よりも酸化インジウムの重量が多いとカーボンナノチューブの不足の
ため、カーボンナノチューブは完全に消費され尽くして、過剰の酸化インジウムがカーボンナノチューブと反応できないので、チューブ状ではなく、ナノワイヤーやナノ粒子が生成してしまう。この範囲よりも酸化インジウムの重量が少ない場合は、生成物中に炭素の不純物が混入する。
【0009】
反応炉を減圧した後、アルゴンガスを80〜150sccmの流量で流す。流量が150sccmよりも
多いと反応性の蒸気が逸散してしまう。80sccmよりも流量が少ないと不活性な雰囲気が保
てないので酸素による不純物が生成物中に混入する。この状態で反応炉内のアルミナボー
トを1100±50℃に加熱し、約30分間維持する。
【0010】
この後、窒素ガスを80〜200sccmの流量で流しながら、上記と同様に、1100±50℃に1.5
〜2時間加熱する。窒素ガスの流量は200sccmで十分反応するので、これ以上の流量にする
必要はない。80sccmよりも少ないと窒化インジウムを生成させる量としては十分ではない

【0011】
加熱温度は1100±50℃が好ましく、これよりも高いと窒化インジウムナノチューブが得
られない。また、この温度よりも低いと収量が低下する。加熱時間は1.5〜2時間が好まし
く、2時間で反応が完結するので、これ以上の時間をかける必要はない。1.5時間未満では
窒化インジウムナノチューブの成長が完結しない。
【0012】
上記の操作により、加熱中に、反応炉、例えば横型石英管状炉の約600℃になっていた
部分に暗灰色の生成物が堆積する。この生成物を分析することにより、ウルツ鉱型六方晶
系の窒化インジウムナノチューブであることが確認できる。
【実施例1】
【0013】
次に、実施例を示して、さらに具体的に説明する。和光純薬工業(株)製の酸化インジ
ウム粉末(純度99.9%)3gとC.C.Tang、他の著者によるカーボン(Carbon)40巻、2497頁、200
2年に記載の方法で製造したカーボンナノチューブ0.3gの混合物をアルミナボートに入れ
、このボートを横型石英管状炉の中央部に配置した。
【0014】
この反応系を減圧にした後、アルゴンガスを100sccmの流量で流しながら、1100℃に温
度を上昇させた。1100℃に30分保持した後、窒素ガスを100sccmの流量で流しながら、110
0℃に1.5時間加熱した。横型石英管状炉の600℃に維持されていた部分に暗灰色の線状の
生成物が0.3g堆積した。
【0015】
図1に、生成物のX線回折のパターンを示した。格子定数a=0.354nm、c=0.571nmを有す
る六方晶系ウルツ鉱型窒化インジウムであることが確認された。
【0016】
図2に、生成物の低倍率透過型電子顕微鏡像の写真を示したが、数十マイクロメートル
の長さと500〜600ナノメートルの直径を有するチューブ状構造であることが分かる。また
、チューブの内径は150〜250ナノメートルで壁の厚さは100〜200ナノメートルであること
が分かった。
【0017】
図3に、生成物のX線エネルギー拡散スペクトルを示したが、その化学組成はインジウ
ムと窒素からなり、その比は化学量論組成に近いことが分かった。ここで、銅のシグナル
は試料を取り付ける際に用いた銅グリッドに由来するものである。
【0018】
図4に、励起光源としてHe-Cdレーザー(励起波長325nm)を用いて室温で測定したフォ
トルミネッセンスの結果を示した。この結果から、約652nmに強い幅広の発光バンドを有
することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
III-N族半導体である単結晶窒化インジウムナノチューブが製造可能となったので、マ
イクロエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス分野への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】窒化インジウムナノチューブのX線回折のパターンの図である。
【図2】窒化インジウムナノチューブの低倍率透過型電子顕微鏡像の図面代用写真である。
【図3】窒化インジウムナノチューブのX線エネルギー拡散スペクトルの図である。
【図4】窒化インジウムナノチューブのフォトルミネッセンスのスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム粉末とカーボンナノチューブの混合物を反応炉中で、減圧にした後、アル
ゴンガスを流しながら、1100±50℃まで昇温し、次に、この温度に保持した状態で窒素ガ
スを流しながら1.5〜2時間加熱することを特徴とする単結晶の窒化インジウムナノチュー
ブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−8417(P2006−8417A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183175(P2004−183175)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】