説明

印刷版用原版および印刷版の製造方法

【課題】バリヤ層とマスク層(マスク形成層)とが良好に密着した印刷版用原版およびこれを用いて形成された印刷版を提供する。
【解決手段】本発明の印刷版用原版は、感光層と、該感光層の上に設けられたバリヤ層と、該バリヤ層の上に設けられ、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層と、を有し、該バリヤ層および該マスク形成層に含まれるバインダーのうちの、それぞれ50質量%以上が互いに同種のバインダーであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷に用いられる印刷版用原版、およびこの印刷版用原版を用いた印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの発達により、印刷分野においても、原稿や印刷データの入力、編集、校正から製版までをコンピューターで一括管理することが可能になり、デジタルデータから直接印刷版を形成する直接製版法が注目されている。
【0003】
この直接製版法は、CTP(コンピュータートゥプレート)法とも呼ばれ、従来のネガフィルムを用いて製版する方法に比べて、デジタルデータから直接製版できる。そのため、画像の修正が生じた際に、新しいネガフィルムを作成する必要がなく、デジタル化された画像データをコンピューター上で修正するだけで対応できる。そのため、時間の節約、労力の低減を図ることができるという利点がある。
【0004】
直接製版法としては、これまで様々な方法が提案されているが、感光層を有する印刷版の上にマスク層を設け、マスク層に画像を形成後、画像に基づいて製版する方法が従来のリソグラフィ法の延長として最も利用しやすく、注目されている。
【0005】
この従来の印刷版製造法において、マスク層をレーザー光により融解除去する方法が最も一般的な方法として知られているが、この方法ではマスク層の融解除去の際に、レーザー光が感光層に悪影響を与えることや、融解除去後の感光性樹脂の保護が不完全であるために大気中の酸素によって感光層の重合が阻害されることがあった。印刷版となる感光層表面の重合反応が大気中の酸素に阻害されると、現像後の印刷版材の上部のエッジ部が丸みを帯び、印刷によるドットゲインが大きくなるために、印刷版材としての性能が低下することになる。
【0006】
このような欠点を改善するために、特許文献1から3には、感光層を大気中の酸素から遮断するためのバリヤ層を、感光層の表面に設ける方法が提案されている。
【特許文献1】特表平7−506201号公報(平成7年7月6日)
【特許文献2】米国特許公開2005−0227182号公報(平成17年10月13日)
【特許文献3】特許公開2001−356491号公報(平成13年12月26日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のバリヤ層では、バリヤ層とマスク層との密着が十分でないことがある。バリヤ層とマスク層との密着が十分でない場合には、たとえば、マスク層を選択的に除去しマスクを形成する際に、バリヤ層上に残存させたいマスク層までもが除去されてしまうことがある。このことは、誤パターンを有する印刷版を形成する一因となる。そのため、凸パターンを有する印刷版を形成するための印刷版用原版において、バリヤ層とマスク層との密着性の向上が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされ、バリヤ層とマスク層とが良好に密着した印刷版用原版およびこれを用いて形成された印刷版用原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる印刷版用原版は、感光層と、該感光層の上に設けられたバリヤ層と、該バリヤ層の上に設けられ、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層と、を有し、該バリヤ層および該マスク形成層に含まれるバインダーのうちの、それぞれ50質量%以上が互いに同種のバインダーであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる印刷版用原版は、第1の支持体上に形成された感光層、および該感光層の上に設けられたバリヤ層を有する第1の積層体と、第2の支持体上に形成され、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層を有する第2の積層体と、を備える印刷版用原版であって、該バリヤ層および該マスク形成層に含まれるバインダーのうちの、それぞれ50質量%以上が互いに同種のバインダーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる印刷版用原版によれば、バリヤ層およびマスク形成層が、それぞれに含まれるバインダー中に同種のバインダーを含み、該同種のバインダーの含有量は、バリヤ層およびマスク形成層に含まれるバインダーのうちそれぞれ50質量%であることにより、バリヤ層とマスク層(またはマスク形成層、ここで、マスク層とはマスク形成層の一部を選択的に除去した層である)との間を良好に密着させることができる。そのため、マスク形成層の一部を選択的に除去しマスク層を形成する際に、誤パターンの形成を抑制することができる。その結果、本発明にかかる印刷版用原版を用いることで、精度の高いパターンを有する印刷版を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、数値範囲を示す際に、「〜」と表記した場合は、特段の記載がない限り、「以上、以下」を示すものとする。
【0013】
[第1の実施形態にかかる印刷版用原版]
本実施形態にかかる印刷版用原版は、感光層と、該感光層の上に設けられたバリヤ層と、該バリヤ層の上に設けられ、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層と、を有する。
【0014】
(感光層)
まず、本実施形態にかかる印刷版用原版が有する感光層について説明する。本実施形態にかかる感光層は、バインダーと、少なくとも1種のモノマーと、重合開始剤とを含有する。そして、現像液によって洗浄除去されるものである。
【0015】
上記のバインダーとしては、例えば、スチレン/ブタジエン、スチレン/イソプレン樹脂、ポリブタジエン、ポリイソプレンのようなポリジオレフィンやビニル芳香族化合物/ジオレフィンのランダム共重合体及びブロック共重合体、ジオレフィン/アクリロニトリル共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ジオレフィン共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、ジオレフィン/アクリル酸共重合体、ジオレフィン/アクリル酸エステル/アクリル酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールとのグラフト共重合体、両性インターポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース類、エチレンとビニルアセテートとの共重合体、セルロースアセテートブチレート、ポリブチラール、環状ゴム、スチレンとアクリル酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体などが挙げられる。
【0016】
また、感光層に含有させる上記モノマーとしては、曇りのない透明な感光層を形成するために、併用するバインダーに対し相容性を有するものであることが必要である。このようなモノマーの例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3‐ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、へキサンジオールジアクリレート、1,4‐シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリトリトールジアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーのようなアクリル酸エステルや対応するメタクリル酸エステル、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3‐ブタンジオールジイタコネート、1,4‐ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリトリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネートのようなイタコン酸エステル、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリトリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリトリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネートのようなクロトン酸エステル、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリトリトールジマレート、ソルビトールテトラマレートのようなマレイン酸エステル、メチレンビス‐アクリルアミド、メチレンビス‐メタクリルアミド、1,6‐ヘキサメチレンビス‐アクリルアミド、1,6‐へキサメチレンビス‐メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミドのような不飽和カルボン酸アミドなどがある。
【0017】
この感光層に含有させるモノマーは、バインダーに対し、質量比(モノマー/バインダー)で1/20〜5/1の割合であることが好ましく、1/10から1/1の割合であることがより好ましい。上記範囲よりもバインダーの含有量が少ない場合には、感光層の皮膜性が劣化することがあり、また上記範囲を超える場合には、バリヤ層との密着性が低下し、積層したとき空気が混入したり周囲から剥離したりするというトラブルをもたらすことがある。
【0018】
次に、感光層に含有させる重合開始剤について説明する。重合開始剤は、非赤外領域の活性線に対し、感応性を有するものである。また、重合開始剤は、同時に、赤外線に非感光であることが好ましい。このような重合開始剤の例としては、ベンゾフェノンのような芳香族ケトン類や、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α‐メチロールベンゾインメチルエーテル、α‐メトキシベンゾインメチルエーテル、2,2‐ジエトキシフェニルアセトフェノンなどのベンゾインエーテル類などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせたものを使用することもできる。そのほか、置換及び非置換の多核キノンなどを用いることもできる。
【0019】
この重合開始剤の含有量は、感光層の全質量に対して、0.5〜50質量%であることが好ましく、3〜35質量%の範囲であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態における感光層には、必要に応じて、溶剤、重合禁止剤、界面活性剤などが含まれていてもよい。溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2‐メトキシブチルアセテート、3‐メトキシブチルアセテート、4‐メトキシブチルアセテート、2‐メチル‐3‐メトキシブチルアセテート、3‐メチル‐3‐メトキシブチルアセテート、3‐エチル‐3‐メトキシブチルアセテート、2‐エトキシブチルアセテート、4‐エトキシブチルアセテート、4‐プロポキシブチルアセテート、2‐メトキシペンチルアセテートを挙げることができる。この他に、感光層は、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノエチルエーテルのような重合禁止剤、シリコーン系またはフッ素系の消泡剤、アニオン系,カチオン系またはノニオン系の界面活性剤、シリカのようなマット剤、増感剤、可塑剤、着色剤など感光性組成物に慣用されている添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
感光層を支持体の上に形成する方法については、形成できる限り特に制限はなく、印刷版用原版を製造するに際し、支持体上に感光層を積層するのに慣用されている方法の中から任意に選ぶことができる。このような方法としては、例えば、感光層の各成分を所定割合で混合し、適当な溶媒、例えばクロロホルム、テトラクロルエチレン、メチルエチルケトン、トルエンなどに溶解させ、型枠の中に流延して溶剤を蒸発させ、そのまま層形成することができるし、また、溶剤を用いず、ニーダーあるいはロールミルで各成分を混練し、押出機、射出成形機、プレスなどにより所定の厚さの層に成形することができる。このとき感光層の厚さは、通常0.1〜3.0mm、好ましくは0.5〜2.0mmの範囲である。
【0022】
本実施形態において、感光層は、支持体の表面に設けられている。このような支持体としては、一般に、凸版印刷版用の支持体として用いられ、各印刷条件に適した機械的強度、物理的性質を満たす材料を用いることができる。支持体としては、例えば金属シート、プラスチックフィルム、紙及びこれらの複合体などの中から任意に選んで形成させることができる。具体的には、付加重合ポリマー及び線状縮合ポリマーにより形成されるようなポリマー性フィルム、透明なフォーム及び織物、不織布、例えばガラス繊維織物及び鋼、アルミニウムなどの金属が含まれる。支持体は非赤外線に対して透明であることが好ましい。このような支持体としてはポリエチレン又はポリエステルフィルムが挙げられ、特に好ましいのはポリエチレンテレフタレートフィルムである。支持体は、通常50〜300μm、好ましくは75〜200μmの厚さのフィルム又はシート状に形成される。
【0023】
この支持体には、必要に応じて、感光層との間に薄い粘着促進層を有していてもよい。この粘着促進層としては、例えばアクリル樹脂とポリイソシアネートとの混合物からなる層が用いられる。
【0024】
(バリヤ層)
次に、感光層上に積層されるバリヤ層について説明する。バリヤ層は、後述するマスク形成層を赤外線レーザー照射により除去する際に、感光層を保護するとともに、感光層とマスク形成層との間の成分移動を防止する役割を果たすものである。
【0025】
本実施形態において、バリヤ層は、非赤外線に実質的に透明であり、感光層を現像する際の現像溶液に、溶解性、膨潤性、分散性又は浮上性を有し、感光層が大気中の酸素にさらされることを抑制できる層である。
【0026】
このバリヤ層は、少なくとも1種のバインダーを含む。バリヤ層に含まれるバインダーの全質量のうち、50質量%以上を占めるバインダー(以下、「メインバインダー」という)は、後述するマスク形成層に含まれるバインダーのうち、50質量%以上含まれているバインダーと同種のバインダーである。バリヤ層とマスク形成層とで、同種のバインダーを使用することで、双方の密着力を向上させることができる。
【0027】
なお、本実施形態において、「バインダー」とは、ポリマー(重合体)を意味し、「同種のバインダー」とは、1種類の単量体のみの重合によるポリマーの場合においては、同種の単量体の重合により生成されたポリマーのことをいう。2種類以上の単量体の重合によるポリマーの場合においては、同種の単量体を組み合わせた重合により生成されたポリマーを示す。また、重合により得られたバインダーでない場合には、基本単位(繰返し単位)となる分子レベルを単量体として捉え、同種のバインダーであるか否かは、上述の重合により生成されたポリマーと同様である。また、同種の単量体とは、ビニル化合物、ジエン化合物、アセチレン化合物、ニトリル化合物、環式化合物、多塩基酸、多価アルコール、ポリアミン、イソシアン酸エステル、アルデヒド類,フェノール類等、これら重合に使用される単量体の一般的な分類において同種とされる単量体を表すものとする。
【0028】
メインバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、中でも、アミド樹脂であることがより好ましい。メインバインダーとして、熱可塑性樹脂を用いることで、後述するマスク形成層と良好に密着することができる。中でも、アミド樹脂を用いることが好ましい。このアミド樹脂としては、例えば、C36以上のダイマー酸とジアミンより合成されたポリアミドであるヘンケル社製マクロメルト(製品名)が好ましい。
【0029】
バリヤ層の酸素透過係数は、4×10−19〜4×10−13l・m/m・s・Paであることが好ましい。この範囲であれば、大気中の酸素による重合阻害によりレリーフ上部のエッジが丸みを帯び、ドットゲインが増えることを抑制することができる。そのため、画質の低下を抑制することができる。
【0030】
さらに、バリヤ層の酸素透過係数は、1×10−18〜9×10−14l・m/m・s・Paであることがより好ましい。この範囲であれば、現像後のレリーフ上部のエッジ部は約90゜となり、印刷によるドットゲインを最小限に抑えることができる。
【0031】
このように、このバリヤ層を用いることで、より印刷に適するレリーフ形状が得られる印刷版用原版を提供することが可能になる。
【0032】
バリヤ層は、さらに所望に応じ、塗膜性を調節するために、可塑剤や界面活性剤を含有することができる。すなわち、可塑剤を含有させることで多層感光材料を曲げたり、撓めたりするときに生じるしわの発生を抑制することができる。しわが生じるとフレキソ版に傷が残り、画質低下の原因となり得るが、このような問題を回避することができる。
【0033】
バリヤ層に含有される可塑剤としては、例えばトリフェニルホスファイト、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、エチレングリコールジベンゾエート、グリセリルカーボネート、ポリエチレングリコール、トリブチルシトレートやウレタン系オリゴマーなどが挙げられ、界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0034】
このバリヤ層は、酸素の透過量を調整するために十分に厚くする必要があるが、同時に感光層に対する感光性の阻害効果を最小限にするために十分に薄くする必要がある。このため、前記酸素透過係数を有するバリヤ層の厚さは、一般に0.05〜20μm、好ましくは0.1〜10μmの範囲内で選択される。
【0035】
このバリヤ層を形成する際に用いる溶媒としては、隣接する感光層やマスク形成層を冒したり、溶解したりしないものである限り、特に制限はない。このような溶媒としては、例えばジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸n‐プロピル、酢酸n‐ブチルのようなエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドのようなアミド類が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、また2種以上混合して用いてもよい。そのほか、水とアルコールの混合溶媒を用いてもよい。このようなアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキシルアルコール、3‐メチル‐3‐メトキシブタノールなどがある。
【0036】
バリヤ層は、上述の各成分を溶剤に分散または溶解させたバリヤ層形成用組成物を調製し、このバリヤ層形成用組成物をホイラー、ロールコーター、リバースコーター、静電塗装機、スピンコーター、バーコーターなどの装置を用い、感光層又はマスク形成層上にコーティング又はラミネーションすることにより形成される。
【0037】
(マスク形成層)
次に、マスク形成層について説明する。本実施形態にかかるマスク形成層は、少なくとも1種のバインダーと、赤外線吸収剤および非赤外線遮断物質と、を含み、赤外線レーザーにより切除可能な層である。
【0038】
マスク形成層に用いられるバインダーとしては、有機溶媒に可溶であり、これを含む溶液を平面上に塗布し、乾燥した後に皮膜を形成するものであり、かつ、赤外線レーザーを照射したときに、赤外線吸収剤により発生する熱によって、溶融除去されるものであることが必要である。
【0039】
本実施形態では、マスク形成層に含まれるバインダー全質量のうち、50質量%以上を占めるバインダー(以下、「メインバインダー」という)が、バリヤ層のメインバインダーと同種のバインダーである。バリヤ層とマスク形成層とで、同種のメインバインダーを使用することで、双方の密着力を向上させることができる。メインバインダーの含有量は、バインダーの全質量に対して、50〜100質量%であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0040】
マスク形成層には、メインバインダーの他に、要求特性(物性値等)にあったものでメインバインダーに相溶するバインダーを含んでいてもよい。一般に可塑剤と呼ばれるものもフタル酸エステルなどの単量体等を含んでいてもよい。
【0041】
マスク形成層には、赤外線吸収剤が含有されている。この赤外線吸収剤は、赤外線レーザーを照射したときに、これを吸収して発熱し、バインダーを融解除去する役割を果たす。
【0042】
赤外線吸収剤としては、赤外線レーザーを吸収するものであれば特に限定されるものではなく、例えばカーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラックなどの黒色顔料や、フタロシアニン、ナフタロシアニン系の緑色顔料や、グラファイト、鉄粉、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、硫化クロム、ケイ酸塩化合物や酸化クロム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化タングステンなどの金属酸化物や、これらの金属の水酸化物、硫酸塩、さらに、ビスマス、鉄、マグネシウム、アルミニウムの金属粉などが用いられる。
【0043】
これらの中でも、光熱変換率、経済性及び取り扱い性の面から、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは粒径が10〜100nmの広い範囲で使用が可能であり、粒径が小さいほど赤外線に対する感度も高くなる。
【0044】
また、上記の物質以外に、赤外線又は近赤外線を吸収する染料も、赤外線吸収剤として使用することができる。
【0045】
これらの染料としては、700〜20,000nmの範囲に極大吸収波長を有するものであれば何れの染料も使用できるが、好ましい染料としては、シアニン系、フタロシアニン系、フタロシアニン金属錯体系、ナフタロシアニン系、ナフタロシアニン金属錯体系、ジチオール金属錯体系、ナフトキノン系、アントラキノン系、インドフェノール系、インドアニリン系、ピリリウム系、チオピリリウム系、スクワリリウム系、クロコニウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、トリフェニルメタンフタリド系、トリアリルメタン系、フェノチアジン系、フェノキサジン系、フルオラン系、チオフルオラン系、キサンテン系、インドリルフタリド系、スピロピラン系、アザフタリド系、クロメノピラゾール系、ロイコオーラミン系、ローダミンラクタム系、キナゾリン系、ジアザキサンテン系、ビスラクトン系、フルオレノン系、モノアゾ系、ケトンイミン系、ジアゾ系、ポリメチン系、オキサジン系、ニグロシン系、ビスアゾ系、ビスアゾスチルベン系、ビスアゾオキサジアゾール系、ビスアゾフルオレノン系、ビスアゾヒドロキシペリノン系、アゾクロム錯塩系、トリスアゾトリフェニルアミン系、チオインジゴ系、ペリレン系、ニトロソ系、1:2型金属錯塩系、分子間型CT系、キノリン系、キノフタロン系、フルギド系の酸性染料、塩基性染料、色素、油溶性染料や、トリフェニルメタン系ロイコ色素、カチオン染料、アゾ系分散染料、ベンゾチオピラン系スピロピラン、3,9‐ジブロモアントアントロン、インダンスロン、フェノールフタレイン、スルホフタレイン、エチルバイオレット、メチルオレンジ、フルオレッセイン、メチルビオロゲン、メチレンブルー、ジムロスベタインなどが挙げられる。
【0046】
これらの中でも、最大吸収波長が750〜2,000nmの範囲にある、シアニン系染料、アズレニウム系染料、スクアリリウム系染料、クロコニウム系染料、アゾ系分散染料、ビスアゾスチルベン系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、ペリレン系染料、フタロシアニン系染料、ナフタロシアニン金属錯体系染料、ポリメチン系染料、ジチオールニッケル錯体系染料、インドアニリン金属錯体染料、分子間型CT染料、ベンゾチオピラン系スピロピラン、ニグロシン染料などが好適である。
【0047】
これらの赤外線吸収剤は、単独でも感度の向上効果はあるが、2種以上を併用して用いることによって、さらに感度を向上させることができる。また、吸収波長の異なる2種以上の赤外線吸収剤を併用することにより、2種以上の発信波長の異なるレーザーに対応し得るようにすることもできる。
【0048】
この赤外線吸収剤の含有量は、赤外吸収に関して効果がある限り、特に制限はないが、バインダー100質量部に基づき、0.001〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.05〜5質量部である。赤外線吸収剤の含有量が0.001質量部よりも少ない場合にはレーザーに対する感度の向上効果がみられず、10質量部よりも多い場合には、皮膜の柔軟性が低下することがある。
【0049】
非赤外線遮断物質としては、可視光、紫外線を反射又は吸収するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、暗色の無機顔料及びこれらの組合せが挙げられる。好ましい非赤外線遮断物質としてはカーボンブラック、グラファイトが挙げられる。
【0050】
特にカーボンブラック、グラファイトは、非赤外線遮断物質としての機能と、赤外線吸収剤としての機能の両方を果たすことができる。同様の機能は、金属や合金でもみられるが、経済性、取り扱いの面からカーボンブラック、グラファイトが特に好適に用いられる。
【0051】
これらの非赤外線遮断物質は、マスク形成層が所定の光学濃度、例えば、2.0以上の光学濃度となるように添加することが好ましい。
【0052】
この非赤外線遮断物質の含有量は、非赤外線の遮蔽に関して効果的な量であればよく、バインダー100質量部に対して、5〜40質量部、好ましくは15〜25質量部である。非赤外線遮断物質の含有量が、5質量部よりも少ない場合には、非赤外線の遮蔽効果が得られず、40質量部よりも多い場合には皮膜の柔軟性が低下する。
【0053】
これら赤外線吸収剤と非赤外線の遮断物質として同一物質を用いる場合は、バインダー100質量部に対して、10〜30質量部が好ましい。
【0054】
マスク形成層には、所望に応じレベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、接着性改良剤、塗布助剤などを添加することができる。可塑剤は、本発明の多層感光材料を曲げたり、撓めたりしたときのしわの発生を抑制するために添加するものである。この可塑剤としては、例えばトリフェニルホスファイト、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、エチレングリコールジベンゾエート、グリセリルカーボネート、ポリエチレングリコール、トリブチルシトレートやウレタン系オリゴマーなどが挙げられる。また、界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0055】
マスク形成層は、赤外線レーザーに露光したときに速やかに実質的に除去されるように十分に薄くなければならないし、またマスク形成後に非赤外線を効果的に遮断できるように非赤外線に対して十分に不透明でなければならない。このマスク形成層の厚さとしては、一般に0.05〜20μm、好ましくは0.1〜10μmの範囲内で選ばれる。
【0056】
本発明におけるマスク形成層は、バインダーと、赤外線吸収剤及び非赤外線遮断物質とを含む溶液を常法に従い塗布することによって形成することができる。マスク形成層を形成するための好ましい方法としては、適当な溶剤を用いてバインダーを溶解し、そこに赤外線吸収剤及び非赤外線遮断物質を分散させた後に、場合により設けるカバーシート上にコーティングし、前述の方法でバリヤ層を形成したのち、このカバーシートを感光層上にラミネート又はプレス圧着して作成する方法などが有効である。特に、この方法はカーボンブラック又はグラファイトを赤外線吸収剤及び非赤外線遮断物質として用いた場合に有効である。
【0057】
(カバーシート)
本実施形態にかかる印刷版用原版においては、通常のフレキソ印刷版製造用感光材料の場合と同じように、必要に応じて、マスク形成層の上にカバーシートを設けることができる。このカバーシートとしては、特に制限はないが、印刷版用原版の保護に必要とされる性能を満たす、公知の金属、プラスチックフィルム、紙およびこれらの複合体の中から任意に選択することができる。これらには、付加重合ポリマー及び線状縮合ポリマーにより形成されるようなポリマー性フィルム、透明なフォーム及び織物、不織布及びスチール、アルミなどの金属が含まれる。好ましくは、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムあるいはこれらのフィルムを積層したものである。カバーシートは、通常20〜200μmの厚さのフィルムとして用いられる。これらは、マスク形成層を保護する目的で存在するものであり、赤外線レーザーで描画される前には除去される。このカバーシートはまた、必要に応じてマスク形成層との間を剥離層で被覆されていてもよい。
【0058】
〔第2の実施形態にかかる印刷版用原版〕
次に、第2の実施形態にかかる印刷版用原版について説明する。第2の実施形態にかかる印刷版用原版は、第1の実施形態と異なり、バリヤ層およびマスク形成層が、それぞれ異なる支持体に形成されている。
【0059】
第2の実施形態にかかる印刷版用原版は、第1の支持体上に形成された感光層、および該感光層の上に設けられたバリヤ層を有する第1の積層体と、第2の支持体上に形成された赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層を有する第2の積層体と、を備える。
【0060】
第1の支持体および第2の支持体としては、第1の実施形態で説明した支持体と同様である。また、感光層についても同様である。さらに、バリヤ層およびマスク形成層は、それぞれに含まれるバインダーのうち50質量%以上を占めるバインダー(「メインバインダー」という)が互いに同種のバインダーである。
【0061】
本実施形態にかかる印刷版用原版は、バリヤ層の露出面(バリヤ層の表面のうち、感光層と接している面の反対側の面)と、マスク形成層の上面(マスク形成層の表面のうち、第2の支持体と接している面の反対側の面)とを対向させ、貼り合わせることで、感光層の上方にマスク形成層が配置された印刷版用原版を得ることができる。また、第2の実施形態にかかる印刷版用原版では、マスク形成層をパターニングして、あらかじめパターンが形成されたマスク層を貼り合わせることもできる(後述の「印刷版の製造方法」の項を参照)。
【0062】
〔印刷版の製造方法〕
次に、上述した印刷版用原版を用いて印刷版を形成する方法について説明する。本実施形態にかかる印刷版の製造方法は、マスク形成層を赤外線レーザーにより選択的に除去し、マスク層を形成するマスク層形成工程と、感光層を、前記マスク層を介して非赤外線で全面露光してマスク画像に基づく潜像画像を形成するパターン形成工程と、前記潜像画像が形成された印刷版用原版を1種類以上の現像液で処理し、印刷版材画像を形成する現像工程と、を含む。
【0063】
(マスク層形成工程)
まず、印刷版用原版のマスク形成層を選択的に除去し、マスク層を形成する。本発明では、マスク形成層の選択的除去のために使用される赤外線レーザーとして、波長が750〜2,000nmのものを使用することができる。すなわち、アルゴンイオン、クリプトンイオン、ヘリウム−ネオン、ヘリウム−カドミウム、ルビー、ガラス、チタン、サファイア、色素、窒素、金属蒸気、半導体、YAGなどの各種レーザーから必要な条件に適したものを用いることができる。これらの中でも、このタイプの赤外線レーザーとしては、750〜880nmの半導体レーザーや1,060nmのNd−YAGレーザーが好適に用いられる。これら赤外線レーザーの発生ユニットは、駆動系ユニットとともにコンピューターで制御されており、感光層上のマスク形成層を選択的に露光することにより、デジタル化された画像情報をフレキソ印刷版用感光材料に付与することができる。
【0064】
(パターン形成工程)
次に、前記マスク層を介して、感光層を非赤外線で全面露光してマスク画像に基づく潜像画像を形成する。感光層に照射する非赤外線としては、赤外線より波長が短い電磁波、好ましくは波長150〜600nmの電磁波、さらに好ましくは、波長300〜400nmの電磁波がよい。この非赤外線の光源としては、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプなどが挙げられる。露光後のレリーフ像をより安定にするために、現像時の未硬化部の洗い出しに対して、支持体の側からも全面露光を行ってもよい。
【0065】
(現像工程)
次に、1種類以上の現像液で処理し、印刷版材画像を形成する。これにより、潜像画像を明確化することができる。この現像に用いられる現像液としては、感光層を溶解する性質を備えるものであれば、有機溶液、水、水性又は半水性溶液の何れであってもよい。現像液の選択は、除去されるべき樹脂の化学的性質に依存する。適当な有機溶媒現像液としては、芳香族又は脂肪族炭化水素及び脂肪族又は芳香族ハロ炭化水素溶媒又はそれらの溶媒と適当なアルコールとの混合物が挙げられる。半水性現像液は、通常、水と水に混和しうる有機溶媒及びアルカリ性材料を含有している。水性現像液は、通常、水とアルカリ性材料とを含有している。例えば、ヘプチルアセテート、3‐メトキシブチルアセテートなどのエステル類、石油留分、トルエン、デカリンなどの炭化水素類、テトラクロロエチレンなどの塩素系溶剤、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアなどの水溶液が使用される。また、これらの溶剤にプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのアルコール類を混合したものを用いることも可能であり、洗い出しは、浸漬、ノズルからの噴射、ブラシによるブラッシングを含む任意の方法で行われる。
【0066】
(他の製造方法)
また、マスク形成層と感光層とが、それぞれ別の支持体に形成された態様をとる印刷版用原版を用いて印刷版を形成する場合には、上述のように、マスク形成層と感光層とを貼り合わせた後に、パターンを形成する方法に限定されることはない。たとえば、マスク形成層と感光層とを貼り合わせる前に、第2の積層体に対して、マスク層形成工程と同様の手法により、マスク形成層に赤外線レーザーを照射して、パターンを有するマスク層を形成する。その後、第1の積層体と貼り合わせて、マスク層を感光層と対向させる。具体的には、マスク層とバリヤ層とが接触することになる。その後、パターン形成工程および現像工程を経ることで、本実施形態にかかる印刷版を形成することができる。
【0067】
特に別様に指示しない限り、本実施形態にかかる印刷版用原版という用語は、凸版印刷に適した任意の形態のプレート又は構成体を包含し、平坦シート形状及び継ぎ目無し連続形状を含むが、これらに限定されない。
【0068】
本実施形態にかかる印刷版用原版は、バリヤ層およびマスク形成層に含まれるメインバインダーが同種のバインダーである。そのため、バリヤ層とマスク形成層(またはマスク層)の密着力を向上することができる。よって、マスク形成層の一部を選択的に除去しマスクを形成する際に、誤パターンの形成を抑制することができ、その結果、本発明にかかる印刷版用原版を用いることで、精度の高いパターンを有する印刷版を製造することができる。
【実施例】
【0069】
[実施例]
(バリヤ層)
ポリアミド樹脂(ヘンケル社製、商品名「マクロメルト6900」)をトルエン/イソブタノール=1/1の混合液に溶解し、10質量%の均一な溶液からなるバリヤ層形成用組成物を調製した。次に、このバリヤ層形成用組成物を用いて、厚さが100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるカバーシートに塗布した。その後、80℃で5分間乾燥して、膜厚4μmのバリヤ層を形成した。
【0070】
(感光層)
次に、質量平均分子量240,000のスチレン/ブタジエン共重合体(JSRシェルエラストマー社製、商品名「D−1155」)100質量部、質量平均分子量1,000の液状1,2‐ポリブタジエン(日ソー社製、商品名「ニッソーPB−1000」)70質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート10質量部、メトキシフェニルアセトン3質量部、2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシトルエン0.05質量部、染料(オリエント化学社製、商品名「オイルブルー#503」)0.002質量部およびテトラヒドロフラン0.2質量部を混合して、感光層形成用組成物を調製した。
【0071】
この感光層形成用組成物を、高粘度用ポンプで押出機に圧入し、押出機内で混練しながら、T型ダイスからポリエチレンテレフタレートシート(第1の支持体)に押し出し、1.7mmの厚さの感光層を形成した。
【0072】
次に、バリヤ層と、感光層とをラミネートローラを使用して貼り合わせ、第1の支持体、感光層およびバリヤ層とからなる「第1の積層体」を得た。
【0073】
(マスク形成層)
次に、ポリアミド樹脂(ヘンケル社製、商品名「マクロメルト6900」)をトルエン/イソブタノール=1/1に溶解し、10質量%の均一な溶液を調製した。その溶液に固形分濃度が30質量%のカーボンブラック(御国色素社製、商品名「MHIブラック#217」)を、カーボンブラックがポリアミド樹脂に対して30質量部になるよう加え、マスク形成層用組成物を調製した。
【0074】
次に、このマスク形成層用組成物を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるカバーシート(第2の支持体)上に塗布して、80℃で5分間乾燥して、膜厚2μmのマスク形成層を形成した。以上の工程により、ポリエチレンテレフタレートフィルムとマスク形成層とからなる第2の積層体を得た。
【0075】
(貼り合わせ)
次に、第1の積層体のバリヤ層と接触しているポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、バリヤ層の露出面と第2の積層体のマスク形成層の露出面とが向き合うように、ラミネートローラを使用してラミネートし、実施例にかかる印刷版用原版を得た。
【0076】
(評価)
次に、実施例にかかる印刷版用原版を用いて、感光層側から75mJ/cmのバック露光を行った。ついで、カバーシート(第2の支持体)を剥離し、NIRレーザー書き込み装置(エスコフラッフィックス社製CDI‐spark)ドラムに固定し、800rpmで回転させ、19WのエネルギーのNIRレーザーを用いて、解像度2540dpiになるようにレーザー照射し、マスク形成層を選択的に除去した。
【0077】
カバーシートを剥離したF1をハンドリングする際に、バリヤ層およびマスク層間の剥離は見られず、NIRレーザー照射後にマスク層の非除去部の細線にも剥離がみられなかった。
【0078】
[比較例]
(印刷版用原版の調製)
実施例におけるマスク形成層用組成物中のポリアミド樹脂をエチルセルロース(信越化学社製、商品名「エトセルSTD7」)に変更した以外は、実施例と同様の方法で、比較例にかかる印刷版用原版を得た。
【0079】
(評価)
実施例と同様の方法で、マスク形成層の一部を選択的に除去させた。カバーシートを剥離したF2をハンドリングする際に、マスク層とバリヤ層との間で、部分的な剥離が観察され、NIRレーザー照射後にマスク層の非除去部の細線にも若干の剥離がみられた。
【0080】
以上のように、実施例にかかる印刷版用原版では、比較例と比して、バリヤ層とマスク層との剥離が見られず、精度の高いパターンを有する印刷版を製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
種々の凸版印刷法において、有用な印刷版用原版を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光層と、
該感光層の上に設けられたバリヤ層と、
該バリヤ層の上に設けられ、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層と、を有し、
該バリヤ層および該マスク形成層に含まれるバインダーのうちの、それぞれ50質量%以上が互いに同種のバインダーであることを特徴とする印刷版用原版。
【請求項2】
第1の支持体上に形成された感光層、および該感光層の上に設けられたバリヤ層を有する第1の積層体と、
第2の支持体上に形成され、赤外線レーザーを照射することにより除去可能なマスク形成層を有する第2の積層体と、を備える印刷版用原版であって、
該バリヤ層および該マスク形成層に含まれるバインダーのうちの、それぞれ50質量%以上が互いに同種のバインダーであることを特徴とする印刷版用原版。
【請求項3】
前記バインダーは、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷版用原版。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、アミド樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の印刷版用原版。
【請求項5】
前記感光層は、支持体の上に設けられており、エラストマー性バインダー、少なくとも1種のモノマー、および重合開始剤を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の印刷版用原版。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の印刷版用原版を用いた印刷版の製造方法であって、
前記マスク形成層を、赤外線レーザーにてパターニングすることを特徴とする印刷版の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の印刷版用原版を用いた印刷版の製造方法であって、
前記マスク形成層に、赤外線レーザーを照射してパターンを有するマスク層を形成し、該マスク層をバリヤ層に貼り合わせることを特徴とする印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2009−20449(P2009−20449A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184762(P2007−184762)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】