説明

印刷物製造方法および装置

【課題】裁断機を用いずに、輪郭を有する図柄の印刷物を短時間でかつ低コストで得る。
【解決手段】フィルム28に接着層29が形成されるとともに、この接着層28に、微小な粒子31が樹脂に敷き詰められたようにされて形成されたコーティング層30が形成された印刷シート17に、輪郭用紫外線硬化型インクを用いて印刷しようとする図柄33の輪郭の形状に形成されたベース32を印刷するとともに印刷したベース32に紫外線を照射してベース32を硬化する。次に硬化したベース32に図柄用紫外線硬化型インクを用いて図柄33を印刷するとともに印刷した図柄33に紫外線を照射して図柄33を硬化する。次にフィルム28からベース32を剥がすことにより、輪郭を有する図柄33が形成された印刷物36が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに印刷した図柄を、その図柄の輪郭に沿って切断することで印刷物を製造する印刷物製造方法および装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷物の製造方法として、文字、記号、および図形等の図柄およびその輪郭を機械で読み取り可能なデータとして形成してメモリに記憶し、そのデータに基づいて図柄を印刷シートに印刷するとともに、印刷された図柄の輪郭に沿って印刷シートを裁断機により裁断する印刷物製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、図柄を印刷シートに印刷する方法として、紫外線(UV)の照射によって硬化する紫外線硬化型インク(以下、UVインクともいう)を用いて、図柄を印刷シートに印刷する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載の印刷方法を始め、従来のUVインクを用いた印刷方法で図柄が印刷された印刷シートも、一般に、前述と同様に裁断機で裁断されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2905074号公報
【特許文献2】特開2009−248433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の従来の印刷物の製造方法では、印刷する図柄およびその輪郭を機械で読み取り可能なデータに変換する処理が必要となる。また、裁断機で図柄の輪郭に沿って裁断する必要がある。更に、図柄の輪郭の位置と裁断機による裁断位置とが異なる場合、これらの位置の対応関係のデータを記憶させる必要がある。このため、輪郭を有する図柄の印刷物の製造に多くの時間を要するばかりでなく、コストが高いという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、裁断機を用いることなく、輪郭を有する図柄の印刷物を短時間でかつ低コストで得ることができる印刷物製造方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明に係る印刷物製造方法および印刷物装置では、印刷シートとして、フィルムに接着層が形成されるとともに前記接着層にコーティング層が形成された印刷シートが用いられる。そして、この印刷シートに、輪郭用紫外線硬化型インクを用いて、印刷しようとする図柄の輪郭の形状に形成されたベースが印刷されるとともに印刷されたベースに紫外線が照射されてベースが硬化する。次に硬化したベースに図柄用紫外線硬化型インクを用いて図柄が印刷されるとともに印刷された図柄に紫外線が照射されて図柄が硬化する。次にフィルムからベースが剥がされることにより、輪郭を有する図柄が形成された印刷物が製造される。
【0008】
したがって、図柄の輪郭の形状に形成されたベースをフィルムから単に剥がすだけで、所望の輪郭を有する図柄の印刷物を簡単にかつ短時間に得ることができる。これにより、図柄の輪郭に沿って裁断する裁断作業が不要となり作業工数を削減することができるとと
もに裁断機を不要にすることができる。しかも、印刷する図柄のデータに対する処理を不要にできるとともに、図柄の輪郭と裁断機の裁断位置とをメモリに記憶させる必要もなくなる。その結果、所望の輪郭を有する図柄の印刷物を安価に製造することが可能となる。
【0009】
また、紫外線照射による輪郭用UVインクからなるベースの硬化で、特別の強度確保の手段を講じなくてもベースの強度を確保することが可能である。
更に、コーティング層に微小な粒子を敷き詰めるように設けることで、印刷シートを上下に重ねても、上下の印刷シートは容易に剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる印刷物製造方法の実施の形態の一例に用いられる印刷物製造装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【図2】この例の印刷物製造装置を模式的にかつ部分的に示す図である。
【図3】(a)ないし(e)は、この例の印刷物製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明にかかる印刷物製造方法の実施の形態の一例に用いられる印刷物製造装置の一例を模式的に示すブロック図、図2はこの例の印刷物製造装置を模式的にかつ部分的に示す図である。
【0012】
この例の印刷物製造装置では、液体の紫外線硬化型インク(UVインク)を用いて印刷物を製造する。UVインクは、ビヒクル、光重合開始剤および顔料の混合物に、消泡剤、重合禁止剤等の補助剤が添加されて調合される。その場合、ビヒクルは、光重合硬化性を有するオリゴマー、モノマー等を、反応性希釈剤により粘度調整して調合される。
【0013】
図1および図2に示すように、印刷物製造装置1は、インク供給ユニット2、搬送ユニット3、印刷ヘッドユニット4、紫外線照射ユニット5、キャリッジユニット6、廃インク回収ユニット7、検出器群8、および制御部9を備えている。
【0014】
インク供給ユニット2はインクカートリッジ10から各種のインクが供給されるとともに、印刷ヘッドユニット4にインクを送給する。この例の印刷物製造装置1に用いられるインクカートリッジ10は、例えばニス等の無色透明なクリアーインク(CL)を収納するクリアーインク収納容器11、白(W)のUVインクを収納する白UVインク収納容器12、ブラック(Bk)のUVインクを収納するブラックUVインク収納容器13、マゼンタ(M)のUVインクを収納するマゼンタUVインク収納容器14、シアン(C)のUVインクを収納するシアンUVインク収納容器15、およびイエロー(Y)のUVインクを収納するイエローUVインク収納容器16を有している。この例では、白(W)のUVインクが図柄の輪郭を形成するための輪郭用UVインクとして用いられ、また、白(W)のUVインク、ブラック(Bk)のUVインク、マゼンタ(M)のUVインク、シアン(C)のUVインク、およびイエロー(Y)のUVインクが図柄用UVインクとして用いられる。そして、インクカートリッジ10の各インク収納容器内のインクがそれぞれ個別にインク供給ユニット2に供給されるとともに、インク供給ユニット2から各インクがそれぞれ個別に印刷ヘッドユニット4に供給される。
【0015】
搬送ユニット3は、印刷シート17を支持しながら図2の図面に直交する方向に移動することで、印刷シート17を搬送する。
印刷ヘッドユニット4は、印刷シート17の移動方向と直交する左右方向(印刷シート17の幅方向)に往復移動可能なキャリッジユニット6に設けられる。したがって、印刷ヘッドユニット4はキャリッジユニット6と一体的に往復移動する。この印刷ヘッドユニ
ット4は、図示しないが各インク毎にキャリッジユニット6の移動方向にシリアルに配設されてそれぞれ対応するインクを噴射するインク噴射ヘッドとして構成される。各インク噴射ヘッドにはそれぞれノズル(不図示)が設けられるとともに、各ノズルにはそれぞれインクが収納された圧力室が設けられる。各圧力室内のインクがそれぞれ個別に加圧されて対応するノズルから噴射される。そして、印刷ヘッドユニット4が前述のように往復移動しながら各ノズルからそれぞれインクを搬送ユニット3上の印刷シート17に噴射することで、印字が行われる。
【0016】
紫外線照射ユニット5は2つの第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bからな
り、これらの第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bは、ともにキャリッジユニ
ット6に設けられる。その場合、第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bはそれ
ぞれ印刷ヘッドユニット4をその移動方向に挟んで配設されている。そして、第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bは、それぞれ印刷ヘッドユニット4から噴射されて
印刷シート17に付着したUVインクに対して紫外線を照射する。
【0017】
廃インク回収ユニット7は、廃インク吸引キャップ18、フラッシング液回収容器19、廃インク吸引ポンプ20、廃インク回収通路21、および廃インク回収タンク22を有する。廃インク吸引キャップ18は印刷ヘッドユニット4に密着されて廃インク吸引ポンプ20の駆動で印刷ヘッドユニット4の各ノズルに残留する廃インクを吸引する。また、フラッシング液回収容器19は、印刷ヘッドユニット4の各ノズルのフラッシングのため、各ノズルから強制的に噴射されたUVインクのフラッシング液を回収する。このフラッシング液回収容器19内のフラッシング液も廃インク吸引ポンプ20の駆動で吸引される。そして、廃インク吸引キャップ18からの廃インクおよびフラッシング液回収容器10からのフラッシング液は廃インク回収通路21を通して廃インク回収タンク22に回収される。
【0018】
検出器群8は、インク量の検出センサおよび印刷シート17の量の検出センサ等の、印刷物製造装置1の状況を監視してその結果を各種データとして制御部9に出力する。
制御部9は、インターフェース(I/F)23、中央処理装置(CPU)24、メモリ25、およびユニット制御回路26を有する。そして、制御部9は、外部装置であるコンピュータ等の入力装置27から印刷データが入力されると、CPU24がこのデータをメモリ25に格納されているプログラムにしたがって演算処理する。更に、CPU24による演算処理の結果に基づいて、ユニット制御回路26が各ユニット2,3,4,5,6,7を
制御してすることで、印刷シート17に印刷データが印字される。
【0019】
ところで、本発明の印刷物製造方法の実施の形態のこの例では、この印刷物製造装置1が用いられる。図3(a)ないし(e)は、この例の印刷物製造方法を説明する図である。図3(a)に示すように、この例の印刷物製造方法では、印刷シート17として、フィルム28の表面に接着層29が形成されるとともに、この接着層29の表面にコーティング層30が形成された3層の印刷シート17が用いられる。フィルム28は比較的柔らかく弾性的に湾曲変形可能であるが、割れない樹脂等が用いられる。また、接着層29はある程度の力で剥がれることが可能な接着剤で構成されている。更に、コーティング層30は、図3(b)に縦断面で示すように、例えば樹脂等からなる微小な粒子31が樹脂内に敷き詰められて介在するような状態にされて、コーティング層30の表面が均一にかつ滑らかに形成されている。この微小な粒子31により、印刷シート17が上下に重ねられても、上下の印刷シート17どうしの接着力が弱く、これらの上下の印刷シート17は互いに容易に剥離することが可能となる。このコーティング層30には、例えば市販のテープ状の修正液等を用いることができる。
【0020】
図3(c)に示すように、この印刷シート17のコーティング層30の表面に、白等の
UVインクを用いてベース32が印刷される。このベース32は印刷しようとする図柄の輪郭を形成するものである。すなわち、入力装置27から印刷しようとする図柄とその輪郭が制御部9に入力されると、印刷物製造装置1は印刷ヘッドユニット4を作動して印刷シート17にその輪郭形状のベース32を印刷するとともに、第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bの少なくとも一方を作動して印刷したベース32に紫外線を照射す
る。これにより、印刷シート17に印刷されたベース32が硬化される。このベース32は輪郭を形成する部分であるため、ある程度の厚みを有するようにして強度を確保する必要がある。
【0021】
次いで、図3(c)に示すように、このベース32の表面に、印刷ヘッドユニット4が、ブラック(Bk)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびイエロー(Y)の各色のUVインクを用いて図柄33を印刷するとともに、第1および第2の紫外線照射ユニット5a,5bの少なくとも一方を作動して印刷したベース32に紫外線を照射する。これによ
り、ベース32に印刷された図柄33が硬化される。最後に、印刷ヘッドユニット4が、クリアーインク(CL)を用いて図柄33およびベース32の図柄33以外の部分をコーティングすることで、クリア層34が形成される。このクリア層34により、図柄33およびベース32の図柄33以外の部分の光沢性が高められる。こうして、コーティング層30の表面に所望の輪郭のベース32が形成されるとともに、このベース32に図柄33が印刷された印刷物基材35が製造される。なお、このクリアーインク(CL)のコーティングは、図柄33等の光沢性をそれほど求められない場合には省略することができる。
【0022】
このようにして製造された印刷物基材35においては、図3(d)に示すように印刷物36を得るために、ベース32が印刷シート17のフィルム30から剥がされる。このとき、ベース32が硬化されて硬くなっているとともに接着層29およびコーティング層30が平面上でフィルム28から容易に分断可能であるため、これらの接着層29およびコーティング層30はベース32から容易に剥がれる。このようにして、図3(e)に示すように輪郭32aを有する図柄33が形成された印刷物36が得られる(なお、図3(e)には、クリア層34が図示省略されている)。このとき、ベース32には、接着層29およびコーティング層30がベース32と同形状にベース32に接着した状態でベース32とともに剥離する。
【0023】
この例の印刷物製造方法によれば、フィルム28に接着層29が形成されるとともに接着層29にコーティング層30が形成された印刷シート17に、UVインクを用いて印刷しようとする図柄の輪郭の形状に形成されたベースを印刷するとともに印刷したベース32に紫外線を照射してベース32を硬化する。次に硬化したベース32にUVインクを用いて図柄33を印刷するとともに印刷した図柄33に紫外線を照射して図柄33を硬化する。次にフィルム28からベース32を剥がすことにより、輪郭を有する図柄33が形成された印刷物基材35を形成する。そして、図柄33の輪郭の形状に形成されたベース32をフィルム28から剥がすことで、印刷物36を製造している。このとき、ベース32が硬化しているとともにフィルム28が比較的柔らかく湾曲変形可能であるため、ベース32は接着層29およびコーティング層30とともにフィルム28から容易に剥がされる。
【0024】
したがって、ベース32をフィルム28から単に剥がすだけで、所望の輪郭を有する図柄33の印刷物36を簡単にかつ短時間に得ることができる。これにより、図柄33の輪郭に沿って裁断する裁断作業が不要となり作業工数を削減することができるとともに裁断機を不要にすることができる。しかも、印刷する図柄33のデータに対する処理を不要にできるとともに、図柄33の輪郭と裁断機の裁断位置とをメモリ25に記憶させる必要もなくなる。その結果、所望の輪郭を有する図柄33の印刷物36を安価に製造することが可能となる。
【0025】
また、紫外線照射によるUVインクからなるベース32の硬化で、強度確保のための特別の手段を講じなくてもベース32の強度を確保することが可能である。
更に、コーティング層30に微小な粒子31を敷き詰めるように設けることで、印刷シート17が上下に重ねられても、上下の印刷シート17は接着層28が設けられても容易に剥がすことが可能となる。
【0026】
なお、本発明は前述の実施の形態の各例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載されている技術的事項の範囲内で種々設計変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…印刷物製造装置、2…インク供給ユニット、3…搬送ユニット、4…印刷ヘッドユニット、5…紫外線照射ユニット、5a…第1の紫外線照射ユニット、5b…第2の紫外線照射ユニット、6…キャリッジユニット、7…廃インク回収ユニット、8…検出器群、9…制御部、10…インクカートリッジ、11…クリアーインク収納容器、12…白UVインク収納容器、13…ブラックUVインク収納容器、14…マゼンタUVインク収納容器、15…シアンUVインク収納容器、16…イエローUVインク収納容器、17…印刷シート、18…廃インク吸引キャップ、19…フラッシング液回収容器、20…廃インク吸引ポンプ、21…廃インク回収通路、22…廃インク回収タンク、24…中央処理装置(CPU)、25…メモリ、26…ユニット制御回路、28…フィルム、29…接着層、30…コーティング層、31…微小な粒子、32…ベース、33…図柄、34…クリア層、35…印刷物基材、36…印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムに接着層が形成されるとともに前記接着層にコーティング層が形成された印刷シートに、輪郭用紫外線硬化型インクを用いて印刷しようとする図柄の輪郭の形状に形成されたベースを印刷するとともに印刷した前記ベースに紫外線を照射して前記ベースを硬化し、
次に硬化した前記ベースに図柄用紫外線硬化型インクを用いて前記図柄を印刷するとともに印刷した前記図柄に紫外線を照射して前記図柄を硬化し、
次に前記フィルムから前記ベースを剥がすことにより、前記輪郭を有する前記図柄が形成された印刷物を得る
ことを特徴とする印刷物製造方法。
【請求項2】
前記コーティング層に微小な粒子が敷き詰められるように設けられている請求項1に記載の印刷物製造方法。
【請求項3】
輪郭用紫外線硬化型インクおよび図柄用紫外線硬化型インクを供給するインク供給ユニットと、
前記インク供給ユニットから供給された前記輪郭用紫外線硬化型インクおよび前記図柄用紫外線硬化型インクを用いて、フィルムに接着層が形成されるとともに前記接着層にコーティング層が形成された印刷シートに図柄の輪郭の形状にされたベースを印刷するとともに前記ベースに図柄を印刷する印刷ヘッドユニットと、
前記印刷ヘッドユニットにより前記印刷シートに印刷された前記ベースおよび前記図柄に紫外線を照射して前記ベースおよび前記図柄を硬化する紫外線照射ユニットと、
前記印刷シートを搬送する搬送ユニットと、
前記インク供給ユニット、前記印刷ヘッドユニット、前記紫外線照射ユニット、および前記搬送ユニットを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする印刷物製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−91327(P2012−91327A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238254(P2010−238254)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】