説明

印刷用凸版、印刷物の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および素子

【課題】凸版印刷法を用いて有機EL素子を作製する際、印刷用凸版からの溶出物による有機発光層の汚染が生じず、素子性能の低下を防止することのできる、印刷用凸版、印刷物の製造方法、該印刷用凸版を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および該製造方法により製造された有機EL素子を提供すること。
【解決手段】インキを凸版の凸部201に供給し、凸部201にあるインキを被印刷体に転写し、被印刷体表面にインキからなるパターンを形成する際に用いる印刷用凸版において、凸版の凸部201が樹脂からなり、かつ、少なくとも前記凸部表面がバリア層300で覆われていることを特徴とする印刷用凸版と、印刷物の製造方法、該印刷用凸版を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および該製造方法により製造された有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷法に用いられる印刷用凸版、また、該印刷用凸版を用い製造された印刷物に関するものである。この印刷物としては有機エレクトロルミネッセンス素子が例示でき、この有機エレクトロルミネッセンス素子の有機発光層等の有機エレクトロルミネッセンス層のうち少なくとも1層を凸版印刷法により形成することができる。また、前記印刷物としては、有機エレクトロルミネッセンス素子の他にカラーフィルタ、回路基材、薄膜トランジスタ、マイクロレンズ、バイオチップ等を印刷物として例示することができる。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)は、陽極と陰極との間に有機発光層が挟持された構造をもつ発光素子で、電圧の印加により陽極から正孔、陰極から電子が注入され、この正孔と電子の対が有機発光層表面あるいは内部で再結合することによって発生したエネルギーを光として取り出す素子である。発光層に有機物を用いた有機EL素子は、古くから研究されていたが発光効率の問題で実用化が進展しなかった。これに対し、1987年にC.W.Tangにより有機層を発光層と正孔輸送層の2層に分けた積層構造の有機エレクトロルミネッセンス素子が提案され、低電圧で高効率の発光が確認され(非特許文献1等参照)、それ以降有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究が盛んに行われている。
【0003】
有機EL素子の発光層に用いられる有機材料は、低分子の材料と高分子の材料とに分類されている。発光層の形成方法は材料によって異なり、低分子材料は主に蒸着法で成膜させる方法が用いられ、高分子材料は溶剤に溶解あるいは分散させて基板上に塗布する方法が行われている。また、有機EL素子をフルカラー化するために発光層をパターニングする手段としては、低分子系材料を用いる場合は、所望の画素形状に応じたパターンが形成されたマスクを用いて、異なる発光色の発光材料を所望の画素に対応した部分に蒸着し形成する方法が行われている。この方法は所望の形状に薄膜を均一に形成するには優れた方法であるが、マスクの精度の点から蒸着される基板が大型になると、パターンの形成が困難になるという問題点がある。
一方、高分子系材料を用いる場合は、溶媒に溶解または分散させることにより有機高分子発光材料をインキ化し、主にインクジェット法によるパターン形成と、印刷によるパターン形成方法が提案されている。例えば、特開平10−12377号公報(特許文献1)に開示されているインクジェット法は、インクジェットノズルから溶剤に溶かした発光材料を基板上に噴出させ、基板上で乾燥させることで所望のパターンを得る方法である。
しかしながら、ノズルから噴出されたインク液滴は球状をしている為、基板上に着弾する際にインクが円形状に広がり、形成したパターンの形状が直線性に欠けたり、着弾精度が悪くパターンの直線性が得られないという問題点がある。これに対し、例えば、特開2002−305077号公報(特許文献2)では、予め基板上にフォトリソグラフィなどを用いて、撥インク性のある材料でバンクを形成し、そこにインク液滴を着弾させることで、バンク形状に応じてインクがはじき、直線性のパターンが得られるという方法が開示されている。しかし、はじいたインクが画素内に戻るときに画素内部でインクが盛り上がり、画素内の有機発光層の膜厚にばらつきができてしまうという問題が残る。
【0004】
印刷によるパターン形成方法としては、具体的には凸版印刷による方法、オフセット印刷による方法、スクリーン印刷による方法などが提案されている。特に、凸版印刷法は、パターン形成精度、膜厚均一性などに優れ、印刷による有機EL素子の製造方法として優れている。
凸版印刷に用いられる印刷用凸版としては、凸部は適度なクッション性を有するものがよく、印刷用凸版の凸部は樹脂材料からなる。このとき印刷用凸版の凸部に用いられる樹脂材料においては、可塑性を得るために添加される可塑剤や、凸部を形成するために感光性を持たせるための感光剤、架橋剤が含まれる。そして、凸部を形成する樹脂材料中に含まれる可塑剤や感光剤、架橋剤といった添加剤の中には、インキの溶媒に対して可溶性を持つものがあり、これらインキに可溶な添加物は印刷時に印刷用凸版から染み出して形成された有機発光層に不純物として混入してしまうことがあった。そして、混入した不純物は有機EL素子の効率や寿命の特性の低下を引き起こすという問題があった。
【特許文献1】特開平10−12377号公報
【特許文献2】特開2002−305077号公報
【非特許文献1】C.W.Tang、S.A.VanSlyke、Applied Physics Letters、51巻、913頁、1987年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は凸版印刷法を用いて有機EL素子を作製する際、印刷用凸版からの溶出物による有機発光層の汚染が生じず、素子性能の低下を防止することのできる、印刷用凸版、その製造方法、印刷物の製造方法、該印刷用凸版を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および該製造方法により製造された有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を克服するために鋭意検討を行った結果、本発明を得るに至った。
【0007】
請求項1に記載の発明は、インキを凸版の凸部に供給し、前記凸部にあるインキを被印刷体に転写し、前記被印刷体表面に前記インキからなるパターンを形成する際に用いる印刷用凸版において、
前記凸版の凸部が樹脂からなり、且つ、少なくとも前記凸部表面がバリア層で覆われていることを特徴とする印刷用凸版である。
請求項2に記載の発明は、前記バリア層が無機系材料からなることを特徴とする請求項1に記載の印刷用凸版である。
請求項3に記載の発明は、前記バリア層の厚みが、10nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷用凸版である。
請求項4に記載の発明は、前記印刷用凸版の凸部表面の十点平均粗さRzが、凸部の最短辺の長さの25%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷用凸版である。
請求項5に記載の発明は、前記印刷用凸版の凸部が、金属基材上に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷用凸版である。
請求項6に記載の発明は、前記印刷用凸版の凸部が、隣接する凸部に対して独立して基材上に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の印刷用凸版である。
請求項7に記載の発明は、インキ供給体からインキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にあるインキを被印刷体表面に転写し被印刷体表面にインキパターンを形成する工程とを有することを特徴とする印刷物の製造方法である。
請求項8に記載の発明は、少なくとも第一電極と第二電極と有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス材料を溶媒に溶解または分散させてなるインキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある前記インキを被印刷基板表面に転写し、前記被印刷基板表面に有機エレクトロルミネッセンス層のうち少なくとも1層を形成する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
請求項9に記載の発明は、少なくとも第一電極と第二電極と有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてなる有機発光インキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある有機発光インキを被印刷基板表面に転写し、前記被印刷基板表面に有機発光層を形成する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
請求項10に記載の発明は、有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてなる有機発光インキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある有機発光インキを被印刷基板表面に転写し、該被印刷基板表面に有機発光層を形成する工程を有し、
前記印刷用凸版が、基材上に感光性樹脂層を設け、版材を得て、前記感光性樹脂層に対しフォトマスクを用い露光し、前記露光した版材を現像することにより凸部を形成することにより得られ、前期基材が金属基材であり、前記金属基材が鉄とニッケルの合金からなり、前記印刷用凸版の凸部が、隣接する凸部に対して独立して基材上に形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
請求項11に記載の発明は、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0008】
本発明において、有機EL素子の有機発光層に含まれる印刷用凸版由来の残留物は、0.01%以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凸版印刷法を用いて有機EL素子を作製する際、印刷用凸版からの溶出物による有機発光層の汚染が生じず、素子性能の低下を防止することのできる、印刷用凸版、その製造方法、印刷物の製造方法、該印刷用凸版を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および該製造方法により製造された有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。
図1に本発明の印刷用凸版の一例の説明断面図を示した。図1(a)、図1(b)ともに基材200上に凸部(凸部パターン)201が形成されている。凸部パターン201の上部には、さらにバリア層300が形成されている。図1(b)では凸部パターンが隣接する凸部パターンに対して独立して基材上に形成されている。本発明では、図1(a)、(b)どちらの印刷用凸版を用いても構わないが、図1(b)のような、凸部パターン201が、隣接する凸部パターンに対して独立して基材上に形成されている、すなわち隣接する凸部パターンと連続していないことが好ましい。図1(a)に示したような凸部パターンが連続しており、樹脂層として一体化している版と比較したとき、図1(b)に示したような凸部パターンが隣接する凸部パターンに対して独立して基材上に形成された版では、樹脂の変形による位置精度のずれを大幅に抑制することができ、高精細パターニングが可能となる。また、印刷用凸版では、凸部パターンには樹脂が好適に用いられるが、パターンを独立して形成することにより、インキの溶媒や熱による凸部パターンに用いられる樹脂の変形を抑えることができる。特に、基材として樹脂材料ではなく金属材料を用いた場合には、印刷する際により版の変形を抑えることができ好適に使用することができる。
【0011】
バリア層300におけるバリア層形成材料としては、インキの溶媒に対して耐性を示し、凸部パターン201を形成する樹脂成分のインキへの溶出を防ぐものであれば、特に制限はないが、無機系材料を好適に用いることができる。無機系材料としては、アルミニウム、チタン、クロムなどの金属材料、インジウム錫酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物といった金属酸化物材料、酸化ケイ素、窒化珪素、酸窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムなどのセラミック材料を使用することができる。
これらの無機系材料からなるバリア層300の形成方法としては、乾式成膜法を用いることができ、乾式成膜法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ECRスパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法などの各種真空成膜手段を用いることができる。また、無機系材料が溶媒に溶解又は分散し塗工液となる場合には、湿式成膜法を用いても、バリア層を設けることができる。湿式成膜法としては、スピンコート法、ディップコート法、スリットコート法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法などの各種塗布手段で塗布して、乾燥、ベーク等の各種工程によってバリア層を形成することができる。ただし、湿式成膜法によりバリア層を形成する場合には、乾式成膜法によりバリア層を形成する場合と比較して、塗工液化するために溶媒を用いるために、インキの溶媒に可溶な成分がバリア層に混入することが多い。したがって、バリア膜の成膜方法としては、乾式成膜法を好適に用いることができる。
なお、無機系材料からなるバリア層300の膜厚としては、10nm以上500nm以下であることが好ましい。バリア層の膜厚が10nm未満の場合には、バリア層としての機能を十分に果たすことができなくなってしまう。一方、バリア層は硬質な膜であるため、500nmを超える場合には、バリア層にクラックが発生したり、バリア層の剥がれが発生することがある。また、凸部パターンの厚みhとしては、0.01mm以上1mm以下のであることが好ましい。厚みが0.01mm未満の場合、樹脂層厚を均一に形成することが困難となり、有機発光層の膜厚均一性が得にくくなる。また、厚みが1mm以上の場合、樹脂層の変形が高精細パターニングに及ぼす影響が大きくなってしまう。さらに、独立パターン部の強度が十分でなくなるため、外部から強い力が加わると樹脂層部分の破壊が生じることがある。なお、本発明の印刷用凸版のバリア層においては、少なくともインキとの接触部である凸部表面に形成されていればよい。しかしながら、印刷用凸版の凸部に供給されたインキは凹部にも浸入することがあり、できれば、図1に示したように、印刷用凸版の凸部だけでなく、凹部も含めた印刷用凸版表面全体がバリア層に覆われていることが好ましい。
【0012】
本発明の印刷用凸版は、凸部パターン表面の十点平均粗さRzが凸部パターンの最短辺の長さの25%以下であることが望ましい。図2に本発明の印刷用凸版における凸部パターンと最短辺の説明概略図を示した。最短辺Lとは凸部パターン222がストライプ状であればストライプの幅であり(図2(a))、凸部パターン222が矩形であれば最短辺Lは短辺の長さであり(図2(b))、凸部パターン222が円であれば最短辺Lは直径の長さであり、凸部パターン222が楕円であれば最短辺Lは短軸の長さLとなる(図2(c))。
【0013】
本発明では凸部パターン表面の十点平均粗さRzを凸部パターンの最短辺の長さの25%以下とすることにより、得られるインキパターンの膜厚は均一なものとなり、またパターン形状も良好なものとなる。本発明の平滑な表面形状を有する印刷用凸版は、形成された層の膜厚が50〜150nmといった非常に薄い膜厚であり、且つ、形成された層の膜厚が均一であることを要求される、有機EL素子における有機EL層の形成に好適に使用することができる。
【0014】
なお、凸部パターン表面の十点平均粗さRzについては、原子間力顕微鏡(AFM)、接触式表面形状測定装置、非接触式表面形状測定装置といった装置で測定することができる。
【0015】
本発明の印刷用凸版は、基材上に樹脂層を設けた版材を好適に用いることができる。このような版材を用い、凸部パターンを樹脂製とすることにより、ガラス基板のような硬質な被印刷体に対しても、被印刷体を傷つけることなくインキパターンを形成することができる。
【0016】
本発明の印刷用凸版に用いられる版材において、凸部パターンが形成される基材としては、印刷に対する機械的強度を有すれば良く、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、またはそれらの積層体を用いることができる。
【0017】
なお、本発明に使用する印刷用凸版を構成する基材としては、樹脂部分の寸法変化を抑えるのに十分な剛性をもっていることと、基材自身も寸法変化しにくいことが要求される。また、インキに含まれる溶媒への耐性が高いものが望ましい。したがって、基材として用いられる材料としては金属が好適に使用される。また、金属材料からなる基材の中でも、加工性、経済性からスチール基材やアルミニウム基材を好適に用いることができる。
【0018】
さらに、樹脂版が寸法変化を起こす要因として、温度変化による寸法変化が考えられるが、これについても基材自身が温度による寸法変化起こしにくいものであれば、版としての寸法変化も抑えることが可能であり、よって使用する基材としては熱膨張係数の小さいものが望ましい。ちなみに鉄等の金属は、熱膨張係数1.00×10-4/K以上のポリエステルフィルムに比べると十分に低い熱膨張係数を示し、この点からも本発明の樹脂版の基材として適する。金属基材は、熱膨張係数1.7×10-5/K以下であることが好ましい。さらに好ましくは熱膨張係数3×10-6/K以下である。ちなみに鉄の熱膨張係数は1.21×10-5/Kである。さらに、鉄とニッケル系の合金は鉄よりも低い熱膨張率を示し、中でも鉄64%、ニッケル36%の比率の合金は、鉄や一般的な金属の10分の1以下の熱膨張率を示し、最も好適な合金である。また、本発明における印刷用凸版は、円筒状のシリンダーに巻きつけて使用するため、フレキシブル性を持つことが要求され、よって金属板を基材として使用するには、なるべく薄い板にする必要があり、鉄や鉄とニッケル系の合金等を用いる場合、0.1〜0.2mmの厚さが望ましい。
【0019】
本発明の印刷用凸版に用いられる版材において、基材上に設けられる樹脂層としてはニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などから一種類以上を選択することができる。
【0020】
有機EL素子を製造する場合において、有機発光材料を溶媒に溶解または分散させた有機発光インキを用いて印刷するときは、有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂や、ポリアミド、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミド、といった水溶性溶剤に可溶なポリマーを用いることが望ましい。特に、有機発光インキに用いられる溶媒はトルエンやキシレンといった芳香族系有機溶剤が用いられることから、芳香族系有機溶剤に高い耐溶剤性を示す、水溶性溶剤に可溶な親水性の高い水溶性ポリマーを好適に用いることができる。
【0021】
また、高精細な凸部パターンを容易に加工できることから、版材に用いられる樹脂層としては感光性樹脂を用いることが望ましく、例えば、ポリマーと不飽和結合を含むモノマーと光重合開始材を構成要素とする感光性樹脂が挙げられる。このとき、ポリマーとしては、先ほど示した樹脂材料の中から適宜選択することができる。また、ポリマーとしては、先ほどと同様に有機溶剤に対する耐性が高いという点で水溶性ポリマーを好適に用いることができ、水溶性ポリマーを用いた場合においては、後述する現像工程において現像液として水を使用することができる。
【0022】
本発明における水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば、親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーと光重合開始材を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体が挙げられる。また、不飽和結合を含むモノマーとしては例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適性の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0023】
水現像タイプの感光性樹脂は親水性成分を多く含むが、いわいる一般印刷に使われるインキは水、アルコール系であることが多く、水現像タイプの感光性樹脂版は親水性が高いために印刷時に版が膨潤、変形してしまうため、親水性と疎水性のバランスをとる難しさがあった。しかし、本発明では有機発光インキは有機溶剤からなるため、親水性が高い方が有機溶剤に対する親和性が低く、インキ耐性が高くなるため好ましく、現像適性とインキ耐性の両立が容易である。
【0024】
トルエンの溶解度パラメータ(以下、SP値)は8.9であり、キシレンのSP値は8.8である。対して、ポリアミド(ナイロン)のSP値は13.6、ポリビニルアルコールのSP値は12.6、セルロースのSP値は15.7であり、トルエン、キシレンのSP値と十分に離れていることから、これらの親水性ポリマーからなる水現像タイプの感光性樹脂はトルエン、キシレンに対して十分な耐性を持っていることが分かる。
【0025】
上記の印刷用凸版はトルエンまたはキシレンに24時間浸漬したときの膨張率は5%以下となる。したがって、凸版印刷法にて長時間連続で有機発光層の印刷を行なった際に、凸版の膨潤や変形が低減され、所望のパターンを得ることができる。
【0026】
感光性樹脂を用いフォトリソグラフィー法により凸部パターン形成をする場合において、本発明の印刷用凸版の製造方法を示す。図3に印刷用凸版の製造方法の説明断面図を示した。まず、図3(a)に示したように、基材200上に感光性樹脂202aが一面に形成された版材を用意する。次に、図3(b)に示したように、遮光部205と透光部を有しており、且つ、透光部によってパターンが形成されたフォトマスク206を感光性樹脂202a上に配置する。フォトマスクは、透光性を有するガラス204上に例えばクロム薄膜からなる遮光部205がパターニングされた構造をしており、クロム薄膜が形成されている箇所が遮光部205、クロム薄膜が形成されていない箇所が透光部となる。
【0027】
次に、図3(c)に示したように、該フォトマスクを介して、紫外光に代表される活性エネルギー線207を照射し、露光する。このとき、フォトマスクの透光部を通過して活性エネルギー線が照射された部分が硬化される。
【0028】
次にフォトマスクを樹脂凸版から外し、現像をおこなう。現像により露光によって光が照射されなかった未硬化部分を除去し、図3(d)に示したような、本発明の印刷用凸版となる。このとき、未硬化部分が水により溶解、除去可能な水現像タイプの印刷用凸版を用いた場合には、現像液として水が用いられる。また、現像後に、樹脂層を更に硬化させることを目的としてベークや後露光をおこなっても良い。なお、フォトマスクを用いる露光方法以外にも、感光性樹脂層表面にカーボンやアルミニウムといった光不透過性の層を形成し、これをレーザーによりアブレーションすることにより、遮光部205を形成した後、露光することも可能である。
【0029】
また、本発明の印刷用凸版における、凸部パターンの形成方法としてフォトリソグラフィー法以外に、レーザーアブレーション法や切削加工により凸部パターンを形成することも可能である。
【0030】
本発明の印刷用凸版においては、バリア層を形成後にバリア層形成表面に表面処理をおこなってもよい。バリア層表面に表面処理をおこなうことにより、凸版印刷用凸版と発光層インキとの濡れ性を向上させることができる。表面処理としては、プラズマ処理、UV処理、UVオゾン処理等を用いることができる。
有機発光インキを用いて凸版印刷法により被印刷基板上に有機発光層を形成するにあっては、有機発光インキと凸版印刷用凸版との接触部、すなわち印刷用凸版の凸部と発光層インキとの濡れ性が重要となる。有機発光インキと印刷用凸版の凸部との濡れ性が悪い場合、印刷用凸版の凸部に所定量の有機発光インキを配置することができず、基板上に形成された発光層は、その膜厚が所望の膜厚と比較して薄かったり、また、発光層パターンに抜けが生じることがある。具体的には、有機発光インキと印刷用凸版の接触角としては0゜より大きく20゜以下であることが好ましい。発光層インキと印刷用凸版の接触角が20゜を超えるような場合、前述のとおり、得られる発光層パターンにパターン抜けといったパターン不良が発生する。
また、この他に表面処理として、バリア層表面にカップリング剤を固定化する方法を用いることも可能である。例えばバリア層に酸化ケイ素を用いた場合にあっては、シランカップリング剤をバリア層表面に固定化することが可能である。シランカップリング剤を溶媒に溶解させた溶液を印刷用凸版表面に塗布後、ベーク処理をおこなうことにより、シランカップリング剤をバリア層表面に固定化することが可能となる。シランカップリング剤として長鎖のアルキル基を有するシランカップリング剤を用いることにより、印刷用凸版表面において発光層インキの濡れ性を向上させることができる。
【0031】
次に、本発明の印刷用凸版を用い、凸版印刷法により被印刷基板表面にインキパターンを形成する印刷物の製造方法について示す。図4に本発明の印刷物の製造に用いられる凸版印刷装置の概略図を示した。ステージ107には被印刷基板106が固定されており、印刷用凸版104は版胴105に固定され、印刷用凸版104はインキ供給体であるアニロックスロール103と接しており、アニロックスロール103はインキ補充装置101とドクター102を備えている。
【0032】
まず、インキ補充装置101からアニロックスロール103へインキを補充し、アニロックスロール103に供給されたインキ108のうち余分なインキは、ドクター102により除去される。インキ補充装置101には、滴下型のインキ補充装置、ファウンテンロール、スリットコータ、ダイコータ、キャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクター102にはドクターブレードの他にドクターロールといった公知の物を用いることもできる。また、アニロックスロール103は、クロム製やセラミックス製のものを用いることができる。また、印刷用凸版へのインキ供給体としてシリンダー状のアニロックスロールではなく、平版のアニロックス版を用いることも可能である。平版のアニロックス版は、例えば、図4の被印刷基板106の位置に配置され、インキ補充装置によりアニロックス版全面にインキを補充した後、版胴を回転させることにより被印刷基板へのインキの供給をおこなうことができる。
【0033】
印刷用凸版へのインキ供給体であるアニロックスロール103表面にドクターによって均一に保持されたインキは、版胴105に取り付けられた印刷用凸版104の凸部パターンに転移、供給される。そして、版胴105の回転に合わせて印刷用凸版104の凸部パターンと基板は接しながら相対的に移動し、インキ108はステージ107上にある被印刷基板106の所定位置に転移し被印刷基板にインキパターン108aを形成する。被印刷基板にインキパターンが設けられた後は、必要に応じてオーブンなどによる乾燥工程を設けることができる。
【0034】
なお、印刷用凸版上にあるインキを被印刷基板に印刷するときにおいては、版胴105の回転にあわせ被印刷基板106が固定されたステージ17を移動させる方式であってもよいし、図4上部の版胴105、印刷用凸版104、アニロックスロール103、インキ補充装置101からなる印刷ユニットを版胴の回転に合わせ移動させる方式であってもよい。また、本発明の印刷用凸版は版胴15上に樹脂層を形成し、直接製版し、凸部パターンを形成してもよい。
【0035】
なお、図4は1枚毎に被印刷基板にインキパターンを形成する枚葉式の凸版印刷装置であるが、本発明の印刷物の製造方法にあって被印刷基板がウェブ状で巻き取り可能である場合には、ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いることもできる。ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いた場合には連続してインキパターンを形成することが可能となり、製造コストを低くすることが可能となる。
【0036】
次に、本発明の印刷用凸版を用いた印刷物の製造方法の一例として、有機EL素子の製造方法について説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。図5に本発明の有機EL素子の説明断面図を示した。有機EL素子の駆動方法としては、パッシブマトリックス方式とアクティブマトリックス方式があるが、本発明の有機EL素子はパッシブマトリックス方式の有機EL素子、アクティブマトリックス方式の有機EL素子のどちらにも適用可能である。
【0037】
パッシブマトリックス方式とはストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリックス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
【0038】
図5に示すように、本発明の有機EL素子は、基板1の上に、陽極としてストライプ状に第一電極2を有している。隔壁は第一電極間に設けられ、第一電極端部のバリ等よるショートを防ぐことを目的として第一電極端部を覆うことがましい。
【0039】
そして、本発明の有機EL素子は、第一電極2上であって、隔壁7で区画された領域(発光領域L、画素部)に有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を有している。電極間に挟まれる有機EL層は、有機発光層単独から構成されたものであってもよいし、有機発光層と発光補助層との積層構造から構成されたものでもよい。発光補助層としては正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層が挙げられる。図5では発光補助層である正孔輸送層3と有機発光層(41、42、43)との積層構造からなる構成を示している。第一電極2上に正孔輸送層3が設けられ、正孔輸送層3上に赤色(R)有機発光層41、緑色(G)有機発光層42、青色(B)有機発光層43がそれぞれ設けられている。
【0040】
次に、有機発光媒体層上に陽極である第一電極2と対向するように陰極として第二電極5が配置される。パッシブマトリックス方式の場合、ストライプ状を有する第一電極と直交する形で第二電極はストライプ状に設けられる。アクティブマトリックス方式の場合、第二電極は、有機EL素子全面に形成される。更に、図示していないが、環境中の水分、酸素の第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極への侵入を防ぐために有効画素全面に対してガラスキャップ等による封止体が設けられ、接着剤を介して基板と貼りあわされる。
【0041】
本発明の有機EL素子は、少なくとも基板と、当該基板に支持されたパターン状の第一電極と、有機発光層と、第二電極を具備する。本発明の有機EL素子は、図5とは逆に、第一電極を陰極、第二電極を陽極とする構造であっても良い。また、ガラスキャップ等の封止体の代わりに有機発光媒体層や電極を外部の酸素や水分の浸入から保護するためにパッシベーション層や外部応力から保護する保護層、あるいはその両方の機能備えた封止基材を備えてもよい。
【0042】
次に、有機EL素子の製造方法を説明する。
【0043】
本発明にかかる基板としては、絶縁性を有する基板であればいかなる基板も使用することができる。この基板側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板として透明なものを使用する必要がある。
【0044】
例えば、基板としてはガラス基板や石英基板が使用できる。また、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートであっても良い。これら、プラスチックフィルムやシートに、有機発光媒体層への水分の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化膜薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを基板として利用してもよい。
【0045】
また、これらの基板は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部や表面に吸着した水分を極力低減することがより好ましい。また、基板上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0046】
また、これらに薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、アクティブマトリックス方式の有機EL素子用の基板とすることが可能である。本発明のアクティブマトリックス方式の基板の一例の説明断面図を図6に示す。本発明の有機EL素子基板とする場合には、TFT120上に、平坦化層117が形成してあるとともに、平坦化層117上に有機EL素子の下部電極(第一電極2)が設けられており、かつ、TFTと下部電極とが平坦化層117に設けたコンタクトホール118を介して電気接続してあることが好ましい。このように構成することにより、TFTと、有機EL素子との間で、優れた電気絶縁性を得ることができる。
【0047】
TFT120や、その上方に構成される有機EL素子は支持体111で支持される。支持体としては機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましく、具体的には先に基板として述べた材料を用いることができる。
【0048】
支持体上に設けるTFT120は、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層、ゲート絶縁膜及びゲート電極から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0049】
活性層112は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフェンオリゴマー、ポリ(p-フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができる。これらの活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法、SiHガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法、Siガスを用いてLPCVD法により、また、SiHガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)、減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極114を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられる。
【0050】
ゲート絶縁膜113としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO等を用いることができる。
【0051】
ゲート電極114としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えば、アルミ、銅等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0052】
TFT120は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0053】
本発明の表示装置は薄膜トランジスタ(TFT)が有機EL素子のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、トランジスタのドレイン電極116と有機EL素子の画素電極(第一電極2)が電気的に接続されている。さらにトップエミッション構造をとるための画素電極は一般に光を反射する金属が用いられる必要がある。
【0054】
TFT120とドレイン電極116と有機EL素子の画素電極(第一電極2)との接続は、平坦化膜117を貫通するコンタクトホール118内に形成された接続配線を介して行われる。
【0055】
平坦化膜117の材料についてはSiO、スピンオンガラス、SiN(Si)、TaO(Ta)等の無機材料、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フォトレジスト材料、ブラックマトリックス材料等の有機材料等を用いることができる。これらの材料に合わせてスピンコーティング、CVD、蒸着法等を選択できる。必要に応じて、平坦化層として感光性樹脂を用いフォトリソグラフィーの手法により、あるいは一旦全面に平坦化層を形成後、下層のTFT120に対応した位置にドライエッチング、ウェットエッチング等でコンタクトホール118を形成する。コンタクトホールはその後導電性材料で埋めて平坦化層上層に形成される画素電極との導通を図る。平坦化層の厚みは下層のTFT、コンデンサ、配線等を覆うことができればよく、厚みは数μm、例えば3μm程度あればよい。
【0056】
基板上には第一電極2が設けられる。第一電極を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や金、白金、クロムなどの金属材料を単層または積層したものをいずれも使用できる。第一電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。
【0057】
なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いことなどからITOが好ましく使用できる。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極2となる。
【0058】
第一電極2を形成後、第一電極縁部を覆うようにして隔壁7が形成される。隔壁7は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁形成材料として、SiO、TiO等を用いることもできる。
【0059】
隔壁形成材料が感光性材料の場合、形成材料溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングしたあと、露光、現像といったフォトリソ法によりパターニングがおこなわれる。スピンコート法の場合、隔壁の高さは、スピンコートするときの回転数等の条件でコントロールできるが、1回のコーティングでは限界の高さがあり、それ以上高くするときは複数回スピンコートを繰り返す手法を用いる。
【0060】
感光性材料を用いてフォトリソ法により隔壁を形成する場合、その形状は露光条件や現像条件により制御可能である。例えば、ネガ型の感光性樹脂を塗布し、露光・現像した後、ポストベークして、隔壁を得るときに、隔壁端部の形状を順テーパー形状としたい場合には、この現像条件である現像液の種類、濃度、温度、あるいは現像時間を制御すればよい。現像条件を穏やかなものとすれば、隔壁端部は順テーパー形状となり、現像条件を過酷にすれば、隔壁端部は逆テーパー形状となる。
【0061】
また、隔壁形成材料がSiO、TiOの場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で形成可能である。この場合、隔壁のパターニングはマスクやフォトリソ法により行うことができる。
【0062】
次に、有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を形成する。電極間に挟まれる有
機EL層としては、有機発光層単独から構成されたものでもよいし、有機発光層と正孔輸
送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光を補助するための
発光補助層との積層構造としてもよい。なお、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電
子注入層、電荷発生層は必要に応じて適宜選択される。
【0063】
そして、本発明は有機発光層や正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光補助層からなる有機EL層のうち少なくとも1層を、有機EL層材料を溶媒に溶解、または分散させたインキを用い、基材上に樹脂からなる凸部パターンを有する樹脂凸版を印刷版とした凸版印刷法により前記第一電極の上方に印刷して形成する際に適用することができる。以降、本発明において、有機発光材料を溶媒に溶解、または分散させた有機発光インキを用いた場合について示す。
【0064】
有機発光層は電流を流すことにより発光する層である。有機発光層の形成する有機発光材料としては、9,10-ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4-テトラフェニルブタジエン、トリス(8-キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4-メチル-8-キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8-キノラート)亜鉛錯体、トリス(4-メチル-5-トリフルオロメチル-8-キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4-メチル-5-シアノ-8-キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2-メチル-5-トリフルオロメチル-8-キノリノラート)[4-(4-シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2-メチル-5-シアノ-8-キノリノラート)[4-(4-シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8-キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8-(パラ-トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4-テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ-2,5-ジヘプチルオキシ-パラ-フェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0065】
また、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’-ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’-ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものが使用できる。高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等が使用できる。
【0066】
また、ポリ(2-デシルオキシ-1,4-フェニレン)(DO-PPP)やポリ[2,5-ビス-[2-(N,N,N-トリエチルアンモニウム)エトキシ]-1,4-フェニル-アルト-1,4-フェニルレン]ジブロマイドなどのPPP誘導体、ポリ[2-(2’-エチルヘキシルオキシ)-5-メトキシ-1,4-フェニレンビニレン](MEH-PPV)、ポリ[5-メトキシ-(2-プロパノキシサルフォニド)-1,4-フェニレンビニレン](MPS-PPV)、ポリ[2,5-ビス-(ヘキシルオキシ)-1,4-フェニレン-(1-シアノビニレン)](CN-PPV)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロフルオレンなどの高分子発光材料であってもよい。PPV前駆体、PPP前駆体などの高分子前駆体が挙げられる。また、その他既存の発光材料を用いることもできる。
【0067】
正孔輸送層を形成する正孔輸送材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、チオフェンオリゴマー材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。
【0068】
また、電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、2-(4-ビフィニルイル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。
【0069】
有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2-メチル-(t-ブチル)ベンゼン、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、ペンチルベンゼン、1,3,5-トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,3,5-トリ-イソプロピルベンゼン等を単独又は混合して用いることができる。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0070】
正孔輸送材料、電子輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶剤などが挙げられる。特に、正孔輸送材料をインキ化する場合には水またはアルコール類が好適である。
【0071】
有機発光層や発光補助層は湿式成膜法により形成される。なお、これらの層が積層構造から構成される場合には、その各層の全てを湿式成膜法により形成する必要はない。湿式成膜法としては、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法等の塗布法と、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等の印刷法が挙げられる。特に、RGB三色の有機発光層をパターン形成する場合、印刷法によって画素部に選択的に形成することができ、カラー表示のできる有機EL素子を製造することが可能となる。有機発光媒体層の膜厚は、単層又は積層により形成する場合においても1000nm以下であり、好ましくは50nm〜150nmである。
【0072】
繰り返しになるが、本発明は有機発光インキを用い凸版印刷法により有機発光層形成する場合だけでなく、正孔輸送インキや電子輸送インキを用い凸版印刷法により正孔輸送層や電子輸送層といった発光補助層を形成する場合にも使用することができる。
【0073】
次に、第二電極を形成する。第二電極を陰極とした場合その材料としては電子注入効率の高い物質を用いる。具体的にはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または電子注入効率と安定性を両立させるため、低仕事関数なLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系が用いられる。具体的にはMgAg、AlLi,CuLi等の合金が使用できる。また、トップエミッション方式の有機EL素子とする場合は、陰極は透明性を有する必要があり、例えば、これら金属とITO等の透明導電層の組み合わせによる透明化が可能となる。
【0074】
第二電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。また、第二電極をパターンとする必要がある場合には、マスク等によりパターニングすることができる。第二電極の厚さは10nm〜1000nmが好ましい。なお、本発明では第一の電極を陰極、第二の電極を陽極とすることも可能である。
【0075】
有機EL素子としては電極間に有機発光層を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光材料や発光補助層形成材料、電極形成材料の一部は大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうため通常は外部と遮断するための封止体を設ける。
【0076】
封止体は、例えば第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板に対して、凹部を有するガラスキャップ、金属キャップを用いて、第一電極、有機発光媒体層、第二電極上空に凹部があたるようにして、その周辺部についてキャップと基板を接着剤を介して接着させることにより封止がおこなわれる。
【0077】
また、封止体は、例えば第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板に対して、封止材上に樹脂層を設け、該樹脂層により封止材と基板を貼りあわせることによりおこなうことも可能である。
【0078】
このとき封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10-6g/m/day以下であることが好ましい。
【0079】
樹脂層としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、5−500μm程度が望ましい。
【0080】
第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板と封止体の貼り合わせは封止室でおこなわれる。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。なお、ここでは封止材上に樹脂層を形成したが、
基板上に樹脂層を形成して封止材と貼りあわせることも可能である。
【0081】
封止体を用いて封止を行う前やその代わりに、例えばパッシベーション膜として、CVD法を用いて、窒化珪素膜を150nm成膜するなど、無機薄膜による封止体とすることも可能であり、また、これらを組み合わせることも可能である。
【0082】
本発明の印刷用凸版を用い製造された印刷物としては、有機EL素子の他に液晶表示部材であるカラーフィルターや薄膜トランジスタの製造に用いることができる。カラーフィルターにおいては、カラーパターン、ブラックマトリックス、ホワイトマトリクス、スペーサーのパターン形成に本発明の印刷用凸版を用いた凸版印刷法による印刷物の製造方法を用いることができる。薄膜トランジスタにおいては、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁膜、有機半導体材料のパターン形成に本発明の印刷用凸版を用いた凸版印刷法による印刷物の製造方法を用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は、下記例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1
(印刷用凸版の作製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材上にポリアミド系感光性樹脂層を有する版材を用意した。該版材に対し、1cm角の有機発光層パターンのネガパターンを形成したフォトマスクを介して露光し、水現像することで所望の有機発光層パターンを有する印刷用凸版を得た。次に印刷用凸版上にプラズマCVD法によりシリカ薄膜を形成した。原料ガスにはヘキサメチルジシロキサンと酸素を用いた。リファレンスとして、ガラス基板上にも同時にシリカ薄膜を形成し、触針式膜厚計でガラス基板上のシリカ薄膜を形成したところ膜厚は50nmであった。
(有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
電極として0.8mm角にパターニングされたITO(膜厚110nm)が形成された厚さ0.7mmのガラス基板を中性洗剤でよく洗浄した後、洗剤溶液中で5分間超音波洗浄をおこなった。次に、純水でよくすすいだ後、純水で10分間超音波洗浄を行った。洗浄後、IPA飽和蒸気下において基板上の水分を十分に乾燥させた。この基板上に正孔輸送層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の1.5wt%水溶液(スタルク社製CH8000)をスピンコート法によって塗布、ベークし、膜厚40nmの薄膜を得た。
ついで、緑色発光材料であるポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体のトルエン溶液からなる有機発光インキを用意した。この有機発光インキを凸版印刷装置に供給し、アニロックスロールと版胴に固定された上記印刷用凸版を介して正孔輸送層上に印刷した。ついで、この基板を真空乾燥して残留溶媒を除去した後、真空蒸着法でカルシウムとアルミニウムをこの順で陰極のパターンを形成するためのメタルマスクを介して蒸着した。カルシウムの蒸着レートは0.1nm/secで膜厚5nm、アルミニウムの蒸着レートは5nmで膜厚は110nmであった。次いで、この基板を窒素下において乾燥剤を貼ったガラスキャップで封止し、紫外線硬化型接着剤で接合部を硬化させ、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0085】
比較例
比較例として、実施例中の版の作製工程において、シリカ薄膜を形成しなかった印刷用凸版を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。その他の素子の作製条件は実施例と同じものである。
作製した実施例1の素子と比較例1の素子の電流−輝度特性を輝度計(コニカミノルタ製LS−100)で測定した。その結果、実施例1の素子の電流−輝度効率は5V電圧印加時で7.6cd/Aであった。比較例の素子の5V電圧印加時における電流−輝度効率は4.7cd/Aであった(図7を参照)。
【0086】
実施例2
印刷用凸版由来の残留物の濃度とその影響を確認するために、以下の実験を行った。比較例で作製したフレキソ版(シリカ膜無し)の板を断裁してトルエンを入れたシャーレに浸し、1時間放置した。浸漬の後、版を引き上げ、残ったトルエン液を減圧乾燥してトルエンを除去し、残留物を得た。次いで、この残留物と緑色発光材料であるポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体をトルエンに溶かし、ポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体に対する残留物の濃度が1%、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%になるように調製した有機発光層形成用塗布液を作製した。また比較例2として残留物を含まない、ポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体のトルエン溶液を調製した。作製した各溶液について実施例1と同様の工程を行って有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ただし、有機発光層は凸版印刷法ではなく、スピンコート法により形成した。(膜厚は70nm)。各素子の5Vにおける電流−輝度効率を表1に示す。
【0087】
[表1]

【0088】
表1より、有機発光層に含まれるフレキソ版由来の残留物が0.01%以下にすることにより、電流−輝度効率に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0089】
実施例3
(印刷用凸版の作製)
鉄とニッケルの合金でニッケル含有率36%であり厚みが0.2mmである金属基材上にポリアミド系感光性樹脂層を0.3mm有する版材を用意した。該版材に対し、フォトマスクを介して露光し、水現像することで、ストライプ状の凸部パターンを有する印刷用凸版を得た。得られた印刷用凸版の凸部のライン幅は100μm、ピッチは350μmであった。次に、印刷用凸版上にプラズマCVD法によりシリカ薄膜を形成した。原料ガスにはヘキサメチルジシロキサンと酸素を用いた。リファレンスとして、ガラス基板上にも同時にシリカ薄膜を形成し、触針式膜厚計でガラス基板上のシリカ薄膜を形成したところ膜厚は50nmであった。また、得られた印刷用凸版は、図1(b)に示したように隣接する凸部パターンに対し独立して金属基材上に形成されていた。また、該印刷用凸版の凸部表面に対し、非接触式表面形状測定装置を用いて十点平均粗さ(Rz)を測定したところ、Rz=0.005μmであった。また、印刷用凸版と同様にプラズマ処理されたガラス基板上のシリカ薄膜に対し、後述する緑色発光インキとの接触角を測定したところ、19゜であった。
【0090】
(有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
300mm角のガラス基板上に、スパッタ法を用いてITO膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をストライプ状にパターニングした。陽極であるITO膜のラインパターンは、線幅100μm、スペース50μmで、ラインが192ラインで形成されるパターンとした。その上に、PEDOT/PSS1.5wt水溶液を用いて、スピンコート法により膜厚が40nmとなるように成膜した。
赤色、緑色、青色(RGB)の3色からなる以下の有機発光インキを調製した。
赤色発光インキ(R):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製赤色発光材料 商品名Red1100)
緑色発光インキ(G):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製緑色発光材料 商品名Green1300)
青色発光インキ(B):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製青色発光材料 商品名Blue1100)
印刷用凸版を枚葉式の凸版印刷装置に固定し、これと上記の有機発光インキを用いて被印刷基板に対し、印刷を各色についておこなった。有機発光層は、赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層がストライプ状に並ぶように印刷した。各色について印刷をおこなった後、オーブン内で130℃で1時間乾燥をおこなった。乾燥の後、印刷により形成した有機発光層上にカルシウム(Ca)を10nm成膜し、さらにその上に銀(Ag)を300nm成膜した。Ca、Agからなる陰極は、真空蒸着法により形成され、マスクを用いてITOパターンと直交するように形成された。最後にガラスキャップを用い本発明のフルカラーの有機EL素子を得た。この有機EL素子の発光特性を確認したところ、得られた有機発光層パターンの位置精度は良好であり、パターン箇所内全面において5Vで103cd/mの均一な発光が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明によれば、凸版印刷法を用いて有機EL素子を作製する際、印刷用凸版からの溶出物による有機発光層の汚染が生じず(例えば凸版からの残留物の溶出は0.01%以下)、素子性能の低下を防止することのできる、印刷用凸版、印刷物の製造方法、該印刷用凸版を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および該製造方法により製造された有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は本発明の印刷用凸版の一例の説明断面図である。
【図2】図2は本発明の印刷用凸版における凸部パターンと最短辺の説明概略図である。
【図3】図3は本発明の印刷用凸版の製造方法の説明断面図である。
【図4】図4は本発明の印刷物の製造に用いられる凸版印刷装置の概略図である。
【図5】図5は本発明の有機EL素子の説明断面図である。
【図6】図6はアクティブマトリクス方式の基板の一例の説明断面図である。
【図7】図7は実施例1と比較例1の電流-輝度効率特性を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
200……基材、201……凸部パターン、222……凸部パターン、L……短辺、202a……感光性樹脂(未硬化)、202b……感光性樹脂からなる凸部パターン、204……ガラス、205……遮光部、206……フォトマスク、207……活性エネルギー線、300……バリア層、11……インキ補充装置、12……ドクター、13……アニロックスロール、14……印刷用凸版、15……版胴、16……被印刷基板、17……ステージ、18……インキ、18a……インキパターン、1……基板、2……第一電極、3……正孔輸送層、41……赤色(R)有機発光層、42……緑色(G)有機発光層、43……青色(B)有機発光層、5……第二電極、7……隔壁、8……ガラスキャップ、9……接着剤、111……支持体、112……活性層、113……ゲート絶縁膜、114……ゲート電極、115……層間絶縁膜、116……ドレイン電極、117……平坦化層、118……コンタクトホール、119……データ線、120……TFT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキを凸版の凸部に供給し、前記凸部にあるインキを被印刷体に転写し、前記被印刷体表面に前記インキからなるパターンを形成する際に用いる印刷用凸版において、
前記凸版の凸部が樹脂からなり、且つ、少なくとも前記凸部表面がバリア層で覆われていることを特徴とする印刷用凸版。
【請求項2】
前記バリア層が無機系材料からなることを特徴とする請求項1に記載の印刷用凸版。
【請求項3】
前記バリア層の厚みが、10nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷用凸版。
【請求項4】
前記印刷用凸版の凸部表面の十点平均粗さRzが、凸部の最短辺の長さの25%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷用凸版。
【請求項5】
前記印刷用凸版の凸部が、金属基材上に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷用凸版。
【請求項6】
前記印刷用凸版の凸部が、隣接する凸部に対して独立して基材上に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の印刷用凸版。
【請求項7】
インキ供給体からインキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にあるインキを被印刷体表面に転写し被印刷体表面にインキパターンを形成する工程とを有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項8】
少なくとも第一電極と第二電極と有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス材料を溶媒に溶解または分散させてなるインキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある前記インキを被印刷基板表面に転写し、前記被印刷基板表面に有機エレクトロルミネッセンス層のうち少なくとも1層を形成する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
少なくとも第一電極と第二電極と有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層からなり、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてなる有機発光インキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある有機発光インキを被印刷基板表面に転写し、前記被印刷基板表面に有機発光層を形成する工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてなる有機発光インキを請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用凸版の凸部に供給する工程と、前記印刷用凸版の凸部にある有機発光インキを被印刷基板表面に転写し、該被印刷基板表面に有機発光層を形成する工程を有し、
前記印刷用凸版が、基材上に感光性樹脂層を設け、版材を得て、前記感光性樹脂層に対しフォトマスクを用い露光し、前記露光した版材を現像することにより凸部を形成することにより得られ、前期基材が金属基材であり、前記金属基材が鉄とニッケルの合金からなり、前記印刷用凸版の凸部が、隣接する凸部に対して独立して基材上に形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−6690(P2008−6690A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179160(P2006−179160)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】