説明

印刷用基材

【課題】グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットから転写率を高くして印刷不良の発生を少なくすることができる印刷用基材を提供する。
【解決手段】溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂を0.1〜50μmの厚みの受容層として形成する。受容層に導電ペーストを印刷することによって、導電ペースト中の溶媒で受容層が膨潤して受容層にタック性(粘着性)を発現させることにより、受容層と印刷された導電ペーストとの密着性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷やオフセット印刷に好適に用いられる印刷用基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材の表面に導電性ペーストを印刷することにより導電パターンを形成し、この導電パターン付の基材をプリント配線板形成用の材料や電磁波シールド形成用の材料として用いることが行われている(例えば、特許文献1参照)。このような用途に用いられる印刷用基材としては、ベース材の表面に受容層を形成し、受容層に印刷を行うものが提案されている。受容層はバインダーとなる樹脂に微細な凹凸を有する無機粉末を分散させ、これをベース材の表面に塗工して乾燥硬化するなどして形成することができる。この受容層にインクとして導電ペーストが印刷されると、導電ペースト中の溶媒が無機粉末に吸収されるが、このとき受容層の表面に対して略垂直に溶媒が吸収されるために、滲まないで印刷することができるものである。また、受容層としては導電ペーストが印刷されると、導電ペースト中の溶媒の接触角が限りなく鈍角になるものであってもよく、この場合、受容層で導電ペーストの溶媒をはじくため、この効果で滲みを防止することができるものである。
【0003】
しかし、従来の受容層では導電ペーストとの密着性が小さいことがあり、このために、グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットから印刷用基材に導電ペーストを転写する効率が低くなり、凹版やブランケットに導電ペーストが残ったり、導電パターンに欠損が生じたりして印刷不良が生じることがあった。尚、一般的なグラビア印刷では導電ペーストの転写率が30〜40%で、最大でも50%程度に留まるといわれている。
【0004】
そこで、連続生産が可能であるグラビア印刷やオフセット印刷では印刷せずに、スクリーン印刷等の印刷方法を採用することも提案されているが、スクリーン印刷はバッチ式であるために生産効率が低下するものであった。
【特許文献1】特開2007−169604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットから転写率を高くして印刷不良の発生を少なくすることができる印刷用基材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る印刷用基材は、溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂を0.1〜50μmの厚みの受容層として形成して成ることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に係る印刷用基材は、請求項1において、溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂の有機溶媒に対する膨潤度が0.01〜5000g溶媒/(1g樹脂)であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3に係る印刷用基材は、請求項1又は2において、溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂がセルロース系樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明では、受容層に導電ペーストを印刷することによって、導電ペースト中の溶媒で受容層が膨潤して受容層にタック性(粘着性)を発現させることにより、受容層と印刷された導電ペーストとの密着性を高めることができ、グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットからの導電ペーストの転写率を高くすることができるものであり、この結果、凹版やブランケットに導電ペーストが残ったり、導電パターンに欠損が生じたりすることがなく、印刷不良の発生を少なくすることができるものである。
【0010】
請求項2の発明では、溶媒に対する膨潤度が0.01〜5000g溶媒/(1g樹脂)の樹脂を受容層にすることにより、導電ペーストを印刷時に受容層に十分なタック性(粘着性)を発現させて、受容層と印刷された導電ペーストとの密着性を高めることができ、グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットからの導電ペーストの転写率を高くすることができるものであり、この結果、凹版やブランケットに導電ペーストが残ったり、導電パターンに欠損が生じたりすることがなく、印刷不良の発生を少なくすることができるものである。
【0011】
請求項3の発明では、セルロース系樹脂を受容層にすることにより、導電ペーストを印刷時に受容層に十分なタック性(粘着性)を発現させ、受容層と印刷された導電ペーストとの密着性を高めることができ、グラビア印刷の凹版やオフセット印刷のブランケットからの導電ペーストの転写率を高くすることができるものであり、この結果、凹版やブランケットに導電ペーストが残ったり、導電パターンに欠損が生じたりすることがなく、印刷不良の発生を少なくすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明の印刷用基材は、ベース材の片面又は両面に受容層を全面にわたって形成したものである。ベース材としてはポリエステル(PET)などの合成樹脂製のフィルムやシートを用いることができる。ベース材の材質や形状は、印刷後に使用される対象物(例えば、プリント配線板の材料や電磁波シールド材の材料など)の性能等に応じて適宜選択すればよく、例えば、ベース材は長尺あるいは短尺の何れであってもよいし、ベース材の厚みは0.001〜20mmとすることが可能である。
【0014】
受容層は、溶媒で膨潤してタック性(粘着性)を発現する樹脂で形成されるものである。ここで、受容層の樹脂が膨潤する溶媒は、受容層に印刷される導電ペーストに含有されている溶媒であって、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、キシレン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−(2−メトキシ−2−メチルエトキシ)−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−フェノキシエタノール等の有機溶媒及び水等及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0015】
また、受容層の樹脂の膨潤度は1gの樹脂に対する有機溶媒の膨潤量(g)で示した場合、0.01〜5000g溶媒/(1g樹脂)であることが好ましい。受容層の樹脂の膨潤度が0.01g溶媒/(1g樹脂)よりも小さいと、受容層のタック性が全く発現しないという問題が生じるおそれがあり、受容層の樹脂の膨潤度が5000g溶媒/(1g樹脂)より大きいと、タック性は生じるが印刷転写時、版に受容層が転写し、基材側に導電ペーストを転写できないという問題が生じるおそれがある。
【0016】
ここで、「タック性が発現する」とは受容層が溶媒もしくは溶液に接触したとき、25℃の雰囲気において少なくとも接触してから10分以内という短時間に、溶媒を吸収膨潤し、粘つき状態(タック性)を発現することをいう。このとき、ガラスに対する粘つき状態受容層の密着力は0.1〜100kPa(0.001〜1.0kgf/cm)であることが好ましい。
【0017】
本発明で受容層を形成するための樹脂としてはセルロース系樹脂を用いることができる。このようなセルロース系樹脂としてはエチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、およびセルロースアセテートプロピネートなどを例示することができる。このセルロース系樹脂は溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、キシレン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−(2−メトキシ−2−メチルエトキシ)−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−フェノキシエタノール及び水等で膨潤若しくは溶解し、タック性を発現するものである。
【0018】
本発明において受容層は上記の樹脂を用いて0.1〜50μmの厚みで形成する。受容層の厚みが0.1μmよりも小さいと、十分なタック性が得られない、という問題が生じるおそれがあり、また、受容層の厚みが50μmよりも大きいものは塗工生産での形成が困難であり、平滑性の高い塗工面が得られないという問題が生じるおそれがある。
【0019】
本発明の印刷用基材を製造するにあたってはマイクログラビアコーターを用いた。この場合、先ず、所定濃度に樹脂溶液を調製し、この樹脂液を所定のグラビア版、グラビア版の回転数で所定のベース材に塗工し、0.1〜50m/分の塗工速度で、常温〜200℃の長さ12mの温風乾燥機を通過乾燥させ、目的の印刷用基材を得た。このコーターは、グラビア版の線数、グラビア版の回転数、塗工する溶液の濃度を調節することにより、所定の塗膜厚を均一に塗工できる。
【0020】
本発明の印刷用基材は、受容層に導電ペーストを印刷して導電パターンを形成するものである。ここで、導電ペーストは有機溶媒等の溶媒、バインダー樹脂、金属粒子、グラファイト、カーボンブラック、添加剤等を配合して調製することができる。溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、キシレン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−(2−メトキシ−2−メチルエトキシ)−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−フェノキシエタノール及び水等をそれぞれ単独で用いたり、任意の割合で混合した混合溶媒として用いたりすることができるものであり、この配合量は導電ペーストの全量に対して0.1〜50質量%にすることができる。また、バインダー樹脂としてビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などや、−COC−骨格、−COO−骨格などを含むこれらの樹脂の誘導体、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等のセルロース誘導体等を用いることができ、この配合量は導電ペーストの全量に対して0.1〜20質量%にすることができる。また、金属粒子として銀粉、銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、鉄粉、マグネシウム粉及びこれらの合金粉もしくはこれらの粉末に異種金属を1層以上コーティングしたものから選ばれるものを用いることができ、この配合量は導電ペーストの全量に対して0〜99質量%とすることができる。また、添加剤としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK333(シリコンオイル)」等の消泡剤・レベリング剤を用いることができ、この配合量は導電ペーストの全量に対して0〜10質量%とすることができる。尚、少なくとも金属粉、カーボンブラック、グラファイトのいずれかを1種以上用いるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の印刷用基材は、グラビア印刷やオフセット印刷などのように連続して導電ペーストを印刷するための基材として好適に用いることができる。すなわち、本発明の印刷用基材の受容層は印刷された導電ペースト中の有機溶媒により膨潤若しくは溶解してタック性を発現するため、受容層と印刷された導電ペーストとの密着性を高くすることができ、従って、グラビア印刷の凹版から導電ペーストを引きずり出して転写率を高めることができ、また、オフセット印刷のブランケットから導電ペーストの転写率を高めることができる。そして、線幅が30μm以下の導電パターンもグラビア印刷やオフセット印刷で印刷不良なく連続して効率よく印刷することができる。尚、本発明の印刷用基材にスクリーン印刷で導電ペーストを印刷することも当然可能である。また、印刷により導電パターンを形成した印刷用基材はプリント配線板用の材料や電磁波シールド材の材料として用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0023】
[実施例1]
ベース材としては厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡製のコスモシャインA4300)を用いた。
【0024】
受容層の樹脂としてセルロースアセテートブチレート樹脂(EASTMAN製 CAB551−0.2)を用い、この樹脂を溶媒メチルイソブチルケトン(MIBK)に溶解し、20wt%溶液とした。この溶液をマイクログラビアコーターによりグラビア版#45で回転数200rpm、5m/分の速度でPETフィルムに塗工し、120℃、12m長の温風乾燥炉に通過させて乾燥し、受容層を有する印刷用基材を得た。受容層を形成する上記のセルロース系樹脂は導電ペーストの有機溶媒で膨潤ものであり、この有機溶媒に対する膨潤度は2g溶媒/(1g樹脂)であった。
【0025】
そして、上記印刷用基材の受容層の厚みは、断面を研ぎ出し、CCDカメラで実測したところ2.2μmだった。
【0026】
[実施例2]
セルロースアセテートブチレート樹脂溶液の濃度を40wt%とし、マイクログラビアコーターによりグラビア版#45で回転数80rpmにした以外は実施例1と同様にして印刷用基材を形成した。実施例1と同様に受容層の厚みを測定したところ、25μmだった。
【0027】
[実施例3]
受容層の樹脂として実施例1と異なるエチルセルロース樹脂を用いた。このセルロース系樹脂は導電ペーストの有機溶媒で膨潤ものであり、この有機溶媒に対する膨潤度は30g溶媒/(1g樹脂)であった。この樹脂を溶媒メチルイソブチルケトン(MIBK)に溶解し、10wt%溶液とした。この溶液をマイクログラビアコーターによりグラビア版#45で回転数200rpm、5m/分の速度で上記と同様のPETフィルムに塗工し、120℃、12m長の温風乾燥炉に通過させて乾燥し、受容層を有する印刷用基材を得た。そして、上記印刷用基材の受容層の厚みは、断面を研ぎ出し、CCDカメラで実測したところ5.3μmだった。
【0028】
[比較例]
セルロースアセテートブチレート樹脂溶液の濃度を1wt%とし、マイクログラビアコーターによりグラビア版#180で回転数150rpmにした以外は実施例1と同様にして印刷用基材を形成した。実施例1と同様に受容層の厚みを測定したところ、0.07μmだった。
【0029】
[転写率の測定]
実施例1〜3及び比較例の転写率を測定した。図1(a)に示すように、線幅/ピッチ/線の深さ=20/250/10μmの(株)シンク・ラボラトリー製の格子状パターンの凹版10に太陽インキ製造(株)製の導電ペースト(商品名「AF5200E」)11を塗り広げ、ドクターブレード12で掻き取り、上記凹版10の凹部10aに上記導電ペースト11を充填した。これに印刷用基材Aをベース材1の表面に設けた受容層2側が凹版10の印刷面に接するようにのせ、ゴムロールで凹版10と印刷用基材Aとを密着させた。この試験で用いた上記導電ペースト11の溶媒は2−フェノキシエタノールであった。
【0030】
この後、印刷用基材Aを凹版10から剥がし、図1(b)に示すような格子状のパターン20が転写された印刷物B、D、F、Jを形成した。転写率は以下の式で算出した。
【0031】
転写率(%)=(10cmあたりの転写した導電ペーストの重量(g))/(10cmあたりで、凹版の凹部に100%導電ペーストが充填されたときのペーストの重量(g))×100
尚、上記式における「10cmあたりの転写した導電ペースト」とは図2の受容層2に転写された状態の導電ペーストを指し、「凹版の凹部に100%導電ペーストが充填されたときのペースト」とは図2の凹版10の凹部10aに導電ペースト11が隙間なく充填されている状態を指す。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例において、(a)は転写率の測定の時に行った工程を示す概略図、(b)は印刷物の拡大した平面図である。
【図2】同上の転写率の式の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
A 印刷用基材
2 受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂を0.1〜50μmの厚みの受容層として形成して成ることを特徴とする印刷用基材。
【請求項2】
溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂の有機溶媒に対する膨潤度が0.01〜5000g溶媒/(1g樹脂)であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用基材。
【請求項3】
溶媒で膨潤し、タック性を発現する樹脂がセルロース系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷用基材。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−123815(P2010−123815A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297340(P2008−297340)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】