説明

印刷用布帛

【課題】カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断しても、切断した部分からほつれることがなく、かつ、印刷インク受容層として、印刷インクが滲むことのない水性インク受容層を備えた印刷用布帛を提供する。
【解決手段】布帛の表面及び/又は内部に印刷インク受容層を備える印刷用布帛1であって、該印刷インク受容層が水性インク受容層であり、かつ該印刷用布帛が、更に、布帛の裏面にアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層2を備える印刷用布帛Aである。ここで、該水性インク受容層は、好ましくはポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を所定の質量比で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用布帛に関し、更に詳しくは、のぼり、タペストリー、懸垂幕等に使用する印刷用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されている印刷用布帛を使用して、のぼり、タペストリー、懸垂幕等を作製するに際して、該布帛に所定の文字、図柄等を印刷した後、カッター、ナイフ又はハサミ等の切断用具を使用して該布帛を切断すると、切断した箇所から糸がはみ出してきてほつれてしまう。これでは、所望ののぼり、タペストリー、懸垂幕等を作製することはできない。そこで、ナイロン繊維及びポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維から成る印刷用布帛を使用する場合には、一般的には、ナイフ型の刃先を持ちかつニクロム線により加熱することができる構造を有するヒートカッターを使用して、熱可塑性合成繊維から成る布帛を熱で溶かしながら切断して、切断面を溶着して糸がほつれないようにする方法が採用されてきた。また、熱可塑性合成繊維以外の繊維、例えば、綿等の天然繊維から成る布帛の場合には、通常のカッター、ナイフ又はハサミ等の切断用具を使用して該布帛を切断した後、その部分をミシンで縫製する方法が採用されていた。
【0003】
しかし、これらの方法は非常に手間がかかるものであり、従って、コスト高を招いていた。また、前者のヒートカッターを使用する方法では、切断時に作業者がヒートカッターの熱により、皮膚に火傷を負うことも多々あることであり、このような観点からも改善が望まれていた。
【0004】
切断縁部がほつれることのない切断方法として、特許文献1には、超音波加工機における超音波振動体の上に布帛を載置し、その布帛の上から外周に切断刃を突設した加工ロールで押え、当該加工ロールを回転させて布帛を送りながら、前記超音波振動体により布帛に超音波振動を付与し、当該超音波振動により布帛を発熱させ、前記切断刃の形状に沿って布帛を溶融切断する方法が記載されている。また、該方法の改良発明として、特許文献2には、布帛の上に熱可塑性合成樹脂のテープを載置し、当該布帛及びテープを超音波振動体と外周に切断刃を突接した押えローラーとの間に挟圧し、超音波振動により前記布帛及びテープを前記切断刃の形状に従って切断すると共に、超音波振動により切断縁部の前記テープを発熱溶融せしめて前記布帛の縁部に含浸させる、布帛の切断方法が記載されている。また、超音波振動装置に代えて、レーザーカット装置を使用する方法も考えられている。これらの方法を使用すれば、ナイロン繊維及びポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維の布帛、並びに、綿等の天然繊維及びその他溶融切断ができない繊維より成る布帛についても、切断縁部がほつれることなく、裁断することができる。しかし、このような方法では高価な超音波振動装置及びレーザーカット装置が必要である故、コスト高になり、従って、実用性に乏しい。
【0005】
油性インク、例えば、溶剤インク等を使用して印刷するための印刷用布帛であれば、印刷インク受容層として使用する樹脂の量を多くして、布帛上にある程度の厚みを有する層を形成することにより、カッター、ナイフ又はハサミ等の切断用具を使用して切断しても、切断部分がほつれない印刷用布帛を製造できる可能性はある。しかし、油性インクで印刷した布帛は、燃えやすくかつ有毒な臭気を発生することがあり、のぼり、タペストリー、懸垂幕等に使用するには問題があった。とりわけ、室内で使用する場合には、問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平3−3596号公報
【特許文献2】特開2002−321189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断しても、切断した部分からほつれることがなく、かつ、印刷インク受容層として、印刷インクが滲むことのない水性インク受容層を備えた印刷用布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水性インクを使用して印刷するための印刷用布帛、即ち、印刷インク受容層として水性インク受容層を備えた印刷用布帛において、いかにすれば、該印刷用布帛をカッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断しても、その切断した部分からのほつれを防止し得るかについて、種々検討を試みた。しかし、油性インク受容層において考えられるように、単に、水性インク受容層の厚さを大きくしたのみでは、ほつれを防止することができないばかりか、却って、水性インクの滲みが生じ易くなるなど、いわゆるインクののりが悪くなると言う問題を引き起こした。そこで、本発明者らは、水性インク受容層を備えた印刷用布帛の裏面に接着効果のある樹脂を施与することに思い至った。しかし、単にそのような樹脂を施与しただけでは、布帛の切断部分からのほつれは防止し得るものの、水性インク受容層への水性インクののりが悪くなってしまう。本発明者らは、更に検討したところ、下記所定の樹脂を、水性インク受容層を備えた印刷用布帛の裏面に塗布すれば、上記の課題を解決し得ることを見出した。好ましくは、更に、裏面に塗布する樹脂の厚さを所定の厚さにコントロールし、かつ、水性インク受容層に含まれる樹脂の種類を所定の樹脂とし、その比率を所定の範囲にコントロールすることにより、布帛の切断部からのほつれを防止し得るのみならず、水性インクの滲みが全くないなど、水性インクののりが著しく良好な印刷用布帛を完成するに至ったのである。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)布帛の表面及び/又は内部に印刷インク受容層を備える印刷用布帛であって、該印刷インク受容層が水性インク受容層であり、かつ該印刷用布帛が、更に、布帛の裏面にアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層を備える印刷用布帛である。
【0010】
好ましい態様として、
(2)布帛の裏面に備えられるアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層の厚みが10〜50μmである、上記(1)記載の印刷用布帛、
(3)布帛の裏面に備えられるアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層の厚みが15〜40μmである、上記(1)記載の印刷用布帛、
(4)布帛の裏面に備えられるアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層の厚みが20〜30μmである、上記(1)記載の印刷用布帛、
(5)上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含む、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の印刷用布帛、
(6)上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含み、かつ、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の質量比が0.3〜2.0:1.5〜3.5:1.0〜3.0である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の印刷用布帛、
(7)上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含み、かつ、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の質量比が0.5〜1.5:2.0〜3.0:1.5〜2.5である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の印刷用布帛、
(8)上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含み、かつ、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の質量比が0.7〜1.3:2.2〜2.7:1.7〜2.3である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の印刷用布帛、
(9)印刷用布帛が、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷又は昇華印刷用布帛である、上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の印刷用布帛、
(10)のぼり、タペストリー又は懸垂幕用の上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の印刷用布帛
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の印刷用布帛は、カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断しても、切断した部分からほつれることがなく、かつ、印刷インクが滲むことがない。このように、切断した部分からのほつれがないことから、従来使用していたヒートカッタ―を使用する必要がなく、また、切断後に縫製する必要もない。故に、作業が簡便で著しく短期間に、所望ののぼり、タペストリー、懸垂幕等を作製することができる。また、作業者が火傷等を負うこともなく安全性も確保し得る。加えて、超音波振動装置及びレーザーカット装置等の高価な装置を使用する必要がなく、コスト高を回避し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の印刷用布帛の一実施態様の断面を模式的に示した説明図である。
【図2】図2は、布帛裏面にアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂をコーティングする方法の一実施態様を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の印刷用布帛は、その裏面にアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層を備える。該アクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層の厚みは、上限が、好ましくは50μm、より好ましくは40μm、更に好ましくは30μmであり、下限が、好ましくは10μm、より好ましくは15μm、更に好ましくは20μmである。上記下限未満では、印刷用布帛を、カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断した際に、切断部分のほつれを十分に防止し得ないことがある。一方、上記上限を超えると、水性インクを使用して印刷用布帛を印刷した際、インクののりが悪くなり、インクが滲むなどの問題が生ずる。
【0014】
本発明の印刷用布帛は、布帛の表面及び/又は内部に印刷インク受容層を備える。また、本発明の印刷用布帛には、印刷インク受容層を構成する樹脂を印刷インクと混合して、印刷と同時に印刷用布帛に塗布することにより、印刷インク受容層を形成するものも含まれる。例えば、予め、印刷用布帛とは別の紙等に所定の文字、図柄等を印刷して、それを印刷用布帛に写し取る昇華転写方式の印刷がこれに含まれる。ここで、該印刷インク受容層は水性インク受容層である。水性インク受容層は、好ましくは、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含む。より好ましくは、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の組み合わせから構成される。ポリアミン系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンポリアミン樹脂、ポリアミンポリ尿素系樹脂、変性ポリアミン樹脂、ポリアルキレンポリアミン尿素ホルマリン樹脂及びポリアルキレンポリアミンポリアミドポリ尿素樹脂等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、例えば、エステル基を持つアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルを有する重合物であって、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等のアク
リル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルを単独で重合した重合物、又は(メタ)アクリル酸エステルとアクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、エチレン等の他のモノマーとを共重合させて得られる共重合物等、(メタ)アクリル酸エステル基含有高分子が挙げられる。共重合物としては、例えば、(メタ)アクリル・スチレン共重合物、(メタ)アクリル・アクリロニトリル共重合物、(メタ)アクリル・酢酸ビニル共重合物、(メタ)アクリル・酢酸ビニル・エチレン共重合物等が挙げられる。また、ポリウレタン系樹脂としては、イソシアネート成分とポリオール成分との反応から得られる重合体が挙げられる。ここで、イソシアネート成分としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。例えば、トリレン−2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート又は3官能以上のイソシアネートが挙げられる。ポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラエチレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコール等のジオールと、アジピン酸及びセバチン酸等の二塩基酸との反応生成物、又はカプロラクトン等の開環重合物が挙げられ、オキシ酸モノマー若しくはそのプレポリマーの重合物等も挙げることができる。
【0015】
上記の水性インク受容層に含まれるポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の質量比は、好ましくは0.3〜2.0:1.5〜3.5:1.0〜3.0であり、より好ましくは0.5〜1.5:2.0〜3.0:1.5〜2.5であり、更に好ましくは0.7〜1.3:2.2〜2.7:1.7〜2.3である。上記の範囲外では、印刷用布帛を、水性インクを使用して印刷した際に水性インクののりが悪く、インクが滲むなどの問題を生ずることがある。
【0016】
本発明の印刷用布帛は、好ましくは、まず、通常の方法で布帛の表面及び/又は内部に印刷インク受容層として機能する樹脂を塗布又は含浸した後、該布帛の裏面に、上記のアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂をコーティングすることにより製造される。また、印刷インク受容層を構成する樹脂を印刷インクと混合して、印刷と同時に印刷用布帛に塗布することにより、印刷インク受容層を形成する印刷用布帛においては、布帛の裏面に、上記のアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂のみがコーティングされる。
【0017】
水性インク受容層に含まれるポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を布帛に塗布又は含浸させるために、予め水等に分散させた分散物の市販品を使用することができる。ポリアミン系樹脂としては、例えば、ポリアミン系樹脂を主成分とする水系分散物[高松油脂株式会社製ソフナーAE(商標)]等が使用され、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、例えば、カチオン性メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン[高松油脂株式会社製ASA−197(商標)]等が使用され、ポリウレタン系樹脂としては、例えば、カチオン性ポリマー分散物[高松油脂株式会社製EP−0980(商標)]等が使用される。これらを、布帛に塗布又は含浸するに際して、これらの混合物の粘度を、好ましくは10〜50mPa・s、より好ましくは20〜40mPa・s、更に好ましくは25〜35mPa・sにすることが好ましい。これにより、これらの樹脂を良好に布帛に塗布又は含浸することができる。例えば、ポリアミン系樹脂を主成分とする水系分散物[高松油脂株式会社製ソフナーAE(商標)]、カチオン性メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン[高松油脂株式会社製ASA−197(商標)]、カチオン性ポリマー分散物[高松油脂株式会社製EP−0980(商標)]及び水が質量比で1:1:1:4である混合物を布帛に塗布又は含浸することが好ましい。
【0018】
布帛の裏面に施与されるアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂は、布帛への施与後に切断部分からの布帛のほつれを防止し得るものであれば特に制限はない。通常、アクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂と溶媒等の混合物が施与に際する作業性の観点から好ましく使用される。市販品としては、例えば、ウレタン樹脂と、メチルエチルケトン及びジメチルホルムアミドとの混合溶液[大日本インキ化学工業製クリスボン(商標)]、アクリロニトリル−アクリル酸アルキル−メタクリル酸ヒドロキシアルキル共重合物と酢酸エチルとの混合物[株式会社トウペ製XE(商標)]等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、布帛の裏面に備えられるアクリル樹脂及びウレタン樹脂の粘度(25℃)が、印刷インク受容層として使用する樹脂の粘度(25℃)より高いことが好ましい。これにより、印刷用布帛を、カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断した際に、切断部分のほつれを十分に防止し得る。ここで、上記粘度は、回転粘度計により、ローターの回転速度を一定又は可変に制御してトルクを検出する方式(回転数制御方式)を使用して測定することができる。
【0020】
上記の印刷インクを受容し得る樹脂が塗布又は含浸される布帛を構成する繊維の種類に特に制限はなく、再生繊維、半合成繊維、合成繊維及び天然繊維を使用することができる。例えば、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、キュプラ、アセテート、ビニロン、ポリプロピレン、綿、麻、羊毛及び絹より成る群から選ばれる。該布帛は、織物に限らず、編物、不織布等であることができる。
【0021】
本発明の印刷用布帛は、好ましくはスクリーン印刷、グラビア印刷又は昇華印刷に適しており、例えば、のぼり、タペストリー又は懸垂幕としての用途に有用である。
【0022】
以下の実施例において、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
布帛として、ポリエステル繊維から成る織物[経糸84dtex、緯糸84dtex、東レ株式会社製ポンジー(商標)]を使用した。次いで、カチオン性メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン[高松油脂株式会社製ASA−197(商標)]、ポリアミン系樹脂を主成分とする水系分散物[高松油脂株式会社製ソフナーAE(商標)]、カチオン性ポリマー分散物[高松油脂株式会社製EP−0980(商標)]及び水を、質量比1:1:1:4で混合したものを準備し、該混合物を上記布帛に塗布して含浸せしめた後、布帛を乾燥した。ここで、該混合物の粘度(25℃)は、30mPa・sであった。該粘度は、回転粘度計(株式会社シロ産業製M92VB−10M)により、回転数制御方式を使用して測定したものである。このようにして得られた印刷用布帛は、印刷インク受容層を構成する樹脂として、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を質量比1.0:2.5:2.0で布帛の表面及び内部に備えるものである。
【0024】
別途、布帛の裏面に施与する樹脂としてアクリル樹脂[株式会社トウペ製XE1513(商標)、粘度(25℃):550mPa・s(粘度測定は上記と同一の装置を使用して実施した。)]を使用した。図2に示したように、該樹脂(4)を所定の容器(3)に充填し、次いで、上記のようにして製造した印刷インク受容層を含浸した布帛(5)の裏面がアクリル樹脂を充填した容器(3)の側に来るようにセットして、該布帛を矢印(7)の方向に移動することにより、布帛裏面にアクリル樹脂を施与した。施与後、得られた布帛を乾燥して、布帛の裏面にアクリル樹脂を備える印刷用布帛を製造した。施与されたアクリル樹脂層の厚みは25μmであった。
【0025】
このようにして製造した布帛を、ハサミを使用して所定の形状に切断した。該切断後の布帛からのぼりを製造したところ、切断箇所から該布帛がほつれることはなく、良好な状態を長期間維持することができた。また、該布帛に水性インクを使用し、かつインクジェットプリンターを使用して印刷を施したところ、インクの滲みがなく非常に良好な印刷性能を示した。
【0026】
(実施例2)
アクリル樹脂に代えて、ウレタン樹脂[大日本インキ株式会社製クリスボン2116−EL(商標)、粘度(25℃):550mPa・s(粘度測定は上記と同一の装置を使用して実施した。)]を使用した以外は、実施例1と同一にして実施した。得られた布帛は、実施例1と同様に切断箇所からほつれることはなく、良好な状態を長期間維持することができた。また、該布帛に水性インクを使用し、かつインクジェットプリンターを使用して印刷を施したところ、インクの滲みがなく非常に良好な印刷性能を示した。
【0027】
(比較例1)
アクリル樹脂を布帛の裏面に塗布しなかったこと以外は、実施例1と同一にして実施した。アクリル樹脂を塗布しなかった布帛をハサミで切断したものは、のぼりを製造する過程で切断箇所からのほつれが生じ、のぼりとして使用し得るものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の印刷用布帛は、カッター、ナイフ又はハサミ等の通常の切断用具を使用して切断しても、切断した部分からほつれることがなく、かつ、印刷インクが滲むことがない。従って、作業が簡便で著しく短期間に、所望ののぼり、タペストリー、懸垂幕等を作製することができる。故に、従来使用していたヒートカッタ―を使用する方法、切断後に縫製する方法、又は、超音波振動装置若しくはレーザーカット装置等の高価な装置を使用する方法に代わるものとして、その利用が大いに期待される。例えば、のぼり、タペストリー又は懸垂幕等の布帛としての利用が期待されている。
【符号の説明】
【0029】
A 本発明の印刷用布帛
1 印刷インクを受容し得る樹脂を含浸した布帛
2 アクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層
3 アクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂容器
4 アクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂
5 印刷インクを受容し得る樹脂を含浸した布帛
6 本発明の印刷用布帛
7 布帛移動方向を示す矢印
8 布帛受け台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の表面及び/又は内部に印刷インク受容層を備える印刷用布帛であって、該印刷インク受容層が水性インク受容層であり、かつ該印刷用布帛が、更に、布帛の裏面にアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層を備える印刷用布帛。
【請求項2】
布帛の裏面に備えられるアクリル樹脂及び/又はウレタン樹脂層の厚みが20〜30μmである、請求項1記載の印刷用布帛。
【請求項3】
上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含む、請求項1又は2記載の印刷用布帛。
【請求項4】
上記水性インク受容層が、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含み、かつ、ポリアミン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂の質量比が0.5〜1.5:2.0〜3.0:1.5〜2.5である、請求項1又は2記載の印刷用布帛。
【請求項5】
印刷用布帛が、スクリーン印刷、グラビア印刷又は昇華印刷用布帛である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の印刷用布帛。
【請求項6】
のぼり、タペストリー又は懸垂幕用の請求項1〜5のいずれか一つに記載の印刷用布帛。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−86508(P2012−86508A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237146(P2010−237146)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(510282206)北陸精染株式会社 (1)
【Fターム(参考)】