説明

印刷装置、及び印刷方法

【課題】光硬化型インクを用いた印刷装置において、層を重ねて印刷を行う場合でも、利用者に各層ごとの再現色域の目安を提供することが可能な印刷装置、及び印刷方法を提供する。
【解決手段】光硬化型インクを媒体に噴射して複数の印刷層からなる印刷物を形成する印刷装置であって、入力色データの各成分値と前記各印刷層に使用される前記光硬化型インクのインク量との対応関係を規定したプロファイルを用いて、前記入力色データから各印刷層を印刷するためのインク量が設定されたインク量データを生成するインク量データ生成部と、前記生成された各印刷層に対応するインク量データを用いて各印刷層を重ねて印刷を行う印刷実行部と、を有し、前記プロファイルは、各印刷層を重ねて印刷する毎に再現色域が拡大するよう前記インク量が規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関し、特に光硬化型インクを用いた印刷装置、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線等の光の照射により硬化する光硬化型インクを用いて印刷を行う印刷装置が知られている。例えば、印刷装置は、光硬化型インクを用紙等に噴射した後、この用紙に対して紫外線を照射することで光硬化型インクを硬化させて印刷物を形成する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記した光硬化型インクは、1回のパスで噴射できるインク量に制約が伴うため、再現可能な再現色域も制約されることとなる。そのため、利用者が印刷物に対して所望とする再現色域を得るために、層を重ねて印刷を行う場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−158793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光硬化型インクを用いた印刷装置において層を重ねて印刷を行う場合、印刷物の再現色域が利用者の意図する色域を備えるか否かの判断は、利用者が結果物(印刷物)を目視等により確認するしかなかった。即ち、層を重ねて印刷した場合に、各層で再現できる色域を判断する目安が存在しないため、目視による確認でしか判断を行うことができなかった。その結果、光硬化型インクを用いた印刷装置において均一な印刷物を形成することが難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、光硬化型インクを用いた印刷装置において、層を重ねて印刷を行う場合でも、利用者に各層ごとの再現色域の目安を提供することが可能な印刷装置、及び印刷方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、光硬化型インクを媒体に噴射して複数の印刷層からなる印刷物を形成する印刷装置であって、入力色データの各成分値と前記各印刷層に使用される前記光硬化型インクのインク量との対応関係を規定したプロファイルを用いて、前記入力色データから各印刷層を印刷するためのインク量が設定されたインク量データを生成するインク量データ生成部と、前記生成された各印刷層に対応するインク量データを用いて各印刷層を重ねて印刷を行う印刷実行部と、を有し、前記プロファイルは、各印刷層を重ねて印刷する毎に再現色域が拡大するよう前記インク量が規定されている。
【0008】
上記のように構成された発明では、インク量データ生成部は、入力色データの各成分値と各印刷層に使用される光硬化型インクのインク量との対応関係を規定したプロファイルを用いて、入力色データから各印刷層を印刷するためのインク量が設定されたインク量データを生成する。また、印刷実行部は、生成された各印刷層に対応するインク量データを用いて各印刷層を重ねて印刷を行う。ここで、インク量データ生成部が使用するプロファイルは、各印刷層を重ねて印刷する毎に再現色域が拡大するよう入力色データの成分値とインク量とが規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、印刷装置100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【図2】図2は、印刷装置100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【図3】層別LUTの作成を説明する図である。
【図4】層別LUTの作成を示すフローチャートである。
【図5】ステップS1の処理を詳細に示すフローチャートである。
【図6】色補正なしLUTから色補正LUTを作成する過程を説明する図である。
【図7】印刷装置100における印刷方法を説明するフローチャートである。
【図8】第2の実施形態に係る図4のステップS1の処理を詳細に示すフローチャートである。
【図9】第2の実施形態に係る印刷装置100で印刷された印刷物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態:
1.1.印刷装置の構成:
1.2.層別LULTの作成:
1.3.印刷方法:
1.4.変形例:
2.第2の実施形態:
【0011】
1.第1の実施形態:
1.1.印刷装置の構成:
以下、図を参照して、この発明に係る印刷装置を具体化した第1の実施の形態について説明する。図1、図2は、印刷装置100の構成を説明するためのブロック構成図である。本実施形態では、印刷装置100は、パーソナルコンピューター(以下、PCとも記載する)10とプリンター20とがケーブル50に接続されて構成される。
【0012】
PC10は、記録部11、CPU(Central Processing Unit)12、RAM(Random Access Memory)13、USBI/F(Universal Serial Bus Interface)14、ビデオI/F15、入力I/F16などを備えている。各部はバスを通じて接続されており、CPU12による統合的な制御を受ける。また、記録部11は、例えばハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)により実現され、CPU12に対して各種機能を実現させるためのプログラムやデータが記録されている。本実施形態では、記録部11には、印刷を行うためのドライバープログラム11aや、層別LUT(Look Up Table、ルックアップテーブル)11b、更には、色補正LUTを作成するためのプロファイル作成プログラム11cが記録されている。本実施形態では、層別LUT11bがカラープロファイルとして機能する。
【0013】
PC10は、ビデオI/F15を介してディスプレイ30と接続されており、入力I/F16を介してキーボードやマウス等の操作部40と接続されている。また、PC10は、ドライバープログラム11aに従った演算を実行し、プリンター20をUSBI/F14等を介して制御することにより、プリンター20に対してインク量データを出力するインク量データ生成部12a、及びインク量データを用いてプリンター20に印刷を実行させる印刷実行部12bとして作用的に機能する。更に、CPU12は、プロファイル作成プログラム11cを実行して、層別LUT11bを作成するプロファイル作成部12cとして作用的に機能する。
【0014】
プリンター20は、紫外線(以下、UVとも記載する。)の照射によって硬化する紫外線硬化型インク(光硬化型インク、以下、UVインク、単にインクとも記載する。)を噴射することにより、媒体に画像形成する。UVインクは、光重合硬化性を有するオリゴマーやモノマー、光重合開始剤、及び顔料の混合物に、重合禁止剤、界面活性剤等の補助剤を添加して調合される。そのため、UVインクは、UVの照射を受けると光重合反応が起こり、硬化する。
【0015】
プリンター20は、搬送ユニット21、ヘッドユニット22、照射ユニット23、検出器群24、及びコントローラー25を有する。ヘッドユニット22には、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各色のトナーと着脱可能に接続し、このトナーから供給されるインクを噴射して印刷物を形成する。なお、このトナーには上記したUVインクが充填されている。また、搬送ユニット21、ヘッドユニット22、照射ユニット23、検出器群24は、それぞれコントローラー25に接続されており、コントローラー25による統合的な制御を受ける。更に、コントローラー25は、PC10のUSBI/F14とケーブル50を通じて接続可能であり、PC10から印刷用データを受信する。
【0016】
また、照射ユニット23は、ヘッドユニット22から噴射されたUVインクを硬化させるためにUVインクが噴射された媒体に対して紫外線を照射する。そのため、UVインクは照射ユニット23から紫外線の照射を受けることで硬化を開始する。また、プリンター20は、UVインクを用いるため、1回のパスで噴射するインク量に制限がある。ここで、1回のパスとは、用紙が、搬送ユニット21によって搬送方向の先端から後端まで搬送される間にUVインクが噴射される期間を言う。本実施形態では、UVインクが硬化するまでの安定度、印刷ヘッドの噴射能力、使用される用紙の記録特性、更には形成画像の解像度等を考慮して、1回のパスで噴射されるインク量に制限が加えられる。そのため、所望とする色再現を行うために複数回に渡りインクの層を重ねる必要が生じる。以下、このように1回のパスにより印刷されるUVインクで形成された層を印刷層、又は単に層とも記載する。
【0017】
1.2.層別LUTの作成:
図3は、層別LUTの作成を説明する図である。また、図4は、層別LUTの作成を示すフローチャートである。層別LUTは、PC10が各層に対応したインク量データを作成する際に用いられるテーブルであり、画像データ(入力色データ)の成分値(sRGBの各値)とインク量とが対応付けて記録されている。例えば、3層からなる印刷物を印刷する場合は、PC10は、第1層から第3層の各層別LUTを用いて画像データの成分値をインク量に変換し、プリンター20に印刷を実行させる。なお、この処理により、本発明に係るプロファイル作成工程が実現される。
【0018】
本実施形態では、この層別LUTを作成するに際し、図4に示すように、ステップS1において、各層の再現色域の設定が行なわれる。各層の再現色域とは、各層を重ねて再現できる最大の色域を意味する。次に、ステップS2において、設定された再現色域を満たすよう色補正なしLUTが作成される。色補正LUTは、機器非依存空間(RGB表色系)の成分値とUVインクのインク量とを対応付けたテーブルである。次に、ステップS3では色補正なしLUTから色補正LUTが作成される。色補正LUTは、機器依存空間(sRGB表色系)の成分値とUVインクのインク量とを対応付けたテーブルである。そして、ステップS4において、色補正LUTから層別LUTが作成される。以下、各ステップを詳細に説明する。
【0019】
<<ステップS1>>
図5は、ステップS1の処理を詳細に示すフローチャートである。
ステップS11では、PC10は、1回のパスで噴射可能なインク量をもとに第1層の再現色域の範囲を取得する(図3A)。例えば、PC10は、1度目のUVインクが硬化するまでの安定度、印刷ヘッドの噴射能力、使用される用紙の記録特性、更には解像度等を考慮して1回のパスで噴射可能なインク量を取得する。そして、PC10は取得されたインク量をもとに再現色域の範囲を取得する。再現色域の取得方法の一例として、上記各条件を加味しつつ1回のパスで噴射可能なインク量により第1層を形成し、この第1層を図示しない測色機により測色することで取得される。
【0020】
ステップS12では、PC10は、最大色域を取得する。最大色域は、複数層を重ねて印刷物を形成することで再現可能な最大の再現色域を示す。本実施形態では、3層を重ねた場合に再現される色域を最大色域として設定する。そのため、PC10は、3回のパスで噴射可能なインク量をもとに再現色域を取得する(図3B)。
【0021】
ステップS13では、PC10は、最大色域を再現する層数Nを決定する。層数は、最大色域を何層で再現するかを設定する値となる。本実施形態では以下、層数N=3として説明を行う。
【0022】
ステップS14では、PC10は、層を重ねて印刷することで増加する色域の増加量を設定する。増加量は、プリンター20により各層を重ねて印刷した場合に増加する再現色域の割合を示す。本実施形態では、各層の再現色域の増加が彩度方向で均等になるよう彩度の増加量ΔC*を設定する。
【0023】
ステップS15では、PC10は、第1層の再現色域を決定する。即ち、第1層の再現色域をステップS11で取得した実際の第1層の再現色域を超えない範囲で設定する。再現色域は各層の増加とともに均等に拡大するため、第1層の再現色域がステップS11で設定された実際の再現色域と同じにならない場合がある。本実施形態では、このステップで設定される第1層の再現色域は、L*a*b*空間上で最大色域の外周を構成する各点から彩度方向にΔC*×(3−1)だけ低彩度方向に進んだ外周で囲まれる領域として取得する。
【0024】
ステップS16では、PC10は、上記各ステップで決定された値(最大色域、層数N、増加量ΔC*、第1層の再現色域)をもとに各層を重ねて印刷した際の再現色域を設定する。即ち、第1層と第2層を重ねた再現色域(以下、層数2の再現色域とも記載する。)の外周は、最大色域(第1〜第3層を重ねた再現色域)の外周を構成する各点から増加量ΔC*だけ低彩度方向に進んだ各点により構成される周となる。なお、第1層の再現色域の外周は、ステップS15により設定された値となる。
【0025】
<<ステップS2>>
PC10は、ステップS1で設定した各層数の再現色域をもとに、各層に対応する色補正なしLUTを作成する。色補正なしLUTは、機器非依存色であるRGB表色系の各色成分を軸とし、色成分の値を軸上の位置とするアドレス点(グリットとも記載する)により規定された空間アドレスとして表すことができる。本実施形態では、ディスプレイ30の入力範囲に合わせて、入力値の範囲を0≦R≦255、0≦G≦255、0≦B≦255とし、軸上の等間隔に配置された16個のアドレス点に対して所定のインク量が設定される。なお、色補正なしLUTに設定されていない入力色データに対するインク量を選択する場合は、これらグリット間を補間演算して所定のインク量を算出する。
【0026】
また、各グリットに設定されるインク量は、層数に応じて増減する。例えば、層数3の色補正なしLUTでは、各グリットに設定されるインク量の最大値は、3回のパスで噴射可能なインク量の総和により設定される。例えば、1回のパスでのインク階調値(インク量を0から255の値で規定したもの)が255となる場合は、層数3の色補正なしLUTの各グリットには色(C、M、Y、K)毎に最大765(255×3)のインク階調値が設定される(図3C)。本実施形態では、PC10は、層数3の色補正なしLUT、層数2の色補正なしLUT、層数1の色補正なしLUTをそれぞれ作成する。各色補正なしLUTには、ステップS1で設定された各層数での再現色域に応じたインク量の設定が行われる。
【0027】
<<ステップS3>>
図6は、色補正なしLUTから色補正LUTを作成する過程を説明する図である。PC10はステップS2で作成された色補正なしLUTをもとに色補正LUTを作成する。色補正LUTの作成により、機器非依存色空間の値とインク量との対応関係(色補正なしLUT)が、機器依存色空間(sRGB色空間)の値とインク量との対応関係(色補正LUT)に変換される。
【0028】
まず、色補正なしLUTにより、RGB値がインク量に変換される。変換後のインク量は、RGB値とインク量との関係を規定したFM(Forward Model)コンバーターによってL*a*b*値に変換される。一方、色補正LUTに対応付けられるsRGB値は、既知の変換式に従ってL*a*b*値に変換される。そして、変換後のL*a*b*値は、その色域が、FMコンバーターで変換されたL*a*b*値の色域と一致するようにガマットマッピングされる。
【0029】
一方、色補正なしLUTとFMコンバーターを通じて、RGB値から変換したL*a*b*値を、逆方向ルックアップテーブルとして、逆変換LUTが作成される。即ち、逆変換LUTは、L*a*b*値とRGB値とを対応付けるLUTである。さらに、ガマットマッピングされたL*a*b*値は、この逆変換LUTによってRGB値に変換される。このRGB値は、さらに、色補正なしLUTによってインク量Ijに再度変換される。そして、最後のインク量Ijと最初のsRGB値の対応関係をルックアップテーブルに登録することによって、色補正LUTが作成される。
【0030】
<<ステップS4>>
このステップにより、色補正LUTから各層の印刷を行う際に用いられる層別LUTが作成される。層数の増加により拡大する色域は、パスの増加により増加するインク量と比例するため、本実施形態では、増加する層とインク量の増加分とを関連づけて層別LUTを作成している。即ち、PC10は、層数Nの色補正LUTの各グリットに設定されたインク量から層数N−1の色補正LUTの同一グリットに設定されたインク量を引いて、色域の増加分に対応するインク量を算出する。そして、層別LUTの各グリットに対してこのインク量を設定することで、N層の層別LUTを作成する。例えば、図3Cに示すように、層数3の色補正LUTの各グリットに設定されたインク量から層数2の色補正LUTの同一グリットに設定されたインク量を引くことで算出されたインク量を、同一グリットに対して設定することで第3層の層別LUTを作成する。
なお、層数1の色補正LUTは、第1層での再現色域に基づいて作成されるため、そのまま第1層の層別LUTとして適用する。
【0031】
以上により、各層に対応した層別LUTが作成され、記録部11に記録される。以後、PC10では、この層別LUTを使用して入力色データに対応するインク量を選択してプリンター20に出力する。
【0032】
1.3.印刷方法:
図7は、印刷装置100における印刷方法を説明するフローチャートである。
ステップS50では、PC10は、印刷物を形成するための元となる画像データを取得する。例えば、PC10に記録されるアプリケーションプログラムによって所定の画像を示す画像データが形成され、この画像データの印刷を実行する印刷命令がPC10に入力されたとする。
【0033】
ステップS51では、PC10は、ディスプレイ30上に層数に応じて再現できる色域を表示する。PC10は、層数に応じて再現可能な色域を、該当する色補正LUTを用いて表示する。例えば、明度L*=50において、層数が1から3に増加するに伴い、層別LUTで再現される再現色域が彩度方向にΔC*の割合で増加する。そのため、利用者はディスプレイ上で再現色域を目視することで、何層で印刷を行えば良いかの目安とすることができる。
【0034】
利用者がディスプレイ上で再現色域を判断して、印刷を行う層数の選択を行うと、PC10(インク量データ生成部12a)はこの操作入力を受信し(ステップS52:YES)、ステップS53では、選択された層数に応じたインク量データを生成する。例えば、ステップS53において選択された層数が3である場合、PC10は、第3層の層別LUT、第2層の層別LUT、第1層の層別LUTを用いて、画像データの色成分値に対応するインク量を各層に対応するインク量データ(インク量)に変換する。ステップS53の処理により、本発明に係るインク量データ生成工程が実現される。
【0035】
ステップS54では、PC10(印刷実行部12b)は各層のインク量データをラスタデータに変換して、プリンター20に出力する。ここで、ラスタデータとは、インク量データをプリンター20が再現可能な2値の値に置き換えたものである。
【0036】
そして、ステップS55では、プリンター20は各層のラスタデータを受信すると、用紙に対して指定された層数に応じた印刷を行う。指定された層数がN=3の場合は、用紙上に第1層、第2層、第3層の準で印刷層が形成されることで、所定画像が形成される。そのため、ステップS54、55の処理により本発明に係る印刷実行工程が実現される。以上、印刷方法を説明した。
【0037】
1.4.変形例:
上記した実施形態では、層数が増加するにつれ再現色域が彩度方向に増加するようプロファイルを構成したが、プロファイルの特徴はこれに限定されない。例えば、層数が増加するにつれ、明度方向(Lab色空間でL*方向)の暗部(例えば、L*=50以下)で再現色域が増加するようプロファイル(層別LUT)を作成してもよい。
【0038】
以上説明したように、この実施形態では、印刷物の層数に応じて再現色域が均等に拡大するため、印刷装置100の利用者は、印刷を行う際に何層で印刷物を形成すればよいかの判断を従来よりも容易に行うことが可能となる。
【0039】
2.第2の実施形態:
この第2の実施形態では、第1の実施形態と比べて、各層の再現色域の増加量が均等に形成されない構成において異なる。即ち、第1層の再現色域は1回のパスで噴射可能な最大インク量をもとに規定される。又、各層を重ねて再現される色域も色相間で均等とはならない。なお、第2の実施形態においても、層別LUTは色補正LUTをもとに作成されるため、図4のフローチャートを流用して説明を行う。
【0040】
<<ステップS1>>
図8は、第2の実施形態に係る図4のステップS1の処理を詳細に示すフローチャートである。ステップS111では、PC10は、1回のパスで再現可能な色域の範囲を取得する。PC10は、1度目の光硬化型インクが硬化するまでの安定度、印刷ヘッドの噴射能力、使用される用紙の記録特性、更には解像度等を考慮して、1回のパスで再現可能な色域の範囲を取得する。
【0041】
ステップS112では、PC10は、最大色域を取得する。最大色域は、複数層を重ねて印刷物を形成することで再現可能な最大の再現色域を示す。ステップS113では、PC10は、最大色域を再現する層数Nを決定する。
【0042】
ステップS114では、ステップS113で設定された各層において再現できる再現色域を取得する。この第2の実施形態では、各層の再現色域は1回のパスで印刷できるインク量において設定される。例えば、第2層の再現色域を取得する場合、2回のパスで噴射可能なインク量を用いて再現色域が取得される。
【0043】
ステップS115では、PC10は、各層数で再現色域の形状が相似するよう色域を調整する。第2の実施形態では、各層数での再現色域は、各層が噴射可能なインク量等に応じて規定されるため、例えば、層数1の再現色域と層数3の再現色域との間で再現色域の形状が大きく異なることも想定される。そのため、PC10は、層数1の再現色域に対して各頂点の色相(Hue)や、明度特性(L*値)を層数3の再現色域の形状に相似するようグリットに設定したインク量の調整を行う。無論、インク量の調整は、各層(層数)において噴射可能なインク量を超えない範囲において行われる。上記構成とすることで、各層数で再現される色域が大きく異なることを防止することができる。
【0044】
<<ステップS2>>
PC10は、層数に応じた再現色域をもとに各層数ごとの色補正なしLUTを作成する。第1の実施形態同様、再現色域に応じたインク量が空間アドレスの各グリットに設定される。
【0045】
<<ステップS3>>
PC10は、各色補正なしLUTから色補正LUTを作成する。第1の実施形態同様、図6に示す方法で色補正なしLUTから色補正LUTが作成される。
【0046】
<<ステップS4>>
PC10は、色補正LUTから層別LUTを作成する。第2の実施形態においても、第1の実施形態同様、層数Nの色補正LUTの所定グリットに設定されたインク量から層数N−1の色補正LUTの同一グリットに設定されたインク量を引くことで、第N層の層別LUTが作成される。以上、第2の実施形態における層別LUTの作成を説明した。
【0047】
図9は、第2の実施形態に係る印刷装置100で印刷された印刷物を示す図である。以下、図9Aは、層数1で印刷した印刷物である。また、図9Bは、層数2で印刷した印刷物である。そして、図9Cは、層数3で印刷した印刷物である。
【0048】
図9A〜9Cに示すように、本実施形態においても、層数を増加させるに従って、印刷物の再現色域は増加する。しかし、第2の実施形態では、層数を増加させても再現色域は彩度方向で均等に拡大しない。例えば、図9Aに示すように、明度L*=50のa*b*平面において、第1層の再現色域が色相R方向以外で最大色域に近い場合(即ち、色相のC、M、Y、G、B方向で最大色域に近い値を取っている場合)、第1層に第2層を重ねて画像を形成しても、色相R以外の彩度は大きくは拡大しない(図9B)。これは、各層で再現できる色域に応じて層別LUTのインク量が設定されているためである。そのため、以後、層を重ねるごとに、色相R方向における彩度のみが大きく増加することなる(図9C)。
【0049】
以上説明したように、この第2の実施形態では、所定の層数で印刷された印刷物は、その層において再現できる色域を備えることとなるため、印刷物の画質破綻を抑制することができる。また、層数ごとに印刷物の確認が容易となるため、発色に応じた層数を選択することが可能となる。
【0050】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。即ち、上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0051】
10…PC、11…記録部、12…CPU、13…RAM、14…USBI/F、15…ビデオI/F、16…入力I/F、20…プリンター、21…搬送ユニット、22…ヘッドユニット、23…照射ユニット、24…検出器群、25…コントローラー、30…ディスプレイ、40…操作部、50…ケーブル、100…印刷装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化型インクを媒体に噴射して複数の印刷層からなる印刷物を形成する印刷装置であって、
入力色データの各成分値と前記各印刷層に使用される前記光硬化型インクのインク量との対応関係を規定したプロファイルを用いて、前記入力色データから各印刷層を印刷するためのインク量が設定されたインク量データを生成するインク量データ生成部と、
前記生成された各印刷層に対応するインク量データを用いて各印刷層を重ねて印刷を行う印刷実行部と、を有し、
前記プロファイルは、各印刷層を重ねて印刷する毎に再現色域が拡大するよう前記インク量が規定されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記プロファイルでは、前記各印刷層を重ねて印刷した場合に再現色域が彩度方向で等間隔に拡大するよう前記対応関係が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記プロファイルは、入力色データの成分値とインク量との対応関係を前記印刷層毎に規定することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項4】
前記プロファイルで規定される第N層のインク量は、層数Nの印刷物に使用されるインク量から、層数N−1の印刷物に使用されるインク量を引いた値に基づいて設定されることを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
光硬化型インクを媒体に噴射して複数の印刷層からなる印刷物を形成する印刷方法であって、
入力色データの各成分値と前記各印刷層に使用される前記光硬化型インクのインク量との対応関係を、各印刷層を重ねて印刷するごとに再現色域が拡大するよう規定したプロファイルを作成するプロファイル作成工程と、
前記作成されたプロファイルを用いて、前記入力色データから各印刷層を印刷するためのインク量が設定されたインク量データを生成するインク量データ生成工程と、
前記生成された各印刷層に対応するインク量データを用いて各印刷層を重ねて印刷を行う印刷実行工程と、を有することを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−14057(P2013−14057A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147996(P2011−147996)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】