説明

厚膜形成塗料、その塗装方法および塗装物

【課題】電着塗装による厚膜の塗膜と熱硬化型上塗り塗料による美観の塗膜とを効率よく形成する。
【解決手段】金属材1に対して、前処理を実施して塗装を施すのに適する表面状態にし、ウレタン変性アクリル樹脂20〜25重量%、ポリアミン樹脂1〜2重量%、ポリアクリル樹脂2〜3重量%、着色顔料、非鉛系防錆顔料、硬化解媒を含有する厚膜カチオン電着塗料で第1の塗膜2を形成し、この第1の塗膜2を水切り乾燥後、熱硬化型上塗り塗料で第2の塗膜3を形成し、第1の塗膜2と第2の塗膜3とを同時に加熱硬化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜カチオン電着塗料の塗膜面に熱硬化型上塗り塗料の塗膜を良好に形成し得る厚膜形成塗料、その塗装方法および塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御盤、配電盤などを構成する金属材に対して、前処理実施後、エポキシ樹脂系塗料による電着塗装で塗膜厚さ20μmの下塗りをし、加熱硬化後、熱硬化型塗料を吹き付けて塗膜厚さ20μmの中塗りをし、更に加熱硬化後、同様の塗料で上塗りをして加熱硬化させる塗装方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、塗膜の厚さは、下塗りから上塗りまで合わせると60μm以上、中塗りを省いた下塗りと上塗りとでは40μm以上の厚膜となる。なお、客先指定などにより、マルセン表色記号5Y7/1、JIS K 5600に準拠した60度鏡面光沢度40±10(半つや)を上塗りした塗膜を要求されるものがある。
【特許文献1】特開平6−80928号公報(第2ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の塗装方法においては、次のような問題がある。下塗りから上塗りまでの塗膜を自動塗装ラインで行うものの、それぞれの工程では加熱硬化させているので、多大の硬化時間が必要であり、リードタイムが長時間となっていた。また、中塗りや上塗りでは、吹き付け時の飛散により、塗料のロスが発生していた。
【0005】
また、客先指定などにより塗膜を形成する場合、前記下塗りから上塗りまでの塗膜を加熱硬化させた後、一旦冷却し、更に客先指定の上塗りの塗膜を形成し、加熱硬化させているので、リードタイムが長時間となっていた。生産効率を考慮した場合、二機以上の加熱炉で対応も可能であるが、乾燥炉のスペースや冷却ゾーンが必要となり、設備費、機器の設置スペースが大となり、更には多大な熱エネルギーが必要であった。
【0006】
このため、一回の塗装(ワンコート)で、塗膜の厚さが下塗りと上塗りとを合わせた40μm以上、更には、下塗りから上塗りまでを合わせた60μm以上の厚膜が形成できるとともに、客先指定の美観の上塗りまでを一回の加熱硬化で形成し得ることが望まれていた。そして、美観で厚膜に形成された塗膜が優れた初期物性のみならず耐久性能をも有することが望まれていた。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、一回の塗装で形成した厚膜の塗膜面に、熱硬化型上塗り塗料による塗膜を形成し、これらの塗膜を同時に加熱硬化させ、優れた塗膜性能を発揮し得る厚膜形成塗料、その塗装方法および塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の厚膜形成塗料は、ウレタン変性アクリル樹脂20〜25重量%、ポリアミン樹脂1〜2重量%、ポリアクリル樹脂2〜3重量%、着色顔料、非鉛系防錆顔料、硬化解媒を含有する厚膜カチオン電着塗料と、前記厚膜カチオン電着塗料で形成した塗膜面に塗装する熱硬化型上塗り塗料とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、厚膜カチオン電着塗料で厚膜の第1の塗膜を形成し、水きり乾燥後に熱硬化型上塗り塗料による第2の塗膜を形成し、これらの塗膜を同時に加熱硬化しているので、厚膜の塗膜とともに、美観の塗膜を得ることができ、初期物性のみならず、長期間に亘っても優れた耐久性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る厚膜形成塗料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る厚膜カチオン電着塗料と熱硬化型上塗り塗料とで形成した塗膜を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、交通機器や産業機器を構成する酸洗した冷延鋼板、熱延鋼板のような塗装物の金属材1の表面には、一回の電着塗装で形成させた厚膜カチオン電着塗料による第1の塗膜2が設けられている。また、第1の塗膜2には、客先指定による熱硬化型上塗り塗料による第2の塗膜3が形成されている。
【0013】
以下、この塗装方法を説明する。
【0014】
先ず、金属材1の表面を前処理し、電着塗装に適する表面状態にする。前処理には、脱脂後、表面調整し、リン酸亜鉛被膜を設ける化学的処理を用いる。脱脂剤には、例えば、日本パーカライジング社製ファインクリーナーL4460、また、表面調整剤には、例えば同社製プレパレンX、また、リン酸亜鉛処理剤には、例えば同社製パルボンドL3020を用いる。
【0015】
次に、厚膜カチオン電着塗料で第1の塗膜2を形成する。第1の塗膜2の厚さは、電着塗装時の電流を制御することにより行うことができ、客先指定が総合膜厚40μm以上の場合、30μm程度を形成する。総合膜厚60μmの場合には、50μm程度を形成する。第1の塗膜2を形成し、この塗膜2面を水切り乾燥後、指定された色および光沢が得られる熱硬化型上塗り塗料を例えばスプレー塗装し、膜厚10〜20μmの第2の塗膜3を形成する。水切り乾燥とは、塗膜面から水滴が落ちない乾燥した状態であり、指触しても水がつかない状態をいう。ここで、30〜70μmの塗膜厚さを、厚膜と定義する。
【0016】
厚膜カチオン電着塗料は、BASFコーティングスジャパン社製アクアNo4830Lを用いた。これは、アクアNo4830Lクリヤー:アクアNo4830Lピグメント=6:1(重量比)の比率で混合し、脱イオン水で加熱残分14%に調整したものである。アクアNo4830Lクリヤーの成分を表1、アクアNo4830Lピグメントの成分を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0017】
アクアNo4830LクリヤーとアクアNo4830Lピグメントとを混合した後の厚膜カチオン電着塗料のそれぞれの成分は、ウレタン変性アクリル樹脂が21.4重量%(20〜25重量%)、ポリアミン樹脂が1.5重量%(1〜2重量%)、ポリアクリル樹脂が2.4重量%(2〜3重量%)、着色顔料が4.8重量%(4〜5重量%)、非鉛系防錆顔料が0.42重量%(0.4〜0.5重量%)となる。かっこ内は、許容範囲である。
【0018】
ここで、一回の塗装で30〜70μmの厚膜化を実現するためには、高クーロン収量化、析出膜抵抗の制御、特殊造膜性の付与が必要であり、具体的には、分散相樹脂の導入、官能基濃度の調整、硬質樹脂と軟質樹脂との併用、マイクロゲルの併用により可能となっている。
【0019】
塗膜形成の初期段階では、硬質樹脂および軟質樹脂のジュール熱発生を抑制することにより、樹脂変形融着が抑制され、粒子形態を保持した状態で塗膜の成長が進む。塗膜形成の後期段階では、ジュール熱により、軟質樹脂は粒子変形して融着を開始するが、硬質樹脂は粒子形態を保持している。更に、マイクロゲルを併用していることにより、増膜の効果が向上する。
【0020】
また、後述するように、温度130℃以上で加熱硬化するので耐久性能を有する。これは、低温解離タイプのブロック剤(ブロックイソシアネート)の適用、およびスズ系の解離触媒の選定、調合により得られるものである。
【0021】
また、第1の塗膜2の付着性および耐久性は、ウレタン変性アクリル樹脂の特性のみならず、高分子可撓性樹脂の導入による内部応力緩和機能の付与、長鎖ACモノマーの導入による付着性の向上、多官能架橋剤の併用による架橋密度の向上、非鉛系防錆顔料による素地の不動体化により得られるものである。
【0022】
熱硬化型上塗り塗料は、美観の表面が得られるメラミン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料を用いた。
【0023】
メラミン樹脂系塗料としては、関西ペイント社製アミラック(TFアミラックタイプ2、アミラック1000など)を用い、第1の塗膜2と第2の塗膜3とを温度130〜150℃×20〜30分で同時に加熱硬化させた。アクリル樹脂系塗料としては、関西ペイント社製マジクロン1000を用い、第1の塗膜2と第2の塗膜3とを温度150〜170℃×20〜30分で同時に加熱硬化させた。エポキシ樹脂系塗料としては、大日本塗料社製エポニックス#1100を用い、第1の塗膜2と第2の塗膜3とを温度170〜200℃×20〜30分で同時に加熱硬化させた。
【0024】
このように、熱硬化型上塗り塗料の加熱硬化の条件で厚膜カチオン電着塗料を加熱硬化することができるのは、厚膜カチオン電着塗料の硬化条件が、温度130〜200℃×20〜30分と広範囲であるためである。なお、厚膜カチオン電着塗料による第1の塗膜2が40μm以上の場合には、急激に昇温せずに、10〜15分程度で常温から所定の温度まで昇温するようにすれば、塗膜欠陥であるわき(発泡)現象を抑制することができる。即ち、第2の塗膜3を含む第1の塗膜2全体を所定の温度まで緩やかに昇温させ、所定の温度に達した後、確実に硬化が進むようにすれば塗膜欠陥を防ぐことができる。
【0025】
ここで、電着塗装で厚膜の塗膜を形成する厚膜カチオン電着塗料と、この厚膜カチオン電着塗料で形成した塗膜面に塗装する熱硬化型上塗り塗料とを合わせて厚膜形成塗料と定義する。
【0026】
次に、厚膜カチオン電着塗料で第1の塗膜2を約40μm形成し、メラミン樹脂系塗料で第2の塗膜3を15〜20μm形成した厚膜形成塗料について、以下のような試験を行った。
【0027】
1.初期物性試験
1−1硬度:JIS K 5600 鉛筆引っかき試験
1−2付着力:ASTM 3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)
2.耐久性試験
2−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験750時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−2耐湿試験:JIS K 5600 耐湿試験(50℃、95%RH)750時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−3亜硫酸ガス試験:20ppm、40℃、90%RH、500時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−4塩素ガス試験:1ppm、40℃、90%RH、500時間実施後の外観判定および2次物性試験
【0028】
これらの試験結果を表3に示す。
【表3】

【0029】
表3の結果から、厚膜カチオン電着塗料で厚膜の第1の塗膜2を形成し、水切り乾燥後、熱硬化型上塗り塗料による第2の塗膜3を形成して加熱硬化させたものは、初期物性のみならず、各試験において、試験後の物性値が初期値と変化せず、優れた耐久性能を有することがわかった。なお、熱硬化型上塗り塗料のアクリル樹脂系塗料およびエポキシ樹脂系塗料も同様に良好であった。
【0030】
上記実施例の厚膜形成塗料によれば、厚膜カチオン電着塗料による電着塗装で第1の塗膜2を形成し、水切り乾燥後、この第1の塗膜2面に熱硬化型上塗り塗料による第2の塗膜3を形成し、これらの塗膜2、3を同時に加熱硬化させているので、厚膜の第1の塗膜2とともに、美観の第2の塗膜3を効率よく得ることができ、初期物性のみならず、長期間に亘っても優れた耐久性能を得ることができる。また、これらの塗膜2、3を加熱硬化させるリードタイムを短縮でき、塗料ロスの削減、設備のスペース削減、省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係る厚膜カチオン電着塗料と熱硬化型上塗り塗料とで形成した塗膜を示す断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 金属材
2 第1の塗膜
3 第2の塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン変性アクリル樹脂20〜25重量%、ポリアミン樹脂1〜2重量%、ポリアクリル樹脂2〜3重量%、着色顔料、非鉛系防錆顔料、硬化解媒を含有する厚膜カチオン電着塗料と、
前記厚膜カチオン電着塗料で形成した塗膜面に塗装する熱硬化型上塗り塗料とからなることを特徴とする厚膜形成塗料。
【請求項2】
前記熱硬化型上塗り塗料は、メラミン樹脂系塗料であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜形成塗料。
【請求項3】
前記熱硬化型上塗り塗料は、アクリル樹脂系塗料であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜形成塗料。
【請求項4】
前記熱硬化型上塗り塗料は、エポキシ樹脂系塗料であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜形成塗料。
【請求項5】
ウレタン変性アクリル樹脂20〜25重量%、ポリアミン樹脂1〜2重量%、ポリアクリル樹脂2〜3重量%、着色顔料、非鉛系防錆顔料、硬化解媒を含有する厚膜カチオン電着塗料で金属材に第1の塗膜を形成し、
前記第1の塗膜を水切り乾燥後、この第1の塗膜面に熱硬化型上塗り塗料で第2の塗膜を形成し、
前記第1の塗膜と前記第2の塗膜とを同時に加熱硬化することを特徴とする厚膜形成塗料の塗装方法。
【請求項6】
前記第1の塗膜と前記第2の塗膜との加熱は、前記第1の塗膜がわき現象を起こさないように、常温から所定の温度までの昇温が緩やかであることを特徴とする請求項5に記載の厚膜形成塗料の塗装方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の厚膜形成塗料の塗装方法で塗装したことを特徴とする塗装物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−174663(P2008−174663A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10558(P2007−10558)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】