説明

原子移動ラジカル重合法によるビニル系重合体の製造方法

【課題】構造制御されたビニル系重合体を効率よく製造できる方法を提供すること。
【解決手段】遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法によりビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法であって、ビニル系モノマーに含まれる酸量を10000mgKOH/kg以下、重合開始剤に含まれる酸量を100000mgKOH/kg以下、あるいは、重合溶液中の酸量を10000mgKOH/kg以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
原子移動ラジカル重合法によるビニル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料に対する高性能化・高機能化の要求を満足させるために、構造の制御された重合体を提供することが期待されている。中でも重合体の分子量、分子量分布、各種官能基の位置を制御したり、また主鎖を、直鎖状、グラディエント状、ブロック状、グラフト状あるいは星型状にするなど、構造を高度に構築することが求められている
しかし一般にビニル系重合体は、その重合制御が困難なこともあり、高度に構造制御された重合体を得ることは容易ではない。
【0003】
近年、リビング重合法による重合が盛んに研究されている。この中でも遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法は、比較的温和な条件で重合を行え、また構造制御された重合体を得やすいことが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。この重合法により行う重合体の合成では、分子量や分子量分布の制御が比較的容易であると共に、リビング末端の活性基を任意の置換基へ変換することにより、末端に官能基を有する重合体の製造を比較的容易に行うことができる(例えば、特許文献2〜5を参照)。また上述のようなグラフト状や星型の重合体を製造することも可能である(例えば、特許文献6を参照)。
【特許文献1】特開平11−130931号公報
【特許文献2】特開2000−044626号公報
【特許文献3】特開2000−072809号公報
【特許文献4】特開2000−191728号公報
【特許文献5】特開2003−292505号公報
【特許文献6】国際公開WO99/65963号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、重合の条件によっては原子移動ラジカル重合が十分制御されない場合があり、その結果として構造制御された重合体を効率的に得られにくいという問題があり、工業的規模においても安定的に製造できるように解決する必要性があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、構造制御されたビニル系重合体を効率よく製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、原子移動ラジカル重合系に存在する酸の量を調整することで上記問題を効果的に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法によりビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法であって、ビニル系モノマーに含まれる酸量が10000mgKOH/kg以下であること、重合開始剤に含まれる酸量が100000mgKOH/kg以下であること、または、重合溶液中の酸量が10000mgKOH/kg以下であることを特徴とするビニル系重合体の製造方法に関する。
【0008】
上記ビニル系モノマーは、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよび/または芳香族ビニル系モノマーであることが好ましい。
【0009】
上記遷移金属触媒の中心金属が、銅、ニッケル、ルテニウムまたは鉄であることが好ましい。
【0010】
上記製法で得られる重合体の数平均分子量は500〜1000000であることが好ましい。
【0011】
上記製法で得られる重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)の値が1.8未満であることが好ましい。
【0012】
上記製法で得られる重合体は、分子末端に官能基を有する重合体であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のビニル系重合体の製造方法によれば、各種用途において要求される特性に応じて、分子量、分子量分布、各種官能基および主鎖構造を高度に制御されたビニル系重合体を安定的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の、遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法により効果的にビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法について、詳細に説明する。
≪リビングラジカル重合および原子移動ラジカル重合≫
本発明で用いられる原子移動ラジカル重合法は、ラジカル重合法、さらにはリビングラジカル重合法の一種である。
【0015】
ラジカル重合は一般に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされる。しかしリビングラジカル重合や原子移動ラジカル重合は、ラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い(Mw/Mnが1.1〜1.5程度)重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。従ってリビングラジカル重合法は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、本発明のビニル系重合体の製造方法として使用されるものである。
【0016】
なお、リビング重合とは狭義においては、末端が常に活性を持ち続けて分子鎖が生長していく重合のことをいうが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にありながら生長していく擬リビング重合も含まれる。本発明における定義も後者である。このリビング重合、特に原子移動ラジカル重合法としては、例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、7901頁,サイエンス(Science)1996年、272巻、866頁、WO96/30421号公報,WO97/18247号公報あるいはSawamotoら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、1721頁、特開2000−44626号公報、特開2000−72809号公報、特開2000−191728号公報などが挙げられる。
≪重合触媒≫
本発明で用いられる触媒としては、例えば周期律表第7族、第8族、第9族、第10族または第11族元素、好ましくは第8族、第9族、第10族または第11族元素を中心金属とする遷移金属触媒が用いられる。前記中心金属としては、例えば鉄、ニッケル、ルテニウム、銅などが挙げられ、この中でも1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄が重合制御の容易さ等の観点から好ましい。
【0017】
前記遷移金属触媒を構成する配位子としては、たとえば2,2’−ビピリジル 、その誘導体、1,10−フェナントロリン、その誘導体、トリブチルアミンなどのアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどのポリアミン、トリフェニルホスフィンなどがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちではポリアミン、さらにはペンタメチルジエチレントリアミンが反応制御の面から好ましい。
≪重合開始剤≫
本発明で用いられる重合開始剤としては、例えば有機ハロゲン化物、とくに反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物(たとえばα位にハロゲン原子を有するエステル化合物や、ベンジル位にハロゲン原子を有する化合物)、ハロゲン化スルホニル化合物などが挙げられる。
【0018】
また、重合を開始する基以外の官能基を併せ持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を用いると、末端に官能基が導入された重合体が得られる。このような官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シリル基等が挙げられる。
【0019】
さらに、2つ以上の開始点を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として用いると、末端を2つ以上有する重合体(例えば多分岐/星形重合体)が得られる。
【0020】
ただし、詳細は後述するが、これら重合開始剤中に含まれる酸の量は少ないほうが好ましい。
≪ビニル系モノマー≫
本発明で用いられるビニル系モノマーとしては特に限定されず、各種のものを用いることができる。例示するならば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−エトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸の塩等のスチレン系モノマー(芳香族ビニル系モノマー);パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0021】
なお上記表現形式で、例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0022】
これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも生成物の物性等から、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよび/またはスチレン系モノマー(芳香族ビニル系モノマー)が好ましい。本発明においては、これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、更にはブロック共重合させても構わない。本発明のビニル系重合体の製造方法は、これらの好ましいモノマーを「主として」重合して製造する方法であることが好ましい。具体的には、これらの好ましいモノマーが重量比で60%以上含まれていることが好ましい。
【0023】
ただし、詳細は後述するが、これらモノマー中に含まれる酸の量は少ないほうが好ましい。
≪溶媒≫
本発明の重合は無溶剤または各種の溶剤中で行うことができる。これらは特に限定されないが、例示するならば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられ、単独又は2種以上を混合して用いることができる。また超臨界流体を用いてもよい。
【0024】
ただし、詳細は後述するが、これら溶媒中に含まれる酸の量は少ないほうが好ましい。
【0025】
なお重合温度は、特に限定されないが、0℃〜200℃の範囲で行うことができ、50〜150℃で行うことがより好ましい。
≪本発明で得られるビニル系重合体≫
本発明の製造方法で得られるビニル系重合体の数平均分子量は特に制限はないが、500〜1000000の範囲が好ましく、1000〜500000の範囲がより好ましく、3000〜300000の範囲がさらに好ましく、5000〜300000が特に好ましい。
【0026】
本発明の製造方法で得られるビニル系重合体の分子量分布、すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mn)と数平均分子量(Mw)の比は、特に限定されないが、好ましくは1.8未満であり、好ましくは1.7未満であり、より好ましくは1.5未満であり、さらに好ましくは1.3未満である。本発明のGPC測定においては、通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0027】
本発明の製造方法で得られるビニル系重合体主鎖は直鎖状でもよいし、枝分かれがあってもよい。
≪末端構造≫
本発明の製造方法で得られるビニル系重合体は、次の2種類の末端官能基を有することができる。
【0028】
第一の末端基としては、ハロゲン基が挙げられる。このハロゲン基は原子移動ラジカル重合に用いられる開始剤に由来し、塩素基、臭素基、ヨウ素基が挙げられる。ハロゲン基の量は、特に限定されないが、重合生長末端1つあたり0.3〜1個が好ましく、0.5〜1個がより好ましく、0.7〜1個がさらに好ましい。
【0029】
第二の末端基としては、公知の各種官能基が挙げられ、特に限定されないが、アルケニル基、(メタ)アクリロイル基、シリル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、エステル基、エーテル基、アミド基、メルカプト基などが挙げられる。これらの官能基は、特開2000−44626号公報、特開2000−191728号公報などに記載されている従来公知の方法を用いることで導入することができる。例えば(1)重合終期に「アルケニル基と各種官能基(アルケニル基を含む)を併せ持つ化合物」を添加する方法、(2)重合体の末端ハロゲン基をアルケニル基含有化合物で置換するなどの方法が挙げられる。
【0030】
ビニル系重合体一分子当たりの末端官能基数は、特に限定されないが、0.5〜10個のものが好適であり、必要とされる特性に応じて決めることができる。例えば本発明で得られるビニル系重合体を他の重合体の改質剤として用いる場合であって、溶融粘度を低くしたい場合などには0.5〜1.5個とすることが好ましく、0.6〜1.4個がより好ましく、0.7〜1.3個がさらに好ましい。また本発明で得られるビニル系重合体を単独または単独で重合させて材料として用いる場合、あるいは他の重合体の改質剤として用いる場合であって、補強効果を発現させたい場合などには、1.5〜2.5個とすることが好ましく、1.6〜2.4個がより好ましく、1.7〜2.3個がさらに好ましい。さらに特別な改質効果を発現させたい場合には2.5〜10個とすることができる。この場合、上述したように、ビニル系重合体の主鎖は枝分かれがあってもよい。
【0031】
≪官能基≫
本発明で得られるビニル系重合体は、ビニル系重合体末端以外にも官能基を有していてよい。この官能基は、特に限定されないが、ハロゲン基、アルケニル基、(メタ)アクリロイル基、シリル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、エステル基、エーテル基、アミド基、メルカプト基などが挙げられる。
【0032】
これらの官能基をビニル系重合体に導入する方法は特に限定されないが、例示すると、次の2つの方法が挙げられる。(1)、(2)の方法はそれぞれ単独で行ってもよいし、併用してもよい。
(1)ビニル系重合体主鎖を構築する際に、上述の官能基を含有するモノマーを共重合する方法。
(2)ビニル系重合体主鎖を構築する際に、上述の官能基を含有する開始剤を用いる方法。
【0033】
ただしこの中でハロゲン基は原子移動ラジカル重合の開始点とならないように配慮する必要がある。またアルケニル基、(メタ)アクリロイル基はラジカル重合性が低いものを選ぶ必要がある。
【0034】
これらの官能基の量は特に限定されず、ビニル系重合体の主鎖を構築するモノマーユニットのすべてに含まれていてもよい。
≪重合条件(酸量)≫
上述の原子移動ラジカル重合方法において、重合条件等によっては重合が十分制御されない場合があり、この場合、結果として構造制御された重合体が得られにくい。そこで、本発明では原子移動ラジカル重合系に存在する酸の量を抑えることで上記問題を解決し、効率的に所望のビニル系重合体を製造することができる。
【0035】
本発明における酸としては、無機酸、有機酸、スルホン酸型のH+型イオン交換樹脂などが挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、炭酸、ケイ酸、リン酸などが挙げられる。有機酸としては、(メタ)アクリル酸、安息香酸、ビニル安息香酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、オクタン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ブテン酸(クロトン酸)、ペンテン酸、ヘキセン酸、ソルビン酸、オレイン酸、リノール酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、コハク酸のモノエステル、フマル酸、フマル酸のモノエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノエステル、グルタル酸、アジピン酸、2,5−ジブロモアジピン酸、2,5−ジブロモアジピン酸のモノエステル、アミノ酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、スチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0036】
原子移動ラジカル重合系に存在するこのような酸は主にビニル系モノマーや、重合開始剤や、溶媒からもたらされる場合が多い。
【0037】
特に、ビニル系モノマーとして(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを用いる場合、不純物として(メタ)アクリル酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸などが含まれることが多い。
【0038】
ビニル系モノマーとしてスチレン系モノマーを用いる場合、不純物として安息香酸、メチル安息香酸などが含まれることが多い。
【0039】
溶媒を用いる場合は、溶媒中の不純物、あるいは分解物として、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸などの酸が含まれる。
【0040】
また、重合開始剤として有機ハロゲン化物を用いる場合は、不純物や分解物などとして酸を含むことがある。例えば、α位にハロゲン原子を有するエステル化合物は、その加水分解物が酸となる。重合開始剤としてハロゲン化スルホニル化合物を用いる場合は、不純物、あるいは分解物としてハロゲン化スルホン酸などが含まれることがある。
【0041】
これらの酸は、重合条件によっては、重合体生長点または重合触媒などと相互作用し、例えば、重合体生長点を失活させたり、触媒を失活させて重合を失速させたりするものと考えられる。
【0042】
したがって、本発明においては、次に挙げる3つの方法のうち少なくとも1つの方法により原子移動ラジカル重合系における酸量を調整することで、構造制御された重合体を効率的に製造できる、なる発明の効果を実現させられる。
【0043】
第1の方法は、含まれる酸量が10000mgKOH/kg以下であるビニル系モノマーを使用する。当該酸量は5000mgKOH/kg以下であることが好ましく、1000mgKOH/kg以下であることがより好ましく、500mgKOH/kg以下であることがさらに好ましく、100mgKOH/kg以下であることが特に好ましい。
【0044】
第2の方法は、酸量が100000mgKOH/kg以下である重合開始剤を使用する。当該酸量は50000mgKOH/kg以下であることが好ましく、10000mgKOH/kg以下であることがより好ましく、5000mgKOH/kg以下であることがさらに好ましく、2500mgKOH/kg以下であることが特に好ましい。
【0045】
第3の方法は、原子移動ラジカル重合溶液に含まれる酸量を10000mgKOH/kg以下にするものである。当該酸量は5000mgKOH/kg以下であることが好ましく、1000mgKOH/kg以下であることがより好ましく、500mgKOH/kg以下であることがさらに好ましく、100mgKOH/kg以下であることが特に好ましい。
【0046】
ここでいう原子移動ラジカル重合溶液は、原子移動ラジカル重合を行う反応系のことを表し、具体的には、モノマー、開始剤、溶媒、触媒などを含めて重合系に添加したものすべての混合物を指す。なお重合を無溶媒で行う場合も、本発明の重合溶液の定義に含まれるものとする。
【0047】
また重合溶液に含まれる酸の量は、重合開始時に上記量以下であることが好ましいが、重合反応中も上記量以下であることがより好ましい。
【0048】
ここで酸量の単位として用いたmgKOH/kgとは、試料1kgを中和するのに必要であるKOH(水酸化カリウム)の重量をmgで表したものである。この酸量は、試料をイソプロパノールに溶解し、0.1Mまたは0.01MのKOH/イソプロパノール溶液を用いて電位差滴定を行い、中和点を求めることにより定量することができる。
≪用途≫
本発明で得られるビニル系重合体は、単独で、あるいは、他のモノマーおよび/またはポリマーと反応させて得られるブロック状またはグラフト状の共重合体で、樹脂改質剤、相溶化剤、分散安定剤などとして好適に用いられる。また本発明で得られるビニル重合体は、特に限定されないが、単独または各種添加剤を配合することにより硬化性組成物とすることができる。物性を調製するための添加剤としては、特に限定されないが、例えば充填剤、可塑剤、老化防止剤、顔料、物性調整剤、溶剤などを配合することができる。
【0049】
このようにして得られる硬化性組成物の用途としては、限定はされないが、電気・電子部品(重電部品、弱電部品、電気・電子機器の回路や基板のシーリング材(冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、ガスメーター、電子レンジ、スチームアイロンまたは漏電ブレーカー用のシール材)、ポッティング材(トランス高圧回路、プリント基板、可変抵抗部付き高電圧用トランス、電気絶縁部品、半導電部品、導電部品、太陽電池またはテレビ用フライバックトランスのポッティング)、コーティング材(高電圧用厚膜抵抗器もしくはハイブリッドICの回路素子;HIC;電気絶縁部品;半導電部品;導電部品;モジュール;印刷回路;セラミック基板;ダイオード、トランジスタもしくはボンディングワイヤーのバッファー材;半導電体素子;または光通信用オプティカルファイバーのコーティング)、レジスト材料(半導体レジスト、液状ソルダーレジスト、電着レジスト、ドライフィルムレジスト、液晶用フォトレジスト、永久レジスト等)もしくは接着剤(ブラウン管ウェッジ、ネック、電気絶縁部品、半導電部品または導電部品の接着);電線被覆の補修材;電線ジョイント部品の絶縁シール材;OA機器用ロール;振動吸収剤;またはゲルもしくはコンデンサの封入)、自動車部品(自動車エンジンのガスケット、電装部品もしくはオイルフィルター用のシーリング材;イグナイタHICもしくは自動車用ハイブリッドIC用のボッティング材;自動車ボディ、自動車用窓ガラスもしくはエンジンコントロール基板用のコーティング材;またはオイルパンのガスケット、タイミングベルトカバーのガスケット、モール、ヘッドランプレンズ、サンルーフシールもしくはミラー用の接着剤;燃料噴射装置、燃料加熱装置、エアダンパ、圧力検出装置、熱交換器用樹脂タンクのオイルクーラー、可変圧縮比エンジン、シリンダ装置、圧縮天然ガス用レギュレータ、圧力容器、筒内直噴式内燃機関の燃料供給システムもしくは高圧ポンプ用のOリング)、船舶(配線接続分岐箱、電気系統部品もしくは電線用のシーリング材;または電線もしくはガラス用の接着剤)、航空機または鉄道車輛、土木・建築(商業用ビルのガラススクリーン工法の付き合わせ目地、サッシとの間のガラス周り目地、トイレ、洗面所もしくはショーケースにおける内装目地、バスタブ周り目地、プレハブ住宅用の外壁伸縮目地、サイジングボード用目地に使用される建材用シーラント;複層ガラス用シーリング材;道路の補修に用いられる土木用シーラント;金属、ガラス、石材、スレート、コンクリートもしくは瓦用の塗料・接着剤;または粘着シート、防水シートもしくは防振シート)、医療(医薬用ゴム栓、シリンジガスケットもしくは減圧血管用ゴム栓用のシール材料)またはレジャ−(スイミングキャップ、ダイビングマスクもしくは耳栓用のスイミング部材;またはスポーツシューズもしくは野球グローブ用のゲル緩衝部材)等の様々な用途に利用可能である。
【0050】
さらに本発明で得られるビニル系重合体、またはこれを用いた組成物は、さらなる架橋・変性などを行うことによって特性付与することもできる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の具体的な実施例を示すが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。下記実施例および比較例中、「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。「数平均分子量」および「分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(shodex GPC K−804;昭和電工(株)製)を、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。
【0052】
また重合体1分子当たりに導入された官能基数は、1H−NMRによる濃度分析、及びGPCにより求まる数平均分子量を基に算出した。ただしNMRはBruker社製ASX−400を使用し、溶媒として重クロロホルムを用いて23℃にて測定した。
【0053】
(酸の測定方法)
酸の量は、試料をイソプロパノールに溶解し、0.1Mまたは0.01Mの KOHのイソプロパノール溶液を用いて電位差滴定を行い、中和点を求めることにより定量した。
【0054】
(実施例1)
アクリル酸n−ブチル100部を計量し、窒素置換した。このアクリル酸n−ブチルに含まれていた酸の量は7mgKOH/kgであった。このアクリル酸n−ブチルのうち40部と、臭化銅(I)0.42部、アセトニトリル8.8部を仕込み、窒素気流下80℃で攪拌した。これに2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.8部を加え、さらに80℃で攪拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミン(以後トリアミンと称す)0.034部を加えて反応を開始した。途中、アクリル酸n−ブチルの残り60部を断続的に追加した。このとき、重合溶液中の酸の量は6mgKOH/kgであった。さらにトリアミンを適宜追加しながら反応溶液の温度が80℃〜90℃となるように加熱攪拌を続けた。アクリル酸ブチルの反応率が95%に達した後、反応容器内を減圧にし、揮発分を除去した。なおここまでのトリアミンの総添加量は0.15部であった。このときの重合体の数平均分子量は22000、分子量分布は1.1、重合体一分子当たりの平均の臭素基数は1.8であった。
これをトルエンで希釈し、合成ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、ろ過助剤を添加し、酸素・窒素混合ガス雰囲気下で加熱攪拌した。固形分を除去した後、溶液を濃縮した。これをN,N−ジメチルアセトアミドに希釈し、アクリル酸カリウム共存下70℃で7時間加熱撹拌した。濃縮後、トルエンで希釈して固形分を除去した。これに対してトルエン100部、p−トルエンスルホン酸2部を添加し、100℃で2時間加熱撹拌した。これをろ過後、揮発分を除去することにより重合体[1]を得た。
重合体[1]は分子両末端にアクリロイル基を有する。重合体[1]の数平均分子量は23000、分子量分布は1.1、重合体一分子当たりに導入された平均のアクリロイル基数は1.8であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1でアクリル酸n−ブチル100部を用いた代わりに、アクリル酸2部、アクリル酸n−ブチル98部をよく混合し、モノマー混合物100部としたものを用いた。すなわち、このモノマー混合物中の酸量は2%(15600mgKOH/kg)であった。これ以降は実施例2と同様の操作を行ったが、トリアミンを合計0.15部(実施例1での総添加量)まで添加してもモノマーはほとんど消費されなかった。さらにトリアミンを合計0.30部(実施例1での総添加量の2倍)まで添加してもモノマーはほとんど消費されず、反応率は10%未満であり、重合体を得ることはできなかった。なお重合溶液中の酸の量は14200mgKOH/kgであった。
【0056】
比較例1の条件では、原子移動ラジカル重合がほとんど進行せず、重合体を得ることができなかった。一方、実施例1のように、モノマー中の酸および重合溶液中の酸の量を低減することで、制御された原子移動ラジカル重合が行えた。その結果、分子末端に官能基を有する重合体を所望通りに製造できた。したがって、本発明の製造方法によれば、構造や分子量分布などが制御された重合体を製造することが可能である。
【0057】
(実施例2)
アクリル酸n−ブチル63部、アクリル酸エチル18部、アクリル酸ステアリル19部をよく混合してモノマー混合物100部とし、これに酸量が530mgKOH/kgとなるようにアクリル酸を添加した。このモノマー混合物のうち40部と、臭化銅(I)0.79部、アセトニトリル8.9部を仕込み、窒素気流下80℃で攪拌した。これに2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.6部を加え、さらに80℃で攪拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミン(以後トリアミンと称す)0.032部を加えて反応を開始した。途中、モノマー混合物の残り60部を断続的に追加した。このとき、重合溶液中の酸の量は480mgKOH/kgであった。さらにトリアミンを適宜追加しながら反応溶液の温度が80℃〜90℃となるように加熱攪拌を続け、モノマー混合物の反応率が95%に達するまで反応を行った。トリアミンの総添加量は0.16部であり、重合の反応速度定数を算出してk1とした。
【0058】
(実施例3)
アクリル酸を添加しなかったほかは実施例2と同様にモノマー混合物100部を調整した。このモノマー混合物に含まれていた酸の量は8mgKOH/kgであった。これ以降は実施例2と同様の操作を行った。トリアミンの総添加量は実施例2と等量、すなわち0.16部とした。また重合溶液中の酸の量は7mgKOH/kgであった。モノマー混合物の反応率が95%に達するまで反応を行い、重合の反応速度定数を算出してk2とした。
【0059】
実施例2および実施例3における各重合反応時の速度定数を比較すると、k2/k1は4.7であった。ビニル系モノマーに含まれる酸量を8mgKOH/kgおよび重合溶液中の酸量を7mgKOH/kgの条件下で行った実施例3は、実施例2よりもさらに重合速度が速くなることが示され、ビニル系モノマーに含まれる酸量または重合溶液中に含まれる酸量を低くするほど、重合を速やかに進行させることができることがわかる。
【0060】
(実施例4)
アクリル酸n−ブチル100部、臭化銅(I)0.84部、アセトニトリル8.8部を仕込み、窒素気流下80℃で撹拌した。これに2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.6部を加え、さらに80℃で撹拌した。これにトリアミン0.032部を加えて反応を開始した。さらにトリアミンを適宜追加しながら反応溶液の温度が80〜90℃となるように加熱撹拌を続け、モノマー混合物の反応率は95%に達するまで反応を行なった。トリアミンの総添加量は0.16部であり、重合反応速度定数を算出してk3とした。なおこの実験に用いた重合開始剤2,5−ジブロモアジピン酸ジエチルに含まれる酸量を別途定量したところ3200mgKOH/kgであった。
【0061】
(実施例5)
別途酸量を定量した結果が2500mgKOH/kgであった2,5−ジブロモアジピン酸ジエチルを用いたほかは実施例4と同様の操作を行なった。トリアミンの添加量は実施例4と等量、すなわち0.16部とした。モノマーの反応率が95%に達するまで反応を行い、重合反応速度定数を算出してk4とした。
【0062】
得られた重合体の数平均分子量は14010、分子量分布は1.29であった。
【0063】
実施例4および実施例5における各重合反応時の速度定数を比較すると、k4/k3は11.5であった。重合開始剤に含まれる酸量を2500mgKOH/kgの条件下で行なった実施例5は、実施例4よりもさらに重合速度が速くなることが示され、重合開始剤に含まれる酸量を低くするほど、重合を速やかに進行させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法によりビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法であって、
ビニル系モノマーに含まれる酸量が10000mgKOH/kg以下である、
ことを特徴とする、ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法によりビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法であって、
重合開始剤に含まれる酸量が100000mgKOH/kg以下である、
ことを特徴とする、ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法によりビニル系モノマーを重合させてビニル系重合体を製造する方法であって、
重合溶液中の酸量が10000mgKOH/kg以下である、
ことを特徴とする、ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ビニル系モノマーが(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよび/または芳香族ビニル系モノマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属触媒の中心金属が、銅、ニッケル、ルテニウムまたは鉄である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
得られる重合体の数平均分子量が500〜1000000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
得られる重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)の値が1.8未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
得られる重合体が分子末端に官能基を有する重合体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のビニル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−13401(P2009−13401A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144984(P2008−144984)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】