説明

原子間力顕微鏡及び原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法

【課題】 正確なエネルギー散逸像を得ることのできる原子間力顕微鏡及び原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法を提供すること。
【解決手段】 原子間力顕微鏡は、試料21と接触するための探針20を有するカンチレバー1と、カンチレバー1に振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバー1の振動の振幅を検出する振幅検出手段17と、カンチレバー1の振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段19とを具備し、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバー1が共振状態となるように加振手段がカンチレバー1を振動させるとともに、当該差異情報に基づいて像作成手段19がエネルギーの散逸像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の物性評価を行うのに好適な原子間力顕微鏡及び原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトモードで動作する原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーのたわみ振動の共振周波数から、カンチレバーの探針と接触する試料表面の部分の接触弾性を評価する技術として、超音波原子間力顕微鏡が開発されている。この超音波原子間力顕微鏡を用いた試料評価方法では、力変調モードの接触弾性評価技術に比べて、柔らかいカンチレバーを用いて固い試料の接触弾性を評価できるという特長を有し、金属、セラミックス、半導体などの評価に適している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
そして、共振周波数と共振ピーク幅の比として定義されるQ値から、カンチレバーの探針と接触する試料表面の部分におけるエネルギーの散逸特性を擬似的に評価できる(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
また、カンチレバーのねじり振動を用いて、ヤング率、せん断弾性率、及びポアソン比を分離して、より完全な弾性特性の評価を行う方法も提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
さらに、カンチレバーの走査を高速化させ、各画素でのQ値をマッピングすることにより、カンチレバーの探針と接触する試料表面の部分のエネルギーの散逸を画像化する手法も提案されている(例えば、非特許文献4及び特許文献1参照)。
【0006】
この超音波原子間力顕微鏡は、カンチレバーの共振を用いる点で、周波数変調モードの非接触原子間力顕微鏡(NC−AFM)技術と似ている面もあるが、本質的な相違がある。すなわち、NC−AFMではカンチレバーが10nmを超える大振幅で振動して、カンチレバーの探針が試料から離れるのに対し、超音波原子間力顕微鏡では、カンチレバーの探針が試料と常に接触した状態でカンチレバーが1nm以下の小振幅で振動する。
【0007】
この結果、力と変位の比である力勾配または接触弾性が振動の1周期にわたってほとんど一定となり、高精度な定量的評価が実現できる利点がある。このため、ナノテクノロジー分野の電子・機械材料の評価技術及び電子顕微鏡の欠点を補う新しい格子欠陥解析法として期待されている。
【0008】
ここで、従来技術における原子間力顕微鏡の構成を図2に示す。同図において、試料21は試料台4に載置されている。また、カンチレバー1の先端には探針20が設けられている。探針20は試料2に対して対向配置されている。
【0009】
カンチレバー1にレーザーダイオード(LD)2の光を照射し、その反射光をミラー24を介して分割フォトダイオード(FD)3により検出する。これによる検出信号は、演算部5に送られる。演算部5は、カンチレバー1のたわみを表すカンチレバー信号を出力する。
【0010】
演算部5からのカンチレバー信号は分岐される。そして、分岐された一方のカンチレバー信号はローパスフィルタ(LPF)6を介してz軸制御装置7に入力する。z軸制御装置7は、試料台4に載置された試料21のz位置を制御する。
【0011】
また、分岐された他方のカンチレバー信号は、バンドパスフィルター(BPF)11を介して位相比較器12に入力される。さらに、発信器8の出力信号が、増幅器9により増幅された後に分岐され、可変位相シフター22を介して位相比較器12に入力される。
【0012】
位相比較器12の出力信号Vpは誤差増幅器13に入力される。また、誤差増幅器13には、参照電圧信号Vrefも入力される。誤差増幅器13は、これらの信号の誤差に比例する出力信号Vを出力する。出力信号Vは、スイッチ14を介して加算器16に入力される。
【0013】
また、電源電圧回路15の出力Voも加算器16に入力される。加算器16の出力Vは、発信器8に入力される。発信器8の出力は、増幅器9を介して、超音波振動子10に帰還される。
【0014】
さらに、バンドパスフィルター11の出力信号は、振幅検出器17と周波数復調器18とに供給される。振幅検出器17の出力信号と周波数復調器18の出力信号は、像作成手段19に入力される。
【0015】
像作成手段19は、振幅検出器17からの出力信号に基づいてQ値像を作成するとともに、周波数復調器18からの出力信号に基づいて共振周波数像を作成する。
【0016】
ここで、エネルギー散逸像を得るためには、本来、カンチレバーの振幅が一定となるように外部から加振されるエネルギーを画像化する必要がある。
【0017】
しかしながら、従来技術においては、一定加振電圧でカンチレバーを振動させ、このとき得られる振幅検出器17からの出力を像作成手段19に直接供給し、振幅検出器17からの出力そのものに基づいて像作成手段19が擬似的にエネルギーの散逸像を作成していた。
【0018】
【非特許文献1】K.Yamanaka and S. Nakano,Jpn.J.Appl.Phys.35,93(1996)
【非特許文献2】O.Wright and N.Nishiguchi,Appl.Phys.Lett.71,626(1997)
【非特許文献3】K.Yamanaka and S.Nakano,Appl.Phys.A,66,S313,(1998)
【非特許文献4】K.Yamanaka et al,Appl.Phys.Lett.78,1939(2001)
【特許文献1】特開平2002−277378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来技術においては、エネルギー散逸像を得る場合に、一定加振電圧でカンチレバーを振動させ、このとき得られる振幅検出器からの出力そのものに基づいて擬似的にエネルギーの散逸像を作成していた。このような従来技術においては、正確なエネルギー散逸像を得ることができなかった。
【0020】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、正確なエネルギー散逸像を得ることのできる原子間力顕微鏡及び原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に基づく原子間力顕微鏡は、試料と接触するための探針を有するカンチレバーと、カンチレバーに振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバーの振動の振幅を検出する振幅検出手段と、カンチレバーの振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段とを具備した原子間力顕微鏡であって、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバーが共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させるとともに、当該差異情報に基づいて像作成手段がエネルギーの散逸像を形成することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に基づく原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法は、試料と接触するための探針を有するカンチレバーと、カンチレバーに振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバーの振動の振幅を検出する振幅検出手段と、カンチレバーの振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段とを具備する原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法であって、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバーが共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させるとともに、当該差異情報に基づいて像作成手段がエネルギーの散逸像を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバーが共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させ、このときの当該差異情報に基づいて像作成手段がエネルギーの散逸像を形成する。
【0024】
このとき当該差異情報は、カンチレバーの共振状態における振動の振幅が一定となるように加振手段に加えられるエネルギーに対応するものであるので、当該エネルギーを画像化することができ、正確なエネルギー散逸像を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。図1は、本発明における原子間力顕微鏡の構成を示す図である。図1において、20は、カンチレバー1の先端に取り付けられた探針である。この探針20に対向して試料21が配置されている。この試料21は、試料台4の上に置かれている。試料台4はXY軸位置とZ軸位置を制御自在なピエゾチューブスキャナから構成されている。探針20は試料21と接触するためのものである。
【0026】
また、カンチレバー1にレーザーダイオード(LD)2の光を照射し、その反射光をミラー24を経て分割フォトダイオード(PD)3で検出し、カンチレバー1のたわみを表すカンチレバー信号を取得する光学系が設けられている。
【0027】
さらに、カンチレバー1のたわみによる傾斜角に比例するカンチレバー信号を出力する演算部5、その演算部5から2つに分岐されたカンチレバー信号の一方が入力されるローパスフィルタ(LPF)6、及びローパスフィルタ(LPF)6からの信号に基づいて、試料のz位置を制御するz軸制御装置7が設けられている。
【0028】
本発明の一例である図1の装置では、超音波原子間力顕微鏡の構成要素として、発振器8とこれにより発生した交流信号を増幅する増幅器9が設けられ、この出力信号はカンチレバー保持部の超音波振動子10に供給される。
【0029】
カンチレバー信号における分岐後の一方の信号は、バンドパスフィルター(BPF)11を経由して位相比較器12の信号入力端子に供給される。また、発振器8の出力信号も、増幅器9により増幅された後に分岐し、可変位相シフター22を経由して、上記位相比較器12の参照信号端子に供給される。
【0030】
この位相比較器12の出力信号Vpは、制御プログラムによって予め指定できる参照電圧信号Vrefと共に誤差増幅器13に入力される。参照電圧信号Vrefに対する出力信号Vpの誤差に比例する出力信号Vは、スイッチ14を経由して、加算器16の入力側(入力端子)に入力される。
【0031】
一方、制御プログラムによって指定できる一定の電圧を供給する電圧供給回路15の出力Voが加算器16の他の入力端子に入力される。加算器16の出力Vは、発振器8の入力端子に入力される。発振器8の出力は、増幅器9を経て、ピエゾ素子から構成される超音波振動子10に帰還されカンチレバー1を振動させる。
【0032】
また、バンドパスフィルター11の出力信号は、振幅検出器17と周波数復調器18にそれぞれ入力される。そして、振幅検出器17の出力信号と周波数復調器18の出力信号は、像作成手段19に入力される。
【0033】
振幅検出器17からの信号は、誤差増幅器で構成されるオートゲインコントローラ(AGC)23の一方の入力端子に入力される。AGC23の他方の入力端子には、制御プログラムによって予め指定(設定)できる任意の値である振幅設定値が入力される。
【0034】
AGC23の出力信号は分岐され、分岐後の一方の当該出力信号は像作成手段19に入力される。
【0035】
また、分岐後の他方の当該出力信号は、増幅器9にフィードバックされて、増幅器9のゲイン調整に用いられる。当該調整により、設定された振幅でカンチレバー1が常に共振するように超音波振動子10の加振電圧が変化する。
【0036】
なお、図1において、電圧制御発振器8、増幅器9、超音波振動子10、電圧供給回路15及び加算器16により、加振手段が構成されている。また、位相比較器12、位相可変シフター22、誤差増幅器13、AGC23及びスイッチ14により、加振制御手段が構成されている。
【0037】
また、バンドパスフィルター11には、48dB/Octの急峻な遮断特性を持ったプログラマブルフィルタを外付けして用いることもできる。
【0038】
以上、図1に示す装置(原子間力顕微鏡)における各部の構成について説明したが、次に動作について説明する。
【0039】
原子間力顕微鏡の動作として、オペレータは、試料21が探針20と離れた状態でLD2とPD3の位置を調整して、カンチレバー1のたわみを表すカンチレバー信号が最適感度で得られるように設定する。このようにしてLD2とPD3の位置が調整されると、z軸制御装置7が動作される。
【0040】
z軸制御装置7は、試料台4を上昇させて試料21を探針20と接触させ、これにより変化するカンチレバー信号のうちのローパスフィルター(LPF)6を経由した出力信号が、予め設定された一定値になるように、試料21のz位置制御ループを動作させる。
【0041】
発振器8の発信周波数が探針20の試料接触時の共振周波数と一致し、さらにカンチレバー信号の振幅が最大となるように設定電圧Voを調整し、当該調整が終了後には、設定電圧Voをその調整された値に保持しておく。
【0042】
この状態で、位相比較器12の出力Vpが参照電圧Vrefと一致するように、可変位相シフター22を調整して発信出力信号の可変位相シフト量φを調整し、誤差増幅器13の出力信号Vをゼロに設定する。以上の各工程においては、帰還制御用スイッチ14は開(非接続)としておく。
【0043】
以上の設定を行った後に、発振器8への帰還制御用スイッチ14を閉(接続)とし、共振周波数追尾の制御ループを作動させる。ただし、この時点では、誤差増幅器13の出力信号はゼロなので、発振器8の発信周波数は変化しない。
【0044】
ここで、試料台4をxy方向に2次元的に走査させて、試料21の走査を開始する。すると、探針20は、物性が場所によって異なる試料21上を走査する。当該走査において、探針20と接触する試料部分の物性に応じて、カンチレバー1の共振周波数が変化し、BPF11の出力信号の位相が変化する。
【0045】
その結果、位相比較器12の出力電圧Vpが変化し、これに起因する誤差増幅器13の反転出力電圧Vが発生する。この出力電圧Vは、加算器16により設定電圧Voと加算される。これにより、負帰還が加算器16にかけられることとなる。当該加算後の出力電圧は発振器8に入力され、発振器8からの発信出力の周波数は、カンチレバー1が共振状態を回復する方向に変化する。以上の共振周波数追尾動作の結果、カンチレバー1は、常に試料21に接触した状態での共振周波数で振動することとなる。以上の変化は、上記回路構成の動作として、自動的に行われる。
【0046】
この状態において、振幅検出器17で検出された振幅(振幅検出値)と予め設定されたカンチレバー1の振幅(振幅設定値)とがAGC23に入力され、2つの振幅の差異が誤差信号(差異情報)としてAGC23から出力される。AGC23から出力された誤差信号は、像作成手段19に入力される。
【0047】
このAGC23から出力される誤差信号は、エネルギーの散逸量に対応している。具体的には、当該誤差信号は電圧信号(電圧値)である。この電圧信号における電圧値は、エネルギーの散逸量に対応する物理量であり、カンチレバー1の共振状態における振動の振幅が一定となるように加振手段に加えられるエネルギーに対応するものである。よって、当該誤差信号を像作成手段19により画像化することにより、カンチレバーの振動に基づくエネルギーの散逸像が正確に形成されることとなり、試料21とカンチレバー1との接触部でのエネルギーの散逸を正確にマッピングすることができる。
【0048】
なお、このときAGC23から出力された当該誤差信号を分岐して、増幅器9のゲインとして当該増幅器9にフィードバックすることにより、予め設定された振幅でカンチレバー1が常に共振するように、超音波素子10に供給される加振電圧が変化することとなる。
【0049】
また、振幅検出器17は、カンチレバー信号が入力されたBPF11の出力信号のRMS振幅を求めて共振ピーク高さVmaxを取得する。その信号Vmaxは像作成手段19に供給される。像作成手段19は、後述する校正曲線又は感度係数を用いて、カンチレバー1の振動の振幅をQ値に変換する。
【0050】
同様に、周波数復調器18は、BPF11の出力信号の周波数を検出して、求めた共振周波数信号を像作成手段19に供給する。像作成手段19は、探針20の試料走査に伴い、上記の共振周波数信号とQ値信号をその画像メモリに記録する。これにより、像作成手段19は、共振周波数像とQ値像を取得し、それらの像を図示しない表示手段の画面上に表示することもできる。
【0051】
一方、VmaxをQ値に変換する校正曲線又は感度係数を求めるには、対称な共振スペクトル、すなわち線形スペクトルを得ることが必要である。そのため、超音波原子間力顕微鏡の共振スペクトルの対称性検査による線形スペクトルの測定として、発振器8の帰還用スイッチ14をオフ(開)にした状態で発振器8を作動させ、カンチレバー1にたわみ振動を励起する。
【0052】
さらに、発振器8の発信周波数を決める入力電圧Voを掃引して、バンドパスフィルター11の出力から、カンチレバー1の共振スペクトルを計測する。この際、発信出力の増幅器のゲインが高すぎると、カンチレバーの振幅が過大となり、探針20が試料21から間欠的に離れてしまい、スペクトルの対称性が損なわれる。
【0053】
そこで、スペクトルが共振周波数の左右で対称になり、なおかつ十分良好な信号対雑音比が得られるように、増幅器9のゲインを調整する。これにより、探針20と試料21とが常に接触した状態でカンチレバー1が振動する線形共振スペクトルを得る。さらに、線形共振スペクトルのピーク周波数と半値幅を測ってQ値を算出し、そのときの共振ピーク高さVmaxを記録する。
【0054】
次に、荷重や、探針20の試料21上での位置を変化させるなどの方法により、(Q,Vmax)の異なる値の組合わせを実現して計測する。この過程を数回繰り返して、Q値とVmaxの関係を定量的に示す校正曲線を作成する。なお、Q値と共振ピーク高さVmaxとの間には線形性が成り立つので、一組の測定から感度係数Q/Vmaxを求めても近似的には差し支えない。このようにして求められた校正曲線と感度係数Q/Vmaxの情報は、像作成手段19に記憶される。
【0055】
なお、探針20による試料走査(映像走査)の際に、試料21の表面に凹凸があれば、カンチレバー信号のLPF6を通った成分は変動するので、これが一定値に戻るように、z軸制御装置7は試料21のz位置を制御する。このz位置制御信号はz軸制御装置7から像作成手段19に供給されており、像作成手段19は、当該試料走査に伴い、上記のz位置制御信号をその画像メモリに記録することにより、試料21の凹凸像を表示手段の画面上に表示される。この時の荷重の値を記録し、共振周波数やQ値から試料特性を評価する解析において用いる。
【0056】
以上が、本発明における原子間力顕微鏡の動作の説明である。本発明においては、オートゲインコントローラ(AGC)回路を設けてカンチレバーの振幅を一定に保つために必要なエネルギーを計測して画像化することにより、正確な散逸像を得ることができるという効果が得られる。
【0057】
上述のごとく、本発明における原子間力顕微鏡は、試料21と接触するための探針20を有するカンチレバー1と、カンチレバー1に振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバー1の振動の振幅を検出する振幅検出器(振幅検出手段)17と、カンチレバー1の振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段19とを具備した原子間力顕微鏡であって、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく誤差信号を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバー1が共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させるとともに、当該誤差信号に基づいて像作成手段19がエネルギーの散逸像を形成する。
【0058】
また、本発明における原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法は、試料21と接触するための探針20を有するカンチレバー1と、カンチレバー1に振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバー1の振動の振幅を検出する振幅検出器17と、カンチレバー1の振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段19とを具備する原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法であって、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく誤差信号を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバー1が共振状態となるように加振手段がカンチレバー1を振動させるとともに、当該誤差信号に基づいて像作成手段19がエネルギーの散逸像を形成する。
【0059】
ここで、加振手段は増幅器9を有しており、フィードバックされた当該誤差信号に基づいて増幅器9のゲインが調整される。
【0060】
さらに、加振制御手段はカンチレバー1の振動の振幅の位相を検出し、検出された位相の変化量に基づいて加振制御手段が加振手段に負帰還をかける。
【0061】
このように、本発明においては、振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバー1が共振状態となるように加振手段がカンチレバー1を振動させ、このときの当該差異情報に基づいて像作成手段19がエネルギーの散逸像を形成する。
【0062】
このとき当該差異情報は、カンチレバー1の共振状態における振動の振幅が一定となるように加振手段に加えられるエネルギーに対応するものであるので、当該エネルギーを画像化することができ、正確なエネルギー散逸像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明における原子間力顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】従来技術における原子間力顕微鏡の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 カンチレバー
2 レーザーダイオード(LD)
3 分割フォトダイオード(PD)
4 試料台
5 演算部
6 ローパスフィルター(LPF)
7 z軸制御装置
8 発振器
9 増幅器
10 超音波振動子
11 バンドパスフィルター(BPF)
12 位相比較器
13 誤差増幅器
14 スイッチ
15 電圧供給回路
16 加算器
17 振幅検出器
18 周波数復調器
19 像作成手段
20 探針
21 試料
22 可変位相シフター
23 オートゲインコントローラ(AGC)
24 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と接触するための探針を有するカンチレバーと、カンチレバーに振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバーの振動の振幅を検出する振幅検出手段と、カンチレバーの振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段とを具備した原子間力顕微鏡において、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバーが共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させるとともに、当該差異情報に基づいて像作成手段がエネルギーの散逸像を形成することを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項2】
加振手段は増幅器を有しており、フィードバックされた当該差異情報に基づいて当該増幅器のゲインが調整されることを特徴とする請求項1記載の原子間力顕微鏡。
【請求項3】
加振制御手段はカンチレバーの振動の位相を検出し、検出された位相の変化量に基づいて加振制御手段が加振手段に負帰還をかけることを特徴とする請求項1若しくは2記載の原子間力顕微鏡。
【請求項4】
試料と接触するための探針を有するカンチレバーと、カンチレバーに振動を加えるための加振手段と、設定された振幅設定値に基づいて加振手段を制御するための加振制御手段と、カンチレバーの振動の振幅を検出する振幅検出手段と、カンチレバーの振動に基づくエネルギーの散逸像を形成する像作成手段とを具備する原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法において、当該振幅設定値と振幅検出手段により検出された振幅検出値との差異に基づく差異情報を加振手段にフィードバックすることにより、カンチレバーが共振状態となるように加振手段がカンチレバーを振動させるとともに、当該差異情報に基づいて像作成手段がエネルギーの散逸像を形成することを特徴とする原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法。
【請求項5】
原子間力顕微鏡に具備された加振手段は増幅器を有しており、フィードバックされた当該差異情報に基づいて当該増幅器のゲインが調整されることを特徴とする請求項4記載の原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法。
【請求項6】
原子間力顕微鏡に具備された加振制御手段はカンチレバーの振動の位相を検出し、検出された位相の変化量に基づいて加振制御手段が加振手段に負帰還をかけることを特徴とする請求項4若しくは5記載の原子間力顕微鏡を用いたエネルギー散逸像の形成方法。

【図1】
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【図2】
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