説明

原子間力顕微鏡

【課題】計測光を反射するプローブに光学系の焦点を追従させることで測定精度を向上させる。
【解決手段】プローブ22の反射面で計測光を反射させ、プローブ22と被測定物1の間に作用する原子間力を利用して被測定物1の表面形状を測定する。プローブ22を駆動する第1のスキャナ10とは別に、光学系の焦点位置を移動させる第2のスキャナ26を設けて、第1、第2のスキャナ10、26の制御量の相関を表わす位置変換データをあらかじめ求めておく。第1、第2のスキャナ10、26を同期的に制御することで、プローブ22に光学系の焦点を追従させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブの変位を検出するための光てこを用いて、サブナノメートルオーダーの微細な形状を測定可能な原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy )に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡に用いるプローブは、先端に針部を有し、薄い板ばね部を持っており、板ばね部に反射面が形成されている。プローブはカンチレバーとも呼ばれることがあるが、本明細書ではプローブに統一して説明する。
【0003】
図26は特許文献1に開示されている一従来例を示すもので、この原子間力顕微鏡は次のように構成されている。
【0004】
被測定物113を測定する原子間力顕微鏡であって、プローブ114をマウント120に取り付け、それをX、Y、Z方向に移動可能なスキャナ112の下端に取り付け、光源110からのビームをレンズ160でいったん集光して点光源162を作る。さらにスキャナ112に固定したレンズ163でプローブ114の背面に集光し、反射光の位置を光検出手段116で検出する。
【0005】
この構成において、プローブ114を被測定物113に接近させると、両者に働く力、いわゆる原子間力によってプローブ114がたわむ。プローブ114がたわむと反射光の向きが変化するので、光検出手段116の信号が変化する。従ってプローブ114からの反射光の位置を検出することによって、プローブ114と被測定物113の間に働く原子間力を測定できる。こういった反射光の位置で変位を拡大して読みとる技術は「光てこ」として広く知られている。
【0006】
このように、光てこを利用して原子間力顕微鏡を構成することもよく知られた技術である。スキャナ112によってプローブ114は被測定物113の表面に沿って概略走査される。固定された光源110は動かないが、レンズ163がスキャナ112とともに動くので、集光する焦点の位置が動く。
【0007】
つまり、スキャナに固定したレンズ等光学系を用いることによって、スキャナの動きに追従し、いつもプローブ背面に、光てこの光を集光する。レンズの替わりに鏡をスキャナに固定してもよい。
【0008】
図27は特許文献2に開示されている別の従来例による構成を示す。これは、被測定物203を測定する原子間力顕微鏡であって、プローブ209を、スキャナ204の先端に設け、スキャナ204の先端に固定して光源LDを設け、光源LDから出射する光をプローブ209の背面に集光させ、背面からの反射光を、固定したレンズL1、L2を介し、光検出手段211に入射させて反射光の位置を検出する。ここでは、レンズL1、L2からなる光学系によって、光検出手段211に入射する反射光の位置を拡大している。
【0009】
この構成も、前述と同様にプローブ209のたわみを反射光の向きに変換する、いわゆる光てこの原理を利用している。スキャナ204により、プローブ209は被測定物203の表面に沿って移動するが、スキャナ204の先端に取り付けた光源LDもいっしょに動くため、常時プローブ209の背面に集光させることができる。
【0010】
つまり、スキャナの先端に光源を設置することによって、スキャナの動きに追従し、いつもプローブ背面に光てこの光をあてるように構成されている。
【0011】
なお、原子間力顕微鏡の測定モードは、次の2種類が知られている。
【0012】
第1の方法はDCモードと呼ばれ、被測定物とプローブ間に作用する力によってプローブのたわみが変化するので、それを検出する方法である。
【0013】
第2の方法はACモードと呼ばれ、プローブを高周波で定常振動させる。被測定物とプローブ間に作用する力によってプローブの振動状態が変化するので、それを検出する方法である。
【0014】
いずれの方法においても、プローブのたわみ(変位)を精度よく測定できるかどうかが、測定精度を大きく左右するポイントである。
【0015】
また、従来の原子間力顕微鏡ではいわゆるゼロ位法と呼ばれる測定精度を向上する技術が使用される。プローブと被測定物間の距離を制御できる可動軸を設け、被測定物との相互作用によって生じたプローブのたわみが一定になるよう可動軸を制御し、可動軸の移動量を測定値とする。このように構成すると、プローブと被測定物との間の相互作用が、被測定物とプローブの相対距離に対して非線形な特性であっても、その影響を排除することができる。
【特許文献1】米国特許第5560244号明細書
【特許文献2】特開平5−312561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら上記従来の技術によれば、以下のような未解決の課題がある。
【0017】
(1)焦点位置とプローブの位置が必ずずれるため、高精度測定が難しい。
【0018】
光てこを用いた原子間力顕微鏡では、光学系の精度が直接測定精度につながる重要なポイントである。しかし、スキャナの動作によって、光てこのターゲットであるプローブの位置も動く。
【0019】
特許文献1の従来例では、次の理由により、光学系の焦点位置を正確にプローブに当てることができない。
【0020】
まず、レンズの位置と焦点位置の関係には誤差が伴う。両者は概略、線形関係を持つがそれはあくまで近軸理論が成り立つ範囲であり、実際は非線形な関係である。特にプローブを走査するスキャナとして、チューブスキャナを用いた場合は、チューブスキャナの先端が固定位置を中心に円弧状に動くため、スキャナに取り付けられているレンズにも非常に大きな姿勢誤差が発生し、焦点の位置精度を悪化させる。その結果、焦点位置とプローブの位置がずれてしまう。
【0021】
また、固定した光源からの光はスキャナの動作に伴ってレンズの異なる場所を通過する。ところが現実のレンズは場所ごとに異なる誤差を持っているので、スキャナの動作に伴って焦点の位置も異なる誤差をもつ。従って焦点位置とプローブの位置が必ずずれてしまう。
【0022】
以上の理由により、スキャナの動作に伴って光てこの焦点位置とプローブの位置がずれる。光てこの焦点が正確にプローブに当たらなければ当然その反射光の位置も誤差をもつ。反射光の位置が原子間力顕微鏡の測定値になるので、高い測定精度は望めない。
【0023】
(2)スキャナ先端部が小さくできないため高精度測定が難しい。
【0024】
特許文献1の従来例ではスキャナ先端部分に光源が配設されるため、この部分の発熱が懸念される。原子間力顕微鏡は一般にサブナノメートルといった高精度測定を目的としているので、温度変化の影響は大きい。測定点の近傍に発熱源を配置する従来例では、高精度測定は望めない。
【0025】
また、光源およびその出射光をプローブに集光する光学素子をスキャナの先端に取り付ける必要があるため、スキャナ先端部の質量を軽くできない。スキャナ先端部分の質量が重いと、走査したときの誤差も大きくなるため、やはり高精度測定は望めない。
【0026】
(3)プローブの光軸方向のずれに対応できないため高精度測定が難しい。
【0027】
光てこのターゲットであるプローブの位置はスキャンに伴い光軸方向にもずれる可能性がある。光軸方向にずれると、反射光も影響を受けて拡散するが、上記の従来技術では光軸方向の調節機構がないために、これを補正できない。この反射光が測定値になるので、高い測定精度は望めない。
【0028】
特に、プローブのたわみをZ軸にフィードバックするゼロ位法の制御によって、スキャナのZ軸は被測定物のでこぼこに応じて上下方向に移動する。その結果、プローブ上で焦点を結ばなくなるので、測定誤差が悪化する。つまり被測定物が数十ミクロン以上の凸凹形状だったり、粗い面の場合、従来技術では高精度測定が難しい。
【0029】
(4)焦点位置の検出が困難である。
【0030】
光てこを用いた原子間力顕微鏡では、光学系の精度が直接測定精度につながる重要なポイントである。このために、光てこのターゲットであるプローブに正確に焦点が当たっていなければならない。しかし、従来技術ではそれを確認することが難しい。光学顕微鏡を用いて外側から焦点位置とプローブとを両方観察し、位置合わせするなどの方法も考えられるが、煩雑である。
【0031】
(5)焦点位置の調節が煩雑である。
【0032】
高精度測定のために、光てこのターゲットであるプローブに、いつも正確に焦点が当たっていなければならない。前述したようにスキャナの動作によって光てこのターゲットであるプローブの位置が動くため、スキャナの運動にあわせて光てこの焦点の位置を追従させる必要がある。上記の従来例では、レンズをスキャナに取り付けたり、光源をスキャナに取り付けたりしてこの課題の解決を図ってきた。
【0033】
ところがスキャナの運動は、時間経過で変化しないもの、例えば製作時の組立て誤差などもあるが、時間経過で変化するもの、例えば部品劣化などもある。これらスキャナの運動変化に対応するため、キャナ先端部に配置したレンズ、または光源の位置、姿勢を調整する必要がある。
【0034】
つまり従来技術では、本来固定してあるそれらの要素の位置を調節して再び固定するという調整の作業が入るため、煩雑であり、煩雑な調整が頻繁に入ることは、実用上の観点から考えると大きな欠点と言える。
【0035】
(6)プローブ交換時のアライメント調整が煩雑である。
【0036】
プローブの先端は磨耗などの理由により劣化するので消耗品である。プローブを交換した場合、プローブの位置は製作誤差や取り付け誤差のために必ずれる。そこで光てこのターゲットであるプローブに、いつも正確に焦点が当たるように光学系を再調整しなければならない。
【0037】
ところが、前述したように従来技術では、焦点位置の検出が困難であり、しかも焦点位置の調節が煩雑であるため、プローブ交換時のアライメント調整も煩雑である。煩雑な調整が頻繁に入ることは、実用上の観点から考えると大きな欠点となる。
【0038】
(7)マルチプローブへの対応が困難である。
【0039】
例えば100μm程度に近接した多数のプローブを用いて多点を同時に測定するマルチプロービングへの展開は、従来技術では困難である。特許文献1の従来例による光てこ光学系を多数配置すると、光源、レンズ、光検出手段を近接して多数配置することになるが、いずれも近接させて配置することは不可能である。それぞれの構成要素が100μmより大きいためである。特にレンズは光を集光させる必要から、ある程度の大きさの開口率が必要となり、その結果レンズを小さくすることが困難である。
【0040】
また、特許文献2の従来例においても同様に、光源および光検出手段を近接して多数配置することになるが、スキャナ先端部分に光源を有するため、スキャナ先端部を小型にすることがより一層難しくなる。
【0041】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、光学系の焦点位置をプローブ位置に追従させることで、高精度な形状測定が可能である原子間力顕微鏡を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0042】
上記目的を達成するため、本発明の原子間力顕微鏡は、反射面を有するプローブと、光源からの計測光を前記プローブの前記反射面に集光させるための光学系と、前記光学系を保持するハウジングと、前記ハウジングに保持され、前記プローブをX、Y、Z方向に駆動するためのプローブスキャナと、前記プローブの前記反射面で反射した前記計測光を検出する光検出手段と、前記光学系の焦点位置を移動させるための焦点位置移動手段と、前記焦点位置移動手段を前記プローブスキャナと同期的に制御する制御手段と、を有し、前記焦点位置移動手段によって前記光学系の前記焦点位置を移動させながら、前記光検出手段の出力に基づいて前記プローブスキャナを駆動し、前記プローブの変位を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
プローブ位置に応じて光学系の焦点位置を制御する焦点位置移動手段を設けることで、プローブに光学系の焦点位置を追従させた高精度な計測が可能となる。
【0044】
光源やレンズをプローブスキャナと一体的に移動させる場合に比べて、プローブ先端部を小さくすることができる。
【0045】
また、プローブ位置に応じて光学系の焦点位置を光軸方向に調整することで、より一層測定精度を向上させるとともに、数十ミクロン以上の比較的大きな凹凸形状の測定にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0047】
図1に示すように、被測定物1をXY粗動ステージ2上に保持し、Z粗動ステージ5に固定されたハウジング6にプローブスキャナである第1のスキャナ10を配設する。反射面を有するプローブ22の位置をX、Y、Z方向に第1のスキャナ10によって微動させ、プローブ22と被測定物1との間に働く力によってプローブ22がたわみ、その反射面が動く量(変位)を計測する。
【0048】
計測用の光学系は、光源23からの計測光をプローブ22の反射面上に焦点を結ばせる集光光学系であり、その焦点位置を移動させるための焦点位置移動手段である第2のスキャナ26と、プローブ22で反射した反射光を受光する光検出手段37を有する。このように光てこを用いた光検出手段37による出力信号、すなわち反射光の光位置信号および光量信号と、第1のスキャナ10のX、Y、Z位置を用いて被測定物1の表面形状を表わす測定値を計算する。
【0049】
第1のスキャナ10と第2のスキャナ26は、スキャナ制御装置(制御手段)48によって同期的に制御される。光てこを用いた原子間力顕微鏡では、焦点位置をプローブ22の反射面に一致させることが測定精度につながる重要なポイントであり、プローブ22は第1のスキャナ10の駆動によって移動するため、第1のスキャナ10に連動して焦点位置を動かす必要がある。
【0050】
従来例では、プローブスキャナに光学系のトラッキングレンズや光源を固定して、この機能を実現してきたのであるが、前述したようにこの方法では問題があった。
【0051】
本実施の形態では、プローブ22を移動させる第1のスキャナ10とは別に焦点位置を移動させる第2のスキャナ26を設けることで、焦点位置を第1のスキャナ10によるプローブ位置とは独立して、しかも同期的に制御することが可能となる。このように、プローブ位置に応じて焦点位置を調節することができるため、例えば、焦点位置とプローブ22の追従誤差があらかじめわかっていれば、それを打ち消すように第2のスキャナ26を動かすことができる。その結果、精度よく焦点位置をプローブ22に追従させることができ、従来よりも高精度測定が可能となる。この場合、追従誤差をあらかじめ知っておく必要があるが、その方法も後述するように可能である。
【0052】
また、本実施の形態では、プローブと光源を同じスキャナに配置する構成に比べて、スキャナ先端部を小さくすることができるため、高精度測定とともに小型化が可能となる。
【0053】
図2の(a)は、光てこの光源23からレンズ33を含む光学系を経てプローブ22に至る光路を示す模式図である。
【0054】
光源23からの計測光はプローブ22上に焦点を結んでいる必要があるが、プローブ22は第1のスキャナ10によって例えばX方向に動く。この時、焦点位置がいつもプローブ22上になければならないため、第2のスキャナ26によって光源23をX方向に動かすことで、焦点位置を移動させる。このように、第1、第2のスキャナ10、26を同期して動かすことにより、いつもプローブ22に焦点を結ばせることができる。
【0055】
図2の(b)に示すように、光源23とレンズ33の間が固定されている場合は、プローブ22が第1のスキャナ10によってX方向に動くとき、第2のスキャナ26によって、光源23とレンズ33をX方向に動かす。このようにして焦点位置を動かすことで、いつもプローブ22に焦点を結ばせることが可能である。
【0056】
また、プローブ22の走査に伴って、光てこの光軸が動くため、レンズ33の異なる場所を光線が通過するが、従来例では、レンズ33の収差の影響により、焦点位置がずれてしまうことが問題であった。本実施の形態によれば、焦点位置とプローブ位置は独立に制御することができるため、レンズ収差も補正することが可能となる。
【0057】
なお、図2の(a)において、光源23をスキャンするかわりにレンズ33を動かしても同じである。
【0058】
また、設計の都合で途中に折り曲げミラーを配置して、光軸を曲げてもよい。レンズ収差を少しでも減らすために複数枚のレンズを用いる光学系を組んでも同様である。
【0059】
第2のスキャナ26は光軸に垂直なX、Yの2方向に加えて、光軸方向であるZ方向にも移動可能に設ける。すなわち、図2の(b)の構成では、光源23からの計測光はプローブ22上に焦点を結んでいる必要があるが、プローブ22は第1のスキャナ10によってX、Y、Z方向に動く。この時、焦点位置がいつもプローブ上になければならないため、第2のスキャナ26によって、光源23および光学系33をX、Y、Z方向に動かす。このように、第1のスキャナ10と第2のスキャナ26を同期して動かすことにより、いつもプローブ22に焦点を結ばせることができる。
【0060】
また、図2の(a)の構成では、プローブ22は第1のスキャナ10によってX、Y、Z方向に動く。この時、焦点位置がいつもプローブ上になければならないため、第2のスキャナ26によって、光源23をX、Y、Z方向に動かす。ここで、レンズ33をはさんで光源23とプローブの位置は共役の関係にあり、プローブ22の背面上で焦点を結ぶようにしておく。そして、第1のスキャナ10と第2のスキャナ26の動きを同期させ、移動量をL1:L2の比に保つことによって、いつもプローブ22に焦点を結ばせることができる。
【0061】
このように、光軸に垂直な2方向に加え、光軸方向にも移動可能に第2のスキャナ26を設けることにより、焦点位置とプローブ位置を3次元的に互いに独立して制御可能となる。
【0062】
従来技術ではプローブの光軸方向のずれに対応できないため高精度測定が難しかったが、本実施の形態によれば、前述したように焦点の3次元位置を調節することができるため、光軸方向のずれにも対応可能であり、測定精度を向上できる。また、第2のスキャナによる焦点の3次元的な位置調節により、数十ミクロン以上といった大きな凸凹形状をもつ被測定物に対しても、焦点をZ軸に追従させて測定可能となる。
【0063】
焦点位置を移動させる第2のスキャナ26の制御のために、第1のスキャナ10によるプローブ位置を焦点位置に変換するための位置変換データを求めておく。これによって、プローブ位置に対応した焦点位置の制御が可能であり、しかも位置変換データを変更するという簡便な方法で、様々な動きに対応することが可能となる。例えば、プローブを交換した時、そのプローブに応じた位置変換データを準備すればよい。
【0064】
位置変換データは、第1のスキャナ10を固定し、第2のスキャナ26を走査して光検出手段37の出力マップを作成し、その出力マップからプローブ22の反射面の位置を計算する工程を、第1のスキャナ位置を変えて測定範囲全域で繰り返し行うことで作成される。
【0065】
第2のスキャナ26を固定して第1のスキャナ10を走査し、同様の出力マップを作成する工程を、第2のスキャナ位置を変えて繰り返す方法でもよい。
【実施例1】
【0066】
図1は実施例1による原子間力顕微鏡を示す。ベース3を除振台4の上に設置し、ベース3上にXY粗動ステージ2を設け、その上に被測定物1をセットする。ベース3上に立設されたZ粗動ステージ5にハウジング6を配設し、ハウジング6は、XY方向に移動可能なXYスキャナ7を保持する。
【0067】
図3はXYスキャナ7を上(Z方向)から見た図である。XYスキャナ7の本体は金属から切り出したヒンジ機構を持っており、ワイヤカット加工により形成されたX板ばね部8を4箇所設けることにより、X移動部9がX方向に移動可能にガイドされる。X移動部9の中にはXY移動部10aが設けられ、4箇所のY板ばね部11でガイドされる。この構成により、XY移動部10aは、XおよびY方向に移動可能にガイドされる。XY移動部10aの中心には貫通穴12が設けられる。
【0068】
また、X方向の駆動についてはX圧電素子13を設け、対向する位置にプランジャ14を設ける。プランジャ14はばねの作用により、一定の力で押し付ける部品である。このプランジャ14の発生する力でX移動部9を圧電素子13に押し付ける。
【0069】
この押し付け力は重要である。圧電素子は、電圧に応じて伸縮する部品であるが、引っ張り応力に弱いため、常に圧縮力がかかる範囲で使用しなければならない。
【0070】
Y方向の駆動についても同様にY圧電素子15をX移動部9とXY移動部10aの間に設け、対向する位置にプランジャ16を設け、プランジャ16の発生する力でXY移動部10aを圧電素子15に押し付ける。
【0071】
X圧電素子13、およびY圧電素子15の電圧を制御することにより、XY移動部10aのXY位置を制御することができる。また、XYスキャナ7の周辺の4箇所には取り付け穴17を設ける。
【0072】
XYスキャナ7の貫通穴12には、図1に示すように、Z方向に移動可能に円管状のZ微動軸18を設ける。Z微動軸18は円管状の圧電材料の内周、および外周にそれぞれ電極を取り付け、両者に電圧をかけることによってZ方向に伸縮する。つまり、XYスキャナ7とZ微動軸18で、X、Y、Z3軸方向に移動可能な第1のスキャナ10を構成する。第1のスキャナ10を、スキャナ制御装置48に接続して制御する。この制御装置は、高速演算が可能な、例えば、Digital Signal Processorと呼ばれるようなコンピュータである。
【0073】
Z微動軸18の先端に取り付けブロック19を設け、取り付けブロック19に、加振用ピエゾアクチュエータ20およびプローブホルダ21を介してプローブ22を固定する。
【0074】
プローブ22は、図示するようにZ方向に対して傾斜している。これは、被測定物1に対して傾斜させてプローブ22を配置し、プローブ先端以外の部分が被測定物1と衝突する問題を軽減するためである。この点は、凹面の被測定物を測定する場合には重要である。
【0075】
また、加振用ピエゾアクチュエータ20を図示しない発信回路に接続し、振動させると、前述したACモードの原子間力顕微鏡を構成できる。すなわちプローブを高周波振動させながらプローブと被測定物間に作用する力を測定することが可能となる。
【0076】
反対に加振用ピエゾアクチュエータ20を省略すれば、DCモードの原子間力顕微鏡を構成できる。すなわちプローブを振動させず、プローブと被測定物間に作用する静的な力を直接測定することが可能となる。
【0077】
AC測定モードおよびDC測定モードのいずれの測定方式でもプローブのたわみをいかに精度良く検出できるかが測定精度を左右するポイントである。以後、説明の簡便のため、DC測定モードであることを前提として説明を続ける。
【0078】
ハウジング6に固定して半導体レーザーなどの光源23を設け、光源23から出射する計測光を光ファイバ24に導く。このような光源としてピグテール型と呼ばれる半導体レーザー部品が使用できる。光ファイバ24を光ファイバ出射端25に接続する。光ファイバにシングルモード光ファイバを採用すれば直径が数ミクロンといった、非常に狭い範囲から光を放出するので良質な点光源として使用できる。この光ファイバ出射端25、つまり点光源を、ハウジング6に固定して設けたチューブスキャナである第2のスキャナ26の先端に固定する。
【0079】
図4に第2のスキャナ26の構成を示す。第2のスキャナ26は複数の電極を形成した円筒型の圧電素子であり、内側に共通電極27を設け、上部に円管状のZ用電極28を設け、下部には4分割電極29を設ける。説明のため、内部の共通電極27の電位をゼロボルトとする。
【0080】
この構成で共通電極27とZ用電極28の間の電圧を制御することにより、矢印32で示すZ方向に伸縮する。また、4分割電極29のうち、対向する2つの電極に符号が逆の電圧をかけると、片方が伸び、もう一方が縮むことによって、円管がたわみ、第2のスキャナ26の先端は矢印30で示すX方向、あるいは矢印31で示すY方向に動く。
【0081】
第2のスキャナ26は下端をハウジング6に固定し、上端に光ファイバ出射端25を固定しているので、光ファイバ出射端25で形成される点光源をXYZ方向に移動可能である。その動作をスキャナ制御装置48によって制御する。この装置の動作については後述する。
【0082】
光学系を構成するレンズ33、偏光ビームスプリッタ34、4分の1波長板35、プリズム36、光検出手段37、黒板38、および光源23の波長帯域を透過するダイクロイックミラー39は、ハウジング6に固定して設ける。
【0083】
光ファイバ出射端25から出射した計測光は、レンズ33によって収束する光となり、偏向ビームスプリッタ34に入射し、偏向ビームスプリッタ34で反射する光は不要なので光軸に対して傾斜させた黒板38にあてて吸収させる。光軸に対して斜めにあてるのは黒板表面で正反射する光が発生しても影響を受けないようにするためである。一方、偏光ビームスプリッタ34を通過した光は4分の1波長板35を通過し、円偏光に変換される。さらにプリズム36で光軸を傾け、光軸をプローブ22の反射面に対応させる。
【0084】
計測光はさらにダイクロイックミラー39を透過し、プローブ22の背面側に焦点を結ぶ。つまり、レンズ33の位置は概略、プローブ22の反射面上に焦点を結ぶように調整しておく。
【0085】
図2の(a)に示すように、プローブ22上で焦点を結ぶためには、レンズ33をはさんで光源23とプローブ22の位置が共役の関係になればよい。つまり、レンズ33と、光源レンズ23およびプローブ22の離間距離L1、L2、レンズ33の焦点距離をfとすると、以下の関係が成立すればよい。
【0086】
【数1】

この時、光源23をX方向に動かすと、焦点位置はX方向に、L2:L1の比率で動く。
【0087】
前述のように、本実施例では点光源として、光ファイバ出射端25を用いた。この点光源を第2のスキャナ26に固定してあるため、第2のスキャナ26を動かすことにより、所望の位置に焦点を動かすことができる。
【0088】
プローブ22で反射した計測光は再びダイクロイックミラー39を透過し、プリズム36を透過して向きを変え、再び光軸がZ軸に平行になり、4分の1波長板35を透過することによって円偏光が直線偏光に再変換される。しかしこのとき、直線偏光の向きが最初と90度異なっている。従って偏光ビームスプリッタ34で今度は反射し、光検出手段37に入射する。
【0089】
光検出手段37は例えば4分割フォトダイオード、あるいはポジションセンサーとして知られているフォトダイオードであり、4つの電極から入射光の位置に応じた電流を出力する。この信号を光検出手段用アンプ45に接続する。これはフォトダイオードの電流信号を電流電圧変換回路で電圧に変換し、オペアンプを使ってアナログ演算することにより、光検出手段37に入射する光量に比例した光量信号46と、入射する光の重心位置を表す光位置信号47に変換する。
【0090】
プローブ22がたわむと反射光の角度が変わり、光検出手段37に入射する光の重心位置が動く。このとき、この重心位置の動きがプローブ22のたわみを拡大しており、この光学系はいわゆる光てことして作用する。
【0091】
また、プローブ22のたわみは、被測定物1とプローブ間に作用する力、いわゆる原子間力によって引き起こされるので、光検出手段37の光位置信号47は原子間力を表していると言える。
【0092】
光量信号46と光位置信号47をスキャナ制御装置48に接続する。スキャナ制御装置48の動作については後述する。
【0093】
また、この光検出手段37の出力、光量信号46と光位置信号47のノイズを低減する方法として、ロックインアンプを使用することは有効である。ロックインアンプはあらかじめ定められた周波数成分だけを選択的に増幅する装置である。信号をあらかじめ定めた周波数で変調しておき、その同じ周波数に同期した信号をロックインアンプで取り出すことによって、その周波数以外の成分はほぼ除去することができる。この時、スキャナ移動の周波数よりも少なくとも10倍以上高い周波数で変調をかけておく。スキャナ特性を2次系とすれば、ほぼ周波数の2乗のオーダーで、振動減衰が期待できるので、スキャナ動作によるノイズの悪化を防ぐことができる。光の変調方法としては、光源の強度を変調するほか、前述のACモード、すなわちカンチレバーを高速振動する方法が可能である。
【0094】
前者の場合は光量信号46と光位置信号47の信号が変調されるため、両方の信号に対してノイズの改善が期待できる。後者の場合は光位置信号47の信号が変調されるため、その信号に対してのみノイズの改善が期待できる。
【0095】
また、ハウジング6に固定してカメラ43および黒板44を設ける。ダイクロイックミラー39は特定の波長の光だけを反射する。その波長の光を使って被測定物表面の画像をカメラ43で映すことができる。一方、その波長以外の光は透過してしまうが、黒板44を光軸上に配置してあるので、その波長の光がカメラ43に入射して画像を乱すことはない。カメラ43は図示しないモニタなどに接続し、画像を表示する。
【0096】
次に、スキャナ制御装置48の動作を説明する。この装置は高速演算可能なコンピュータとスキャナを動作させるドライバアンプで構成されており、複数の制御プログラムをマルチタスクで稼動することができる。
【0097】
図5はスキャナ制御装置48による制御ブロック図である。まず、プローブ22のたわみをフィードバックする制御系について説明する。前述したように、プローブ22のたわみは、被測定物1とプローブ間に作用する力、いわゆる原子間力によって引き起こされるので、光検出手段37の光位置信号47は原子間力を表していた。あらかじめ目標の原子間力を定め、その原子間力に対応する光位置目標値49を定めておく。
【0098】
光位置信号47から、あらかじめ定めておいた光位置目標値49を差し引き、Z微動軸用補償器50、Z微動軸用ドライバアンプ51からなる制御系を通してZ微動軸18にフィードバックする。Z微動軸用補償器50はフィードバック制御系を安定に保つために必要なもので、例えばPID制御則といったものが知られている。
【0099】
このフィードバック制御系によって、光位置信号47の変化を打ち消すように第1のスキャナ10のZ微動軸18を動作させることが可能になる。光位置信号47は原子間力を表しており、Z微動軸18はプローブ22と被測定物1の相対距離を変化させるものであった。つまり、このフィードバック制御を行うことによって原子間力が一定となる高さ情報の測定が可能になる。これは、いわゆるゼロ位法による測定である。
【0100】
このゼロ位法の制御によって、第1のスキャナ10のZ軸は被測定物1のでこぼこに従って上下方向に移動する。この上下の動きが大きいと、プローブ22が光てこの光軸方向に大きく動くことになる。その結果、プローブ上で焦点を結ばなくなるので、従来技術では大きな課題となっていた。本実施例によれば、焦点の光軸方向の位置を第1のスキャナ10のZ軸の変位に従って調節することができるので、後述するようにこの課題も解決できる。
【0101】
被測定物1の測定範囲全面を走査するXYスキャン目標位置53を発生させ、XYスキャナ用ドライバアンプ54を介してXYスキャナ7を駆動する。
【0102】
また、位置変換データ52をあらかじめ記憶部に準備しておく。これはXYキャナ7および、Z微動軸18からなる第1のスキャナ10のX、Y、Z位置に対応する第2のスキャナ26の位置関係のデータであり、その位置関係を保てば、光てこ光学系の焦点位置がプローブ22の位置と一致するものである。この位置変換データ52の作成方法については後述する。
【0103】
位置変換データ52と、第1のスキャナ10の位置、すなわち補償器50の出力とXYスキャン目標位置53を位置変換器55に接続し、その出力を第2のスキャナ用ドライバアンプ56に接続し、第2のスキャナ26の圧電駆動部を駆動する。ここで、位置変換器55は、位置変換データ52を用い、入力である第1のスキャナ10のX、Y、Z位置を、出力である第2のスキャナ26のX、Y、Z位置に変換する座標変換演算装置である。
【0104】
次に、位置変換データ52について説明する。まず、第1のスキャナ10のX、Y、Z位置をベクトルXn で表し、第2のスキャナ26のX、Y、Z位置をベクトルYn で表す。
【0105】
ここで、添え字nは1、2、3のいずれかであり、例えば、X1 、X2 、X3 はそれぞれ第1のスキャナ10のX位置、Y位置、Z位置を表す。座標変換を次のように計算する。
【0106】
【数2】

ここで、m=1、2、3である。また、係数ci,j,m は位置変換データ52である。
【0107】
上式は入出力の関係を次数nのべき多項式で表現するものである。この方法によれば、次数が2以上の非線形成分まで考慮した座標の変換が可能である。
【0108】
例えば、オフセットと、倍率だけを補正する多項式は次数nを1とし、(2)式を次のように変形すれば、実現できる。
【0109】
1 =c0,1,1 +c1,1,1 1
2 =c0,2,2 +c1,2,2 2 ・・・(3)
3 =c0,3,3 +c1,3,3 3
ここで、オフセットは光てこの焦点位置とプローブ位置のずれであり、上式でこれを補正することにより、焦点位置とプローブ位置とを一致させることが可能となる。
【0110】
また、倍率は第1のスキャナ10の移動量に対し、第2のスキャナ26で動く焦点位置の移動量の比率をあらわす。機構部品の製作誤差や、第2のスキャナ26に固定した点光源からの光を収束して焦点を結ばせる光学系の倍率で決まる。
【0111】
また、第1、第2のスキャナ10、26の移動方向がわずかに傾斜している場合、この傾斜を考慮した係数を上式の(2)、(3)式に追加し、次のようにセットすれば補正が可能である。追加した項が回転行列になっている。
【0112】
1 =c0,1,1 +c1,1,1 1 +c1,1,2 2
2 =c0,2,2 +c1,2,1 1 +c1,2,2 2 ・・・(4)
3 =c0,3,3 +c1,3,3 3
同様に、次数の高い補正も可能である。
【0113】
プローブ22は、図6の(a)に示すように、図1に示す被測定物1との間の原子間力を感知するための尖点60aと、カンチレバー60bを備え、カンチレバー60bの先端の幹部60cの下端に尖点60aが固定される。
【0114】
図6の(b)に示す従来のプローブでは、針部分が短いため、深い凹面形状には対応できない。針部分を長く伸ばせば対応できるようになるが、板ばねがたわむので、針の姿勢変動が大きくなってしまう。そこで、図6の(a)に示すように、カンチレバー60bを構成する板ばねを平行に2枚設けることによって、針の姿勢変動を小さくし、針部分の長さを長くする幹部60cを設けて、上側の板ばね部に反射面を形成する。このような平行板ばね構造のプローブを用いるのが望ましい。
【0115】
カンチレバー60bの上面に形成された反射面によって計測光を反射し、光検出手段37に入射する光量を検出しながらプローブ22の位置を自動的に検出し、検出結果を用いて焦点位置の精密な調整が可能になる。
【0116】
図7はプローブ22を上から見た図である。光てこ光学系の焦点40は第2のスキャナ26によってつづれ折状の軌跡41に沿って走査される。このように焦点40を走査すると、光検出手段37に入射する光量は、プローブ22に焦点40があたったときに大きくなる。この光量信号を2次元の光量マップ(出力マップ)にすると、プローブ22の位置および形を読み取ることができるので、プローブ上で焦点40をあてる最適位置(最適な焦点位置)42を求めることができる。最適位置42は、焦点40がプローブ22の反射面に一致して、従って光検出手段37に入射する光量が大きく、しかもプローブ22の先端付近、従ってプローブ22のたわみが大きい場所である。
【0117】
第1のスキャナ10の位置を変えて、第2のスキャナ26を走査し光量マップを作成する工程を繰り返し行うことにより、第1のスキャナ位置に対応する焦点位置の表(位置変換データ)を作成することができる。そしてその表を用いて、第1のスキャナ10と同期的に第2のスキャナ26を制御することにより、常に焦点位置をプローブ22の最適位置42に保つことが可能となる。
【0118】
図8において、横軸は第2のスキャナ26の位置であり、縦軸は光量信号46を示す。光量の最大値をα1とする。α1以下で適当な値α2、例えばα1の90%、を閾値α2として決める。この閾値α2で図示するように等高線が引ける。この等高線はプローブ22の輪郭を表している。等高線の中で、最もプローブ22の先端に近い場所をβとする。このβ位置はプローブ22の先端と考えられるので、それよりも一定距離、例えば焦点40の光スポットサイズに等しい距離をプローブ22の根元方向にずらした点を最適位置42とする。これは、走査軸の移動誤差などによりβの位置がわずかにずれただけでも大きく光量変化することを避ける狙いがある。
【0119】
また、同様な方法で、第2のスキャナ26の光軸方向についても最適位置を求めることができる。プローブ22が光軸方向にずれると、反射した光が大きく広がり、光検出手段37に入射する光量が低下するので、光量が最大になるところが、プローブ22上の最適な光軸方向の焦点位置となる。以上の方法により求めた最適位置42に光学系の焦点を追従させれば、十分な光量を確保できる。また、焦点位置がプローブ22の先端に近いためにプローブ22のたわみが大きく、従って、測定感度が高いという利点もある。
【0120】
ただし、光てこ光学系の開口数は小さいため、光軸方向のずれには鈍感であり、焦点深度が長い。従って光軸方向のずれが小さい場合は光軸方向についての制御は省略しても十分実用性がある。
【0121】
従来例では最適な焦点位置の検出が困難であったが、本実施例では、第2のスキャナ26を用いて焦点を走査しながら光検出手段37の光量をモニタすることにより、プローブ上の最適位置の検出が可能である。また、従来技術では焦点位置の調節が煩雑であったが、本実施例では、最適な焦点位置の表(位置変換データ)を作成し、それを用いて、第1のスキャナ10の位置に対応して第2のスキャナ26を制御することにより、常に焦点位置をプローブ上の最適な位置に保持することが可能となる。加えて、従来技術ではプローブ交換時のアライメント調整が煩雑であったが、本実施例によれば焦点位置の検出、そして焦点位置の調整を自動化できるため簡便に対応できる。
【0122】
次に、図9のフローチャートを用いて、位置変換データ52を求める方法を説明する。
【0123】
多項式による位置変換の次数を高くした場合、(2)式の係数である位置変換データ52の数が増える。また、その係数は機構部品の製作誤差や、光学系の調整誤差など、机上で決まらない要素もあるので、測定することが必要である。
【0124】
まず、ステップ100で位置変換データ52を初期化する。位置変換データ52に異常な値がセットされていると第2のスキャナ26がまったく動かないといった事態も考えられるので、まず初期化しておく。初期値として(3)式で示す簡単なモデルが使用できる。この段階では位置変換データ52が正確である必要はないので、(3)式の机上検討結果で十分である。
【0125】
ステップ101でZ粗動ステージ5を上方に逃がし、プローブ22を被測定物1から離す。ステップ102で第1のスキャナ10の位置を測定領域から選択する。測定領域を有限個の格子点に分割し、それぞれの格子点を順番に選択し、第1のスキャナ10を選択した格子点の位置に移動する。ステップ103で第2のスキャナ26を用い、光学系を走査し、光量信号46のマップを測定する。
【0126】
ステップ104で光量が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。光量マップ全体が光量不足の場合、光てこ光学系のアライメントが非常に大きくずれているか、プローブが外れているといった故障が考えられるので、エラー停止する。ステップ105で光量マップから焦点をあてる最適位置を決定する。図8に示すように、光量マップからプローブ22の位置および形を読み取ることができるので、プローブ22の中で焦点40をあてる最適位置42を求めることができる。
【0127】
ステップ106で測定領域全領域を網羅してなければ、第1のスキャナ10を次の位置に移動し、ステップ102に戻る。
【0128】
このループにより、測定領域を網羅する有限個の格子点において、最適な焦点位置を実現するための、第1のスキャナ位置に対応する第2のスキャナ位置が求まった。これは(2)式の入力と出力、つまりXとYのペアの集合である。
【0129】
ステップ107で位置変換データ52を計算する。すなわち、(2)式の入出力のペアの集合を使い、最小2乗法によって係数を計算する。(2)式は多項式のモデルであり、もし、残差が大きい場合には多項式の次数を上げれば精度を向上できる。こうして得られた係数が位置変換データ52である。
【0130】
以上の方法で測定した位置変換データ52を用い、第1のスキャナ10の位置に対応して第2のスキャナ26の位置を制御することにより、常に焦点位置をプローブ22の最適位置に保持することが可能となる。
【0131】
また、本実施例では第2のスキャナ26を走査してプローブ位置を探索したが、逆に、第1のスキャナ10を走査してプローブ位置を探索しても、同様に、位置変換データ52を得ることができる。
【0132】
図10は原子間力顕微鏡の測定動作のフローを示す。まず、ステップ200でZ粗動ステージ5を上方に逃がし、被測定物1をXY粗動ステージ2にセットする。ステップ201で光検出手段37の光量信号46が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。例えば光量が不足している場合は、光てこ光学系のアライメントがずれているか、プローブ22が外れているといった初期設定ミスが考えられるので、エラー停止する。また、光てこ光学系のアライメントずれの場合には前述した手順に従って、位置変換データ52を再設定すれば再び測定可能になる。
【0133】
ステップ202で光検出手段37の光位置信号47が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。光位置信号47は、光てこの作用によって拡大されたプローブ22のたわみを表している。この信号が、あらかじめ定めておいた閾値よりも異常に大きい場合はプローブ22がもともと大きくゆがんでいることが考えられるのでエラー停止する。
【0134】
ステップ203で光検出手段37の光位置信号47にオフセットを設定し、出力をゼロにする。プローブ22と被測定物1とが離れている状態で、光位置信号47のオフセットをとり、光てこ光学系の微小なアライメント誤差や、電気系のオフセット誤差をキャンセルするために行う。ステップ204で光位置信号47が、あらかじめ設定した値になるまで、Z粗動ステージ5を移動する。光位置信号47は、光てこの作用によって拡大されたプローブ22のたわみ、すなわち、プローブ22と被測定物1の間に作用する力の大きさを表している。この力が、あらかじめ設定した値になるまでZ粗動ステージ5を上げ下げする。その結果、プローブ22は被測定物1に非常に接近し、原子間力の影響が現れる。
【0135】
ステップ205で光位置信号47の出力が一定になるように、Z微動軸18にフィードバック制御をかける。
【0136】
前述したように、このフィードバック制御により、ゼロ位法による測定が可能になる。この制御がかかると、プローブ22と被測定物1に作用する力が一定になり、Z粗動ステージ5は被測定物1の凹凸に応じて上下することになる。
【0137】
ステップ206で測定範囲において、第1のスキャナ10を走査する。測定範囲に対して、プローブ22を走査し、測定範囲全体の光位置信号47、Z微動軸18の位置を記録する。このとき、図5の制御ブロック図で説明したように、位置変換データ52を用いて第1のスキャナ10の位置、すなわちZ微動軸18およびXYスキャナ7の位置に対応して、第2のスキャナ26の位置を制御する。この制御により、光てこ光学系の焦点が常にプローブ22上に追従する。
【0138】
ステップ207で測定結果を計算し、表示、保存する。ここで、測定結果とは、横軸に、第1のスキャナ10のXY位置をとり、縦軸にZ微動軸18の位置をとったものである。
【0139】
前述したように、光位置信号47は、プローブ22と被測定物1の間に作用する力、いわゆる原子間力を表しており、これが一定になるようにZ微動軸18にフィードバック制御をかけた。従ってさきほどの測定結果とは、原子間力が一定になる被測定物1の凹凸を表している。
【0140】
また、フィードバック制御では、たとえわずかであっても制御偏差が発生する。この制御偏差があっても、光位置信号47の出力をZ方向の変位に換算した値を測定値に加えることによって補正することができる。このときの換算率とは被測定物1の移動量と光位置信号47の移動量の割合である。この割合はXY位置を変えずに、プローブ22を徐々に被測定物1に押し込むことによって、図1の装置上でも測定できるほか、原子間力の計算モデルを用いて計算することもできる。
【0141】
ステップ208でZ粗動ステージ5を上方に退避し、被測定物1をXY粗動ステージ2からはずす。
【0142】
本実施例によれば、従来技術では焦点位置とプローブの位置が必ずずれるため、高精度測定が難しかったが、第2のスキャナにより、第1のスキャナの位置に応じて焦点位置を調節することにより、いつも焦点位置をプローブに合わせることができる。
【0143】
また、特許文献2による従来技術では、プローブスキャナの先端部が小さくできないため高精度測定が難しかったが、本実施例では光源を先端部に配置する必要がないので、プローブ先端部を小さくすることがでる。
【0144】
さらに、従来技術ではいずれも、プローブの光軸方向のずれに対応できないため高精度測定が難しかったが、本実施例によれば、前述したように焦点の3次元的な位置を調節することができるため、光軸方向のずれにも対応可能である。また、第2のスキャナを用いて光検出手段の光量をモニタすることにより、最適な焦点位置の検出が可能である。
【0145】
従来技術では焦点位置の調節が煩雑であったが、本実施例によれば、最適な焦点位置の表を作成し、それを用いて、第1のスキャナの位置に対応して第2のスキャナの位置を制御することにより、常に焦点位置をプローブの最適な位置に保持することが可能となる。
【0146】
従来技術ではプローブ交換時のアライメント調整が煩雑であったが、本実施例によれば焦点位置の検出、そして焦点位置の調整に人の動作や判断などが必要なく、自動でできるため簡便に対応できる。
【0147】
なお、光学系の配置は、順番を入れ替えても基本機能は同じである。本実施例では光源から、レンズ、偏光ビームスプリッタ、4分の1波長板、プリズム、ダイクロイックミラーといった順番で配置した。誘電体表面に傾斜して入射する光線の透過強度は偏光の方向で異なることが知られているが、波長板を通過してプリズムに入射する円偏光はこの効果により、楕円偏光となる。プローブで反射し、再び波長板に入射する光線は楕円偏光となる。従って直線偏光に戻らない光が僅かながら発生し、これは偏光ビームスプリタを透過し、光源側へ戻っていく。これは不要な迷光であり、ノイズになる可能性がある。そこで、波長板とプリズムの位置を入れ替えることが考えられる、このように配置すれば、プリズムの傾斜面がなくなるので上記の心配も解決できる。
【0148】
また、本実施例ではダイクロミラーを透過する側に光てこ光学系を配置し、反射する側にカメラを配置したが、この配置を逆にしても同じである。
【0149】
本実施例では第1のスキャナをXY軸とZ軸の組み合わせで構成したが、これをチューブスキャナで構成しても同じことである。反対に第2のスキャナをXY軸やZ軸の組み合わせで構成しても同じ機能を実現できる。
【0150】
また、本実施例では、第2のスキャナで点光源である光ファイバ出射端を固定したが、レンズを動かしたり光源とレンズを同時に動かしても同じ機能を実現できる。
【0151】
なお、光検出手段の出力信号をロックインアンプに導き、ロックインアンプの同期周波数を、前記スキャナが動作する周波数の少なくとも10倍以上とするとよい。高精度測定には様々な外乱対策が重要であるが、大きなノイズ源として本測定装置を設置する照明光の光量変化やスキャナの動作に連動した振動や電気ノイズといったものが考えられる。そこで、信号をあらかじめ設定した周波数で変調し、その周波数だけを取り出すことによって、こういったノイズを軽減する。信号を変調する周波数をスキャナの動作周波数の少なくとも10倍以上にしておけば、第1、第2のスキャナの移動に伴うノイズの影響を大幅に軽減することができる。例えばスキャナの特性を一般的な機械特性である2次系とすれば、周波数が10倍高くなれば、同じ外乱に対する応答はおおよそ100分の1に減衰する。さらに周波数を高くとればより効果的である。
【0152】
また、信号を変調する手段については特に説明しなかったが、光源の光強度を変調する方法、焦点位置移動手段である第2のスキャナを使う方法、プローブを加振する方法などが考えられるが、作用は同じである。
【0153】
なお、本実施例ではプローブ反射面に焦点を結ばせるとして説明しているが、現実の光学系での焦点はビームウエストと呼ばれる位置であり、当然、数学的な点を意味するものではない。
【実施例2】
【0154】
図11は実施例2を示す。本実施例は、実施例1の装置のプローブ22からの反射光の光路にオートフォーカス装置を組み込んだものである。その他の構成については実施例1と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0155】
オートフォーカス装置は、ハウジング6に固定して、ハーフミラー58、レンズ59、シリンドリカルレンズ61、4分割フォトダイオード62を配設する。
【0156】
プローブ22で反射した光は焦点がプローブ上にあることから、拡散していく光である。その光は偏光ビームスプリッタ34で反射し、ハーフミラー58に入射する。その透過光は光検出手段37に入射し、反射光はレンズ59で収束する光に変換され、シリンドリカルレンズ61を通過し、4分割フォトダイオード62に入射する。
【0157】
この非点収差を利用したオートフォーカス装置は、プローブの反射面で反射した光の光路にハーフミラーを設け、ハーフミラーで分岐した光を、オートフォーカス装置に導き、光量マップに加えてオートフォーカス装置の出力を用いてプローブの位置を計算する。光軸方向についてもプローブから反射した光は拡散するため、光検出手段に入射する光量が減少するので、光軸に垂直方向と同様、光量をみながら最適な位置を探索できる。しかし、光てこ光学系の開口数は小さいため、光軸方向のずれには鈍感、つまり焦点深度が長い。従って光検出手段の光量で検出できる光軸方向のずれは感度が低い。
【0158】
そこで、プローブで反射した光をハーフミラーで分岐させ、オートフォーカス装置で光軸方向のずれを検出する。オートフォーカス装置はいくつか種類があるが、図12および図13に示すように非点収差を利用した方法は広く応用されている。
【0159】
図12において、プローブで反射した光は拡散していくので、まずレンズ59で収束光に変換する。次にシリンドリカルレンズ61に通すと、強い非点収差が発生する。F1はもともとレンズ59の作用で収束する焦点位置であり、シリンドリカルレンズ61の影響を受けて横方向に広がった光強度分布となる。F3はレンズ59とシリンドリカルレンズ61の合成焦点であり、この位置では逆に縦方向に長い光強度分布となる。F2はちょうどF1とF2の中央で、両者をバランスした円形状の光強度分布となる。F2付近に4分割フォトダイオード62を配置することにより、この光強度分布を測定することができる。
【0160】
図13に4分割フォトダイオード62の受光面における光強度分布を示す。F1の位置では横に広がった光強度分布なので、4分割したダイオードのうち、縦方向の2つよりも横方向の2つの信号が強くなる。F2の位置では円形状の光強度分布なので4分割したダイドードの出力も同じになる。そしてF3の位置では4分割したダイオードのうち、横方向の2つよりも縦方向の2つの信号が強くなる。
【0161】
このように、4分割フォトダイオード62を使えば、焦点の位置がどちら側にずれているかを検出することができる。このオートフォーカス装置は、光強度だけで焦点の光軸方向のずれを検出する方法に対して高い精度が可能である。
【0162】
従って、光検出手段37の光量で光軸に垂直な方向のずれを測定し、それに加えてオートフォーカス装置を用いて光軸方向のずれを測定すれば、光軸方向に対しても高い精度で位置変換データを得ることができる。
【0163】
このように、オートフォーカス装置により光軸方向のずれに対しても測定精度が向上し、焦点位置をより正確にプローブ位置に一致させることができるため、測定精度を向上できる。また、全方位に対し、高い精度で位置変換データを得ることができる。
【0164】
前述したように、プローブのたわみに伴ってプローブと被測定物の間に作用する力が一定になるように、Z微動軸にフィードバックする、いわゆるゼロ位法による測定を行う場合、被測定物表面の凸凹に応じてプローブも上下する。この上下動によって光てこ光学系の焦点位置も光軸方向にずれることになるが、本実施例によれば、光軸方向に対しても高い精度で位置変換データを得ることができるため、光軸方向のずれを高精度に補正することが可能である。特に粗面を測定する場合、プローブのZ微動軸の変位が大きくなるのでこの技術の重要度が高い。
【実施例3】
【0165】
図14は実施例3を示す。本実施例は、実施例1に対して、プローブ22からの反射光の光路にガルバノミラー71、72を組み込んだところが異なる。その他の構成については実施例1と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0166】
ガルバノミラーは電磁力などを利用して高速に鏡の角度を制御することができる光偏向装置として広く用いられている。1つの回転角度を制御できるガルバノミラーを2つ組み合わせて光の向きを2方向に制御することも可能である。また、トーションバーを用いたプレーナー型のガルバノミラーを光学系の中に配置することにより、焦点位置を高速に移動させることができる。
【0167】
ハウジング6に固定して半導体レーザーなどの光源23を設け、出射する光を光ファイバ24に導く。光ファイバ出射端25、つまり点光源を、ハウジング6に固定し、やはりハウジング6に固定したレンズ33で収束光線を得る。そして、2つのガルバノミラー71、72をハウジング6に固定して設け、収束光線を2つのガルバノミラー71、72で反射させると、この光線の向きを変更することが可能になる。
【0168】
ここで、ガルバノミラーとは、電磁力などを利用して小型軽量ミラーの角度を制御する装置であり、例えばサーボモータの回転軸にミラーを固定した構造を持った装置である。小型ミラーと高出力モータを採用することにより、高速に光線の向きを変化させることが可能である。
【0169】
ガルバノミラーの角度を調整することにより、光線の向きが変わるので、焦点位置を変化させることが可能となる。ガルバノミラーを用いているので、実施例1に比べてさらに高速な焦点位置のスキャンが可能になる。従って、測定時間が短い原子間力顕微鏡を実現することができる。
【0170】
本実施例では、鏡を回転型のサーボモータで構成するガルバノミラーを用いたが、シリコンウエハを加工して製作されるトーションバーを応用したガルバノミラーでもよい。
【0171】
また、本実施例では鏡をレンズ33と偏光ビームスプリッタ34の間に配置したが、光路中ならどこに入れてもよい。例えば、プリズム36とプローブ22の間に入れても、焦点位置を変更する作用については同様である。
【実施例4】
【0172】
図15は実施例4を示す。本実施例は、実施例1に対して、第2のスキャナ26の先端にレンズ33を固定している点が異なる。その他の構成については実施例1と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0173】
ハウジング6に固定して光ファイバ出射端25を設け、光ファイバ出射端25に上端を固定して第2のスキャナ26を設け、第2のスキャナ26の下端にレンズ33を固定して設ける。
【0174】
この構成において、第2のスキャナ26の動作により、レンズ33のX、Y、Z位置を動かすことができる。レンズ33を光軸に垂直な方向に動かすと、焦点位置も光軸に垂直な方向に動く。また、レンズ33を光軸方向に動かすと焦点位置も光軸方向に動く。従って、焦点位置のX、Y、Z位置を第2のスキャナ26で制御することができる。
【実施例5】
【0175】
図16は実施例5を示す。本実施例は、実施例1に対して第2のスキャナ26の先端に光ファイバ出射端25とレンズ33とを固定している点が異なる。その他の構成については実施例1と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0176】
ハウジング6に下端を固定して第2のスキャナ26を設け、第2のスキャナ26の上端に鏡筒部材63を固定し、鏡筒部材63に光ファイバ出射端25およびレンズ33を固定して設ける。
【0177】
この構成において、第2のスキャナ26の動作により、光ファイバ出射端25の点光源とレンズ33のX、Y、Z位置を同時に動かすことができる。その結果、焦点のX、Y、Z位置を第2のスキャナ26で制御することが可能となる。
【実施例6】
【0178】
図17ないし図23は実施例6を示す。本実施例は、実施例1のプローブ22の代わりに、複数のプローブ22a〜22cを有するプローブ集合体を用いる。なお、3本のプローブ22a〜22cを用いて説明するが、プローブの本数に制限はない。
【0179】
3本のプローブ22a、22b、22cは微小な力を測定するために数μm以下、幅も数十μm以下といった非常に薄く、幅の狭い梁状構造であり、通常はリソグラフィ技術を用いて一体構造のプローブ集合体として製作される。
【0180】
スキャナ制御装置48は高速演算可能なコンピュータと各スキャナ10、26を動作させるドライバアンプで構成されており、複数の制御プログラムをマルチタスクで動作することができる。
【0181】
その他の構成については実施例1と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0182】
図18に複数のプローブ22a〜22cを有するプローブ集合体を示す。前述したように、3本のプローブで説明を進めるが、プローブ本数に制限はない。
【0183】
第1のスキャナ10で動くプローブ集合体とは独立に、焦点位置移動手段である第2のスキャナ26によって光てこ光学系の焦点位置を所望の位置に動かすことができる。そこで、3個のプローブ22a〜22cに対応して、3つの状態を順番に繰り返すタイミング信号を発生させ、そのタイミング信号で焦点位置を制御することによって、次々と、プローブ22a、22b、22cのそれぞれの最適位置42a、42b、42cに焦点をあてる。
【0184】
このとき、各プローブ22a〜22cから反射した光は光検出手段37に入射し、ひとつの出力信号となってしまう。そこで、上記のタイミング信号に同期して、光検出手段37の出力信号をサンプルするサンプルホールド装置を用いて、各プローブ22a〜22cに対応した出力信号に分割する。
【0185】
タイミング信号の切り替え速度が十分速ければ、あたかも複数のプローブに対応した複数の光源、複数の光学系、複数の光検出手段があるのと同じことになる。つまり、それぞれのプローブのたわみを測定でき、多点の同時測定、マルチプロービングが可能になる。
【0186】
第1のスキャナ10で動くプローブ集合体とは独立に、第2のスキャナ26で光てこ光学系の焦点位置を移動させることで、図18に示す各プローブ22a〜22cの最適位置42a、42b、42cに焦点を合わせることができる。
【0187】
図19は3本のプローブ22a〜22cを上から見た図である。焦点40を第2のスキャナ26によってつづれ折状の走査軌跡に沿って走査すると、光検出手段37に入射する光量はいずれか1本のプローブの最適位置に焦点40が一致したときに大きくなる。そこで、横軸を第2スキャナ26の位置、縦軸を光量信号とする光量マップを測定する。
【0188】
図20にマルチプロービングを実現する制御ブロックを示す。この制御はスキャナ制御装置48によって実現できる。タイミング発生装置65は、時間のずれた2つのタイミング信号を発生する。一方はマルチプレクサ用タイミング信号66、他方はサンプル用タイミング信号67である。
【0189】
図21のタイムチャートも参照してさらに説明する。マルチプレクサ用タイミング信号66は3本のプローブ22a〜22cに対応して3つの状態を周期的に繰り返す信号であり、マルチプレクサ装置68に接続する。マルチプレクサ装置68は3つの入力信号のうち1つを選択して出力するもので、どの入力信号を選択するかはマルチプレクダ用タイミング信号66で制御できる。
【0190】
マルチプレクサ装置68の入力には3つの位置変換データ52a、52b、52cを接続し、出力した1つを位置変換器55に接続する。3つの位置変換データ52a、52b、52cはそれぞれプローブ22a、22b、22cの最適位置42a、42b、42cに対応したものである。
【0191】
ここで、最適位置42a、42b、42cおよび、その位置に対応する位置変換データ52a、52b、52cは、後述するようにあらかじめ測定して求めておく。
【0192】
位置変換器55を第2スキャナ用ドライバアンプ56に接続し、さらに第2のスキャナ26に接続する。すると、マルチプレクサ用タイミング信号66で順次選択した最適位置42a、42b、42cへ第2のスキャナ26によって焦点40が移動する。
【0193】
第1のスキャナ10でプローブ集合体が動いても、第2のスキャナ26が同期して動き、選択したプローブの最適位置に焦点40を追従させることができる。その結果、タイムチャートに示すように、それぞれのプローブ22a〜22cに焦点があたった時に光量信号46、および光位置信号47が出力される。
【0194】
一方、サンプル用タイミング信号67は、微小な待ち時間δだけ、マルチプレクサ用タイミング信号66から遅れた信号であり、2つのサンプルホールド装置69a、69bに接続する。
【0195】
各サンプルホールド装置69a、69bは、入力信号を3つに分割してサンプリングし、次のサンプリングまで保持して出力する、いわゆるサンプルアンドホールド動作を行うもので、その動作タイミングをサンプル用タイミング信号67で制御できる。
【0196】
ここで、待ち時間δは、マルチプレクサ用タイミング信号66に対応して、第2のスキャナ26が動き、プローブで反射した光が光検出手段37に入射して光量信号46と、光位置信号47が出力されるまでの時間遅れに対応するものである。図21のタイムチャートに示したように、光位置信号47がマルチプレクサ用タイミング信号66のタイミングで変化し始め、待ち時間δが経過して信号が安定した時に、サンプル用タイミング信号67によってサンプルアンドホールド動作を行っている。
【0197】
タイミング発生装置65の切り替え速度が十分速ければ、あたかも複数のプローブ22a〜22cに対応した複数の光源、複数の光学系、複数の光検出手段があるのと同じことになる。つまり、本実施例によれば、複数のプローブ22a〜22cのそれぞれのたわみを測定でき、多点の同時測定、すなわちマルチプロービングが可能になる。
【0198】
サンプルホールド装置69aの入力には、光検出手段37の光位置信号47を接続し、3つのプローブ22a、22b、22cに対応した光位置信号47a、47b、47cに分割する。
【0199】
サンプルホールド装置69bの入力には、光検出手段37の光量信号46を接続し、3つのプローブ22a、22b、22cに対応した光量信号46a、46b、46cに分割する。
【0200】
次にプローブのたわみをフィードバックする制御系について説明する。前述したように、プローブのたわみは、被測定物1とプローブ間に作用する力、いわゆる原子間力によって引き起こされるので、光検出手段37の光位置信号47は原子間力を表す。あらかじめ目標の原子間力を定め、その原子間力に対応する光位置目標値49を定めておく。そして3本に分割した光位置信号の一本を選択する。本実施例では3本のプローブ22a〜22cのうち、中央のプローブ22bに対応した光位置信号47bを選択して、説明を続ける。他のプローブを選択しても同じことである。
【0201】
次に選択した光位置信号47bから光位置目標値49を差し引き、Z微動軸用補償器50、Z微動軸用ドライバアンプ51からなる制御系を通してZ微動軸18にフィードバックする。Z微動軸用補償器50はフィードバック制御系を安定に保つために必要なもので、例えばPID制御則といったものが知られている。
【0202】
このように、一つの信号を選択すれば、プローブが一本のときと同じである。
【0203】
このフィードバック制御系によって、光位置信号47の変化を打ち消すように第1のスキャナ10のZ微動軸18を動作させる。光位置信号47bは原子間力を表しており、Z微動軸18はプローブ22bと被測定物1の相対距離を変化させるものであった。つまり、このフィードバック制御を行うことによって原子間力が一定となる高さ情報の測定が可能になる。これはゼロ位法による測定である。
【0204】
このゼロ位法の制御によって、第1のスキャナ10のZ軸は被測定物1のでこぼこに従って上下方向に移動する。この上下の動きが大きいと、プローブが光てこの光軸方向に大きく動くことになる。その結果、プローブ上で焦点を結ばなくなるので、従来技術では大きな課題となっていたが、本実施例によれば、焦点の光軸方向の位置を第1のスキャナ10のZ軸の変位に従って調節することができるので、この課題も解決できる。
【0205】
また、被測定物1の測定範囲全面を走査するXYスキャン目標位置53を発生させ、XYスキャナ用ドライバアンプ54を介してXYスキャナ7を駆動する。
【0206】
3本のプローブ22a、22b、22cに対応した位置変換データ52a、52b、52cはあらかじめ準備しておく。このデータは、XYスキャナ7および、Z微動軸18からなる第1のスキャナ10のX、Y、Z位置に対応する第2のスキャナ26の位置の関係であり、その位置関係を保てば、光てこ光学系の焦点位置がプローブ位置と一致するものである。この位置変換データ52a、52b、52cの作成方法については後述する。
【0207】
マルチプレクサ68を用いて、タイミング信号66に同期して、3つの位置変換データ52a、52b、52cのうちの一つを選択する。選択した位置変換データ52bと、第1のスキャナ10の位置、すなわち補償器50の出力とXYスキャン目標位置53を位置変換器55に接続し、その出力を第2スキャナ用ドライバアンプ56に接続し、第2のスキャナ26を駆動する。
【0208】
位置変換データ52bおよび位置変換器55の動作については、マルチプレクサ68で一本のプローブを選択した後は、実施例1と同じであるから説明は省略する。
【0209】
図22に本実施例による原子間力顕微鏡の位置変換データ52a〜52cを求めるフローを示す。
【0210】
ステップ110で位置変換データ52a〜52cをそれぞれ初期化する。位置変換データ52a〜52cに異常な値がセットされていると第2のスキャナ26がまったく動かないといった事態も考えられるので、まず初期化しておく。初期値として実施例1と同様に、(2)式で示す簡単なモデルが使用できる。この段階では位置変換データ52a〜52cが正確である必要はないので、(2)式の机上検討結果で十分である。
【0211】
ステップ111でZ粗動ステージ5を上方に逃がし、プローブ集合体を被測定物1から離す。ステップ112で第1のスキャナ10の位置を測定領域から選択する。測定領域を有限個の格子点に分割し、それぞれの格子点を順番に選択し、第1のスキャナ10を選択した格子点の位置に移動する。
【0212】
ステップ113で第2のスキャナ26を用いて光学系を走査し、光量信号46a〜46cのマップを測定する。
【0213】
ステップ114で光量が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。
【0214】
光量マップ全体が光量不足の場合、光てこ光学系のアライメントが非常に大きくずれているか、プローブ集合体が外れているといった故障が考えられるので、エラー停止する。
【0215】
ステップ115で光量マップから焦点をあてる最適位置を決定する。
【0216】
光量マップからプローブ22a〜22cの位置および形を読みとることができるので、図19に示すようにプローブ22a〜22cの反射面で焦点40をあてる最適位置42a〜42cを求めることができる。
【0217】
ステップ116で、測定領域全領域を網羅してなければ、第1のスキャナ10を次の位置に移動し、ステップ112に戻る。
【0218】
このループにより、測定領域を網羅する有限個の格子点において、最適な焦点位置を実現するための、第1のスキャナ位置に対応する第2のスキャナ位置が求まった。これは(2)式の入力と出力、つまりX位置とY位置のペアの集合である。
【0219】
ステップ117で、位置変換データ52a〜52cを計算する。すなわち、(2)式の入出力のペアの集合を使い、最小2乗法によって係数を計算する。(2)式は多項式のモデルであり、もし、残差が大きい場合には多項式の次数を上げれば精度を向上できる。こうして得られた係数が位置変換データ52a〜52cである。
【0220】
図23は原子間力顕微鏡の全体の測定動作のフローを示す。まず、ステップ210でZ粗動ステージ5を上方に逃がし、被測定物1をXY粗動ステージ2にセットする。ステップ211で光検出手段37の光量信号46が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。例えば光量が不足している場合は、光てこ光学系のアライメントがずれているか、プローブ集合体が外れているといった初期設定ミスが考えられるので、エラー停止する。また、光てこ光学系のアライメントずれの場合には前述した手順に従って、位置変換データ52a、52b、52cを再設定すれば再び測定可能になる。
【0221】
ステップ212で光検出手段37の光位置信号47が正常範囲にあることを確認する。異常の場合はエラー停止する。光位置信号47は、光てこの作用によって拡大されたプローブ22a、22b、22cのたわみを表している。この信号が、あらかじめ定めておいた閾値よりも異常に大きい場合はプローブ22a、22b、22cがもともと大きくゆがんでいることが考えられるのでエラー停止する。
【0222】
ステップ213で光検出手段37の光位置信号47にオフセットを設定し、出力をゼロにする。プローブ集合体と被測定物1とが離れている状態で、光位置信号47のオフセットをとる。光てこ光学系の微小なアライメント誤差や、電気系のオフセット誤差をキャンセルするために行う。ステップ214で光位置信号47が、あらかじめ設定した値になるまで、Z粗動ステージ5を移動する。光位置信号47は、光てこの作用によって拡大されたプローブ22a、22b、22cのたわみ、すなわち、プローブ22a、22b、22cと被測定物1の間に作用する力の大きさを表している。この力が、あらかじめ設定した値になるまでZ粗動ステージ5を上げ下げする。その結果、プローブ22は被測定物1に非常に接近し、原子間力の影響が現れる。
【0223】
ステップ215で光位置信号47の出力が一定になるように、Z微動軸18にフィードバック制御をかける。
【0224】
前述したように、このフィードバック制御により、ゼロ位法による測定が可能になる。この制御がかかると、プローブ22a、22b、22cと被測定物1に作用する力が一定になり、Z粗動ステージ5は被測定物1の凹凸に応じて上下することになる。
【0225】
ステップ216で測定範囲において、第1のスキャナ10を走査する。測定範囲に対して、プローブ集合体を走査し、測定範囲全体の光位置信号47、Z微動軸18の位置を記録する。このとき、図20の制御ブロック図で説明したように、位置変換データ52a、52b、52cを用い、第1のスキャナ10の位置、すなわち、Z微動軸18およびXYスキャナ7の位置に対応して第2のスキャナ26の位置を制御する。この制御により、光てこ光学系の焦点40が常にプローブ22a、22b、22c上に追従する。また、タイミング信号66によって位置変換データ52a、52b、52cが切り替わるため、順次各プローブに焦点を移動させることができる。
【0226】
ステップ217で測定結果を計算し、表示、保存する。ここで、測定結果とは、横軸に、第1のスキャナ10のXY位置をとり、縦軸にZ微動軸18の位置をとったものである。
【0227】
前述したように、光位置信号47は、プローブ22a、22b、22cと被測定物1の間に作用する力、いわゆる原子間力を表しており、これが一定になるようにZ微動軸18にフィードバック制御をかけた。従ってさきほどの測定結果とは、原子間力が一定になる被測定物1の凹凸マップを表している。
【0228】
また、フィードバック制御では、たとえわずかであっても制御偏差が発生する。この制御偏差があっても、光位置信号47の出力をZ方向の変位に換算した値を測定値に加えることによって補正することができる。このときの換算率とは被測定物1の移動量と光位置信号47の移動量の割合である。この割合はXY位置を変えずに、プローブ22a、22b、22cを徐々に被測定物1に押し込むことによって測定できる。また、原子間力の計算モデルを用いて計算することもできる。
【0229】
ステップ218でZ粗動ステージ5を上方に退避し、被測定物1をXY粗動ステージ2からはずす。
【0230】
本実施例によれば、第2のスキャナ26により、第1のスキャナ20の位置に応じて焦点位置を調節することにより、各プローブ22a、22b、22cの焦点を合わせることができる。また、焦点位置を3次元的に調節することができるため、光軸方向のずれにも対応可能である。
【0231】
第2のスキャ26を用いて光検出手段37の光量をモニタすることにより、最適な焦点位置の検出が可能であり、最適な焦点位置の表を作成し、それを用いて第1のスキャナ10の位置に対応して第2のスキャナ26の位置を制御する。これによって、常に焦点位置を各プローブの最適位置に保持することが可能となる。
【0232】
各プローブ交換時のアライメント調整についても、本実施例によれば焦点位置の検出や焦点位置の調整に人の動作や判断などが必要なく、自動でできるため簡便に対応できる。
【0233】
なお、図18において、矢印Aの方向にプローブ集合体を走査すれば、3本のプローブ22a〜22cで3箇所を同時に測定することになるので測定時間が3分の1ですむ。さらに多点を同時に測定すればそれだけ測定時間を短縮することが可能である。また、矢印Bの方向にプローブ集合体を走査すれば、同じ直線上で3箇所を同時に測定した結果が得られる。この測定結果に「3点法」と呼ぶ技術を適用することにより、走査するときに発生する運動誤差をキャンセルし、測定精度を向上することができる。
【0234】
前述のように第1のスキャナ10とは独立して、第2のスキャナ26で光てこ光学系の焦点を所望の位置に動かして、次々と3つのプローブ22a、22b、22cに焦点をあてることが可能である。そして、その時の光検出手段37の出力信号と第1のスキャナ10の位置から、それぞれのプローブ22a、22b、22cに対応した測定値を計算することにより、多点の同時測定、つまりマルチプロービングが可能になる。
【0235】
次に、マルチプロービングの効果について詳しく説明する。
【0236】
図18において、矢印Aの方向にプローブ集合体を走査すれば、異なる3箇所を同時に測定することになるので測定時間が3分の1ですむ。また、矢印Bの方向にプローブ集合体を走査すれば、同じ直線上で3箇所を同時に測定した結果が得られる。この測定結果に「3点法」と呼ぶ技術を適用することにより、走査するときに発生する運動誤差をキャンセルすることができる。ここで、簡単に「3点法」を説明する。
【0237】
測定方向の位置をxとし、3つの測定結果をz1 (x)、z2 (x)、z3 (x)、3つのプローブの間隔をδとし、2階微分を表す次の差分式g(x)を計算する。
【0238】
【数3】

上式はプローブ集合体の運動誤差の影響をキャンセルしている。例えば上下の運動誤差があると、3つの測定結果、z1 (x)、z2 (x)、z3 (x)に同じオフセットが加わるが、上式からg(x)は影響されないことがわかる。
【0239】
そして、上式を2回積分すれば形状が得られる。こうして計算した測定結果はプローブ集合体の運動誤差をキャンセルしている。
【0240】
本実施例によれば、実施例1による効果に加えて、次の課題についても解決できる。
【0241】
従来技術ではマルチプロービングへの対応が困難であったが、第2のスキャナを用いて、焦点を高速に移動させることよって、複数のプローブそれぞれのたわみを測定でき、多点の同時測定、すなわちマルチプロービングが可能になる。さらに、マルチプロービングにより、多点同時計測が可能になるので測定時間を短縮できる。また、マルチプロービングにより、「3点法」を使用することで測定精度を向上できる。
【0242】
なお、図21に示したタイミング信号66は、3つのプローブを単純に繰り返して選択するものであったが、選択の順番を変えても同じである。例えばa、b、c、b、aと繰り返せば、中央のプローブについては周辺のプローブに対して2倍のサンプリング周波数を得ることができる。
【実施例7】
【0243】
図24は実施例7を示す。本実施例は、実施例6の装置の光学系にオートフォーカス装置を組み込んだものであり、その他の構成については実施例6と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0244】
オートフォーカス装置は、ハウジング6に固定して、ハーフミラー58、レンズ59、シリンドリカルレンズ61、4分割フォトダイオード62を配設する。
【0245】
プローブ22a、22b、22cのうちの一つで反射した光は焦点がプローブ反射面上にあることから、拡散していく光である。その光は偏光ビームスプリッタ34で反射し、ハーフミラー58に入射する。その透過光は光検出手段37に入射し、反射光はレンズ59で収束する光に変換され、シリンドリカルレンズ61を通過し、4分割フォトダイオード62に入射する。
【0246】
この非点収差を利用したオートフォーカス装置は、プローブの反射面で反射した光の光路にハーフミラーを設け、ハーフミラーで分岐した光を、オートフォーカス装置に導き、光量マップに加えてオートフォーカス装置の出力を用いてプローブの位置を計算する。
【0247】
光軸方向についてもプローブから反射した光は拡散するため、光検出手段に入射する光量が減少するので、光軸に垂直方向と同様、光量をみながら最適な位置を探索できる。しかし、光てこ光学系の開口数は小さいため、光軸方向のずれには鈍感、つまり焦点深度が長い。従って光検出手段の光量で検出できる光軸方向のずれは感度が低い。
【0248】
そこで、プローブで反射した光をハーフミラーで分岐させ、オートフォーカス装置で光軸方向のずれを検出する。オートフォーカス装置はいくつか種類があり、いずれもよく知られた技術であるが、前述のように、非点収差を利用した方法は広く応用されている。
【0249】
オートフォーカス装置を用いることにより、光軸方向のずれに対しても測定精度が向上し、焦点位置をより正確にプローブ位置に一致させることができるため、測定精度を向上できる。また、オートフォーカス装置を用いて光軸方向のずれを測定し、光検出手段の光量で光軸に垂直な方向のずれを測定すれば、全方位に対して高い精度で位置変換データを得ることができる。
【0250】
また、前述したように、プローブのたわみ、従ってプローブと被測定物の間に作用する力が一定になるように、Z微動軸にフィードバックする、いわゆるゼロ位法による測定を行う場合、被測定物表面の凸凹に応じてZ微動軸、そしてプローブも上下する。この上下動によって光てこ光学系の焦点位置も光軸方向にずれることになるが、本実施例によれば、光軸方向に対しても高い精度で位置変換データを得ることができるため、光軸方向のずれを高精度に補正することが可能である。特に粗面を測定する場合、Z微動軸の変位が大きくなるのでこの技術の重要度が高い。
【実施例8】
【0251】
図35は実施例8を示す。本実施例は、実施例6に対して、プローブ22a、22b、22cのうちの一つからの反射光の光路にガルバノミラー71、72を組み込んだところが異なる。その他の構成については実施例6と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。
【0252】
ガルバノミラーは電磁力などを利用して高速に鏡の角度を制御することができる光偏向装置として広く用いられている。1つの回転角度を制御できるガルバノミラーを2つ組み合わせて光の向きを2方向に制御することも可能である。また、トーションバーを用いたプレーナー型のガルバノミラーを光学系の中に配置することにより、焦点位置を高速に移動させることができる。
【0253】
ハウジング6に固定して半導体レーザーなどの光源23を設け、出射する光を光ファイバ24に導く。光ファイバ出射端25、つまり点光源を、ハウジング6に固定し、やはりハウジング6に固定したレンズ33で収束光線を得る。2つのガルバノミラー71、72をハウジング6に固定して設け、収束光線を2つのガルバノミラー71、72で反射させると、この光線の向きを変更することが可能になる。
【0254】
ここで、ガルバノミラーとは、電磁力などを利用して小型軽量ミラーの角度を制御する装置であり、例えばサーボモータの回転軸にミラーを固定した構造を持った装置である。小型ミラーと高出力モータを採用することにより、高速に光線の向きを変化させることが可能である。
【0255】
ガルバノミラーの角度を調整することにより、光線の向きが変わるので、焦点位置を変化させることが可能となる。ガルバノミラーを用いているので、さらに高速な焦点位置のスキャンが可能になる。
【0256】
従って、測定時間が短い原子間力顕微鏡を構成することができる。
【0257】
また、本実施例では鏡を回転型のサーボモータで構成するガルバノミラーを用いたが、シリコンウエハを加工して製作されるトーションバーを応用したガルバノミラーを用いてもよい。
【0258】
また、本実施例では鏡をレンズ33と偏光ビームスプリッタ34の間に配置したが、光路中ならどこに入れてもよい。例えばプリズム36とプローブ集合体の間に入れても、焦点位置を変更する作用については同様である。
【図面の簡単な説明】
【0259】
【図1】実施例1を示す模式図である。
【図2】図1の装置の第2のスキャナの作用を説明する図である。
【図3】図1の装置の第1のスキャナの構成を示す平面図である。
【図4】図1の装置の第2のスキャナを示す斜視図である。
【図5】図1の装置のスキャナ制御装置の構成を説明するブロック図である。
【図6】図1の装置のプローブを説明する図である。
【図7】図1の装置の光学系の焦点とプローブの反射面を説明する図である。
【図8】図1の装置の位置変換データを得るための光量マップを示す図である。
【図9】図1の装置の位置変換データを求める工程を示すフローチャートである。
【図10】図1の装置の測定動作を示すフローチャートである。
【図11】実施例2を示す模式図である。
【図12】図11の装置のオートフォーカス装置を説明する図である。
【図13】図11の装置のオートフォーカス作用を説明する図である。
【図14】実施例3を示す模式図である。
【図15】実施例4を示す模式図である。
【図16】実施例5を示す模式図である。
【図17】実施例6を示す模式図である。
【図18】図17の装置のプローブ集合体を示す斜視図である。
【図19】図17の装置の光学系の焦点とプローブ集合体の関係を説明する図である。
【図20】図17の装置のスキャナ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図21】図17の装置のマルチプロービングにおけるタイムチャートを示す図である。
【図22】図17の装置の位置変換データを求める工程を示すフローチャートである。
【図23】図17の装置の測定動作を示すフローチャートである。
【図24】実施例7を示す模式図である。
【図25】実施例8を示す模式図である。
【図26】一従来例を示す模式図である。
【図27】別の従来例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0260】
1 被測定物
2 XY粗動ステージ
3 ベース
4 除振台
5 Z粗動ステージ
6 ハウジング
7 XYスキャナ
10 第1のスキャナ
18 Z微動軸
22、22a、22b、22c プローブ
23 光源
24 光ファイバ
25 光ファイバ出射端
26 第2のスキャナ
33 レンズ
34 偏光ビームスプリッタ
35 4分の1波長板
36 プリズム
37 光検出手段
48 スキャナ制御装置
61 シリンドリカルレンズ
62 4分割フォトダイオード
71、72 ガルバノミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面を有するプローブと、光源からの計測光を前記プローブの前記反射面に集光させるための光学系と、前記光学系を保持するハウジングと、前記ハウジングに保持され、前記プローブをX、Y、Z方向に駆動するためのプローブスキャナと、前記プローブの前記反射面で反射した前記計測光を検出する光検出手段と、前記光学系の焦点位置を移動させるための焦点位置移動手段と、前記焦点位置移動手段を前記プローブスキャナと同期的に制御する制御手段と、を有し、前記焦点位置移動手段によって前記光学系の前記焦点位置を移動させながら、前記光検出手段の出力に基づいて前記プローブスキャナを駆動し、前記プローブの変位を計測することを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項2】
前記制御手段は、前記プローブスキャナによる前記プローブの位置を前記焦点位置へ変換するための位置変換データを記憶する記憶部を有し、前記位置変換データを用いて前記焦点位置移動手段による前記焦点位置の移動量を制御することを特徴とする請求項1記載の原子間力顕微鏡。
【請求項3】
前記位置変換データは、前記プローブを固定し、前記焦点位置移動手段によって前記焦点位置を移動させて前記光検出手段の出力マップを作成する工程を、前記プローブスキャナによって前記プローブの位置を変えて繰り返し行うことによって作成されることを特徴とする請求項2記載の原子間力顕微鏡。
【請求項4】
前記位置変換データは、前記焦点位置を固定して前記プローブスキャナを走査し、前記プローブを移動させて前記光検出手段の出力マップを作成する工程を、前記焦点位置移動手段によって前記焦点位置を変えて繰り返し行うことによって作成されることを特徴とする請求項2記載の原子間力顕微鏡。
【請求項5】
それぞれ反射面を有する複数のプローブからなるプローブ集合体と、光源からの計測光を前記複数のプローブのうちの1つの前記反射面に集光させるための光学系と、前記光学系を保持するハウジングと、前記ハウジングに保持され、前記プローブ集合体をX、Y、Z方向に駆動するためのプローブスキャナと、前記反射面で反射した前記計測光を受光する光検出手段と、前記光学系の焦点位置を移動させるための焦点位置移動手段と、前記焦点位置移動手段を前記プローブスキャナと同期的に制御する制御手段と、を有し、前記焦点位置移動手段によって前記光学系の前記焦点位置を前記複数のプローブ間で逐次移動させながら、前記光検出手段の出力に基づいて前記プローブスキャナを駆動し、各プローブの変位を計測することを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項6】
前記制御手段は、前記プローブスキャナによる前記複数のプローブの位置を前記焦点位置へそれぞれ変換する複数の位置変換データを記憶する記憶部と、前記複数のプローブにそれぞれ対応するタイミング信号を発生するタイミング装置と、前記タイミング信号に基づいて前記複数の位置変換データのうちの1つを選択する選択手段と、を有し、選択された位置変換データを用いて前記焦点位置移動手段による前記焦点位置の移動量を制御することを特徴とする請求項5記載の原子間力顕微鏡。
【請求項7】
前記位置変換データは、各プローブごとに、前記プローブ集合体を固定して前記焦点位置移動手段を走査し、前記焦点位置を移動させて前記光検出手段の出力マップを作成する工程を、前記プローブスキャナによって前記プローブ集合体の位置を変えて繰り返し行うことによって作成されることを特徴とする請求項6記載の原子間力顕微鏡。
【請求項8】
前記位置変換データは、各プローブごとに、前記焦点位置を固定して前記プローブスキャナを走査し、前記プローブ集合体を移動させて前記光検出手段の出力マップを作成する工程を、前記焦点位置移動手段によって前記焦点位置を変えて繰り返し行うことによって作成されることを特徴とする請求項6記載の原子間力顕微鏡。
【請求項9】
前記プローブの前記反射面で反射した光の光路にハーフミラーを設け、前記ハーフミラーで分岐した光を、オートフォーカス装置に導く第2の光学系を有することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の原子間力顕微鏡。
【請求項10】
前記焦点位置移動手段は、前記光源または前記光学系の光学部品またはその双方を移動させることで前記焦点位置を少なくともXY方向に移動させることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載の原子間力顕微鏡。
【請求項11】
前記焦点位置移動手段は、前記光学系に設けたガルバノミラーであることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の原子間力顕微鏡。
【請求項12】
前記光検出手段の出力を導入するロックインアンプを有し、前記ロックインアンプの同期周波数は、前記プローブスキャナが動作する周波数の10倍以上であることを特徴とする請求項1ないし11いずれか1項記載の原子間力顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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