説明

原形質膜小胞、その製作方法及びその使用方法

本発明は、原形質膜小胞、その製作方法、及び原形質膜小胞の使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願>
この出願は、2008年4月21日に出願された米国仮出願61/046,479の利益を主張し、その全ての内容は、参照して本明細書に明示的に組込まれる。
【背景技術】
【0002】
<本発明の背景技術>
生体膜("Biomembranes"又は"biological membranes")は、その周囲環境から細胞を分離する壁(つまり原形質膜: plasma membrane)であり、例えば細胞小器官(例えば、ゴルジ複合体、小胞体及び例えばミトコンドリア)及び核などの細胞の内部に内部構造を構築する壁である。この壁構造の機能は、細胞のために、物質の流入及び流出を調節及び制御すること、細胞内部にある物質をパッケージして異なる細胞小器官の間で輸送すること、ある試薬又はシグナル伝達物質のための特定の輸送ハイウェイを提供すること、そしてもちろん、細胞容積(cellular volume)の内部でのコンパートメントの形成による封じ込め(containment)を提供することを含む(Lehningerら、1993年)。
【0003】
原形質膜のタンパク質が、既知の薬剤ターゲット(例えば、イオンチャネル、及びGタンパク質共役受容体)の全体の〜70%を占めるので、プロテオーム解析(proteomic analysis)及びリピドミック解析(lipidomic analysis)による効率的な原形質膜の解析は、その機能を解明するために、及び薬剤開発の新しいターゲットを見つけるために、非常に重要である。膜プロテオーム(membrane proteome)を解析する方法は絶えず開発中で、新しいプロトコルが定期的に現れており、そして、最近の傾向では、膜脂質成分とそれらの機能への関心が高まっている。
【0004】
膜のプロテオーム解析及びリピドミック解析の困難さは、主として、脂質及び膜タンパク質が、原形質膜の中だけでなく、細胞内コンパートメントの中にも分布していることによって生じる。同定されたタンパク質及び脂質を元の場所に割り当てるために、膜の細胞内位置は区別できなければならない。これを達成するためには、典型的には、細胞溶解(cell lysis)した後に、分画遠心法及び/又は密度勾配遠心分離法を行って、細胞内小器官を分離する必要がある。この方法は、脂質:タンパク質の比率及び組成により主として決定された細胞小器官の固有の密度による分離に頼っている。細胞小器官をある程度まで濃縮することはできるが、異なる細胞小器官の膜が極めて近い密度を有することができるので、多くの場合、画分の間に組成の重複が存在する。よって、このようなプロトコルを用いると、物理法則により、異なる膜タンパク質源の完全な分離を否定される。もう1つの厄介な問題は、細胞内膜系が相互に接続しているという事実である。小胞(vesicle)、及び細管輸送(tubule traffic)は、分泌経路(secretory pathway)及びエンドサイトーシス経路(endocytic pathway)を通って物質を左右に動かし、再び、膜タンパク質及び脂質の分布の重複を導く。従って、多くの膜タンパク質は、例えばタンパク質相関プロファイリングによって観察されてきたように、複数の細胞部位に割り当てられる。プロテオミクスの研究のために原形質膜を分離するために様々な方法(例えば、アフィニティー濃縮(affinity enrichment))が開発されているが、それらの方法は汚染という共通の問題を有しており、他の細胞小器官が依然として同定された膜タンパク質の〜30%から〜40%を占める場合には、特有な(unique)原形質膜タンパク質の同定を妨げる。当然ながら、同様のことが原形質膜脂質の解析にも当てはまる。もし異なる細胞型の間、又は同じ細胞型内の等しい細胞小器官の間の生体膜組成を調べたなら、異なる脂質種の多様性と数は著しい(Schmidt及びMacKinnon、2008年)。生体膜中の脂質種の多様性は、膜の機能とある程度は共役(coupled)しており、例えば、いくつかのタンパク質は、ある脂質が存在下でのみ機能性を有する。また、多くのプロセスは、生体膜中の荷電脂質(charged lipids)(それ自体が、生体膜の表面で起こる反応を調節できる)を介した、タンパク質吸着の静電的制御を含んでいる。さらに生体膜の調べると、原形質膜の2つの単層間における様々な脂質種の非対称分布も推定することができる。例えば、ホスファチジルコリンは、主に原形質膜の外側の単層内に見いだされるが、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの両方の大多数は、内側の単層中で位置している(Langner及びKubica、1999年)。これは、ほぼ確実に、単層機能の二重性を反映しており、外側の単層は、多かれ少なかれ周囲環境に対する不活性バリアを提供し、その一方、内側表面は、例えば、ホスファチジルセリン成分から発生する正味電荷(net charge)によって起こる反応のためのサイトを提供する。
【0005】
従って、原形質膜内の膜タンパク質及び脂質に関する研究及びキャラクタリゼーションを容易にする方法及び組成物を見つける必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、少なくとも部分的には、発明者の発見した高純度の原形質膜小胞(plasma membrane vesicles)を製作する方法及びそれ使用する方法に基づいている。ある態様では、本発明は原形質膜小胞を製造する方法を提供するものであり、その方法は、細胞を小胞形成剤(vesiculation agent)に接触させる工程を含み、それにより原形質膜小胞を製造する。ある実施態様では、その方法は、細胞を機械的に撹拌する工程をさらに含む。
【0007】
ある実施態様では、細胞は接着細胞(adherent cells)である。別の実施態様では、細胞は浮遊状態(in suspension)にある。関連する実施態様では、細胞は哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)である。
【0008】
ある実施態様では、小胞形成剤は、スルフヒドリル基遮断剤(sulfhydryl blocking agent)、例えば、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、ピルビンアルデヒド(pyruvic aldehyde)、アセトアルデヒド(acetaldehyde)、グリオキサール(glyoxal)、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)、アクロレイン(acrolein)、メタクロレイン(methacrolein)、ピリドキサール(pyridoxal)、N-エチルマレイミド(N-ethyl malemide)(NEM)、マレイミド(malemide)、クロロマーキュリ安息香酸(chloromercuribenzoate)、ヨード酢酸(iodoacetate)、亜ヒ酸カリウム(potassium arsenite)、亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)、チメロサール(thimerosal)(マーシオレート:merthiolate)、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)、塩化カドミウム(cadmium chloride)、過酸化水素(hydrogen peroxide)、ヨードソ安息香酸(iodosobenzoic acid)、メラルリドナトリウム(meralluride sodium)(マーキュヒドリン: mercuhydrin)、塩化第二水銀(mercuric chloride)、塩化第一水銀(mercurous chloride)、クロルメロドリン(chlormerodrin)、(ネオヒドリン:neohydrin)、フェニルヒドラジン(phenylhydrazine)、亜テルル酸カリウム(potassium tellurite)、マロン酸ナトリウム(sodium malonate)、p-アルセノソ安息香酸(p-arsenosobenzoic acid)、5,5'-ジアミノ-2,2'ジメチルアルセノベンゼン(5,5'-diamino-2,2'-dimethyl arsenobenzene)、N,N'-ジメチレンスルホン酸二ナトリウム塩(N,N'-dimethylene sulfonate disodium salt)、ヨードアセトアミド(iodoacetamide)、オキソフェナルシン(oxophenarsine)(マファルセン: mapharsen)、塩化第二金(auric chloride)、p-クロロマーキュリ安息香酸(p-chloromercuribenzoic acid)、p-クロロマーキュリフェニルスルホン酸(p-chloromercuriphenylsulfonic acid)、塩化第二銅(cupric chloride)、ヨウ素メルブロミン(iodine merbromin)(マーキュロクロム: mercuro chrome)、ポルフィリンダイン(porphyrindine)、過マンガン酸カリウム(potassium permanganate)、マーサリル(mersalyl)(サリルガン:salyrgan)、硝酸銀(silver nitrate)、強プロテイン銀(strong silver protein)(プロタルゴール:protargol)、及び酢酸ウラニル(uranyl acetate)を含む。
【0009】
特定の実施態様では、小胞形成剤は、ジチオトレイトール(dithiothreitol:DTT)及びホルムアルデヒドを含む。
【0010】
代わりの実施態様では、小胞形成剤は、細胞毒素、例えば、サイトカラシンB(cytochalasin)又はメリチン(melittin)である。
【0011】
他の実施態様では、細胞は、振盪機又は超音波処理により機械的に攪拌される。
【0012】
他の実施態様では、この方法は、細胞を小胞形成剤に接触させる工程の前に、細胞を洗浄して培地を除去する工程をさらに含む。
【0013】
他の実施態様では、この方法は、例えば、濾過、密度勾配遠心分離法又は透析のいずれか1つ以上により、原形質膜小胞を精製する工程をさらに含む。
【0014】
他の実施態様では、本発明の方法は、高純度の原形質膜小胞の製作方法をさらに提供するものであり、その方法は、
原形質膜小胞を、アルキル化剤及び還元剤に接触させる工程と、
原形質膜小胞を、アルカリ溶液に接触させる工程と、
原形質膜小胞に超音波処理を用いて、小胞内汚染物質(intravesicular contaminants)を放出(release)させる工程と、
原形質膜小胞に超遠心分離法を用いて、原形質膜小胞を洗浄(clean)する工程と、
原形質膜小胞を緩衝液で洗浄する工程と、のいずれか1つ以上を含む。
【0015】
関連する実施態様では、アルキル化剤はヨードアセトアミドである。さらなる関連する実施態様では、アルカリ溶液は少なくともpH11である。さらなる実施態様では、アルカリ溶液はNaCO又はNaOHである。
【0016】
他の実施態様では、原形質膜小胞の直径は20μm以下、又は10μm以下である。
【0017】
いくつかの実施態様では、原形質膜小胞は、例えば、膜貫通型αヘリックス構造タンパク質、膜貫通型βバレル構造タンパク質、脂質アンカー型膜タンパク質、及び表在性膜タンパク質などの膜貫通型タンパク質を含む。
【0018】
典型的な実施態様では、膜貫通型タンパク質は、酵素、輸送体、受容体、チャネル、細胞接着タンパク質、Gタンパク質、GTPアーゼから成る群から選択される。
【0019】
他の実施態様では、原形質膜小胞は、脂質アンカー型タンパク質を含む。
【0020】
他の実施態様では、原形質膜小胞は、原形質膜小胞起源(the origin of the plasma membrane vesicles)の細胞型と関係する特定の組成の脂質を含む。
【0021】
別の態様では、本発明は、細胞の膜プロテオーム解析の方法を提供するものであり、その方法は、本明細書に記載した原形質膜小胞を、1つ又はいくつかのプロテアーゼに接触させる又はいくつかのプロテアーゼに順次(in series)接触させる工程と、プロテアーゼにより生成されたペプチドを分析する工程と、により行われ、それにより細胞の膜プロテオーム解析を行う。
【0022】
特定の実施態様では、プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、例えば、トリプシン又はキモトリプシンである。
【0023】
さらなる実施態様では、この方法は、タンパク質フラグメント(fragment:小片)を分離する工程をさらに含む。典型的な実施態様では、ペプチドフラグメントは、質量分析法(mass spectrometry)により分析される。
【0024】
別の態様では、本発明は、膜貫通型タンパク質のモジュレータ(調節因子:modulator)を同定する方法を提供するものであり、その方法は、対象となるタンパク質をコードする核酸分子により細胞を形質転換する工程と、本明細書に記載した方法により原形質膜小胞を製造する工程と、原形質膜小胞を候補モジュレータに接触させる工程と、候補モジュレータが膜貫通型タンパク質を調節できるかどうかを決定する工程と、により行われ、それにより膜貫通型タンパク質のモジュレータを同定する。関連する実施態様では、候補モジュレータが膜貫通型タンパク質を調整する能力は、レポーター遺伝子の活性を測定することにより決定される。
【0025】
別の態様では、本発明は、膜貫通型プロテオームに対する化合物の影響を決定する方法を提供するものであり、その方法は、細胞を化合物に接触させる工程と、本願明細書に記載した方法により原形質膜小胞を製造する工程と、原形質膜小胞中に存在するポリペプチドを分析する工程と、により行われ、それにより膜貫通型プロテオームに対する化合物の影響を決定する。典型的な実施態様では、化合物は、小分子、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、RNAi、shRNAあるいはmiRNAである。
【0026】
関連する実施態様では、この方法は原形質膜小胞をプロテアーゼに接触させる工程をさらに含む。別の実施態様では、この方法は、プロテアーゼで製造したペプチドを質量分析法により分析する工程をさらに含む。
【0027】
別の態様では、本発明は、本願明細書に記載した原形質膜小胞中のタンパク質を解析する方法を提供するものであり、その方法は、表面に原形質膜小胞を添付する工程と、原形質膜小胞を1つ以上のプロテアーゼに接触させる工程と、生成したペプチドを分析してタンパク質の同一性(identity)を決定する工程と、により行われる。
【0028】
ある実施態様では、表面は、マイクロ流体素子(micro fluidic device)の中にある。別の実施態様では、ペプチドは、質量分光法(mass spectroscopy)により分析される。
【0029】
別の態様では、本発明は、原形質膜の脂質成分を分析する方法を提供するものであり、その方法は、細胞を化合物に接触させる工程と、本願明細書に記載した方法により原形質膜小胞を製造する工程と、さらなる分析のために脂質成分を抽出する工程と、により行われる。
【0030】
関連する態様では、脂質成分の抽出は、脂質ターゲット成分に応じて多数の方法により行うことができる。
【0031】
別の態様では、本発明は、抽出された原形質膜脂質中の膜貫通型タンパク質を再構成するときの、脂質組成の影響を決定する方法を提供する。この態様では、細胞を、本願明細書に記載した方法により原形質膜小胞を製造する化合物に接触させ、脂質成分を、本願明細書に記述された方法により抽出し、そして最後に、膜タンパク質を、抽出された脂質の中で再構成する。関連する態様では、再構成とは、例えば洗剤などを用いて、膜タンパク質をそれらの生体膜から抽出して、脂質膜環境内にそれらを埋め込む(inserting)こと指す。
【0032】
別の実施態様では、本発明は、原形質膜を横切る輸送についての研究、取り込み(uptake)の研究、及び物質と原形質膜との膜相互作用の研究のための方法及び用途を提供する。関連する態様では、この物質は、これに限定されないが、ペプチド、タンパク質、糖、コレステロール、及び種々の形態のDNA及びRNAにすることができる。
【0033】
別の態様では、本発明は、単分散の原形質膜小胞の個体群(populations)を提供する。典型的な実施態様では、原形質膜小胞は、直径5μm〜25nm、直径50μm〜500μm、又は直径100μm〜200μmである。
【0034】
関連する実施態様では、個体群は、所定の膜タンパク質、例えば、膜貫通型タンパク質又は脂質アンカー型タンパク質が濃縮されたものである。関連する実施態様では、個体群は、免疫組織化学(immunohistochemistry)又はアフィニティー精製(affinity purification)により濃縮される。
【0035】
ある実施態様では、原形質膜小胞は、細胞小器官又は細胞骨格構造が存在しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)細胞培養がコンフルエントになるまで(to confluence)増殖した後に、(B)増殖培地を吸引により除去し、そして2回洗浄して、残った増殖培地の汚染物質を除去する。(C)細胞層に小胞形成溶液を加え、(D)細胞表面で原形質膜小胞を生成させ、インキュベーション中に溶液中へ出芽させる。フラスコを撹拌して、原形質膜小胞(PMV)の脱落を促進する。(E)原形質膜小胞溶液を細胞層から注意深く吸引して、コニカルチューブに移し、(F)粗原形質膜小胞溶液(crude plasma membrane vesicle solution)を得る。
【図2】(A〜B)採取された細胞含有の原形質膜小胞溶液の下に2Mのスクロース溶液を入れて、高密度相を提供する。(C)その溶液を、スイングアウトロータを用いて低速で遠心分離機にかける。遠心分離中に、離れている細胞と細胞デブリだけが高密度のスクロース相の中に沈殿し(pelleted)、その一方、原形質膜小胞は低密度の緩衝液相の中に残る。(D)上側相を含有する原形質膜小胞を注意深く吸引し、カットオフ値の大きい透析膜(大分画透析膜:large cutoff dialysis membrane)の中に移し、透析用のHEPES緩衝液の中に置く。(F)透析中に、小胞形成剤と低分子量タンパク質が除去されて、超高純度の原形質膜小胞溶液が生成される。
【図3】(A〜B)精製した原形質膜小胞を還元剤及びアルキル化剤にさらして、切断部位を露出し、タンパク質凝集を防止する。(C)原形質膜小胞溶液を高pHのNaCOで洗浄して、タンパク質−タンパク質間の非共有結合性相互作用(non-covalent interaction)を分断し、サイトゾルタンパク質(を膜から解離させる。超音波処理により、原形質膜小胞を分断して、それらのサイトゾルの内容物を放出させる。(D)原形質膜小胞を超遠心分離機にかけ、そして(E−F)上澄みを吸引して、原形質膜小胞(PMV)の内部から放出された汚染物質を除去する。(G)膜の沈殿物(pellet)をすすぎ、そして緩衝液中で超音波処理して、超高純度の小型原形質膜小胞の溶液を得る。
【図4】(A〜B)注入ノズルを介して原形質膜小胞溶液を注入することにより、処理された原形質膜小胞をフローセル(flowcell)の表面に固定する。(C〜D)プロテアーゼの注入後、膜タンパク質の表面露出ドメインが切断されて、所定のペプチドのセットのを生成する。(D)これらは、出口ノズルを介してチップから溶出する。(E)溶出したペプチドサンプルは処理されて、LC−MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)により分析される。
【図5】精製された原形質膜小胞とミクロソームとにおける、同定された膜タンパク質の比較である。原形質膜小胞中の43種の膜タンパク質のうちの32種が、原形質膜小胞と特有に(uniquely)関連付けられ、これに比較して、ミクロソーム中の79種の膜タンパク質のうち17種だけが特有に(uniquely)関連付けられる。全体として、ミクロソームの膜タンパク質の〜44%は原形質膜に関連したタンパク質であり、その一方、原形質膜小胞(PMV)の分析では、93%が原形質膜(PM)に関連したタンパク質に帰着した。
【図6】原形質膜小胞内で見つかった原形質膜タンパク質の種類である。GTPアーゼが最大の画分を成し、そしてGタンパク質と、細胞接着機能性と関係するタンパク質とが続く。原形質膜小胞の膜タンパク質構成についての知見から、単一の原形質膜小胞中の活性アッセイの発展が期待できる。
【図7】アンカー型膜タンパク質の細胞内分布と特有な(unique)場所との比較であり、(A)原形質膜小胞の膜内での分布、(B)ミクロソームの膜内での分布である。
【図8】グリセロリン脂質の構造である。これらの構造の骨格は、2つのアルキル鎖又は様々な飽和度の2つの脂肪酸と、エステル結合により結合したグリセロール分子である。ホスフェート分子による第3の結合は、脂質の頭部を規定する。この図では、pH7における脂質の正味電荷も述べている。ホスファチジルコリンは両性イオン脂質であり、これは、脂質が(中性のpH値では互いに打ち消し合う)負電荷と正電荷の両方を含むことを意味する。
【図9】骨格として長鎖アミンアルコールスフィンゴシンを、長鎖脂肪酸及び極性頭部アルコールと共に含んでいるスフィンゴ脂質の構造であり、さらに、他の極性頭部と(例えばホスホジエステル結合により)結合することができる。このグループの中で最も単純な化合物はセラミドであり、画像では、3つの異なるグループのスフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン、糖脂質、及びガングリオシド)の例も示している。この画像で用いられる糖の記号は以下の通りである。Glc:D−グルコース、Gal:D−ガラクトース、GalNAc:N−アセチル−D−ガラクトサミン、NeuNAc:N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<発明の詳細な説明>
本発明は原形質膜小胞、及び原形質膜小胞の製作方法を提供する。本願明細書で提供する方法により、当業者は、彼らの選択するどんな細胞型からでも原形質膜小胞を製造することができる。ある実施態様では、本願明細書に記載した原形質膜小胞は、国際公開WO 2006/068619に記載されているような装置と共に用いることができ、その内容は、参照して明示的に本願明細書に組込まれる。
【0038】
<原形質膜小胞の調製(Preparation of Plasma Membrane Vesicles)>
本発明は、膜タンパク質を含む原形質膜小胞の製造及び使用を提供する。ある実施態様では、原形質膜小胞は、細胞小器官又は細胞マトリクス物質(cell matrix material)が存在しない。
【0039】
ある態様では、本発明の方法は、高純度の及び/又は単分散の原形質膜小胞の製造を可能にする。
【0040】
「単分散」とは、同程度の寸法を有する原形質膜小胞の個体群を意味している。好ましい実施態様では、本発明の原形質膜小胞の個体群を構成するメンバーの直径は、互いに、約20%以内、約15%以内、約10%以内、約5%以内、約4%以内、約3%以内、又は約2%以内にある。
【0041】
原形質膜小胞は、ブレブ(水疱:bleb)としても知られている。ブレブは、細胞の細胞壁、外膜(outer membrane)、細胞質(cytoplasmic)、及び/又は原形質膜の中に形成される小さな芽状突部(bud-like protrusions)である。本明細書に記載された選択条件下で培養した場合、膜小胞は全ての細胞から媒体中へと離脱する。一般的に、膜小胞は球状で、二重層を保有し、そして直径が約1μm〜約100μmである。
【0042】
本発明の方法は、細胞を、小胞形成を誘導する薬剤に接触させることに頼っている。ある実施態様では、小胞形成剤は、スルフヒドリル基遮断剤、例えば、ホルムアルデヒド、ピルビンアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール、グルタルアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ピリドキサール、N-エチルマレイミド(NEM)、マレイミド、クロロマーキュリ安息香酸、ヨード酢酸、亜ヒ酸カリウム、亜セレン酸ナトリウム、チメロサール (マーシオレート)、過酸化ベンゾイル、塩化カドミウム、過酸化水素、ヨードソ安息香酸、メラルリドナトリウム(マーキュヒドリン)、塩化第二水銀、塩化第一水銀、クロルメロドリン、(ネオヒドリン)、フェニルヒドラジン、亜テルル酸カリウム、マロン酸ナトリウム、p-アルセノソ安息香酸、5,5'-ジアミノ-2,2'ジメチルアルセノベンゼン、N,N'-ジメチレンスルホン酸二ナトリウム塩、ヨードアセトアミド、オキソフェナルシン (マファルセン)、塩化第二金、p-クロロマーキュリ安息香酸、p-クロロマーキュリフェニルスルホン酸、塩化第二銅、ヨウ素メルブロミン (マーキュロクロム)、ポルフィリンダイン、過マンガン酸カリウム、マーサリル (サリルガン)、硝酸銀、強プロテイン銀 (プロタルゴール)、及び酢酸ウラニルを含む。他の実施態様では、小胞形成剤は、例えばジチオトレイトール(DTT)とホルムアルデヒドのように、共に作用する(act in concert)これらの薬剤の組合せである。
【0043】
他の実施態様では、小胞形成剤は、例えばサイトカラシンB又はメリチンなどの細胞毒素である。
【0044】
本発明のいくつかの実施態様では、小胞形成量を増加させるために、細胞を機械的に攪拌する。機械的撹拌は、例えば、振盪機又は超音波処理にすることができる。
【0045】
必要なら、原形質膜小胞が生成された後に、それを精製することができる。原形質膜小胞を精製する多くの方法(これに限定されないが、濾過、密度勾配遠心分離法、又は透析を含む)がある。場合によっては、これらの方法のうち、いくつかを組合せるのが望ましい。
【0046】
超高純度の原形質膜小胞を製造するために、次の精製工程及び操作工程---膜タンパク質のアルキル化及び還元、アルカリ洗浄によるタンパク質−タンパク質間の非共有結合性相互作用の分断、超音波処理による小胞内汚染物質の放出と小さい小胞の形成、超遠心分離法による原形質膜小胞画分の洗浄、炭酸水素アンモニウム緩衝液中でのすすぎと分散---の1つ以上を行うことができる。
【0047】
膜タンパク質の還元は、膜タンパク質を、例えばジチオスレイトール(dithiothreitol: DTT)、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(tris(carboxyethyl)phosphine: TCEP)、又はDTT置換トリブチルホスフィン(tributylphosphine: TBP)、又はヨードエタノール(iodoethanol)とトリエチルホスフィンDTT(triethylphosphine DTT)の組合せに接触させることにより達成することができ、そして、膜タンパク質のアルキル化は、ヨードアセトアミド(iodoacetamide)により行なって、ジスルフィド結合を切断することができる。これにより、消化(digestion)に利用できる切断部位を多くして、タンパク質凝集を低減することができる。
【0048】
原形質膜小胞を高pH溶液又は高塩溶液(high salt solution)で洗浄して、非共有結合のタンパク質−タンパク質間相互作用を分断することができる。この工程により、サイトゾルタンパク質は膜から解離するだろう。
【0049】
原形質膜小胞を超音波にさらして、小胞内汚染物質を放出させ、より小さな小胞を形成することができる。この精製工程は広範囲に及ぶ超音波処理を含んでおり、その処理により、原形質膜小胞は分断されて、より小さな小胞として封じ直し(reseal)が引き起こされ、その結果として溶液中にサイトゾルの内容物が放出される。
【0050】
この追加の汚染源を除去するために、原形質膜小胞(PMV)の膜を超遠心分離法により沈殿させて、上澄みを除去する。
【0051】
膜の沈殿物を、例えば炭酸水素アンモニウム緩衝液などの緩衝液中で超音波処理して、すすぎと分散をさせることもできる。
【0052】
原形質膜小胞を、フィルターを通して濾過して、均一サイズの原形質膜小胞個体群を製造することもできる。
【0053】
原形質膜小胞の個体群は、例えばアフィニティー精製又は免疫吸着精製(immuno-purification)により、所定の膜タンパク質を濃縮することができる。
【0054】
様々な細胞を用いて、原形質膜小胞を調整してもよい。細胞又は細胞株(cell lines)は、表面に付着していても、又は増殖培地中に遊離していてもよい。細胞は、生物体、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト)からの細胞にすることができる。ある実施態様では、原形質膜小胞を製造するのに用いられた細胞は、病態(例えば癌)を伴う細胞である。別の実施態様では、細胞を形質転換又はトランスフェクト(transfected)して、対象となるタンパク質を生成する。典型的な実施態様では、対象となるタンパク質は、1つ又はいくつかの膜タンパク質(例えば、膜貫通型タンパク質又は脂質アンカー型タンパク質)である。
【0055】
当業者に既知の一般的な分子生物学の技術を用いて膜小胞を製造するために、外因性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を細胞に導入してもよい。挿入されたヌクレオチド配列の転写及び翻訳に必要な因子は、選択された細胞に依存して選択することができ、また、当業者によって容易に達成することができる。ヌクレオチド酸配列により形質転換又はトランスフェクトされた細胞の選択を容易にするレポーター遺伝子も、微生物に組み込んでもよい(例えば、Sambrookら、 分子クローニング、実験の手引き(Molecular Cloning A Laboratory Manual)第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press出版, 1989年, トランスフェクション/形質転換法、転写因子と翻訳因子の選択、及びレポーター遺伝子(for transfection/transformation methods and selection of transcription and translation elements, and reporter genes)を参照)。外因性タンパク質をコードする配列は、一般に様々な源、例えば、プラスミドエンコード配列(plasmids encoding sequences)を収容している寄託機関(アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection : ATCC(メリーランド州ロックビル))及びBritish Biotechnology社(イギリス オックスフォード、カウリー)を含む)から得ることができる。
【0056】
「膜貫通ドメイン」は膜を貫通し(span)、「膜アンカードメイン」は膜の内側に位置するが膜を横断しない。
【0057】
「細胞外の」又は「露呈した(displayed)」ドメインは、細胞又は原形質膜小胞の外側に存在し、よって、細胞又は原形質膜小胞の外的環境に接している。
【0058】
「真核生物」は、本技術分野で用いられる用語の通りである。真核生物は、これに限定しない例示として、真菌、単細胞真核生物、植物又は動物であってもよい。動物は、例えばラット、マウス、ウサギ、犬、猫、馬、牛、豚、サル又はヒトなどの哺乳動物であってもよい。「真核生物の膜」とは、真核生物に見られる膜である。真核生物の膜は、これに限定しない例示として、細胞膜、核膜、核小体膜、小胞体(ER)の膜、ゴルジ体の膜、リソソームの膜、ペルオキシソームの膜、カベオラ(caveolar)の膜、若しくはミトコンドリア、葉緑体又は色素体の内膜又は外膜であってもよい。
【0059】
「膜タンパク質」とは、膜内の全体あるいは一部に見られるタンパク質のことである。膜タンパク質は、少なくとも1つの膜アンカードメイン又は少なくとも1つの膜貫通ドメインを有することができる。
【0060】
「発現ベクター」とは、人工核酸分子であり、その中で、タンパク質をコードする外因性核酸分子は、外因性核酸分子の発現を導く適切な発現配列に作動可能に結合するように、挿入することができる。
【0061】
「作動可能に結合した(operably linked)」の用語は、非ベクター核酸配列によってコードされた遺伝子産物が、生体内(in vivo)で発現因子から製造されることを意味する。
【0062】
「発現構成体」とは、発現ベクターであり、その中で、対象となるヌクレオチド配列は、発現ベクター内にある発現配列に作動可能に結合するべく位置決めされるように、挿入されている。
【0063】
本発明は、原形質膜内又は原形質膜上に存在するタンパク質に関する研究及びキャラクタリゼーションのため方法と組成物を提供する。本発明の方法及び組成物に用いることのできる典型的なタンパク質を以下に述べる。
【0064】
<膜タンパク質>
膜タンパク質は、一般に、表在性膜タンパク質と内在性膜タンパク質の2つのタイプから成る。
【0065】
内在性膜タンパク質は、脂質二重層膜の2つの層(又は葉(leaflets))を貫通することができる。よって、このようなタンパク質は、細胞外ドメイン(extracellular domain)、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメイン(intracellular domain)を有していてもよい。細胞外ドメインは、細胞の外的環境に露出され、その一方、細胞内ドメインは、細胞のサイトゾルに面している。膜を横断する内在性膜タンパク質の部分が、「膜貫通ドメイン」である。膜貫通ドメインは、多くの場合、αヘリックス構造を採用すると予測される典型的には15〜25個の疎水性アミノ酸を含んでいる領域の1つ以上で、細胞膜を横断する。
【0066】
内在性膜タンパク質は、バイトピック(bitopic)又はポリトピック(polytopic)に分類される(Singer, (1990年) Annu. Rev. Cell Biol. 6:247-96)。バイトピックタンパク質は膜を1回貫通し、その一方、ポリトピックタンパク質は、膜を複数回貫通するセグメントを含んでいる。
【0067】
表在性膜タンパク質は、膜の表面に結合されているが、膜領域の疎水性層には組み込まれていない膜タンパク質である。表在性膜タンパク質は膜を貫通しないが、その代わりに、膜の表面、膜を形成する脂質二重層膜の一方の層、又は内在性膜タンパク質の細胞外ドメインに結合される。
【0068】
本発明は、どのような膜タンパク質(これに限定されないが、以下の典型的な受容体及び膜タンパク質を含む)にも適用することができる。タンパク質は、これに限定されないが、受容体(例えば、GPCR、スフィンゴ脂質受容体、神経伝達物質受容体、感覚器受容体、成長因子受容体、ホルモン受容体、ケモカイン受容体、サイトカイン受容体、免疫学的受容体(immunological receptors)、及び補体受容体、FC受容体)、チャネル(例えば、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル)、孔(例えば、核膜孔タンパク質、水チャネル)、イオンポンプ及び他のポンプ(例えば、カルシウムポンプ、プロトンポンプ)、交換輸送体(例えば、ナトリウム/カリウム交換輸送体、ナトリウム/水素交換輸送体、カリウム/水素交換輸送体)、電子伝達タンパク質(例えば、シトクロムオキシダーゼ)、酵素及びキナーゼ(例えば、プロテインキナーゼ、ATPアーゼ、GTPアーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ)、構造タンパク質/結合タンパク質(例えばカベオリン(Caveolins)、クラスリン)、アダプタータンパク質(例えば、TRAD、TRAP、FAN)、走化性タンパク質(chemotactic protein)/接着タンパク質(例えば、ICAM11、セレクチン、CD34、VCAM−1、LFA−1、VLA−1)、並びにPI特異性PLC(PI-specific PLC)などのホスホリパーゼ及び他のホスホリパーゼを含んでいる。
【0069】
本発明の範囲内に他の膜タンパク質があり、そしてこれに限定されないが、チャネル(例えば、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル)、孔(例えば、核膜孔タンパク質、水チャネル)、イオンポンプ及び他のポンプ(例えば、カルシウムポンプ、プロトンポンプ)、交換輸送体(例えば、ナトリウム/カリウム交換輸送体、ナトリウム/水素交換輸送体、カリウム/水素交換輸送体)、電子伝達タンパク質(例えば、シトクロムオキシダーゼ)、酵素及びキナーゼ(例えば、プロテインキナーゼ、ATPアーゼ、GTPアーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ)、構造タンパク質/結合タンパク質(例えばカベオリン(Caveolins)、クラスリン)、アダプタータンパク質(例えば、TRAD、TRAP、FAN)を含んでいる。
【0070】
<細胞接着分子>
細胞接着分子は、本発明の方法及び組成物に用いることができる。典型的な細胞接着分子は、ヒトライノウイルス受容体(ICAM−1)、ICAM−2、ICAM−3及びPECAM−1を含んでおり、本発明の範囲内には、走化性タンパク質/接着タンパク質(例えば、セレクチン、CD34、VCAM−1、LFA−1、VLA−1)がある。Alpin らの"Signal Transduction and Signal Modulation by Cell Adhesion Receptors: The Role of Integrins, Cadherins, Immunoglobulin-Cell Adhesion Molecules, and Selectins"、 Pharmacological Reviews, Vol. 50, No. 2も参照されたい。
【0071】
前述の限定されない例示に加えて、本発明は、以下に記載された膜タンパク質に適用することができる。米国特許6,335,018(モラクセラの主な高分子量外膜タンパク質(High molecular weight major outer membrane protein of moraxella))、米国特許6,264,954(ヘモフィルス属外膜タンパク質(Haemophilus outer membrane protein))、米国特許6,197,543(ヒト小胞膜タンパク質類似タンパク質(Human vesicle membrane protein-like proteins))、米国特許6,121,427(ブランハメラの主な外膜タンパク質CD(Major outer membrane protein CD of branhamella))、米国特許6,083,743及び6,013,514(ヘモフィルス属外膜タンパク質(Haemophilus outer membrane protein))、米国特許6,004,562 (モラクセラカタラーリスの外膜タンパク質Bl(Outer membrane protein Bl of Moraxella catarrhalis))、米国特許5,863,764(ヒトの膜タンパク質をコードするDNA(DNA encoding a human membrane protein))、米国特許5,861,283(大脳辺縁系関連膜タンパク質をコードするDNA(DNA encoding a limbic system-associated membrane protein))、米国特許5,824,321(クローン化されたレプトスピラ外膜タンパク質(Cloned leptospira outer membrane protein))、米国特許5,821,085(梅毒トレポネーマの稀な外膜タンパク質のヌクレオチド配列(Nucleotide sequences of a T. pallidum rare outer membrane protein))、米国特許5,821,055(クラミジアの主な外膜タンパク質(Chlamydia major outer membrane protein))、米国特許5,808,024(モラクセラの主な高分子量外膜タンパク質をコードする核酸(Nucleic acids encoding high molecular weight major outer membrane protein of moraxella))、米国特許5,770,714(クラミジアの主な外膜タンパク質(Chlamydia major outer membrane protein))、米国特許5,763,589(ヒトの膜タンパク質(Human membrane protein))、米国特許5,753,459(梅毒トレポネーマの稀な外膜タンパク質のヌクレオチド配列(Nucleotide sequences of T. pallidum rare outer membrane protein))、米国特許5,607,920(軟骨由来のコンカナバリン、結合タンパク質、及び76kD軟骨細胞膜タンパク質(CMP)並びにそれを得る方法(Concanavalin a binding proteins and a 76 kD chondrocyte membrane protein (CMP) from chondrocytes and methods for obtaining same))、米国特許5,503,992(インフルエンザ菌の15kD外膜タンパク質をコードするDNA(DNA encoding the 15 kD outer membrane protein of Haemophilus influenzae))。
【0072】
膜貫通ドメインの様々な型及び例が知られている。本発明の方法及び組成物は、以下の型の膜貫通型タンパク質にも関係する。
【0073】
モノトピック(Monotropic:「1回貫通の」)ドメインは、膜を1回横断しており、これに限定しない例示として、上皮成長因子(EGF)の受容体、腫瘍壊死因子(TNF)の受容体などに見られるドメインを含んでいる。ポリトピック(Polytropic:「複数回貫通の」)タンパク質は、膜を2回以上横断する。これに限定されないが、ポリトピックタンパク質の例を以下に示す。
【0074】
バイトピック(Biotropic:「2回貫通の」)膜タンパク質は、これに限定されないが、大腸菌のEnvZ、ペルオキシゾームの膜タンパク質Pex11−1p(Antonら、「ARF仲介及びコートマー仲介のペルオキシソーム小胞形成(ARF- and coatomer-mediated peroxisomal vesiculation)」、Cell Biochem Biophys 2000;32 Spring:27-36)、S.セレビシエの多剤ABC輸送体 (Rogersら、「サッカロマイセスセレビシエの多剤ABC輸送体(The pleitropic drug ABC transporters from Saccharomyces cerevisiae)」、J MoI Microbiol Biotechnol 2001 3:207-14)、及びヒト及びラットの尿酸輸送体hUAT及びrUAT (Lipkowitzら、「ヒト尿酸輸送体の機能的再構成、膜標的化、ゲノムの構造、及び染色体の局在化(Functional reconstitution, membrane targeting, genomic structure, and chromosomal localization of a human urate transporter)」、J Clin Invest 2001 107:1103-15)を含んでいる。
【0075】
トリトピック(Tritropic:「3回貫通の」)膜タンパク質は、これに限定されないが、シロイヌナズナのエチレン受容体ETR1、カリフラワーカード発現タンパク質(Cauliflower Card Expression protein)CC1(Palmerら, 「様々な特異的方法により発現した芽キャベツの遺伝子は、新規な植物の膜貫通型受容体をコードするだろう(A Brassica oleracea Gene Expressed in a Variety-Specific Manner May Encode a Novel Plant Transmembrane Receptor)」、Plant Cell Physiol 2001 42:404-413)、及びミトコンドリア膜タンパク質hMRS3/4のスプライス変異(Liら、「酵母ミトコンドリアRNAスプライシングタンパク質3及び4と相同な、新規なヒト推定ミトコンドリア輸送体のキャラクタリゼーション(Characterization of a novel human putative mitochondrial transporter homologous to the yeast mitochondrial RNA splicing proteins 3 and 4)」、FEBS Lett 2001 494:79-84)を含んでいる。
【0076】
テトラスパニン(Tetraspanins)又はテトラスパン(tetraspans)は、4回膜貫通ドメインを備えた膜タンパク質の非限定的な例である(Levyら、 J. Biol. Chem, 226:14597-14602, 1991; Tomlinsonら、 J. 1 mmol. 23: 136-40, 1993; 及びBarclayら、(In) The Leucocyte antigen factbooks, Academic press, London, 1993)。これらのタンパク質が原形質膜を4回貫通するので、これらは、まとめて4回貫通スーパーファミリー(transmembrane 4 superfamily)(TM4)として知られている。このファミリーに属することが知られているタンパク質は、これに限定されないが、哺乳類抗原CD9(MIC3)、血小板活性化及び凝集に関与するタンパク質、Bリンパ球上で発現した哺乳類白血球抗原CD37、造血細胞の成長の調節に関係するであろう哺乳類白血球抗原CD53(OX−44)、哺乳類リソソーム膜タンパク質CD63(黒色腫関連抗原ME491;抗原ADl)、リンパ腫細胞の成長の調節規則に重要な役割を演じるであろう哺乳類抗原CD81(細胞表面タンパク質TAPA−1)、CD4又はCD8と関連し、共刺激シグナル(costimulatory signal)をTCR/CD3経路に伝達する哺乳類抗原CD82(タンパク質R2;抗原C33;Kangai1(KAI1))、哺乳類抗原CD151(SFA−1)、血小板内皮4回貫通抗原3(PETA−3)、哺乳類TM4SF2(細胞表面糖タンパク質A15;TALLA−1;MXS1)、哺乳類TM4SF3(腫瘍関連抗原CO−029)、哺乳類TM4SF6(Tspan−6;TM4−D)、哺乳類TM4SF7(新規抗原2;Tspan−4(NAG−2))、哺乳類Tspan−2、哺乳類Tspan−3(TM4−A)、哺乳類4回貫通NET−5、並びにマンソン住血吸虫及び日本住血吸虫23Kd表面抗原(SM23/SJ23)を含んでいる。
【0077】
6回膜貫通ドメインを備えた膜タンパク質の非制限的な例には、EBV内在性膜タンパク質LMP−1、及びミトコンドリアタンパク質hMRS3/4のスプライス変異(Liら、「酵母ミトコンドリアRNAスプライシングタンパク質3及び4と相同な、新規なヒト推定ミトコンドリア輸送体のキャラクタリゼーション」、FEBS Lett (Apr. 6, 2001); 494(l-2):79-84)を含んでいる。6回膜貫通ドメインを備えたタンパク質は、STEAP(前立腺の6回膜貫通上皮抗原)タンパク質(Afarら、米国特許6,329,503)も含んでいる。STEAPファミリーの原形メンバー(prototype member)であるSTEAP−1は、正常なヒト組織の前立腺細胞で主に発現されるIIIa型膜タンパク質であるようだ。構造的には、STEAP−1は、6つの膜貫通ドメインの分子トポロジーと細胞内N末端及びC末端とで特徴付けられた(「曲がりくねった」形で3つの細胞外ループと2つの細胞内ループに折り畳まれていることを示唆している)、339個のアミノ酸から成るタンパク質である。
【0078】
何百もの7回貫通膜タンパク質が知られている。これに限定されないが、βアドレナリン受容体、アドレナリン作動性受容体、EDG受容体、アデノシン受容体、キニンのB受容体、アンジオテンシン受容体及びオピオイド(opiod)受容体を含むGタンパク質共役受容体(GPCR)が、特に対象になる。GPCRは、本願明細書の別の所でより詳細に記載される。
【0079】
9回膜貫通ドメインを備えたタンパク質の非限定的な例は、リポカリン−1相互作用膜受容体(Lipocalin-1 interacting membrane receptor)である(Wojnarら、「ファージディスプレイを用いた、新規リポカリン−1相互作用ヒト細胞膜受容体(LIMR)の分子クローニング(Molecular cloning of a novel Lipocalin-1 interacting human cell membrane receptor (LIMR) using phage-display)」、 J Biol Chem 2001 3)。
【0080】
膜貫通ドメイン及びアンカードメインの両方を備えたタンパク質が知られている。例えば、AMPA受容体サブユニットは、複数の膜貫通ドメインと1つの膜アンカードメインをと有している。
【0081】
<脂質成分>
生体膜で最も一般的な脂質は、1,2−ジアルキルホスホグリセリド(1,2-dialkylphosphoglycerides)又はリン脂質である(Gennis、1989年)。これらは、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)及びホスファチジルグリセロール(PG)を含んでいる。これらのリン脂質の構造を、図8にまとめた。
【0082】
リン脂質の構造は、共通のグリセリン分子にエステル結合で結合した2つのアルキル鎖又は2つの脂肪酸から成る。第3水酸基はホスフェート分子に結合しており、それが脂質の様々な頭部と接続する。アルキル鎖又は炭化水素の尾部(tails)は、長さ(14〜24炭素原子)と飽和度との両方が変化し、それらが共に、例えば膜透過性及び膜流動性などの基本的性質を決める(dictate)。一方、頭部は分子の電荷の情報を含んでおり、膜の特性及び膜の機能にも影響を及ぼす。最も一般的なリン脂質はホスファチジルコリンであり、その頭部は第三級アミンから成る。このタイプの脂質は両性イオンであり、それは、その構造が、中性のpH値において正味電荷ゼロを有している(bear)ことを意味する。これは、ホスフェート(負電荷)と第三級アミン(正荷電)に置かれた電荷をバランスすることにより生じる。一方、ホスファチジルセリンは、頭部にカルボキシル基(負電荷)とアミンとを両方含んでいるので、中性のpHにおいて正味電荷−1を得る。
【0083】
スフィンゴ脂質もまた生体膜において一般的であり、1分子の長鎖アミノアルコールスフィンゴシン又はその誘導体の1つと、1分子の長鎖脂肪酸と、極性頭部アルコールとから成り、それは、たまにリン酸ジエステル結合を有している。スフィンゴ脂質はまた、スフィンゴミエリンと、糖脂質とガングリオシドの3つのグループに細分化(sub-divided)することができる(図9)。スフィンゴミエリンは、性質と構造の点でホスファチジルコリンと類似点があり、動物細胞の原形質膜中に存在する。糖脂質とガングリオシドも、動物細胞原形質膜中に見られ、脳などの神経組織中に多く存在しており、それらの極性頭部に糖ユニットを有している。
【0084】
ステロール(そのうち、コレステロールが動物組織で最も一般的)は、極性頭部と、その拡張形態において16炭素脂肪酸とほぼ同じ長さの炭化水素の無極性体部と、を有している。ステロールは、しばしば、例えば、腸内で洗剤として機能する胆汁酸又はステロイドホルモンなどの特異な生物学的機能を備えた分子の前駆体である。
【0085】
多くの異なる溶媒を用いて脂質を溶解することができるが、それらが脂質と他の細胞成分(例えば、タンパク質、多糖など)との間のつながりを壊すことが可能なら、それらの溶媒は、細胞物質及び細胞組織から脂質を抽出することだけに適している。全ての脂質を細胞膜又はリポタンパク質とのつながりから解放するためには、理想的には、溶媒又は溶媒混合物はかなり極性を持つべきである。抽出溶媒はまた、ある程度まで酵素加水分解を防ぐだろう。
【0086】
脂質のいくつかの構造的特徴、例えば、脂肪酸又は他の脂肪族の一部分の疎水性炭化水素鎖、及びホスフェート又は糖の残基などの極性官能基(著しく親水性である)などは、脂質の有機溶媒への溶解性を制御する。例えばトリアシルグリセロール又はコレステロールエステルなど、極性基が欠如した脂質は、炭化水素(例えば、ヘキサン、トルエン又はシクロヘキサンなど)及び、多くの極性溶媒(例えば、ジエチルエーテル又はクロロホルムなど)に可溶である。しかしながら、それらは、例えばメタノールなどの極性溶媒にはやや不溶性である。極性脂質(例えば、リン脂質とグリコスフィンゴリピドなど)は、他の型の脂質により可溶化しなければ、炭化水素には僅かに可溶なだけであるが、多くの極性溶媒(メタノール、エタノール又はクロロホルムなど)には容易に溶解される。これらの溶媒の高誘電率と極性は、イオン双極子相互作用及び水素結合に打ち勝つ。
【0087】
多くの複合脂質は、水にわずかに可溶で、少なくともミセル溶液を形成し、そして、脂質(例えば、ガングリオシド、ポリホスホイノシチド、リゾホスホリピド、アシルカルニチン及びコエンザイムAエステルなど)は特に可溶である。純粋な溶媒は、通常は、汎用の脂質抽出剤として有用ではない。溶媒混合物はより有用であり、最も広く使用されている混合物のうちの1つは、比率2:1(v/v)のクロロホルムとメタノールである。この混合物は、他の単純な溶媒の組合せよりも、組織(動物、植物及びバクテリア)から脂質をより徹底的に抽出するだろう。他のいくつかの研究では、ジクロロメタン(DCM)−メタノール(2:1v/v)の混合物は、クロロホルム−メタノール混合物と同じくらい有効であることが分かり、また、ジクロロメタンの低い毒性は利点になりえる。
【0088】
プロパン−2−オール(propan-2-ol)とヘキサンとの混合物 (3:2v/v)もまた、動物組織から脂質を抽出するのに用いられており、この混合物は低い毒性を有している。メタノール−ヘキサン(1:1v/v)は、葉組織から脂質を抽出するのに用いられている。ヘキサン−エタノール(5:2v/v)は、ユビキノンの抽出に用いられ、界面活性化剤のドデシル硫酸ナトリウムを添加したヘプタン−エタノール混合物は、動物組織中のビタミンE/脂質の比率を決定するのに推奨されている。脂溶性をテストされてきた他の混合物は、トルエン−エタノール混合物、ベンゼン−エタノール混合物、ベンゼン−メタノール混合物、プロパン−2−オール−ベンゼン−水(2:2:1v/v)混合物、水で飽和したブタン−1−オール、ヘキサン−2−オール、ブタン−1−オール−ジイソプロピルエーテル(2:3v/v)である。ジエチルエーテル及びクロロホルム単独もまた、脂質の良溶媒であるが、例えば組織から脂質を抽出するにはそれほど良くはない。それらを植物組織の抽出に用いた場合、それらの溶媒は不運にも、ブタン−1−オールのように、ホスホリパーゼDの作用も高めてしまう。プロパン−1−オールとプロパン−2−オールは、この反応を強く抑制し、特に後者は沸点が低いので、特に予備抽出剤として植物組織への使用が推奨されている。
【0089】
アセトンは、単純脂質と糖脂質を溶解することができるが、リン脂質を容易には溶解せず、そして実際にしばしば、他の溶媒中の溶液からリン脂質を沈降させるのに用いられている。超臨界流体もまた、脂質抽出の目的でテストされて、その結果によると、この手順は単純脂質の抽出に役立つだろう。
【0090】
<本発明の原形質膜小胞の使用方法>
本発明の原形質膜小胞は、多くの目的に使用することができる。例えば、膜の外側が不溶性の膜タンパク質を研究するために、原形質膜小胞を用いることができる。それらの原形質膜小胞は、膜タンパク質のモジュレータをスクリーニングするために用いることもでき、又は既知のリガンドを結合する膜タンパク質を同定するための逆スクリーンに用いることもできる。他の実施態様では、本発明の原形質膜小胞は、互いに相対的な細胞、又は異なる時点(例えば、リガンドと接触したとき、又は病態(例えば癌)に転換したとき)における類似の細胞のタンパク質発現パターンの研究に用いることができる。
【0091】
例示された実施態様では、本発明の原形質膜小胞は、細胞表面タンパク質の発現パターンの研究に用いられる。ある実施態様では、原形質膜小胞は、本願明細書に記載した方法を用いて、所望の時に、対象となる細胞から製造される。
【0092】
原形質膜小胞をプロテアーゼ(例えば、トリプシン又はキモトリプシン)に接触させ、得られたタンパク質フラグメントを同定する。ポリペプチドフラグメントは、本技術分野で認識された多くの方法のいずれでも同定することができる。
【0093】
原形質膜小胞をフローセル中に固定した後と同様に、酵素消化は溶液中(in-solution)で行われる。溶液中消化では、処理した原形質膜小胞溶液にプロテアーゼを加えることができ、また、サイズ濾過(size filtration)によってペプチドを膜から分離することができる。
【0094】
ポリペプチドフラグメントは、質量分光法によって分析することができる。例示された実施態様では、フラグメントはLC−MS/MSを用いて分析される。液体クロマトグラフィーは、サンプル内に含まれていた個々の成分が同定されるように、それらを分離する。分離された成分の同一性を決定するために、それを質量分析計に注入してさらに分析してもよい。2つの質量分析計ステージを備えたシステムは、LC−MS/MSシステムと呼ばれる。質量分析計は、サンプルを入力として受け取り、サンプルをイオン化して、陽イオン又は陰イオンのいずれかを作成する。エレクトロスプレーイオン化法の利用を含む、多くの異なるイオン化法を利用できる。そして、イオンは、一般にMS1と呼ばれる第1ステージで、質量−電荷比により分離される。質量分離は、磁石(イオンの質量に基づいて、イオンを異なる程度でそらせる)の使用を含む多くの手段によって達成することができる。その後、分離されたイオンは衝突セルへと進み、そこで、イオンは、衝突ガスに接触するか又はイオンと相互作用する他の物質に接触する。そして、反応したイオンは、一般にMS2と呼ばれる質量分離の第2ステージを受ける。
【0095】
分離されたイオンは、1つ又は複数の質量分析法ステージの最後に分析される。この分析では、マススペクトルと呼ばれるグラフ中に、イオンの質量−電荷比に対するイオンの信号強度をグラフにする。マススペクトルの分析は、検出器と反応するイオンの質量と相対存在量とを与える。相対存在量は、信号強度から得られる。液体クロマトグラフィーと質量分析法との組合せは、例えば代謝物質などの化学物質を同定するのに用いることができる。分子が衝突ガスと衝突したときに、共有結合はしばしば破壊され、多くの帯電したフラグメントをもたらす。質量分析計は、フラグメントの質量(それをその後に分析して、元の分子の構造及び/又は組成を決定してもよい)を測定する。この特徴は、正確な質量測定が可能な質量分析計(例えば、ハイブリッド四極子直交TOF装置又はFTICR)を用いたときに、見かけの質量MSから著しく向上されて、分析物の元素組成情報を導き出すことができる。この情報は、サンプル中の特定の物質を分離するのに用いることができる。
【0096】
例示された実施態様では、本発明の原形質膜小胞は、精製された原形質膜小胞から脂質成分を抽出することにより、原形質膜の脂質組成の研究に用いられる。
【0097】
別の実施態様では、ポリペプチドフラグメントを免疫組織化学により分析することにより、特定の膜タンパク質欠如の存在を評価することができる。従って、別の実施態様では、ペプチドフラグメントの検出及び分析にイムノアッセイを用いることができる。この方法は、(a)対象となるペプチドに特異的に結合する抗体を提供する工程と、(b)抗体をサンプルに接触させる工程と、(c)サンプル中のペプチドに結合した抗体複合体の存在を検出する工程と、を含む。
【0098】
ペプチドと特異的に結合する抗体を調整するために、精製されたペプチド又はそれらの核酸配列を用いることができる。これらのマーカーのさらなるキャラクタリゼーションにより、ペプチドの核酸及びアミノ酸の配列を得ることができる。各マーカーからの消化フラグメントの分子量は、様々な酵素によって生成された消化フラグメントの分子量と適合するであろう配列のためのデータベース(例えば、SwissProtデータベースなど)を検索するのに用いることができる。この方法を用いることにより、これらのマーカーがデータベース中で既知のタンパク質であれば、他のペプチドの核酸及びアミノ酸の配列を同定できる。
【0099】
<アッセイ>
原形質膜小胞に含まれる膜タンパク質と相互作用する化合物を同定するために、原形質膜小胞を、手動アッセイ、半自動アッセイ、全自動アッセイ及び/又はロボットによるアッセイに用いることができる。
【0100】
原形質膜小胞は、薬物をスクリーニングするためのアッセイに用いることができる。限定しない例示として、原形質膜小胞は、膜タンパク質の発現及び研究のための、及びモジュレータの同定のための環境を提供する。
【0101】
タンパク質発現を評価するための別の技術は、ウエスタンブロットの利用を含んでいる。研究対象となる様々な発現タンパク質を対象とする抗体が生成されており、その多数が市販されている。ポリペプチド又はそれから導き出されるタンパク質の抗体を生成する技術は、本技術分野で知られている(例えば、Cooperら「分子生物学の短いプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」第11章第3節、第2版、Ausubelら編、John Wiley and Sons社, New York, 1992年、11-22ページ〜11-46ページを参照)。標準的なウエスタンブロットプロトコル(原形質膜小胞及び他の発現システム中の発現ベクターからタンパク質発現を示すのに用いることができる)は、本技術分野で知られている(例えば、Winstonら、第10章10.7単元「分子生物学の短いプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」第2版、Ausubelら編、John Wiley and Sons社, New York, 1992年、10-32ページ〜10-35ページを参照)。
【0102】
<ハイスループットスクリーニング(High-Throughput Screening:HTS)>
HTSは、典型的には自動アッセイを用いて、多くの化合物を通して所望の活性を探す。典型的には、HTSアッセイは、特定の酵素又は分子に作用する化学薬品をスクリーニングして、新薬を見つけるために利用される。例えば、もし化学物質が酵素を不活性化するなら、その化学物質は、疾患を引き起こす細胞内のプロセスを防ぐのに有効性を提供できるかもしれない。ハイスループットスクリーニング法は、研究者が、各ターゲットに対する何千もの異なる化学物質を、ロボット操作システム及び自動的な結果の分析を用いて、非常に迅速に試してみることを可能にする。
【0103】
本願明細書で用いられている「ハイスループットスクリーニング」又は「HTS」とは、多数の化合物(ライブラリー)(一般に何十〜何十万もの化合物)を、ロボットスクリーニングアッセイを用いて、迅速に生体外(in vitro)スクリーニングすることを指している。ウルトラハイスループットスクリーニング(uHTS)は、一般的に、100000テスト/1日を超えるまで加速されたハイスループットスクリーニングを指している。
【0104】
スクリーニングアッセイは、較正のための、及びアッセイ成分(the components of the assay)の適切な操作を確認するためのコントロールを含んでいてもよい。通常は、反応物質は全て含有しているが化学物質ライブラリーのメンバーは含有しないブランクウェル(Blank wells)が含まれている。別の実施例では、既知の酵素阻害剤(又は酵素活性化剤)(それらのモジュレータが探求されている)は、アッセイの1つのサンプルと共にインキュベートすることができ、そして、結果としての酵素活性の減少(又は増大)が本願明細書の方法によって決定される。当然のことながら、モジュレータを酵素活性化剤又は酵素阻害剤と組み合わせて、既知の酵素モジュレータの存在によりもたらされていたであろう酵素活性化又は酵素抑制化(enzyme repression)を阻害するモジュレータを発見することもできる。同様に、スフィンゴ脂質ターゲットのリガンドを探求するときに、ターゲットの既知のリガンドを、コントロール/較正アッセイウェル(assay wells)の中に存在させることもできる。
【0105】
本発明の原形質膜小胞は、候補化合物をスクリーニングして所望の活性(例えば、リガンドが受容体に結合するのをブロックする)を有する候補化合物を同定するための、ハイスループットスクリーニングアッセイでの使用に容易に適応可能である。このように同定された化合物は、従来の「リード化合物」として役立つことができ、又はそれ自身を治療薬として用いることができる。
【0106】
本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングアッセイを利用して、種々の分子のライブラリーから所望の活性を持っている1つ以上の化合物を同定することを含む。「スクリーニングアッセイ」とは、あらかじめ選択された活性を有する収集物(collection)に含まれる化合物を同定し、分離し及び/又はその構造を決定するように設計された選択的アッセイである。「同定すること」とは、所望の活性を有する化合物を分離し、その化学構造を決定し(これに限定されないが、核酸のヌクレオチド配列及びポリペプチドのアミノ酸配列を決定することを含む)、及び、追加で又は代わりにスクリーニングされた活性を有する生成した化合物の構造を決定することを意味している。生化学的及び生物学的アッセイは、タンパク質−タンパク質間相互作用、酵素触媒作用、小分子−タンパク質結合、アゴニスト及びアンタゴニストから、細胞の機能までにわたる広範囲のシステムにおける活性をテストするように設計されている。そのようなアッセイは、自動アッセイ、半自動アッセイ及びHTS(ハイスループットスクリーニング)アッセイを含む。
【0107】
HTS法では、多くのテスト化合物が同時に又はほとんど同時に所望の活性をスクリーニングされるように、多くの別々な化合物(discrete compound)が、ロボットによる方法、自動方法又は半自動方法により、並行してテストされるのが好ましい。本発明の総合システムを用いて、1日に約6000〜20000までの異なる化合物、さらには約100000〜1000000までの異なる化合物をアッセイ及びスクリーニングすることが可能である。
【0108】
ハイスループット競合的阻害アッセイ(High throughput competitive inhibition assays)は、特定の標的タンパク質を阻害する薬剤を同定するように設計されている。特定の膜タンパク質を発現及び/又は表示する原形質膜小胞は、すべてのタイプの競合的阻害アッセイに利用できるかもしれない。
【0109】
本発明の原形質膜小胞は、「機能的スクリーニングHTSアッセイ(unctional screening HTS assays)」に用いられる。機能的スクリーニングアッセイは、特定の標的タンパク質の機能に関する情報を提供するアッセイとして定義される。機能的アッセイは、特定の標的タンパク質に対して薬剤をスクリーニングして、そのタンパク質に対してアゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして機能する薬剤を同定する。
【0110】
機能的アッセイは、標的タンパク質が、自然な機能を実行できる環境下にあることを必要とする。そのような機能は、これに限定されないが、GPCRと結合するGタンパク質、リン酸化又はタンパク質分解などの酵素活性、タンパク質−タンパク質間相互作用、及び分子とイオンの輸送を含む。機能的アッセイは、自然な機能が可能なタンパク質に対して薬剤をスクリーニングする。機能についての研究で用いられる標的タンパク質は、測定可能な機能を実行しなくてはならない。測定可能なタンパク質機能の例は、これに限定されないが、以下のものを含んでいる。蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を用いて、GPCRに結合したGタンパク質を測定すること (Ruiz-Velascoら、「ラットの交感神経性のニューロン中のGタンパク質サブユニットに融合させた緑色蛍光タンパク質の機能的発現とFRET分析(Functional expression and FRET analysis of green fluorescent proteins fused to G-protein subunits in rat sympathetic neurons)」、J. Physiol. 537:679-692, 2001;Janetopoulosら、「生きた細胞中のヘテロトリマーGタンパク質の受容体を介した活性 (Receptor-mediated activation of heterotrimeric G-proteins in living cells)」、Science 291:2408-2411, 2001)、機能的リガンドに誘導され、標的GPCRに結合したGタンパク質のアッセイのためのバイオルミネセンス共鳴エネルギー移動(BRET)(Menard、「バイオルミネセンス共鳴エネルギー移動(BRET):無傷細胞中でGタンパク質共役受容体(GPCR)活性を研究する強力なプラットフォーム(L. Bioluminescence Resonance Energy Transfer (BRET):A powerful platform to study G-protein coupled receptors (GPCR) activity in intact cells,)」、Assay Development, Nov. 28-30, 2001))、プロテアーゼの酵素活性を測定するための蛍光基質の利用(Grant、「蛍光基質を用いたプロテアーゼのバイオアッセイの設計 (Designing biochemical assays for proteases using fluorogenic substrates)」、 Assay Development, Nov. 28-30, 2001))、電圧感知性色素を介したイオンチャネル機能の決定(Andrewsら、「中枢神経系ニューロン中における遊離した細胞内カルシウム総濃度の関連測定(Correlated measurements of free and total intracellular calcium concentration in central nervous system neurons)」、Microsc Res Tech. 46:370-379, 1999)。
【0111】
原形質膜小胞を用いるハイスループットファンクショナルスクリーニングアッセイの限定しない例は、GPCRのそれぞれのGタンパク質への機能的結合を含む。リガンド結合において、電圧分極、イオン結合、光相互作用、及び他の刺激イベントは、GPCRを活性化し、それぞれのGタンパク質に連結させる。原形質膜小胞では、GPCRとそれぞれのGタンパク質との両方を、同時に発現させることができる。GPCRの活性化において、結合イベントは、原形質膜小胞内で発生するだろう。このように、原形質膜小胞内でのこの結合を検出することにより、GPCRに結合する薬剤をスクリーニングして、アンタゴニストとアゴニストを同定することができるだろう。アンタゴニストは、GPCRの機能の阻害を検出する阻害アッセイを用いて同定される。このように、薬剤は、GPCRが活性化されるのを抑制するやり方で、GPCRと相互作用する。アゴニストは、自然な活性化剤がない状態でGPCRを活性化する薬剤をスクリーニングすることにより同定される。
【0112】
ファンクショナルアッセイに用いられる原形質膜小胞の限定しない別の例は、イオンチャネルのアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングを含む。ある例は、ポリシストロニックエピソーマルプラスミド上でコードされたカルシウムチャネル(SCaMPER)であり、それは、可溶性発光タンパク質、エクオリンもコードする。このアッセイでは、原形質膜小胞は、その細胞質内のエクオリンタンパク質と、原形質膜小胞上で発現されたSCaMPERタンパク質とを含むだろう。よって、SCaMPERのリガンドであるSPCによる、又はその類似物によるSCaMPERの活性化において、カルシウムは、原形質膜小胞の中へ流入し、そして発光するエクオリンに結合するだろう。このように、カルシウムチャネルの機能的活性を検出する信号が得られる。
【0113】
原形質膜小胞は、標的タンパク質の発現、及びスクリーニングアッセイで使用される膜標本(membrane preparations)の調製のために利用することもできる。そのようなタンパク質は、これに限定されないが、受容体(例えば、GPCR、受容体、神経伝達物質受容体、感覚器受容体、成長因子受容体、ホルモン受容体、ケモカイン受容体、サイトカイン受容体、免疫学的受容体、及び補体受容体、FC受容体)、チャネル(例えば、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル)、孔(例えば、核膜孔タンパク質、水チャネル)、イオンポンプ及び他のポンプ(例えば、カルシウムポンプ、プロトンポンプ)、交換輸送体(例えば、ナトリウム/カリウム交換輸送体、ナトリウム/水素交換輸送体、カリウム/水素交換輸送体)、電子伝達タンパク質(例えば、シトクロムオキシダーゼ)、酵素及びキナーゼ(例えば、プロテインキナーゼ、ATPアーゼ、GTPアーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ)、構造タンパク質/結合タンパク質(例えばカベオリン、クラスリン)、アダプタータンパク質(例えば、TRAD、TRAP、FAN)、走化性タンパク質/接着タンパク質(例えば、ICAM11、セレクチン、CD34、VCAM−1、LFA−1、VLA−1)、及びキメラタンパク質/融合タンパク質(例えば、通常の可溶性タンパク質が別のタンパク質の膜貫通領域に結合されているタンパク質)を含んでいる。そのようなアッセイでは、アンタゴニスト又はアゴニストのいずれかである薬剤をスクリーニングするために、膜標本が用いられる。
【0114】
<ケミカルライブラリー>
コンビナトリアルケミストリーの発展は、何百〜何千もの別々な化合物を、迅速かつ経済的に合成することを可能にする。これらの化合物は、典型的には、効率的なスクリーニングのため設計された小さい有機分子の中規模ライブラリーに配列(array)される。コンビナトリアル法は、新規な阻害剤の同定に適した不偏性のライブラリーを生成するのに用いることができる。さらに、所定の生物学的活性を有する単一の親化合物(single parent compound)の系統を引いた、小さくてそれほど多様ではないライブラリーを生成することができる。いずれのケースでも、コンビナトリアルケミストリーにより製造された治療的に関連のある生体分子(例えば、重要な酵素の阻害剤など)を特異的にターゲットにした効率的なスクリーニング系の欠如は、これらのリソースの最適な利用を妨げる。
【0115】
コンビナトリアルケミストリーのライブラリーは、例えば複数の試薬などの多数の化学的「ビルディングブロック(building blocks)」を組み合わせることにより、化学的合成又は生物学的合成のいずれかで生成された、多様な化合物の収集物である。例えば、直線的なコンビナトリアルケミストリーのライブラリー(例えばポリペプチドライブラリーなど)は、1組の化学的ビルディングブロック(アミノ酸)を、多数のコンビネーションで、そして潜在的にできる限り所定の化合物長さ(つまり、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)で、組み合わせることにより形成される。何百万もの化合物は、化学的ビルディングブロックを、このように組合せ混合(ombinatorial mixing)することによって合成することができる。
【0116】
「ライブラリー」は2〜50000000個の多様なメンバー化合物を含むことができる。好ましくは、ライブラリーは、少なくとも48個の多様な化合物、好ましくは96個以上の多様な化合物、より好ましくは384個以上の多様な化合物、さらに好ましくは10000個以上の多様な化合物、より好ましくは100000個を超える多様なメンバー、最も好ましくは、1000000個を超える多様なメンバー化合物を含む。「多様な」とは、ライブラリー中の化合物のうち50%を越えるものが、ライブラリーの他のメンバーと同一ではない化学構造を有していることを意味している。好ましくは、ライブラリー中の化合物のうち75%を越えるもの、より好ましくは90%を超えるもの、最も好ましくは約99%を超えるものが、収集物の他のメンバーと同一ではない化学構造を有している。
【0117】
コンビナトリアルケミストリーのライブラリーの調製は、当業者に周知である。総説は、以下を参照のこと。Thompsonら、「小分子ライブラリーの合成と応用(Synthesis and application of small molecule libraries)」、Chem Rev 96:555-600, 1996、Kenanら、「コンビナトリアル形状のライブラリーによる分子多様性の探求(Exploring molecular diversity with combinatorial shape libraries)」Trends Biochem Sci 19:57-64, 1994、Janda、「標識ライブラリーと非標識ライブラリー:コンビナトリアルケミストリーのライブラリーの生成とスクリーニングの方法(Tagged versus untagged libraries: methods for the generation and screening of combinatorial chemical libraries)」 Proc Natl Acad Sci USA. 91 :10779-85, 1994、Leblら、「1ビーズ1構造コンビナトリアルライブラリー(One-bead-one-structure combinatorial libraries)」、Biopolymers 37: 177-98, 1995、Eichlerら、「ペプチド、ペプチドミメティック及び有機合成のコンビナトリアルのライブラリー(Peptide, peptido mimetic, and organic synthetic combinatorial libraries)」、Med Res Rev. 15:481-96, 1995、Chabala, 「固相コンビナトリアルケミストリーと、リード同定のための新規な標識法(Solid-phase combinatorial chemistry and novel tagging methods for identifying leads)」、Curr Opin Biotechnol. 6:632-9, 1995、Dolle、「コンビナトリアルケミストリーによる酵素阻害剤の発見(Discovery of enzyme inhibitors through combinatorial chemistry)」、MoI Divers. 2:223-36, 1997、Fauchereら、「ロボット合成の可溶性ライブラリーを用いたペプチド及び非ペプチドリードの発見(Peptide and nonpeptide lead discovery using robotically synthesized soluble libraries)」、Can J Physiol Pharmacol. 75:683-9, 1997、Eichlerら、「合成コンビナトリアルのライブラリーの生成と利用(Generation and utilization of synthetic combinatorial libraries)」、MoI Med Today 1: 174-80, 1995、Kayら、「ファージディスプレイのコンビナトリアルペプチドライブラリーからの酵素阻害剤の同定(Identification of enzyme inhibitors from phage-displayed combinatorial peptide libraries)」Comb Chem High Throughput Screen 4:535-43, 2001。
【0118】
このようなコンビナトリアルケミストリーのライブラリーは、これに限定されないが、ペプチドライブラリを含んでいる(例えば、米国特許5,010,175、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res., 37:487-493 (1991)、及びHoughtonら, Nature, 354:84-88 1991を参照)。化学的多様性ライブラリーを生成するための他の化学も用いることができる。そのような化学は、これに限定されないが、以下を含んでいる。ペプチド(PCT公開公報 WO 91/19735)、コードされたペプチド(PCT公開公報 WO 93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(PCT公開公報 WO 92/00091)、ベンゾジアゼピン(米国特許5,288,514)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン及びジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(Hobbsら、Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 90:6909-6913 1993)、ビニローグ(vinylogous)ポリペプチド(Hagiharaら、J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 1992)、ベータDグルコース足場(scaffolding)を含む非ペプチドのペプチド模倣薬(nonpeptidal peptidomimetics)(Hirschmannら、J. Amer. Chem. Soc, 114:9217-9218 1992)、小化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen, et al., J. Amer. Chem. Soc, 116:2661 1994)、オリゴカルバメート(oligocarbamates)(Choら、Science, 261 :1303 1993)、及び/又はぺプチジルホスホネート(Campbellら、J. Org. Chem. 59:658 1994)。核酸ライブラリー(Ausubel, Berger and Sambrook,上記の全てを参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許5,539,083参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughnら、Nature Biotechnology, 14(3):309-314 (1996)及びPCT/US96/10287を参照)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liangら、Science, 274: 1520-1522 (1996)及び米国特許5,593,853を参照)、有機小分子(small organic molecule)ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン, Baum C&E News, January 18, 33ページ(1993)参照)、イソプレノイド(米国特許5,569,588)、チアゾリジノン及びメタチアゾノン(metathiazanones)(米国特許5,549,974)、ピロリジン(米国特許5,525,735及び5,519,134)、モルホリノ化合物(morpholino compounds)(米国特許5,506,337)、ベンゾジアゼピン(米国特許5,288,514)など。
【0119】
<逆スクリーニング(Reverse Screening)>
ある態様では、本発明は、あらかじめ選ばれた化合物と相互作用する膜タンパク質を同定するために、原形質膜小胞のライブラリーをスクリーニングする方法を提供し、そこでは、各原形質膜小胞は少数の(好ましくは1つの)膜たんぱく質をコードする発現因子を含んでいる。限定しない例示として、膜タンパク質、融合タンパク質又は細胞質タンパク質をコードする配列は、「ショットガン」クローニング又は定方向クローニングのいずれかにより、例えば、cDNAクローンのスクリーニング又は選択により、又はDNAフラグメント(タンパク質ファミリーの高度保存領域(highly conserved region)をコードする1つ以上のオリゴヌクレオチドを用いて、タンパク質をコードする)のPCR増幅などにより、発現ベクター内にクローニングされる。そのような技術の限定しない例は、Krautwurst, D.ら、1998年、「受容体ライブラリーの機能発現による嗅覚受容体のリガンドの同定(Identification of ligands for olfactory receptors by functional expression of a receptor library)」、 Cell 95:917-926を参照されたい。限定しない例として、受容体を発現する原形質膜小胞は、あらかじめ選ばれたリガンド(薬物であってもよい)を結合する。受容体結合、酵素活性、及びチャネリングイベント(channeling event)のための様々なアッセイが本技術分野で知られており、そこには検出可能な化合物を含んでいてもよい。結合アッセイの場合には、競合的アッセイも用いることができる(Masimirembwa, C. M.ら、2001年「創薬において好ましい代謝特性のための化合物の生体外ハイスループットスクリーニング(In vitro high throughput screening of compounds for favorable metabolic properties in drug discovery)」、Comb. Chem. High Throughput Screen. 4:245-263、 Mattheakis, L. C及びA. Saychenko、2001年、「イオンチャネルターゲットをスクリーニングするためのアッセイ技術(Assay technologies for screening ion channel targets)」、Curr. Opin. Drug Discov. Devel. 4:124-134、Numann, R.及びP. A. Negulescu、2001年、「心臓のイオンチャネルのためのハイスループットスクリーニング戦略(High-throughput screening strategies for cardiac ion channels)」、Trends Cardiovasc. Med. 11:54-59、Le Poul, E.ら、2002年、「エクオリン機能アッセイのハイスループットスクリーニングへの適応(Adaptation of aequorin functional assay to high throughput screening)」、J. Biomol. Screen. 7:57-65、Graham, D. L.ら、2001年、「上皮成長因子受容体のアンタゴニストのためのハイスループットスクリーニングフォーマットとしてのβガラクトシダーゼ酵素相補性技術の応用(Application of beta-galactosidase enzyme complementation technology as a high throughput screening format for antagonists of the epidermal growth factor receptor)」、J. Biomol. Screen. 6:401-411)。
【0120】
アッセイにより原形質膜小胞を同定し分離したら、膜タンパク質を同定する。リガンド、アンタゴニスト及びアゴニストは、膜タンパク質が役割を果たす疾患の治療のためのリード化合物及び/又は薬剤として用いられてもよい。特に、あらかじめ選ばれたリガンドが薬剤のとき、その薬剤で治療される疾患は、新規なリガンド、アンタゴニスト及びアゴニストを用いて、又は薬剤及びそこから発生するプロドラッグを用いて治療される、と予想される。
【0121】
<膜タンパク質の構造の決定>
タンパク質の三次元(3D)構造は、創薬に利用されてもよい。しかしながら、膜タンパク質は、3D構造の決定に困難な課題を提示する。Muller、「Gタンパク質共役受容体の3D構造に向かって:集学的アプローチ(Towards 3D structures of G protein-coupled receptors: a multidisciplinary approach)」(レビュー), Curr Med Chem 2000 pp.861 -88、Levyら、「脂質層上への二次元結晶化:膜タンパク質の成功したアプローチ(Two-dimensional crystallization on lipid layer: A successful approach for membrane proteins)」、J Struct Biol 1999 127, 44-52。球状タンパク質は、何百もの異なる折り畳みの三次元構造が決定されているが、内在性膜タンパク質は、20未満の異なるの構造が決定されたに過ぎない。これには多くの理由がある。膜から膜タンパク質を抽出することで、それらの自然な構造が容易に分断される可能性があり、また、膜タンパク質は、結晶させるのが難しいことで有名である。
【0122】
いくつかの膜タンパク質は、膜中で容易に二次元結晶を形成し、X線結晶学の代わりに電子回折分光法(ED)を用いて構造を決定するのに用いることができる。
【0123】
核磁気共鳴(NMR)は、膜タンパク質の構造を決定するための別の方法であるが、ほとんどの膜タンパク質は、現在の最新技術の高解像度NMRには大きすぎる。さらに、膜タンパク質は、NMRのために特別な条件を必要とし、例えば、タンパク質の陽子の信号を膜脂質の陽子のノイズと混同するこをと避けるために、重水素を含む脂質を用いなければならない。
【0124】
本発明の原形質膜小胞は、膜から除去するときに不溶な膜タンパク質の構造を決定するのに用いることができる。
【0125】
<ディファレンシャルタンパク質発現プロファイリング解析(Differential Protein Expression Profiling Analysis)>
本発明は、タンパク質発現プロファイリング解析により、差動的(differentially)な発現タンパク質を同定する方法を提供する。タンパク質発現プロフィルは、細胞又は細胞株から製造された原形質膜小胞の個体群からのサンプルのタンパク質を分解及び検出が可能ないずれかの方法により生成することができる。増加した解像度が多数の個々のタンパク質の分析を可能にして、プロフィルの力と有用性を増加できるので、より高い分解力を備えた方法が一般的に好ましい。大量のタンパク質が存在すると、他のタンパク質、特に低含量のタンパク質の発現のごくわずかな変化を覆ってしまうかもしれないので、タンパク質の分離及び検出に先立って、サンプルを(例えば免疫除去(immunodepletion)などにより)前処理して、サンプルから大量のタンパク質を除去することができる。サンプルの複雑さを低減するために、サンプルに1つ以上の手順を受けさせることもできる。例えば、クロマトグラフィーを用いてサンプルを分留することができる。各々の画分は複雑さが縮小されており、画分内のタンパク質の分析を容易にする。
【0126】
同時にいくつかのタンパク質を分解し検出するのに有用な3つの方法は、アレイに基づく方法(array-based methods)、質量分析法基づく方法、及び2次元ゲル電気泳動に基づく方法を含んでいる。
【0127】
タンパク質アレイは、一般にかなりの数の異なるタンパク質捕獲リガンド(protein capture reagents)(例えば、抗体又は抗体可変領域など)を含んでおり、固体担体(solid support)上の異なる場所にそれぞれ固定されている。そのようなアレイは、例えば、Sigma-Aldrich社から、例えばアレイのPanoramaラインの一部として入手可能である。アレイはタンパク質サンプルに露出され、捕獲試薬は特定のタンパク質ターゲットを選択的に捕獲する。捕獲されたタンパク質は、標識の検出により検出される。例えば、タンパク質は、アレイに露出する前に標識付けすることができる。アレイ上の特定の場所における標識の検出は、対応するタンパク質の検出を表す。アレイが飽和していなければ、検出された標識の量は、サンプル中のタンパク質の濃度又は量と関連するだろう。捕獲タンパク質は、続いて第2の捕獲試薬に露出させて検出することもでき、その検出では、捕獲タンパク質自体が標識付け可能か、あるいはサンドイッチイムノアッセイフォーマットのように検出可能である。
【0128】
質量分析法に基づく方法は、例えば、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化法(MALDI)、液体クロマトグラフィー/質量分析法/質量分析法(LC−MS/MS)及び表面増強レーザ脱離/イオン化法(SELDI)技術を含んでいる。例えば、タンパク質プロフィルはエレクトロスプレーイオン化とMALDIを用いて生成することができる。SELDIは、例えば米国特許6,225,047に説明されており、質量分析チップ上に保持表面を組込む。タンパク質サンプル中のタンパク質のサブセットは、表面上に保持されて、混合物の複雑さを低減する。その後の飛行時間型質量分析法は、保持されたタンパク質の「指紋」を生成する。
【0129】
二次元ゲル電気泳動を含む方法では、サンプル中のタンパク質は、一般的に、SDS−PAGEの間に、等電点電気泳動法による第一の次元と、分子量による第二の次元とに分離される。二次元の分解能のおかげで、何百又は何千ものタンパク質を、同時に分解し分析することができる。タンパク質は、染色(例えば銀染色など)の適用により、又はタンパク質上の標識(例えばCy2、Cy3又はCy5色素など)の存在により、検出される。タンパク質を同定するために、ゲルスポットを切り出して、ゲル内でトリプシン消化を行った。トリプシン消化物は、例えばMALDIなどの質量分析法によって分析することができる。得られたペプチドのマススペクトル、ペプチド質量指紋(mass fingerprint)、又はPMFは、配列データベースに対して検索される。PMFは、検索プログラムにより、コンピュータで(in silico)で生成されたすべての理論上のトリプシンペプチドの質量と比較される。データベース検索のために、例えばProspector, Sequest, and MasCot(Matrix Science社、ロンドン、英国)などのプログラムを用いることができる。例えば、MasCotが生成する統計学的に基づいたMowseスコアは、マッチが重要かどうかを示している。MS/MSは、データベースマッチを得る見込みを増加させるのに用いることができる。ペプチドのCID−MS/MS(タンデムMSの衡突誘起解離)を利用して、アミノ酸配列に関する情報を含んでいるフラグメントイオンのスペクトルを与えることができる。この情報をペプチド質量指紋に加えることにより、Mascotはマッチの統計学的有意性を増加させることができる。また、場合によっては、単一ペプチドの生のMS/MSのスペクトルのみを提出することにより、タンパク質を同定することも可能である。
【0130】
<抽出した脂質中での膜タンパク質の再構成>
生体膜の原位置(In situ)の研究は、膜内の脂質及びタンパク質の莫大な複雑さのため、困難である。したがって、多くの場合、膜タンパク質を自然な膜から精製し、膜タンパク質を人工膜に再び挿入することは極めて重要(vital)である。このプロセスは再構成と呼ばれる。膜タンパク質が、膜タンパク質を正確に脂質二重層膜に折り畳んで挿入したときに発生する完全な(intact)機能性を有するために、再構成は、多くの場合に必要である。膜タンパク質を再構成するための多数の方法があり、それらはこのプロセスの一般的なプロトコルではないように見えるが、その方法は、通常は以下のうちの1つ又はいくつかを含んでいる。機械的手段(脂質と共に膜タンパク質を超音波処理又は剪断する)、凍結融解、有機溶媒及び洗剤。洗剤は、再構成の目的において最も一般的で、広く用いられており、多くの努力は、プロセス全体にわたって膜タンパク質の活性を保存する正しい条件を探すことに費やされる。膜タンパク質の方向及び挿入、再構成されたプロテオリポソームの形態学及びサイズ、並びにそれらの浸透性も、重要なファクターである。
【0131】
通常、再構成は、脂質−タンパク質−洗剤と脂質−洗剤ミセルとが混ざった溶液を作成するために、過剰な(リン)脂質及び適切な洗剤と共に純粋な膜タンパク質の共ミセルを介して進む。その後、洗剤がミセル溶液から除去されて、組み込まれた膜タンパク質と有する閉じた脂質二重層膜が形成される。多くの方法及びプロトコルが文献中に存在し、それらは主に、洗剤を除去する技術が異なる。
【0132】
いくつかの論文では、膜タンパク質はそれらを取り囲む脂質環境により極度に影響を受けることに注目した。一部の例では、ある特定の脂質はいくつかの膜タンパク質の機能性にとって不可欠であることが示された。また、二重層特性は膜タンパク質に影響を及ぼすことができる。例えば、タンパク質の疎水性の長さと脂質二重層膜とのミスマッチは、膜タンパク質の機能性に強く影響を及ぼす可能性がある。弾性特性と二重層(それは、湾曲エネルギーと側圧を含んでいるだろう)もまた、膜タンパク質に影響を及ぼすかもしれない。
【0133】
本願明細書に記載した方法は、再構成実験でさらに使用するために、特異細胞型から原形質膜脂質を精製することが可能である。原形質膜の細胞特異的脂質成分が保持されるという事実から、利点が生じる。特異性細胞株の原形質膜から発する膜タンパク質の再構成を行う場合、自然な膜内のように同じ脂質により再構成を行うことができる。
【0134】
<実施例>
当然ながら、本発明は、これから記述される実施例に限定して解釈されるべきではない。むしろ、本発明は、本願明細書で提供されたいずれの及び全ての用途、及び通常の技術者の範囲ですべての等価的バリエーションを含んでいると解釈されるべきである。
【実施例1】
【0135】
実施例1:高純度原形質膜小胞(PMVs)の製造
高純度原形質膜小胞の製造は4つの工程から成る。
1.細胞培養物に原形質膜小胞(PMV)形成剤を添加することによる原形質膜小胞(PMVs)の形成
2.細胞培養物からの原形質膜小胞(PMVs)の放出
3.密度勾配遠心分離法による原形質膜小胞(PMVs)の精製
4.透析による原形質膜小胞(PMV)の精製
【0136】
工程1〜2では、直径約10μmまでの範囲にわたる原形質膜小胞(PMV)サイズを有する粗多分散(crude poly disperse)原形質膜小胞(PMV)画分を生成する。このような原形質膜小胞(PMVs)は、いくつかの構造的及び機能的アッセイにおいて、大いなる利用法を見い出すことができる。このようなアッセイの例には、イオンチャネル機能、Gタンパク質機能、接着タンパク質機能、及びさらに多く例を含む。
【0137】
工程3〜4を加えることで、直径約10μmまでの原形質膜小胞(PMV)サイズを有する細胞フリーの超高純度の多分散原形質膜小胞(PMV)画分を生成し、それはいくつかの構造的及び機能的アッセイ(タンパク質発現をスクリーニングするプロテオームアッセイと、ターゲット同定とを含む)に利用できる。
【0138】
接着細胞培養に原形質膜小胞(PMV)形成薬剤を追加することによる原形質膜小胞(PMV)の形成(Formation of PMVs by addition of PMV-forming agents to an adherent cell culture)
原形質膜小胞(PMV)を高収率で製造及び精製するためには、十分な量の細胞を培養する必要がある。方法は拡張性(scalable)があり、単一の細胞から単一の原形質膜小胞(PMVs)を収集する場合のミクロ調整(micropreps)から、何億もの細胞から原形質膜小胞(PMVs)を収集する場合の大きなバッチ調製により良好に作業する。接着細胞に加えて、浮遊細胞液(suspended cells)もよく用いられて、接着細胞のためにここで記述された手順と同じ手順に従うことができる。
【0139】
接着細胞を〜80%コンフルエンシー(confluency)まで増殖させて、〜15×10細胞を得る(図1Aを参照)。血清タンパク質はプロテオーム解析中に汚染源を提起するであろうから、その後、細胞層を、10mMのHEPESと140mMのNaClとを含む緩衝液を用いて徹底的に洗浄して、完全に培地を除去する(図1B)。
【0140】
その後、培養フラスコに、2mMのジチオトレイトール(DTT)と25mMのホルムアルデヒド(FA)とを含む小胞形成溶液を直接加えることにより、小胞形成が誘導される(図1C)。FAとDTTを用いると、原形質膜小胞(PMV)は〜15分の後に発生し始める。
【0141】
〜30分のインキュベーションの後、フラスコを遅い振動で機械的に攪拌する(図1D)。これにより、小胞は細胞層から出芽して、自由に浮遊する原形質膜小胞(PMV)の浮遊液をもたらす。撹拌は、手動(つまり、フラスコを振ること)で、又は機械的な実験室用振盪機を使用して、もしくは代わりに超音波処理を使用して行うことができる。
【0142】
収率を最大にするために、小胞形成は37℃で行われ、30分〜数時間までの期間続けられた。生成された小胞は、細胞培養皿からピペットを用いて(図1E)、Eppendorf社のバイアル(図1F)に移される。
【0143】
単一のNG108−15細胞は、2時間の時間窓(time window)で直径10μmの原形質膜小胞(PMVs)を3つ製造することができる。これは、単一細胞の原形質膜(PM)から解放された〜300μmの膜面積(membrane area)に達する。このように、〜1×10の接着細胞を保持する培養フラスコは、平均直径10μmの300万個の原形質膜小胞(PMV)(314mmの膜面積に相当する)を生成するだろう。
【0144】
また、我々は、室温で、1細胞に付着した原形質膜小胞(one cell-attached PMV)の増殖時間を微視的に観察することにより、膜放出速度を見積もった。3つの原形質膜小胞(PMV)の製造を仮定すると、30分で直径5μmの膨張(5μm→10μm)は、1個の細胞当たり〜8μm/分の膜放出速度に相当する。比較のために、エンドシトーシス速度は、1個の細胞当たり〜5μm/分の範囲にある。細胞は、より多く放出できると推測することができる。より長いインキュベーション時間の原形質膜小胞(PMV)は、最初の原形質膜小胞(PMV)発生(〜12時間)を除去した後に、新鮮な小胞形成溶液を用いた、12〜24時間のラウンドの追加インキュベーションなので、依然として大量の原形質膜小胞(PMV)を生じる。しかしながら、原形質膜小胞(PMV)の第3世代(それは第1インキュベーションのラウンドから60時間後に採取された)は、顕著に小さい平均直径を有しており、利用可能な膜の貯蔵が枯渇したことを示している。
【0145】
この工程が完了した後、直径が約10μmまでの範囲の原形質膜小胞(PMV)サイズを有する粗多分散原形質膜小胞(PMV)画分が得られる(図1F)。このような原形質膜小胞(PMVs)は、いくつかの構造的及び機能的アッセイにおいて、大いなる利用法を見い出すことができる。特に、アッセイ中の細胞サイズの目的物は、ハイスループットとハイコンテンツ分析(high-content analysis)を含めて用いられる。
【0146】
粗原形質膜小胞(PMV)含有溶液は、例えばプロテオーム解析を汚染するかもしれない様々な物質を含んでいるので、超高純度の原形質膜小胞(PMV)画分を必要とする用途のために、粗原形質膜小胞(PMV)含有溶液を精製しなければならない。最初に、他の膜性粒子、剥離した類似細胞(like detached cell)及び細胞デブリから、原形質膜小胞(PMV)を、分離しなければならない。原形質膜小胞(PMV)は、サイトゾルにより充填され、そして細胞と同様のサイズを有しているので、大きな画分は遠心分離中に細胞物質と共に沈殿して、有効な分離を妨害するだろう。これを回避するために、我々は、細胞と原形質膜小胞(PMVs)との密度差を利用する。そのために、原形質膜小胞(PMV)溶液(図2A)を遠心分離管に移し、高密度スクロース相を下に置く(図2B)。これは原形質膜小胞(PMV)溶液の直下に2Mスクロースを注意深く加えることにより行われる。その後、遠心分離を、スイングアウトロータで、500×gで15分行う。原形質膜小胞(PMV)は蓄積するが、緩衝液/スクロースの相境界を横断せず、その一方、細胞はチューブの底に沈殿し、これにより、細胞と原形質膜小胞(PMV)とのほぼ完全な分離が確実になる(図2C)。
【0147】
細胞は、濾過法(例えば、数μmの孔サイズを有するフィルター)により、原形質膜小胞(PMV)溶液から除去することもできる。
【0148】
さらなる汚染物質は、おそらく小胞形成手順の間に細胞から及び崩壊した原形質膜小胞(PMV)から放出された、可溶性タンパク質である。また、小胞形成剤FAも、そのタンパク質架橋活性により、下流でのプロテアーゼ消化の効率を妨げるかもしれない。それは、さらに同じ理由で、構造的アッセイだけでなく機能的アッセイの両方を複雑にするかもしれない。従って、サンプルを吸引して(図2D)、透析チューブに移し(図2E)、高カットオフ透析チューブ(1MDa)を用いて透析された。透析は、10mMのHEPESと140mMのNaClとを含む緩衝液に対して8〜12時間行われた。透析の完了後、小胞はEppendorf社のバイアルに移された(図2F)。
【0149】
上述の方法は、直径約10μmまでの原形質膜小胞(PMV)サイズの、かなり多分散な原形質膜小胞(PMV)画分を生じ、いくつかの構造的及び機能的アッセイ、とりわけタンパク質発現をスクリーニングするプロテオームアッセイ、ターゲット同定、及び以下に詳述するさらに多くに利用することができる。
【0150】
その後、超高純度の原形質膜小胞(PMV)画分は、用途に応じて多数の方法でさらに処理することができる。例えば糖残基、膜タンパク質及び膜自体の修飾などの原形質膜小胞(PMV)の化学修飾(chemical makeup)を、各ケースに適合させることができる。コロイドサイズは重要なパラメーターになる可能性があり、多くの場合、膜プロテオームに所定の化学修飾と備えた単分散画分が望まれる。続いて、我々は、プロテオームアッセイを行う目的の、超高純度の原形質膜小胞(PMV)画分の、オンチップ及び溶液中の処理工程について記述する。この処理は5つの工程から成り、いくつかの工程は、特定の用途領域に応じて任意である。
1.膜タンパク質のアルキル化及び還元
2.非共有結合のタンパク質間相互作用を分断させるアルカリ洗浄
3.小胞内汚染物質を放出させ、かつ小さな小胞を形成する超音波処理
4.原形質膜小胞(PMV)画分を洗浄する超遠心分離法
5.すすぎ及び炭酸水素アンモニウム緩衝液中への分散
これらの工程は、次のテキストではアラビア数字により言及される。
【0151】
1.膜タンパク質のアルキル化及び還元
多分散原形質膜小胞(PMV)の透析されたサンプル中の表面露出膜タンパク質(図3A)は、10mMのDTTにより還元し、50mMヨードアセトアミドによりアルキル化して、より多くの切断部位を消化に利用可能にする目的とタンパク質凝集を防ぐためにジスルフィド結合を壊す(図3B)。
【0152】
2.非共有結合のタンパク質間相互作用を分断させるアルカリ洗浄
次に、高pH洗浄工程(pH11、NaCO)は、非共有結合のタンパク質間相互作用を分断して、膜からサイトゾルタンパク質を分離する(図3C)。
【0153】
3.小胞内汚染物質を放出させ、かつ小さな小胞を形成する超音波処理
この工程は、広範囲な超音波処理も含んでおり、原形質膜小胞(PMV)を分断し、より小さな小胞として封じ直し、それによってサイトゾルの内容物を原形質膜小胞(PMV)溶液に放出させる。
【0154】
4.原形質膜小胞(PMV)画分を洗浄する超遠心分離法
この追加の汚染源を除去するために、原形質膜小胞(PMV)の膜を100000×gの超遠心分離法により沈殿させて、上澄みを除去する(図3D)。
【0155】
5.すすぎ及び炭酸水素アンモニウム緩衝液中への分散(図3E〜G)
最後に、膜の沈殿物をすすぎ、20mMの炭酸水素アンモニウム緩衝液中で超音波処理して分散させて、消化の準備が完了する(図3H)。
【0156】
上述の工程1〜5による原形質膜小胞(PMV)画分の処理後、ついに、我々は小サイズの原形質膜小胞(PMV)の超純粋単分散画分を得る。この単分散原形質膜小胞(PMV)の超純粋画分は、構造的及び機能的アッセイを含む多くの用途に用いることができる。
【0157】
以下に、我々は、LC−MS/MSによる膜プロテオーム解析を行う目的のために、どのようにこの画分を酵素でのタンパク質消化に利用するかを記述する。我々は2つの異なる消化プロトコルを用いる。一方は溶液中で行われ、他方は、以下にさらに詳細に説明するようにフローセル中に固定した原形質膜小胞(PMV)を用いて行われる。
1.原形質膜小胞(PMVs)中での膜タンパク質の溶液中消化
2.固定された原形質膜小胞(PMVs)上で膜タンパク質の消化
【0158】
消化は、溶液中で行われ、同様に、原形質膜小胞(PMV)をフローセル中に固定した後に行われる。
溶液中消化では、処理された原形質膜小胞(PMV)溶液にトリプシンを加え、そしてペプチドは低カットオフ濾過によって膜から分離される。
【0159】
フローセルの動作原理は、単純な緩衝液/試薬交換とサンプルの取り扱いを可能にする原形質膜小胞(PMV)の固相固定に基づいている(図4A〜D)。原形質膜小胞(PMV)溶液がフローセルに注入され、そこで、タンパク質でもある膜が表面に付着する。トリプシン溶液の注入により、固定された原形質膜小胞(PMV)の表面に露出されたタンパク質ドメインの消化が始まる(図4A〜4D)。いくつかの可溶タンパク質汚染物質が固定され、その多くは、膜タンパク質画分を犠牲にすることなく、繰り返された洗浄サイクル中に洗い流されるので、フローセルは、清浄なペプチド画分を提供する精製工程も提供する。最後に、ペプチドは溶出され、LC−MS/MSにより分析される。
【実施例2】
【0160】
実施例2:NG−108細胞からの原形質膜小胞の単離及び精製と、それに続くLC−MS/MSプロテオーム解析
単離及び精製された原形質膜小胞。NG108−15細胞を、DMEM(4.5g/Lのグルコース、2mMのL−グルタミン)を10%のFCSと共に用いて、コンフルエントまで増殖させた。小胞形成は、先に述べた20、29ように、いくつかの修飾を伴って行われた。簡潔に述べると、コンフルエントな細胞層は、10mMのHEPES、140mMのNaCl、pH7.4を用いて2回洗浄された。細胞は、2〜4mLの小胞形成緩衝液(10mMのHepes、140mMのNaClを含む2mMのCaCl、2mMのDTT及び25mMのホルムアルデヒド、pH7.4)でインキュベーションされ、ここでインキュベーション時間は8〜16時間の間で選択され、37℃で、穏やかな振動(60〜80サイクル/分)であった。フラスコから上澄みを収集し、15mLコニカルチューブにプールした。表面から剥離した細胞を除去するために、溶液は2mLの2Mスクロースを下に置かれ、スイングアウトロータを用いて、4℃、500×gで15分遠心分離機にかけられた。上澄みを収集し、そして、大きなブレブの大多数がスクロース相に近い溶液中に見られたことに気付いた。次に、原形質膜小胞(PMV)は透析され、そこでは、Spectrapor Biotech 1000kDa MWCO CE膜(Spectrum研究所、ブレダ、オランダ)が、分析に先立って、低分子量タンパク質と残った小胞形成緩衝液成分を除去するのに最も有効な透析材料を提供する。RC(再生セルロース)膜を用いた透析後は、原形質膜小胞(PMV)の回収(recovery)が貧弱であったが、CE(セルロースエステル)膜を用いると原形質膜小胞(PMV)の収率は安定していたことに気が付いた。我々は、原形質膜小胞(PMV)がRC膜に付着して、相当に収率を減少させると推測している。透析は、通常は、2Lの10mMのHepes及び140mMのNaClに対して、4℃、pH7.4で8〜12時間行われた。
【0161】
<原形質膜小胞(PMV)の下流での処理とタンパク質消化>
精製された原形質膜小胞(PMV)溶液は、下流での分析の最適化のために処理された。還元は、DTT(最終濃度10mM、560℃、1時間)で行われた。その後のアルキル化は、ヨードアセトアミド(最終濃度50mM、室温、1時間)で行われた。原形質膜小胞(PMV)溶液にNaCOを加え、その後に最終濃度100mM(pH11)で〜30分の氷上の浴超音波処理(bath-sonication on ice)を行った。次に、膜は遠心分離法(100000×g、60分)によって収集された。上澄みを除去し、注意深くすすいだ後に、沈殿物を、pH8の20mMの炭酸水素アンモニウム中で、超音波処理により再度浮遊させて分散させた。その後、我々は、タンパク質含有量を分析するために、2つの異なる方法のいずれかを用いた。(1)原形質膜小胞(PMV)浮遊液は、トリプシンを用いて溶液中で消化され(0.005mg/mL、370℃、16時間)、続いて濾過(Anotop、20nmフィルター)された。以下に述べるように、ろ過したペプチド溶液はLC−MS/MSによって分析された。(2)原形質膜小胞(PMV)浮遊液は処理され、小胞が固定されるLPI(商標)フローセル(Nanoxis社、イェーテボル、スウェーデン)に注入された。固定された膜小胞は、300mMのNaCl、10mMのトリス、pH8で、次いで20mMの炭酸水素アンモニウム、pH8でフローセルをすすぐことにより、洗浄された。固定された小胞内の膜タンパク質は、サンプルをトリプシン(0.005mg/mL、20mMの炭酸水素アンモニウム中、pH8)と共に、37℃で2時間インキュベーションすることにより消化された。得られたペプチド溶液は、20mMの炭酸水素アンモニウム、pH8により溶出され、LC−MS/MSにより分析された。
【0162】
<LC−MS/MS及び生物情報学>
ペプチドは、イェーテボリ大学にあるプロテオミクスコア設備のLC−MS/MSによりて分析された。分析に先立って、サンプルは、真空遠心分離機にかけられて乾かされ、0.1%のギ酸水溶液中20μL中で再構成された。サンプルは13000×gで15分遠心分離機にかけられ、17μLが最終的にLC−MS/MSシステムのオートサンプラーに移された。液体クロマトグラフィーには、Agilent社の1100バイナリポンプが使用され、トリプシンペプチドは、3μm ReproSil ReproSil-Pur C18-AQ粒子(Dr. Maisch社、Ammerbuch、ドイツ)により施設内で充填した200・0.05mmi.d.の溶融シリカカラムで分離された。サンプル(2μL)が注入され、ペプチドは、3μm C18−接合粒子で充填されたプレカラム(45・0.1mmi.d.)により最初にトラップされた。0.2%ギ酸中の10〜50%アセトニトリルから成る40分グラディエントが、ペプチドの分離に用いられ、カラムを通る流速は、およそ100nL/分に分割されることにより、低減された。質量分析は、施設内で改良されたナノスプレーソースを装備した77-T LTQ-FT質量分析計(ハイブリッド線形四極子トラップ ――フーリエ変換)(Thermo Electron社)で行われた。機器はデータ依存モードで操作されて、MS取得とMS/MS取得との間で自動的に切り替わった。MSスペクトルはFT−ICRで取得され、一方、MS/MSスペクトルがLTQトラップで取得された。FT−ICRの各スキャンでは、6つの最も強い二重又は三重プロトン化イオンは、衡突誘起解離(CID)によって線形トラップ中で連続してばらばらにされた。既にばらばらにされたターゲットイオンは、6s用MS/MS分析のために除外された。オールタンデムマススペクトルは、MASCOT(Matrix Science社)により、SwissProtデータベースのげっ歯類サブセットに対して検索された。用いられた検索パラメーターは以下の通りであった。前駆体イオン質量に対する5ppm質量許容度と生成物イオン質量の0.5Da、トリプシンによる消化、トリプシン切断をし損ねた最大値(a maximum of one missed tryptic cleavage)、メチオニンの酸化及びシステインのカルバミドメチル化(carbamidomethylation)を含む種々の修飾。0.05未満のMascot期待値を有するペプチドだけが考慮された。タンパク同定の判断基準は、少なくとも2つの特有な(unique)同定されたペプチドの検出を含んでいたが、ペプチドが再現性よく(reproducibly)検出された場合には、単一のペプチド同定が可能であった。タンパク同定の間で共有されたペプチドは含まれていなかった。細胞内位置は、UniProtデータベースから得られた情報に基づき、クロマチンDB(http://www.chromdb.org/)から集められた情報と、細胞内位置予測プログラムCello (http://cello.life.nctu.edu.tw/)及びProteomeAnalyst (http://pa.cs.ualberta.ca:8080/pa/)と、LC−MS/MSによるタンパク質のプロテオーム及び細胞内解析データを提供する文献との支援を受けて、帰属させた。膜貫通ドメインを通って二重層にアンカーされたタンパク質と脂質の修飾は、Uniprotアノテーションに基づいて同定された。
【0163】
<ミクロソーム膜の調製>
NG108−15細胞は、PBSで洗浄され、1mMのNaHCO中において短時間で膨張させ、きちんと適合した(tight-fitting)Dounceホモジナイザー中で、20ストロークで機械的に分断した。核と細胞デブリは、遠心分離法(400×g、5分)で除去された。ミクロソーム膜の画分を含んでいる上澄みには、100mM(pH11)の最終濃度までNaCOが追加された。膜は、遠心分離法(100000×g、60分)により沈殿させた。上澄みの除去後、膜の沈殿物を、300mMのNaClと10mMのトリス、pH8の中で、チップソニケーター(VibraCellモデル501、Sonics & Materials社、アメリカ)を用いて再度浮遊させて分散させた。膜小胞サンプルは、ミクロソーム膜調製の分析で用いられたのと同じ手順に従って、LPI(商標)フローセルに注入された。
【0164】
<原形質膜小胞(PMVs)で同定された膜タンパク質>
原形質膜小胞(PMV)の膜の細胞内起源を決定するために、我々は、そこで見つかった膜タンパク質の細胞内位置を研究した。5つの独立した原形質膜小胞(PMV)サンプルを分析して、合計274個のタンパク質を同定した。膜の関連と細胞内位置をアノテートするのに我々が利用した情報源によれば、43個の原形質膜小胞(PMV)タンパク質は、少なくとも1つのαヘリカルドメイン又は脂質アンカーにより膜にアンカーされ(表1)、44個は他の相互作用により膜と関連している。40個のアンカー型膜タンパク質が原形質膜(PM)に位置していることが分かり(90%)、そのうち32個のタンパク質(74%)が、特有な(unique)原形質膜(PM)に位置している。残りの191個のタンパク質については、我々は膜関連を同定することができず、これらは原形質膜小胞(PMV)内部が起源の可溶性タンパク質であると推定している。
【0165】
比較のために、我々は、NG108−15細胞株のミクロソームの調製も行った。これは、核と可溶性タンパク質の細胞溶解及び除去により細胞性膜を分離する、標準的な方法である。2つのミクロソーム調製を分析して、合計308個のタンパクを同定した。79個のタンパク質が少なくとも1つのαヘリカルドメイン又は脂質アンカーにより膜にアンカーされ、57個は他の相互作用により膜と関連している。35個のアンカー型膜タンパク質が原形質膜(PM)に位置していることが分かり(44%)、そのうち17個のタンパク質(20%)だけが、特有な(unique)原形質膜(PM)に位置している(図5)。ミクロソーム調製と比較して、原形質膜小胞(PMV)の膜画分の原形質膜(PM)タンパク質含有量はずっと高い(90%)。
【0166】
原形質膜小胞(PMVs)で同定された膜タンパク質の中では、主にGTPアーゼとGタンパク質とが見つかる。アミノ酸輸送体、イオン輸送体と共に、細胞接着及び細胞増殖の原因となるタンパク質も示した(図6)。とりわけ、推定では、原形質膜−細胞骨格の架橋タンパク質も同定されて、小胞形成プロセスが、細胞骨格からのこれらのタンパク質の解離をもたらすかもしれないことを示した。同定された膜タンパク質の細胞内分布との対比に関する詳細は図7に見つかり、ミクロソームと原形質膜小胞(PMV)膜との画分も比較している。我々の原形質膜小胞(PMV)分析で、我々はまた191個の可溶性タンパク質を同定することができ、その多くはリボソーム及びサイトゾルであり、それらは原形質膜小胞(PMV)内部が起源である。推測では、それらは、原形質膜小胞(PMV)サンプルの透析後の処理工程中に放出される。最初の超音波処理工程により、ミクロンサイズの原形質膜小胞(PMVs)は分断して封じ直されて、サイトゾルの内容物を放出する。リボソームは、原形質膜小胞(PMV)溶液内で大量にあるように見え、それらの大きなサイズのために透析により除去することができず、超遠心分離工程で処理されたPMV膜と一緒に沈殿するだろう。また、膜の沈殿物は、消化の直前に追加の超音波処理工程を受けているので、サイトゾルタンパク質のさらなる放出が発生する可能性があり、それが、得られた結果における可溶性タンパク質の総計を増加させることもあり得る。さらなる最適化では、リボソームタンパク質を除去するための遠心分離工程の類似チューニング(like tuning)か、又は最後の超音波処理工程の代わりを探すことにより、これらの汚染源を最小にすることができる。
【実施例3】
【0167】
実施例3: 脂質成分の抽出
CHO−K1細胞を、(複数の)T175フラスコ中で95%コンフルエンシーまで培養した。溶媒をフラスコから除去し、細胞を、150mMのNaCl、10mMのHEPES、2mMのCaCl、pH7.4により数回洗浄した。原形質膜小胞形成を誘導するために、25mMのホルムアルデヒド、2mMのDTT、150mMのNaCl、10mMのHEPES、2mMのCaClの溶液6mL、pH7.4を各フラスコに加えた。37℃で2時間セルフラスコを穏やかに揺らして、小胞形成を行った。小胞形成の後、原形質膜小胞を含んだ溶液をフラスコから収集してプールした。その溶液を40μmの孔のフィルターに通過させて細胞の凝集物を除去し、そして5μmフィルターに通過させて単一細胞を除去した。その後、その溶液を−20℃で凝固させた。異なる細胞バッチからのブレブ溶液を、抽出用のより大きいバッチにプールした。ブレブ溶液の総容積を測定し、抽出用の有機溶媒の容積を計算するのに用いた。最初の工程では、10mMの最終濃度までNHAc(酢酸アンモニウム)を加えた。改良Bligh−Dyer抽出プロトコルを用い、溶媒の比率は2:1:0.8(MeOH:DCM:NHAc(10mM))にセットされた。その後、メタノール(MeOH)及びジクロロメタン(DCM)をブレブ溶液に添加した。相分離は確認されず、溶液を、13mmプローブチップを装着したSonics & Materials社のVibra Cell(モデル501)を用いてチップソニケートした。超音波処理は、7秒間パルスと5秒間休止の間、30%振幅設定により2分行われ、サンプルの加熱を低減した。40mlのDCMと10mlのNHAC(120mM)とを添加して相分離を導入し、そしてDCM相を収集した。再び10mlのNHAC(120mM)を添加し、そしてDCM相を収集した。その後、50mlのDCMをMeOH/NHAC相に添加し、上記のようにチップソニケートした。チップソニケート後、10mlのNHAC(120mM)と50mlのDCMを溶液に添加した。振盪と相分離の後、DCM相を収集した。50mlのDCM、50mlのMeOH及び10mlのNHAC(120mM)を添加し、MeOH/NHAC相を残した。振盪後、DCM相を収集した。最後に、10mlのNHAC(120mM)を添加して、MeOH/NHAC相を残してDCMを収集した。プールされたDCM相を−20℃で1晩貯蔵した後、DCM相のローター蒸発(rotaevaporation)の前にDCM相からMeOH/NHAC相を分離できるかもしれない。DCM相をローター蒸発して、乾燥残留物の質量を測定した。およそ8000万個の細胞から製造されたブレブが、抽出後に1mgの乾燥脂質を与えたと見積もられた。さらに、SDS−PAGEを用いて、乾燥脂質残留物がタンパク質汚染物質されているか確認した。およそ1000万から発生したブレブからの脂質残留物は、最初に2×SDS−PAGEサンプル緩衝液(4%SDS)中で再構成された。サンプルは、2mmプローブチップを装着したSonics & Materials社のVibra Cell(モデル501)を用いて、穏やかにチップソニケート(超音波処理時間30秒、2秒間パルスと2秒間休止の間、5%振幅設定)された。その後、サンプルを水浴(≦100℃)で加熱し、続いて5分間回転させた。その後、標準10%アクリルアミドゲル上で1時間サンプルを実行する前に、再浮遊させた脂質をMQで希釈した。この結果は、脂質抽出物にはタンパク質汚染物質が存在しないことを示す。
【0168】
<考察>
我々の方法は、原形質膜(PM)をその表面からミクロンサイズの小胞の形態で流し出す(shed)、という細胞の能力を利用している。その主要な利点は、原形質膜(PM)内容物に関する膜調製の高純度だけでなく、容易な取り扱い手順にもある。原形質膜小胞(PMVs)は細胞小器官又は細胞骨格構造を含まないが、サイトゾル成分により充填されている。原形質膜小胞(PMVs)が、原形質膜(PM)だけを起源にしている事実により、それらは、広範囲な用途(特にプロテオーム科学)において、優れたプラットフォームを提供する。原形質膜小胞(PMV)の膜及び内部のタンパク質組成は、細胞培養についての分子生物学の技術(例えば、タンパク質、蛍光標識、遺伝子抑制等のトランスフェクション、組み換え体又は過剰発現)を予め適用することにより、制御できる。このことは、原形質膜(PM)の比較プロテオミクス研究に有益であり、その動的挙動に関する洞察を与える。例えば、原形質膜(PM)タンパク質の時空挙動(spatiotemporal behaviour)、及び膜と細胞内膜系との動的交換は、取り組むことのできる重要な問題である。我々が提供する原形質膜(PM)をプロテオーム解析する方法は、異なる原形質膜小胞(PMV)世代を分析して比較すること(例えば、小胞体(ER)/ゴルジタンパク質の比較的高い画分は、原形質膜小胞(PMV)の後の世代で見られるなど)により、内膜の貯蔵(internal membrane stores)が、インキュベーション時間を延長した後(>24時間)に、原形質膜小胞(PMV)形成を補充(recruite)するか、という疑問に答える助けになるだろう。他の哺乳動物細胞株(例えば、HEK293及びCHO−K1など)も、小胞形成溶液に露出させたときに、原形質膜小胞(PMV)を大量に製造できる(データは不図示)ので、精製プロトコルは、幅広い種類の細胞株21、22に適用することができる。このことは、この方法に、異なる細胞系の原形質膜(PM)プロテオームを解析して比較すること、及び対象となる特定の細胞株の様々なタンパク質発現プロフィルの比較、という有望な技術を与える。
【0169】
我々は、我々の提示した技術が膜タンパク質の内容物に関して極めて高純度のPMを得る方法であるので、この技術は、哺乳類の原形質膜(PM)のプロテオーム解析用の強力なツールであり、そして、そして、分子生物学技術と組み合わせた場合には、原形質膜プロテオームの力学的性質を研究するための強力な手段を提供すると想定している。さらに、膜及びサイトゾル成分が各単一原形質膜小胞(PMV)内に統合(integrative)されているので、それらは、極度に単純化した細胞モデルを構成して、より複雑な細胞プロセスに関する研究を可能にする。例えば、原形質膜小胞(PMV)内部のプロテオーム解析は、例えば、サイトゾルタンパク質と結合した膜タンパク質活性の研究などにおいて、非常に役立てることができる。
【0170】
<参照による組み込み>
本願の全体を通して引用されたすべての引用文献、特許、係属特許出願及び公開特許の内容は、参照して、明示的に本明細書に組込まれる。
【0171】
<等価物>
当業者は、本願明細書に記載した本発明の具体的な実施態様と等価な多数の等価物を認識するか、又はルーチンに過ぎない実験作業により確認することができる。そのような等価物は、本願の特許請求の範囲によって包含されるように意図されている。
【0172】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
原形質膜小胞を製造する方法であって、
細胞を小胞形成剤に接触させる工程を含み、
それにより原形質膜小胞を製造することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記細胞を機械的に撹拌する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記細胞は接着細胞であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記細胞は浮遊状態にあることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記細胞は哺乳類細胞であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記小胞形成剤はスルフヒドリル基遮断剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記スルフヒドリル基遮断剤は、ホルムアルデヒド、ピルビンアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール、グルタルアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ピリドキサール、N-エチルマレイミド(NEM)、マレイミド、クロロマーキュリ安息香酸、ヨード酢酸、亜ヒ酸カリウム、亜セレン酸ナトリウム、チメロサール (マーシオレート)、過酸化ベンゾイル、塩化カドミウム、過酸化水素、ヨードソ安息香酸、メラルリドナトリウム(マーキュヒドリン)、塩化第二水銀、塩化第一水銀、クロルメロドリン、(ネオヒドリン)、フェニルヒドラジン、亜テルル酸カリウム、マロン酸ナトリウム、p-アルセノソ安息香酸、5,5'-ジアミノ-2,2'ジメチルアルセノベンゼン、N,N'-ジメチレンスルホン酸二ナトリウム塩、ヨードアセトアミド、オキソフェナルシン (マファルセン)、塩化第二金、p-クロロマーキュリ安息香酸、p-クロロマーキュリフェニルスルホン酸、塩化第二銅、ヨウ素メルブロミン (マーキュロクロム)、ポルフィリンダイン、過マンガン酸カリウム、マーサリル (サリルガン)、硝酸銀、強プロテイン銀 (プロタルゴール)、及び酢酸ウラニルから成る群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記小胞形成剤は、ジチオトレイトール(DTT)及びホルムアルデヒドを含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記小胞形成剤は細胞毒素であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記細胞毒素はサイトカラシンB又はメリチンであることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記細胞は、振盪機により機械的に攪拌されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記細胞は、超音波処理により機械的に攪拌されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記細胞を前記小胞形成剤に接触させる工程の前に、前記細胞を洗浄して培地を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
前記原形質膜小胞を精製する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
前記原形質膜小胞は、濾過、密度勾配遠心分離法又は透析のいずれか1つ以上により精製されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
高純度の原形質膜小胞の製作方法であって、
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の前記原形質膜小胞を、アルキル化剤及び還元剤に接触させる工程と、
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の前記原形質膜小胞を、アルカリ溶液に接触させる工程と、
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の前記原形質膜小胞に超音波処理を用いて、小胞内汚染物質を放出させる工程と、
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の前記原形質膜小胞に超遠心分離法を用いて、前記原形質膜小胞を洗浄する工程と、
請求項1乃至15のいずれか1つに記載の前記原形質膜小胞を緩衝液で洗浄する工程と、のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項17】
前記アルキル化剤は、ヨードアセトアミドであることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記アルカリ溶液は少なくともpH11であることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記アルカリ溶液はNaCO又はNaOHであることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項20】
前記原形質膜小胞の直径は20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項21】
前記原形質膜小胞の直径は10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項22】
前記原形質膜小胞は膜貫通型タンパク質を含むことを特徴とする請求項1乃至21のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項23】
前記膜貫通型タンパク質は、膜貫通型αヘリックス構造タンパク質、膜貫通型βバレル構造タンパク質、脂質アンカー型膜タンパク質、及び表在性膜タンパク質から選択されることを特徴とする請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記膜貫通型タンパク質は、酵素、輸送体、受容体、チャネル、細胞接着タンパク質、Gタンパク質、GTPアーゼから成る群から選択されることを特徴とする請求項22に記載の製造方法。
【請求項25】
前記原形質膜小胞は脂質アンカー型タンパク質を含むことを特徴とする請求項1乃至21のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項26】
細胞の膜プロテオーム解析の方法であって、
請求項1乃至25のいずれか1項に記載の前記原形質膜小胞を、1つ又はいくつかのプロテアーゼに接触させる又はいくつかのプロテアーゼに順次接触させる工程と、
前記プロテアーゼにより生成されたペプチドを分析する工程と、を含み、
それにより前記細胞の前記膜プロテオーム解析を行うことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記プロテアーゼはセリンプロテアーゼであることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記セリンプロテアーゼはトリプシン又はキモトリプシンであることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
タンパク質フラグメントを分離する工程をさらに含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
ペプチドフラグメントは質量分析法により分析されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項31】
膜貫通型タンパク質のモジュレータを同定する方法であって、
対象となるタンパク質をコードする核酸分子により細胞を形質転換する工程と、
請求項1乃至25のいずれか1項に記載の方法により原形質膜小胞を製造する工程と、
前記原形質膜小胞を候補モジュレータに接触させる工程と、
前記候補モジュレータが前記膜貫通型タンパク質を調節できるかどうかを決定する工程と、を含み、
それにより前記膜貫通型タンパク質のモジュレータを同定することを特徴とする方法。
【請求項32】
前記候補モジュレータが膜貫通型タンパク質を調整する能力は、レポーター遺伝子の活性の測定により決定されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
膜貫通型プロテオームに対する化合物の影響を決定する方法であって、
細胞を化合物に接触させる工程と、
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の方法により原形質膜小胞を製造する工程と、
原形質膜小胞中に存在するポリペプチドを分析する工程と、を含み、
それにより膜貫通型プロテオームに対する化合物の影響を決定することを特徴とする方法。
【請求項34】
前記化合物は、小分子、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、RNAi、shRNAあるいはmiRNAであることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記原形質膜小胞をプロテアーゼに接触させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記プロテアーゼで製造したペプチドを質量分析法により分析する工程をさらに含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の原形質膜小胞中のタンパク質を解析する方法であって、
表面に前記原形質膜小胞を添付する工程と、
前記原形質膜小胞を1つ以上のプロテアーゼに接触させる工程と、
生成したペプチドを分析して前記タンパク質の同一性を決定する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項38】
前記表面はマイクロ流体素子の中にあることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ペプチドは質量分光法により分析されることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項40】
細胞膜から脂質を抽出す方法であって、
1つ以上の細胞の小胞形成を誘導する工程と、
膜小胞を分離する工程と、
前記膜小胞を有機溶媒で抽出する工程と、
前記有機溶媒から前記脂質を分離する工程と、を含み、
それにより前記細胞膜から前記脂質を抽出することを特徴とする方法。
【請求項41】
前記脂質を分析する工程をさらに含むことを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記分析は、存在する前記脂質を同定する工程及び/又は存在する脂質の1つ以上の量を定量する工程を含むことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞を化合物に接触させて、細胞膜中の脂質含量又は脂質量に対する影響を試験する工程をさらに含むことを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項44】
単分散の原形質膜小胞の個体群。
【請求項45】
前記原形質膜小胞は、直径5μm〜25nmであることを特徴とする請求項44に記載の原形質膜小胞。
【請求項46】
前記原形質膜小胞は、直径50μm〜500μmであることを特徴とする請求項44に記載の原形質膜小胞。
【請求項47】
前記原形質膜小胞は、直径100μm〜200μmであることを特徴とする請求項44に記載の原形質膜小胞。
【請求項48】
前記個体群は、所定の膜タンパク質が濃縮されたものであることを特徴とする請求項44乃至47のいずれか1項に記載の個体群。
【請求項49】
前記膜タンパク質は、膜貫通型タンパク質であることを特徴とする請求項48に記載の個体群。
【請求項50】
前記膜タンパク質は、脂質アンカー型タンパク質であることを特徴とする請求項48の個体群。
【請求項51】
前記個体群は、免疫組織化学によって濃縮されていることを特徴とする請求項50に記載の個体群。
【請求項52】
前記原形質膜小胞は、細胞小器官又は細胞骨格構造が存在しないことを特徴とする請求項44乃至51のいずれか1項に記載の原形質膜小胞の個体群。
【請求項53】
抽出された前記脂質を再構成の目的に用いる工程をさらに含むことを特徴とする請求項40に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−500963(P2012−500963A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505629(P2011−505629)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051622
【国際公開番号】WO2009/130659
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510280626)ナノキシス・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】Nanoxis AB
【Fターム(参考)】