説明

参照物質の放出の制御が可能なマイクロエレクトロニクス素子

本発明は、バイオセンサの試料チャンバ(5)への参照物質(21,22,23)の放出の制御を可能にするマイクロエレクトロニクス素子(100)及び方法に関する。特定の実施例では、これは、試料チャンバ(5)の貯蔵領域内に磁場を発生させることのできる制御ワイヤ(24)を有する供給ユニット(20)によって実現される。よって磁性粒子(22)は、磁場が減少又はオフにされるまで、参照標的物質(21)を閉じこめて、かつ保持できるので、適切な時期にその標的物質を所望の地点に放出する。参照物質(21,22,23)を制御して放出することは、たとえば磁気バイオセンサの校正に用いられて良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料チャンバ内での分析用物質を操作するマイクロエレクトロニクス素子及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
係るマイクロエレクトロニクス素子の重要例は、血液、唾液、及び他のヒト若しくは動物の体液若しくは細胞組織内での標的分子の検出、又は環境中の試料若しくは食品試料内での分子の検出に用いることのできるバイオセンサである。特許文献1及び2から、たとえば磁気ビーズによってラベリングされた生体分子を検出するためにマイクロ流体バイオセンサ中で用いることのできるマイクロセンサ素子は既知である。そのマイクロセンサ素子には、磁化したビーズによって発生する漂遊磁場を検出するための磁場及び巨大磁気抵抗(GMRs)を発生させるワイヤを有するセンサのアレイが供されている。
【0003】
上述のバイオセンサに係る重要な課題の1つは、分析用物質の操作及び制御である。分析用物質とはたとえば、分析の定量的校正に用いられる分析用試薬である。バイオセンサの応答は、分析中での複数のプロセスパラメータに起因してばらつきが生じる恐れがある。そのようなプロセスパラメータはたとえば、標的分子と捕獲分子との間の結合に係る生化学親和係数kon及びkoff、拡散パラメータ、ビーズ及びセンサチップの分子及びコーティングに係る生物活性、又はビーズの磁性である。前記パラメータはたとえば、温度、経過時間、及び生成のばらつきの関数として変化して良い。現状行われている方法は、既知濃度の標的分子を、試料が与えられているセンサとは別のセンサに与えることにより、参照曲線に対する参照液体の応答を校正する方法である。たとえばウエルプレートでは、数個のウエルが校正に用いられて良く、かつ他のウエルが未知試料を有した状態で用いられて良い。集積素子では、この方法は、複数のセンサを有する多数のチャンバシステムを必要とする。これは複雑でかつ高価である。
【0004】
上述した校正問題とは別に、試薬を制御して放出することはバイオセンシングでは重要である。バイオセンシングとはたとえば、サンドイッチ、競合、若しくは抑制アッセイ法、アンチコンプレックス(anti-complex)アッセイ法、選択ブロッキング剤アッセイ法、又は核酸アッセイ法である。ウエルプレートでは、試薬は一般的にロボット装置によって分散される。側方流アッセイ法では、試薬は通常、試験片中の糖類母体を溶解することにより、試料に加えられる。
【特許文献1】国際公開第2005/010543号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/010542号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003/054566号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2003/054523号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/038911号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この状況に基づき、本発明の目的は、改善され、かつより正確な操作を行うための手段を供することである。操作とは、特にマイクロエレクトロニクス素子内での分析用物質の測定のことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子及び請求項11に記載の方法によって実現される。好適実施例は従属請求項中に開示されている。
【0007】
本発明によるマイクロエレクトロニクス素子は、分析用物質の操作を目的とする。本明細書において“物質”という語は、複数の成分から成る材料を含む如何なる種類の材料も指す。典型的な場合では、“分析用物質”は、試料又は標的成分(たとえば生体の体液のような液状又は気体の化学物質)、及び試料若しくはその一部と接する全物質(たとえば緩衝用塩、タンパク質、センサ表面上の生体捕獲分子、磁性粒子ラベル、参照材料等)を含んで良い。“操作”という語は、分析用物質との相互作用を意味する。分析用物質との相互作用とはたとえば、特徴的な量の測定、分析用物質の検査、分析用物質の機械的又は化学的処理等である。マイクロエレクトロニクス素子は、a)中に分析用物質を供することができる試料チャンバ、及びb)参照物質を貯蔵領域から試料チャンバへ制御して放出する供給ユニット、を有する。典型的には試料チャンバは、空の空洞であるか、又は、変位可能若しくは分析用物質(たとえばゲル又は有孔性材料)の吸収が可能な材料で満たされた空洞である。
【0008】
明確かつ既知の方法で参照物質を放出できる供給ユニットを試料チャンバへ組み込むことによって、マイクロエレクトロニクス素子の機能は実質的に拡張される。追加機能のうち特に重要な例は、以降において本発明の様々な実施例で説明される。
【0009】
参照物質が保持されている貯蔵領域は、試料チャンバ内部であることが好ましいだろう。これにより、参照物質は、その放出後迅速に試料チャンバ内に分布することが保証される。さらに参照物質を試料チャンバへ輸送するマイクロ流体手段が不要となる。
【0010】
貯蔵領域から制御して物質を放出するのに必要な能力を有する供給ユニットを実現させるには複数の異なる可能な方法が存在する。具体的に実現させるには、供給ユニットは、貯蔵領域内で電場又は好適には磁場を発生させる磁場及び/又は電場発生装置を有する。磁場及び/又は電場発生装置はたとえば、マイクロエレクトロニクス素子の基板に集積される電極であって良い。前記電極を電位に接続することにより、又は前記電極に電流が流れるようにすることにより、電場又は磁場を厳密に制御可能なように発生させることが可能となる。
【0011】
本発明の他の実施例によると、貯蔵領域は膜又はシートのような材料によって覆われる。その材料は、貯蔵領域内の参照物質に放出力を加えることによって、分離すなわち除去可能である。放出力はたとえば、磁場及び/又は電場によって、又は貯蔵領域の加熱によって発生させて良い。
【0012】
さらに他の実施例では、マイクロエレクトロニクス素子は少なくとも1つの案内用電極を有する。その案内用電極は、磁気的又は電気的に相互作用する粒子を、貯蔵領域から試料チャンバ内の標的位置まで導くことができる磁場及び/又は電場を発生させる。このようにして係る粒子の標的位置への変位は、通常の拡散制御による広がりよりも顕著に加速させることができる。
【0013】
上述の素子は、複数のそのような案内用電極、及びそれらの電極を順次起動させるようにそれらの電極と結合する制御装置を有することが好ましい。よって粒子は徐々に貯蔵領域から標的位置へ輸送することができる。
【0014】
一般に供給ユニットの貯蔵領域は空であっても良いし、又は満たされていても良いが、貯蔵領域には適当な参照物質が供されていることが好ましい。係るマイクロエレクトロニクス素子は、たとえば道路側での薬物検査装置のような即座の使用準備ができた状態で出荷される。
【0015】
すでに述べたように、分析用物質の操作は多くの異なる形式をとって良い。好適実施例では、マイクロエレクトロニクス素子は、分析用物質の(光学、磁気、電気、化学等)特性を測定するセンサユニット、又はその部品を有する。前記センサは任意で、試料チャンバ(又は少なくともそのサブ領域)内で磁場を発生させる磁場発生装置、及び試料チャンバ内に発生する(漂遊)磁場を検知する磁気センサ素子を有する。磁気センサ素子は特に磁気抵抗素子であって良いし、又はホール素子を含んで良い。磁気抵抗素子とはたとえば、GMR(巨大磁気抵抗)、TMR(トンネル磁気抵抗)、又はAMR(異方磁気抵抗)素子である。
【0016】
マイクロエレクトロニクス素子の試料チャンバは任意で、そのチャンバへ分析用物質又はその成分を供するための流入口を有して良い。よってたとえば、多くの試料を測定するために素子を再利用すること、又は複数の試薬を順次使用する手順を含む複雑な分析法を実行することが可能である。
【0017】
本発明はさらに試料チャンバ内の分析用物質を操作する方法に関する。当該方法は、既知量の参照物質を貯蔵領域から試料チャンバへ制御して放出する手順を有する。そのように既知量の物質を制御して放出することで、様々な用途において新たな可能性が得られる。このことについては当該方法の好適実施例を参照しながらより詳細に説明する。
【0018】
当該方法はさらに、センサユニットによって分析用物質の特性の少なくとも1つを測定する手順を有して良い。センサユニットはたとえば、蛍光分子のような光ラベル物質を検出する光センサであって良い。
【0019】
好適実施例では、上述の測定は、分析用物質の標的成分に結合可能な又は束縛される、磁気的又は電気的に相互作用するラベル用粒子に基づいている。磁気的に相互作用するラベル用粒子の測定とはたとえば、すでに上で述べた磁気バイオセンサの基礎となることである。
【0020】
当該方法は特に、参照物質の制御された放出に基づいて、すでに述べたセンサユニットのエラーチェック及び/又は校正を行う手順を有して良い。たとえば参照物質が通常通りにセンサユニットの信号を発生させている場合であって、係る信号が参照物質の放出後に表れないときには、このような事態は、マイクロエレクトロニクス素子の誤機能を明確に示している。参照物質の制御された放出をより詳細に評価する際、センサユニットの観測される信号は、試料チャンバ内において既知の条件によって(少なくとも部分的に)発生するので、参照物質の放出後に発生する信号は、センサユニットの校正に用いられて良い。
【0021】
当該方法の他の実施例では、参照物質の放出は、分析用物質又はその一部が試料チャンバに導入されてから所定期間経過後に起こる。よって分析用物質の純粋な効果が測定可能なある期間が存在し、その経過後参照物質が導入されることで、これまでの測定を確認及び校正するのに用いることができる明確な条件が生成される。
【0022】
以降では、当該マイクロエレクトロニクス素子と上述の方法の両方について言及している本発明の好適実施例について説明する。
【0023】
この種類の第1好適実施例によると、試料チャンバ表面は分析用物質の標的成分を固定する結合位置を有する。センサユニットの上に位置する領域はたとえば、標的分子が結合可能な特定の抗体によってコーティングされて良い。
【0024】
上述の場合、参照物質は、結合位置に結合可能な参照標的成分を有することが好ましい。よって分析用物質の結合プロセスは、参照標的成分によってモデル化されて良い。最も単純な場合では、参照標的成分は、分析用物質の標的成分と同一種類であって良い。
【0025】
他の好適実施例では、参照物質は、磁場及び/又は電場によって貯蔵領域内に保持されることが可能な磁気的又は電気的に相互作用する参照粒子を有する。前記粒子は特に、参照標的成分と混合して良いし、又は参照標的成分を閉じこめても良い。なお参照標的成分の放出は、基礎となる用途において特に関心を集める事項である。
【0026】
上述の実施例では、磁場及び/又は電場の強度は、参照物質の放出中、徐々に減少して良い。これによりある特定の期間にわたって放出プロセスを延ばすことが可能となる。しかも磁場及び/又は電場強度が徐々に減少することで、最初に弱く引き付けられている粒子が放出され、それに続いて参照物質が遅れて放出することが可能となる。
【0027】
上述の実施例のさらなる発展型では、参照物質は参照標的成分を有し、かつ参照粒子は前記参照標的成分へ引き付けられる(ことが可能である)。そのように引き付けられることで、貯蔵領域内での参照標的成分の保持が安定する。参照標的成分は特に分析用物質の標的成分と同一の材料であって良い。参照粒子は特に上述のラベル用粒子と同一の材料であって良い。
【0028】
参照物質が、基礎となる用途において特に関心を集める参照標的成分を有する場合、この参照標的成分は特に担体内に埋め込まれて良い。前記担体はたとえば、可溶性母体、糖類、又は同様の材料であって良い。
【0029】
本発明はさらに、分子診断、生体試料分析、又は化学試料分析に用いられる上述のマイクロエレクトロニクス素子の使用に関する。分子診断はたとえば、直接的又は間接的に標的分子に引き付けられる磁気ビーズの助けによって実現可能である。
【0030】
本発明のこれら及び他の態様は、以降で説明する(複数の)実施例を参照することで明らかとなる。これらの実施例は添付の図面の助けを借りて、例示によって説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図中の同一参照番号は同一又は類似の部品を指す。
【0032】
磁気抵抗バイオチップ又はバイオセンサは、感度、選択性、集積性、使用の容易さ、及びコストの観点から、生体分子診断にとって有望な特性を有する。係るバイオチップの例は、特許文献1乃至5に記載されている。
【0033】
図1は、本発明による磁気バイオセンサ100の一部を概略的に図示している。図の右側部分にはセンサユニット10が図示されている。センサユニット10は、試料チャンバ5の隣接領域内で磁場を発生させるための2つの導体ワイヤ11,13を有する。前記ワイヤ11と13の間に、巨大磁気抵抗(GMR)素子12が設けられている。GMR素子12は、試料チャンバ5で発生する(漂遊)磁場を測定することができる。ワイヤ11,12及び13は、適当な基板内又は基板上で実現される。試料チャンバ5に対向する前記基板の表面14は、標的分子1へ選択的に結合可能な結合分子3によって少なくとも部分的にコーティングされる(図2)。ここではマイクロエレクトロニクス素子がGMRに関連づけられて記載されているが、センサユニット10は、粒子の如何なる特性に基づいて、センサ表面上又は表面付近の磁性粒子の存在を検出する如何なる適当なセンサユニット10であっても良い。たとえばセンサユニット10は、磁気抵抗、ホール効果、コイル効果のような磁気的方法によって検出して良い。センサユニット10はまた、たとえば可視化、蛍光、化学発光、吸収、散乱、表面プラズモン共鳴、ラマン分光等の光学的方法によって検出しても良い。さらにセンサユニット10はまた、たとえば表面弾性波、バルク弾性波、生化学結合プロセスによって影響を受けるカンチレバー偏向、石英結晶等のような音波検出よって検出して良い。さらにセンサユニット10は、たとえば伝導、インピーダンス、電流測定、酸化還元サイクル等のような電気検出よって検出して良い。しかも上述の検出方法のうちの2つ以上を組み合わせたものも利用可能である。
【0034】
図1はさらに供給ユニット20を図示している。供給ユニット20は同一基板上に位置しているがセンサユニット10からはある距離だけ離れている。供給ユニットは基本的に、基板表面14の下を走る制御ワイヤ24を有する。電流が前記制御ワイヤ24を介して流れるとき、試料チャンバ5の隣接領域内に磁場が発生する。前記領域は、供給ユニット10の“貯蔵領域”として機能する。
【0035】
供給ユニット20の貯蔵領域には参照物質が供される。図示された例では、その参照物質は、(i)参照標的分子21、(ii)前記参照標的分子21を閉じこめる参照磁気ビーズ22、及び(iii)前記参照標的分子21と参照磁気ビーズ22の両方を埋め込む糖類材料23の3成分を含む。参照ビーズ22には、参照標的分子21と結合する抗体が備えられても良いし、備えられていなくても良い。
【0036】
図1は製造完了後、使用できる状態となっているバイオセンサ100を図示している。つまり試料チャンバは依然として空の(あるいはより厳密には空気でしか満たされていない)状態である。バイオセンサ100は、たとえばセンサ表面14の上に磁性粒子が存在しない状態でワイヤ11,13及び12間での内部クロストークを測定することにより、この状態で校正されて良い。対応する信号はセンサのワイヤの幾何学形状によって明確になる。
【0037】
図2はバイオセンサ100による測定の第2段階を図示している。第2段階の間、供給ユニット20の下に位置するワイヤ24に電流が流れ、それにより参照ビーズ22は、磁力によってチップ表面14上に引き付けられたままとなる。続いて標的分子1及び磁気ラベルビーズ2を含む液体試料物質が、チップの上に位置する試料チャンバ5へ供給される。センサの結合分子3上への標的分子1とラベル用ビーズ2の結合が開始される。
【0038】
供給ユニット20内の試薬の一部は試料流体中に溶解して良い(たとえば周辺の糖類コーティング)。しかし参照標的分子21は、チップ表面14へ磁気的に引き付けられる参照ビーズ22によってその場所に保持される。
【0039】
一般的な場合では、マイクロエレクトロニクス素子は、“分析用物質(assay substance)”を操作することを目的としていることに留意すべきである。分析用物質は任意で、
1.標的成分/分子1、
2.ラベル用ビーズ/粒子2、
3.補助的成分(標的成分と接する全ての材料を含み、たとえば緩衝用塩、タンパク質、センサ表面上の生体捕獲分子3、参照物質の成分21,22,23等)、
を含む。
【0040】
同様に“参照物質”とは一般に、
1.参照標的成分/分子21、
2.参照ビーズ/粒子22、
3.たとえば糖類の母体のような補助的参照成分23、
を含む。
【0041】
図3は、バイオセンサ100による測定の次の段階を図示している。この段階の間、供給ユニット20の下に位置するワイヤ24を流れる電流が変化-たとえば減少又は流れなくなる-する。その結果“磁気ブランケット”は弱まり、参照標的分子21は流体へ広がることができる。よって参照標的分子21は、参照ビーズ22をセンサ表面14へ結合させることができる。このようにして標的濃度は、ある特定の遅延時間後、既知量の参照標的分子21だけ増大する。それに従ってセンサ応答が変化する。典型的実施例では、参照標的分子21は標的分子1と同一種類であって良い。かつ/あるいは、参照磁気ビーズ22は磁気ラベルビーズ2と同一種類であっても良い。
【0042】
図4は、説明した測定の間でのセンサ応答を表している。t<t1では、センサ信号sは磁気クロストークを表す。この信号は、GMRセンサ利得を含む検出利得を校正するのに用いられて良い。t=t1では、分析が開始される(図1から図2への遷移に対応する)。センサ信号sは検査流体中の標的分子1の濃度を示す傾きに従って増加する。t=t2では、参照標的分子21が放出される(図2から図3への遷移に対応する)。これにより標的濃度は明確に増加する。その結果標的分子の濃度が高くなるため、分析法の反応速度が速くなる。この効果は、ビーズ-標的-表面のサンドイッチ内に含まれる生体結合定数を含む全体のバイオセンサの応答を校正するのに用いられて良い。
【0043】
参照標的分子21の放出後に分析法の反応速度が変化しない場合、磁気バイオセンサが正確に機能しておらず、かつ分析結果は棄却される、という結論になるのは明らかである。これは、たとえば擬陽性又は偽陰性を検出する方法である。
【0044】
図3において電流ワイヤ24を流れる電流が減少するとき、最も引力の小さな第1ビーズ21、つまり最小の磁気モーメントを有する粒子、が離れる。大きな粒子又は粒子の塊は貯蔵領域内に留まる。これは一種の選択法であって、センサ表面上の単一ビーズを効率的に取得し、かつビーズの塊又は他の大きな磁性粒子による信号を抑制するのに用いることができる方法である。この方法により検出の信頼性及び定量的精度は改善される。
【0045】
参照ビーズ22はセンサ上での検出過程と干渉してはならないことに留意すべきである。ラベル用ビーズ2は参照ビーズ22よりもかなりの高濃度で存在していることが好ましい。あるいはその代わりに参照ビーズ22は異なる種類であっても良い。それにより参照ビーズ22は、(たとえば磁力によって)センサから選択的に遠ざかることが可能となり、又は(大きさ又は磁気緩和時間の違いによって)検出信号での分離が可能となる。
【0046】
説明した実施例の光学的修正型では、参照ビーズ22は、供給ユニット20内の参照標的分子21と結合する。これにより、分析が開始される際、供給ユニット20内での標的分子21が、より機械的に安定する。しかしこの実施例では、校正の際に標的-ビーズ親和定数の測定は不要である。
【0047】
他の光学的修正型では、糖類コーティング23ではなく、膜(たとえば薄いポリマー層)が、参照標的21と参照ビーズ22を1つに保持する。その膜は、磁力を発生させることによって、表面14からビーズ22を磁気的にリフトオフすることによって破られることが可能である。係る磁力は、たとえば外部磁場及び集積された電流ワイヤ24によって誘起される磁場勾配によって発生させることができる。
【0048】
上述したように、供給ユニット20は、校正のためにバイオセンサ内で用いられて良い。しかし他の理由により、特定時間経過後に反応チャンバへ磁気ビーズを放出するのも有利となるだろう。その一例は、第1標的分子及び/又は他の生化学成分がセンサ表面に結合し、かつ/又は、その後磁気ビーズだけが溶液へ放出されてセンサ表面上の分子と結合する連続分析である。図5は係る連続分析の一例としてイムノアッセイ法を図示している。この分析法では、磁気ビーズから解放された分子によって第1過程が発生する(図5(a)参照。ここではPTH及びビオチン化α-PTHが加えられる)。その後ビオチン化α-PTHは(たとえば洗浄工程によって)チャンバから除去され、磁気ビーズはそのチャンバへ放出され、そしてこれらのビーズはセンサ表面へ向かう。これにより反応プロセスの速度を上げることが可能となり、かつ/又は、そのプロセスの信頼性を向上させることが可能となる。なぜならビーズの拡散はかなり遅く、かつビーズは第1結合プロセス中に立体障害を起こすからである。他の利点は、センサ表面上での分子に対するビーズの結合が、ストレプトアビジン-ビオチンのような強結合を介して起こすことができることである。図5(b)は、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズの堆積及び結合を示している。図5(c)はどのようにして結合した磁気ビーズのみが洗浄後残るのかを示している。図5のダイヤグラムは、GMRセンサによって測定された(a)〜(c)に対応する信号(任意単位)を示している。
【0049】
供給ユニットはまた、一定時間経過後、他の種類の磁性粒子をチャンバへ供給するのに用いられても良い。係る粒子はたとえば、磁気ストリンジェンシーの適用に適した磁性粒子であって良い。
【0050】
磁気ビーズ又は他の粒子を遅らせて放出させるための1つの可能性は、可溶性の母体(たとえば糖類材料)中に粒子を埋め込むことである。チップが濡れるとき、母体は溶解して、粒子は自由に動く。磁気ビーズが熱運動を示すが、電流が流れるワイヤへ向かう磁気引力により、磁気ビーズをそのワイヤ付近に保持することができる。電流が減少するとき、又は除去されるとき、磁気ビーズはワイヤからセンサ表面へ向かうように遠ざかることができる。
【0051】
一旦磁性粒子が供給ユニットの貯蔵スペースから放出されると、磁性粒子をチップ表面にかなり接近した状態に保持し、かつ磁性粒子をチップ表面に沿ってセンサユニットへ向かうように横方向に導くことが有利になりうる。これにより、粒子が試料チャンバ内で失われる、又は粒子がセンサ表面へ到達するのに長時間を要する、という事態が避けられる。そのような粒子の案内は、交互に作用する隣の電流ワイヤ(図示されていない)を用いることによって実行されて良い。
【0052】
まとめると、本発明の一般的な考えは、磁性粒子及び磁場を用いることにより生じる、時間差のついた(生)化学試薬の放出を利用することである。係る時間差のついた試薬の放出は、磁性粒子によって調節されながら流体チャンバへ放出される既知濃度の参照標的分子を加えることによるセンサの校正に用いられて良い。時間差のついた試薬の放出はまた、分析中の所望の時間に磁性粒子をセンサ表面へ供給するのにも用いられて良い。
【0053】
上述の実施例には多くの修正型及びさらなる発展型が考えられ得る。
【0054】
-試薬はたとえば、インクジェットプリント又は針による供給(needle dispensing)によって、チップ上に塗布されて良い。
【0055】
-磁気センサユニットの代わりに、光センサ及び光(たとえば蛍光)ラベルが用いられて良い。
【0056】
-流体への試薬の分散は、受動的な力(たとえば拡散)又は能動的な力(磁力、弾性波励起、電場等)によって実行されて良い。
【0057】
上述の原理は、たとえば薬物乱用抑制すなわち唾液の競合アッセイのような様々な種類の分析法に適用されて良い。
【0058】
本発明の利点は、説明されたバイオセンサには新たなマイクロ流体技術が必要ないこと、及び全体の分析の校正が可能なことである。
【0059】
最後に“物質”とは如何なる種類の材料(具体的には純粋な元素だけではなく化合物も含まれる)に関連して良いし、また単一プロセッサ又は他のユニットは複数の手段の機能を満たしても良いことに流して欲しい。本発明は、個々の新規な特徴的事項の全て、及び特徴的事項の個々の結合全てに存在する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】測定が行われる前の、本発明の好適実施例による磁気バイオセンサの断面を概略的に図示している。
【図2】試料チャンバへアッセイ物質を導入した後の、図1のバイオセンサを図示している。
【図3】供給ユニットの貯蔵室から参照物質が放出された後の、図2のマイクロエレクトロニクスセンサを図示している。
【図4】図1-3に記載されたプロセス中に観測されるセンサ信号を概略的に図示している。
【図5】イムノアッセイに関連した本発明の応用を概略的に図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用物質を操作するマイクロエレクトロニクス素子であって、
中に前記分析用物質を供することができる試料チャンバ、及び
参照物質を貯蔵領域から前記試料チャンバへ制御して放出する供給ユニット、
を有するマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項2】
前記貯蔵領域が前記試料チャンバ内に位置する、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項3】
前記供給ユニットが、前記貯蔵領域内に電場及び/又は磁場を発生させる磁場及び/又は電場発生装置を有し、
該磁場及び/又は電場発生装置とは特に、当該マイクロエレクトロニクス素子の基板に集積される電極である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項4】
前記貯蔵領域が材料によって覆われ、
前記材料は好適には膜又はシートで、かつ
前記材料は、前記貯蔵領域内の参照物質に放出力を加えることによって、分離すなわち除去可能である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項5】
磁気的又は電気的に相互作用する粒子を、前記貯蔵領域から前記試料チャンバ内の標的位置まで導くことができる磁場及び/又は電場を発生させる少なくとも1つの案内用電極を有することを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項6】
複数の前記電極及び該電極を順次起動するための制御装置を有することを特徴とする、請求項5に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項7】
前記供給ユニットの貯蔵領域に参照物質が供されていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項8】
前記分析用物質の特性を測定するセンサユニットを有することを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項9】
前記センサユニットが、前記試料チャンバ内で磁場を発生させる磁場発生装置、及び磁気センサ素子を有することを特徴とする、請求項8に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項10】
前記試料チャンバが、前記チャンバへ前記分析用物質又はその成分を供するための流入口を有する、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子。
【請求項11】
試料チャンバ内の分析用物質を操作する方法であって、既知量の参照物質を貯蔵領域から前記試料チャンバへ制御して放出する手順を有する方法。
【請求項12】
センサユニットによって前記分析用物質の特性の少なくとも1つを測定する手順を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分析用物質が、前記分析用物質の標的成分に結合可能な又は束縛される磁気的又は電気的に相互作用するラベル用粒子を有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記参照物質の制御された放出に基づいて、前記センサユニットのエラーチェック及び/又は校正を行う手順を有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記参照物質の制御された放出が、前記分析用物質又はその一部が前記試料チャンバに導入されてから所定期間経過後に起こる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記試料チャンバの表面が前記分析用物質標的成分を固定する結合位置を有することを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記参照物質が、前記結合位置によって束縛可能な参照標的成分を有することを特徴とする、請求項16に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は方法。
【請求項18】
前記参照物質が、磁場及び/又は電場によって前記貯蔵領域内に保持されることが可能な磁気的又は電気的に相互作用する参照粒子を有することを特徴とする、請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記磁場及び/又は電場の強度が、前記参照物質の放出中、徐々に変化することを特徴とする、請求項18に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は方法。
【請求項20】
前記参照物質は参照標的成分を有し、かつ
前記参照粒子は前記参照標的成分へ束縛され、又は束縛可能である、
ことを特徴とする、請求項18に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は方法。
【請求項21】
前記参照物質が、担体内に埋め込まれた参照標的成分を有し、かつ
前記担体は特に、可溶性母体又は糖類である、
請求項1に記載のマイクロエレクトロニクス素子又は請求項11に記載の方法。
【請求項22】
分子診断、生体試料分析、又は化学試料分析に用いられる上記請求項のうちのいずれかに記載のマイクロエレクトロニクス素子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−530601(P2009−530601A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558953(P2008−558953)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/050710
【国際公開番号】WO2007/105140
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】