説明

反射率スペクトルのコンパクト表現

本発明は、物質の反射率スペクトルのコンパクト表現に関する。例えば、複数の物質の反射率スペクトルデータの圧縮、識別及び比較用である。圧縮表現は、反射率スペクトルデータにスプライン曲線を補間し、そのスプライン曲線は、制御点の組及びノットベクトルを有し、独立パラメータの関数として波長及び反射率を表す(42)。そして、波長の関数に基づいてスプライン曲線のパラメータドメインにおいてコスト関数を最小化する一つ以上のノットをノットベクトルから除去する(44)。本発明の態様には、方法、ソフトウェア、コンピュータシステム、コンパクト表現自体が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物質の反射率スペクトルのコンパクト表現に関する。特に、本発明は、複数の物質の反射率スペクトルデータの圧縮、識別及び比較に関するが、これらに限定されるものではない。本発明の態様には、方法、ソフトウェア、コンピュータシステム、コンパクト表現自体が含まれる。
【背景技術】
【0002】
“スペクトル”との用語は、波長の連続範囲にわたる光エネルギーの分布を表す。物質の反射率スペクトル(‘スペクトルシグネチャ’としても知られている)は、物質から反射された光の割合を含み、物質の特徴となる。
【0003】
イメージセンサ技術の発達によって、広域スペクトルの波長をカバーするイメージデータをキャプチャすることができるようになってきた。三色センサとは対照的に、マルチスペクトル感知デバイス及びハイパースペクトル感知デバイスは、広域スペクトルにわたる数百から数千のバンドの波長インデックス反射率及び放射輝度のデータを獲得することができる。現在のところ、こうしたスペクトルは、離散的な波長インデックス測定において獲得されて保存される。
【0004】
結果として、反射率スペクトルデータのサイズは波長の数又はスペクトル解像度に依存する。高解像度スペクトルに対して、各シグネチャは、数百の値、つまりバンドからなり得て、保存するには大きな記憶スペースを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Les Piegl及びWayne Tiller著、“The NURBS book”、Springer−Verlag、(英国ロンドン)、1995年
【非特許文献2】E.T.Y.Lee、“Choosing nodes in parametric curve interpolation”、Computer−Aided Design、1989年、第21巻、第6号、p.363−370
【非特許文献3】Wayne Tiller、“Knot−removal algorithm for NURBS curves and surfaces”、Computer−Aided Design、1992年、第24巻、第8号、p.445−453
【非特許文献4】Z.Fu、A.Robles‐Kelly、T.Caelli、R.Tan、“On Automatic Absorption Detection for Imaging Spectroscopy: A Comparative Study”、IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing、2007年、第45巻、p.3827−3844
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様において、本発明は、第一の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成する方法である。本方法は、
(a)波長及び反射率の値を備えた反射率スペクトルデータに対して受信又はアクセスをする段階と、
(b)反射率スペクトルデータにスプライン曲線(このスプライン曲線は、制御点の組及びノットベクトルを有していて、独立パラメータの関数として波長及び反射率を表す)を補間する段階と、
(c)スプライン曲線のパラメータドメインにおいてコスト関数を最小化する一つ以上のノットをノットベクトルから除去する段階と、を備える。
【0007】
本発明の利点は、反射率スペクトルデータを、スプライン曲線の制御点の組及びノットベクトルを用いて表すことができる点である。スプライン曲線を、段階(b)の補間によって、反射率スペクトルデータを尊重するようにそのデータにフィッティングして、段階(c)によって、そのデータを表すのに使用されるパラメータの数を低減する。このようにして、本方法は、数千となり得るサンプルを複数の制御点及びノットへと低減することによって、記憶スペースを節約する反射率スペクトルデータのコンパクト表現を提供する。更に、圧縮比と表現の質との間のトレードオフが段階(c)によって制御される。更に他の利点として、制御点及びノットベクトルの表示が照明、ノイズ及び現場形状の変化に対してロバストである点が挙げられる。
【0008】
スプラインは、グラフィックス及びコンピュータ支援設計(CAD)において使用されている。スプラインは、車のボディ及び船の船体を表すように設計及び使用されている。スプラインは、3次元表面として見られる自由造形エンティティである。反射率スペクトルデータは、2次元の波長インデックス信号として理解されている。従って、本発明は、スペクトルシグネチャの幾何学的解釈の観点における革新的な変化を意味する。
【0009】
本方法は、
(d)制御点の組及びノットベクトルに基づいたスプライン曲線として反射率スペクトルデータを表示する段階を更に備え得る。スプライン曲線は、非一様有理Bスプライン(NURBS, Non−Uniform Rational B‐Spline)曲線であり得る。
【0010】
段階(c)のコストの最小化は、反射率の関数に基づいたものであり得る。コスト関数は、反射率スペクトルデータとスプライン曲線との間の平方差として定義可能である。つまり、コスト関数は、波長及び反射率の値の各ペアの反射率の値と、そのペアと同じ波長の値に対応するパラメータに対する反射率の関数によって与えられる反射率の値との間の平方差の和に基づいたものである。言い換えると、各波長は、波長の関数及び反射率の関数の両方によって用いられる独立パラメータに対応する。平方差は、独立パラメータのドメイン(パラメータドメインとも称される)において定義される。
【0011】
また、コスト関数は多数のノットをペナライズし得る。
【0012】
波長の関数及び反射率の関数は、(同じ)ノットベクトルに基づいている同じ基底関数を共有し得る。
【0013】
段階(c)は、
(i)除去可能なノットの候補の組を識別する段階と、
(ii)各ノットの候補を除去することによってもたらされる概算のコスト低減を求める段階と、
(iii)コスト関数に従って概算で最大のコスト低減をもたらす第一のノットをノットの候補の組から選択する段階と、
(iv)第一のノットをノットベクトルから除去する段階と、
(v)除去された第一のノットにより影響される局所において反射率スペクトルデータから波長及び反射率の値のペアを除去する段階と、を更に備え得る。
【0014】
本方法は、
残りの各ノットの除去によってもたらされる概算のコスト低減が所定の値(更なるノットの除去がより低いコストをもたらさなくなる値や所定のノットの数等)未満になるまで、段階(b)及び(c)を繰り返す段階を更に備え得る。
【0015】
本方法は、
段階(c)で除去されたノットの局所において反射率スペクトルデータから波長及び反射率の値のペアを除去する段階と、
パラメータドメイン内において反射率スペクトルデータを再サンプリングして、その再サンプリングされた反射率データに対して段階(b)及び(c)を行う段階と、を更に備え得る。
【0016】
段階(c)の(ii)における繰り返しは、
前のノットの除去を行った効果による各概算のコスト低減をアップデートすることによって、各候補の除去によりもたらされる概算のコスト低減を求める段階を備え得る。
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態の利点は、最適化手続きとして従来の補間及びノット除去法を修正する点である。本方法では、補間自体がNURBSに対する標準的なものでなく、フィット及び表現次元の良さに関して表現を最適化する修正版である。
【0018】
反射率スペクトルデータは、生のスペクトルデータ及び/又はスペクトルイメージを含む。データは、離散的なサンプルで構成され得る。
【0019】
データを、ハイパースペクトルイメージングデバイス及びスペクトロメータから受信し得る。
【0020】
本方法は、第二の物質を識別する識別子に対するコンパクト表現を提供する段階を更に備え得る。
【0021】
本方法は、第二の物質の反射率スペクトルデータに対して段階(a)、(b)、(c)及び(d)を行うことによって第二の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成する段階を更に備え得る。
【0022】
本方法は、
第一の物質の物質の種類が知られている場合に、その物質の種類を識別する識別アルゴリズムを学習する段階と、
その識別アルゴリズム及び第二の物質のコンパクト表現を用いて、第二の物質の物質の種類を識別する段階と、を更に備え得る。第一及び第二の物質の反射率スペクトルデータの解像度は異なるものであり得る。
【0023】
本方法は、第一及び第二の物質のそれぞれのコンパクト表現(つまり制御点の組及びノットベクトル)を比較することによってそれらの物質の反射率スペクトルを比較する段階を更に備え得る。その比較の結果は、第二の物質が第一の物質と同じであるか異なるかを識別するものであり得る。第一の物質の反射率スペクトルは、第二の物質の反射率スペクトルをキャプチャするデバイスとは異なる解像度を有するデバイスによってキャプチャされ得る。異なる機器によって獲得される反射率スペクトルデータは、異なるスペクトル周波数でサンプルがとられたものであるので互換性がないことが多い。本実施形態の利点は、スプラインの使用によって、共通の処理で異なる機器で獲得される異なる反射率スペクトルを分析するための統一された数学的基底が提供される点である。また、スプラインの使用は、数値的に安定で効率的な閉形式のスペクトル表現も提供する。また、スプラインは幾何学的変形に対して不変であり局所的サポートを示すので、ノイズに対してロバストであり、このことは、反射率スペクトルデータにおける局所的な摂動及び破損が、波長インデックス測定の残りの部分に影響しないということを意味する。
【0024】
本方法は、第一の物質の反射率スペクトルデータ及び第二の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成する段階を更に備え得て、段階(b)は、第一及び第二の物質の各反射率スペクトルデータにスプライン曲線を、そのスプライン曲線がノットベクトル、波長の関数及びパラメータの値を共有して、各スプライン曲線がそれ自体の反射率の関数及び制御点を有するように、補間する段階を備える。段階(c)のコスト関数の最小化は、各スプライン曲線に対して、波長及び反射率の値の各ペアの反射率の値と、全スペクトルにわたって平均化された同じ波長に対応するパラメータに対する反射率の関数によって与えられる反射率の値との間の平方差の和の最小化を備え得る。
【0025】
更なる態様では、本発明は、コンピュータシステムにインストールされると、上述の方法に従ってそのコンピュータシステムを動作させるソフトウェアを提供する。
【0026】
更に他の態様では、本発明は、第一の物質の反射率スペクトルのコンパクト表現を生成するコンピュータシステムを提供し、そのコンピュータシステムは、
反射率スペクトルデータを受信する入力ポートと(受信が行われるのであれば)、
上述の段階(b)及び(c)を行うプロセッサと、
コンパクト表現の制御点の組及びノットベクトルを保存する記憶手段と、を備える。
【0027】
プロセッサは段階(d)を更に実施し得て、コンピュータシステムは、NURBS表現を表示する出力デバイスを更に備え得る。
【0028】
本発明の更なる態様は、コンピュータ可読媒体に保存された反射率スペクトルデータのコンパクト表現を提供し、そのコンピュータ表現は上述のように生成されたものである。
【0029】
以下説明する添付図面を参照して本発明の一例についてこれから説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一例の方法のフローチャートである。
【図2】一例のコンピュータシステムの概略図である。
【図3】一例のノット除去方法をまとめたAlgorithm1を示す。
【図4】パラメータドメインにおいて再サンプリングされたデータ点でノット除去アルゴリズムを反復的に適用するAlgorithm2を示す。
【図5】人間の肌の反射率スペクトルからノットを除去することによって得られたNURBS曲線を示す。
【図6】葉の反射率スペクトルからノットを除去することによって得られたNURBS曲線を示す。
【図7】複数の反射率スペクトルと共に使用される補間ステップをまとめたAlgorithm3を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本例では、マルチスペクトルデータに対する非一様有理Bスプライン(NURBS, Non−Uniform Rational B‐Spline)曲線の補間による制御点に基づいた反射率表現を、図1のフローチャートを参照して説明する。補間は、パラメータドメインにおけるノット除去スキームに基づいている。従って、NURBSの局所的サポートを利用して、ハイパースペクトルイメージングデバイス及びスペクトロメータから得られたスペクトルシグネチャデータのコンパクト形式を再現する。
【0032】
図2を参照して、本方法を行うために本例で使用されるコンピュータシステム10を説明する。スペクトロメータ12は、そのスペクトルメータ12の視界内に存在している葉14の反射率スペクトルデータをキャプチャする。そして、このデータを、コンピュータ16による受信40がなされる入力ポート(図示せず)への直接接続によって、コンピュータ16に提供する。そして、この反射率スペクトルデータを、コンピュータ16の記憶媒体(外部データ記憶体18又は内部のもの(図示せず)等)に保存する。
【0033】
コンピュータ16には、そのプロセッサが保存された反射率スペクトルデータにアクセスして図2に示される方法(データのコンパクト表現の生成を含む)を行うようにさせるソフトウェアがインストールされている。また、ソフトウェアによって、プロセッサがアルゴリズムの学習及びデータの更なる分析(後述の物質の比較及び識別等)を行うことができる。
【0034】
コンパクト表現は、データ記憶体18上に保存されている反射率スペクトルデータを置換し得る。NURBSは、コンピュータシステムの出力デバイス(この場合モニタ20)上に表示可能である。
【0035】
〈NURBSベース表現〉
NURBSベース表現は、密にサンプリングされた反射率スペクトル(可視スペクトルにわたる数百のデータ点からなる可能性がある)に対処することができる。分類目的に対して、長い特徴ベクトルは、その計算コスト及び学習の理論的制限によって、性能を低下させることが知られている。従って、その表現が、可能な最低次元で最大の識別力を有することが望ましい。
【0036】
これから、NURBS曲線について説明し、その曲線をスペクトルに対する補間ステップ42と関係付ける。次に、スプライン曲線のパラメータドメインにおけるコスト関数を最小化することによってノット除去44を行うことを介して、反射率スペクトル表現を定式化する。
【0037】
〈基本的な定式化〉
Bスプラインは、次数、滑らかさ及びドメイン区分によるサポートを有する関数である。滑らかさは、補間曲線がノイズに対してロバストであるようにする。局所的サポート性によって、所定の波長範囲にわたる曲線の修正が、スプラインの残りの部分に影響を与えずに、可能になっている。
【0038】
まず、或る定式化が必要となる。スペクトルは波長λの関数であるので、二次元の場合に分析を制限する。nセグメントからなるRにおけるp次のBスプライン曲線Cは、一変量tのパラメータドメインUの関数であり、以下の線形結合によって与えられ、
【数1】

ここで、P=(x,y)は2次元の制御点であり、Ni,p(t)は、パラメータドメイン上に定義されるp次のBスプライン基底関数である(非特許文献1)。曲線上の点の座標(x,y)は、以下のパラメータ形式で表現される
【数2】

【0039】
Bスプラインは、制御点のみによって特徴付けられるのではなく、ノットベクトルU={u,…,u}によっても特徴付けられ、ここでm=n+p+1である。これらの要素によって、p次Bスプラインのi番目の基底関数Ni,p(t)を以下のように定義することができる
【数3】

【0040】
基底関数Ni,p(t)は、区間[u,ui+p+1)に対してのみゼロではない値をとる区分的多項式である点に留意されたい。また、基底関数は、パラメータtによって支配される局所的部分のスプラインの形状のみに影響する点に留意されたい。
【0041】
表現を定式化するため、スペクトルを、二座標(λ,R)でのスペクトルサンプルの集合として取り扱い、ここで、Rは、波長λにおけるk番目の反射率サンプルである。従って、これらのデータ点を介したBスプライン曲線のパラメータ形式が、tの二つの関数として波長及び反射率を表示することによって(それぞれλ(t)、R(t)として示す)、得られる。そして、その表現は、測定された反射率Rとパラメータドメイン内で計算されたものR(t)との間の平方差によって定義されるコスト関数を最小化する制御点の組及びノットベクトルによって支配される。サンプリングされた反射率スペクトルの初期補間から離れて、ノット除去アルゴリズムを介してコスト関数を最小化する曲線に到達する。
【0042】
コスト関数を最小化する制御点及びノットベクトルが手に入ると、NURBS表示の構築46に進む。これは、制御点の組及びノットベクトルUから最も特徴的な成分を選択することによって行われる。ノット及び各制御点のx座標つまり式(2)の変数xは、それらがNURBSのサポートを支配するパラメータドメインの特定の周辺区域において変化することが観測される。これは、波長ドメインにおいて反映されるので、スペクトルにわたるその変化は、制御点のy座標、つまり式(3)の変数yと同じ様にはスペクトル形状に関係し得ない。言い換えると、制御点のy座標の変化が、スペクトルの一般的形状を主に決定する。
【0043】
〈指向性補間〉
上述のように、統計学習において、表示は、高い識別力を与える統計情報を保つことが望まれる。従って、各反射率スペクトルに対する補間Bスプライン曲線42の選択を最適化するターゲット関数を作り出す。各波長{λ},k=1,…lにおける反射率Rの表面を考えて、以下のパラメータ形式を満たす制御点P=(x,y)及びノットベクトルUで補間曲線Cを再現することを目標とする
【数4】

【0044】
上記Bスプライン曲線を用いて点(λ,R)を補間するコストは以下の式によって与えられる
【数5】

ここで、|・|は、ベクトル引数の長さを示し、αはゼロと1との間の定数である。ドメインパラメータt∈Uは、k番目の波長に対応し、つまりλ=λ(t)である。
【0045】
上記式(6)の第一項は、波長と反射率のペアによって定義される二次元空間における平方誤差の加重和である一方、第二項は、ノットの重み付けされた数である。従って、最適な補間曲線は、平方距離(R(t)−Rの和を最小にする一方で、多数のノットをペナライズする。これには、結果としての曲線における反射率データの一般的形状を描くこととその描画に必要とされるノットの数を最小化することとの間のバランスが課せられる。このトレードオフはαによって支配される。小さな値のαは、オリジナルのデータの一般的形状を尊重したものよりも短い表示を好む。また、ノット数が減少すると、補間曲線が滑らかになる点には留意されたい。従って、αの適切な選択によって、表示がノイズに晒され難くなる一方で、過剰に滑らかにすることや詳細が失われることが防止される。
【0046】
〈コスト関数の最小化〉
ノットの除去44は、式(6)に導入される補間コストを最小化することを目的としている。研究対象の反射率スペクトルに対するNURBS曲線の初期近似から離れる。このため、全ての制御点に対するパラメータ値を再現するLeeの求心法(非特許文献2)を用いた非特許文献1における曲線補間アルゴリズムを適用する。
【0047】
この初期近似が手に入ると、非特許文献3のものと同様のノット除去法を用いてノットを逐次的に除去することに進む。そのアルゴリズムは2パスプロセスである。第一パスでは、除去可能なノットが識別される、第二パスでは、ノットが逐次的に除去されて、新たな制御点が計算される。このアルゴリズムは有効ではあるが、各パスにおいて除去される最良のノットを自動的に決定することができず、除去されるノットはインプットとして指定されるものとする。本例のノット除去アルゴリズムは、除去可能なノットに対して可能なコスト低減を計算する。それらのノット及びコスト関数に対するそれらの寄与が手に入ると、それらのノットを除去するTillerのアルゴリズム(非特許文献3)を用いる。
【0048】
従って、本アルゴリズムは、候補となるノットの中から最大のコスト低減をもたらすものを選択する。また、上述の戦略に従うと、パラメータtを全ての波長λに対して再現すべきである点に留意されたい。これは単純な作業ではない。何故ならば関数λ(t)が、式(4)に与えられる基底関数Ni,pの線形結合として表されるからである。この式は解析的には解くことができないので、最適な解を見つけて含まれる計算コストを低減するために数値的アプローチを採用する。実際には、波長λ(t)がパラメータドメインにおいて増加関数であると仮定するのが理にかなっている。従って、所定のλに対して、λ〜λ(t)となるような二分探索をtに対して行うことができる。
【0049】
〈実行〉
ノット除去プロセス44は、反復法であり、各反復回において、コストKの低減を最大にするノットを探し出す。ノット除去アルゴリズムが、Algorithm1にまとめられていて、ノット除去の前及び後の平方誤差の和がそれぞれSSEold、SSEnewで示されている。RemoveKnot(・)手続きでは、非特許文献3のノット除去アルゴリズムが行われる。
【0050】
Bスプライン曲線の局所的サポート性の結果として、除去は、ノットの周辺区域の曲線区分のみに影響する。従って、効率化のため、平方誤差の和の変化を、除去候補uの周辺区域内の変化として計算して、NURBSの局所的サポートを利用する。このため、NURBSのスパン(非特許文献1)を使用して、スプラインにわたるその効果をバックトラックするリストを用いる。
【0051】
ノットの除去がこれ以上補間コストを低減できなくなると、ノット除去アルゴリズムを終了させる。しかしながら、ノットの数が厳しい制約として課される。何故ならば、表現を、それらが分類子に入力される前に長さについて正規化する必要があるからである。従って、図3のAlgorithm1のノット除去法は、パラメータドメイン内のデータ点を再サンプリングすることによって再帰的に適用される。ノット除去アルゴリズムに対する再帰の擬似コードが、図4のAlgorithm2に示されている。再サンプリング作業によって、オリジナルのデータから制御点の分布を変化させることなく、曲線区分の数を減らすことによってノットを更に除去することができる。再サンプリング作業用のパラメータ値がノットスパンの中点によって与えられる場合、平滑化が最も重要となる点には留意されたい。従って、結果としてのノット付近でパラメータ値をサンプリングして、オリジナルの曲線の形状を保つ。
【0052】
図5は、人間の肌の反射率スペクトル(点で示す)からノットを除去することによって得られた結果のNURBS曲線(連続線)を示し、また、図6は葉のものである。オリジナルの反射率データは4nm毎にサンプリングされている。これらの図面では、次数3のBスプライン基底関数で反復的なノット除去が行われている。これによって、曲線ごとに34個のノットと30点の制御点が生じた。このノットの数はオリジナルのデータ点の数よりもはるかに小さいものではあるが、図5及び図6において二つの見た目の異なる曲線が存在しないことに見て取れるように、結果としてのNURBS曲線が依然としてオリジナルのデータとよく揃っている点には留意されたい。従って、本コスト最適化ノット除去アルゴリズムは、反射率スペクトルの一般的形状を尊重しながら次元縮小を行うことができる。このことは、400nmから750nmの間のスペクトル全体にわたって明白である。
【0053】
NURBSベース表現は、スペクトロメータによって測定される位置情報的反射率スペクトルや、ハイパースペクトルセンサによってキャプチャされるハイパースペクトルイメージ等のスペクトルデータの圧縮及び効率的保存用の手段を提供する。ここで、最も分かり易いオプションは、クオリティファクタをβ=1/αとして示して、生のスペクトルの代わりとして制御点及びノットベクトルを保存することである。
【0054】
二物質の反射率データのコンパクト表現を生成することに関する本発明の更なる例について、これから説明する。
【0055】
パターン認識及びイメージコーディングにおいて、研究対象のデータは一般的に、共通の基底によるコンパクトな特徴によって表される。この目標を動機として、スペクトルドメインにおいてコンパクトである反射率スペクトルの所定の集合用のNURBSベース表現を提案する。この表現の目的は三つある。第一に、この表現は、異なる物質の反射率スペクトル(異種の感知デバイスによってキャプチャされている可能性がある)を表して比較する共通のBスプライン基底を提供する。基底関数の連続性、微分可能性及び局所的サポート性によって、スペクトルシグネチャの更なる機能分析が可能となる。第二に、この表現は、コンパクトなスプライン特徴に基づいた物質の認識を可能にする。第三に、この表現は、スペクトルドメインにおける低減を介してハイパースペクトルイメージの圧縮を容易にする。
【0056】
この場合のNURBSベースの記述子の定式化は、単一のスペクトルに対して構築される。更に、上述の動機により、研究対象の全反射率スペクトルを同じBスプライン基底関数Ni,p(t),i=0,…,nによって表すことが必要とされる。これは、同じ波長範囲においてサンプリングされたスペクトルシグネチャの集合に対して、それらのNURBSベース表示が同じノットベクトル及び波長に対応するパラメータ値を共有するということを意味している。
【0057】
反射率スペクトルの集合R=[Rv,1,Rv,2,…,Rv,lが与えられているとし、ここで、vはスペクトルインデックス(又はハイパースペクトルイメージにおける画素インデックス)を示し、Rv,kは、波長{λ},k=1,…,lにおけるスペクトルvの測定された反射率である。反射率と波長のペアで構成された二座標の点の組として各反射率スペクトルを取り扱うため、各スペクトルに対するBスプライン曲線が、それらが同じ基底関数、ノットベクトル及び波長次元の制御点を共有するように再現する。スペクトル同士を区別する特徴は、反射率次元の制御点である。
【0058】
形式的には、この問題は以下のように定式化される。スペクトルインデックスvに対して、
【数6】

が、全スペクトルに対して共通の制御点Pv,i=(x,yv,i),i=0,…,n及びノットベクトルUでBスプライン曲線Cを再現するようにする。この曲線の座標は、独立パラメータtの関数として定義される。
【0059】
式(7)及び(8)において、基底関数Ni,p(t)及び波長補間関数λ(t)が所定の全スペクトルに対して同じである点に留意されたい。対照的に、反射率補間関数R(t)及びそれに関連する制御点座標yv,iはスペクトルシグネチャによって変化する。従って、スペクトルシグネチャの集合の表現は、所定のスペクトルシグネチャに対応するノットベクトルU、制御点の波長座標[x,…,x及び制御点の反射率座標[yv,0,…,yv,nで効果的に構成される。
【0060】
原理的には、以下のようにして、全スペクトルに対して共通基底関数を得ることができる。共通ノットベクトル及び独立パラメータ値tを、全てのスペクトル又はハイパースペクトルイメージの空間次元にわたって、個々のスペクトルに対するものの平均として計算する。この作業を、図3のAlgorithm1のライン1及び22のグローバル補間ステップにおいて行うことができる。
【0061】
図7のAlgorithm3は、同一のノットベクトル、基底関数及び波長次元の制御点を共有するBスプライン曲線の数によって所定の反射率スペクトルの集合を補間する手続きを提供する。
【0062】
Algorithm3のフローを以下説明する。第一に、Lee(非特許文献2)による求心法(ライン4〜7)を用いて、各反射率スペクトルに対して別々にパラメータ値tv,kを計算する。求心法の代わりに他の方法を用いてパラメータ値を計算することができる点には留意されたい。全スペクトルシグネチャにわたるパラメータ値の平均tを得た後で、共通ノットベクトルがライン9〜11で計算される。更に、ライン14のFindSpan(l,p,t,U)手続きによって、二分探索法を用いてtのノットスパンインデックスが得られる。続いて、ライン15のBasisFunctions(span,t,p,U)手続きによって、パラメータ点tにおける基底関数を評価する。制御点座標は、ライン17及び19に示される線形方程式の解である。
【0063】
次に、波長インデックス反射率スペクトルの組R=[Rv,1,Rv,2,…,Rv,lにわたる上記曲線の補間のコストを定式化する。パラメータt∈Uがk番目の波長に対応する、つまりλ=λ(t)∀kとして、上記Bスプライン曲線を用いる補間コストが以下のように与えられる
【数7】

ここで、Nはスペクトルシグネチャの数であり、|・|はベクトル引数の長さを示し、αはゼロと1との間の定数である。
【0064】
式(9)のコスト関数は、第一項のみが式(6)と異なり、その第一項は、全スペクトルにわたって平均化された、波長と反射率のペアの2次元空間における平方誤差の加重和である。従って、全スペクトルシグネチャにわたって(又はハイパースペクトルイメージの空間次元にわたって)共通ノットベクトルを順守している限りは、Algorithm1及び2の同じノット除去手続きを用いて、このコスト関数を最小化することができる。
【0065】
原理的には、以下のようにして、全スペクトルに対して共通基底関数を得ることができる。共通ノットベクトル及び独立パラメータ値tを、全てのスペクトル又はハイパースペクトルイメージの空間次元にわたって、個々のスペクトルに対するものの平均として計算する。更に、この作業を、Alrogithm1のライン1及び22のグローバル補間ステップにおいて行うことができる。
【0066】
NURBSベース表現は、スペクトルデータ及びイメージの圧縮及び効率的記憶用の手段を提供する。上述のように、ここで、最も分かり易いオプションは、生のスペクトルの代わりとして制御点及びノットベクトルを保存することである。
【0067】
この方法は、記憶容量の大幅な低減につながる。l個のバンドにN個のスペクトルシグネチャを有するとしてみる。各スペクトルを保存するのに必要な要素の数はnであり、ここで、nは、バンドの数の代わりに、制御点の数である。更に、全スペクトルに対して共通であるノットベクトル(n+p+1個の要素を含み、ここでpは基底関数の次数である)及び制御点の波長座標(n個の要素を含む)を保存するコストは無視できるものである。従って、圧縮比は略n/lである。例えば、数百のバンドを伝えるハイパースペクトルカメラに対して、記憶容量は、数百のバンドから数十のものへと低減して、略十倍の記憶容量の低減が得られる。
【0068】
また、本方法は、スペクトル解像度の異なる複数の感知デバイスによって獲得されたスペクトルの補間も可能にする。ハイパースペクトル感知による物質の認識、検出及び分析は、解像度の大きく違うものであり得る複数のスペクトロメータ及びカメラに基づいたものであることが多いので、これは重要である。本NURBSベース表示によるスペクトルデータの補間によって、スペクトルシグネチャを、そのサポートが局所的である連続的な基底関数の組に要約することが可能になる。従って、例えば1nmのスペクトル解像度のスペクトロメータにより獲得されたシグネチャを、10nmのオーダの解像度のカメラによるスペクトルに対して連続ドメインにおいて補間することができる。
【0069】
また、監視された認識及び検出アルゴリズムを、高解像度スペクトルシグネチャに対して学習した後に、低解像度スペクトルイメージに適用することができる。同様に、スペクトルを、連続ドメインにおいてスペクトルを扱い、微分解析(非特許文献4)を閉じられた計算効率的な方法で行うことができる。
【0070】
大枠的に説明された本発明の範囲から逸脱することなく、多数の変形及び/又は修正を、特定の実施形態において説明されたような本発明に対して行うことができることを当業者は理解されたい。
【0071】
例えば、補間ステップを修正して、ノット及び制御点のx座標(スペクトルの波長に対応する)を固定することができる。これによって、イメージ画素にわたる冗長な波長情報の保存のオーバーヘッドが更に低減されて、圧縮比が改善される。
【0072】
従って、本実施形態は、その全ての態様において例示的なものであり、限定的なものではない。
【符号の説明】
【0073】
10 コンピュータシステム
12 スペクトロメータ
14 葉
16 コンピュータ
18 データ記憶体
20 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成する方法であって、
(a)波長及び反射率の値のペアを備えた反射率スペクトルデータの受信又はアクセスをする段階と、
(b)前記反射率スペクトルデータに対して、制御点の組及びノットベクトルを有して且つ独立パラメータの関数として波長及び反射率を表すスプライン曲線を補間する段階と、
(c)前記スプライン曲線のパラメータドメインにおいてコスト関数を最小化する一つ以上のノットを前記ノットベクトルから除去する段階と、を備えた方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記スプライン曲線が非一様有理Bスプライン(NURBS)曲線である、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
段階(c)のコストの最小化が反射率の関数に基づいたものである、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記コスト関数が前記反射率スペクトルデータと前記スプライン曲線との間の平方差によって定義される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記コスト関数が、波長及び反射率の値のペアからの反射率の値と、前記ペアと同じ波長の値に対応するパラメータに対する反射率の関数によって与えられる反射率の値との間の平方差に基づいたものである、方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法であって、
前記コスト関数が多数のノットをペナライズする、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、
波長及び反射率の関数が、前記ノットベクトルに基づいた同じ基底関数を共有する、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法であって、
段階(c)が、
(i)除去可能なノットの候補の組を識別する段階と、
(ii)各ノットの候補を除去することによりもたらされる概算のコスト低減を求める段階と、
(iii)前記コスト関数に従って概算で最大のコスト低減をもたらす第一のノットを前記ノットの候補の組から選択する段階と、
(iv)前記ノットベクトルから前記第一のノットを除去する段階と、
(v)除去された前記第一のノットによって影響される局所において前記反射率スペクトルデータから波長及び反射率の値のペアを除去する段階と、を備える、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法であって、
段階(c)において除去されるノットの局所において前記反射率スペクトルデータから波長及び反射率の値のペアを除去する段階と、
前記パラメータドメイン内において反射率スペクトルデータを再サンプリングして、再サンプリングされた反射率データに対して段階(b)及び段階(c)を行う段階と、を更に備えた方法。
【請求項10】
請求項9を介して請求項8に記載の方法であって、
段階(c)の(ii)における繰り返しが、
前のノットの除去を行った効果による各概算のコスト低減をアップデートすることによって、各ノットの候補の除去によるもたらされる概算のコスト低減を求める段階を備える、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法であって、
前記反射率スペクトルデータが、ハイパースペクトルイメージングデバイス及び/又はスペクトロメータから受信されるものである、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法であって、
第二の物質を識別する際に使用される識別子に対するコンパクト表現を提供する段階を更に備えた方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法であって、
該方法を繰り返して、第二の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成する段階と、
第一の物質と第二の物質との反射率スペクトルデータのコンパクト表現を比較して、前記第二の物質が、前記第一の物質と同じであるか異なるかを識別する段階と、を更に備えた方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法であって、
第一の物質の反射率スペクトルが、第二の物質の反射率スペクトルデータをキャプチャするデバイスとは異なる解像度を有するデバイスによってキャプチャされる、方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法であって、
該方法が、第一の物質の反射率スペクトルデータ及び第二の物質の反射率スペクトルデータのコンパクト表現を生成し、段階(b)が、各反射率スペクトルデータに対してスプライン曲線を、該スプライン曲線がノットベクトル、波長の関数及びパラメータの値を共有して且つ各スプライン曲線が該各スプライン曲線自体の反射率の関数及び制御点を有するように、補間する段階を備える、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
段階(c)におけるコスト関数の最小化が、各スプライン曲線に対して、波長及び反射率の値の各ペアの反射率の値と、全スペクトルにわたって平均化された同じ波長に対応するパラメータに対する反射率の関数によって与えられる反射率の値との間の平方差の和の最小化を備える、方法。
【請求項17】
コンピュータシステムにインストールされると、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法に従って前記コンピュータシステムを作動させるソフトウェア。
【請求項18】
第一の物質の反射率スペクトルのコンパクト表現を生成するコンピュータシステムであって、
請求項1から16のいずれか一項に記載の段階(a)、(b)及び(c)を行うプロセッサと、
前記コンパクト表現の制御点の組及びノットベクトルを保存する記憶手段と、を備えたコンピュータシステム。
【請求項19】
コンピュータ可読媒体に保存された反射率スペクトルデータのコンパクト表現であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法に従って生成されているコンパクト表現。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−524578(P2011−524578A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513824(P2011−513824)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000793
【国際公開番号】WO2009/152583
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(507074133)ナショナル・アイシーティ・オーストラリア・リミテッド (10)
【Fターム(参考)】