説明

反射防止フィルム及びその製造方法

【課題】 易接着皮膜を有しないポリエステルフィルムを用いることによって、反射干渉ムラを少なくし、外観特性に優れると共に反射防止性能を高くできるものでありながら、ハードコート層の剥離をも少なくすることができる反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルフィルム1の表面に屈折率が1.55〜2.0のハードコート層2を形成した反射防止フィルムに関する。ポリエステルフィルム1として、ハードコート層2と接する表面に易接着皮膜を有さず、且つハードコート層2と接する面に改質処理が施されたもの用いる。クロスカット試験で評価されるハードコート層2の密着性が90/100以上である。易接着皮膜による反射干渉ムラを少なくすることができる。ポリエステルフィルム1の表面の改質処理により易接着皮膜が無くてもハードコート層2の剥離を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム及びその製造方法に関し、さらに詳しくはディスプレイ(CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、ELディスプレイ、等)の表示画面表面に適用される反射防止フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特に、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの2軸延伸フィルムは、優れた機械的特性、耐熱性、耐薬品性等を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、ラミネート用フィルム、ディスプレイなどの表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。特に、ディスプレイ用途に関しては液晶表示装置の部材であるプリズムレンズシート、タッチパネル、バックライト等のベースフィルムや、テレビの反射防止フィルムのベースフィルム、プラズマテレビの前面光学フィルターに用いられる反射防止フィルム、近赤外線カットフィルム、電磁波シールドフィルムのベースフィルム等の用途がある。
【0003】
このような反射防止フィルムなどの光学フィルムに用いられるベースフィルムは優れた透明性の他に、他の材料に対する易接着性が要求される場合がある。すなわち、ベースフィルムには、光学フィルムとしての性能を確保したり機能を高めたりするために、例えば、表面保護のための設けられるハードコート層を形成するためのハードコート層材料、粘着材料、反射防止処理材料及びその他コーティング材料が適用されるが、このようなコーティング材料に対する優れた易接着性が要求される場合がある。
【0004】
しかしながら、通常のポリエステルフィルムは結晶性が高く、一般的に上記コーティング材料などとの密着性を確保するのは困難であった。従って、例えば、ハードコート層との易接着性を確保するためには、ポリエステルフィルムの表面へ易接着皮膜を塗設する方法が用いられている。特に、ディスプレイ用途に用いられるPETフィルムは高い透明性及び密着性を要求されるため、ナノメートルオーダーの膜厚の易接着皮膜が塗設されたタイプを用いるのが一般的であった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような易接着皮膜が塗設されたポリエステルフィルムを用いた場合、前述の通り高い透明性及びハードコート層との密着性を確保することでき、また、ポリエステルフィルムの耐ブロッキング性を向上させることができる。しかしながら、反射防止フィルム等の光学フィルムに用いる場合、易接着皮膜とポリエステルフィルムの屈折率のミスマッチ、易接着皮膜の膜厚バラツキ等の要因により、その上にハードコート層材料等をコーティングした際に光学的な干渉ムラ発生の原因となっていた。また、上記屈折率ミスマッチのため、反射界面が増加し、反射率増大の不具合を生じていた。
【0006】
そこで、易接着皮膜を有しないポリエステルフィルムを用いることも考えられるが、この場合は、ハードコート層の剥離が懸念される。
【特許文献1】特開平9−220791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、易接着皮膜を有しないポリエステルフィルムを用いることによって、反射干渉ムラを少なくし、外観特性に優れると共に反射防止性能を高くできるものでありながら、ハードコート層の剥離をも少なくすることができる反射防止フィルム及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反射防止フィルムは、ポリエステルフィルム1の表面に屈折率が1.55〜2.0のハードコート層2を形成した反射防止フィルムにおいて、ポリエステルフィルム1として、ハードコート層2と接する表面に易接着皮膜を有さず、且つハードコート層2と接する面に改質処理が施されたものを用い、クロスカット試験で評価されるハードコート層2の密着性が90/100以上であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明にあっては、チタン、アルミニウム、セリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、アンチモンから選ばれる少なくとも一つの酸化物を高屈折率粒子としてハードコート層2に含有するのが好ましい。
【0010】
また、本発明にあっては、ハードコート層2が帯電防止性を有するのが好ましい。
【0011】
また、本発明にあっては、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンから選ばれる少なくとも一つの酸化物を導電性ナノ粒子としてハードコート層2に含有するのが好ましい。
【0012】
また、本発明にあっては、ハードコート層2のシート抵抗が1014Ω/□以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明にあっては、ハードコート層2の表面に屈折率が1.30〜1.45の低屈折率層3を設けることができる。
【0014】
また、本発明にあっては、低屈折率層3の表面に防汚層4を設けることができる。
【0015】
本発明の反射防止フィルムの製造方法は、上記のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法であって、プラズマ放電処理によりポリエステルフィルム1に表面の改質処理を施すことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の反射防止フィルムの製造方法は、上記のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法であって、コロナ放電処理によりポリエステルフィルム1に表面の改質処理を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、ポリエステルフィルム1として、ハードコート層2と接する表面に易接着皮膜を有しないものを用いるために、易接着皮膜による反射干渉ムラを少なくすることができ、外観特性に優れると共に反射防止性能を高くすることができるものであり、しかも、ポリエステルフィルム1のハードコート層2と接する表面には改質処理が施されており、クロスカット試験で評価されるハードコート層2の密着性が90/100以上であるために、ポリエステルフィルム1に易接着皮膜が無くてもハードコート層2の剥離を少なくすることができるものである。
【0018】
また、上記いずれかの高屈折率粒子をハードコート層2に含有することにより、ハードコート層2の屈折率を増大させることができ、ハードコート層2による反射干渉ムラを少なくすることができ、外観特性に優れると共に、ハードコート層2の上に低屈折率層3を積層した時の反射防止性能を高くすることができるものである。
【0019】
また、ハードコート層2が帯電防止性を有していることにより、ハードコート層2が静電気等により帯電するのを少なくすることができ、埃付着防止性を向上させることができるものである。
【0020】
また、上記いずれかの導電性ナノ粒子をハードコート層2に含有することにより、ハードコート層2に導電性ナノ粒子による導電性を付与することができ、帯電防止性を有するハードコート層2を容易に形成することができるものである。
【0021】
また、ハードコート層2のシート抵抗を1014Ω/□以下にすると、高性能の帯電防止性を確保することができ、高い埃付着防止性などを得ることができるものである。
【0022】
また、屈折率が1.30〜1.45の低屈折率層3をハードコート層2の表面に設けることにより、ハードコート層2よりも屈折率の小さい低屈折率層3で光の反射をさらに低減することができ、反射防止性能をさらに高くすることができるものである。
【0023】
また、低屈折率層3の表面に設けた防汚層4により、指紋付着などによる汚染を少なくできると共にその除去性を高めることができるものである。
【0024】
また、ポリエステルフィルム1の表面の改質処理にあたって、プラズマ放電処理やコロナ放電処理を用いることにより、化学的な表面処理よりも高い表面の改質処理の効果を得ることができ、また、化学的な表面処理のような湿式による表面処理に比べて、溶剤の乾燥等の工程が不要となり、効率よく表面の改質処理を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0026】
図1は本発明の反射防止フィルムの一例を示した断面図である。図1に示すように、本発明の反射防止フィルムは、透明基材として用いられるポリエステルフィルム1の片面にハードコート層2を設けて形成することができる。また、必要に応じて、ハードコート層2の表面にさらに低屈折率層3を設けることができると共に低屈折率層3の表面にさらに防汚層4を設けて本発明の反射防止フィルムを形成することができる。
【0027】
本発明で用いるポリエステルフィルム1は、ポリエステルとして、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分と、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール等のグリコール成分とから構成される芳香族ポリエステルが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタリンジカルボキシレートが好ましい。また、上記に例示した複数の成分等の共重合ポリエステルであってもよい。
【0028】
上記ポリエステルフィルム1には、製膜時のフィルムの巻き取り性や、ハードコート層2や粘着剤等を塗設する際のフィルムの搬送性等を良くするため、必要に応じて、滑剤としての有機または無機の微粒子を含有させることができる。かかる微粒子としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、架橋アクリル樹脂微粒子、架橋ポリスチレン樹脂微粒子、尿素樹脂微粒子、メラミン樹脂微粒子、架橋シリコーン樹脂微粒子等が例示される。また、微粒子以外にも着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、潤滑剤、触媒、他の樹脂等も透明性を損なわない範囲で任意に含有させることができる。
【0029】
本発明におけるポリエステルフィルム1はヘイズが3%以下、好ましくは1.5%以下であることが好ましい。ヘイズが3%を超えると各種ディスプレイ用途において視認性を損なうなど光学用途として適さないことがある。この観点において、ヘイズが3%以下の高い透明性を保持しながら、ロール状態での耐ブロッキング性、易滑性、ハードコート層2との密着性を向上させるために、ナノメートルオーダーの易接着皮膜がコーティングされたポリエステルフィルムが従来から一般的に用いられる。しかしながら、このような易接着皮膜がコーティングされたポリエステルフィルムを用いた場合、易接着皮膜の屈折率は基材のポリエステルの屈折率と異なるのが一般的であり、このためハードコート層2をコーティングした際に、易接着皮膜及びハードコート層2の膜厚ムラ等の原因により、外観干渉ムラを発生する等の課題があった。本発明ではこのような課題を鑑みて、使用するポリエステルフィルム1として、両面もしくはハードコート層2と接する側の表面に易接着皮膜がコーティングされていないものを用いるものである。特に、ポリエステルフィルム1の両面ともに易接着皮膜がコーティングされていない場合、ポリエステルフィルム1の易滑性が損なわれることが多いので、本発明ではポリエステルフィルム1に片側のみに易接着皮膜が形成されたもの(片面易接着皮膜コートグレード)を使用するのが好ましい。また、本発明で用いるポリエステルフィルム1の厚みは、特に限定されるものではないが、70〜200μmが好ましい。
【0030】
上記のように本発明ではハードコート層2と接する側の表面に易接着皮膜を有しないポリエステルフィルム1を用いるために、ハードコート層2との密着性が損なわれる恐れがある。そこで、本発明では、ハードコート層2との密着性を高めるために、ポリエステルフィルム1の少なくともハードコート層2と接する側の表面に改質処理を施したものを用いる。一般的に易接着皮膜がハードコート層2とポリエステルフィルム1の間にコーティングされている場合、ハードコート層2との密着性は確保できるものの、光学的に屈折率が異なる薄膜がポリエステルフィルム1とハードコート層2の間に存在するため、外観干渉ムラが増大したり反射防止特性が低下したりしてしまう。一方、ポリエステルフィルム1とハードコート層2の間に易接着皮膜を有しない場合、易接着皮膜を有する場合に比べて、ポリエステルフィルム1とハードコート層2との密着性は低下する。従って、本発明ではポリエステルフィルム1に対して表面の改質処理を施すようにしており、この表面の改質処理を行うことにより、ポリエステルフィルム1の表面に親水性基を導入できるためにハードコート層2とポリエステルフィルム1とのぬれ性や密着性を向上させることが可能となる。
【0031】
また、本発明ではポリエステルフィルム1の透明性を確保するなどの目的で、ポリエステルフィルム1に光学的に変化を与えないように、表面(ハードコート層2と接する面)等の改質処理を行なう必要がある。
【0032】
本発明において表面の改質処理法としては、プラズマ放電処理、コロナ処理、フレーム処理、UV処理のような物理的表面処理と、カップリング剤、酸、アルカリによる化学的表面処理が用いられる。これらの処理の中で、表面の改質効果の高いプラズマ放電処理、コロナ処理が特に好ましく、これにより、化学的な表面処理のような湿式による表面処理に比べて、溶剤の乾燥等の工程が不要となり、効率よく表面の改質処理を行うことができるという効果も奏するものである。
【0033】
プラズマ放電処理としては、減圧プラズマまたは大気圧プラズマ放電処理法どちらでも良く、プラズマガス種としても一般的に用いられる酸素、窒素、アルゴン、ハロゲン系ガス等任意の中から選択することができる。
【0034】
プラズマ放電処理としては、20〜200Wの投入電力で発生させたプラズマにポリエステルフィルム1を5〜600秒曝露することにより、表面の改質処理を施すことができる。尚、投入電力の上限はポリエステルフィルム1に熱的、機械的ダメージを与えない範囲であれば、特に上記には限定されない。また、プラズマ放電処理に供するポリエステルフィルム1としてはプラズマ放電処理の有効幅にカットしたものを使用することができる。
【0035】
コロナ放電処理としては、エネルギー密度(電力密度)が5〜1000W/m/minのコロナ放電にプラズマにポリエステルフィルム1を曝露することにより、ポリエステルフィルム1に表面の改質処理を施すことができる。尚、エネルギー密度の上限はポリエステルフィルム1に熱的、機械的ダメージを与えない範囲であれば特に上記には限定されない。
【0036】
また、上記プラズマ放電処理やコロナ放電処理は、バッチ処理、ロールtoロールでの連続処理などの任意の方法を選択できる。
【0037】
本発明において、ハードコート層2は、透明プラスチック基材であるポリエステルフィルム1よりも硬度の高い被膜であって、ポリエステルフィルム1の表面の硬度を向上させ、鉛筆等の荷重のかかる引っ掻きによる傷を防止し、また、ポリエステルフィルム1の屈曲による低屈折率層3のクラック発生を抑制して反射防止フィルムの機械的強度を改善するものである。
【0038】
本発明において、ハードコート層2の鉛筆硬度はH以上、より好ましくは2H以上にするのが好ましいが、ハードコート層2の硬度を向上させるためには、反応性硬化型樹脂、即ち、熱硬化型樹脂と電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方をハードコート材料(ハードコート層形成用組成物)として用いてハードコート層2を形成するのが好ましい。
【0039】
前記熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。熱硬化性樹脂を用いてハードコート層2を形成する場合は、熱硬化性樹脂をポリエステルフィルム1の表面に塗布した後、加熱により乾燥硬化させるようにするのが好ましい。
【0040】
また、前記電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものが使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、この中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。光重合反応する紫外線硬化型樹脂を用いてハードコート層2を形成する場合は、紫外線硬化型樹脂をポリエステルフィルム1の表面に塗布し乾燥した後、紫外線照射により硬化させるようにするのが好ましい。
【0041】
ハードコート層2はポリエステルフィルム1と屈折率が近似していることが好ましく、反射率低減の理由からハードコート層2の屈折率は実用的には1.55〜2.0(ポリエステルフィルム1と屈折率と同等)が好ましい。また、ハードコート層2の膜厚は1〜2μm以上あれば十分な強度が得られる。
【0042】
本発明では、ハードコート層2とポリエステルフィルム1の密着性を確保するために、ポリエステルフィルム1に対する前記表面処理により密着性を向上させるようにしているが、一方で、ハードコート層2に非反応性の熱可塑性樹脂をハードコート層2の全体中で50質量%を占めるまでの量で混合することが好ましい。非反応性の熱可塑性樹脂の添加量が多すぎるとハードコート層2のハード性が不十分になる恐れがあり、好ましくない。非反応性の熱可塑性樹脂としては主として各種の熱可塑性樹脂が用いられるが、例えば、非反応性の熱可塑性樹脂としてポリメタクリル酸メチルアクリレートとポリメタクリル酸ブチルアクリレートを用いることにより、ハードコート層2がポリエステルフィルム1に対して密着性を保持したまま、ハードコート層2の塗膜の硬度を高く保つことができる点で好ましい。これらの非反応性の熱可塑性樹脂をハードコート層2に含有させることにより、上記の表面の改質処理のみの場合に比べて、ポリエステルフィルム1に対するハードコート層2の密着性をより向上させてハードコート層2の剥離を防止することが可能となる。加えて、ハードコート層2に対し、チオール系樹脂を含有させることにより、ポリエステルフィルム1に対するハードコート層2の密着性をより向上させてハードコート層2の剥離を防止することが期待できる。そして、本発明のハードコート層2の密着性は、JIS D0202−1988に準拠して測定されるクロスカット試験(碁盤目テープ剥離試験)により、90/100以上の評価を得るものである。
【0043】
以上の成分からなるハードコート層2の屈折率は通常1.49〜1.52程度であるが、本発明ではハードコート層2に高屈折率粒子を含有させて屈折率を増大させて反射防止性能を高めるために、ハードコート層材料中に高屈折率粒子、すなわち高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子を添加することができる。本発明において高屈折率粒子とは、屈折率が1.6以上で粒径が0.5〜200nmのものをいう。ポリエステルフィルム1を基材(ベース)とする反射防止フィルムにおいて、低反射率化のためのハードコート層2の好ましい屈折率は1.55〜2.0であり、本発明ではこの屈折率を有するハードコート層2を形成するために、高屈折率粒子の配合量をハードコート層2に対して5〜70体積%となるように調整することができる。前記高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子としては、チタン、アルミニウム、セリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、アンチモンから選ばれる一つあるいは二つ以上の酸化物の粒子を用いることができ、具体的には、例えば、ZnO(屈折率1.90)、TiO(屈折率2.3〜2.7)、CeO(屈折率1.95)、Sb(屈折率1.71)、SnO、ITO(屈折率1.95)、Y(屈折率1.87)、La(屈折率1.95)、ZrO(屈折率2.05)、Al(屈折率1.63)等の微粉末が挙げられる。
【0044】
さらに、ハードコート層2に帯電防止性を付与し、反射防止フィルムとしての帯電防止性、埃付着性防止を可能にするのが好ましい。ハードコート層2に帯電防止性を付与するためにはハードコート層2に導電性ナノ粒子を含有させればよく、これはハードコート層材料中に導電性ナノ粒子、すなわち導電性の金属や金属酸化物で粒径が0.5〜200nmの超微粒子を添加することにより可能となる。導電性ナノ粒子としてはインジウム、亜鉛、錫、アンチモンから選ばれる一つあるいは二つ以上の酸化物の粒子を用いるのが好ましく、具体的には、酸化インジウム(ITO)、酸化錫(SnO)、アンチモン/錫酸化物(ATO)、鉛/チタン酸化物(PTO)、アンチモン酸化物(Sb)の超微粒子を用いるのが好ましい。
【0045】
さらに、前記高屈折率粒子と導電性ナノ粒子を凝集なく併用することにより、高屈折率かつ帯電防止性に優れたハードコート層2を得ることが可能となる。ハードコート層2が帯電防止性を得るためにはそのシート抵抗が1014Ω/□以下であることが好ましい。尚、ハードコート層2のシート抵抗は小さいほど帯電防止性が向上するので、特に、下限は設定されないが、シート抵抗を小さくするのには限界があるために、ハードコート層2のシート抵抗は実質的に106Ω/□以上となる。また、ハードコート層2のシート抵抗値は導電性ナノ粒子の配合量等によって調整することができ、例えば、導電性ナノ粒子の配合量をハードコート層2に対して5〜70質量%となるように調整することができる。
【0046】
また、ハードコート層2の表面に低屈折率層3を形成するための低屈折率コーティング剤を塗工するなどして形成する前に、ハードコート層2の表面処理を行うことが好ましい。この表面処理を行うことによりハードコート層2と低屈折率層3とのぬれ性、密着性を向上させることが可能となる。表面処理法としてはポリエステルフィルム1に施す表面の改質処理と同様であって、プラズマ放電処理、コロナ処理、フレーム処理のような物理的表面処理とカップリング剤、酸、アルカリによる化学的表面処理が用いられている。
【0047】
本発明において、低屈折率層3はポリエステルフィルム1及びハードコート層2よりも屈折率の小さい層であって、ハードコート層2の表面に低屈折率コーティング剤を塗工するなどして形成することができる。この低屈折率層3は、屈折率が1.30〜1.45であることが好ましく、1.30〜1.40であることが更に好ましい。低屈折率層3の厚みdは低屈折率層3の屈折率をn、入射する光の波長をλとすると、nd=λ/4であることが好ましい。具体的には、低屈折率層3の厚みは50〜400nmであることが好ましく、50〜200nmであることが更に好ましい。
【0048】
低屈折率コーティング剤は、バインダー材料自身が低屈折率である場合はバインダー材料単体で調製することができるが、バインダー材料に低屈折率の微粒子を含有して調製することもできる。バインダー材料はシリコンアルコキシド系であっても、飽和炭化水素、ポリエーテルを主鎖として有するポリマー(UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂)であっても良い。その中にフッ素原子を含む単位を含有しても良い。
【0049】
シリコンアルコキシドの好ましい例は、RmSi(OR´)nで表される化合物であり、ここでR、R´は炭素数1〜10のアルキル基を表し、m+nは4であり、m及びnはそれぞれ整数である。更に具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタ−iso−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−ブトキシシラン、テトラペンタ−sec−ブトキシシラン、テトラペンタ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等及びそれらを基本骨格とするオリゴマーやポリマー、また少なくとも2種類以上の共重合体が挙げられる。
【0050】
上記珪素アルコキシドの加水分解は、上記珪素アルコキシドを適当な溶媒中に溶解して行う。使用する溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルコール、ケトン、エステル類、ハロゲン化炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、或いはこれらの混合物が挙げられる。上記アルコキシドは上記溶媒中に、該アルコキシドが100%加水分解及び縮合したとして生じるSiO換算で0.1%以上、好ましくは0.1〜10重量%になるように溶解する。SiOゾルの濃度が0.1重量%未満であると形成されるゾル膜が所望の特性が充分に発揮できず、一方、10重量%を越えると透明均質膜の形成が困難となる。又、本発明においては、以上の固形分以内であるならば、有機物や無機物バインダーを併用することも可能である。
【0051】
この溶液に加水分解に必要な量以上の水を加え、15〜35℃、好ましくは22〜28℃の温度で、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間撹拌を行う。上記加水分解においては、触媒を用いることが好ましく、これらの触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸又は酢酸等の酸が好ましく、これらの酸を約0.001〜20.0N、好ましくは0.005〜5.0N程度の水溶液として加え、該水溶液中の水分を加水分解用の水分とすることができる。以上の如くして得られたSiOゾルは、無色透明な液体であり、ポットライフが約1ケ月の安定な溶液であり、基材に対して濡れ性が良く、塗布適性に優れている。
【0052】
本発明においては、上記のSiOゾルに反応性有機珪素化合物又はその部分加水分解物を添加する。該反応性有機珪素化合物としては、前記の反応性有機珪素化合物の他に、熱又は電離放射線によって反応架橋する複数の基、例えば、重合性二重結合基を有する分子量5000以下の有機珪素化合物が好ましい材料として挙げられる。このような反応性有機珪素化合物は、片末端ビニル官能性ポリシラン、両末端ビニル官能性ポリシラン、片末端ビニル官能ポリシロキサン、両末端ビニル官能性ポリシロキサン、或いはこれらの化合物を反応させたビニル官能性ポリシラン、又はビニル官能性ポリシロキサン等が挙げられる。
【0053】
飽和炭化水素またはポリエーテルを主鎖として有するポリマーは架橋していることが好ましい。飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの重合反応により得ることが好ましい。架橋しているバインダー材料のポリマーを得るためには、二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを用いることが好ましい。二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例には、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが含まれる。ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキ化合物の開環重合反応により合成することが好ましい。
【0054】
二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりまたはそれに加えて、架橋性基の反応により、架橋構造をバインダー材料のポリマーに導入してもよい。架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタンも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。また、本発明において架橋基とは、上記化合物に限らず上記官能基が分解した結果、反応性を示すものであってもよい。
【0055】
上記バインダー材料のポリマーの重合反応および架橋反応に使用する重合開始剤は、熱重合開始剤でも光重合開始剤でもどちらでもよい。光重合開始剤の例には、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類がある。アセトフェノン類の例には、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノンおよび2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンが含まれる。ベンゾイン類の例には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。ベンゾフェノン類の例には、ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノンおよびp−クロロベンゾフェノンが含まれる。ホスフィンオキシド類の例には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドが含まれる。
【0056】
バインダー材料が反応性有機珪素化合物であることが好ましい。低屈折率微粒子に中空シリカを用いた場合、反応性有機珪素化合物をバインダー材料に用いれば、中空シリカ粒子とのぬれ性、分散性が良好である。反応性有機珪素化合物としては、熱又は電離放射線によって反応架橋する複数の基、例えば、重合性二重結合基を有する分子量5000以下の有機珪素化合物が好ましい材料として挙げられる。このような反応性有機珪素化合物は、片末端ビニル官能性ポリシラン、両末端ビニル官能性ポリシラン、片末端ビニル官能ポリシロキサン、両末端ビニル官能性ポリシロキサン、或いはこれらの化合物を反応させたビニル官能性ポリシラン、又はビニル官能性ポリシロキサン等が挙げられる。具体的な化合物を例示すれば下記の通りである。
【0057】
【化1】

【0058】
その他の化合物しては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシラン化合物が挙げられる。尚、本発明では熱による脱水縮合反応でも可能である。
【0059】
さらに低屈折率層3に防汚性を付与するために、バインダー材料の一部を撥水、撥油性材料に置き換えても良い。撥水、撥油性材料は一般にワックス系の材料等が挙げられるが、特に、含フッ素化合物を含有することが望ましい。フッ素化合物を含有したときの効果は、低屈折率層3の表面が汚れから保護され、また付着した汚れ、指紋等の除去性に優れる。さらに表面の摩擦抵抗を低減でき、耐摩耗性向上の効果も期待できる。
【0060】
低屈折率層3の屈折率を低減するには、上記バインダー材料に低屈折率微粒子(屈折率:1.20〜1.45)を添加することにより実現できる。低屈折率微粒子の平均粒子径は0.5〜200nmであることが好ましい。この平均粒径が200nmよりも大きくなると、得られる低屈折率層3においてレイリー散乱によって光が乱反射され、低屈折率層3が白っぽく見え、そのヘイズ値が増大することがある。0.5nm以下であると、低屈折率微粒子の分散性が低下し、低屈折率コーティング剤の液中で凝集を生じてしまう。また、低屈折率微粒子の添加量は低屈折率層3の全量に対して20〜99体積%であることが好ましい。20体積%以下であると低屈折率化の効果が少なく、微粒子の添加量が多いほど低屈折率化の効果が大きい。
【0061】
本発明の反射防止フィルムをディスプレイ等の最表面に配置して使用する場合、実使用に耐えうる表面硬度、耐摩耗性が必要となる。このような場合は低屈折率層3として高い膜硬度が必要となる。しかしながら一般的に粒子充填複合材料は粒径の等しい(完全な単分散の)球状微粒子を最密充填したときの、微粒子の最大体積分率は、Horsfieldの充填モデルによると、0.74となり、幾何学的な関係から、必然的に24体積%粒子間間隙が生じてしまう。従って、理想的には低屈折層3に24体積%のバインダー材料を添加したとき(76体積%の低屈折率微粒子)、低屈折率微粒子間の空隙は全てバインダー材料で置換され、高充填かつ非常に緻密な低屈折率層3の薄膜が得られることになる。しかしながら実際には、微粒子は粒度分布を持っており、また、低屈折率微粒子/バインダー材料の界面のぬれ性不足、ナノサイズの粒子径のため、低屈折率コーティング剤の液中または溶剤乾燥過程で凝集等を生じている。従って、実際には、低屈折率微粒子の添加量が70体積%以上の領域では低屈折率層3中で、低屈折率微粒子の充填不良を生じ、低屈折率微粒子間にバインダー材料の未充填に起因する空隙を生じることになる。
【0062】
この低屈折率微粒子の高充填領域で生じた低屈折率層3内でのバインダー材料の未充填部分は、薄膜の強度、耐摩耗性能を著しく低下させる。従って、低屈折率微粒子の添加による低屈折率層3の屈折率低減手法は、70体積%以上の低屈折率微粒子の高充填領域では、耐摩耗性と完全にトレードオフの関係になり、実用上利用困難である。
【0063】
低屈折率微粒子としては、屈折率が1.5以下であることが望ましい。具体的にはシリカ微粒子、中空シリカ微粒子、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子が好ましい。これら微粒子を1種類もしくは2種類以上混合して使用する。これら低屈折率微粒子をバインダー材料の樹脂等に相溶性を持たせるため表面処理を施して分散させる。
【0064】
低屈折率層3中に含有される低屈折率微粒子が1種類以上の低屈折率微粒子から構成されており、低屈折率微粒子として少なくとも中空シリカゾルを含有することが好ましい。本発明において、中空粒子とは外殻によって包囲された空洞を有する微粒子である。また、中空粒子自体の屈折率は1.20〜1.45であることが好ましく、この中空粒子の屈折率は特開2001−233611号公報に開示されている方法によって測定することができる。また、中空粒子の平均粒子径は0.5〜200nmであることが好ましい。中空粒子の外殻を構成する材料は、シリカのほか、金属酸化物であることも好ましい。中空粒子は、その平均粒子径に比べて外殻の厚みが薄いものを用いるのが好ましく、また、低屈折率層3中に占める中空シリカ微粒子(内部の空洞も含む)の体積が多いこと(40体積%以上)が好ましい。このような中空粒子は、例えば、特開2001−233611号公報に開示されており、そこに開示されている中空粒子を低屈折率コーティング剤を調製する際に使用することができる。
【0065】
中空粒子2の外殻を構成する材料を具体的に挙げると、SiO、SiO、TiO、TiOx、SnO、CeO、Sb、ITO、ATO、Al等の単独材料又はこれらの材料のいずれかの組み合わせの混合物の形態の材料である。また、これらの材料のいずれかの組み合わせの複合酸化物であってもよい。なお、SiOは、酸化雰囲気中で焼成した場合に、SiOとなるものが好ましい。
【0066】
前記低屈折率コーティング剤は液相法(ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、リバースコーティング法、トランスファーロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キャストコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等)により表面処理を行ったハードコート層2上に塗工されることが好ましい。塗工後加熱乾燥により塗膜中の溶剤を揮発させ、その後、加熱、加湿、紫外線照射、電子線照射等を行い塗膜を硬化させて低屈折率層3を形成することができる。
【0067】
本発明では、反射防止フィルムの防汚性、指紋除去性を更に向上させるためには、低屈折率層3の最表面への防汚層4を形成してコーティングするのが好ましい。防汚層4の厚みは光学特性に影響を与えないため、30nm以下にするのが好ましい。また、防汚層4の形成処理は、シリコーン系またはフッ素含有化合物を被覆し、低屈折率層3の表面と化学的に結合させるようにして行なう。また、防汚層4を形成する材料としては、アルコキシシラノ基を有するフッ素化合物、反応性シリコーンオイル等基材との反応性を有するものが耐摩耗性、耐薬品性、耐経時劣化性を向上することができて好ましい。
【0068】
防汚層4を形成するための防汚材料としては、例えば、GE東芝シリコーン製長鎖フルオロアルキルシランコーティング剤「XC98−B2472」を希釈溶剤IPA(イソプロパノール)を用い、固形分0.2%まで希釈し、この混合液を膜厚5nmになるようにワイヤーバーコーター#10番で低屈折率層3の表面に塗布した後、120℃、15分間乾燥させることによって、防汚層4を形成することができる。また、防汚層4の性能評価としては、指紋拭き取り性を挙げることができる。すなわち、防汚層4に指紋を付着させ、表面を汚した直後に、キムワイプ(R)(十条キンバリー(株)製)で50往復して拭取る。拭取った部分にセロハンテープ(R)(「CT24」,ニチバン(株)製)を貼り付けて剥がし、40cmの距離より目視で観察し、汚れの除去度を評価することができる。
【実施例】
【0069】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
ポリエステルフィルム(透明基板フィルム)1としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績(株)製「A4100」(188μm厚))を用いた。
【0071】
ポリエステルフィルム1には、コロナ放電処理あるいはプラズマ放電処理にて表面の改質処理を施した。コロナ放電処理は、コロナ出力0.5kW、ラインスピード10m/minの条件にて実施した。また、プラズマ放電処理は、(株)サムコインターナショナル製プラズマクリーニング装置、PX250にて処理を行った。
【0072】
ハードコート層2は、アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業(株)製「セイカビームPET−HC15」有効成分(固形分)60%)中に各種ナノ粒子を分散させてハードコート材料を調製し、このハードコート材料(混合液)をワイヤーバーコーター#10番でポリエステルフィルム1の表面に塗布し、80℃、1分間乾燥させた後、UV照射(600mJ/cm)により硬化させて形成した。上記各種ナノ粒子のうち、高屈折率粒子としては、テイカ(株)製酸化チタン粒子「760T」(分散溶剤:トルエン、固形分48%)を用いた。また、上記各種ナノ粒子のうち、導電性ナノ粒子としては、触媒化成工業(株)製ATO粒子「ELCOM P−特殊品A」(分散溶剤:MEK/トルエン(4/1)、固形分30%)を用いた。さらに、実施例9においては、チオール樹脂として、堺化学(株)製、DMPM(ジペンタエリスリトールヘキサ−3−メルカプトプロピオネート)を密着付与成分として用い、上記アクリル系紫外線硬化型樹脂に対して10質量%の割合で配合した。
【0073】
低屈折率層3は低屈折率コーティング剤をハードコート層2の表面に塗布して形成した。低屈折率コーティング剤は、テトラエトキシシラン208部にメタノール356部を加え、更に水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部を加え、これをディスパーで混合し、混合液を得、この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン(A)として使用し、次に、低屈折率微粒子として以下の低屈折率ナノ粒子(1)(2)をシリコーンレジン(A)に加え、低屈折率ナノ粒子/シリコーンレジンが縮合固形物換算で所望の体積比となるように配合し、その後、全固形分が1%になるようにメタノールで希釈することによって、低屈折率コーティング剤を調整し、低屈折率コーティング剤を膜厚100nmになるようにワイヤーバーコーター#10番で上記ハードコート層2の表面に塗布した後、120℃、15分間乾燥させて形成した。低屈折率ナノ粒子(1)としては、中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(スルーリアCS−60IPA、固形分20重量%、触媒化成工業(株)製)を用いた。また、低屈折率ナノ粒子(2)としては、オルガノシリカゾル(IPA−ST、固形分30重量%、日産化学(株)製)を用いた。
(実施例1)
コロナ放電処理済みPETフィルム上に、酸化チタン粒子(760T)を30質量%分散させたハードコート材料をコーティングし、膜厚3μmの硬化膜(ハードコート層2)を得た。その上にシリコーンレジン(A)マトリックスに対しトータル量の60体積%のCS−60IPAを分散させた低屈折率コーティング剤を、膜厚約100nmになるようにワイヤーバーコーターでコーティングした。この後、120℃、15分の条件で硬化させて低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを作成した。
(実施例2)
PETフィルムの表面の改質処理が減圧酸素プラズマ放電処理(50W、2分、13.3Pa(100mTorr))であること以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例3)
PETフィルムの表面の改質処理が減圧酸素プラズマ放電処理(50W、4分、13.3Pa(100mTorr))であること以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例4)
PETフィルムの表面の改質処理が減圧アルゴンプラズマ放電処理(50W、2分、13.3Pa(100mTorr))であること以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例5)
酸化チタン粒子(760T)が80質量%分散させたハードコート材料を用いた以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例6)
中空シリカ粒子(CS60IPA)が40体積%配合された低屈折率コーティング剤を用いた以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例7)
ハードコート材料中に分散させる粒子として酸化チタン粒子(760T)が30質量%、ATO粒子(ELECOM−P特殊品A)を50質量%とした以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例8)
低屈折率コーティング剤中に分散させる粒子を中空シリカ粒子の代わりに、オルガノシリカゾル(IPA−ST)を60体積%配合した以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例9)
ハードコート材料中に密着付与成分としてチオール系樹脂(DPMP)を10重量%混合させ、分散させる酸化チタン粒子(760T)が30重量%配合されたハードコート材料を用いた以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
(実施例10)
低屈折率層の上にXC98−B2472からなる防汚層を積層した以外は実施例2と同様にして反射防止膜を積層した反射防止フィルムを作成した。
(比較例1)
表面の改質処理を行なわないPETフィルムを用いた以外は実施例1と同様にしてハードコート層2及び低屈折率層3を積層した反射防止フィルムを作成した。
(比較例2)
PETフィルムとハードコート層2の間に易接着層を設けるため、PETフィルムとして両面に易接着層を有する東洋紡績(株)製A4300を使用した以外は比較例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
(比較例3)
ハードコート材料中に酸化チタンを含有しない以外は実施例2と同様にして反射防止フィルムを作成した。
【0074】
実施例1〜9、比較例1〜3で得た評価結果を表1,2に示す。尚、各評価方法は以下の通りである。
【0075】
外観干渉ムラ:A4サイズのサンプル裏面を黒塗りしたあと、3波長蛍光灯下で外観特性を目視観察した。
【0076】
視感反射率:(株)日立ハイテクノロジーズ製、分光光度計U−4100を用い、JIS R−3106 に基づき、サンプル裏面を黒塗りしたあとに、5度の正反射で測定する。
【0077】
密着性(クロスカットテープ試験):サンプルをJIS D0202−1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行う。セロハンテープ(R)(「CT24」,ニチバン(株)製)を用い、指の腹でフィルムに密着させた後剥離する。判定は100マスの内、剥離しないマス目の数で表し、剥離しない場合を100/100、完全に剥離する場合を0/100として表す。
【0078】
指紋拭き取り性:実施例2、10の反射防止フィルムの表面に指紋を付着させて表面を汚した直後に、キムワイプ(R)(十条キンバリー(株)製)で50往復して拭取る。次に、拭取った部分にセロハンテープ(R)(「CT24」,ニチバン(株)製)を貼り付けて剥がし、40cmの距離より目視で観察し、汚れの除去度を評価した。この結果、実施例10は実施例2と比較して指紋拭き取り性が良好であった。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ポリエステルフィルム
2 ハードコート層
3 低屈折率層
4 防汚層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの表面に屈折率が1.55〜2.0のハードコート層を形成した反射防止フィルムにおいて、ポリエステルフィルムとして、ハードコート層と接する表面に易接着皮膜を有さず、且つハードコート層と接する面に改質処理が施されたものを用い、クロスカット試験で評価されるハードコート層の密着性が90/100以上であることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
チタン、アルミニウム、セリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、アンチモンから選ばれる少なくとも一つの酸化物を高屈折率粒子としてハードコート層に含有して成ることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
ハードコート層が帯電防止性を有して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
インジウム、亜鉛、錫、アンチモンから選ばれる少なくとも一つの酸化物を導電性ナノ粒子としてハードコート層に含有して成ることを特徴とする請求項3に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
ハードコート層のシート抵抗が1014Ω/□以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
ハードコート層の表面に屈折率が1.30〜1.45の低屈折率層を設けて成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
低屈折率層の表面に防汚層を設けて成ることを特徴とする請求項6に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法であって、プラズマ放電処理によりポリエステルフィルムに表面の改質処理を施すことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法であって、コロナ放電処理によりポリエステルフィルムに表面の改質処理を施すことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−235125(P2006−235125A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48028(P2005−48028)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】