説明

反射防止膜及びその製造方法、光学部材、並びにプラスチックレンズ

【課題】水蒸気バリア性能に優れ、クラック発生が抑制された反射防止膜を提供すること。
【解決手段】基材上に、少なくともSiOを含有する層を含む低屈折率層と、高屈折率層とを有する反射防止膜において、SiOを含有する層の少なくとも1層をイオンアシスト法により蒸着成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜及びその製造方法、光学部材、並びにプラスチックレンズに関する。特に、高温高湿下でのクラックの発生を抑制できる反射防止膜及びその製造方法、並びに該反射防止膜を有する光学部材及びプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばレンズ、プリズム、フィルターなど、基材上に反射防止層を設けた光学部材が知られている。反射防止層は、一般的に、異なる屈折率を有する無機又は有機層を複数層積層した構造を有する。例えば、特許文献1には、基材上に、Taからなる高屈折率層とSiOからなる低屈折率層を交互に積層させ、合計5層からなる反射防止膜が記載されている。
このような反射防止膜においては、軽量で加工のし易さなどから、基材としてプラスチック材料が用いられることが多い。しかしながら、この場合、温湿度変化によるプラスチックと反射防止層との伸縮率の違いにより、反射防止層の剥がれやクラックが発生することが問題となる。
この問題に対して、例えば特許文献2には、高分子樹脂製の基材の表面にイオンビームを照射して基材表面を改質し、更にその上に、イオンビーム照射を継続しながら、二酸化ケイ素やフッ化マグネシウムなどを蒸着した低屈折率層と、酸化チタンや酸化ジルコニウムなどを蒸着した高屈折率層とを積層させた表面被覆層を形成することで、表面被覆層と基材との密着性が改善され、膜剥離やクラック発生を防止できることが記載されている。
【0003】
特許文献2に記載されるような、蒸着により層形成する際にイオンビームなどのプラズマ照射する方法は、いわゆるイオンアシスト法として知られている。
例えば、特許文献3には、低屈折率層材料としてSiOを蒸着する際に、低屈折率層内の応力を除去し耐磨耗性を向上させるためにイオン化ガスにArを用いてイオンアシスト法で蒸着することが記載されている。また、高屈折率層材料である蒸着時にも、屈折率や耐摩耗性向上のためにイオン化ガスにO及びArを用いてイオンアシスト法で蒸着することが記載されている。
また、特許文献4には、SiOからなる低屈折率層とTaからなる高屈折率層とが積層した反射防止膜において、Taを酸素イオンアシスト法により蒸着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3517264号
【特許文献2】特開平5−45503号公報
【特許文献3】特開2002−71903号公報
【特許文献4】特開2009−294661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラック発生の原因の一つとしては、高湿度環境におけるプラスチック基材の水分吸湿による伸びが挙げられる。水分吸湿を阻止するためには、反射防止層に水蒸気バリア性能を持たせることが考えられるが、十分な水蒸気バリア性能を得るために蒸着材料と成膜条件の選定が必要である。特許文献2では、クラックの発生抑制のためにイオンアシスト法による基材表面の改質を利用しているが、表面改質により密着性を向上させてクラック発生を抑制するもので、本発明者らが検討した結果、十分な水蒸気バリア性能の反射防止層を得るには蒸着材料及び成膜条件が不十分であることが分かった。また、特許文献3及び4等でもイオンアシスト法により反射防止層が形成されているが、反射防止層の水蒸気バリア性能向上についての知見は示されていない。
【0006】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、水蒸気バリア性能に優れ、クラック発生が抑制された反射防止膜の製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、水蒸気バリア性能に優れ、クラック発生が抑制された反射防止膜、並びに該反射防止膜を有する光学部材及びプラスチックレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討したところ、低屈折率層に通常用いられるSiOより酸化度が低いSiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を用いることで、高い水蒸気バリア性能を有し、クラックの発生が抑制された反射防止膜を得られることを見出した。SiO膜は光吸収により褐色を呈し透明度が低いため光学材料には不向きであるが、本発明者らが更に検討したところ、SiO膜をイオンアシスト法により蒸着成膜することにより、光吸収をなくし透明にすることができることを見出した。
【0008】
即ち、前記課題は、以下の手段により解決することができる。
[1]
基材上に、少なくともSiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を含有する層を含む低屈折率層と、高屈折率層とを有する反射防止膜の製造方法であって、
前記SiOを含有する層の少なくとも1層を、前記基材上にプラズマ照射しながら蒸着により成膜する工程を含む反射防止膜の製造方法。
[2]
前記蒸着法により成膜されるSiOを含有する層の蒸着物質がSiOである、[1]記載の反射防止膜の製造方法。
[3]
前記SiOを含有する層の少なくとも1層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下である、[1]又は[2]記載の反射防止膜の製造方法。
[4]
前記SiOを含有する層のうち最も前記基材側にある層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下である、[3]記載の反射防止膜の製造方法。
[5]
前記蒸着成膜時の到達圧力が1×10−3Pa以下であり、プラズマイオンの加速電圧が200Vより大きく、イオン電流が300mA以上である、[1]〜[4]のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
[6]
前記プラズマ照射がアルゴン及び酸素イオンの照射である、[1]〜[5]のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
[7]
前記高屈折率層が酸化タンタル又は酸化チタンを含有する層を含む、[1]〜[6]のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
[8]
[1]〜[7]のいずれか1項記載の製造方法により得られた反射防止膜。
[9]
前記基材がプラスチックである[8]記載の反射防止膜。
[10]
前記SiOを含有する層の少なくとも1層の透湿度が0.1g/(m・day)以下である、[8]又は[9]記載の反射防止膜。
[11]
前記低屈折率層と前記高屈折率層とがそれぞれ複数層積層された、[8]〜[10]のいずれか1項記載の反射防止膜。
[12]
[8]〜[11]のいずれか1項記載の反射防止膜を有する光学部材。
[13]
[8]〜[11]のいずれか1項記載の反射防止膜を有するプラスチックレンズ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水蒸気バリア性能に優れ、クラック発生が抑制された反射防止膜、及び該反射防止膜を有する光学部材及びプラスチックレンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例で作製した反射防止膜を模式的に示す図である。
【図2】実施例1で作製した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明の反射防止膜の製造方法は、基材上に少なくともSiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を含有する層を含む低屈折率層と、高屈折率層とを有する反射防止膜の製造方法であって、SiOを含有する層の少なくとも1層を、基材上にプラズマ照射しながら蒸着により成膜する工程を含む。
【0013】
[反射防止膜]
本発明に係る反射防止膜は、基材上に少なくともSiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を含有する層を含む低屈折率層と、高屈折率層とを有し、SiOを含有する層の少なくとも1層が、基材上にプラズマ照射しながら蒸着により成膜された層である。
低屈折率層と高屈折率層は、それぞれ1層でも複数層でもよい。低屈折率層と高屈折率層の積層順序も特に限定されないが、基材から最も遠い層(空気側の層)は低屈折率層であることが好ましい。
反射防止性能向上の観点から、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ複数層積層されていることが好ましく、低屈折率層と高屈折率層とが交互に複数層積層されていることがより好ましい。
【0014】
(基材)
本発明に係る反射防止膜において、基材の種類は特に限定されず、ガラス材料、プラスチック材料のいずれでもよいが、軽量で加工のし易さなどの点から、プラスチック材料であることが好ましい。
プラスチック材料としては、特に限定されず、例えば、シクロオレフィン共重合体、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン等が挙げられる。
基材としては、市販のものを用いることもでき、例えば、ZEONEX 330R、ZEONEX E48R、ZEONEX F52R(以上、日本ゼオン(株)製)、OKP4−HT(大阪ガスケミカル(株)製)、EP5000(三菱ガス樹脂(株)製)、AD−5503(帝人化成(株)製)などを挙げることができる。
基材の屈折率は、1.5以上1.8以下であることが好ましく、1.50以上1.64以下であることがより好ましい。
【0015】
(低屈折率層)
本発明に係る反射防止膜においては、低屈折率層として、SiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を含有する層を少なくとも含む。SiOを含有する層を含むことで、水蒸気バリア性能が向上し、反射防止膜のクラックの発生を抑制することができる。
SiOのxは酸化度で2未満の数を表す。xが2未満であると、水蒸気バリア性能が向上し、反射防止膜のクラックの発生抑制することができる。好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.5以下である。
なお、蒸着材料としてSiOを使用する場合、SiOのxの下限値は理論的には1.0であり、通常、1.1程度である。
本発明に係る反射防止膜においては、SiOを含有する層の少なくとも1層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下であることが好ましく、SiOを含有する層のうち最も基材側にある層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下であることがより好ましい。SiOを含有する層が複数層ある場合には、層ごとにSiOの酸化度が異なっていてもよい。
【0016】
SiOを含有する層の水蒸気バリア性能は低いことが好ましく、該層の透湿度が0.1g/(m・day)以下であることが好まし、0.01g/(m・day)以下であることがより好ましい。透湿度は低ければ低いほど好ましいが、下限としては0.001g/(m・day)程度である。透湿度はMOCON法(JIS K7129B法(赤外線センサー法))を基づき測定することができる。
【0017】
SiOを含有する層はSiO以外の材料を含むことができる。また、低屈折率層として、SiOを含有する層以外に、SiO以外の材料を含む層があってもよい。SiO以外に低屈折率層に用いることのできる材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、二酸化ケイ素(SiO)、フッ化アルミニウム(AlF)、及びそれらの混合物を用いることができる。
【0018】
低屈折率層の屈折率は、1.35以上1.5以下であることが好ましく、1.38以上1.47以下であることがより好ましい。また、低屈折率層の光学膜厚は、設計波長λ0を500nmとしたときに、透湿度の観点からは、0.14λ0以上0.44λ0以下であることが好ましく、0.23λ0以上0.35λ0以下であることがより好ましい。ただし、光学設計等の観点から0.14λ0以下とすることもでき、上記範囲に限定されない。
【0019】
(高屈折率層)
本発明に係る反射防止膜において、高屈折率層の材料としては、例えば、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化セリウム(CeO)、及びそれらの混合物を用いることができる。
クラックや膜剥離を抑制するためには適度な圧縮応力を持たせることが好ましく、また膜耐久性を有することも好ましい。これらの観点から、光屈折率層の材料としては、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化チタン(TiO)、又は酸化タンタル(Ta)が好ましく、酸化チタン(TiO)又は酸化タンタル(Ta)が好ましい。
【0020】
高屈折率層の屈折率は、1.7以上2.5以下であることが好ましく、1.8以上2.2以下であることがより好ましい。また、高屈折率層の光学膜厚は、設計波長λ0を500nmとしたときに、0.036λ0以上0.54λ0以下であることが好ましく、0.072λ0以上0.43λ0以下であることがより好ましい。
【0021】
(その他の層)
本発明に係る反射防止膜は、基材と反射防止膜との間に下地層が設けてもよい。該下地層の材料としては、SiOが挙げられる。下地層の膜厚としては20nm以上100nm以下が好ましい。
また、基材と反射防止膜又は下地層との間に、硬化被膜を有してもよい。硬化被膜としては、通常、金属酸化物コロイド粒子と有機ケイ素化合物よりなるコーティング組成物を硬化したものが一般的に用いられる。金属酸化物コロイド粒子としては、例えば、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)又は酸化アンチモン(Sb)等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。
【0022】
更に、硬化被膜と基材の密着性を向上させるために、プライマー層を形成してもよい。プライマー層を形成すると、反射防止膜の耐衝撃性が向上する効果が付与される。プライマー層の構成材料としては、ウレタン系材料が挙げられる。
更に、反射防止膜の最外層の上に、必要に応じ、撥水層が設けられていてもよい。
【0023】
[反射防止膜の製造方法]
以下に、本発明の反射防止膜の製造方法について説明する。
本発明の反射防止膜は、基材上に低屈折率層及び高屈折率層を積層することで形成される。その中で、低屈折率層のうち、SiOを含有する層(以下、「SiO膜」ともいう)の少なくとも1層は基材上にプラズマ照射しながら蒸着により成膜される。プラズマ照射しながら蒸着することで、水蒸気バリア性能が高くクラック発生が抑制され、しかも光吸収がなく透明な光学部材に適したSiO膜を得ることができる。
SiO膜の酸化度は、基材上へプラズマ照射しながら蒸着する成膜により膜中の酸素欠損量を調整して制御することができる。特に、酸素ガスイオン量を調節することで層の酸素欠損量を容易に調整することができる。
【0024】
プラズマ照射しながらの蒸着は、イオンアシスト法として公知の方法により行うことができる。
基材上へ照射されるプラズマの源となるガスは、特に限定されず、酸素ガス(O)、炭酸ガス(CO)、水蒸気(HO)、四フッ化炭素ガス(CF)などを単独若しくは混合して用いることができる。SiO膜など蒸着で得られる膜の酸化度の調整し易さの点からは、酸素ガス(O)が好ましい。また、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N)などの不活性ガスを混合してもよい。
特に、蒸着膜の酸化度の調整する上で、アルゴンガスと酸素ガスとの混合物が好ましく、この場合、基材へのプラズマ照射はアルゴン及び酸素イオンが照射される。
酸素ガスとアルゴンガスとの混合比は、体積比で、4:1〜9:1が好ましく、5:1〜7:1がより好ましい。
また、酸素ガスの流入量は、30sccm以上70sccm以下が好ましく、40sccm以上60sccm以下であることがより好ましい。
【0025】
上記のガスに電圧を印加し加速し、プラズマイオン化して基材上へ照射する。プラズマイオンの加速電圧は200Vより大きいことが好ましく、300V以上であることが更に好ましく、500V以上であることが更に好ましい。加速電圧が上記範囲にあると、SiO膜の膜密度が上がり、水蒸気バリア性能がより向上することができる。加速電圧の上限は、特に制限されないが、基材温度上昇による膜破壊を防ぐ観点から、1200V以下が好ましく、1000V以下がより好ましい。
プラズマイオンのイオン電流は、基材上で、300mA以上であることが好ましく、500mA以上がより好ましい。イオン電流が上記範囲にあると、SiO膜の膜密度が上がり、水蒸気バリア性能がより向上することができる。イオン電流の上限は、特に制限されないが、基材温度上昇による膜破壊や膜応力の増加による膜剥離を防ぐ観点から、1000mA以下が好ましく、900mA以下がより好ましい。
【0026】
蒸着成膜時の到達圧力は、2×10−3Pa以下であることが好ましく、1×10−3Pa以下であることがより好ましい。プラズマ照射及び蒸着成膜は、通常、蒸着設備を備えた真空装置内で行われるので、そのような場合には、上記到達圧力は該真空装置内の真空度を意味する。プラズマ照射時の雰囲気の圧力は2×10−2以上1×10−2以下が好ましい。上記圧力範囲とするためは、脱ガスにより減らすことが好ましく、特にHOを減らすことが好ましい。HOを減らすことにより、SiO膜中の水酸基(−OH)の成分が減り、水蒸気バリア性能を向上させることができる。この水酸基の含有状態は、FT−IR法により観測することができる。
【0027】
SiO膜の蒸着は、公知の方法で行うことができる。蒸着物質としては、SiO、SiO及びこれらの混合物などを用いることができるが、蒸着膜の酸化度調整の観点からは、SiOを用いることが好ましい。また、電子線照射時のスプラッシュを回避する上で、SiOはペレット状に成形したものや10mm以下程度の大きな粒状のものを使用することが好ましい。
蒸着時の基材温度は、85℃以上110℃以下が好ましく、90℃以上100℃以下がより好ましい。蒸着速度は、5Å/sec以上15Å/sec以下が好ましく、9Å/sec以上12Å/sec以下がより好ましい。
【0028】
SiO膜以外の低屈折率層及び高屈折率層の成膜は、特に制限されないが、成膜工程の一貫性及び簡素化の観点からSiO膜と同様に蒸着により成膜することが好ましい。
蒸着時のプラズマ照射は、行っても行わなくてもよいが、蒸着膜の着色を抑えて透明性を上げる観点から、蒸着時にプラズマ照射を行うことが好ましい。
【0029】
例えば、高屈折率層を酸化チタン(TiO)又は酸化タンタル(Ta)含有する層とする場合、TiO又はTaを蒸着物質として、公知の蒸着方法でTiO又はTaの蒸着膜を形成することができる。蒸着する際に基材上へプラズマ照射を行ってもよく、この場合のプラズマの源となるガスは、アルゴンガスと酸素ガスとの混合物が好ましく、酸素ガスとアルゴンガスとの混合比は、体積比で、4:1〜9:1が好ましく、5:1〜7:1がより好ましい。また、酸素ガスの流入量は、30sccm以上70sccm以下が好ましく、40sccm以上60sccm以下であることがより好ましい。プラズマイオンの加速電圧は200V以上1200V以下が好ましく、300V以上1000V以下がより好ましい。プラズマイオンのイオン電流は、基材上で、300mA以上1000mA以下が好ましく、500mA以上900mA以下がより好ましい。蒸着時の真空の到達圧力は2×10−3Pa以下であることが好ましく、1×10−3Pa以下であることがより好ましい。プラズマ照射時の雰囲気の圧力は2×10−2以上1×10−2以下が好ましい。
【0030】
[光学部材、プラスチックレンズ]
本発明に係る反射防止膜は、高温高湿環境下でもクラックの発生が起こらないため、レンズ、プリズム、フィルターなどの種々の光学部材に好適に用いることができる。
例えば、反射防止膜の基材として、レンズ機能を有するプラスチックを用いた場合に反射防止膜付きのプラスチックレンズとして利用することができる。この場合、優れた反射防止効果を有しながら、かつ、高温高湿環境下でもクラックの発生がなく、透明のプラスチックレンズを得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1〜3、比較例1]
図1に示す層構成の反射防止膜を作製した。即ち、基材100上に、高屈折率層として第1層としてTa膜1(高屈折率層)、第2層としてSiO膜2(低屈折率層)、第3層としてTa膜3(高屈折率層)、第4層としてSiO膜4(低屈折率層)を積層した反射防止膜10を作製した。
基材100としてZEONEX330R(日本ゼオン(株))を用い、その上に、Ta膜及びSiO膜を成膜した。ここで、実施例1〜3についてはイオンアシスト法にて成膜した。蒸着物質としては、Ta膜についてはTaを使用し、SiO膜についてはSiOを用いた。他の成膜条件を下記表1に示す。
なお、SiO膜2、4の透湿度については、成膜条件を同じにして樹脂フィルム上にそれぞれ単独で成膜し、MOCON法に基づき測定した。測定結果は下記表1に示す。
また、各層の光学膜厚は、λ0=500nmとして、Ta膜1が0.12λ0、SiO膜2が0.08λ0、Ta膜3が0.19λ0、SiO膜4が0.28λ0となるようにした。
図2に、実施例1で作製した反射防止膜の反射特性を示す。
【0033】
得られた反射防止膜を85℃95%RHの環境下に1000時間放置した後、反射防止膜を光学顕微鏡で観察しクラックの有無を調べ、以下の基準で評価した。評価結果は下記表2に示す。
○:反射防止膜にクラックが見られない。
△:反射防止膜に1〜2本のクラックが見られる。
×:反射防止膜に3本以上の多数のクラックが見られる。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示す結果より、SiOを含有する層をイオンアシスト法による蒸着により成膜した本発明の反射防止膜は、高温高湿環境下でもクラックの発生が抑制されていることが分かる。
【0036】
[参考例]
基材ZEONEX330R(日本ゼオン(株))上に、下記表2に示す条件で、SiO膜及びSiO膜をそれぞれ単独で成膜した。それぞれ膜厚は100nmである。蒸着方式がイオンアシスト法の場合に、酸素ガス及びアルゴンガスをそれぞれ50sccm及び8sccmの流入量で導入し、基材上にプラズマ照射した。
成膜後、透湿度をMOCON法に基づいて測定した。測定結果は下記表2に示す。
SiO膜及びSiO膜の通常蒸着は、酸素ガス及びArガスの流入なしでEB照射により蒸着した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果から、SiO膜はSiO膜に比べて水蒸気バリア性能に優れ、更に、イオンアシスト法により成膜した場合には、更に水蒸気バリア性能が格段に向上することが分かる。
なお、通常蒸着により成膜したSiO膜は褐色であったが、イオンアシスト法により成膜したSiO膜は透明であった。
【符号の説明】
【0039】
1 Ta膜(高屈折率層)
2 SiO膜(低屈折率層)
3 Ta膜(高屈折率層)
4 SiO膜(低屈折率層)
10 反射防止膜
100 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくともSiO(xは酸化度で、2未満の数を表す)を含有する層を含む低屈折率層と、高屈折率層とを有する反射防止膜の製造方法であって、
前記SiOを含有する層の少なくとも1層を、前記基材上にプラズマ照射しながら蒸着により成膜する工程を含む反射防止膜の製造方法。
【請求項2】
前記蒸着法により成膜されるSiOを含有する層の蒸着物質がSiOである、請求項1記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項3】
前記SiOを含有する層の少なくとも1層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下である、請求項1又は2記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項4】
前記SiOを含有する層のうち最も前記基材側にある層におけるSiOの酸化度xが1.0以上1.8以下である、請求項3記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項5】
前記蒸着成膜時の雰囲気の到達圧力が1×10−3Pa以下であり、プラズマイオンの加速電圧が200Vより大きく、イオン電流が300mA以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ照射がアルゴン及び酸素イオンの照射である、請求項1〜5のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項7】
前記高屈折率層が酸化タンタル又は酸化チタンを含有する層を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法により得られた反射防止膜。
【請求項9】
前記基材がプラスチックである請求項8記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記SiOを含有する層の少なくとも1層の透湿度が0.1g/(m・day)以下である、請求項8又は9記載の反射防止膜。
【請求項11】
前記低屈折率層と前記高屈折率層とがそれぞれ複数層積層された、請求項8〜10のいずれか1項記載の反射防止膜。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項記載の反射防止膜を有する光学部材。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれか1項記載の反射防止膜を有するプラスチックレンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−73542(P2012−73542A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220075(P2010−220075)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】