説明

反応器

【課題】反応生成物の収率を高める。
【解決手段】電気化学反応を生じさせる反応器1は、互いに対向する電極対Dを収容する反応容器2を備え、この反応容器2は、電極対Dの間で電気化学反応の原料溶液を流すとともに、上流側よりも下流側で断面積が小さく形成された流路25を有し、電極対Dは、流路25に沿って延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気化学反応を起こさせる反応器として、バッチ式の反応器がある。
バッチ式の反応器とは、原料溶液を収容する反応容器と、原料溶液内に浸漬された2つの電極などとから構成される反応器であり、電極間に通電することによって化学反応を生じさせるようになっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
但し、このバッチ式の反応器においては、反応容器内での電場の分布が不均一となってしまう。また、電極間隔が数cm開いているため、必要な電圧量が大きくなってしまう。更に、溶液の攪拌を行なっても容器の隅に淀みができたり、電極表面で溶液が滞留したりしてしまう。そのため、この反応器においては、反応の効率や選択率が低くなるという問題がある。
【0004】
このような問題を解消するため、近年、フロー式の反応器が開発されている。
フロー式の反応器とは、内部に原料溶液を通過させる流路と、当該流路内で向かい合わせに配設された平板状の2つの電極などとから構成される反応器であり、流路内に原料溶液を流しつつ電極間に通電することによって化学反応を生じさせるようになっている(例えば、非特許文献2参照)。このフロー式の反応器においては、溶液が流れることによって攪拌の効果を生じる上、電極間隔が数mmとなっているため、バッチ式の反応器と比較して反応の効率や選択率が高くなる。
【非特許文献1】ビー・エー・エス株式会社、「12. バルク電気分解用セル」、[online]、[平成20年2月1日検索]、インターネット<URL:http://www.bas.co.jp/1505.html>
【非特許文献2】H. Wendt, Electrochemica Acta, Vol.37(1992), No.11, pp1959-69
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献2に記載のようなフロー式の反応器においては、流路の上流側から下流側に向かって電極間で原料溶液の流速が一定、つまり、溶液中の物質に対する電場の作用時間が一定であるため、反応原料の濃度が低く反応生成物の濃度が高い下流側の領域では、反応生成物が副次的に反応して2次生産物に変化してしまい、反応生産物の収率が低下してしまう。
【0006】
本発明の課題は、反応生成物の収率を高めることのできる反応器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、電気化学反応を生じさせる反応器において、
互いに対向する電極対を収容する反応容器を備え、
この反応容器は、
前記電極対の間で前記電気化学反応の原料溶液を流すとともに、上流側よりも下流側で断面積が小さく形成された流路を有し、
前記電極対は、前記流路に沿って延在することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の反応器において、
前記電極対における各電極は、それぞれ円板状に形成されるとともに、少なくとも一方が中央部に孔部を有しており、
前記流路は、
前記電極対の外周部から中央部に向かって前記原料溶液を流すことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の反応器において、
前記電極対における少なくとも一方の電極は、
厚み方向に貫通する複数の孔部を有する板状の電極層と、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の内側の面に設けられたメッシュ層とを有し、
前記メッシュ層の孔部の内径は、前記電極層の孔部の内径よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の反応器において、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の外側の面には、疎水性または親水性の表面処理が施されており、
前記反応容器は、
前記少なくとも一方の電極によって前記電極対の外側空間と内側空間とに仕切られており、
当該反応容器の内部の気体を排出する気体排出口を、前記外側空間に有することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の反応器において、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の外側の面には、他のメッシュ層が設けられており、
前記他のメッシュ層の孔部の内径は、前記メッシュ層の孔部の内径よりも大きく、前記電極層の孔部の内径以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、反応容器には、電極対の間で原料溶液を流すとともに、上流側よりも下流側で断面積が小さく形成された流路が具備され、電極対は当該流路に沿って延在するので、電極間の原料溶液の局所的な流速(=流量/断面積)は上流側よりも下流側で大きくなる。従って、反応原料の濃度が高く反応生成物(目的物質)の濃度が低い上流側の領域では、下流側の領域と比較して、原料溶液中の物質(主に反応原料)に対する電場の作用時間を十分に確保することができるため、電極間の局所的な電流値、ひいては電流密度(=局所的な電流値/注目部分の電極面積)を擬似的に大きくし、電気化学反応による反応生成物の生成を促進することができる。一方、反応原料の濃度が低く反応生成物の濃度が高い下流側の領域、つまり反応生成物が副次的に反応して2次生産物に変化し易い領域では、上流側の領域と比較して、原料溶液中の物質(主に反応生成物)に対する電場の作用時間を短くすることができるため、電気化学反応による2次生産物の生成を抑制し、反応生成物の生産量を確保することができる。
よって、反応生産物の収率を高めることができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、少なくとも一方の電極には厚み方向に貫通する複数の孔部を有する板状の電極層と、電極層の表裏面のうち、電極対の内側の面に設けられたメッシュ層とが具備され、メッシュ層の孔部の内径は電極層の孔部の内径よりも小さいので、電気化学反応によって電極層で発生する気泡は表面張力の影響によってメッシュ層を透過できずに、電極層の孔部を通過してメッシュ層とは反対側の面、つまり電極対の外側の面から電極の外部に抜け出る。従って、電気化学反応を電極層の主にメッシュ層側、つまり気泡の存在しない側で生じさせることができるため、電極が気泡で覆われることによる電場分布のばらつきや、液流の乱れ、電気化学反応に寄与する電極面積の低下などを防止することができる。よって、気泡の発生による反応効率の低下を防止することができる。また、電場の乱れを防止することができるため、反応の選択率の低下を防止することができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、電極層の表裏面のうち、電極対の外側の面には、疎水性または親水性の表面処理が施されており、反応容器は前記少なくとも一方の電極によって電極対の外側空間と内側空間とに仕切られており、当該反応容器の内部の気体を排出する気体排出口を外側空間に有するので、電極内におけるメッシュ層の側から前記少なくとも一方の電極内に浸透する溶媒を、表面処理層(溶媒が水の場合には疎水性の表面処理層、溶媒が極性の低い有機溶媒の場合には親水性の表面処理層)によって遮ることができる。よって、気体排出口からの液漏れを防止することができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、電極層の表裏面のうち、電極対の外側の面には、他のメッシュ層が設けられており、この他のメッシュ層の孔部の内径は前記メッシュ層の孔部の内径よりも大きく、電極層の孔部の内径以下であるので、電極層における他のメッシュ層側に気泡が付着した場合には、この気泡は前記メッシュ層では遮られる反面、当該他のメッシュ層を伝って電極外部に抜け出る。従って、電気化学反応を電極層における気泡の存在しない部分で確実に生じさせることができるため、気泡の発生による反応効率の低下をより確実に防止することができる。また、電場の乱れを防止することができるため、反応の選択率の低下をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明に係る反応器1の概略構成を示す斜視図である。
この図に示すように、反応器1は箱状、本実施の形態においては円筒状の反応容器2を備えている。
【0019】
この反応容器2は、図2(a)に示すように、有底円筒状の容器本体200と、容器本体200の開口部を覆う円板状の蓋部材201とによって中空に形成されており、内部に隔膜3を有している。
【0020】
隔膜3は、溶液中のイオンを透過させる反面、電気化学反応の反応原料を透過させ難い性質を有するものであり、反応容器2の内部空間を上下2つの反応室20A,20Bに仕切っている。
【0021】
このうち、上側の反応室20Aの上面(蓋部材201の下面)には、反応室20Aの内部に流体を流入させる液流入口22と、反応室20A内部の流体を排出させる液排出口24とが形成されている。なお、本実施の形態においては、反応室20Aの上面中央部(蓋部材201の中央部)には、反応室20Aの内部の様子を外部から観察できるよう、透光性の窓202(図1参照)が形成されている。但し、図2や後述の図8,9では、図示の簡略化のため、窓202の図示を省略している。
【0022】
また、下側の反応室20Bにおける底面の外周部(容器本体200における内側底面の外周部)には、反応室20Bの内部に流体を流入させる液流入口21が環状に形成されており、底面の中央部には、反応室20B内部の流体を排出させる液排出口23が形成されている。
【0023】
これにより、図3(a)に示すように、反応室20Bの内部には、原料溶液の流路25が外周側から中央側に向かって形成された状態となっており、この流路25の断面積は、上流側(外周側)よりも下流側(中央側)で小さくなっている。なお、この図3(a)では、断面積の大小を理解し易いよう、反応室20B内に放射状の仕切線を設けているが、このような仕切線に対応付けて反応室20B内に隔壁を設ける必要はない。
【0024】
ここで、上述の液流入口21,22には、反応容器2の内部で流量を一定に維持するシリンジポンプやプランジャポンプ等の定量ポンプ(図示せず)が接続されており、液流入口21,22から液排出口23,24まで一定の流量で液体を流すようになっている。また、液流入口21には、反応原料としてのトルエン誘導体(またはアミン誘導体)及びメタノールを含有する原料溶液が流入されるようになっており、液流入口22には、これらの反応原料を含有しない溶液(以下、非原料溶液とする)が流入されるようになっている。これら原料溶液及び非原料溶液の溶媒としては、水を用いても良いし、極性の低い有機溶媒を用いても良い。
【0025】
また、上述の図2に示すように、反応容器2は、電極対Dを構成して互いに対向する一方の電極4を反応室20Bに、他方の電極5を反応室20Aに有している。
これら電極4,5はそれぞれ円板状となっており、それぞれ外周部から中央部に向かって流路25に沿って延在した状態となっている。
【0026】
より詳細には、電極4は、中央部に孔部を有しており、当該孔部を液排出口23に合わせて反応室20Bの底面に配設されている。なお、本実施の形態においては、電極4は従来より公知の電極であり、アノード(陽極)として機能するようになっている。また、電極4の大きさは直径50mm、中央の孔部の大きさは直径10mmとなっている。
【0027】
一方、電極5は、図4(a)に示すように、電極4と協働して電気化学反応を起こさせる電極層50と、当該電極層50の裏面(電極4側の面)を覆うメッシュ層51とを有している。なお、本実施の形態においては、電極5はカソード(陰極)として機能するようになっている。
【0028】
電極層50は、従来より公知の導電性材料によって形成されており、厚み方向に貫通する複数の孔部(図示せず)を有している。ここで、電極層50の厚みは、2mm以下となっており、好ましくは0.1〜1mmとなっている。また、電極層50の孔部の大きさ、つまり孔径は1mm以下となっており、好ましくは50〜500μmとなっている。このような電極層50としては、例えば市販の金網を用いても良いし、機械加工やレーザー加工、エッチング加工などで穴をあけた金属板を用いても良い。
【0029】
メッシュ層51は、従来より公知の絶縁性材料によって形成されており、厚み方向に貫通する複数の孔部510(後述の図5(a),(b)参照)を有している。ここで、メッシュ層51の厚みは、0.5mm以下となっており、好ましくは10〜300μmとなっている。また、メッシュ層51の孔径は、電極層50の孔径よりも小さく、例えば電極層50の孔径の半分以下となっており、好ましくは1〜50μmとなっている。メッシュ層51の孔部510の形状は、厚み方向に貫通する限りにおいて、どのような形状でも良く、例えば図5(a),(b)に示すように、厚み方向に径の異なる形状としても良いし、図5(c),(d)に示すように、少なくとも厚み方向に貫通するよう形成されたランダムな形状としても良い。メッシュ層51の孔部510の形状が厚み方向に異なる場合には、内径の最も小さい部分が電極層50の孔径よりも小さくなっていれば良い。以上のようなメッシュ層51としては、例えば、機械加工やレーザー加工、エッチング加工などで穴をあけた絶縁性の板状部材を用いても良いし、市販のメンブレンフィルターなど、多孔性の部材を用いても良い。
【0030】
なお、以上のような電極5は、電極層50とメッシュ層51とを、例えば5mm程度の間隔で接着することにより製造しても良いし、適切な治具で圧着することによって製造しても良い。
【0031】
また、以上のような反応容器2は、図6(a),(b)に示すように、容器本体200の底面に電極4を配設した後、図7(a),(b)に示すように、スペーサ(図示せず)を介して容器本体200の内部に隔膜3及び電極5を配設し、容器本体200の開口部に蓋部材201を固定することにより、製造することができる。なお、隔膜3と電極5との間には、スペーサを配設せずに、隔膜3と電極5とを当接させることとしても良い。
【0032】
続いて、上記の反応器1において電気化学反応を生じさせた場合の作用について説明する。
まず、原料溶液が液流入口21に流入され、非原料溶液が液流入口22に流入されると、隔膜3が反応原料の透過を防止する結果、反応室20B(流路25)には原料溶液が流れ、反応室20Aには非原料溶液が流れる。
【0033】
また、電極4,5に対して電圧が印加され、電極4,5の間に電流が流されると、電極4,5の近傍で電気化学反応が生じる。具体的には、反応原料としてトルエン誘導体及びメタノールを用いる場合には、電極4の表面では下記の式(1)の反応が生じ、電極5における電極層50の表裏面や内部では下記の式(2)の反応が生じる。また、反応原料としてアミン誘導体及びメタノールを用いる場合には、電極4の表面では下記の式(3)の反応が生じ、電極5における電極層50の表裏面や内部では下記の式(4)の反応が生じる。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
このとき、上述の図3(a)で示したように、流路25の断面積は上流側よりも下流側で小さく、電極4,5は当該流路25に沿って延在するので、電極4,5間の原料溶液の局所的な流速(=流量/断面積。但し、流量は一定値)は下流側よりも上流側で小さくなる。そのため、反応原料の濃度が高く反応生成物(目的物質)の濃度が低い上流側の領域では、下流側の領域と比較して原料溶液中の物質(主に反応原料)に対する電場の作用時間が十分に確保され、電極4,5間の局所的な電流値、ひいては電流密度(=局所的な電流値/注目部分の電極面積)が擬似的に大きくなる結果、電気化学反応による反応生成物の生成が促進される。一方、反応原料の濃度が低く反応生成物の濃度が高い下流側の領域、つまり反応生成物が副次的に反応して2次生産物に変化し易い領域では、上流側の領域と比較して原料溶液中の物質(主に反応生成物)に対する電場の作用時間が短くなり、電気化学反応による2次生産物の生成が抑制され、反応生成物の生産量が確保される。
【0039】
また、電極5はメッシュ層51を下方の電極4に対向させて配設されており、当該メッシュ層51の孔径は電極層50の孔径よりも小さいので、上記の式(2)または式(4)の反応によって水素の気泡が電極層50で発生すると、この気泡はメッシュ層51での表面張力の影響によって当該メッシュ層51を透過できずに、電極層50の孔部を通過して電極層50の表面(図2(a)中、上側の面)から上方に向かって電極5の外部に抜け出る。そのため、電極5での電気化学反応は主に電極層50の裏面(メッシュ層51側の面)、つまり気泡の存在しない側で生じることとなる。
【0040】
そして、気泡を含んだ溶媒が液排出口24から、気泡を含まずに反応生成物を含有する溶媒が液排出口23から、それぞれ反応容器2の外部に排出される。
【0041】
以上の反応器1によれば、反応原料の濃度が高く反応生成物(目的物質)の濃度が低い上流側の領域においては、電気化学反応による反応生成物の生成を促進する一方、反応原料の濃度が低く反応生成物の濃度が高い下流側の領域、つまり反応生成物が副次的に反応して2次生産物に変化し易い領域においては、電気化学反応による2次生産物の生成を抑制し、反応生成物の生産量を確保することができるため、反応生産物の収率を高めることができる。
【0042】
また、電気化学反応を電極層50の主にメッシュ層51側、つまり気泡の存在しない側で生じさせることができるため、電極5が気泡で覆われることによる電場分布のばらつきや、原料溶液の液流の乱れ、電気化学反応に寄与する電極5の面積の低下などを防止することができる。よって、気泡の発生による反応効率の低下を防止することができる。また、電場の乱れを防止することができるため、反応の選択率の低下を防止することができる。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。
【0044】
例えば、上記実施の形態においては、反応容器2を円筒状として説明したが、図2(b)に示すように、中空の箱状であれば良い。但し、この場合には、図3(b)に示すように、反応室20Bの流路25を上流側から下流側に向かって上下方向または左右方向に狭くし、当該流路25の断面積を上流側よりも下流側で小さくすることとなる。
【0045】
また、電極対Dの一方の電極を図4(a)に示す電極5として説明したが、図4(b)に示す電極5Aとしても良い。この電極5Aは、表面側(電極対Dの外側)にメッシュ層51Aを有しており、メッシュ層51Aの孔径はメッシュ層51の孔径よりも大きく、電極層50の孔径以下となっており、好ましくはメッシュ層51の孔径の倍以上となっている。この電極5Aにおいては、電極層50におけるメッシュ層51A側に気泡が付着した場合に、この気泡はメッシュ層51では遮られる反面、メッシュ層51Aを伝って電極5の外部に抜け出る。そのため、電気化学反応を電極層50における気泡の存在しない部分で確実に生じさせることができるため、気泡の発生による反応効率の低下をより確実に防止することができる。また、電場の乱れを防止することができるため、反応の選択率の低下をより確実に防止することができる。
【0046】
また、電極5はメッシュ層51を下方に向けて配設されることとして説明したが、メッシュ層51に電極4が対向する限りにおいて、側方に向けて配設されることとしても良い。この場合であっても、電極5で発生する気泡は電極4とは反対の側から側方に向かって電極5の外部に抜け出る結果、電極層50における気泡の存在しない側で電気化学反応を確実に生じさせることができるため、気泡の発生による反応効率の低下を確実に防止することができる。
【0047】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
図8は、本発明に係る反応器1Aの概略構成を示す側断面図である。
この図に示すように、本実施の形態における反応器1Aの反応容器2Aは、中空の箱状となっており、隔膜3によって左右に仕切られた反応室20C,20Dを有している。
【0049】
これら反応室20C,20Dの内部には、電極対D1を構成する2つの電極5B,5Bが互いに対向して配設されている。
各電極5Bは、本発明に係る電極であり、一方がアノード、他方がカソードとして機能するようになっている。この電極5Bは、図4(c)に示すように、裏面側(電極対の内側)から順にメッシュ層51、電極層50及び表面処理層52を有している。
【0050】
表面処理層52は、電極層50の表面に所定の表面処理を施して形成されており、具体的には、原料溶液の溶媒が水の場合には疎水性の表面処理、極性の低い有機溶媒の場合には親水性の表面処理を施して形成されている。なお、このような表面処理は、従来より公知の表面処理剤によって行なうことができる。
【0051】
以上の電極5B,5Bは、本実施の形態においては、反応室20C,20Dを内側部分20Eと外側部分20Fとに仕切っている。
そして、各反応室20C,20Dの内側部分20Eの下部には、反応室20C,20Dの内部に原料溶液を流入させる液流入口21がそれぞれ設けられており、内側部分20Eの上部には、反応室20C,20D内部の液体を排出させる液排出口23がそれぞれ設けられている。また、各反応室20C,20Dの外側部分20Fの上部には、反応室20C,20D内部の気体を排出させる気体排出口24Aがそれぞれ設けられている。なお、本実施の形態においては、各反応室20C,20D(特に、内側部分20E)は、それぞれ原料溶液の流路25であり、上流側から下流側に向かって断面積が小さくなっている。また、反応室20Cの液流入口21と、反応室20Dの液流入口とには、異なる反応原料を含有する原料溶液が流入されている。
【0052】
以上の反応器1Aにおいては、各電極5B,5Bの近傍での電気化学反応によって気泡が発生するようになっており、この気泡は、それぞれ電極層50の表面(図中、外側の面)から電極5B,5Bの外部に抜け出た後、気体排出口24Aから排出される。一方、液流入口21から流入する原料溶液は電極5Bのメッシュ層51及び電極層50の内部に浸透するものの、表面処理層52で遮られ、液排出口23のみから排出される。なお、アノード及びカソードの各電極5B,5Bにおいてそれぞれ気泡が発生する電気化学反応としては、従来より公知の反応を用いることができる。
【0053】
よって、この反応器1Aによれば、上記第1の実施の形態における反応器1と同様の効果を得ることができるのは勿論のこと、原料溶液を液排出口23のみから排出することができるため、気体排出口24Aからの液漏れを防止することができる。
【0054】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、上記第1,第2の実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
図9は、本発明に係る反応器1Bの概略構成を示す側断面図である。
この図に示すように、本実施の形態における反応器1Bの反応容器2Bは、中空の箱状となっており、内部に隔膜3が設けられていない一室型の反応容器となっている。
【0056】
より詳細には、反応容器2Bは内部に反応室20Gを有しており、反応室20Gの内部には、電極対D2を構成する電極4,5Bが互いに対向して配設されている。
【0057】
このうち、電極4は、本実施の形態においては、アノードとして機能するようになっており、反応室20Gの底面に配設されている。
一方、電極5Bは、カソードとして機能するようになっており、反応室20Gを内側部分20Hと外側部分20Iとに仕切っている。
【0058】
ここで、内側部分20Hの下部には、液流入口21及び液排出口23が設けられており、外側部分20Iの上部には、気体排出口24Aが設けられている。なお、本実施の形態においては、反応室20G(特に内側部分20H)は、原料溶液の流路25であり、上流側から下流側に向かって断面積が小さくなっている。
【0059】
以上の反応器1Bにおいては、液流入口21から流入する原料溶液は電極5Bのメッシュ層51及び電極層50の内部に浸透するものの、表面処理層52で遮られ、液排出口23のみから排出される。一方、電極5Bの近傍での電気化学反応によって発生する気泡は、電極層50の表面(図9中、上側の面)から電極5Bの外部に抜け出た後、気体排出口24Aから排出される。
【0060】
よって、この反応器1Bによれば、上記第2の実施の形態における反応器1Aと同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る反応器の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る反応器の概略構成を示す側断面図である。
【図3】流路の断面積を説明するための概念図である。
【図4】電極を示す断面図である。
【図5】メッシュ層を示す図である。
【図6】第1の実施形態における反応器の分解図であり、(a)は側断面図、(b)は斜視図である。
【図7】第1の実施形態における反応器の分解図であり、(a)は側断面図、(b)は斜視図である。
【図8】本発明に係る反応器の概略構成を示す側断面図である。
【図9】本発明に係る反応器の概略構成を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B 反応器
2,2A,2B 反応容器
4 電極(他の電極)
5,5A,5B 電極
20E,20H 内側空間
20F,20I 外側空間
25 流路
50 電極層
51 メッシュ層
51A メッシュ層(他のメッシュ層)
510 メッシュ層の孔部
D,D1,D2 電極対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応を生じさせる反応器において、
互いに対向する電極対を収容する反応容器を備え、
この反応容器は、
前記電極対の間で前記電気化学反応の原料溶液を流すとともに、上流側よりも下流側で断面積が小さく形成された流路を有し、
前記電極対は、前記流路に沿って延在することを特徴とする反応器。
【請求項2】
請求項1記載の反応器において、
前記電極対における各電極は、それぞれ円板状に形成されるとともに、少なくとも一方が中央部に孔部を有しており、
前記流路は、
前記電極対の外周部から中央部に向かって前記原料溶液を流すことを特徴とする反応器。
【請求項3】
請求項1または2記載の反応器において、
前記電極対における少なくとも一方の電極は、
厚み方向に貫通する複数の孔部を有する板状の電極層と、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の内側の面に設けられたメッシュ層とを有し、
前記メッシュ層の孔部の内径は、前記電極層の孔部の内径よりも小さいことを特徴とする反応器。
【請求項4】
請求項3記載の反応器において、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の外側の面には、疎水性または親水性の表面処理が施されており、
前記反応容器は、
前記少なくとも一方の電極によって前記電極対の外側空間と内側空間とに仕切られており、
当該反応容器の内部の気体を排出する気体排出口を、前記外側空間に有することを特徴とする反応器。
【請求項5】
請求項3記載の反応器において、
前記電極層の表裏面のうち、前記電極対の外側の面には、他のメッシュ層が設けられており、
前記他のメッシュ層の孔部の内径は、前記メッシュ層の孔部の内径よりも大きく、前記電極層の孔部の内径以下であることを特徴とする反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−209400(P2009−209400A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52132(P2008−52132)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】