説明

反応性スパッタ成膜方法及び成膜装置

【課題】金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法において、膜厚分布を向上させることが可能なスパッタ成膜方法及び成膜装置を提供する。
【解決手段】金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法において、被処理基板203の非成膜面側に磁石205を配置し、スパッタ作用により飛散されたターゲット粒子を磁界によって捕らえることで成膜粒子を導くことにより、被処理基板203の膜厚分布を均一化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性スパッタ成膜方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減圧下のチャンバ内で反応性の低いプロセスガスとしてのアルゴンガス(以下Arガスという)等の中でプラズマを生成してArイオンをターゲットに衝突させることによりターゲット物質をスパッタし、ターゲットに対向して配置した基板の表面に薄膜を堆積させる方法は、スパッタ方法として知られている。そのうち、複合材料や化合物の薄膜を作製するために、Arガスに適量の反応性ガスを添加し、ターゲット物質と反応性ガスを基板上で反応させながら成膜させる方法は反応性スパッタ法として知られている。また基板上の薄膜作製での成膜速度を向上させるために、ターゲットの背面に配置したマグネットによりターゲット表面近傍に磁場を生成しプラズマを高密度にする手法をマグネトロンスパッタ法といい、広く普及した成膜技術となっている。
【0003】
上記のマグネトロンスパッタ法では、磁場が生成される領域にプラズマが集中するので、この領域に対応するターゲットの表面分が早く削られる。ターゲットにおける早く削られる表面分は「エロージョン」と呼ばれ、それ以外の表面分は「非エロージョン」と呼ばれる。ターゲットのエロージョンに対向する基板の表面分では、ターゲットの非エロージョンに対向する基板の表面分に比較すると、薄膜が厚く作製される。そこで、エロージョンに対応する薄膜の厚みと非エロージョンに対応する薄膜の厚みの差を小さくすることが要求される。厚みの差を小さくするため、例えば基板とターゲットの間の距離を広げることが提案されている。基板表面でいっそう均一な厚みを有する薄膜を形成するため、ターゲット背面のマグネットを或る幅だけ揺動(往復運動)させ、基板上の薄膜が形成される各場所がターゲットのエロージョンと非エロージョンに交互に対向するようにして成膜を行うスパッタ法が、揺動マグネトロンスパッタ法として提案されている。
【0004】
一般に反応性マグネトロンスパッタ法では、添加された反応性ガスはプラズマにより活性化され、その活性化した反応性ガスが膜形成に強く寄与する。そのため、プラズマが集中されているエロージョンに対向する基板表面(以下エロージョン対向基板面という)の上ではターゲット物質と反応性ガスの反応が効率的に進むのに対して、非エロージョンに対向する基板表面(以下非エロージョン対向基板面という)の上では反応があまり進まない。従って、反応性ガスの最適な分圧(密度)は、エロージョンの周囲では少なめの値となるのに対して、非エロージョンの周囲では多めの値となる。そこで、反応性ガスを平均的なガス圧として処理室全体に供給したとすると、エロージョンに対向する領域ではガス過剰(最適分圧より過剰なガス圧)の状態、非エロージョンに対向する領域ではガス不足(最適分圧より不足なガス圧)の状態となり、エロージョン対向基板面と非エロージョン対向基板面のそれぞれに作製される薄膜は、いずれも最適でなく、互いに異なった膜質を有することになる。
【0005】
また、使用するターゲット材料により状態が異なる。一般的な透明導電膜であるITOを成膜する場合、ターゲットとしてInを母材としてSnOを10〜30%添加した材料が使用される。これらのターゲットは材料が導電性を有するため直流電源を用いて成膜することが可能であり、導入する反応性ガス(この場合は酸素)はターゲット材料がプラズマ粒子によりスパッタされた時に損失した酸素を補う為に使用される。故にArガスに対する比率としては1%程度となり、上述したエロージョン領域による膜質の差は大きくない。
【0006】
しかしながら、ターゲット材料として金属を使用した反応性マグネトロンスパッタ法においては反応性ガスによる膜質への影響が大きく関与する。金属ターゲットを使用する理由としては、上述したITOと同様に酸化物焼結体としたときに導電性が得られない材料であることが挙げられる。導電性が得られなければ交流電源を用いた成膜は可能であるが、成膜速度が遅く実用的でない。金属材料を使用した反応性マグネトロンスパッタ法は、目的の膜質を得るための成膜条件に対するマージンが狭く、これらの問題に対して、ガス導入の均一化(特許文献1参照)、カソードマグネトロンの均一化、基板回転の最適化などを行い安定的な成膜を可能にすることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−256942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、反応性マグネトロンスパッタ法により成膜された膜の膜厚分布について述べる。コストダウンを含めて大面積の基板が使われるようになり、基板幅が2mを超えるようなものまで成膜する必要性が生じているが、歩留まりを向上させるためには、膜厚分布が小さいことが必要となる。膜厚分布を良化させる方法としてターゲットサイズが基板サイズよりも大型であれば小さい分布を確保できるが、装置全体の大型化、コストの増加など現実的な対策とはいえない。一般には成膜条件が決定した後、成膜基板の膜厚分布を調べ、その分布に対応した遮蔽板を用いて膜厚分布の均一化が行われているが、成膜速度の低下、パーティクル発生要因の増加、ランニングコストなどの問題が増える結果となる。
【0009】
上述したように、ガス導入の均一化により膜質および膜厚分布の改善を図ることが検討されている。しかしながら、改善結果では1000A±5%と1割程度の分布があり、これらの検討だけでは十分な分布は得られていない。反応性マグネトロンスパッタ法ではプロセスガスと反応性ガスの比率により組成変化が起こりやすく、またその際に成膜速度も変化する。既存の改善策では元からある成膜条件を変更する必要や成膜速度を低下させる必要などがあり根本的な解決には至っていない。本発明は上記の課題に鑑みて、成膜条件の変更や成膜速度を低下させることなく、膜厚分布を改善させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、被処理基板と被スパッタ材料との間にプラズマを誘起し、上記被スパッタ材料をスパッタし上記被処理基板に成膜するスパッタ法において、上記被スパッタ材料が金属材料であり、反応性ガスを用いた反応性スパッタ成膜であり、上記被処理基板の非成膜面側に複数の磁力が異なる磁石を配置したことを特徴とする反応性スパッタ成膜方法である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記被スパッタ材料が少なくとも常磁性体または強磁性体を含有することを特徴とする反応性スパッタ成膜方法である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記磁石が永久磁石あるいは電磁石であることを特徴とする反応性スパッタ成膜方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、被処理基板と被スパッタ材料との間にプラズマを誘起し、上記被スパッタ材料をスパッタし上記被処理基板に成膜するスパッタ装置において、上記被スパッタ材料が金属材料であり、反応性ガスを用いた反応性スパッタ成膜であり、上記被処理基板の非成膜面側に複数の磁力が異なる磁石を配置したことを特徴とする反応性スパッタ成膜装置である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記スパッタ材料が少なくと常磁性体または強磁性体を含有することを特徴とする反応性スパッタ成膜装置である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、前記磁石が永久磁石あるいは電磁石であることを特徴とする反応性スパッタ成膜装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被処理基板の非成膜面側に磁石を配置したことにより、スパッタ作用により飛散されたターゲット粒子を磁界によって捕らえることで成膜粒子を導くことができる。この結果、被処理基板の膜厚分布を均一化することが可能となる。
【0017】
また、被スパッタ材料に少なくとも常磁性体または強磁性体を含有させることで、非成膜面側から発生する磁界による影響を得ることが可能となる。
【0018】
また、磁石として永久磁石あるいは電磁石を用いる事で磁力を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタチャンバ構造の説明図。
【図2】本発明の一実施形態にかかる基板ユニットの断面の説明図。
【図3】本発明の実施例1で使用した磁石ホルダの説明図。
【図4】本発明の実施例1と従来との膜厚分布の比較を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1、図2には本発明の一実施形態に係るスパッタチャンバ構造図と基板ユニットの断面図を示してある。なお、以下の実施形態の説明において参照する図面は、本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法の比率等については実際の形態をそのまま表すものではない。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態においては一般的な平行平板型DCマグネトロンスパッタ装置が使用される。このスパッタ装置はチャンバ101を備え、このチャンバ101は十分に真空となる排気量の真空ポンプ102に繋がれている。チャンバ101内には、配管を通してプロセスガス103と反応性ガス104が流量制御された状態で注入され、被スパッタ材料としてのターゲット105に電圧を印加することでプラズマを発生させる。ターゲット105は、金属材料からなり、常磁性体または強磁性体を含有する。
【0022】
ターゲット105の保持部は、ターゲット105を保持するバッキングプレート106、バッキングプレート106を冷却する冷却水107、プラズマを閉じ込めるためのマグネット108、マグネット108を揺動する揺動機構109により構成されている。ターゲット105と離間して対向する位置には基板ユニット110が配置されている。また図示されてはいないが、基板ユニット110をチャンバ101内に搬送するユニットが存在する。
【0023】
図2に示すように、基板ユニット110は、パターニング成膜時に必要なメタルマスク201およびマスクホルダ202、被処理基板203およびその基板203を固定するための基板ホルダ204、磁力の異なる複数の磁石205を保持した磁石ホルダ206を備えている。基板ユニット110の各部材は必要に応じて具備すれば良い。つまりパターニング成膜の際はメタルマスク201及びマスクホルダ202を準備し(A,B)、ベタ成膜の際にはマスクホルダ202のみを準備すればよい(C)。同様に複数枚の基板203に成膜する際には基板ホルダ204を準備し(A,D)、大型基板単体への成膜では基板ホルダ204を取り外しても良い(B,C)。磁石205は永久磁石あるいは電磁石からなり、基板203の非成膜面側に配置される。メタルマスク201およびマスクホルダ202は基板203の成膜面側に配置される。
【0024】
本発明で用いる磁石205に関しては特に制限されないが、基板ユニット110をチャンバ101に搬送することを考慮すると軽量であれば好適に用いる事が可能となる。特に、形状自由度が大きく、軽量かつ柔軟性があり基板203への密着性が高いラバーマグネットが好ましい。着磁の種類に関しては、両面多極着磁では磁石ホルダ上部の部材と干渉する可能性が残るため、片面多極着磁であれば好適に用いる事が可能である。磁力に関しては成膜される材料により異なるが、基板203の成膜表面の水平磁力密度が100mT以上ならば用いる事が可能である。
【0025】
また、基板203の成膜面側に磁力が発生すれば良く、磁石205を固定して配置するような中間部材を挟んでも良い。中間部材は比透磁率が1.05以上ならば磁力の低下も少なく、十分な剛性を有するものであれば特に制限されないが、特に板厚0.3〜10mmでヤング率10GPa以上の材質であることが好ましい。板厚が0.3mmより小さい場合でも剛性の高い材料を用いれば良いが、薄くなることで破損や変形し易くなり、取り扱いに注意を要する。また、板厚を10mmより大きくしても効果上あまり差異がなく、逆にその板厚分だけ基板203と磁石205との距離が離れるため、余分に磁力の高い磁石を使用したり、重量の増加により保持装置への負荷が多くなる場合があり、上記範囲が好ましい。
【0026】
本発明の成膜方法で用いることが出来る材料としては、磁界によって捕らえることが出来る材料であれば良いため、金属などの磁性体を用いることが出来る。
【0027】
本発明の成膜方法では、スパッタ作用によりターゲット105より飛散されている被処理基板203側のターゲット粒子を、被処理基板203の非成膜面側に磁石205を配置することにより、非成膜面側からの磁界によって捕らえることで成膜粒子を導き、被処理基板203の膜厚分布を均一化することができる。そのため、本発明の成膜方法で用いる被処理基板203としては、非成膜面側からの磁界を遮断しない材料、例えばガラス、プラスチック等の材料を用いることが望ましい。
【実施例1】
【0028】
300mm角のソーダガラス基板上に反応性マグネトロンスパッタ法により酸化モリブデン膜を成膜した。膜厚分布の測定として基板中心から10mm間隔で触針段差計による測定を行った。測定範囲は左右各130mmである。結果は最大膜厚値を100%とした比較値で表す。実施例1で使用する磁石ホルダは図3(A)に示すように、インバー材(Fe−36%Ni)を磁石を固定する中間部材として用いている。α点線での構造を(B)に示し、β点線での構造を(C)に示す。四隅に500mTのネオジムラバーマグネットを、四辺に250mTのフェライトラバーマグネットを設置した構造をしている。
【0029】
成膜条件は、純度99.9%のモリブデン金属ターゲットを用い、不活性ガスとしてアルゴン、反応性ガスとして酸素を導入した。ターゲットの電力密度を1.6W/cm、ガス導入比率はアルゴンが3に対して酸素を1.7とし、スパッタリング時の真空度を0.4Paとなるように、排気バルブまたはガス導入量を調節した。
【0030】
[比較例1]
磁石ホルダ内に磁石を設置せずに、実施例1と同様に反応性スパッタ成膜を行った。
【0031】
実施例1および比較例1の結果を図4に示す。磁石を設置していない比較例1では凡そ±7%の膜厚分布があるが、磁石を設置した実施例1では凡そ±2%の膜厚分布に抑えることが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0032】
金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法において、被処理基板の非成膜面側に磁石を配置したことにより、スパッタ作用により飛散されたターゲット粒子を磁界によって捕らえることで成膜粒子を導くことにより、被処理基板の膜厚分布を均一化することが可能となった。
【符号の説明】
【0033】
101…チャンバ
102…真空ポンプ
103…プロセスガス
104…反応性ガス
105…ターゲット
106…バッキングプレート
107…冷却水
108…マグネット
109…揺動機構
110…基板ユニット
201…メタルマスク
202…マスクホルダ
203…基板
204…基板ホルダ
205…磁石
206…磁石ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板と被スパッタ材料との間にプラズマを誘起し、
上記被スパッタ材料をスパッタし上記被処理基板に成膜するスパッタ法において、
上記被スパッタ材料が金属材料であり、
反応性ガスを用いた反応性スパッタ成膜であり、
上記被処理基板の非成膜面側に複数の磁力が異なる磁石を配置したことを特徴とする反応性スパッタ成膜方法。
【請求項2】
前記被スパッタ材料が少なくとも常磁性体または強磁性体を含有することを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項3】
前記磁石が永久磁石あるいは電磁石であることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項4】
被処理基板と被スパッタ材料との間にプラズマを誘起し、
上記被スパッタ材料をスパッタし上記被処理基板に成膜するスパッタ装置において、
上記被スパッタ材料が金属材料であり、
反応性ガスを用いた反応性スパッタ成膜であり、
上記被処理基板の非成膜面側に複数の磁力が異なる磁石を配置したことを特徴とする反応性スパッタ成膜装置。
【請求項5】
前記被スパッタ材料が少なくとも常磁性体または強磁性体を含有することを特徴とする請求項4に記載の反応性スパッタ成膜装置。
【請求項6】
前記磁石が永久磁石あるいは電磁石であることを特徴とする請求項4に記載の反応性スパッタ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−72433(P2012−72433A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217625(P2010−217625)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】