説明

反応液温度測定方法、反応液温度測定装置、反応液温度調整装置及び遺伝子の増幅反応処理を行うための装置

【課題】
簡易な構成で、非接触で反応液に影響を与えずに反応液の温度を直接、精度良く測定し、反応の目的に応じて高速で高精度な温度制御を行なうことができる反応液温度の測定方法及びその装置の提供。
【解決手段】
本発明は、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶工程と、前記マイクロ流路における前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した位置を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記反応液の移動した位置から前記反応液の体積の変化を算出する算出工程と、前記算出工程で算出された前記反応液の体積の変化に、前記記憶工程で記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との前記対応データを照らして前記反応液の温度を測定する測定工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応液の温度の測定方法及びその装置に関し、特に温度制御を必要とするマイクロ流体を扱うマイクロ化学チップにおける反応液の温度の測定方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生化学分析をマイクロ化学チップ上で行なう方法の研究開発が進められてきている。マイクロ化学チップは、ガラスやプラスチック上に溝を彫って張り合わせることで流路を形成し、検体、試薬などを含む反応のための液体(反応液)の移動及び混合を行なう装置である。そこにある液体の移動には、正圧や負圧を発生させるポンプや電気泳動などの技術が用いられる。さらに、マイクロ化学チップの中や外に、加熱手段や検出手段を設けることで生化学反応や分析を行なうことができる。
【0003】
生化学分析工程のなかで、ヒトゲノムの一塩基多型(SNP)や血液中の感染症菌の検出など、多数のDNA溶液の中から目的とするDNAを検出するために、標的とするDNAを増幅する手法が用いられる。DNAの増幅手法として、PCR法(Polymerase
Chain Reaction Method)が一般的に用いられている。これは増幅する目的のDNAの一部に対して相補的なプライマと酵素等と検体とを混合し、サーマルサイクルをかけることで、2のべき乗倍にDNAを増幅させる手法である。増幅処理工程のサーマルサイクルは、たとえば94℃から64℃の間で温度の上昇と下降とを繰り返す。
【0004】
マイクロ化学チップ上に、検体や試薬を投入するためのリザーバを設け、流路を通して混合された反応液を増幅反応チャンバへ移動し、制御温度を前記PCR増幅に適した温度にすることで、PCR増幅処理を行なう方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
増幅処理の前に細胞膜を溶解してDNAを抽出する工程や、増幅後の標的DNAの増幅量を検出する工程を含めた処理を行なうマイクロ化学チップも開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
一方、前記PCR反応のサーマルサイクルは、温度の正確性と共に、反応の正確性や反応時間の短縮のために迅速な温度変化が求められる。微細な流路を持つマイクロ化学チップを使用することで、反応液への伝熱は早くなるが、反応液の温度を正確に測定することは困難である。正確な温度が測定できない原因は、まず、熱電対のような温度センサを流路脇に配置すると、熱伝導を阻害したり、温度センサ自身の熱容量により過渡応答性が低下したりすることが挙げられる。また、流路から離れた位置に温度センサを配置すると、流路と測定位置の温度差が誤差となってしまう。
【0007】
反応液の正確な温度が測定できないと、正確な温度が反応液に伝わっていなかったり、温度変化の際にオーバーシュートしたりすることにより、所望する反応結果が得られなくなる可能性がある。
【0008】
それに対して、反応液の温度を正確に測定する方法がいくつか提案されている。流路に微小な温度センサを形成した構成が開示されている(特許文献3参照)。それは流路に隣接する構造体に温度センサを埋め込んだ構成である。また、流路の一つの面に2種類の金属膜を形成してその接点を熱電対とする構成も開示されている(特許文献4参照)。
【0009】
非接触で光学的に反応液の温度を測定する方法が開示されている。反応液の屈折率が温度により変化する特性を利用して、流路にガラスを通してレーザ光を照射し、対向する位置でレーザ光を測定することにより温度を測定する方法である(特許文献5参照)。また、反応液内の蛍光物質の減衰特性が温度により変化することを利用して、レーザ光を間欠的に照射し蛍光物質を励起させ、蛍光強度の減衰特性を測定する方法が開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】米国特許第5,498,392号明細書
【特許文献2】米国特許第5,955,029号明細書
【特許文献3】特開2003−035611号公報
【特許文献4】特開2006−133189号公報
【特許文献5】特開平01−233336号公報
【特許文献6】特開2006−258537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した通り、マイクロ化学チップ上の流路内において、反応液の温度を直接に測定することは困難でかつ反応上とても重要な課題である。しかしながら、流路に隣接する構造体に壁面に埋め込んだ構成では液温を正確に測定することは出来ない。また、流路内壁に温度センサを設ける場合では、温度センサを構成する金属が生化学反応を阻害してしまう可能性がある。
【0011】
また、非接触で屈折率を利用して測定する方法では、流路の両面にレーザと検出器を配置しなければならず、温度制御面が限られることに加え、断熱材を配置できないことから空気中への放熱量が大きくなってしまう。反応液中蛍光物質の減衰特性を測定する方法では、検体ごとに蛍光物質を添加する必要があり、検査コストが上昇してしまう。
【0012】
本発明は、前記課題を解決すべく、簡易な構成で、非接触で反応液に影響を与えずに反応液の温度を直接、精度良く測定し、反応の目的に応じて高速で高精度な温度制御を行なうことができる反応液温度の測定方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する方法として、本発明の反応液温度測定方法は、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにある前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶工程と、前記マイクロ流路内の前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した距離を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記反応液の移動した距離から前記反応液の体積の変化を算出する算出工程と、前記算出工程で算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶工程で記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との前記対応データとを対比して前記反応液の温度を特定する特定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液体温度の測定方法及びその装置によれば、マイクロ化学チップのようなマイクロ流体を扱う装置でPCR反応などにおける反応液の温度制御を行なう際に、簡易な構成で反応液の温度を正確に測定することができる。これにより、温度変化の大きな反応プロセスにおいても、オーバーシュートすることなく、正確な温度に反応液を制御することができる。特に、正確な温度に制御することで、マイクロ化学チップにおいて遺伝子の増幅に用いられるPCR反応やリアルタイムPCRが正確に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する為に、以下に発明を実施する為の最良の形態を示す。なお、個々に開示する実施形態は、本発明である反応液の温度の測定方法及びその装置が実際に用いられる例であり、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明の反応液温度測定方法は、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにおいて、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶工程と、前記マイクロ流路における前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した位置を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記反応液の移動した位置から前記反応液の体積の変化を算出する算出工程と、前記算出工程で算出された前記反応液の体積の変化に、前記記憶工程で記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との前記対応データを照らして前記反応液の温度を特定する特定工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
以下図を用いて本発明の反応液の温度の測定方法及びその装置を説明する。なお、ここでいう反応液とは、通常PCR反応等で用いる検体、試薬などを含む反応のための液体を指し、本明細書において用いる用語であり、通常の意味に較べ特別の意味を有するものではない。
【0018】
本発明が適用される、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップの一例は図1に示されている。図1は本発明の反応液温度測定方法が適用され、また、本発明の反応液温度測定装置等の一部をなすマイクロ化学チップの模式図を示す。図1(a)は上面図で、図1(b)は側面図である。なお、以下説明する本発明の実施形態において用いるマイクロ化学チップは、特別な説明がなければ図1に示すマイクロ化学チップを用いる。
【0019】
本発明の反応液の温度の測定は、反応液の熱膨張率を利用したものである。マイクロ化学チップを構成する材料、例えば石英ガラスだと、その線膨張率は4〜5.5×10-7[K-1]で、それに対して、反応液の溶媒である水の体積膨張率は20〜100℃の間で約2〜7×10-4[K-1]である。この3桁の熱膨張率の違いにより、マイクロ化学チップの温度による流路105断面積の変動の影響をほとんど受けずに、また、マイクロ化学チップの温度分布などに関わらずにPCR反応液の温度を測定することができる。
【0020】
なおPCR反応液には水以外の成分が含まれるが、ほとんどの液体は水よりも熱膨張率が大きく、石英ガラスとの熱膨張率の差が更に広くなるため、問題とはならない。
【0021】
本発明の反応液温度測定方法は、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶工程を含む。具体的には、前記マイクロ化学チップで反応を行う反応液の特定の温度と、その温度下の熱膨張率による反応液の体積膨張値とを対応して記憶する工程となる。前記記憶工程によって、後に検出された反応液の体積からその反応液の温度を測定することができる。本発明において、例えばPCR反応で予定されている測定対象となる異なる温度の温度間の体積比率を予め測定し記憶することが好ましい。
【0022】
本発明の反応液温度測定方法は、前記マイクロ流路における前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した位置を検出する検出工程、及び、前記検出工程で検出された前記反応液の移動した位置から前記反応液の体積の変化を算出する算出工程を含む。一般的に、前記マイクロ流路の直径等が予め特定されているため、そのマイクロ流路での流れる反応液の界面を捉えることができれば、マイクロ流路に反応液の移動した位置を特定することができる。そこから、マイクロ流路にある反応液の体積を算出することができる。
【0023】
本発明の反応液温度測定方法は、前記算出工程で算出された前記反応液の体積の変化に、前記記憶工程で記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との前記対応データを照らして前記反応液の温度を特定する特定工程を含む。本発明は、予めマイクロ化学チップで反応を行う反応液の特定の温度における熱膨張率にしたがった反応液の体積膨張値とその値が対応する温度とを記憶している。そのため、算出されたマイクロ流路にある反応液の体積から直ちに当該マイクロ流路にある反応液の温度を特定することができる。
【0024】
本発明は、反応液の界面より反応液の体積の変化を正確に算出するために、生化学反応場の入り口と出口の流路を反応液界面検出流路とし、反応液の温度による体積変動が観察できるような断面積になるよう設計することができる。ここで、図3を用いて、反応場104の入り口と出口の反応液界面検出流路(マイクロ流路)106が深さ10μm幅50μmで、10nLの反応液を反応場(104)に供給するマイクロ化学チップにおいての本発明の反応液温度測定方法を説明する。
【0025】
なお、図3においては、反応場104の幅が反応液界面検出流路(マイクロ流路)106よりも広く描いているが、この関係性はこれに限定されるものではなく、反応場104と反応液界面検出流路(マイクロ流路)106の幅が同じでも良いし、反応場104の幅のほうが狭くても良い。
【0026】
前記のように、本発明において、例えばPCR反応で予定されている測定対象となる異なる温度の温度(30℃、65℃及び94℃)間の体積比率を予め測定し記憶することが好ましい。ここで、反応液温度が30℃の時は、図3(a)に示す位置に反応液界面があるものとする。反応液温度が94℃になると反応液の体積は30℃の時に比べて3.4%程度膨張する。そして反応液界面検出流路(マイクロ流路)(106)での界面位置は、入り口と出口で合わせて約0.68mm移動し、図3(b)に示す位置になる。まず、また94℃の時の膨張率は約7×10-4[K-1]なので、溶液界面は0.1℃につき1.4μm移動する。
【0027】
さらに反応液温度が65℃になると反応液の体積は30℃の時に比べて1.5%程度膨張しているため、反応液界面検出流路(マイクロ流路)106での界面位置は、入り口と出口で合わせて約0.3mm移動し、図3(c)に示す位置になる。65℃の時の膨張率は約6×10-4[K-1]なので、溶液界面は0.1℃につき1.2μm移動する。また、本発明において、測定される温度の膨張率から算出される、当該温度の近辺±0.1℃の変化による反応液の移動距離は、1μm前後であることから、1μmの検出精度の光学系を用いれば、目標温度からの差を0.1℃以内に抑えることができる。よって、これを使って温度制御を行なうと±0.1℃の精度で反応液の温度を制御することが出来る。
【0028】
本発明は、まず、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する。次いで、反応場104の入り口と出口のマイクロ流路106における前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した位置を検出すれば、特定された前記マイクロ流路106の面積より、前記反応液の移動した位置から前記反応液の体積の変化を算出する。最後に、記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データから、算出された体積が対応する温度を割出すことで前記反応液の温度を測定する。
【0029】
前記のように、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにおいて、記憶工程と、検出工程と、測定工程とを有する本発明の反応液温度測定方法でマイクロ流路にある反応液の温度を測定することができる。
【0030】
以下は本発明の反応液温度測定方法を応用した、反応液温度測定装置、反応液温度調整装置、及び、遺伝子の増幅反応処理装置を本発明の最良の実施形態として説明する。
【0031】
(第一の実施形態)
本発明の第一実施形態である反応液温度測定装置は、マイクロ化学チップにおける反応液の温度変化を測定する反応液温度測定装置であって、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップと、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、を備え、前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出することを特徴とする。
【0032】
本実施形態の構成図は図2に示されている。本発明は、反応を行なう反応場104と反応液の移動を可能とするマイクロ流路105、106とを有するマイクロ化学チップ101を含む。マイクロ化学チップ101は、熱膨張率の低い材料で構成されることが好ましく、本実施形態では、石英ガラスを用いることが最も好ましい。本実施形態においては、例えば石英ガラスにエッチング等により溝を掘り、さらに貫通穴を開けて張り合わせることでマイクロ化学チップ101を形成することができる。前記貫通穴は試薬や検体(反応液)を供給する供給口102と、反応産物を排出する排出口103となる。溝は、流路105、106となる幅の狭い部分と、生化学反応場104となる広い部分を作ることができる。
【0033】
本実施形態は、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段409を含む。前記のとおり、本発明は反応液の熱膨張率を利用した体積の変化で温度を測定するため、より正確に反応液の膨張体積と温度との関係を記憶すること必要がある。ここで、好ましくは、マイクロ化学チップ101で使用する反応液の特定の温度下の熱膨張率及びそれによる体積の変化を予め測定し記憶することである。また、マイクロ化学チップ101がPCRにおいて用いられることを想定すれば、例えば、95℃、72℃、65℃、30℃などにおいて前記データが記憶されることが好ましい。
【0034】
本実施形態は、マイクロ化学チップ101の反応場104の入り口と出口におけるマイクロ流路106にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段204を含む。反応液界面検出手段204が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、記憶手段409から前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出する。
【0035】
本実施形態の反応液界面検出手段204が前記反応液の体積の変化を正確に算出するために、生化学反応場104の入り口と出口の流路106の幅は、例えばPCRなどの反応液の温度による体積変動が観察できるような断面積になるよう設計することができる。例えば、溶液界面検出領域である生化学反応場104の入り口と出口の流路106が深さ10μm幅50μmで、10nLの反応液を反応場104に供給する。
【0036】
具体的には、反応液界面検出手段204により溶液界面検出領域の流路106で検出した界面位置より、反応液の体積を測定することにより温度を計算する。本実施形態においては、例えば、CCDのような光学検知手段を用いることが好ましい。また、図1において生化学反応場104は、PCR増幅反応場のみ示しているが、血液等の検体からDNAを抽出する抽出反応場や、PCR増幅後に増幅DNA量を測定するための検出場も、構成してマイクロTAS(Total Analysis System)とすることもできる。
【0037】
(第二の実施形態)
本発明の第二実施形態である反応液温度調整装置は、マイクロ化学チップにおける反応液の温度変化を測定する反応液温度調整装置であって、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップと、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、前記反応に必要な温度を前記反応場にある前記反応液に与えるための温度付与手段と、前記温度付与手段に指令値を出力する温度制御手段と、を備え、前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出し、測定された前記温度変化によって、前記温度制御手段を通して前記温度付与手段に指令値を出力して前記反応場にある前記反応液に与える温度を調節することを特徴とする。
【0038】
本実施形態の構成図は、同様に図2に示されている。本実施形態は、第一実施形態に比べ、以下の2つ手段がさらに備えられている。前記反応に必要な温度を前記反応場にある前記反応液に与えるための温度付与手段202と、前記温度付与手段に指令値を出力する温度制御手段203とである。
【0039】
以下PCRを行うマイクロ化学チップを例に本実施形態を説明する。図1と同様に、それぞれ検体とPCR試薬(反応液)を供給する2つの供給口102がマイクロ化学チップ101に搭載される。それらの液体を移動して流路105を通って混合を行なうことで、反応液を調製する。反応液は更に生化学反応場104へと駆動され、そこに留まって、温度付与手段である加熱/冷却手段(202)によりサーマルサイクルをかけて、PCR反応処理を行なう。本実施形態は、反応液を駆動する駆動手段201をさらに備えることができる。
【0040】
本実施形態は、PCRで用いる反応液を例えば94℃と65℃の温度に制御することを、例えば40回繰り返すサーマルサイクルで行う反応液温度調整装置で説明する。本実施形態では、反応液界面検出手段204により溶液界面検出領域の流路106で検出した界面位置より反応液の体積を測定する。そして、前記同様に、予め記憶した反応液の体積の変化と温度の変化と対応したデータとを対比して反応液の温度を算出し、温度制御のフィードバック温度として使用する。
【0041】
本実施形態では、温度付与手段である加熱/冷却手段202、反応液界面検出手段204、及び温度制御手段であるCPU203が図2にように接続されている。反応液界面検出手段204が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、記憶手段409から前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出し、測定された前記温度変化によって、温度制御手段203を通して温度付与手段202に指令値を出力して反応場104にある前記反応液に与える温度を調節する。なお、本実施形態では、温度付与手段202はマイクロ化学チップ101の外側に設けることが好ましい。
【0042】
PCR反応処理終了後、PCR反応産物を液体駆動手段201により生化学反応場104から流路105を通って排出口103へ排出する。排出されたPCR反応産物は、蛍光等の手段により検出され、標的DNAの有無や量を判定する。なお、標的DNA量の検出を、本実施形態の反応液温度調整装置上に検出手段を設けることにより、マイクロ化学チップ上で行なうこともできる。さらに前記検出手段は、前記反応液界面検出手段と共通であっても良い。また、生化学分析を終えた溶液はマイクロ化学チップから排出せずに、そのまま廃棄することもできる。
【0043】
後述する第三実施形態と同様に、本実施形態の反応液界面検出手段204に、CCDカメラ405(図4参照)を使用することができる。この場合、前記したように、反応液の熱膨張率による反応液がマイクロ流路106における移動距離を正確に測定するために、1μm程度の検出精度を持つ光学カメラなどの光学検出手段を使用することが好ましい。それによって、0.1℃の温度精度で温度測定を行なうことができる。反応液界面検出手段204にCCDカメラ405を用いると、反応液がマイクロ流路106での移動距離を画像処理による行うことになる。その場合では、温度制御手段であるCPU203を用いることができる。そのため新たな手段を設けることなく反応液の温度を調整することができる。なお、後述する第三実施形態においても、同様な光学カメラなどの光学検出手段を使用することが好ましい。
【0044】
(第三の実施形態)
マイクロ化学チップにおいて遺伝子の増幅反応処理を行うための装置であって、反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップと、前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、光学検知手段を有する増幅した遺伝子量を検出する検出手段と、前記反応に必要な温度を前記反応場にある前記反応液に与えるための温度付与手段と、前記温度付与手段に指令値を出力する温度制御手段とを備え、前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出し、測定された前記温度変化によって、前記温度制御手段を通して前記温度付与手段に指令値を出力し、遺伝子の増幅反応に応じた前記反応場にある前記反応液に与える温度を調節することを特徴とする。
【0045】
第三の実施形態の遺伝子の増幅反応処理装置は、リアルタイムPCR装置として適用する実施形態であるため、リアルタイムPCR装置として図4を用いて本実施形態を説明する。リアルタイムPCRは、PCR反応におけるDNAの増幅量をリアルタイムに計測し、計測した増幅率に基づき標的DNAの定量を行なう手法である。DNA量の計測は、蛍光色素を用いて行ない、主な手法としてインターカレータ法とプローブ法がある。インターカレータ法は、二本鎖DNAに特異的に入り込み蛍光を発する。プローブ法は、標的DNAの配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光を標識したプローブを使用する方法である。
【0046】
本実施形態ではインターカレータ法を例に説明する。SYBR Greenは、インターカレータ方で使用される蛍光色素である。図4に示すように、マイクロ化学チップ101の供給口102から供給した検体と増幅試薬及びSYBR Greenは、ポンプ等の液体駆動手段401により流路105に導かれて混合される。更に駆動して、PCR反応場である生化学反応場104にPCR混合液(反応液)を充填した。PCR混合液(反応液)を、ヒートサイクルにかけることによりPCR増幅反応が行なわれる。
【0047】
PCR増幅反応は3つの工程で行なわれる。それは、94℃に加熱してDNAを2本鎖から1本鎖に変性させるディネーチャ工程と、65℃まで冷却してプライマを標的DNAに結合させるアニーリング工程と、72℃の温度に加熱してDNA合成酵素によりプライマからDNA鎖を伸長させる伸長工程とである。
【0048】
これら3つの工程を繰り返すことにより、2のべき乗に標的DNAを増幅することができる。SYBR Greenは、二本鎖に特異的に入り込んで蛍光を発するため、72℃の伸長工程において蛍光強度を測定することで、標的DNAの増幅量を取得することが出来る。各サイクルでこの測定を行なうことにより増幅曲線が得られ、この増幅曲線から標的DNA量を定量することができる。
【0049】
本実施例では、PCR反応場104の直下には、温度付与手段であるペルチェ素子402を配置し、サーマルサイクルを行なう。ペルチェ素子402の片面は、PCR混合液(反応液)に効率よく熱を伝達するようにマイクロ化学チップ101に圧接して配置する。更にペルチェ素子402のもう片面には、ヒートシンクなどの放熱手段403を設ける。ペルチェ素子402は、温度制御手段であるCPU203でフィードバック温度と設定温度からPID演算を行ない、その出力指令値によりペルチェ制御回路404を通して駆動される。
【0050】
反応液界面検出手段204に、CCDカメラ405を使用した例を示す。光源406からの光をマイクロ化学チップ101に照射し、レンズ407を通して反射光をCCD405に入射する。この時光学フィルタ408は光路上から外して、図では右側にしておく。これにより、PCR反応液の気液界面と流路の画像が取得できる。画像をCPU203で画像処理することにより、反応液の界面位置を測定することが出来、PCR反応液の体積と記憶手段であるメモリ409に保存してあるPCR反応液体積の温度と対応するデータから、反応液の温度を算出することができる。この反応液の温度を使用して、目標温度との差からPID演算を行なって出力指令値をペルチェ制御回路404に出力する。
【0051】
さらに、PCR反応サイクル中に蛍光強度を測定する場合は、増幅した遺伝子量を検出する検出手段として反応液界面検出手段204をそのまま利用することができる。例えば、光学検知手段を有する増幅した遺伝子量を検出する検出手段ならば、光学フィルタ408を光路上に、図4において左側に移動する。光源406からの入射光により励起されたSYBR Greenは蛍光を発し、レンズ407と光学フィルタ408とを通って、反応液界面検出手段204とも機能するCCD405で結像する。
【0052】
反応液界面検出手段204として、また、増幅した遺伝子量を検出する検出手段として同時に撮影した画像に対し、流路106にある反応液の位置及び反応液の蛍光輝度を計測することにより、リアルタイムに増幅した遺伝子量を検出することができる。なお、CCD405の光源はSYBR Greenを励起するための励起波長を含むものである。
【0053】
よって、本実施形態の遺伝子の増幅反応処理装置は、自動的に温度を調整しながら増幅した遺伝子量を検出することができる。そのため、温度の正確性と共に、反応の正確性や反応時間の短縮のために迅速な温度変化が求められるリアルタイムPCRの装置として用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、マイクロ流路を使用して反応液の温度を測定、制御する方法及び装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】マイクロ化学チップの模式図である。
【図2】生化学分析装置の構成図である。
【図3】本発明の溶液界面検出流路の概念図である。
【図4】本発明の反応液界面検出手段の概念図である。
【符号の説明】
【0056】
101 マイクロ化学チップ
102 供給口
103 排出口
104 生化学反応場
105 流路
106 反応液界面検出領域
201 液体駆動手段
202 加熱/冷却手段
203 CPU
204 反応液界面検出手段
401 ポンプ
402 ペルチェ
403 ヒートシンク
404 ペルチェ制御回路
405 CCDカメラ
406 光源
407 レンズ
408 光学フィルタ
409 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにある前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶工程と、
前記マイクロ流路内の前記反応液の界面を検知し、前記反応液の移動した距離を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された前記反応液の移動した距離から前記反応液の体積の変化を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶工程で記憶された前記反応液の体積の変化と温度の変化との前記対応データとを対比して前記反応液の温度を特定する特定工程と、
を有することを特徴とする反応液温度測定方法。
【請求項2】
マイクロ化学チップにおける反応液の温度変化を測定する反応液温度測定装置であって、
反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップと、
前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、
前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、
を備え、
前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出することを特徴とする反応液温度測定装置。
【請求項3】
反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにおける反応液の温度を調整する反応液温度調整装置であって、
前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、
前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、
前記反応に必要な温度を前記反応場にある前記反応液に与えるための温度付与手段と、
前記温度付与手段に指令値を出力する温度制御手段と
を備え、
前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出し、算出された前記温度変化によって、前記温度制御手段により前記温度付与手段に指令値を出力して前記反応液に与える温度を調整することを特徴とする反応液温度調整装置。
【請求項4】
反応を行なう反応場と反応液の移動を可能とするマイクロ流路とを有するマイクロ化学チップにおいて遺伝子の増幅反応処理を行うための装置であって、
前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データを記憶する記憶手段と、
前記マイクロ化学チップの前記反応場の入り口と出口におけるマイクロ流路にある前記反応液の界面位置を検知する反応液界面検出手段と、
光学検知手段を有する増幅した遺伝子量を検出する検出手段と、
前記反応場にある前記反応液に与えるための温度付与手段と、
前記温度付与手段に指令値を出力する温度制御手段と
を備え、
前記反応液界面検出手段が、検出した前記反応液の界面位置から前記反応液の体積を算出し、算出された前記反応液の体積の変化と、前記記憶手段に記憶されている前記反応液の体積の変化と温度の変化との対応データとを対比して前記反応液の体積から前記反応液の温度変化を算出し、算出された前記温度変化によって、前記温度制御手段により前記温度付与手段に指令値を出力し、遺伝子の増幅反応に応じた前記反応液に与える温度を調整することを特徴とする遺伝子の増幅反応処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−139491(P2010−139491A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319007(P2008−319007)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】