説明

収音切り替え装置及び収音切り替え方法

【課題】 移動体外部の環境音を、移動体内部のスピーカを用い、受聴者ごとの受聴特性の異なりによる影響を受け難くして受聴可能な環境音とオーディオ装置の再生音を再生するバイノーラル音聴取装置を実現する。
【解決手段】 移動体100の外部にマイクロフォン12a、12bを装着した第1円筒型構造体1を配置し、移動体内部でクロストーク信号を打ち消してバイノーラル信号をスピーカ5a、5bで発音するクロストークキャンセラ2を備える。クロストークキャンセラ2は、予め頭部伝達関数を記憶したフィルタ21a、21b、21c、21d、23a、及び23bを有し、頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体74に装着した一対のマイクロフォン74a、74bで収音した外部音に対するクロトークキャンセル信号に基づいて求められた関数であるように構成してバイノーラル音聴取装置を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオ音再生装置及び車外にマイクロフォンを備えた車載用音響装置に関わり、特に、窓を閉めた状態でクロストークキャンセル処理を行った室外の環境音と、ステレオオーディオ装置の再生音とを切り替えて、運転者に聴取させる収音切り替え装置及び収音切り替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緊急車両等を認識するために車両外部に配置したマイクロフォンからの信号により、車室内に配置したスピーカを駆動する車載用音響装置があった。遮音された車内で、運転者に車両の周囲音を聴取させ、危険を回避して適切に車両を運転させることは好ましい。
【0003】
特許文献1には、複数のマイクロフォンを車両外部の四隅に配置し、複数のスピーカを車室内の四隅に配置し、各マイクロフォンと各スピーカを対応させて車外の音を方向感を有して車内で再生することにより、締め切った車内で緊急車両等がどの位置にあるかを認識させるようにした車載用音響装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−33085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている車載用音響装置では、複数のマイクロフォンとそれに対応するスピーカを設置する必要があるため、立体的な音場を発生させるためには少なくとも車外の4方向にマイクロフォンを設置すると共に、それらのマイクロフォンに対応させて車内の4方向にスピーカを設置する必要がある。実験車両としては車外の4方向にマイクを配置することは可能であるものの、車両の四隅に突起形状を有するマイクロフォンを配置することは安全走行の面で好ましくない。また限られた車内の4方向にスピーカを配置することは車内スペースの有効活用の面で好ましくない。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、移動体外部に配置する1個のバイノーラルマイクロフォンを用いて収音した移動体外部の環境音を、遮音された移動体内で2個のスピーカを用いて再生し、受聴特性の異なる受聴者に対しても、受聴特性の異なりによる影響を受け難くして移動体外部の状況を適正に認識させる環境音を、ステレオオーディオ装置の再生音と切り替えながら再生して安全に移動体を運転させることを可能とする、ステレオオーディオ装置の再生音と車外の環境音とを切り替えて受聴させる収音切り替え装置及び収音切り替え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明における第1の発明は、密閉された空間の外部に取り付けられた一対のマイクロホンで収音された外部音を受聴者の頭部伝達関数により変換して生成したバイノーラル音と前記密閉された空間の内部に取り付けられた音源から発するステレオ音とを切り替えて出力する収音切り替え装置において、受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ前記一対のマイクロホンを装着した第1円筒型構造体と、前記バイノーラル音を出力した場合に発生するクロストーク信号を打ち消すクロストークキャンセラと、を備え、前記クロストークキャンセラは、予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した前記外部音に対するクロストークキャンセル信号に基づいて求められた関数であることを特徴とする収音切り替え装置を提供する。
【0007】
第2の発明は、密閉された空間の外部に取り付けられた一対のマイクロホンで収音された外部音を受聴者の頭部伝達関数により変換して生成したバイノーラル音と前記密閉された空間の内部に取り付けられた音源から発するステレオ音とを切り替えて出力する収音切り替え方法において、前記密閉された空間に設けられ、受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ第1円筒構造体に前記一対のマイクロホンを装着し、クロストークキャンセラにより前記バイノーラル音を出力した場合に発生するクロストーク信号を打ち消し、前記バイノーラル信号を出力した場合に発生するクロトーク信号の処理を予め用意された第2円筒型構造体を用いて求められた前記頭部伝達関数を用いて、一対のマイクロフォンで収音した前記外部音に対するクロストークキャンセル信号を求めて行うことを特徴とする収音切り替え方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ一対のマイクロホンを装着した第1円筒型構造体と、バイノーラル音を出力した場合に発生するクロストーク信号を打ち消すクロストークキャンセラと、を備え、前記クロストークキャンセラは、予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した外部音に対するクロストークキャンセル信号に基づいて求められた関数である格別な構成があるので、移動体外部に配置する1個のバイノーラルマイクロフォンを用いて収音した移動体外部の環境音を、遮音された移動体内で2個のスピーカを用いて再生し、受聴特性の異なる受聴者に対しても、受聴特性の異なりによる影響を受け難くして移動体外部の状況を適正に認識させる環境音を再生して安全に移動体を運転させることができる、ステレオオーディオ装置の再生音と車外の環境音とを切り替えて受聴させることができる収音切り替え装置及び収音切り替え方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施例に係る収音切り替え装置について図1〜図12を用いて説明する。
図1は、本発明の実施に係る収音切り替え装置を搭載した車の斜視図である。
【0010】
図2は、本発明の実施に係る収音切り替え装置の構成例を示すブロック図である。
図3は、本発明の実施に係る収音切り替え装置要部の一対のマイクロフォンが付される円筒型構造体を示す図である。
【0011】
図4は、本発明の実施に係る収音切り替え装置要部の、クロストークキャンセラの構成例を示すブロック図である。
図5は、本発明の実施に係るクロストークキャンセラに搭載するフィルタの特性測定装置の構成を示す図である。
【0012】
図6は、本発明の実施に係る特性測定装置で用いられる一対のマイクロフォンが付される円筒型構造体を示す図である。
図7は、本発明の実施に係る特性測定装置で測定されたインパルス応答特性を示す図である。
【0013】
図8は、本発明の実施に係る特性測定装置で測定されたインパルス応答の周波数特性の図である。
図9は、バイノーラルマイクロフォンの構造を示す図である。
【0014】
図10は、バイノーラルマイクロフォンを用いて測定されたインパルス応答特性を示す図である。
図11は、バイノーラルマイクロフォンを用いて測定されたインパルス応答の周波数特性の図である。
【0015】
図12は、本発明の実施に係る収音切り替え装置を搭載した車の応用例を示した図である。
その収音切り替え装置は、移動体外部に配置する1個のバイノーラルマイクロフォンを用いて収音した移動体外部の環境音を、遮音された移動体内で2個のスピーカを用いて発音し、受聴特性の異なる受聴者に対しても、受聴特性の異なりによる影響を受け難くして移動体外部の状況を適正に認識させる環境音を、ステレオオーディオ装置の再生音と切り替えながら再生して安全に移動体を運転させるための装置を実現するという目的を、移動体外部に設けられ、受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ一対のマイクロフォンを装着した第1円筒型構造体と、バイノーラル信号をスピーカによって発音した場合に発生するクロストーク信号を打ち消すように、前記バイノーラル信号を処理するクロストークキャンセラとを備え、前記クロストークキャンセラは、予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した前記外部音に対するクロトークキャンセル信号として求められた関数であるようにして実現した。
【0016】
収音切り替え装置の構成について述べる。
図1に示す収音切り替え装置を搭載した車100は車の屋根部に円筒型構造体1が設置され、車内にスピーカ5a及び5bが配置されている。
【0017】
図2に示す収音切り替え装置10は、円筒型構造体1と、一対のマイクロフォン12a、12b、クロストークキャンセラ2、カーオーディオ3、切り替えスイッチSW1、アンプ4、スピーカ5a及び5bより構成される。スピーカ5a及び5bから発音された音声は受聴者6により受聴される。
【0018】
図3Bに示す収音切り替え装置10の要部である円筒型構造体1には耳道13a、13bが設けられており、その耳道の入り口部分にマイクロフォン12a、12bが配置されている。マイクロフォン12a、12bは風防11a、11bで覆われている。
【0019】
図4に示すクロストークキャンセラ2は、フィルタ21a、21b、21c、及び21dと、加算器22a、22bと、フィルタ23a、23bから構成される。アンプ4は左アンプ41a及び右アンプ41bより構成される。
【0020】
図1〜図3を用いて収音切り替え装置の動作について述べる。
まず、車の屋根に配置される円筒型構造体1に付されるマイクロフォン12a、12bは環境音をバイノーラル収音してバイノーラル音声信号を得る。クロストークキャンセラ2はバイノーラル音声信号をスピーカ5a及び5bより発音した際に、受聴空間で生じるクロストーク成分を打ち消す信号を付加したバイノーラル再生信号を生成する。切り替えスイッチSW1をa側に投入し、バイノーラル再生信号をアンプ4に入力する。アンプ4で増幅されたバイノーラル再生信号はスピーカ5a及び5bから発音される。受聴者6の左側の耳ではマイクロフォン12aで収音された信号が、受聴者6の右側の耳ではマイクロフォン12bで収音された信号が受聴されることにより、受聴者は車外の環境音を遮音された車内で聴取できる。
【0021】
ここで、マイクロフォン12a、12bで収音された信号を、クロストーク成分打ち消し処理を行うことなくスピーカ5a、5bから発音した場合には、左側のスピーカ5aから発音された信号は受聴者6の左側の耳で受聴されると共にクロストーク音が右側の耳で受聴される。右側のスピーカ5bから発音された信号のクロストーク音が受聴者6の左側の耳で受聴されてしまう。受聴者6はクロストーク音のために所定の定位を有する環境音を受聴することは出来ない。マイクロフォン12a、12bで収音されたバイノーラル信号を、クロストークキャンセラ2を用いることで予めスピーカ5a、5bと受聴者6の両耳間で生じるクロストーク成分を打ち消すようにしているため受聴者6は車外の環境音を受聴できる。
【0022】
マイクロフォン12a、12bに付される風防11a、11bは、走行中に生じる風きり音を減衰させるための風防である。
カーオーディオ3は、通常用いられるカーオーディオ装置である。切り替えスイッチSW1は受聴者により操作されてカーオーディオと車外の環境音を切り替える。さらに応用例として、収音切り替え装置10に図示しないサイレン音の検出装置を内蔵させ、マイクロフォン12a、12bで受聴されるバイノーラル音声にサイレン音が検出される場合には図示しない制御部によりスイッチSW1をa側に投入する機能を設けても良い。サイレン音は正弦波成分を多く含む音響信号であり、バイノーラル音声を周波数解析して容易に検出することが出来る。
【0023】
図4を参照し、クロストークキャンセラ2について説明する。
まず、バイノーラル収音された左右チャンネルのバイノーラル信号PL(t)及びPR(t)のそれぞれは入力端子に入力される。左チャンネルのバイノーラル信号はフィルタ21a及び21bに入力される。フィルタ21aは入力される信号に頭部伝達関数hRS(t)を畳み込み、フィルタ21bは頭部伝達関数hLO(t)を畳み込み、極性を逆にした特性の信号を生成する。右チャンネルの入力信号はフィルタ21cにより頭部伝達関数hRO(t)を畳み込みんで後、極性を逆にした特性の信号を生成し、フィルタ21dは頭部伝達関数hLS(t)を畳み込んだ特性の信号を生成する。
【0024】
フィルタ21a、21cで生成された信号は加算器22aで加算されて後、フィルタ23aでd(t)の特性が与えられて左チャンネルのバイノーラル再生信号が生成される。フィルタ21b、21dで生成された信号は加算器22bで加算されて後、フィルタ23bでd(t)の特性が与えられて右チャンネルのバイノーラル再生信号が生成される。左右チャンネルのバイノーラル再生信号はアンプ4の左アンプ41a、右アンプ41bで増幅され、左右のスピーカ5a、5bより発音される。
【0025】
クロストークキャンセラ2を用いることにより、マイクロフォン12a、12bで収音されたバイノーラル信号は、予めスピーカ5a、5bと受聴者6の両耳間で生じるクロストーク成分を打ち消すバイノーラル再生信号として生成される。バイノーラル再生信号はスピーカ5a、5bから発音され、受聴者6は車外の環境音を、臨場感を有して受聴出来る。
【0026】
ここで、スピーカ5a、5bと受聴者6の両耳間で生じるクロストーク信号の特性は受聴者ごとに異なっている。ある受聴者に適したクロストーク成分の打ち消し特性は他の受聴者に対して有効に作用しない場合が多い。クロストークキャンセラ2で生成したクロストーク打ち消し信号が受聴者のクロストークを打ち消さない場合、バイノーラル再生信号に含まれるクロストーク打ち消し用信号は自然界に存在しない逆相成分の信号として受聴されてしまう。フィルタ21a、21b、21c、及び21dの特性は受聴特性の異なる受聴者に対して与える逆相感が小さいバイノーラル再生信号を成分する特性でなければならない。
【0027】
図5を参照し、フィルタ21a、21b、21c、及び21dに格納する頭部伝達関数を得る音響信号伝達特性測定装置7の構成とその動作につき説明する。音響信号伝達特性測定装置7はクロストーク打消し用信号成分が受聴者6に逆相信号として受聴されにくいクロストーク打消し信号を生成するための特性を求める装置である。
【0028】
音響信号伝達特性測定装置7は、パソコン71、増幅器72、スピーカ73、左右のマイクロフォン74a、74bが付される円筒型構造体74、増幅器75a、及び75bより構成される。
【0029】
まず、パソコン71によりインパルス音やホワイトノイズなどの測定信号を発生させる。測定信号は増幅器72で増幅され、スピーカ73に印加される。スピーカ73から発音された測定信号は円筒型構造体74に付される左右のマイクロフォン74a、74bで受聴される。受聴された信号は増幅器75a、75bで増幅され、増幅して得られた信号はパソコン71に入力される。パソコン71は発生させた測定信号と入力される信号とを比較することによりスピーカ73から左右のマイクロフォン74a、74bまでの頭部伝達関数hls(t)及びhlo(t)を求める。同様にして、スピーカ73を円筒型構造体74に対して反対の右側に配置して計測し、頭部伝達関数hro(t)及びhrs(t)を求める。
【0030】
図6(A)は、左右のマイクロフォン74a、74bが付される円筒型構造体74の上面図であり、(B)は斜視図である。ダミーヘッド型マイクロフォンに比し耳介や耳道を有してない。マイクロフォン74a、74bに内蔵される図示しない振動板が配置される位置は、いわゆるダミーヘッド型マイクロフォンにおける鼓膜の位置ではなく、円筒型構造体74の表面の位置である。それらの特徴的な形状や配置により、音響信号伝達特性測定装置7はクロストーク打消し用特性を得るに際し、逆相信号として受聴されにくいクロストーク打消し信号を生成するためのフィルタ21a、21b、21c、及び21dの特性を得ている。
【0031】
図7を参照して音響信号伝達特性測定装置7で、測定して得られた信号波形について述べる。測定信号はレイズドコサインのインパルス信号を用いて得られた頭部伝達関数に係る波形である。横軸は時間であり、縦軸はそれぞれの波形間でノーマライズされた電圧値である。(A)〜(D)は順に頭部伝達関数hlS(t)、hlo(t)、hrS(t)、及びhro(t)に対応する波形である。(E)に示すd(t)の特性に係る波形は、次式により与えられる。
【0032】
d(t)={hlS(t)*hrS(t)−hlO(t)*hrO(t)}-1
なお、*は乗算を示す記号である。
図8を参照し、それらの特性の周波数特性について述べる。
【0033】
同図は図7に示したインパルスレスポンスの波形をフーリエ展開して得られた特性である。横軸は周波数であり、縦軸は応答信号レベルである。100Hz、1kHz、及び10kHzの周波数位置を破線で示している。応答特性における破線と破線との間の利得差は10dBである。(A)〜(E)は順に頭部伝達関数hlS(t)、hlo(t)、hrS(t)、hro(t)、及びd(t)に係る周波数特性である。
【0034】
ダミーヘッドマイクロフォンを使用した場合に得られる同様の特性につき、比較のため示す。
図9は特性比較のために用いたダミーヘッドマイクロフォン80の構造を示したものである。ダミーヘッドマイクロフォン80は人工頭81に耳介84a、84b、耳道83a、及び83bが設けられており、マイクロフォン82a、82bは耳道83a、83bの奥の鼓膜の位置に配置されている。受聴者と同一形状のダミーヘッドマイクロフォン80は受聴者により受聴される音に近い特性の受聴信号が得られるとされている。
【0035】
図10に、円筒型構造体74に付されるマイクロフォン74a、74bを用いる代わりにダミーヘッドマイクロフォン80を用いて測定したインパルス応答の波形を示す。他の測定条件は図7に示した条件と同一である。
【0036】
図11に、図10で得られた特性をフーリエ展開して得られた周波数特性を示す。図8で得られた特性に比し、ダミーヘッドマイクロフォン80を用いる以外の条件は同一である。
【0037】
同図に示す特性は、円筒型構造体74に付されたマイクロフォン74a、74bを用いて得られた図7の特性正の波高値に比し負の波高値の方が小さく、ダミーヘッドマイクロフォン80を用いて得られた図10の特性は正の波高値と同程度の負の波高値(絶対値)の信号が得られている。図7に示した特性の方が図10に示した特性よりもレイズドコサイン波形に近い。さらに振動の減衰波形は、図7に示した特性は短時間で波高値が小さくなるのに比し図10に示した特性では波高値の高い信号が複数回生じている。図7の方が測定時の入力信号(レイズドコサイン)に近い。
【0038】
周波数特性は、図8に示す方が図11に示すよりも周波数特性の乱れ(応答特性の凹凸)が小さい。円筒型構造体74に付されたマイクロフォン74a、74bで得られた特性の方が、ダミーヘッドマイクロフォン80を用いて得た特性よりも平坦である。ダミーヘッドマイクロフォン80を用いてクロストークを打ち消す場合は、クロストーク打消し用信号が打ち消すべきクロストーク成分よりも大きくなってしまうことがある。その信号成分は逆相信号として受聴される。図7、図8に示した頭部伝達関数の特性をフィルタ21a、21b、21c、21d、23a、及び23bに用いるクロストークキャンセラ2は、スピーカ5a、5bと受聴者6の両耳間で生じるクロストーク成分よりも大きなレベルのクロストーク打消し信号は生成されないため、クロストーク打消し信号が逆相感を有する信号として受聴者により受聴される度合いが小さい。
【0039】
バイノーラル収録された音響信号をスピーカ再生するために用いるフィルタ21a、21b、21c、21dに必要な特性は、スピーカ5a、5bから発音された音波が受聴者6の頭部により遮蔽され、頭部に添って回折して反対側の耳に到来するクロストーク音を打ち消すための特性である。スピーカ5a、5bから発音された音波の一部が耳介で反射され、反射された音波と直接到来する音波とが同相で合成されて増強されたり、逆相で合成されて減衰したりする特性や、外耳道の共振、及び反共振などにより生じる特定周波数で増強されたり減衰したりして生じる特性の補正を行う必要はない。図6に示した、円筒型構造体74に付されるマイクロフォン74a、74bを用いて計測される特性を図4に示したクロストークキャンセラ2のフィルタ21a、21b、21c、21d、23a、及び23bに用いることにより、お互いに受聴特性が異なる複数の受聴者に対して好適なクロストークキャンセルを行うことができている。
【0040】
図12を参照し、収音切り替え装置の応用例について述べる。
同図に示す収音切り替え装置10を搭載する車100aは、図1に示した収音切り替え装置10を搭載する車100に比し、屋根に搭載される円筒型構造体1はトランクに設置されている点で異なっている。マイクロフォン12a、12bの付される円筒型構造体1は1個で周囲の環境音を収音できるため運転者の視界を遮らない任意の場所に設置し、上述と同様の周囲音を収音することができる。また、図1ではスピーカ5a、5bが運転席の上部に配置されているが、図12でスピーカ5a、5bは運転席の前面に配置されている。受聴空間で生じるクロストーク成分が打ち消される範囲内でスピーカ5a、5bを任意の位置に配置できる。
【0041】
以上のように、本実施例で示した収音切り替え装置10によれば、移動体100の外部に設けられ、受聴者6の頭部形状と略同一の径を有し、かつ一対のマイクロホン12a、12bを装着した第1円筒型構造体1と、バイノーラル音をスピーカ5a、5bによって発音した場合に発生するクロストーク信号を打ち消すクロストークキャンセラ2と、を備え、前記クロストークキャンセラ2は、予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタ21a、21b、21c、21d、23a、及び23bを有し、前記頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体74に装着した一対のマイクロフォン74a、74bで収音した外部音に対するクロストークキャンセル信号に基づいて求められた関数である格別な構成があるので、移動体外部に配置する1個のバイノーラルマイクロフォンを用いて収音した移動体外部の環境音を、遮音された移動体内で2個のスピーカ5a、5bを用いて再生し、受聴特性の異なる受聴者に対しても、受聴特性の異なりによる影響を受け難くして移動体外部の状況を適正に認識させる環境音を再生して安全に移動体を運転させることができる、ステレオオーディオ装置の再生音と車外の環境音とを切り替えて受聴させることができる収音切り替え装置及び収音切り替え方法を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
窓を閉めた状態で室外の環境音を、クロストークキャンセル処理を行って運転者に聴取させる環境音と、ステレオオーディオ装置の再生音とを切り替えながら受聴するための収音切り替え装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施に係る収音切り替え装置を搭載した車の斜視図である。
【図2】本発明の実施に係る収音切り替え装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施に係る収音切り替え装置要部の一対のマイクロフォンが付される円筒型構造体を示す図である。
【図4】本発明の実施に係る収音切り替え装置要部の、クロストークキャンセラの構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施に係るクロストークキャンセラに搭載するフィルタの特性測定装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施に係る特性測定装置で用いられる一対のマイクロフォンが付される円筒型構造体を示す図である。
【図7】本発明の実施に係る特性測定装置で測定されたインパルス応答特性を示す図である。
【図8】本発明の実施に係る特性測定装置で測定されたインパルス応答の周波数特性の図である。
【図9】バイノーラルマイクロフォンの構造を示す図である。
【図10】バイノーラルマイクロフォンを用いて測定されたインパルス応答特性を示す図である。
【図11】バイノーラルマイクロフォンを用いて測定されたインパルス応答の周波数特性の図である。
【図12】本発明の実施に係る収音切り替え装置を搭載した車の応用例を示した図である。
【符号の説明】
【0044】
1 円筒型構造体
2 クロストークキャンセラ
3 カーオーディオ
4 アンプ
5a、5b スピーカ
6 受聴者
7 音響信号伝達特性測定装置
10 収音切り替え装置
11a、11b 風防
12a、12b マイクロフォン
13a、13b 耳道
21a、21b、21c、21d フィルタ
22a、22b 加算器
23a、23b フィルタ
41a 左アンプ
41b 右アンプ
71 パソコン
72 増幅器
73 スピーカ
74a、74b 左右のマイクロフォン
74 円筒型構造体
75a、75b 増幅器
100 車
SW1 切り替えスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された空間の外部に取り付けられた一対のマイクロホンで収音された外部音を受聴者の頭部伝達関数により変換して生成したバイノーラル音と前記密閉された空間の内部に取り付けられた音源から発するステレオ音とを切り替えて出力する収音切り替え装置において、
受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ前記一対のマイクロホンを装着した第1円筒型構造体と、
前記バイノーラル音を出力した場合に発生するクロストーク信号を打ち消すクロストークキャンセラと、を備え、
前記クロストークキャンセラは、予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、予め用意された第2円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した前記外部音に対するクロストークキャンセル信号に基づいて求められた関数であることを特徴とする収音切り替え装置。
【請求項2】
密閉された空間の外部に取り付けられた一対のマイクロホンで収音された外部音を受聴者の頭部伝達関数により変換して生成したバイノーラル音と前記密閉された空間の内部に取り付けられた音源から発するステレオ音とを切り替えて出力する収音切り替え方法において、
前記密閉された空間に設けられ、受聴者の頭部形状と略同一の径を有し、かつ第1円筒構造体に前記一対のマイクロホンを装着し、
クロストークキャンセラにより前記バイノーラル音を出力した場合に発生するクロストーク信号を打ち消し、
前記バイノーラル信号を出力した場合に発生するクロトーク信号の処理を予め用意された第2円筒型構造体を用いて求められた前記頭部伝達関数を用いて、一対のマイクロフォンで収音した前記外部音に対するクロストークキャンセル信号を求めて行うことを特徴とする収音切り替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−143008(P2007−143008A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336838(P2005−336838)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】