説明

取付具

【課題】 物流効率を向上させると共に、組立工数を削減する取付具を提供する。
【解決手段】 予め、クリップ1を、被取付部品8から一体的に突設される一対のピン2、2に保持させた状態として、その状態で、被取付部品8を取付面7に当接させて、クリップ1を押し込み、一対の爪部16、16が案内部21の各傾斜面24、24に沿ってスライドして案内部21から離脱し幅狭部22に位置すると、一対の爪部16、16がスタッドボルト5のねじ部6に係止され、被取付部品8が取付面7に取り付けられる。これにより、組立ラインでは、クリップ1を保持した被取付部品8の1部品が搬入されるだけであるので、物流効率が向上されて、組立工数が削減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付面から延びるスタッドボルトに被取付部品を取付ける取付具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被取付部品を取付面にクリップを使用して取り付ける際、従来の取り付け方式では、組立ラインへの搬入が被取付部品とクリップとの2部品となり物流効率が良くなかった。しかも、タクトタイムに制約がある組立ラインにおいて、これら被取付部品及びクリップのそれぞれを取り出す工数が費やされ、組立工数が増加していた。
しかしながら、従来のクリップには、被取付部品に仮保持する仮保持機能がなく、被取付部品への仮保持が不可能であり、従来のクリップを被取付部品に仮保持させるためには、クリップに仮保持用の部品を追加する必要があり、コストアップの要因となる。
【0003】
また、クリップを被取付部品に保持させた従来技術として、特許文献1には、クリップを、ルーフライニングの裏面側にあてがい、クリップの係合片をルーフライニングの止め穴に嵌め込んで穴縁に突張り係止させることでルーフライニングに係止させて、また、ルーフライニングの車内側にグラブレールをあてがい、タッピングスクリューをグラブレールの通し穴に挿通させ、ルーフライニングの止め穴からクリップの軸受けアーム部の間に割り込ませて、クリップの天板部に設けられたねじ止め穴に螺着して、予め、ルーフライニングにグラブレールをクリップで固定しておいて、グラブレールをルーフライニングに固定したクリップの挟持アームを、ボディパネルの止め穴に差込み圧入して、挟持アームがボディパネルの内側で復元することにより、クリップがボディパネルに固定され、車内装ライニング(ルーフライニング)を車装備品(グラブレール)と一括でボディパネルにあてがい固定することが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−342802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、クリップがルーフライニングに保持される際、クリップは、係合片をルーフライニングの止め穴に嵌め込んで穴縁に突張り係止させることによりルーフライニングに係止されているだけであり、タッピングスクリューがグラブレールを介してクリップの天板部のねじ止め穴に螺着される時、タッピングスクリューのねじ部はクリップの軸受けアーム部の間に割り込むように挿通されるため、最初にねじ部の先端が軸受けアーム部の間に割り込むように挿通される際、ねじ部の先端が軸受けアーム部を進入方向に押圧して、係合片をルーフライニングの止め穴から抜脱させる虞がある。さらに、ねじ部は天板部のねじ止め穴に螺着される前に、軸受アーム部に押圧されるため、ねじ山が損傷する虞があり、このクリップではルーフライニングにグラブレールを確実に取り付けることができない虞がある。しかも、特許文献1の発明では、タッピングスクリューが別部品として構成されているため、組み付けの際の部品点数が増加し、物流効率が悪く、組立工数が増加する虞がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、物流効率を向上させると共に、組立工数を削減する取付具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した取付具の発明は、取付面から延びるスタッドに被取付部品を取り付ける取付具であって、該取付具は、前記スタッドの外周面に形成された突条部に係止されるクリップと、該クリップを前記突条部に係止させない非係止状態に保持する保持部材とからなり、前記クリップは、前記スタッドを受け入れる台座部と、該台座部に一端が固定され、前記突条部側に付勢された係止部とを有し、また、前記保持部材は、前記係止部を、前記突条部に係止させない非係止状態に保持すると共に、取付時には、前記係止部を前記突条部に係止させる位置へ案内する案内部を有していることを特徴とするものである。
請求項2に記載した取付具の発明は、請求項1に記載した発明において、前記保持部材は、前記被取付部品に取り付けられることを特徴とするものである。
請求項3に記載した取付具の発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記クリップは、前記台座部の上方に固定され前記突条部側に付勢された一対の前記係止部と、前記台座部の下方に固定され前記係止部を前記突条部側に付勢する押圧部とを有していることを特徴とするものである。
【0008】
従って、請求項1に記載した取付具の発明では、クリップは、保持部材の案内部に突条部に係止しない非係止状態で保持されており、この状態で、台座部にスタッドを受け入れ、クリップを押し込むと、係止部が保持部材の案内部に沿ってスライドして突条部に案内されると共に、係止部が突条部に係止されて、被取付部品が取付面に取り付けられる。
請求項2に記載した取付具の発明では、クリップは被取付部品に保持されるため、組立ラインにおける部品の搬入が被取付部品の1部品となり、物流効率が向上され、組立工数が削減される。
請求項3に記載した取付具の発明では、クリップが所定位置まで押し込まれた際、押し縮められた押圧部による反発力が係止部に付与されて、係止部が強固に突条部に係止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物流効率を向上させると共に、組立工数を削減する取付具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る取付具は、図1に示すように、取付面7から延びるスタッドボルト(スタッド)5のねじ部(突条部)6(図2〜図4参照)に嵌合するクリップ1と、被取付部品8から一体的にスタッドボルト5と同方向に突設されるピン(保持部材)2と、から構成されている。
【0011】
クリップ1は、図1及び図3に示すように、スタッドボルト5又はピン2を両側から挟持するように付勢可能な一対の係止部11、11と、この一対の係止部11、11の下端に固定され、スタッドボルト5が挿通する挿通孔19を有し、被取付部品8に当接する台座部12と、台座部12の両端部から斜め下方に延び、係止部11をねじ部6側に付勢する押圧部13とから構成されている。これら、係止部11、台座部12及び押圧部13は、一枚のバネ鋼板を折り曲げて構成されている。
【0012】
一対の係止部11、11は、図1に示すように、所定間隔を置いて配置される一対の付勢アーム部15、15と、これら一対の付勢アーム部15、15の各下端からそれぞれ延びる一対の弾性アーム部17、17とから構成されている。
一対の付勢アーム部15、15は、初期状態では、図1の実線で示すように、先端に設けた各爪部16、16が互いに近接するように傾斜した形態に形成され、図2に示すように、一対の付勢アーム部15、15の間にピン2等の介在物が挿入されると、一対の付勢アーム部15、15が強制的に開かれた形態に形成される。また、一対の付勢アーム部15、15の上端には、付勢方向に折り曲げられた爪部16、16がそれぞれ形成されている。そこで、一対の付勢アーム部15、15の幅は、一対の爪部16、16及び一対の付勢アーム部15、15が被取付部品8から所定距離離間して突設される一対のピン2、2のそれぞれに当接できる程度の幅に設定されている。
また、一対の弾性アーム部17、17は、一対の付勢アーム部15、15の各下端からそれぞれ下方に湾曲するように延びる湾曲部を有しており、その湾曲部が上下から押し縮められると、上下方向に反発力を付与する形態となる。
台座部12は、図1に示すように、一対の弾性アーム部17、17の各下端が両側に連結され、また、略中央にスタッドボルト5が挿通する挿通孔19が形成されている。
押圧部13は、図1に示すように、台座部12の両側面で、各弾性アーム部17、17の近傍からそれぞれ斜め下方に対向するように延びる小幅の一対の押圧アーム部20、20で構成されている。これら一対の押圧アーム部20、20は、押し縮められると、上下方向に反発力を付与する形態となる。
【0013】
ピン2は、図1に示すように、板状に形成され、被取付部品8に設けたスタッドボルト5が挿通する挿通孔8aの両側にスタッドボルト5が挿通される方向と同方向にそれぞれ突設されている。また、これら一対のピン2、2には、その上部に案内部21が形成され、この案内部21の下方に幅狭部22が一体的に形成されている。
案内部21は、取付面7に対して垂直に延び一対の付勢アーム部15、15がそれぞれ当接される当接面23、23を両側に有する略三角形状に形成され、その底辺の長さ(各当接面23、23の間の距離)は、スタッドボルト5のねじ部6の外径よりも大きく、一対の付勢アーム部15、15をその付勢力に抗して係止させるに十分な長さ、すなわち一対の付勢アーム部15、15をそれぞれ鉛直に立設させた時の各付勢アーム部15、15間の長さに設定されている。そして、各当接部23、23に一対の付勢アーム部15、15の略中間部を当接させると、一対の付勢アーム部15、15は、その付勢力により各当接面23、23に係止されるようになる。
また、案内部21の頂点25から各当接面23、23に向って斜め下方に傾斜する各傾斜面24、24が、一対の爪部16、16を係止させる面として、さらには、一対の爪部16、16をねじ部6に係止させる位置へ案内する案内部として機能している。
このように案内部21は、一対の爪部16、16をねじ部6に係止させない非係止状態で、一対の付勢アーム部15、15を係止させてクリップ1を一対のピン2、2に保持させる機能と、被取付部品8を取付面7に取り付ける時には一対の爪部16、16をスタッドボルト5のねじ部6に係止させる位置へ案内する機能とを備えている。
幅狭部22は、スタッドボルト5のねじ部6径よりも小さく、ねじ溝6’径と略同一の幅に形成されている。
【0014】
また、これら一対のピン2、2の間に位置する挿通孔8aにスタッドボルト5が挿通されると、図3に示すように、スタッドボルト5及び一対のピン2、2が直線状に並び、スタッドボルト5と案内部21及び幅狭部22とが側面視で重なって配置される。そして、案内部21が形成される範囲では、各当接面23、23が形成される部位がスタッドボルト5のねじ部6を覆う状態になり、幅狭部22が形成される範囲では、スタッドボルト5のねじ部6が幅狭部22の両側面から突出した状態となる。すなわち、図3に示すように、一対の付勢アーム部15、15が案内部21に係止されている段階では、一対の爪部16、16がねじ部6に係止されるこはなく、図4に示すように、一対の付勢アーム部15、15が案内部21から離脱して、一対の爪部16、16が幅狭部22の位置に達すると、一対の爪部16、16がねじ部6に係止されるようになる。
【0015】
なお、本発明の実施の形態に係る案内部21は、各当接面23、23と、案内部21の頂点25から各当接面23、23に向って傾斜する各傾斜面24、24とを有する略三角形状に形成されているが、図5に示すように、案内部21を、両側に当接面23、23を有して、上面を湾曲状に形成しても良い。この形態の場合には、湾曲面24が、一対の爪部16、16を係止させる面として、さらには、一対の爪部16、16をねじ部6に係止させる位置へ案内する案内部として機能する。
【0016】
以上のように構成されたクリップを使用して、被取付部品8を取付面7に取り付ける手順を図2〜図4に基いて説明する。
図2に示すように、予め、被取付部品8から一体的に突設された一対のピン2、2により、クリップ1に設けた一対の付勢アーム部15、15を強制的に開かせるように、クリップ1を一対のピン2、2に組み付け、一対の付勢アーム部15、15の略中間部を案内部21の各当接面23、23に当接させると共に略平行に延在させて、各当接面23、23を弾性的に付勢しつつ係止させると共に、一対の爪部16、16を案内部21の各傾斜面24、24に係止させた状態として、クリップ1を一対のピン2、2(被取付部品8)に保持させる。そこで、一対の爪部16、16が各傾斜面24、24に係止される位置において、一対の爪部16、16は、ねじ部6に係止されない程度の距離離間している。
【0017】
次に、被取付部品8にクリップ1を保持させた状態で、図3に示すように、取付面7から突設されたスタッドボルト5を被取付部品8の挿通孔8a及び台座部12の挿通孔19に挿通して、被取付部品8を取付面7に当接させる。この時、前述したように、スタッドボルト5及び一対のピン2、2は直線状に並び、スタッドボルト5と案内部21及び幅狭部22とが側面視で重なって配置される。
次に、図3の状態からクリップ1の一対の弾性アーム部17、17の上面をそれぞれ下方に押し込み(図3の矢印参照)、一対の爪部16、16を、各傾斜面24、24に沿って拡開させながらスライドさせ、各当接面23、23を経て案内部21から離脱させて幅狭部22まで移動させる。すると、図4に示すように、一対の付勢手段15、15は、案内部21に保持された状態が解除されて、互いにスタッドボルト5側に傾斜して、一対の爪部16、16が幅狭部22の両側面と略面一に配置されるスタッドボルト5のねじ溝6’に当接される。また、クリップ1を押し込む際には、一対の押圧アーム部20、20が、取付面7を押圧しながら押し縮められるため、クリップ1が揺動せず、押し込み方向が一定となり確実に所定位置まで押し込むことが可能となる。
【0018】
そして、図4の状態において、一対の弾性アーム部17、17は押し縮められた状態であるため、一対の付勢アーム部15、15に反発力が付与されて、一対の爪部16、16がねじ部6に係止されると共に、台座部12にも反発力が付与されて、被取付部品8が取付面7に押圧され、強固に被取付部品8が取付面7に取り付けられる。また、これと同時に、一対の押圧アーム部20、20が押し縮められ、一対の付勢部材15、15に反発力が付与され、一対の爪部16、16が強固にねじ部6に係止されて、さらに強固に被取付部品8が取付面7に取り付けられる。
【0019】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、予め、被取付部品8から一体的に突設させた一対のピン2、2に、クリップ1を保持させているので、組立ラインにおいては、被取付部品8にクリップ1を保持させた状態で1部品として搬入されるので、従来2部品として搬入されていたのに比べ物流効率が向上されて、組立工数を削減することができる。また、クリップ1は、一対の爪部16、16が各傾斜面24、24に係止されると共に、一対の付勢アーム部15、15がその付勢力により案内部21に係止され、確実に一対のピン2、2に保持されているので、意に反して一対の付勢アーム部15、15が一対のピン2、2から逸脱することはない。さらに、本発明の実施の形態によれば、被取付部品8を取付面7に取り付ける際には、被取付部品8に保持されているクリップ1を所定距離押し込むだけで、一対の爪部16、16がスタッドボルト5のねじ部6に係止されるので、確実に被取付部品8が取付面7に取り付けられると共に、組付作業が簡単となり組付工数をさらに削減することが可能となる。しかも、クリップ1を所定位置まで押し込むと、一対の爪部16、16が案内部21から離脱して、勢いよくスタッドボルト5のねじ溝6’に接触するので、作業者はその接触の際のクリック音やクリック感によりクリップ1が所定位置まで押し込まれたか否かが明瞭となり、未嵌合状態の発生を防止することができる。
【0020】
なお、本発明の実施の形態では、一対の付勢アーム部15、15を、その略中間部を案内部21の各当接面23、23に弾性的に付勢させつつ係止させると共に、一対の爪部16、16を案内部21の各傾斜面24、24に係止させた状態で、一対の付勢アーム部15、15を一対のピン2、2に保持させているが、一対の付勢部材15、15を一対のピン2、2に保持させる別の形態として、一対の爪部16、16を形成せず一対の付勢アーム部15、15の先端を略直線状にして、案内部21により一対の付勢アーム部15、15を拡開させて一対の付勢アーム部15、15の付勢力だけにより、一対の付勢アーム部15、15を案内部21に係止させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るクリップとピンの斜視図である。
【図2】図2は、ピンにクリップが保持された状態を示す断面図である。
【図3】図3は、被取付部品が取付面に当接された状態を示す断面図である。
【図4】図4は、被取付部品が取付面に取り付けられた状態を示す断面図である。
【図5】図5は、ピンの案内部の別の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 クリップ、2 ピン(保持部材)、5 スタッドボルト(スタッド)、6 ねじ部(突条部)、7 取付面、8 被取付部品、11 係止部、12 台座部、13 押圧部、15 付勢アーム部、16 爪部、17 弾性アーム部、20 押圧アーム部、21 案内部、22 幅狭部、23 当接面、24 傾斜面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付面から延びるスタッドに被取付部品を取り付ける取付具であって、
該取付具は、前記スタッドの外周面に形成された突条部に係止されるクリップと、該クリップを前記突条部に係止させない非係止状態に保持する保持部材とからなり、前記クリップは、前記スタッドを受け入れる台座部と、該台座部に一端が固定され、前記突条部側に付勢された係止部とを有し、また、前記保持部材は、前記係止部を、前記突条部に係止させない非係止状態に保持すると共に、取付時には、前記係止部を前記突条部に係止させる位置へ案内する案内部を有していることを特徴とする取付具。
【請求項2】
前記保持部材は、前記被取付部品に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項3】
前記クリップは、前記台座部の上方に固定され前記突条部側に付勢された一対の前記係止部と、前記台座部の下方に固定され前記係止部を前記突条部側に付勢する押圧部とを有していることを特徴とする請求項1または2に記載の取付具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−70974(P2006−70974A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254354(P2004−254354)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000228981)日本スタッドウェルディング株式会社 (31)
【Fターム(参考)】