説明

受信システム

【課題】低雑音で干渉信号の影響を低減した受信を行う。
【解決手段】受信システムは、周波数掃引される局部発振信号を生成する局部発振信号生成部と、入力された無線信号を局部発振信号と乗算することにより該無線信号を周波数変換して出力する第1の周波数変換部と、周波数変換された無線信号を周波数領域の信号に変換し、変換により得られる周波数領域における信号が周波数を遷移する速度と、局部発振信号の周波数を掃引する速度とに基づいて、無線信号に含まれる信号を検出し、検出した信号を分離する信号処理部とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を受信する受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LANなどの無線通信システムの発展に伴い、周波数需要が増大している。特に、数GHz帯の周波数帯においては稠密に周波数が割り当てられており、新たな周波数帯域を確保することが難しい。このため、既に割り当て済みの周波数の中で、「空間的」、「時間的」に使い分けることで、周波数の利用効率を上げることが検討されている。
【0003】
この実現には、利用状況により変化する利用可能な周波数帯域を把握した後に通信として使用する、コグニティブ無線システムや、様々な無線規格に柔軟に対応できるソフトウェア無線技術などが期待されている。求められるセンシング用の無線受信機には、低い受信レベルの信号を高精度に受信でき、他のシステムが存在しないことを検出できることが要求される。
【0004】
従来の無線受信機は低雑音増幅器の前後にバンドパスフィルタを用いて所望帯域外の干渉信号を除去している。マイクロ波帯の無線機のバンドパスフィルタとしてはSAW(SURFACE ACOUSTIC WAVE:表面弾性波)フィルタや境界弾性波フィルタ、誘電体フィルタなどが使われている。SAWフィルタや境界弾性波フィルタは所望帯域外の信号の抑圧量が大きく、小型かつ低コストで量産できるため、近年の携帯電話の内蔵フィルタとして使われている(非特許文献1)。誘電体フィルタは比較的広帯域な無線信号を扱う基地局受信機などで使われている。
【0005】
従来の無線受信機は、1チャンネルのみを受信する携帯端末などでは、回路部品数が少なくて済むダイレクトコンバージョン型受信機が使われている(非特許文献2)。複数チャネルを同時に受信するようなシステムでは、ヘテロダインやスーパーヘテロダイン型受信機が使われる場合がある。ヘテロダインやスーパーヘテロダイン型受信機では、イメージ帯域に干渉信号が存在すると所望信号の電力判定や復調が難しくなるので、イメージ帯の干渉信号を除去するためにSAWフィルタやイメージ抑圧ミキサなどの周波数変換器を用いている(非特許文献3)。
【0006】
しかし、様々な周波数に対応するコグニティブ無線システムやソフトウェア無線機においては、RF帯のバンドパスフィルタを用いることは受信できる周波数帯域が制限されてしまい望ましくない。周波数可変のバンドパスフィルタなども検討されているが、一般的に可変範囲が狭いこと、周波数固定のフィルタに比べて挿入損失が大きくなるという課題がある。特に低雑音増幅器の前に配置するバンドパスフィルタの挿入損失が大きいと受信機の雑音指数が増加し、微弱な信号を受信及び復調できないことがある。
また、バンドパスフィルタを用いない場合、無線受信機の周波数変換器では、局部発振器信号の整数倍の帯域において受信機が感度を持つため、高調波帯の干渉信号が混信するという課題がある。この解決方法として、ヌル点となる周波数を可変にするFIRフィルタを用いる方法などが提案されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】根津禎、「『境界弾性波』を用いたフィルタ 村田製作所が開発」、日経エレクトロニクス、日経BP、2007年5月7日号、pp.12−13
【非特許文献2】吉田、加藤、富澤、大高、鶴見、「ダイレクトコンバージョン及びLow−IF方式を用いたソフトウェア無線機受信系の構成と試作評価」、電子情報通信学会論文誌2001/7 vol.J84−B, no.7,2001.
【非特許文献3】束原恒夫、「CMOS RF回路設計入門−第2回−」、日経エレクトロニクス、日経BP、2008年01月28日号、pp.164−174
【非特許文献4】Rahim Bagheri, Ahmad Mirzaei, Saeed Chehrazi, Mohammad E. Heidari, Minjae Lee, Mohyee Mikhemar, Wai Tang, and Asad A. Abidi, An 800-MHz-6-GHz Software-Defined WirelessReceiver in 90-nm CMOS, IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL. 41, NO. 12, pp. 2860-2876, DECEMBER 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献4に記載された技術を用いる場合、ヌル点となる周波数の可変範囲を広げると回路規模の増大を招いてしまう問題がある。上述のように、広帯域の無線信号を低雑音で高感度な受信を行うには様々な課題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、様々な周波数に対応するコグニティブ無線システムやソフトウェア無線機などにおいて、低雑音で干渉信号の影響を低減した受信を行うことができる受信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明は、周波数掃引される局部発振信号を生成する局部発振信号生成部と、入力された無線信号を前記局部発振信号と乗算することにより該無線信号を周波数変換して出力する周波数変換部と、前記周波数変換された無線信号を周波数領域の信号に変換し、変換により得られる周波数領域における信号の周波数が変化する速度と、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度とに基づいて、前記無線信号に含まれる信号を検出し、検出した信号を分離する信号処理部とを具備することを特徴とする受信システムである。
【0011】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記周波数領域における信号ごとに、該信号の周波数と、該信号が周波数を遷移する速度と、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度とから、該信号に対する前記無線信号の周波数を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、更に、前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を増加させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が増加する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の下側波帯の信号であると判定し、前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を増加させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が減少する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の上側波帯の信号であると判定し、前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を減少させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が減少する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の下側波帯の信号であると判定し、前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を減少させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が増加する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の上側波帯の信号であると判定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、更に、前記周波数領域における信号のうち、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度に対して整数倍の速度で周波数が変化する信号が複数存在し、該信号の周波数が同じ時刻に0[Hz]になる場合、該信号を自システム内部で生じた高調波であると判定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、自システム内部で高調波が生じていると判定した場合、前記周波数変換部における利得を低下させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記局部発振信号が掃引される周波数帯のうち位相雑音が少ない周波数帯における局部発振信号を乗算して周波数変換された信号を用いて、前記無線信号に含まれる信号を検出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、更に、前記局部発振信号の周波数と、前記無線信号の搬送波の初期位相を示す情報とを用いて、前記検出した信号を復調することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記無線信号における周波数帯ごとに対する、使用用途、無線電力規格、無線変調方式及び該使用用途において用いられる位置を示す周波数情報を用いて、前記無線信号に含まれる信号を検出することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記無線信号において信号を検出する対象の周波数帯に含まれる所望信号と、該対象の周波数帯以外に含まれる信号及び該所望信号のイメージ帯の信号である干渉信号とを検出し、前記周波数変換部において周波数変換された前記干渉信号の周波数と、前記所望信号の周波数とが一致しない前記局部発振信号の周波数帯を前記局部発振信号の周波数を掃引する周波数帯に選択し、選択周波数帯において前記局部発振信号を掃引させる制御を前記局部発振信号生成部に対して行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記検出した信号の周波数の変化速度に応じた速度で周波数が掃引される周波数変換用信号を生成し、前記周波数変換用信号と前記周波数変換された無線信号とを乗算し、乗算により得られた信号に基づいて前記無線信号に含まれる信号を検出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記局部発振信号の周波数の変化速度に応じた速度で周波数が掃引される周波数変換用信号を生成する周波数変換用信号生成部と、前記周波数変換用信号と前記周波数変換された無線信号とを乗算し、乗算により得られた信号を出力する第2の周波数変換部とを更に備え、前記信号処理部は、前記第2の周波数変換部が出力する信号に基づいて前記無線信号に含まれる信号を検出することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記第2の周波数変換部は、アナログ信号に対して乗算を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記信号処理部は、前記検出した信号に基づいて、前記局部発振信号の周波数を変化させる速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、局部発振信号の周波数を掃引する速度と、無線信号を周波数変換して得られる信号の周波数が変化する速度とから、所定の無線信号に含まれる信号を検出することができる。このとき、検出した信号に対する無線信号における周波数は、局部発振信号の周波数及び周波数を掃引する速度、及び無線信号を周波数変換して得られる信号の周波数が変化する速度から算出することができるので、無線信号において所定の周波数範囲に信号が存在するか否かの判定を行うことができる。
このように、無線信号に対してフィルタ処理を行うことなく、所定の周波数範囲に信号が存在するか否かの判定を行うことができるので、フィルタ処理における損失や雑音指数の増加を生じさせることなく、低雑音な受信処理を行うことができる。また、検出した信号が所定の周波数範囲の信号であるか、所定の周波数範囲以外の干渉信号であるかを判定できるので、無線信号から干渉信号を検出、及び分離して、干渉信号の影響を低減した受信処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態における受信機100の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】同実施形態における信号処理部170の構成例を示す概略ブロック図である。
【図3】本実施形態における無線周波数帯の信号、局部発振信号、及びIF帯の信号の一例を示す図である。
【図4】本実施形態における無線周波数帯の信号、局部発振信号、及びIF帯の信号の他の例を示す図である。
【図5】本実施形態における信号処理部170が行う所望信号及び干渉信号を検出する判定処理のフローチャートである。
【図6】受信機100において生じる不要波の例を示す図である。
【図7】本実施形態における高調波検出方法の概要を示す図である。
【図8】高調波が所望信号に対して影響を与える場合を示す概略図である。
【図9】受信機100に対する変形例としての受信システム200の構成を示す概略ブロック図である。
【図10】局部発振信号及びその高調波の掃引速度(傾き)の一例を示す図である。
【図11】信号処理部170の構成の第1の変形例を示す概略ブロック図である。
【図12】検出した所望信号を周波数変換用信号として時系列データのデジタル信号とを乗算した場合のIF信号の周波数変化を示すグラフである。
【図13】信号処理部170の構成の第2の変形例を示す概略ブロック図である。
【図14】受信機100の変形例の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態における受信機(受信システム)の概要について説明する。以下の実施形態における受信機は、無線周波数帯域を中間周波数(Intermediate Frequency;IF)帯(又はベースバンド周波数帯)の信号へ周波数変換する。このとき、ある掃引速度(周波数変化速度)の局部発振信号を用いて、IF帯の信号へ周波数変換する。IF帯の信号は、掃引速度(周波数変化速度)の相違に基づいて、所望信号とイメージ波帯及び高調波帯の干渉信号とに分離され、所望信号が取り出される。ここで、掃引とは、周波数変換に用いる局部発振信号の周波数を、予め定められたステップで、ある周波数から異なる周波数に変化させることである。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における受信機100の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信システムとしての受信機100は、広帯域LNA(Low Noise Amplifier;低雑音増幅器)110と、局部発振信号生成部120、周波数変換部130、周波数帯域制限部140と、利得調整部150と、アナログ−デジタル変換部(ADC)160と、信号処理部170とを備えている。
【0027】
広帯域LNA110は、アンテナを介して受信したRF(Radio Frequency;無線周波数)信号を増幅し、増幅したRF信号を周波数変換部130に出力する。
局部発振信号生成部120は、ある周波数の局部発振信号(LO)を生成する局部発振器121を有している。局部発振信号生成部120は、局部発振器121が生成する局部発振信号を周波数変換部130に出力する。局部発振器121は、発振周波数を予め定められた一定の速度で掃引して使うことができる。局部発振信号LOにおける掃引速度をVosc1とする。
【0028】
周波数変換部130は、無線周波数帯のRF信号を、IF帯の信号に周波数変換する。周波数変換部130には、局部発振信号と、RF信号とが入力される。周波数変換部130は局部発振信号とRF信号とを乗算し、乗算によりIF帯に変換された信号を周波数帯域制限部140に出力する。
【0029】
周波数帯域制限部140は、周波数変換部130から出力される信号に含まれるIF帯の信号を通過させ、IF帯以外の信号を減衰させて利得調整部150に出力する。
利得調整部150は、周波数帯域制限部140から出力されるIF帯の信号に対して、利得調整を行う。利得調整部150は、周波数変換部130や周波数帯域制限部140における信号処理で減衰した信号のレベルを、予め定められた電力レベルになるよう増幅し、増幅した信号をアナログ−デジタル変換部160に出力する。
【0030】
アナログ−デジタル変換部160は、予め定められたサンプリング周波数で、利得調整部150が出力する信号に対してサンプリングを行い、アナログ信号の強度に応じたデジタル信号に変換し、時系列データのデジタル信号を生成する。また、アナログ−デジタル変換部160は、生成した時系列データのデジタル信号を信号処理部170に出力する。
【0031】
信号処理部170には、アナログ−デジタル変換部160においてデジタル化された信号が入力される。信号処理部170は、入力された信号に対してフーリエ変換を行い、IF帯信号の周波数情報を算出する。周波数情報には、各周波数ごとの電力情報や、位相情報などが含まれる。
また、信号処理部170は、IF帯信号の周波数情報における時間方向の変化を測定することにより、どのRF周波数に信号が存在するかを検出する。このとき、信号処理部170は、局部発振信号LOの周波数変化速度(掃引速度)と周波数情報とに基づいて、入力されたデジタル信号に含まれる所望信号や干渉信号などの受信信号の分離及び検出を行う。
【0032】
図2は、本実施形態における信号処理部170の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、信号処理部170は、フーリエ変換部171、判定部172、フィルタ部173、同期部174、復調部175、及び復号/誤り訂正部176を有している。
【0033】
フーリエ変換部171は、アナログ−デジタル変換部160から入力される時系列データのデジタル信号に対してフーリエ変換をして時間領域の信号に変換する。判定部172は、フーリエ変換された信号と、局部発振信号LOの周波数変化速度に基づいて、IF帯信号において予め定めた閾値電力P0以上の電力を有する周波数成分に対応する信号のRF帯における周波数を算出し、自装置が受信したRF信号においてセンシング対象としている周波数帯に所望信号が存在するか否かを判定する。また、判定部172は、IF帯信号において閾値電力P0以上の電力を有する周波数成分に対応する信号のRF帯における周波数、電力、及び位相を検出し、検出結果を周波数情報として出力する。
フィルタ部173は、判定部172が出力する周波数情報に基づいて、時系列データのデジタル信号から所望信号を抽出する。同期部174は抽出された所望信号に対して同期をとる。復調部175は同期された信号を復調する。復号/誤り訂正部176は復調された信号に対して復号及び誤り訂正をして受信データを再生する。
【0034】
なお、デジタル化された時系列データのデジタル信号から周波数情報の時間方向の変化を測定する為の信号変換方法は、フーリエ変換以外にも短時間フーリエ変換やウェーブレット変換、またウィグナー分布解析等を行う時間周波数変換方法を利用してもよい。また検出する値は相関値などの大きさでも良く、信号の電力レベルに限らない。
【0035】
図3は、本実施形態における無線周波数帯の信号、局部発振信号、及びIF帯の信号の一例を示す図である。ここでは、局部発振信号生成部120が周波数Fを有する局部発振信号LOを生成する場合について説明する。局部発振信号の掃引速度をVosc1とし、無線周波数帯に所望信号(RF)と、干渉信号(RF及びRF)があるものとする。
図3(a)に示すように、局部発振器121が局部発振信号LOを掃引速度Vosc1で掃引すると、局部発振信号LO、局部発振信号LOの2逓倍波及びN逓倍波によりIF帯に周波数変換された信号(IF、IF及びIF)は、時間の経過に応じて、IF帯における周波数が遷移する。
このとき、所望信号であるIFの周波数の単位時間当たりの遷移量は、局部発振信号LOの掃引速度Vosc1と等しい。一方、干渉信号であるIF及びIFの周波数は、局部発振信号Vosc1の2倍及びM倍の速度で変化する。この遷移速度を基に所望信号IFと、干渉信号IF及びIFとを分離することができる。また、ある時刻における局部発振信号の周波数に、同時刻に検出されたIF帯の信号の周波数差を加算することにより、信号処理部170が有する判定部172は検出された信号が存在した無線周波数を判定することができる。
【0036】
図3(b)は、図3(a)に示した掃引をした際のIF帯の信号の周波数変化を示す波形図である。同図において横軸は時間を示し、縦軸はIF帯に周波数変換した後の信号が検出された周波数を示している。同図に示すように、局部発振信号の掃引速度が、IF帯に変換された信号の周波数変化速度(傾き)として現れる。すなわち、所望信号や干渉信号などの受信信号がそれぞれの周波数帯域における線スペクトラムと仮定したとき、局部発振信号を掃引しながら周波数変換を行うことによって、線スペクトラムが時間軸上で周波数を遷移しながら観測されることになる。このとき、観測される線スペクトラムの単位時間あたりの周波数の遷移量が、局部発振信号の掃引速度と等しくなることから、当該線スペクトラムがどの周波数帯に存在するかを検出することができる。また、ある時刻のLO信号の発振周波数にそのときに観測された信号の周波数差を加算することにより、所望信号及び干渉信号の存在する周波数を判定できる。
【0037】
図4は、本実施形態における無線周波数帯の信号、局部発振信号、及びIF帯の信号の他の例を示す図である。ここでも、局部発振信号生成部120が周波数Fを有する局部発振信号LOを生成する場合について説明する。局部発振信号の掃引速度をVosc1とし、無線周波数帯に信号(RF及びRF)があるものとする。RFは所望信号であり局部発振信号LOの上側波帯に位置する。RFはイメージ帯の干渉信号であり、LOの下側波帯に位置する。
図4(a)に示すように、局部発振器121が局部発振信号LOを掃引速度Vosc1で掃引すると、局部発振信号LOによりIF帯に周波数変換された信号(IF及びIF)は、時間の経過に応じて、IF帯における周波数が遷移する。
【0038】
図4(b)は、図4(a)に示した掃引をした際のIF帯の信号の周波数変化を示す波形図である。同図において横軸は時間を示し、縦軸はIF帯に周波数変換した後の信号が検出された周波数を示している。同図に示すように、局部発振信号の掃引速度が、IF帯に変換された信号の周波数変化速度(傾き)として現れる。
所望信号IFの周波数の単位時間当たりの遷移量は、−Vosc1と等しい。一方、干渉信号IFは、局部発振信号Vosc1の速度で変化する。つまり、遷移速度が正負逆となる。判定部172は、この遷移速度の増減の違いを元に所望信号IFとイメージ帯の干渉信号IFを分離することができる。
【0039】
図5は、本実施形態における信号処理部170が行う所望信号及び干渉信号を検出する判定処理のフローチャートである。ここでは、局部発振信号生成部120が有する局部発振器121は、周波数が増加する方向に掃引を行う場合について説明する。
信号処理部170には、アナログ−デジタル変換部160からデジタル信号に変換された時系列データのデジタル信号と、局部発振信号の周波数及び掃引速度とが入力され、判定部172がIF帯における周波数ごとの電力情報、位相情報を検出する(ステップS101)。なお、周波数ごとの電力情報、位相情報に替えて、閾値を超える電力が検出された周波数を検出するようにしてもよい。
判定部172は、フーリエ変換された信号において、受信電力を測定し、測定した受信電力が予め定められた閾値電力P0以上の信号があるか否かを判定する(ステップS102)。判定部172は、受信電力が閾値電力P0以上の信号がない場合(ステップS102:NO)、受信信号を検出する処理を終了する。
【0040】
一方、判定部172は、受信電力が閾値電力P0以上の信号がある場合(ステップS102:YES)、当該信号の周波数変化速度がVosc1であるか否かの判定を行い(ステップS103)、周波数変化速度がVosc1である場合(ステップS103:YES)、局部発振信号LOで周波数変換した下側波帯(Low Side Band;LSB)成分と判定し(ステップS104)、受信信号を検出する処理を終了する。
判定部172は、信号の周波数変化速度がVosc1でない場合(ステップS103:NO)、処理をステップS105に進める。
【0041】
判定部172は、閾値電力P0以上の信号の周波数変化速度が−Vosc1であるか否かを判定し(ステップS105)、周波数変化速度が−Vosc1である場合(ステップS105:YES)、局部発振信号LOで周波数変換した上側波帯(Upper Side Band;USB)成分と判定し(ステップS106)、受信信号を検出する処理を終了する。
一方、判定部172は、閾値電力P0以上の信号の周波数変化速度が−Vosc1でない場合(ステップS105:NO)、処理をステップS107に進める。
【0042】
判定部172は、閾値電力P0以上の信号の周波数変化速度がN×Vosc1であるか否かを判定し(ステップS107)、周波数変化速度がN×Vosc1である場合(ステップS107:YES)、局部発振信号LO1のN倍波で周波数変換したLSB成分と判定し(ステップS108)、受信信号を検出する処理を終了する。
一方、判定部172は、信号の周波数変化速度がN×Vosc1でない場合(ステップS107:NO)、処理をステップS109に進める。
【0043】
判定部172は、閾値電力P0以上の信号の周波数変化速度が−N×Vosc1であるか否かを判定し(ステップS109)、周波数変化速度が−N×Vosc1である場合(ステップS109:YES)、当該信号を局部発振信号LO1のN倍波で周波数変換したUSB成分と判定し(ステップS110)、受信信号を検出する処理を終了する。
一方、判定部172は、信号の周波数変化速度が−N×Vosc1でない場合(ステップS109:NO)、受信信号を検出する処理を終了する。
【0044】
上述のように、判定部172は、アナログ−デジタル変換部160から入力されるIF帯のデジタル信号において、電力が閾値電力P0以上の信号の周波数変化速度と、局部発振信号LO、2×LO1、…、N×LO1の周波数変化速度(掃引速度)とを比較する。これにより、閾値電力P0以上の電力を有する信号が、無線周波数帯におけるどの周波数の信号であるか、及び、LSB成分又はUSB成分であるかを検出することができる。
このように、周波数変化速度(掃引速度)に基づいて、局部発振信号の基本波で周波数変換されたものか、その高調波で周波数変換されたものかを特定することができる。
【0045】
図6は、受信機100において生じる不要波の例を示す図である。受信機100の内部では、広帯域LNA110や周波数変換部130、利得調整部150などにおいて、所望信号の高調波(不要波)が生じる場合がある。この高調波は、所望信号の電力が大きい場合、電力が大きくなる。
例えば、図6に示すように、周波数fの所望信号が得られた際に、広帯域LNA110や周波数変換部130において、周波数fに対して2倍の周波数2fの高調波や、所望信号を変換したIF帯の信号の周波数fIF1に対して2倍の周波数2fIF1の高調波が生じることがある。
受信機100内部において、高調波が生じているか否かを判定する高調波検出方法について説明する。図7は、本実施形態における高調波検出方法の概要を示す図である。同図に示すように、IF周波数が0[Hz]となる点において、検出された各信号の周波数変化(傾きがVosc1、2×Vosc1、3×Vosc1)を示すグラフが交わる場合、検出された各信号は受信機100内部において生じた高調波と判定することができる。換言すると、局部発振信号の周波数掃引を行っている際に、同じ時刻(タイミング)でIF周波数が0[Hz]となる信号は、受信機100内部において生じた高調波と判定することができる。
【0046】
所望信号の受信電力が大きく、受信機100において所望信号の高調波が生じる場合は、受信機100内の回路(例えば、広帯域LNA110、周波数変換部130、又は利得調整部150など)の利得調整を行うことで、高調波の発生を抑制することができる。具体的には、信号処理部170は、所望信号の高調波が生じていることを検出すると、広帯域LNA110、周波数変換部130、又は利得調整部150における利得を低下させて、高調波の発生を抑制する。
【0047】
しかし、干渉信号の受信電力が大きい場合、受信機100内の回路の利得を下げると、所望信号の受信電力が微弱なとき、所望信号を復調できなくなる恐れがある。
図8は、高調波が所望信号に対して影響を与える場合を示す概略図である。同図に示すように、干渉信号の高調波のIF帯における周波数を示すグラフと、所望信号のIF帯における周波数を示すグラフとが交わる場合、干渉信号の高調波が所望信号に干渉を与えてしまう。この場合、局部発振器121が出力する局部発振信号の周波数を、干渉信号の高調波のIF帯における周波数と、所望信号のIF帯における周波数とが重ならない周波数に変更することにより、受信機100内の回路の利得調整を行わずに干渉信号の影響を低減することができる。また、干渉信号の電力レベルに対して所望信号の電力レベルが微弱である場合には、IF帯において所望信号が干渉信号から受ける影響を低減させることができるので、電力レベルが微弱な所望信号を検出する精度をより向上させることができる。
具体的には、信号処理部170において、所望信号及び干渉信号それぞれのIF帯における周波数が重なると判定された場合、信号処理部170は、所望信号及び干渉信号それぞれのIF帯における周波数が重ならない周波数を局部発振信号LOの周波数にさせる制御を局部発振信号生成部120に対して行う。
【0048】
一般に、広帯域な受信機では複数の無線信号を入力するため、広帯域LNA、周波数変換部、利得調整部などが電力飽和に近づき、高調波や相互変調歪みなどが受信機内で生じる場合がある。所望信号の信号電力が飽和に近づくと、振幅情報及び位相情報の誤差が大きくなり復調が難しくなる。また、干渉信号の電力が飽和に近づくと、その高調波や相互変調歪みが干渉成分となる。
これに対して、本実施形態における受信機100は、大きな電力の干渉信号(イメージ信号や高調波帯の無線信号)を検出した場合、広帯域LNA110、周波数変換部130、又は利得調整部150の利得調整を行うことで、受信機内で生じる高調波を抑制することができる。
【0049】
上述のように、本実施形態における受信機100は、所望信号と当該所望信号のイメージ信号とを検出及び分離することができ、かつ局部発振信号LOの高調波で周波数変換された干渉信号と所望信号とを検出及び分離することができる。このように、受信機100は、RF帯の信号に対してバンドパスフィルタやFIRフィルタを使用せずとも所望信号の検出を行うことができるので、無線周波数帯における所望信号の検出精度を向上させることができる。また、受信機100は、バンドパスフィルタやFIRフィルタを使用しないため、雑音指数を低減させることができ、微弱な所望信号も復調することができる。
なお、受信機100では、RF帯のバンドパスフィルタの帯域外抑圧量が小さくてもよいため、広帯域で低損失なフィルタを用いて干渉信号を抑圧するようにしてもよい。
【0050】
なお、図5に示した判定処理において、閾値電力P0を用いて判定対象となる信号の存在を検出する周波数帯域を、ある特定の周波数帯域に限定するようにしてもよい。この場合、例えば、局部発振器121から出力される局部発振信号LOの位相雑音が所定のレベルより低いIF帯域を、判定対象となる信号を検出する周波数帯域に選択するようにしてもよい。位相雑音に対する所定のレベルは、受信機100に要求される受信性能などに応じて予め定められる。
また、アナログ−デジタル変換の後にデジタルフィルタを用いる場合、デジタルフィルタの通過帯域を低い周波数に選択することにより無線信号を検出する精度を改善することができるため、局部発振信号LOの位相雑音と、デジタルフィルタの通過帯域とをIF帯を選択する際の条件として用い、信号処理部170において信号を検出する周波数帯を選択するようにしてもよい。
また、受信機100内のスプリアスや、外部からの干渉信号の影響が少ない周波数帯を予め測定し、当該周波数帯を信号処理部170において信号を検出する周波数帯に選択することで、信号を検出する精度の向上に効果的である。
【0051】
また、信号処理部170は、アナログ−デジタル変換部160から入力されるデジタル信号に対して、周波数及び電力の判定を行うだけでなく、復調を行うようにしてもよい。特に、周波数変調方式や振幅変調方式を用いて変調された信号であれば、容易に復調することができる。また、局部発振器121が出力する局部発振信号LOの位相を制御することが出る場合、局部発振信号LOの周波数だけでなく、RF信号の搬送波の初期位相を示す位相情報を用いて、搬送波の位相と局部発振信号LOの位相とを同期させることにより、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying;四位相偏移変調)などの位相変調信号を受信する場合でも信号を復調することができる。この場合、信号処理部170は、閾値電力P0以上の信号を検出すると、当該信号に対する無線周波数帯における周波数を算出し、算出した周波数における初期位相を示す位相情報を用いて復調するようにする。なお、位相情報は信号を検出する無線周波数帯に応じて、信号処理部170に予め記憶させておくようにしてもよい。
【0052】
また、信号処理部170は、無線周波数帯ごとに、使用用途や、無線電力規格、無線変調方式、当該使用用途において用いられる位置などを示す周波数利用情報を記憶するデータベースを有するようにしてもよい。このとき、信号処理部170は、図5に示した判定処理において周波数利用情報を用いてもよい。これにより、信号処理部170は、各無線周波数帯におけるRF信号の検出精度を向上させることができる。また、信号処理部170は、周波数利用情報が示す変調方式に対応する復調を行うことにより、アナログ−デジタル変換部160から入力されるデジタル信号を復調するようにしてもよい。なお、信号処理部170は、周波数利用情報を記憶するデータベースを有するサーバ装置に問い合わせて周波数利用情報を取得するようにしてもよい。
【0053】
また、上述の実施形態では、受信機100が一つの装置である構成について説明したが、これに限ることなく、複数の装置を具備する受信システムとしてもよい。
図9は、受信機100に対する変形例としての受信システム200の構成を示す概略ブロック図である。受信システム200において、図1に示した受信機100と同じ構成には同じ符号を付して、その説明を省略する。受信システム200は、受信装置210と、信号処理装置270と、受信装置210と信号処理装置270とを接続するネットワーク回線280とを具備している。受信システム200は、受信装置210と信号処理装置270との2つの装置を具備している。
受信装置210は、広帯域LNA110、局部発振信号生成部120、周波数変換部130、周波数帯域制限部140、利得調整部150、及びアナログ−デジタル変換部160を備えている。アナログ−デジタル変換部160の出力は、ネットワーク回線280を介して、受信装置210と異なる位置に設けられた信号処理装置270に伝送される。信号処理装置270は、信号処理部170と同様に、入力された信号に対してフーリエ変換を行い、IF帯信号の周波数情報を算出する。また、信号処理装置270は、IF帯信号の周波数情報における時間方向の変化を測定することにより、どのRF周波数に信号が存在するかを検出する。このとき、信号処理装置270は、局部発振信号LOの周波数変化速度(掃引速度)と周波数情報とに基づいて、受信信号の分離及び検出を行う。
信号処理装置270が行う受信信号の分離及び検出をより高速に行うには、演算能力の高い演算装置を用いて行うことが望ましい。これに対して、受信システム200ではネットワーク回線280を介して、受信装置210と異なる位置に設けられた高性能なワークステーション等を信号処理装置270として使用することができる。また、複数の受信装置210を異なる位置に配置し、信号処理装置270を各受信装置210とネットワーク回線280を介して接続する構成は、電波の利用状況などのモニタリング結果を共有するための共通データベースの構築に好適である。
なお、受信装置210から信号処理装置270に伝送する信号は、アナログ−デジタル変換部160でデジタル信号に変換する前のアナログ信号でもよい。また、受信装置210から信号処理装置270に伝送する際には、アナログ信号伝送方式とデジタル信号伝送方式とのうちいずれの方式を選択してもよい。
【0054】
また、上述の実施形態において、受信機100内部で生じた不要波の影響を低減する場合と同様に、受信信号に含まれる干渉信号の影響を低減するようにしてもよい。図10は、局部発振信号及びその高調波の掃引速度(傾き)の一例を示す図である。同図において、横軸は時間を示し、縦軸はIF帯に周波数変換した後の信号が検出された周波数を示している。所望信号の周波数変化を示すグラフと、干渉信号の周波数変化を示すグラフとが重なる領域では、受信電力の判定や復調を行う際の誤差が大きくなる。信号処理部170は、干渉信号の存在を検出した後に、当該干渉信号の影響を受ける領域が所望信号に対して生じないように、局部発振信号LOの周波数を選択するようにしてもよい。これにより、受信電力の判定や復調の精度を高めることができる。
【0055】
また、上述の実施形態の信号処理部170は、検出した所望信号の周波数変化パターンに基づいて、周波数が変化するデジタル信号を周波数変換用信号として生成し、生成した周波数変換用信号と記録しておいた時系列データのデジタル信号とを乗算するようにしてもよい。具体的には、検出した所望信号の周波数の変化する速度がV1の場合に、掃引速度がV1の信号を周波数変換用信号として生成し、記録しておいた時系列データのデジタル信号と、生成した周波数変換用信号とを乗算する。この場合、所望信号の周波数と、周波数変換用信号の周波数とは一定となるので、周波数変換用信号が乗算されたデジタル信号において、所望信号の周波数は一定となる。一方、干渉信号の周波数は、周波数変換用信号を乗算した後においても局部発振信号の掃引速度と周波数変換用信号の掃引速度とに応じて変化する。
このように、周波数変換用信号を乗算することにより、干渉信号の中心周波数は新たな変化速度で変化し、所望信号の変化速度は0となり、中心周波数が一定となる。中心周波数が一定にされた所望信号を含むデジタル信号に対して、所望信号の帯域以外の帯域を制限するデジタルフィルタを用いて帯域制限をすることで、干渉信号を分離、除去する精度を向上させることができる。
この場合、信号処理部170を図11に示すような構成にしてもよい。図11は、信号処理部170の構成の変形例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、図2に示した信号処理部170の構成に、周波数変換部277を新たに設けた構成となっている。周波数変換部277は、判定部172において検出された所望信号の周波数が変化する速度に基づいて、周波数変換用信号を生成する。また、周波数変換部277は、アナログ−デジタル変換部160から入力された時系列データのデジタル信号に対して、生成した周波数変換用の信号を乗算し、乗算により得られた信号をフィルタ部173に出力する。フィルタ部173では、時系列データのデジタル信号に替えて、周波数変換部277から入力される信号から所望信号を抽出する。
【0056】
また、上述の実施形態の信号処理部170において、検出した所望信号を周波数変換用信号とし、当該周波数変換用信号と時系列データのデジタル信号とを乗算するようにしてもよい。図12は、検出した所望信号を周波数変換用信号として時系列データのデジタル信号とを乗算した場合のIF信号の周波数変化を示すグラフである。図12(a)は周波数変換用信号を乗算する前における局部発振信号及びその高調波の掃引速度(傾き)を示す図である。図12(b)は周波数変換用信号を乗算した後における局部発振信号及びその高調波の掃引速度(傾き)を示す図である。所望信号の周波数と、周波数変換用信号の周波数との差は常に一定なので、アナログ−デジタル変換部160から入力される時系列データのデジタル信号に対して周波数変換用信号を乗算することにより、変換後のデジタル信号における所望信号の周波数を同図に示すように一定にすることができる。また、所望信号の周波数を一定にすることで受信信号処理に必要な各種信号処理を一般的な処理方法を以て実施することができる。
この場合、信号処理部170を図13に示すような構成にしてもよい。図13は、信号処理部170の構成の変形例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、図2に示した信号処理部170の構成に、周波数変換部377を新たに設けた構成となっている。周波数変換部377は、アナログ−デジタル変換部160から入力された時系列データのデジタル信号をフーリエ変換部171に出力する。また、周波数変換部377は、判定部172において検出された所望信号を周波数変換用信号として、記録しておいた時系列データのデジタル信号に乗算し、乗算結果をフィルタ部173に出力する。フィルタ部173は、時系列データのデジタル信号に替えて、周波数変換部377から入力される信号から所望信号を抽出する。
【0057】
また、上述の図13に示した信号処理部170の変形例において、検出した所望信号の周波数変化パターンに基づいて周波数変換用信号を生成し、周波数変換部377が当該周波数変換用信号を時系列データのデジタル信号に乗算するようにしてもよい。なお、周波数変化パターンには、周波数ホッピング受信機のように、周波数変換に用いる局部発振信号の変化が連続的でなく、離散的に変化する場合も含まれる。この場合においても、図12(b)に示したように所望信号の周波数を一定にすることができる。これにより、フーリエ変換後の所望信号の周波数成分を強調することができ、信号検出性能を向上させることができる。なお、検出した所望信号の周波数変化パターンは局部発振信号の周波数変化パターンと相関を有しているので、局部発振信号の周波数変化パターンに基づいて周波数変換用信号を生成してもよい。
また、検出した所望信号の周波数変化パターンと同一パターンの周波数変換用信号を用いた周波数変換は、例えば図14に示すように、デジタル信号に変換する前に行うようにしてもよい。図14は受信機100の変形例の構成を示す概略ブロック図である。受信機300は、受信機100の構成に加えて、周波数変換用信号生成部320と周波数変換部330と周波数帯域制限部340とを備えている。周波数変換用信号生成部320は、局部発振信号LO1により中間周波数へ周波数変換された所望信号の周波数変化パターンと同一パターンで周波数が変化する局部発振信号LOを生成する。周波数変換部330は、周波数帯域制限部140が出力する信号と、局発振信号LOとを乗算し、周波数帯域制限部140が出力する信号の周波数を変換する。周波数帯域制限部340は、周波数変換部330により周波数変換された信号のうち、センシング対象の周波数帯に対応する信号を通過させ、当該周波数帯以外の信号を減衰させて利得調整部150に出力する。このように、アナログ信号に対して周波数変換を行い、信号処理部170において所望信号の周波数を一定にさせるようにしてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、無線周波数帯のRF信号をIF帯の信号に変換する構成について説明したが、これに限ることなく、無線周波数帯のRF信号をベースバンド帯の信号に変換するようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、掃引速度を予め定めた一定の速度とした構成について説明したが、これに限ることなく、時刻の経過とともに掃引速度を変化させるようにしてもよい。掃引速度の変化のさせ方として、例えば周波数ホッピングのように周波数を離散的に変化させてもよい。
更に、信号処理部170が、判定結果又は信号の復調結果に基づいて掃引速度を制御するフィードバック制御をするようにしてもよい。例えば、信号処理部170においてFFT後の所望信号に対応する周波数スペクトルが予め定めた周波数幅以上に広がってしまう場合に、局部発振信号LOの掃引速度を減速させてもよい。また、信号処理部170においてFFT後の所望信号に対応する周波数スペクトルの電力レベルが予め定めた電力以下になる場合に、局部発振信号LOの掃引速度を減速させてもよい。また、信号処理部170において所望信号を復調、復号した際の符号誤り率が所定値以上の場合に、局部発振信号LOの掃引速度を減速させてもよい。信号処理部170が検出した所望信号に基づいて局部発振信号LOの掃引速度を減速させる制御を行うことにより、所望信号の周波数スペクトルの広がりを抑えることができ、所望信号を検出する精度を向上させることができる。
【0059】
なお、本発明における受信機及び受信システムの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより所望信号の有無を判定する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0060】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0061】
100,300…受信機(受信システム)
110…広帯域LNA
120…局部発振信号生成部
121…局部発振器
130…周波数変換部(第1の周波数変換部)
140,340…周波数帯域制限部
150…利得調整部
160…アナログ−デジタル変換部
170…信号処理部
171…フーリエ変換部
172…判定部
173…フィルタ部
174…同期部
175…復調部
176…復号/誤り訂正部
200…受信システム
210…受信装置
270…信号処理装置
277,377…周波数変換部
280…ネットワーク回線
320…周波数変換用信号生成部
330…周波数変換部(第2の周波数変換部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引される局部発振信号を生成する局部発振信号生成部と、
入力された無線信号を前記局部発振信号と乗算することにより該無線信号を周波数変換して出力する第1の周波数変換部と、
前記周波数変換された無線信号を周波数領域の信号に変換し、変換により得られる周波数領域における信号の周波数が変化する速度と、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度とに基づいて、前記無線信号に含まれる信号を検出し、検出した信号を分離する信号処理部と
を具備することを特徴とする受信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記周波数領域における信号ごとに、該信号の周波数と、該信号が周波数を遷移する速度と、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度とから、該信号に対する前記無線信号の周波数を算出する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、更に、
前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を増加させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が増加する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の下側波帯の信号であると判定し、
前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を増加させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が減少する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の上側波帯の信号であると判定し、
前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を減少させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が減少する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の下側波帯の信号であると判定し、
前記局部発振信号生成部が前記局部発振信号の周波数を減少させる掃引をした際に、前記周波数領域における信号の周波数が増加する場合、前記検出した信号に対する前記無線信号が前記局部発振信号の上側波帯の信号であると判定する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、更に、
前記周波数領域における信号のうち、前記局部発振信号の周波数を掃引する速度に対して整数倍の速度で周波数が変化する信号が複数存在し、該信号の周波数が同じ時刻に0[Hz]になる場合、該信号を自システム内部で生じた高調波であると判定する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項5】
請求項4に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
自システム内部で高調波が生じていると判定した場合、前記第1の周波数変換部における利得を低下させる
ことを特徴とする受信システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記局部発振信号が掃引される周波数帯のうち位相雑音が少ない周波数帯における局部発振信号を乗算して周波数変換された信号を用いて、前記無線信号に含まれる信号を検出する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、更に、
前記局部発振信号の周波数と、前記無線信号の搬送波の初期位相を示す情報とを用いて、前記検出した信号を復調する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記無線信号における周波数帯ごとに対する、使用用途、無線電力規格、無線変調方式及び該使用用途において用いられる位置を示す周波数情報を用いて、前記無線信号に含まれる信号を検出する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項9】
請求項3に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記無線信号において信号を検出する対象の周波数帯に含まれる所望信号と、該対象の周波数帯以外に含まれる信号及び該所望信号のイメージ帯の信号である干渉信号とを検出し、
前記第1の周波数変換部において周波数変換された前記干渉信号の周波数と、前記所望信号の周波数とが一致しない前記局部発振信号の周波数帯を前記局部発振信号の周波数を掃引する周波数帯に選択し、選択周波数帯において前記局部発振信号を掃引させる制御を前記局部発振信号生成部に対して行う
ことを特徴とする受信システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記検出した信号の周波数の変化速度に応じた速度で周波数が掃引される周波数変換用信号を生成し、
前記周波数変換用信号と前記周波数変換された無線信号とを乗算し、乗算により得られた信号に基づいて前記無線信号に含まれる信号を検出する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記局部発振信号の周波数の変化速度に応じた速度で周波数が掃引される周波数変換用信号を生成する周波数変換用信号生成部と、
前記周波数変換用信号と前記周波数変換された無線信号とを乗算し、乗算により得られた信号を出力する第2の周波数変換部と
を更に備え、
前記信号処理部は、
前記第2の周波数変換部が出力する信号に基づいて前記無線信号に含まれる信号を検出する
ことを特徴とする受信システム。
【請求項12】
請求項11に記載の受信システムにおいて、
前記第2の周波数変換部は、アナログ信号に対して乗算を行う
ことを特徴とする受信システム。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の受信システムであって、
前記信号処理部は、
前記検出した信号に基づいて、前記局部発振信号の周波数を変化させる速度を制御する
ことを特徴とする受信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−98854(P2013−98854A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241361(P2011−241361)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】