説明

受光素子

【課題】 窒化物半導体を用いて良好な量子効率(電子取り出し効率)の受光素子を得ることを目的とする。
【解決手段】 それぞれが窒化物半導体からなるn型層、活性層及びp型層を順に有する受光素子であって、n型層と活性層との間には、n型層から順に、n型層のn型不純物濃度よりも小さいn型不純物濃度の第1層と、第1層の格子定数よりも大きい格子定数の第2層と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体を用いたフォトダイオードや太陽電池等の受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、短波長の光を検知する受光素子の1つとして、窒化物半導体を用いたものが知られている。窒化物半導体の受光素子の層構造としては、pin構造を採用したものや(特許文献1)、pin構造のうちi層として多重量子井戸構造を採用したもの(特許文献2)等がある。
【0003】
窒化物半導体は、例えば6.0eV(AlN)から0.65eV(InN)までの広範囲なバンドギャップエネルギーを有する材料である。また、直接遷移型であるため、活性層を薄くでき、またダブルへテロ構造を用いることで、フィルタを介することなく例えば紫外光のみを検知し、可視光を検知しないなどといった、短波長側の特定の波長領域に限定した受光素子とすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−359390号公報
【特許文献2】特開2005−19578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、SiやGaAsなどと比較して、窒化物半導体は一般的に結晶性が悪い。そのため、窒化物半導体を用いて単純にpin構造としたり、そのi層を多重量子井戸構造としても、良好な量子効率(電子取り出し効率)が得られ難いといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
それぞれが窒化物半導体からなるn型層、活性層及びp型層を順に有する受光素子であって、n型層と活性層との間には、n型層から順に、n型層のn型不純物濃度よりも小さいn型不純物濃度の第1層と、第1層の格子定数よりも大きい格子定数の第2層と、を有することを特徴とする。
【0007】
第1層のn型不純物濃度及び第2層のn型不純物濃度は1×1017cm−3以下であり、第1層の膜厚は0.5nm以上4.0nm以下であることが好ましい。
【0008】
第1層はGaN、第2層はInGaNよりなることが好ましい。
【0009】
第1層はn型層及び第2層と接しており、第2層は第1層及び活性層と接していることが好ましい。
【0010】
活性層は井戸層及び障壁層を備える多重量子井戸構造であり、井戸層の膜厚は障壁層の膜厚よりも大きいことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る受光素子の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る受光素子の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であって、本発明を以下に限定するものではない。
【0013】
ここで、窒化物半導体とは、III−V族半導体において、V族元素として窒素を用いた半導体を意味する。典型的には一般式AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で示される。
【0014】
図1に、本実施の形態に係る受光素子の断面模式図を示す。本実施の形態の受光素子は、基板1上に、それぞれが窒化物半導体からなるn型層2、活性層5及びp型層6を順に有する受光素子であって、n型層2と活性層5との間には、n型層2から順に、n型層のn型不純物濃度よりも小さいn型不純物濃度の第1層3と、第1層の格子定数よりも大きい格子定数の第2層4と、を有する。ここで、n型層2にはn電極7が設けられており、p型層6にはp電極8が設けられている。
【0015】
本実施の形態では、第1層3のn型不純物濃度をn型層2のn型不純物濃度よりも小さくすることで、n型層3から第1層4への不純物拡散を軽減させることができる。さらに、第2層4の格子定数を第1層4よりも大きくする(つまり、第2層4は第1層3及び活性層5の間の格子定数を有する)ことで、活性層5に生じる歪みを緩和させることができる。その結果、活性層5の結晶性を向上させることができるので、良好な量子効率が得られる。
【0016】
以下、より詳細に説明する。まず、受光素子の目的は、活性層にて生じた電子をn型層を介して素子外部に取り出すことである。よって、活性層とn電極を有するn型層との間には、電子の取り出しの妨げになる層は設けないのが一般的である。しかし、本発明者は、Si等の他の半導体材料と比較して窒化物半導体は結晶性が悪いことに鑑み、活性層5の直前(n型層2と活性層5との間)に歪みを緩和させるための層(歪み緩和層)を設けることを見出した。ところが、n型層2の上に歪み緩和層となる第2層4を直接設けると、n型層から不純物が拡散してしまい、第1層3よりも格子定数を大きくしたことによる第2層4の悪い結晶性(窒化物半導体の格子定数を大きくするためにはInの組成比を大きくする必要があるが、一般的にInを大きくすればするほど結晶成長は難しくなり、その結晶性は悪くなる)をさらに悪化させてしまう(その結果、活性層5の結晶性がより低下する)。そこで、第2層4の下に結晶性の良い(Inの少ない)低不純物濃度の第1層3を設けることで、n型層2から第2層4へのn型不純物の拡散を防止し、第2層4の結晶性の低下を軽減させることができる(その結果、活性層5の結晶性の低下を効果的に抑制することができる)。
【0017】
ここで、第1層3及び第2層4のn型不純物濃度は、1×1017cm−3以下であり、第1層3の膜厚は0.5nm以上4.0nm以下であることが好ましい。
【0018】
つまり、第1層3及び第2層4のn型不純物濃度が1×1017cm−3以下であり、第2層4の格子定数が第1層3の格子定数よりも大きい(第2層4の禁止帯幅が第1層3の禁止帯幅よりも小さい)状態では、活性層5側から見みると、伝導帯において第1層3と第2層4との界面がポテンシャル障壁となり、活性層5からn型層2への電子の移動が妨げられてしまう。そこで、第1層3の膜厚を0.5nm以上4.0nm以下とすることにより、活性層の結晶性の低下を抑制すると共に、電子が第1層3をトンネルするので、電子の取り出しを効果的に向上させることができる。
【0019】
より詳細には、第1層3及び第2層4のn型不純物濃度は、好ましくは5×1016cm−3以下、より好ましくは1×1016cm−3以下とすることができる。また、第1層3の膜厚は、好ましくは1.0nm以上3.5nm以下、より好ましくは1.5nm以上3.0nm以下とすることができる。これにより、上記効果をより効果的に得ることができる。
【0020】
第1層3はGaN、第2層4はInGaNよりなることが好ましい。第1層3をGaNとすることで窒化物半導体においてその結晶性を最大限に良くすることができ、第2層4をInGaNとすることで歪み緩和の役割を容易に果たすことができる(格子定数は大きくするにはInの組成比を増やせばよい)。その結果、活性層5の結晶性の悪化を効果的に抑制し、高い量子効率の受光素子とすることができる。
【0021】
第1層3はn型層2及び第2層4と接しており、第2層4は第1層3及び活性層5と接していることが好ましい。つまり、n型層2と活性層5との間に、第1層3及び第2層4のみを設けることで、必要以上に多くの層を積層することによる結晶性の悪化を抑制することができるので、活性層の結晶性をより向上させることができる。さらに、第1の層3を1とすることにより、トンネル効果を最大限に利用することができるので、より高い量子効率とすることができる。
【0022】
図2に、活性層を多重量子構造とした場合の断面模式図を示す。図2においては、活性層5以外の構成は図1と同様である。
【0023】
活性層5は井戸層5a及び障壁層5bを備える多重量子井戸構造であり、井戸層5aの膜厚は障壁層5bの膜厚よりも大きいことが好ましい。受光素子の場合、光を吸収させるために井戸層はある程度の厚さを要する(厚すぎると結晶性が落ち量子効率が落ちる)。一方、井戸層の質を上げるため障壁層は厚くしたいが、厚過ぎると電子取出しの妨げになる。そこで、「障壁層の膜厚<井戸層の膜厚」とすることにより、光吸収と電子取り出しを両立した受光素子とすることができる。
【0024】
以下、本実施の形態の主な構成要素について説明する。
【0025】
(n型層)
n型層2の材料は特に限定されないが、好ましくはAlx1Ga1−x1N(0≦x1<1)、より好ましくはGaNとすることができる。換言すると、Inを含有しないAlGaNとすることで比較的良い結晶性とすることができるので好ましく、In及びAlを含有しないGaNとすることでさらに良い結晶性とすることができるのでより好ましい。n型層2は他の層3〜6の下地となるので、n型層2の結晶性がよければ他の層3〜6の結晶性も良くなるといえるからである。
【0026】
(第1層)
第1層3は、n型層2と第1層4の間に介在させるものであり、これにより、n型層2から第2層4へのn型不純物の拡散を抑制し且つ活性層5の結晶性を向上させるものである。そのため、第1層3のn型不純物濃度は、1×1017cm−3以下、好ましくは5×1016cm−3以下、より好ましくは1×1016cm−3以下とすることができる。これにより第2層4へのn型不純物の拡散を抑制し(第1層3のn型不純物濃度が低いほど第2層4への拡散は抑制される)、且つ、下地層として効果的に機能する(n型不純物濃度が低いほど結晶性は良くなる)。なお、上記のn型不純物の濃度範囲には、n型不純物を意図的にドープしない所謂アンドープの状態も含むものとする。
【0027】
n型層2及び第1層3のn型不純物は特に限定されるものではないが、SiやGe、好ましくはSiを用いることができる。一般的には、窒化物半導体のn型不純物としてSiが広く知られている。
【0028】
第1層3の材料は特に限定されないが、好ましくはAlx1Ga1−x1N(0≦x1<1)、より好ましくはGaNとすることができる。換言すると、Inを含有しないAlGaNとすることで比較的良い結晶性とすることができるので好ましく、In及びAlを含有しないGaNとすることでさらに良い結晶性とすることができるのでより好ましい。第1層3は他の層4〜6の下地となるので、第1層3の結晶性がよければ他の層4〜6の結晶性も良くなるといえるからである。
【0029】
(第2層)
第2層4は、第1層3と活性層5の間に介在させるものであり、第1層3よりも大きい格子定数(第1層3と活性層5との間の格子定数)を有する。これにより、活性層5の歪みを緩和させることができ、その結晶性を向上させることができる。
【0030】
第2層4の材料は特に限定されるものではないが、好ましくはIny1Ga1−y1N(0<y1<1)を用いることができる。Inを増減させることにより格子定数の制御が容易となり、四元混晶のAlInGaNと比べてより良い結晶性を実現できるからである。ただし、InGaNはGaNと比べて結晶性が悪いので、第2層4としてInGaNを用いる場合には、その下地となる第1層3をできるだけ結晶性良く成長させることが重要である。
【0031】
第2層4の膜厚は特に限定されるものではないが、好ましくは0.5nm以上4.0nm以下、より好ましくは0.5nm以上3.0nm以下、さらに好ましくは1.0nm以上2.0nm以下とすることができる。第2層4が厚くなると結晶性が損なわれるので好ましくなく、薄くなると歪み緩和の役割を果たし難いので好ましくない。また、活性層が単層からなる場合は単層自体からみて、活性層が多重量子井戸構造からなる場合は井戸層からみて、伝導帯において第2層4が障壁とみなせる場合であっても、薄いほうがトンネル効果を得られやすいので好ましい。
【0032】
(活性層)
活性層5は特に限定されるものではないが、単層構造(図1参照)や多重量子井戸構造(図2参照)を用いることができる。単層構造としては、例えばIny2Ga1−y2N(0<y2<1、y1<y2)を用いることがでる。多重量子井戸構造としては、例えば井戸層としてIny2Ga1−y2N(0<y2<1、y1<y2)、障壁層としてIny3Ga1−y3N(0≦y3<1、y3<y2)を用いることができる。
【0033】
第2層4は活性層5(単層の場合は受光層となる単層そのもの、多重量子井戸の場合は受光層となる井戸層)の歪みを緩和するための層であるから、第2層4の格子定数は第1層3及び活性層5(単層の場合は単層そのもの、多重量子井戸の場合は井戸層)の間の値を有することが好ましい。第2層4と井戸層との間に障壁層がある場合であっても、下からの歪みは井戸層に影響するので、第2層4の格子定数は第1層3及び井戸層の間の値を有することが重要である。
【0034】
なお、活性層5を多重量子井戸構造とする場合、井戸層から始まって井戸層で終わるか、井戸層から始まって障壁層で終わるか、障壁層から始まって障壁層で終わるか、障壁層から始まって井戸層で終わるかは任意で決定すればよい。
【0035】
(p型層)
p型層6の材料は特に限定されないが、好ましくはAlx1Ga1−x1N(0≦x1<1)、より好ましくはGaNとすることができる。Inを含有しないAlGaNとすることで比較的良い結晶性とすることができ、In及びAlを含有しないGaNとすることでさらに良い結晶性とすることができる。なお、p型不純物としてはMg等公知のものを利用することができる。
【実施例1】
【0036】
C面を主面とするサファイアよりなる基板1をMOVPE反応容器内にセットし、水素雰囲気において温度を1160度まで加熱することにより基板表面の浄化を行った後、温度を520℃にして、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム、アンモニアを用い、AlGaNよりなるバッファ層(図示せず)を250オングストロームの膜厚で成長させた。
【0037】
その後、温度を1140度まであげトリメチルガリウム、アンモニアを用いて下地となるGaN層(図示せず)を1.5um形成し、引き続きトリメチルガリウム、アンモニア、モノシランを用いてGaNからなるn型層2を4.5umの膜厚で形成した。
【0038】
n型層2形成後、雰囲気を窒素とし、温度を820度に下げて、トリメチルガリウム、アンモニアを用いてGaNからなる第1層3を2.5nm形成し、引き続きトリメチルインジウム、トリメチルガリウム、アンモニアを用いてIn0.05Ga0.95Nからなる第2層4を1.3nmの膜厚で形成した。このとき、第1層3及び第2層4共にSiをドープせずに成長させており、それぞれのn型不純物濃度は1×1016cm−3以下であった。
【0039】
引き続きトリメチルインジウム、トリメチルガリウム、アンモニアを用いてIn0.16Ga0.84Nからなる井戸層5aを膜厚4.5nmで形成した後、トリメチルインジウムの供給を止めトリメチルガリウムとアンモニアを用いてGaNからなる障壁層5bを膜厚4.0nmで形成して多重量子井戸構造の活性層5を形成した。このとき井戸層5aと障壁層5bを1周期として合計30周期繰り返した。
【0040】
活性層5を形成後、再び雰囲気を水素とし、温度を850℃としてトリメチルガリウム、アンモニア、シクロペンタジエニルマグネシウムを用いてキャリア濃度が約2.9×1017/cmのGaN層を形成し、引き続きトリメチルガリウム、アンモニア、シクロペンタジエニルマグネシウムを用いてキャリア濃度が約6.4×1018/cmのGaN層を形成して、2層構造からなるp型層6を形成した。
【0041】
この構成により得られた受光素子の405nmの光に対する量子効率は約88%と良好なものであった。
【実施例2】
【0042】
活性層5を多重量子井戸構造ではなく単層構造とした以外は実施例1と同様にして、受光素子を作成した(図1参照)。つまり、第2層4を作成した後、In0.16Ga0.84Nからなる活性層5を膜厚150nmで形成した。このときの量子効率は約77%となり、実施例1(図2参照)には劣るものの第1層3及び第2層4がない比較例に比較して良好なものであった。
【比較例】
【0043】
第1層3及び第2層4を用いなかった以外は、実施例1と同様にして受光素子を作成した。こときの量子効率は約50%であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にの受光素子は、フォトダイオードや太陽電池等、比較的短波長の光を検出可能な受光素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・基板
2・・・n型層
3・・・第1層
4・・・第2層
5・・・活性層
6・・・p型層
7・・・n電極
8・・・p電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが窒化物半導体からなるn型層、活性層及びp型層を順に有する受光素子であって、
前記n型層と前記活性層との間には、前記n型層から順に、前記n型層のn型不純物濃度よりも小さいn型不純物濃度の第1層と、前記第1層の格子定数よりも大きい格子定数の第2層と、を有することを特徴とする受光素子。
【請求項2】
前記第1層のn型不純物濃度及び前記第2層のn型不純物濃度は1×1017cm−3以下であり、
前記第1層の膜厚は0.5nm以上4.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記第1層はGaN、前記第2層はInGaNよりなることを特徴とする請求項1又は2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記第1層は、前記n型層及び前記第2層と接しており、
前記第2層は、前記第1層及び前記活性層と接していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載された受光素子。
【請求項5】
前記活性層は、井戸層及び障壁層を備える多重量子井戸構造であり、
前記井戸層の膜厚は、前記障壁層の膜厚よりも大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された受光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−124471(P2011−124471A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282585(P2009−282585)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】