説明

口腔内描記装置

【課題】 歯科臨床において、顎の中心関係および顎運動の記録を行う際に用いる口腔内描記装置に関する。
【解決手段】 上顎プレ−トと、下顎プレ−トおよびこれらを連結する連結器具から成り、連結孔、スタッド取付孔および描記ピン取付孔並びに、前記連結孔の一部又は全体がマグネットによって形成される、口腔内描記装置において、3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にしてなることを特徴とする、口腔内描記装置により達成され、また3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する下顎誘導ガイドプレート、20°〜50°の角度を有する複数枚から成り、着脱自在に適宜選択、嵌め合うことが出来、さらにまた下顎プレート連結部補助具の側壁に溝を儲け、且つその前後に2本のピンを設けたことを特徴とする、口腔内描記装置により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科臨床において、顎の中心関係および顎運動の記録を行う際に用いる口腔内描記装置に関し、特に3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にし、また適宜角度を有する3D斜面の形態を有する下顎誘導ガイドプレートを有する口腔内描記装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の歯科臨床において、インプラントやセラミックなどの最先端材料の歯科補綴物を用いたケ−スが多くなると共に、顎の動きや、顎が安定する位置を正確に測定、記録することの必要性が認識されてきている。また、歯科補綴物が装着された口腔内の健康を長期間維持させるうえでも、顎の動きや、顎が安定する位置を正確に測定、記録することが歯科補綴物の製作にあたって不可欠の条件となっている。
【0003】
従来、この顎の中心関係および下顎の運動の測定、記録法で用いられている代表的なものには、チェックバイト法、パントグラフ法、チュ−イン法がある。なかでも描記装置を用いたチェックバイト法は最も広く採用されている測定、記録方法である。
【0004】
このチェックバイト法に用いられる描記装置は、上顎に描記ピンを取付け、さらに下顎に平面の描記板を取付ける様式の装置であり、下顎を前方、側方へ誘導させることによって描記板上に水平的な下顎運動路を描くことが可能となっている。この下顎運動路は、一つの頂点を持つ矢尻状の3本の線で構成され、この描記図はゴシックア−チと呼ばれている。この3本の線が交じわった先端がいわゆるアペックスと称されている。描記されたゴシックアーチのアペックスを中心位として、水平的な顎位が決定され、無歯顎(いわゆる総入れ歯の症例)の患者にも応用されてきていた。
【0005】
上述したゴシックアーチ・トレーサーを有歯顎やインプラントの症例に使用する場合には、描記板が平面であるために、咬合高径を挙上、すなわち口を開いた状態でなければ描記できない。また、このゴシックアーチ・トレーサーでは必要以上に咬合高径を挙上される場合があり、患者の負担増となっていた。そして、この咬合高径を挙上された状態では、自然な下顎運動ができず、正しい中心位が求められず、不具合があった。このように、咬合高径を挙上しないことが正しい中心位を求める上で、大切な条件となっていた。
【0006】
上述のゴシックアーチ・トレーサーは、太い線で描記されるため、アペックスの位置も確認し難い上に、歯が接触しないように十分なクリアランス(上下の歯が接触しないための隙間)が必要となるため、上述のように不具合も多くみられていた。
【0007】
また、顎の中心関係の記録および下顎運動の記録はこのゴシックア−チに基づき、チェックバイト法によってパラフィンワックスなどに記録される。顎の中心関係および下顎運動を精密に記録するためには、このゴシックア−チを高い精度で描記する必要がある。
【0008】
下記の特公昭59−18053号公報(特許第1245692号)に示された口腔内描記装置では、無歯顎患者のみならず、局部床義歯の症例や、有歯顎患者の症例においても正確な記録を行い得るものとして知られ、歯科臨床において多く用いられている。
【0009】
この公報に示された口腔内描記装置は、図6及び図7に示す上顎プレ−トAと、図9及び図11に示す下顎プレ−トBと、図13に示す連結器具Cとから構成されており、図14、図15に示すように口腔内に装着されてゴシックア−チの描記と、チェックバイトの採得が行われる。
【0010】
図6に示す上顎プレ−トAは、U字形をした上顎プレ−ト本体aのほぼ中央に下向きに突設され、かつ突端に回転球4を有する指導支柱スタッド2と、上顎プレ−ト本体aの後端部に対称的にそれぞれ下向きに設けられた二個の補助スタッド3、3および上顎プレ−ト本体aの前端部eに下向きに突設され円筒状保持部24を有するピン装置fを備えている。
【0011】
図7は、図6A2−A2の断面を示す。図7によれば、顎運動の誘導を行い垂直顎間隔距離を保持するために、自由に長さを調節できる前記支柱スタッド2と、長さを調節したところで指導支柱スタッド2を固定するスタッド固定ネジ8が設けられている。又、前記ピン装置fの中空な円筒状保持部24にはゴシックア−チを描記するための描記ピン1が着脱可能に取付けられ、この描記ピン1を固定するためのピン保持装置hが設けられている。
【0012】
図8は前記ピン装置fの要部を示す。図8に示す如く前記ピン保持装置hは、描記ピン1を押さえるピンストッパ−5及び弾力材6、弾力材止ネジ7により構成されている。又、描記ピン1の外周には下向きの圧力を保持するピン用スプリング23が取付けられている。
【0013】
図9は下顎プレ−トBを後方から示した正面図である。図9に示すように下顎プレ−トBは、下顎プレ−ト本体bと記録床連結部dから成る。下顎プレ−ト本体bは、その先端部に設けられた描記板9aを取付けるための描記テ−ブル9と、中央部に設けられ指導板10aを取付けるための指導テ−ブル10とを備え、U字形の記録床連結部dは、その後端部に対称的にそれぞれ設けられた運動路記録11aを取付けるための運動路形成テ−ブル11、11の二個のテ−ブルを備えている。下顎プレ−ト本体bと記録床連結部dは下顎プレ−ト本体固定ネジ25、25で着脱可能に固定されている。
【0014】
図10は、口腔内で最前方に位置する前記描記テ−ブル9を示す。この描記テ−ブル9の表面には描記板9aが形成される。この描記板9aは、描記テ−ブル9表面に載置された即時重合レジンなどの可塑材料からなり、前記上顎プレ−トAに取付けられた描記ピン1の先端の針と当接して、描記ピン1の動きをゴシックア−チとして記録する。
【0015】
図11は下顎プレ−トBの断面を示す。前記指導テ−ブル10には加工可能な樹脂による指導板10aが取付けられる。この指導板10aは前記上顎プレ−トAに取付けられた指導支柱スタッド2と対応して立体的な傾斜面に形成され、患者固有の切歯路角を記録すると共に、指導支柱スタッド2と当接して滑走させるガイドとなり、運動路記録を記録するための顎運動を誘導する。この指導板10aは図12に示すように指導板固定ネジ26により指導テ−ブル10に連結されている。
【0016】
又、前記運動路形成テ−ブル11、11にはパテ状のシリコンラバ−などの可塑性のある材料を載置して運動路記録11aを形成する。この運動路記録11aは、前記指導板10aに記録された切歯路角上を指導支柱スタッド2を滑走させながら患者の顎を誘導することにより、上顎プレ−トAの補助スタッド3、3が可塑性のシリコンラバ−等の上に立体的に彫刻することにより記録形成される。
【0017】
図13に示す連結器具Cは、連結シャフト14、上顎プレ−トサポ−タ15、下顎プレ−トサポ−タ16、プレ−ト間隔固定ネジ17及び下顎プレ−トBを連結する連結ネジ13とで構成されている。この連結器具C、上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを連結し、図14及び図15に示す記録床X、Yに、上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを装着する取付け作業を行うために用いられるものである。上顎プレ−トA、下顎プレ−トBがそれぞれ取付けられた記録床X、Yは連結器具Cから外されて、セメントなどの接着剤で口腔内に固定される。
【0018】
またさらに下記の、本発明者による、特開2000−342608号公報に開示の発明によれば、口腔内描記装置において、従来樹脂プレートを手でネジ止めして一体化しており、ネジを多く使うことによる、口腔内での危険防止のため、ピンなどの部材をマグネット化した技術が開示されている。
【特許文献1】特公昭59ー18053号公報(特許第1245692号)
【特許文献2】特開2000ー342608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来の口腔内描記装置では、ピン装置fは、描記板9aの記録形成工程、ゴシックア−チ描記工程及びチェックバイト採得工程で描記板形成用ピン19、描記ピン1及び顎固定ピン18がそれぞれ着脱される構造が複雑であり、弾力材6が破損するなどの故障が生じる問題があった。
【0020】
指導支柱スタッド2の本体は雄ネジとなっており、指導支柱スタッド2のネジ部を回し、垂直顎間距離を決定し、スタッド固定ネジ8を締めて固定する工程でネジ構造によって指導支柱スタッド2の長さを調節するようにされているが、緩みやすい問題があった。又、指導支柱スタッド2はスタッド固定ネジ8によって、決定された長さを維持するための固定を行うことができるが、スタッド固定ネジ8が緩みやすい欠点があった。
【0021】
下顎プレ−トBの指導板テ−ブル10に指導板10aを指導板固定ネジ26で連結する工程で指導板10aは、指導テ−ブル10に指導板固定ネジ26によって固定され、調節のために着脱が可能となっているが、ネジが小さく、ネジや調節器具を口腔内に落とすなど、医療事故危険性があった。
【0022】
描記板9aは、描記板9aの記録形成工程で描記板形成用ピン19で樹脂を用いて作製するようになっているが、作製の操作性が悪く、煩雑であった。又、水平的な位置を一定としたスタ−トポジションを調整するための連結工程では、連結器具Cを用いて上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを連結するが、この連結に際しては連結シャフト14、上顎プレ−トサポ−タ15、下顎プレ−トサポ−タ16、プレ−ト間隔固定ネジ17及び連結ネジ13を使用する必要があるため、操作性が悪く煩雑であった。
【0023】
なおまた、患者の口腔(顎)にあまねく適切なプレートの作成は困難であったり、下顎プレート本体に指導描記テーブル及び下顎プレート連結部を着脱させる際にがたつきがあり、スムーズな着脱が困難であるなどの不具合があった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、これらの問題点を鑑みてなされたもので、本発明によれば、本発明の目的は、上顎プレ−トと、下顎プレ−ト及びこれらを連結する連結器具から成り、前記上顎プレ−トは、U字形をした上顎プレ−ト本体のほぼ中央に、指導支柱スタッドを連結するための下方に開口された連結孔と、連結器具を連結するための下方に開口されたスタッド取付孔と、上顎プレ−ト本体の前方に延出された前端部の先端に描記ピンを取付けるための下向きに開口された描記ピン取付孔と、上顎プレ−ト本体の後端部に対称的にそれぞれ下向きに突設された二個の運動路を記録するための補助スタッドとを備え、
【0025】
前記下顎プレ−トは、U字形をした下顎プレ−ト本体の中央部に、指導描記テーブル、又は連結器具を連結する連結孔と、下顎プレ−ト本体のU字形の後端部に対称的にそれぞれ運動路形成テ−ブルとを備え、
【0026】
前記連結器具は、上顎プレ−トと連結するためのスタッドを備えた上顎プレ−ト連結部と、下顎プレ−トと連結するためのスタッドとを備えた下顎プレ−ト連結部と、上顎プレ−ト連結部と下顎プレ−ト連結部とを連結するプレ−ト間隔固定ネジとを備え、
【0027】
前記上顎プレ−トに設けられた連結孔、スタッド取付孔及び描記ピン取付孔並びに前記下顎プレ−トに設けられた連結孔の一部又は全体がマグネットによって形成されている、口腔内描記装置において、
【0028】
3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にしてなることを特徴とする、口腔内描記装置により達成される。
【0029】
また、本発明の目的は、好ましくは、前記口腔内描記装置において、3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂製下顎誘導ガイドプレートが、20°〜50°の角度を有する複数枚から成り、着脱自在に適宜選択、嵌め合うことが出来ることを特徴とする、口腔内描記装置により達成される。
【0030】
また、本発明の目的は、好ましくは、下顎プレート本体に指導描記テーブル及び下顎プレート連結部を設置する、前記口腔内描記装置において、各部材をマグネットにて構成し、前記下顎プレート連結部の補助具の側壁に溝を儲け、且つその前後に2本のピンを設けたことを特徴とする、口腔内描記装置により達成される。
【0031】
この発明では、描記ピン1及び顎固定ピン(描記ピン1と併用)が、それぞれマグネットによって描記ピン取付孔40に固定されるため、着脱が簡単で、ネジ締めなどの煩雑な操作を要しない。
【0032】
また、指導支柱スタッド2は、連結孔27のマグネットにより固定されるため、顎間隔の調節のための着脱が簡単で、操作の煩雑さがなく、臨床の調整時間が短縮される。
【0033】
従来、下顎プレ−トBに別々に設けられていた指導テ−ブル10と、描記板テ−ブル9を合体し指導描記テーブル33としたことにより、着脱工程が一度ですむと共に、下顎プレ−トBとの取付けが連結孔36a、36bのマグネットにより固定されるため着脱が簡単にできる。
【0034】
このため臨床での指導板10aの位置調整工程および記録形成工程と、描記板9aの記録形成工程、ゴシックア−チ描記工程及びチェックバイト採得工程における口腔からの着脱がすばやく行うことができる。
【0035】
又、指導描記テーブル33の前方にある描記テーブル33bには、着脱可能に合成樹脂製の描記板34を取付け、描記ピン1と合成樹脂製描記板34との通電を検出することを可能とし、前歯部に遮られてチェックバイト採得工程の小穴が確認できない時も電気検知器200(図15参照)により光やブザ−音などで確認できる。
【0036】
更に、上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを連結器具Cを用いて連結し、上下、水平的な位置を一定としたスタ−トポジションを調整するための連結工程、調整工程及び連結解除工程が、マグネットによる着脱により簡単に行える。更に連結器具Cは、プレ−ト間隔固定ネジ17を緩めるだけで上顎プレ−ト連結部29と下顎プレ−ト連結部30に分離できるようになされており、連結解除が短時間で行える。
【発明の効果】
【0037】
本発明の口腔内描記装置においては、3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にすることができるので、口腔内記録作業が安全、確実に且つ容易に行うことができる。
【0038】
また、本発明の口腔内描記装置においては、患者の口腔にあわせて、下顎誘導ガイドプレートを適宜角度のものとすることができるので、口腔内記録作業が安全、確実に且つ容易に行うことができる。
【0039】
また、本発明の口腔内描記装置においては、下顎プレート本体に指導描記テーブルユニット及び下顎プレート連結部を設置する各部材をマグネットにて構成し、この下顎プレート連結部補助具の側壁に溝を儲け、且つその前後に2本のピンを設けたので、下顎プレート本体、指導描記テーブル及び下顎プレート連結部間のがたつきがなく、スムーズな着脱が行える。
【0040】
また、上顎プレ−ト及び下顎プレ−トをU字形形態とすることにより、上顎プレ−トを口蓋に密着して取付けられると共に、下顎プレ−トも上方に位置し舌が圧迫されることを防止できる。又、下顎プレ−トのくり抜かれた部分に患者の舌を収めることが可能となり、下顎プレ−トによって舌が圧迫されたり、又記録時に舌の圧力によって下顎プレ−トが持ち上げられることを防いでいるため精密な測定記録が行える。
【0041】
前記上顎プレ−トに設けられた連結孔、スタッド取付孔及び描記ピン取付孔並びに、前記下顎プレ−トに設けられた連結孔の一部又は全体がマグネットによって形成されており、ネジ類を一切使用していないことから前記口腔内記録操作の各々の作業が簡単に短時間に行える。
【0042】
具体的には描記ピン及び顎固定ピン(描記ピンと併用)が、それぞれマグネットによって描記ピン取付孔に固定されるため、着脱が簡単で、交換のたびのネジ締めなどの煩雑な操作を要しない。
【0043】
指導支柱スタッドは、連結孔のマグネットにより固定されるため、顎間隔の調節のための着脱が簡単で、操作の煩雑さがなく、臨床の調整時間が短縮される。
【0044】
連結解除工程でプレ−ト間隔固定ネジを緩めるだけで上顎プレ−ト連結部と下顎プレ−ト連結部に分離できるようになり連結解除が短時間で行える。
【0045】
更に従来、下顎プレ−トに別々に設けられていた指導テ−ブルと、描記テ−ブルを合体し指導描記テーブルとしたことにより、着脱工程が一度で済むと共に、下顎プレ−トとの取付けが連結孔のマグネットにより固定されるため着脱が簡単にできる。
【0046】
このため臨床での指導板の位置調整工程および記録形成工程と、描記板の記録形成工程、ゴシックア−チ描記工程及びチェックバイト採得工程における口腔からの着脱がすばやく行うことができる。
【0047】
又、指導描記テーブルの前方にある描記テーブルには、描記ピンと金属描記板部との通電を検出することを可能とし、前歯部に遮られてチェックバイト採得工程の小穴が確認できない時も電気検知器により光やブザ−音などで確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、この発明の好適な実施形態を図1から図17を参照にしながら、詳細に説明する。従来技術と同様の機能形態には同一符号を付して重複する説明を省略する。
なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0049】
先ず、以下に本発明の概略を説明する。
ジョーリレーターは、上顎フレームと下顎フレーム、及びそれらを連結してスタートポジションに位置づける連結器具から構成される。上顎フレームは即時重合レジンによって上顎の咬合床に取り付けられ、下顎フレームは下顎の咬合床に取り付けられる。その手順としては、
(1)患者の口腔に合った下顎誘導ガイドプレート、すなわち適宜角度を有する下顎誘導ガイドプレートを選択し、下顎プレート本体に嵌め込む。
(2)次いで、患者の顎を前に出し、動くことにより、軌跡が噛み合わせの位置を確定し、尖ったピン(細い針状のもの)により描記板に描かれる。
(3)記録した描記板を外し、軌跡に孔を穿つ。これにより、位置が確定し、患者は顎を楽にすることができる。
(4)すなわち、上の針が孔に入り、位置が決まり、これにより穿つこととなり、針が樹脂部分を突き抜け、針が下面に接触し、通電による確認が可能となる。 なお、これは歯に触れることなく、口腔内記録を採ることができる。
【0050】
ジョーリレーターは以下のように取り付けられる。
(a)上顎フレームと下顎フレームをスタートポジションに位置づけるための連結器具、連結ネジによって、分解・組み立てができるようになっている。
(b)咬合床に取り付ける作業の前に、上顎フレームと下顎フレームを連結器具で連結して、スタートポジションに位置づけしておく。
(c)連結ネジは解除すると上顎フレームと下顎フレームに分解される。
連結器具で連結した状態で、先ず上顎フレームを咬合床に仮着する。仮着には即時重合レジンを用いる。
(d)次に、咬合器を閉じて、その状態のまま、下顎フレームを下顎の咬合床に仮着する。即時重合レジンが硬化した後、専用ドライバーで連結器具の連結ネジを解除する。
(e)連結ネジが解除されると、抵抗なく咬合器を開くことができる。その後、連結器具の上下のパーツを取り外す。代わりに、上顎フレームに描記ピンと指導支柱スタッドを挿入する。また、下顎フレームには、指導描記テーブルをセットする。
(f)指導描記テーブルは、下顎フレーム本体とマグネットやピンによって連結、固定され、自由に取り外しができるようになっている。また、指導描記テーブルには着脱可能な描記板と下顎誘導ガイドプレートをワンタッチで装着できるようになっている。
なお、咬合床を口腔内で維持させる方法は症例によって異なり、一般にはレジンコーピングやボールクラスプが使用される。また、インプラントの症例では、テンポラリーシリンダーなどを利用することにより、作業用模型や口腔内に咬合床を正確に固定することができる。
【0051】
以下に本発明の実施態様を更に詳述する。
図1に示す本発明の実施の形態の口腔内描記装置は、口蓋の湾曲に近似した立体的な形態とし、更に中央から後方にかけてくり抜いた幅の狭いU字形態をした上顎プレ−トAと、中央から後方にかけてくり抜いた幅の狭いU字形態をした下顎プレ−トB及びこれらを連結する連結器具Cから構成されている。
【0052】
本発明の口腔内描記装置においては、3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にすることができるので、口腔内記録作業が安全、確実に且つ容易に行うことができる。
【0053】
図2において、Uは、下顎プレートに着脱自在に設けられた合成樹脂製の下顎誘導ガイドプレートであり、下顎を誘導するためのガイドで、3D(スリーディメンション)斜面の形態をしている。患者の下顎の態様によって20°、30°、40°、50°の4種類の角度から選択できる。従って、患者の口腔にあわせて、下顎誘導ガイドプレートUを適宜角度のものとすることができるので、口腔内記録作業が安全、確実に且つ容易に行うことができる。
【0054】
図3は、下顎プレート本体bに9〜11に示す指導描記テーブルおよび下顎プレート連結部Cを着脱させる補助具Dを示す図であり、Vは当該下顎プレート連結部の側壁に設けられた溝であり、またWはその前後に設けられた2本のピンである。これにより、下顎プレート本体b、9〜11に示す指導描記テーブル及び下顎プレート連結部C間のがたつきがなく、スムーズな着脱が行える。
【0055】
前記の上顎プレ−トA及び下顎プレ−トBをU字形状とすることにより、上顎プレ−トAを口蓋に密着して取付けられると共に、下顎プレ−トBも上方に位置し舌が圧迫されることを防止できる。又、下顎プレ−トBのくり抜かれた部分に患者の舌を収めることが可能となり、下顎プレ−トBによって舌が圧迫されたり、又記録時に舌の圧力によって下顎プレ−トBが持ち上げられることを防いでいる。
【0056】
図1及び図4(a)(b)に示すように、上顎プレ−トAは、上顎プレ−ト本体aのほぼ中央に、指導支柱スタッド2を連結するための下方に開口されたマグネットで形成された連結孔27と、連結器具Cを連結するための下方に開口されたマグネットで形成されたスタッド取付孔28と、上顎プレ−ト本体aの前方に延出された前端部eの先端に描記ピン(トレースピン)1を取付けるための下向きに開口されたマグネットで形成された描記ピン取付孔40と、上顎プレ−ト本体aの後端部に対称的にそれぞれ下向きに突設された二個の運動路を記録するための運動路形成補助スタッド3、3とを備えている。
前記の描記ピン1は、ゴシックアーチを描記するピンであり、口腔内落下を防止するため、マグネットによって固定されている。通常、3種類の長さがあり、当該描記ピンは、スプリングによって上下するようになっている。咬合採得の際には後述する描記板に開けられた孔に嵌合し、下顎位を固定し、安定させる。
前記の描記板は、実際にゴシックアーチが描記されるプレートであり、ゴシックアーチ描記後、下顎がロックされるための孔が開けられる。
また、指導支柱スタッド2は、咬合高径を維持しながら、下顎運動を誘導するピンであり、通常、動きをスムーズにするためにボールベアリングが組み込まれている。口腔内に落ちないように、マグネットになっており、3種類の長さがある。
【0057】
図1に示す指導支柱スタッド2は、突端に回転球4を有し、前記連結孔27にマグネットで着脱可能に固定され、前記指導板10a形成工程、運動路記録形成工程、描記板形成工程及びゴシックア−チ描記工程において下顎プレ−トBの指導テ−ブル部33aと当接して可塑性材料に軌跡を形成すると共に、指導板10a上を滑走して顎運動を誘導する。
【0058】
又、運動路形成補助スタッド(サポートスタッド)3、3は同様に突端に回転球4を有し、運動路記録形成工程において下顎プレ−トBの運動路形成テ−ブル11、11と当接して可塑性材料9に軌跡を形成して運動路記録11a、11aを記録作製する。又、描記板形成工程及びゴシックア−チ描記工程において下顎プレ−トBの運動路記録11a、11a上を滑走して顎運動を誘導する。
このサポートスタッド3、3は、下顎運動の3D軌跡をパテ状シリコーンに記録するスタッドである。
【0059】
描記ピン1は、マグネットで形成された描記ピン取付孔40に挿入して着脱可能に固定される。描記ピン1の取付け長さは、長さの異なるピンと交換することにより簡単に行うことが可能にしてある。
【0060】
この描記ピン取付孔40には、ゴシックア−チ描記工程では描記ピン1が取付けられ、チェックバイト採得工程では顎固定ピン(描記ピン1と併用)が取付けられる。このように各々の工程で使用するピンを容易に着脱交換することができる(図示せず)。
【0061】
図5(a)(b)に示す、下顎プレ−トBは、U字形をした下顎プレ−ト本体bの中央部に、指導描記テーブル33、又は連結器具Cを連結するマグネットで形成された連結孔36a、36bと、下顎プレ−ト本体bのU字形の後端部に対称的にそれぞれ運動路形成テ−ブル11、11とを備えている。この図5(b)では連結孔36a、36bの上部に指導描記テーブル33がマグネットで着脱可能に取付けられている。
【0062】
前記指導描記テーブル33は、後方の指導テ−ブル部33aと、前方の描記テーブル33bが一体化されている。この指導テ−ブル部33aは合成樹脂製下顎誘導ガイドプレート35が載置され、上顎プレ−トAの指導支柱スタッド2と対応させるものである。描記テーブル33bには合成樹脂製描記板34が載置され、ゴシックア−チ描記工程では描記ピン1と対応し、チェックバイト採得工程では顎固定ピン18と対応させて夫々の操作を行う(図5(c)〜(e)参照)。
【0063】
運動路形成テ−ブル11、11は、パテ状のシリコンラバ−などの可塑性材料を載置し、前記運動路形成工程で上顎プレ−トAの運動路形成補助スタッド3、3と対応、当接して立体的に運動路記録11aを彫刻記録して作製する。
【0064】
図1(c)に示す連結器具Cは、上顎プレ−トAと連結するためのスタッド31a,31bを備えた上顎プレ−ト連結部29と、下顎プレ−トBと連結するためのスタッド32a,32b、32cを備えた下顎プレ−ト連結部30と、その上顎プレ−ト連結部29と下顎プレ−ト連結部30とを連結するプレ−ト間隔固定ネジ17とから構成されている。
【0065】
この連結器具Cは、上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを連結し、上顎プレ−トAと記録床Xおよび下顎プレ−トBと記録床Yを上下、水平的な位置を一定としたスタ−トポジションに調整する。最適な位置に調整した後に即時重合レジンなどの結合剤で固定するため前記連結工程及び調整結合工程で調節性咬合器100(図17参照)と共に位置決めのために使用される。
【0066】
これらの工程の後、上顎プレ−トAと下顎プレ−トBを分解する連結解除工程で、プレ−ト間隔固定ネジ17を緩めるだけで上顎プレ−ト連結部29と下顎プレ−ト連結部30に分離できるようになされており、連結解除が短時間で行える。
【0067】
前記上顎プレ−トAに設けられた連結孔27、スタッド取付孔28及び描記ピン取付孔40並びに、前記下顎プレ−トBに設けられた連結孔36a、36bの一部又は全体がマグネットによって形成されていることから前記口腔内記録操作の各々の作業が簡単に短時間に行える。
【0068】
又、描記ピン1及び顎固定ピン(描記ピン1と併用)が、それぞれマグネットによって描記ピン取付孔40に固定されるため、着脱が簡単で、ネジ締めなどの煩雑な操作を要しない。
【0069】
指導支柱スタッド2は、連結孔27のマグネットにより固定されるため、顎間隔の調節のための着脱が簡単で、操作の煩雑さがなく、臨床の調整時間が短縮される。
【0070】
更に従来、下顎プレ−トBに別々に設けられていた指導テ−ブル10と、描記テ−ブル9を合体し指導描記テーブル33としたことにより、着脱工程が一度で済むと共に、下顎プレ−トBとの取付けが連結孔36a、36bのマグネットにより固定されるため着脱が簡単にできる。
【0071】
このため臨床での指導板10aの位置調整工程及び記録形成工程と、描記板9aの記録形成工程、ゴシックア−チ描記工程及びチェックバイト採得工程における口腔からの着脱がすばやく行うことができる。
【0072】
又、指導描記テーブル33の前方にある描記板33bには、描記ピン1と金属描記板部34との通電を検出することを可能とし、前歯部に遮られてチェックバイト採得工程の小穴が確認できない時も電気検知器200(図16参照)により光やブザ−音などで確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態の口腔内描記装置の斜視図であり、(a)は上顎プレートA、(b)は下顎プレ−トB、(c)は連結器具Cの斜視図である。
【図2】本発明の各種下顎誘導ガイドプレートUを示す斜視図。
【図3】本発明の指導描記テーブル33の連結補助具Dを示す斜視図である。
【図4】(a)は上顎プレ−トAの平面図、(b)はその底面図である。
【図5】(a)は下顎プレ−トBの平面図、(b)はその底面図である。
【図6】従来技術の上顎プレ−トAの平面図。
【図7】図5のA2−A2線による一部断面を示す正面図。
【図8】従来技術のピン装置の部分拡大断面図。
【図9】従来技術の下顎プレ−トBの右側面図。
【図10】従来技術の描記板の断面図。
【図11】従来技術の下顎プレ−トBの表面上に描記板、指導板、顎運動路を形成した断面図。
【図12】従来技術の指導板の斜視図。
【図13】(a)従来技術の連結器具の平面図、(b)その正面図。
【図14】従来技術の上顎プレ−トの上顎内における位置を示す斜視図。
【図15】従来技術の下顎プレ−トの下顎内における位置を示す斜視図。
【図16】従来技術の電気検知器との接続を示す模式図。
【図17】調節性咬合器を示す斜視図。
【符号の説明】
【0074】
A 上顎プレ−ト
B 下顎プレ−ト
a 上顎プレ−ト本体
b 下顎プレ−ト本体
C 連結器具
D 指導描記テーブル連結補助具
d 下顎プレ−トの記録床連結部
e 上顎プレ−ト本体の前端部
f ピン装置
g 下顎プレ−ト本体の前端部
h ピン保持装置
U 下顎誘導ガイドプレート
V 溝
W ピン
X 上顎記録床
Y 下顎記録床
m マグネット
1 描記ピン
2 指導支柱スタッド
3 運動路形成補助スタッド
4 回転球
5 ピンストッパ−
6 弾力材
7 弾力材止
8 スタッド固定ネジ
9 描記テ−ブル
10 指導テ−ブル
10a 指導板
11 運動路形成テ−ブル
11a 運動路記録
12 金属線連結部
13 連結ネジ
14 連結シャフト
15 上顎プレ−トサポ−タ
16 下顎プレ−トサポ−タ
17 プレ−ト間隔固定ネジ
23 ピン用スプリング
24 円筒状保持部
25 下顎プレ−ト本体固定ネジ
26 指導板固定ネジ
27 上顎連結孔
28 スタッド取付孔
29 上顎プレ−ト連結部
30 下顎プレ−ト連結部
31a、b スタッド
32a、b、c スタッド
33 指導描記テーブル
33a 指導テーブル
33b 描記テーブル
34 合成樹脂製描記板
35 合成樹脂製描記板取付ネジ
35a ネジ孔
36a、b 下顎連結孔
36m 下顎連結マグネット部
40 描記ピン取付孔
40m ピン連結マグネット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎プレ−トと、下顎プレ−ト,およびこれらを連結する連結器具から成り、前記上顎プレ−トは、U字形をした上顎プレ−ト本体のほぼ中央に、指導支柱スタッドを連結するための下方に開口された連結孔と、上顎プレ−ト本体の前方に延出された前端部の先端に描記ピンを取付けるための下向きに開口された描記ピン取付孔と、上顎プレ−ト本体の後端部に対称的にそれぞれ下向きに突設された二個の運動路を記録するための補助スタッドとを備え、
前記下顎プレ−トは、U字形又はV字状をした下顎プレ−ト本体の中央部に、指導描記テーブル、下顎プレ−ト本体のU字形の後端部に対称的にそれぞれ運動路形成テ−ブルとを備え、
前記連結器具は、上顎プレ−トと連結するためのスタッドを備えた上顎プレ−ト連結部と、下顎プレ−トと連結するためのスタッドとを備えた下顎プレ−ト連結部と、上顎プレ−ト連結部と下顎プレ−ト連結部とを連結するプレ−ト間隔固定ネジとを備え、
前記上顎プレ−トに設けられた連結孔、スタッド取付孔及び描記ピン取付孔並びに前記下顎プレ−トに設けられた連結孔の一部又は全体がマグネットによって形成されている、口腔内描記装置において、
3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂から成る下顎誘導ガイドプレートと描記板を有する指導描記テーブルを下顎プレ−ト本体に圧着、嵌め合い、着脱自在にしてなることを特徴とする、口腔内描記装置。
【請求項2】
前記口腔内描記装置において、3D(スリーディメンション)斜面の形態を有する合成樹脂製下顎誘導ガイドプレートが、20°〜50°の角度を有する複数枚から成り、着脱自在に適宜選択、嵌め合うことが出来ることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内描記装置。
【請求項3】
下顎プレート本体に指導描記テーブル及び下顎プレート連結部を設置する前記口腔内描記装置において、各部材をマグネットにて構成し、下顎プレート連結補助具の側壁に溝を儲け、且つその前後に2本のピンを設けたことを特徴とする、請求項1または2に記載の口腔内描記装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2007−75478(P2007−75478A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269555(P2005−269555)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(599096248)
【出願人】(503205481)株式会社キャスティングイン (3)
【Fターム(参考)】