説明

口腔内速崩壊錠およびその製造方法

【課題】特殊な設備や技術を使用せずに比較的簡便に製造でき、口腔内で速やかに崩壊する速崩壊性を有し、製造中、輸送中、保存中などに破損しにくい硬度も備えた口腔内速崩壊錠を提供する。
【解決手段】デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上である口腔内速崩壊錠。この錠剤を製造する際には、少なくともデンプンを顆粒に造粒してから圧縮成形し、錠剤とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品などにおける錠剤に関し、特に口腔内において速やかに崩壊する口腔内速崩壊錠とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは加齢と共に嚥下力が低下し、通常の錠剤では服用に困難を来すことが少なくない。このため近年、口腔内で速やかに崩壊し(速崩壊性)、服用が容易な口腔内速崩壊錠の研究が盛んに行われ、実際に多くの製品が上市されている。
例えば、特許文献1には、活性成分と乳糖およびマンニトールからなる糖類を寒天水溶液に懸濁し、鋳型に充填してゼリー状に固化した後、乾燥させて得られる口腔内崩壊性の固形製剤が記載されている。また、R.P.Scherer社(イギリス)により開発され、欧米を中心に市販されている口腔内崩壊錠に「Zydis(商品名)」があるが、これは主薬とゼラチン、マンニトールの他、甘味剤、香料などを水に分散させ、PTPブリスターの鋳型に注入後、真空凍結乾燥して得られるといわれている。
ところが、これら成型物は多孔性に富み、速崩壊性が得られるものの、強度(硬度)が不十分で、製造中、輸送中、保存中などに割れ、カケ等が発生しやすく、また製造工程が煩雑で、特殊な製剤技術、設備を要するなどの問題がある。
【0003】
また、特許文献2には、糖類を含む混合物に水分を含ませて打錠し、その後乾燥する方法が記載されている。ところが、この方法では、強度の点は改善される可能性があるが、糖類を含む混合物に水分を均一に含ませたり、障害を伴うことなく打錠を行ったりするために特殊な製剤技術を必要とする問題がある。
【0004】
特許文献3には、平均粒子径30μm以下の糖アルコールまたは糖類と、活性成分と、崩壊剤とを組み合わせ、この混合物を造粒後、圧縮成形することによる口腔内速崩壊錠が開示されている。そして、平均粒子径約60μmのD−マンニトールとこれを粉砕して平均粒子径を約20μmとしたものをそれぞれ用いて比較した結果、錠剤硬度の点では、前者は著しく低いのに対して、後者は十分であることが記載されている。
しかしながら、D−マンニトールは、微粉砕することにより粉立ち、流動性が低下するというハンドリング面での問題がある。
【0005】
特許文献4には、活性成分、平均粒子径が30μm〜300μmの糖または糖アルコール、崩壊剤およびセルロース類を含有する速崩壊性固形製剤が記載されている。この方法においては、必要とされる成分数が多いことから、製造における各成分の管理やハンドリングなどの面で煩雑さが増す問題がある。
【特許文献1】特許第2807346号公報
【特許文献2】特開平5−271054号公報
【特許文献3】国際公開第97/47287号パンフレット
【特許文献4】特開2001−58944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特殊な設備や技術を使用せずに比較的簡便に製造でき、口腔内で速やかに崩壊する速崩壊性を有し、製造中、輸送中、保存中などに破損しにくい硬度も備えた口腔内速崩壊錠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、錠剤の添加剤成分として、特定の割合からなるデンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとを用いるとともに、これらの錠剤中の合計含有量を特定の範囲に制御することによって、速崩壊性を有し、十分な錠剤硬度も備えた口腔内速崩壊錠が得られることを見出した。
また、これら添加剤成分のうち、少なくともデンプンについては、あらかじめ造粒してから圧縮成形することにより、このような優れた硬度がより一層得られやすいことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の口腔内速崩壊錠は、デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上であることを特徴とする。
前記デンプンは、コメデンプンであることが好ましい。
本発明の口腔内速崩壊錠の製造方法は、デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上である混合物を圧縮成形する口腔内速崩壊錠の製造方法であって、少なくとも前記デンプンを顆粒に造粒してから、前記圧縮成形を行うことを特徴とする。
具体的には、前記デンプンを顆粒に造粒した後、該顆粒と前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースと前記活性成分とを混合し、前記圧縮成形を行うことが好ましい。
または、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとを混合して顆粒に造粒した後、該顆粒に前記活性成分を混合して、前記圧縮成形を行うことが好ましい。
または、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースと前記活性成分とを混合して顆粒に造粒した後、前記圧縮成形を行うことが好ましい。
前記デンプンは、コメデンプンであることが好ましい。
前記造粒は乾式造粒法で行っても湿式造粒法で行ってもよく、湿式造粒法を採用した場合には、得られた前記顆粒の水分活性(aw)をその水分活性(aw)が0.4〜0.8になるように調湿してから、前記圧縮成形を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特殊な設備や技術を使用せずに比較的簡便に製造でき、口腔内で速やかに崩壊する速崩壊性を有し、製造中、輸送中、保存中などに破損しにくい硬度も備えた口腔内速崩壊錠を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[口腔内速崩壊錠]
本発明の口腔内速崩壊錠は、デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有するものであって、このうちデンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとは、添加剤成分として含まれるものである。
デンプンとしては特に制限はなく、公知のデンプンやその誘導体を1種以上使用でき、例えば、錠剤の添加剤として一般に使用されるコムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプンなどが使用できる。これらのデンプンの製造方法としても種々の方法が知られているが、日本薬局方のそれら各条に適合するものであれば、どのような製造方法で製造されたものでも使用できる。
また、その他にも、デンプンとしては、甘藷デンプン、タピオカデンプン、クズデンプンなどを使用できる。
デンプンの誘導体としては、酢酸エステル、リン酸モノエステルなどのエステル化デンプン、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、カルボキシメチルエーテルなどのエーテル化デンプンなどがある。
【0011】
これらデンプンのなかでは、口腔内速崩壊錠を口に含んだ際に味の点で違和感がなく、舌触り感がよい点、また、成形により硬度の高い口腔内速崩壊錠が得られやすい点などからは、コメデンプンまたはその誘導体を使用することが望ましい。コメデンプンは、粒径が2〜5μmと市販のデンプン中で最も小さいと言われており、このことがザラツキ感のない良好な舌触り感を発現する要因であり、また、口腔内速崩壊錠の結合性を高める作用も奏すると考えられる。
【0012】
結晶セルロースは、α−セルロースを酸で部分的に解重合し、精製したものであり、例えば旭化成ケミカルズ(株)製、商品名、セオラスPH−101、同PH−102、同PH−301、同PH−302、同PH−F20などが挙げられる。
一方、粉末セルロースは、α−セルロースに対して部分的に加水分解などの処理を行った後、精製し、機械的に粉砕したもので、例えば日本製紙ケミカル(株)製、商品名、KCフロックW−100、同W−200、同W−300、同W−400などが挙げられる。
結晶セルロースと粉末セルロースは、これらのうち少なくとも1種が口腔内速崩壊錠に含まれていればよく、ともに含まれていてもよい。
【0013】
口腔内速崩壊錠中のデンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの質量比、すなわち、デンプン:結晶セルロースおよび/または粉末セルロース=90:10〜50:50であり、好ましくは85:15〜60:40である(ただし、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの合計を100とする)。質量比がこのような範囲外であると、十分な性質の口腔内速崩壊錠が得られない。すなわち、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの合量中、デンプンの比率が90質量%を超えると、口腔内速崩壊錠の崩壊時間が長くなり、速崩壊性が得られない。一方、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースの比率が50質量%を超えると、特有の口に含んだ時の紙様の味が著しくなり、服用時に支障を生ずる。
【0014】
また、口腔内速崩壊錠中のデンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースの合計含有量は60質量%以上であり、好ましくは65質量%以上である。60質量%未満であると、崩壊時間が長くなり速崩壊性が得られない、あるいは必要な錠剤硬度を確保することができないなど、口腔内速崩壊錠としての性質を満足しなくなる。
【0015】
活性成分は、経口投与可能な活性成分であれば特に限定されず、活性成分の有する苦みなどの不快な味を隠蔽する目的や、または腸溶化、徐放化するなどの目的で、あらかじめ造粒により微粒状にされた後、公知の方法によりコーティングされたものを用いてもよい。
具体的には、催眠・鎮静剤、解熱鎮痛消炎剤、精神神経用剤、自律神経用剤、抗パーキンソン剤、抗ヒスタミン剤、強心剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、動脈硬化用剤、鎮咳去痰剤、ビタミン剤、滋養強壮薬、抗生物質、胃腸薬などが挙げられる。
これら活性成分の口腔内速崩壊錠中の含有量は、活性成分の種類により異なるが、通常30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下である。
【0016】
[口腔内速崩壊錠の製造方法]
このような口腔内速崩壊錠は、上述したデンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含み、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上である混合物を圧縮成形する方法により製造できる。圧縮成形により錠剤を製造する一般的な方法(圧縮法)としては、いわゆる直接粉末圧縮法(以下、直接打錠法と言う場合もある。)や顆粒圧縮法があるが、本発明の口腔内速崩壊錠はこれらのいずれの方法によっても製造できる。
【0017】
なお、直接打錠法とは、基本的には、活性成分などの必須成分を含む原料に、賦形剤のほか必要に応じて粉末状の結合剤、崩壊剤などの添加剤を加えた混合物に、圧縮時にさらに滑沢剤を加えて、打錠機で直接圧縮成形する方法である。この方法は、粉体を基本的には前処理しないで直接打錠する方法であり、粉体の圧縮成形性が良好な場合に採用される。ただし、成形性や流動性の改良目的で、活性成分を含む粉体や賦形剤などがあらかじめ顆粒に造粒され、直接打錠用原料として市販されている場合もある。
一方、顆粒圧縮法とは、まず、賦形剤などを用いて、活性成分などの必須成分を全て含む原料(ただし滑沢剤を除く。)を顆粒とし、ついで、得られた顆粒に滑沢剤などを加えて、打錠機で圧縮成形する方法である。ここで、顆粒を乾式造粒法で製造した顆粒圧縮法は乾式顆粒圧縮法と呼ばれ、湿式造粒法で製造した顆粒圧縮法は湿式顆粒圧縮法と呼ばれる。
【0018】
より好ましい口腔内速崩壊錠の製造方法としては、少なくとも流動性の低いデンプンについては、これをあらかじめ造粒して顆粒とし、この顆粒を含む混合物を打錠機などで圧縮成形する方法が挙げられる。この方法を採用すると、含量均一性に優れ、速崩壊性を有し、錠剤硬度も十分な口腔内速崩壊錠がより一層得られやすい。デンプンをあらかじめ顆粒に造粒しない場合には、打錠末の流動性が不足し、打錠操作が困難になる傾向がある。
具体的には、以下の(1)〜(3)の方法などが好適である。
(1)デンプンを顆粒に造粒した後、この顆粒と結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと活性成分とを混合し、得られた混合物を圧縮成形し、錠剤とする方法。
(2)デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとを混合して顆粒に造粒した後、この顆粒と活性成分とを混合し、得られた混合物を圧縮成形し、錠剤とする方法。
(3)デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと活性成分とを混合して顆粒に造粒した後、この顆粒を圧縮成形し、錠剤とする方法。
上述の(1)〜(3)の方法のうち、(1)および(2)の方法は一般には直接打錠法の範疇とされ、(3)は顆粒圧縮法の範疇とされるものである。
【0019】
なお、(1)の方法の場合、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースについては、必要に応じて造粒操作を行い、あらかじめ顆粒にしておいてもよい。また、活性成分についても、粉体状のものを使用してもよいし、直接打錠用原料として一般に市販されている顆粒状のものを使用してもよい。さらには、活性成分と結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとを混合して、あらかじめ顆粒にしておいてもよい。
(2)の方法の場合にも、活性成分としては、粉体状のものを使用してもよいし、直接打錠用原料として一般に市販されている顆粒状のものを使用してもよい。
【0020】
<造粒方法>
上述の(1)〜(3)の製造方法などにおいて、顆粒を製造するための造粒方法としては、乾式造粒法または湿式造粒法を採用できる。
(乾式造粒法)
乾式造粒法を採用する場合には、まず、造粒対象の粉体(以下、造粒粉体という。)に必要に応じて添加剤を混合し、得られた混合物をロール式高圧圧縮成形機などによりロール圧縮成形し、高密度の板状成型物(以下、フレークということもある。)とする。この際のロール圧縮成形の条件としては、造粒粉体の供給量を100質量%とした際に60〜95質量%のフレークが得られるようにする。ついで、目的の粒度となるように、このフレークを多段式ロール解砕機や各種の製粒機に通し、必要があればさらに適当な粒度分布になるように篩い分けを行う。
【0021】
ここで、上述の(1)や(2)の方法のような直接打錠法において、乾式造粒法により顆粒を造粒する場合には、添加剤として、通常、甘味料や滑沢剤などが使用される。
甘味料としては、口腔内速崩壊錠を服用したときの舌触り感などを改善する目的でD−マンニトール、D−ソルビトール、白糖、アスパルテーム、キシリトール、果糖、ブドウ糖などが使用され、その使用量は造粒粉体中おおむね5質量%以下である。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油などが挙げられ、通常、造粒粉体中5質量%以下の量で使用される。
【0022】
また、得られた顆粒を圧縮成形に供する際には、得られる口腔内速崩壊錠の硬度をより高めたり、口腔内速崩壊錠の質量偏差を望ましい範囲内にコントロールしたり、口腔内速崩壊錠の含量均一性を高めたりする目的で、あらかじめ顆粒の粒度をその平均粒子径が50〜300μmの範囲となるように、篩い分けにより調整しておくことが好ましい。
【0023】
上述の(3)の方法のような顆粒圧縮法において、乾式造粒法により顆粒を造粒する場合には、添加剤として、通常、一般の賦形剤や、崩壊性を促進させるための崩壊剤(例えばクロスポピドンなど)が使用される。また、上述の甘味料や滑沢剤、さらには香料、着色剤なども必要に応じて使用される。
【0024】
(湿式造粒法)
上述の(1)〜(3)の製造方法において湿式造粒法を採用する場合には、液状の結合剤を使用し、破砕型造粒法、撹拌造粒法、流動層造粒法、遠心転動造粒法、遠心転動流動層造粒法、噴霧造粒法などの公知の造粒法で造粒すればよい。
例えば破砕型造粒法の場合、造粒粉体に液状の結合剤を添加して造粒機で適当な大きさの軟塊を作り、破砕造粒機を用いて破砕し、ついで乾燥機で乾燥することで顆粒が得られる。なお、大きな顆粒については、粉砕される。
【0025】
これら湿式造粒法では、液状の結合剤として水や有機溶媒などの溶媒がそのまま使用される場合や、これら溶媒に、例えばヒドロキシプロピルセルロースやポリビニルピロリドンなどの結合剤成分を溶解した溶液が使用される場合がある。しかしながら、得られた顆粒を品質管理のために組成分析する必要がある場合(例えば直接打錠法の場合)などには、造粒粉体に含まれるデンプンと同種のデンプンの水溶液や、水や有機溶媒のみを結合剤として使用すると、組成分析に支障を来すことがないため好ましい。
【0026】
また、湿式造粒法で顆粒を製造した際には、顆粒の水分量を調湿してから、圧縮成形に供することが好ましい。水分含量は、それを含む粉体を圧縮成形する際の圧縮成形性や結合性に影響を与え、低すぎると十分な成形性が発現しない傾向がある。一方、水分が高すぎると粉体の流動性が低下するなどの問題が生じやすい。なお、市販されているデンプンの水分含有量は、一般に10質量%を超える。
【0027】
水分含量の指標として好適な水分活性(aw)は、通常25℃程度の室温において、試料を容器に密封したとき、平衡状態に達した容器内の相対湿度を100で除して得られる値であって、顆粒の水分活性(aw)が0.4〜0.8であると、その成形性や流動性などが良好となる。水分活性が0.4未満では、顆粒の成形性が不十分であるために、圧縮成形で得られた口腔内速崩壊錠が十分な硬度を有さない傾向があり、0.8を超えると、顆粒の流動性が低下する、打錠時にスティッキングなどの打錠障害を起こすなどの問題が起こりやすい。
【0028】
調湿方法としては、例えば、顆粒を一定の温度と湿度にコントロールされた恒温恒湿の雰囲気下に放置する方法、混合・撹拌装置または流動層に充填し、撹拌または流動させながら、これに水を噴霧したり、調湿した空気を供給したりする方法がある。
水分活性は、例えばフロイント産業(株)製の商品名「EZ−100」など、市販されている水分活性測定装置により測定される。
【0029】
従来の一般の湿式顆粒圧縮法では、湿式造粒法で顆粒を製造する際の乾燥工程において、デンプンの水分含量が低下し、その結果、顆粒の圧縮成形性や結合性が低下してしまっていたと考えられる。よって、これらの性能を確保するためには、顆粒を圧縮成形に供する前に、顆粒の水分活性をコントロールしておくことが重要であると考えられる。なお、湿式造粒法で得られた顆粒の水分活性が0.4〜0.8の範囲内である場合には、調湿しなくてよい。また、調湿するための工程を別途設けずに、湿式造粒法で顆粒を製造する際の通常の乾燥工程の条件を制御することにより、得られる顆粒の水分活性が0.4〜0.8の範囲内となるようにしてもよい。
【0030】
なお、上記(1)や(2)の方法のような直接打錠法において、湿式造粒法により顆粒を造粒する場合には、乾式造粒法を採用した場合と同様に、上述の甘味料を造粒粉体中おおむね5質量%以下の範囲で使用できる。また、湿式造粒法で得られた顆粒を圧縮成形に供する際には、乾式造粒法を採用した場合と同様に、あらかじめ顆粒の粒度をその平均粒子径が50〜300μmの範囲となるように、篩い分けにより調整しておくことが好ましい。
また、上述の(3)の方法のような顆粒圧縮法において、湿式造粒法により顆粒を造粒する場合には、乾式造粒法を採用した場合と同様に、通常、一般の賦形剤や、崩壊性を促進させるための崩壊剤(例えばクロスポピドンなど)が使用される。また、上述の甘味料や滑沢剤、さらには香料、着色剤なども必要に応じて使用される。
【0031】
<圧縮成形方法>
圧縮成形の方法としては、単発打錠機、ロータリー打錠機など、臼と杵を有する打錠機を用いた方法が好ましい。その際、(1)や(2)の方法のような直接打錠法の場合には、錠剤の製造一般に使用される直接打錠用の賦形剤、崩壊剤(例えばクロスポピドンなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油など)、流動化剤、香料、甘味剤、着色剤などを必要に応じて添加して、打錠すればよい。滑沢剤は、通常、口腔内速崩壊錠中5質量%以下の量で使用される。また、滑沢剤は、その他の添加剤とは分けて、独立して軽く混合する方法で打錠時に添加することが好ましい。流動化剤としては、打錠する粉末の流動性向上や得られる錠剤の硬度を高くする目的で、軽質無水ケイ酸などが使用されるが、その使用量は通常、打錠対象の混合物中0.1〜0.5質量%である。
【0032】
上述の(3)の方法のような顆粒圧縮法の場合には、添加剤として、通常、滑沢剤を加え、さらに賦形剤、崩壊剤、香料、甘味料、着色剤などの添加剤のうち、このタイミングで添加されることが好適な添加剤を適宜加え、上述の打錠機で打錠すればよい。
【0033】
圧縮成形して得られる口腔内速崩壊錠の形状には制限はないが、断面が円形状のものならば直径6〜10mmで、1錠あたりの質量は100〜500mg程度が実用的である。また、この場合の打錠に適した圧力(圧縮圧)としては、おおむね15kN以下が望ましい。
また、こうして得られた口腔内速崩壊錠については、その製造方法によらず、水分量を減少させるための公知の方法による乾燥、公知の方法によるコーティングを行ってもよい。
【0034】
[作用・効果]
このような口腔内速崩壊錠は、デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上である。よって、水を用いずに服用した場合でも、舌触り感が気になるなどの違和感を伴うことがなく、口腔内で速やかに軟化、崩壊し、口に含んだときの崩壊時間は30秒以下、好ましくは20秒以下である。また、この口腔内速崩壊錠は、このような速崩壊性を備えているとともに、その製造中、輸送中、保存中などに破損しにくい十分な硬度を有している。錠剤硬度は口腔内速崩壊錠の大きさにも依存するために一概には言えないが、錠剤硬度計による測定値でおおむね30〜150Nの範囲である。
また、このような口腔内速崩壊錠は、優れた効果を備えた製剤でありながら、安価なデンプンを主成分とし、また、特別な設備、技術を要せず、一般の設備、技術で比較的簡便に製造できることから、コスト面で有利である。また、必須とされる添加剤成分も少ないことから、製造における工程数や原材料の管理に要する労力も少なくてすみ、その点でもコスト的に好ましい。
【0035】
本発明の口腔内速崩壊錠が特に優れた速崩壊性を発現する理由については必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
すなわち、一般の錠剤の添加剤には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などがあり、通常、デンプンは賦形剤あるいは崩壊剤に、また、結晶セルロースは、粉末として用いられる結合剤に分類されている。崩壊剤としてのデンプンは、緩和な崩壊性を与える目的で使用されるのが一般的で、速崩壊性は期待できないことが知られていて、実際、デンプンを添加剤として単独で用いた場合には、望ましい速崩壊性を持つ錠剤は得られない。ところが、デンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとを特定の質量比率で併用し、かつ、錠剤中におけるこれらの合計含有量を特定の範囲とすることによって、速崩壊性が発現することを本発明者は見出した。
このような観点からみれば、本発明においては、デンプンは賦形剤としての機能を有し、結晶セルロースや粉末セルロースは粉末として用いられる結合剤として作用すると同時に、崩壊剤としても作用していると推測できる。
【0036】
結晶セルロースや粉末セルロースは、粉末として用いられる結合剤として汎用されるものの、一般的に崩壊剤としての機能を期待する用い方はされない。
例えば、「第十四改正日本薬局方解説書」廣川書店(2001)には次のような記載がある:粉末として用いられる結合剤としては結晶セルロースが汎用される(ページA−64)、崩壊剤は水中または消化管液中で錠剤に崩壊性を与える添加剤である。デンプン(薬剤の5%、必要に応じ10〜20%程度加える)が最も広く用いられる。最近は崩壊能のすぐれたカルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなども使用されている(ページA−64〜A−65)。
また、津田恭介、野上寿編:医薬品開発基礎講座XI、薬剤製造法(上)ページ135では直接粉末圧縮法における結合剤の解説があり、結合剤として用いられる物質について多数の例示があるが、結晶セルロースおよび粉末セルロース(ここではα−セルロースとして記載されているが粉末セルロースと同義である)も含まれている。また、同書ページ146には結晶セルロースについて解説があり、次のような記載がある:・・・一方この物質は、吸水性が大きく錠剤内部への水の導入が速く、・・・、また水による膨潤が少なく、崩壊剤としての作用は弱い。
このような記載から、結晶セルロースは結合性を発揮し、錠剤硬度を高める作用を奏することは推測できる。しかしながら、驚くべきことに、本発明の口腔内速崩壊錠においては、結晶セルロースが結合剤として機能する一方で、同時に速い崩壊性に寄与している。この理由は明らかでないが、上記記載のように、錠剤内部への水の導入が速いことがデンプンの何らかの性質と結びついて、いわば崩壊助剤的な働きをしていることが推察できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
破砕型造粒法を適用してコメデンプンの顆粒を調製した。具体的にはコメデンプン500gに水を加えて乳鉢中で混練を行い、目開きが500μmのふるいを通して、50℃の乾燥機中で乾燥し、さらに同じふるいを用いて篩い分けた。得られた造粒物をさらに30℃、相対湿度60%の恒温恒湿器に16時間放置することにより調湿し、水分活性(aw)が0.64のコメデンプンの顆粒を得た。水分活性(aw)の測定には、フロイント産業(株)製、商品名:EZ−100を用いた また、得られた顆粒について、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製、商品名、マイクロトラック粒度分析計)を用いてその平均粒子径を測定した結果、163μmであった。
得られたコメデンプン顆粒と、活性成分であるマレイン酸クロルフェニラミン(抗ヒスタミン剤)と、結晶セルロースとを表1に示す質量比で混合し、さらに、この混合物99.5質量部に滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部を混合し、これを打錠する打錠試験を行った。なお、結晶セルロースには、「旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:セオラスPH−101」を用いた。
デンプンと結晶セルロースの質量比は70.6:29.4であり、錠剤中のこれらの合計含有量は96.5質量%である。
【0038】
打錠条件は以下の通りである。
打錠機:単発打錠機、FY−SS−7(富士薬品機械(株))
打錠圧:4kN
錠剤:径10mmの平形錠、質量は1錠当たり330mg
【0039】
得られた錠剤(口腔内速崩壊錠)の錠剤硬度および口腔内崩壊時間について、以下のようにして測定した。その結果、得られた錠剤の錠剤硬度は76Nであり、口腔内崩壊時間は14秒であった。
錠剤硬度:錠剤硬度計SCHLEUNIGER 6D (フロイント産業社製)を用いて測定した。
口腔内崩壊時間:水で口をすすいだ後、錠剤1錠を口に入れてから、軽く舌を動かして、固形物による異物感がなくなるまでの時間を測定した。
【0040】
[比較例1〜3]
コメデンプン顆粒と、活性成分であるマレイン酸クロルフェニラミン(抗ヒスタミン剤)と、結晶セルロースとの質量比を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして打錠試験を行った。そして、得られた錠剤について、実施例1と同様の測定した。結果を表1に示す。
なお、結晶セルロースが過剰な比較例1のものでは、錠剤を口に含んだ時、特有の紙様の味が著しかった。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例2]
トウモロコシデンプンと実施例1で使用したものと同じ結晶セルロースとを7:3の質量比で混合し、この混合物5.0kgを流動層造粒コーティング装置(フロイント産業(株)製、商品名、フローコーターFLO−5)に仕込んだ。そして、別途調製したトウモロコシデンプンの溶液(トウモロコシデンプンを水に加えて加熱、溶解させたトウモロコシデンプン濃度が3質量%の溶液)2500gを室温に冷却した後、全量を上述のコーティング装置内にスプレーして、造粒を行った。この造粒では、スプレーを終了した後、乾燥が過度に進行しないように条件を制御し、水分活性(aw)が0.69の顆粒を得た。また、この顆粒の平均粒子径は123μmであった。
この顆粒96.5質量部に、活性成分であるマレイン酸クロルフェニラミン3.0質量部と、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部とを加えて混合物200gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし、打錠圧のみ6kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様に測定した結果、錠剤硬度は65Nであり、口腔内崩壊時間は11秒であった。
また、デンプンと結晶セルロースの質量比は約70.4:29.6であり、錠剤中のこれらの合計含有量は約96.5質量%である。
【0043】
[実施例3]
コメデンプンに乾式造粒法を適用してコメデンプンの顆粒を調製した。具体的にはコメデンプン99.5質量部にステアリン酸マグネシウム0.5質量部を加えた混合物300gを、仕込み容量の800mLのV型混合機を用い、5分間混合した。ついで、この混合物をローラーコンパクターTF−LABO(フロイント産業(株))を用いたロール圧縮成形法により、4MPa(圧力シリンダー・ゲージ圧)の圧力で圧縮成形し、得られたフレーク部分をスクリーン付き整粒機で整粒し、平均粒子径155μmの顆粒を得た。
この顆粒55.4質量部に、実施例1で使用したものと同じ結晶セルロース23.8質量部、活性成分であるエテンザミド(解熱鎮痛消炎剤)20.0質量部、流動化剤である軽質無水ケイ酸(フロイント産業(株)製、商品名:アドソリダー−101)0.5質量部、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.3質量部を加えて混合物200gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし、打錠圧のみ7kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様に測定した結果、錠剤硬度は72Nであり、口腔内崩壊時間は13秒であった。
また、デンプンと結晶セルロースの質量比は約69.8:30.2であり、錠剤中のこれらの合計含有量は約78.9質量%である。
【0044】
[実施例4]
破砕型造粒法による湿式顆粒圧縮法を適用した口腔内速崩壊錠の調製を行った。具体的には、活性成分であるエテンザミド(解熱鎮痛消炎剤)30質量部、コメデンプン49質量部、実施例1で使用したものと同じ結晶セルロース21質量部の混合物500gを乳鉢に入れ、実施例1と同様の条件の破砕型造粒法により、水分活性(aw)が0.62の打錠用顆粒を得た。得られた顆粒99.5質量部に、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部を加えて混合物200gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし打錠圧のみ7kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様に測定した結果、錠剤硬度は75Nであり、口腔内崩壊時間は15秒であった。
また、デンプンと結晶セルロースの質量比は70:30であり、錠剤中のこれらの合計含有量は約69.7質量%である。
【0045】
[実施例5]
乾式顆粒圧縮法を適用した口腔内速崩壊錠の調製を行った。具体的には、活性成分であるエテンザミド(解熱鎮痛消炎剤)20質量部、コメデンプン51.7質量部、粉末セルロース(日本製紙ケミカル(株)製、商品名、KCフロックW−300)27.8質量部、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部の混合物300gを実施例3と同様にして乾式造粒し、平均粒子径125μmの顆粒を得た。
この顆粒99.5質量部に、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部を加えて混合物200gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし打錠圧のみを7kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様に測定した結果、錠剤硬度は62Nであり、口腔内崩壊時間は16秒であった。
また、コメデンプンと粉末セルロースの質量比は65:35であり、錠剤中のこれらの合計含有量は79.1質量%である。
【0046】
[実施例6]
流動層造粒法による湿式顆粒圧縮法を適用した口腔内速崩壊錠の調製を行った。具体的には、活性成分である塩酸チアミン(ビタミン剤)3質量部、コメデンプン63質量部、実施例1で使用したものと同じ結晶セルロース34質量部の混合物3kgを実施例2で使用したものと同じ流動層造粒コーティング装置に仕込んだ。そして、別途調製したコメデンプンの溶液(コメデンプンを水に加えて加熱、溶解させたコメデンプン濃度が3質量%の溶液)1000gを室温に冷却した後、全量を上述のコーティング装置内にスプレーして、造粒を行った。この造粒では、スプレーを終了した後、乾燥が過度に進行しないように条件を制御し、水分活性(aw)が0.64の顆粒を得た。また、この顆粒の平均粒子径は108μmであった。
この顆粒99.5質量部に、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部を加えて混合物200gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし打錠圧のみ7kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様の測定した結果、錠剤硬度は65Nであり、口腔内崩壊時間は15秒であった。
また、コメデンプンと結晶セルロースの質量比は65.3:34.7であり、錠剤中のこれらの合計含有量は96.5質量%である。
【0047】
[実施例7]
破砕型造粒法を適用してバレイショデンプンの顆粒を調製した。具体的にはバレイショデンプン2kgおよび甘味料としてのアスパルテーム6gを5Lニーダーに仕込み、別途調製したバレイショデンプンの溶液(バレイショデンプンを水に加えて加熱、溶解させたバレイショデンプン濃度が5質量%の溶液)800gを練合液として加えて混練した。混練物をニーダーから取り出し、乾燥機中40℃で静置乾燥し、乾燥減量の値が30%となった時点で取り出し、スクリーン型破砕造粒機(岡田精工(株)製、商品名:ニュースピードミル)により破砕し、さらに40℃で16時間静置乾燥し、目開きが500μmのふるいを用いて篩い分けた。得られた造粒物を実施例1と同様に調湿し、水分活性(aw)が0.67、平均粒子径が147μmの顆粒を得た。
得られたバレイショデンプン顆粒62.7質量部に、活性成分(ビタミン剤)であるビタミンCを97質量%含有する顆粒で、直接打錠用の製品として販売されている「BASF武田(株)製、商品名:ビタミンC顆粒−97」10質量部と、実施例1で使用したものと同じ結晶セルロース26.8質量部、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.5質量部を加えて混合物500gを得て、この混合物を実施例1と同様の条件で打錠した。ただし、打錠圧のみ6kNとした。
得られた錠剤について、実施例1と同様の測定した結果、錠剤硬度は71Nであり、口腔内崩壊時間は12秒であった。
また、バレイショデンプンと結晶セルロースの質量比は70:30であり、錠剤中のこれらの合計含有量は89.3質量%である。
【0048】
[参考実験例1−1〜6]
湿式造粒法により得られたコメデンプンの顆粒を調湿することにより、水分活性(aw)の異なる複数の試料を得て、水分活性(aw)が打錠性に及ぼす影響を検討した。
具体的には、実施例1で造粒され、調湿されていない段階のコメデンプン顆粒の一部を30℃/相対湿度60%の恒温恒湿器中に放置し、他の一部を30℃/相対湿度85%の恒温恒湿器中に放置した。また、この際、放置時間を種々変更することで、表2に示すような各種水分活性の試料を得た。
これら各試料70質量部と実施例1で使用したものと同じ結晶セルロース30質量部の混合物30gをポリエチレン袋中で均一になるように十分に混合し、得られた混合物を油圧プレス式成形機により打錠試験(モデル実験)した。この際、混合物には滑沢剤を加えず、圧縮圧を7kN条件とし、直径10mm、1錠当たりの質量が300mgの平型の錠剤を成形した。
得られた錠剤について、実施例1と同様にして測定した錠剤硬度および口腔内崩壊時間を表2に示す。また、参考実験例1−6では、打錠に供した混合物がしっとりしていて、流動性が低い傾向にあった。
【0049】
【表2】

【0050】
[参考実験例2−1〜5]
錠剤中のコメデンプンと結晶セルロースおよび/または粉末セルロースとの質量比が錠剤の性質に及ぼす影響を検討した。
具体的には、実施例1において得られた調湿後のコメデンプン顆粒と実施例1で使用したものと同じ結晶セルロースとを種々の比率で混合し、これを参考実験例1と同様にしてポリエチレン袋中で混合し、さらに同様にして打錠した。
得られた錠剤について、実施例1と同様にして測定した錠剤硬度および口腔内崩壊時間を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3から明らかなように、デンプン:結晶セルロースの質量比において、デンプンの質量比が90:10よりも多いと口腔内崩壊時間が長くなり、一方、50:50よりも少なくなると、結晶セルロースの紙様の味が著しくなり、服用時に不快感を伴う結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、
前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上であることを特徴とする口腔内速崩壊錠。
【請求項2】
前記デンプンは、コメデンプンであることを特徴とする請求項1に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項3】
デンプンと、結晶セルロースおよび/または粉末セルロースと、活性成分とを含有し、 前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの質量比が90:10〜50:50で、かつ、前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとの合計含有量が60質量%以上である混合物を圧縮成形する口腔内速崩壊錠の製造方法であって、
少なくとも前記デンプンを顆粒に造粒してから、前記圧縮成形を行うことを特徴とする口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項4】
前記デンプンを顆粒に造粒した後、該顆粒と前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースと前記活性成分とを混合し、前記圧縮成形を行うことを特徴とする請求項3に記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項5】
前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースとを混合して顆粒に造粒した後、該顆粒に前記活性成分を混合して、前記圧縮成形を行うことを特徴とする請求項3に記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項6】
前記デンプンと前記結晶セルロースおよび/または前記粉末セルロースと前記活性成分とを混合して顆粒に造粒した後、前記圧縮成形を行うことを特徴とする請求項3に記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項7】
前記デンプンは、コメデンプンであることを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項8】
前記造粒を乾式造粒法により行うことを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。
【請求項9】
前記造粒を湿式造粒法により行い、得られた前記顆粒の水分活性(aw)をその水分活性(aw)が0.4〜0.8になるように調湿してから、前記圧縮成形を行うことを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の口腔内速崩壊錠の製造方法。


【公開番号】特開2007−332074(P2007−332074A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165730(P2006−165730)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000112912)フロイント産業株式会社 (55)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【Fターム(参考)】