説明

口腔湿潤用組成物

【課題】 長期にわたって口腔粘膜を湿潤させる効果と同時に歯質のう蝕や酸蝕予防効果を有する口腔湿潤用組成物を提供する。
【解決手段】 グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、水溶性タンパク質または水溶性ペプチド:0.05〜5重量%、水溶性カルシウム塩:0.01〜5重量%、水溶性リン酸塩:0.03〜3重量%から成る口腔湿潤用組成物、あるいは、グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体:0.05〜10重量%から成る口腔湿潤用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口腔内に適用される湿潤用製剤に関するものであり、更に詳しくは口腔粘膜面を長期にわたって湿潤させ、更に口腔乾燥に起因する歯質のう蝕や酸蝕を抑制する効果を持つ口腔湿潤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト口腔粘膜は通常は唾液により湿潤しているが、唾液の分泌が低下すると乾燥感が生じる。一般的には加齢とともに唾液腺が萎縮して唾液分泌量が低下する傾向があり、特に強く口腔内の乾燥を感じる症状を口腔乾燥症という。このような加齢に伴う生理的な唾液分泌量の低下の他にも唾液腺疾患(慢性唾液腺炎,シェーグレン症候群,ミクリッツ症候群等)、分泌中枢及び分泌に関与する神経の障害を起こす疾患,糖尿病そして口腔,鼻腔,咽頭への放射線照射等による唾液腺の障害等で唾液の分泌能が低下しても口腔乾燥が生じる。
【0003】
口腔乾燥が進行すると、舌や唇等の粘膜は乾燥し亀裂が生じてしまい出血し易くなる。また咀嚼,嚥下,味覚等も障害を受けたり、会話も円滑にできなくなったり義歯の保持が困難になる等、日常生活において極めて多くの重大な苦痛を引き起こす。
【0004】
唾液には洗浄作用,緩衝作用,抗菌作用がある。更に、常に過飽和にカルシウムイオンとリン酸イオンが唾液中に存在するので、微生物の糖代謝や食物由来の酸による歯質の侵襲を防ぐ効果がある。しかしながら口腔乾燥症の患者では唾液の恩恵を十分に受けることができないため、う蝕や酸蝕が発生し易くなる。即ち、唾液の分泌量が少なくなるとう蝕や酸蝕のリスクが高くなる。
【0005】
このような問題を解決するための人工唾液の組成物が開発されている。人工唾液は、例えば無機塩類にヒトではない哺乳類からのムチンを添加したもの(例えば特許文献1参照)や、増粘剤としてヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース、殺菌剤としてグアイアズレンスルホン酸ナトリウムを添加したもの(例えば特許文献2,3参照)、増粘剤としてエーテル化度150以上のカルボキシメチルセルロースアルカリ塩を添加するもの(例えば特許文献4参照)、増粘剤としてポリアクリル酸等の水溶液が曳糸性のポリマー、リン酸緩衝剤を使用するもの(例えば特許文献5参照)がある。一方、歯質を保護する、う蝕や酸蝕組成物としてはカルシウム塩やリン酸塩,フッ化物,加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体を含有する口腔ケア用組成物が開示されている(例えば特許文献6,7,8参照)。
【0006】
しかしながら、単に増粘剤と無機塩類を含む組成物や、カルシウム塩,リン酸塩,フッ化物及び加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体を含有する口腔ケア用組成物では、口腔粘膜の湿潤効果はあるものの歯質を保護する効果はないので口腔乾燥症患者がう蝕や酸蝕が発生し易いという問題は解決されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特表昭57−500562号公報
【特許文献2】特開昭59−007116号公報
【特許文献3】特開昭59−027818号公報
【特許文献4】特開昭61−151118号公報
【特許文献5】特公昭55−026121号公報
【特許文献6】特開2005−112841号公報
【特許文献7】特開2005−145952号公報
【特許文献8】特開平06−298631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、長期にわたって口腔粘膜を湿潤させる効果と同時に歯質のう蝕や酸蝕予防効果を有する口腔湿潤用組成物を提供することを課題とする。
【0009】
本発明者等は前期課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリグリセリンと特定の水溶性高分子の増粘剤,水溶性カルシウム塩,水溶性リン酸塩,水溶性タンパク質または水溶性ペプチドを併用することで優れた水分保持の効果と歯質のう蝕や酸蝕予防効果を持った口腔湿潤用組成物を得たのである。また、加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体を用いることで優れた水分保持の効果と歯質のう蝕や酸蝕予防効果を持った口腔湿潤用組成物を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、
グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、水溶性タンパク質または水溶性ペプチド:0.05〜5重量%、水溶性カルシウム塩:0.01〜5重量%、水溶性リン酸塩:0.03〜3重量%から成る口腔湿潤用組成物及び、グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体:0.05〜10重量%から成る口腔湿潤用組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る口腔湿潤用組成物は、口腔を湿潤させるとともにう蝕や酸蝕を抑制することが可能な優れた口腔湿潤用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる口腔湿潤用組成物は保湿成分として、グリセリンを2〜10重量%と、ジグリセリン以上でグリセリン単位を平均で20個まで含むポリグリセリンを25〜60重量%用いる。ポリグリセリンのグリセリン単位は平均で2〜7個であることが好ましい。本発明の口腔湿潤用組成物にグリセリンをポリグリセリンよりも少なく配合する理由は、グリセリンを多く用いると口腔内に残存する水分を吸湿してしまい、かえって乾燥感を増大させてしまうからである。更にグリセリンは甘味が強いので10重量%を超える配合は味覚の面からも適さない。
【0013】
前述したように口腔湿潤用組成物の保湿剤としてグリセリンを多く使用すると、長期にわたって口腔粘膜を湿潤させることは難しくなってしまう。そのため、本発明に係る口腔湿潤用組成物には本来グリセリンを用いないことが好ましいが、市販のポリグリセリンには別途精製しない限りグリセリンが多少含まれてしまっているので、実質的に本発明に係る口腔湿潤用組成物中にはグリセリンを2〜10重量%程度含むことは避けられない。
【0014】
ポリグリセリンは後述する特定の水溶性高分子と併用することで長期にわたって口腔内を湿潤させることが可能である。更にグリセリンと比較して甘味が弱いので口腔湿潤用組成物として使用し易い。
【0015】
本発明に係る口腔湿潤用組成物へのポリグリセリンの配合量は25〜60重量%である。ポリグリセリンが25重量%より少ない場合は長期にわたって口腔粘膜を湿潤させることが困難であり、60重量%を超えて配合すると口腔内に残存する水分を吸湿してしまい、かえって乾燥感を増大させることになり、組成物の甘味が強くなり使用感が悪くなる。
【0016】
本発明に係る口腔湿潤用組成物は、水を20〜60重量%含む水系の組成物である。水が20重量%よりも少ないと後述するカルシウム塩及びリン酸塩の溶解が困難となり、60重量%を超えて配合されると長期にわたって口腔粘膜を湿潤させることが困難となる。
【0017】
本発明に係る口腔湿潤用組成物で用いる水溶性高分子系の増粘剤としては、ポリグリセリンと共に使用することで長期にわたって口腔粘膜を湿潤させることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、アルギン酸ナトリウム,アラビアガム,カンテン,トラガントガム,カラギーナン,キサンタンガム,プルラン,デキストラン等の天然高分子、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウム,ヒドロキシエチルセルロース等の半合成高分子、ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー,ポリビニルアルコール,マクロゴール等の合成系高分子等を例示することができる。中でも、膨潤性,ゲル化性能,口腔粘膜への維持性等の点からカラギーナンがもっとも好ましい。
【0018】
水溶性高分子系の増粘剤は組成物中に0.1〜15重量%配合される。0.1重量%より少ないと口腔湿潤用組成物に十分な粘性を付与することができず、15重量%を超えると口腔湿潤用組成物の粘性が高くなりすぎて使用感が悪くなる。
【0019】
本発明に係る口腔湿潤用組成物に含まれる水溶性のタンパク質またはペプチドは、口腔内で使用可能な水溶性タンパク質またはペプチドであり、例えば、ゼラチン,カゼイン,ムチン,小麦タンパク質,米タンパク質,大豆タンパク質,アーモンドタンパク質及びそれらの加水分解物である。中でも易溶性とコストの点でカゼイン,加水分解カゼインが好ましい。
【0020】
水溶性タンパク質またはペプチドは、本組成物中に0.05〜5重量%配合される。0.05重量%より少ないとう蝕や酸蝕の予防効果が期待できず、5重量%を超えると組成物中に沈殿を生じることがある。組成物中での保存安定性を考えると0.1〜1重量%が好ましい。
【0021】
本発明に係る口腔湿潤用組成物に含まれる水溶性カルシウム塩は、水溶性であれば特に限定されずに使用することができ、例えば、塩化カルシウム,臭化カルシウム,硝酸カルシウム,酢酸カルシウム,グルコン酸カルシウム,安息香酸カルシウム,グリセロリン酸カルシウム,ギ酸カルシウム,フマル酸カルシウム,乳酸カルシウム,酪酸カルシウム及びイソ酪酸カルシウム,リンゴ酸カルシウム,マレイン酸カルシウム,プロピオン酸カルシウムである。中でも水に溶けやすい点から塩化カルシウム,乳酸カルシウムが好ましく、また低コストの点からは炭酸カルシウムが好ましい。
【0022】
水溶性カルシウム塩は組成物中に0.01〜5重量%配合される。0.01重量%より少ないとう蝕や酸蝕の予防効果が期待できず、5重量%を超えると組成物中に沈殿を生じることがある。組成物中での保存安定性を考えると0.1〜1重量%が好ましい。
【0023】
本発明に係る口腔湿潤用組成物に含まれる水溶性リン酸塩は、例えば、リン酸二水素カリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素アンモニウム等のリン酸二水素塩、リン酸水素二カリウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸水素二アンモニウム等のリン酸水素塩、リン酸三カリウム,リン酸三ナトリウム等のリン酸塩である。中でも組成物中でのpHが中性に近い点でリン酸二水素カリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二カリウム,リン酸水素二ナトリウムが好ましい。
【0024】
リン酸塩は組成物中に0.03〜3重量%配合される。0.03重量%より少ないとう蝕や酸蝕の予防効果が期待できず、3重量%を超えると組成物中に沈殿を生じることがある。組成物中での保存安定性を考えると0.1〜1重量%が好ましい。
【0025】
本発明に係る口腔湿潤用組成物においては、水溶性タンパク質またはペプチド,水溶性カルシウム塩,水溶性リン酸塩の組み合わせに変えて、加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体を用いることもできる。加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体は牛乳のタンパク質(カゼイン)由来ペプチドと無機質(非結晶性リン酸カルシウム)の複合体から成る物質である。加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体としては、カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体(以下、CPP-ACPと記す)や、カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体(以下、CPP-ACFPと記す)は、その構成要素の中に歯の無機成分であるカルシウムやリンを含むため、う蝕や酸蝕を抑制する効果が高く好適である。
【0026】
加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体は組成物中に0.05〜10重量%配合される。0.05重量%より少ないとう蝕や酸蝕予防効果が期待できず、10重量%を超えると沈殿を生じることがある。組成物の安定性を考えると0.1〜1重量%が好ましい。
【0027】
本発明に係る口腔湿潤用組成物は前記の物質構成を必須成分とするが、この他、防腐剤や着色料,香料,唾液分泌亢進薬等の各種添加剤を任意に含有させることができる。
【0028】
<実施例>
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
表1に示す各成分となるように原料を混合し口腔湿潤用組成物を作製した。ポリグリセリンは阪本薬品工業社製のジグリセリン801,ポリグリセリン#310,#500,#700を用いた。グリセリンは前記ポリグリセリン中に含まれるグリセリンであり別途配合は行っていない。水は配合量とグリセリンまたはポリグリセリン中等の水の合計量を記載した。
【0030】
<口腔内の湿潤性の評価>
口腔乾燥症状のある10名の被験者に、実施例1〜7、比較例1〜3の口腔湿潤用組成物を口腔粘膜全体に(約1g)塗布し、下記の基準に基づいて使用後に評価を得た。
5点:4時間以上湿潤感が持続した。
3点:1〜4時間未満で湿潤感が持続した。
1点:1時間未満で湿潤感が喪失した。
被験者の評価結果の平均値を表1にまとめて示す。
【0031】
<酸蝕抑制効果の評価>
下記の手順で評価を行った。
(1) 牛歯を歯科用樹脂で包埋し、エナメル質に3mm×3mmの試験面を残してバーニッシュ処理をした。
(2) エナメル質試験面のビッカース硬度を測定し、試験前硬度:HV1とした。
(3) エナメル質試験面に、実施例1〜7,比較例1〜3の口腔湿潤用組成物を薄く塗布し、1%クエン酸水溶液50μLを滴下し、室温で10分間静置した後に水洗した。
(4) クエン酸水溶液処理を行った後にエナメル質試験面のビッカース硬度を測定し、試験後硬度:HV2とした。
【0032】
上記の手順(3)において、歯面に口腔湿潤用組成物を塗布せず、クエン酸水溶液処理のみを行い、エナメル質試験面のビッカース硬度を測定し、試験後硬度:HV3とした。
下記の式1を用いて酸蝕抑制効果(%)を算出した。結果を表1にまとめて示す。
式1:{(HV2)−(HV1)}÷{(HV3)−(HV1)}×100
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、本発明の口腔湿潤用組成物である実施例1〜7が長期にわたる口腔粘膜湿潤性と酸蝕抑制効果を同時に有することが確認された。一方、比較例1,3においては酸蝕抑制効果に問題があり、比較例2は長期の口腔湿潤性について満足できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、水溶性タンパク質または水溶性ペプチド:0.05〜5重量%、水溶性カルシウム塩:0.01〜5重量%、水溶性リン酸塩:0.03〜3重量%から成る口腔湿潤用組成物。
【請求項2】
グリセリン:2〜10重量%、ポリグリセリン:25〜60重量%、水:20〜60重量%、水溶性高分子系の増粘剤:0.1〜15重量%、加水分解タンパク質−非結晶性リン酸カルシウム複合体:0.05〜10重量%から成る口腔湿潤用組成物。

【公開番号】特開2009−235012(P2009−235012A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85062(P2008−85062)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】