説明

口腔用組成物

【解決手段】(A)ピリジンジカルボン酸又はその塩と、(B)非イオン性抗菌剤と、(C)界面活性剤及び/又はアルコールとを含有し、前記(A)成分の配合量が0.001〜5.0質量%、(B)成分の配合量が0.001〜5.0質量%であり、かつ(A)/(B)が質量比で0.5〜50の範囲であることを特徴とする口腔用組成物。
【効果】本発明の口腔用組成物は、口腔疾患の原因である口腔バイオフィルムを殺菌する効果が高く、口腔バイオフィルム内の病原性細菌を殺菌又は静菌して病原性歯垢の形成を抑制し、かつ、良好な香味を有し香味安定性も良好であり、う蝕、歯肉炎、歯周炎、口臭等の口腔細菌が原因となり生じるこれら口腔疾患の改善又は予防用剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯垢等の口腔バイオフィルム内に存在する病原性細菌を殺菌又は静菌することにより、口腔内に形成された病原性バイオフィルムを抑制する効果に優れ、香味も良好であり、う蝕、歯周病、口臭抑制に有効な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕、歯周病、口臭等の原因は、口腔内に生息する細菌であり、う蝕はストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)に代表される口腔連鎖球菌により、歯周病はポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)等の偏性嫌気性グラム陰性桿菌を主体とした細菌により発症する感染症である。また、口臭はフゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nuclestum)等のグラム陰性細菌が関与しているとされている。従って、口腔疾患の予防、改善に有効な手段として、これら口腔内の病原性細菌を殺菌又は静菌することが有用であると考えられている。
【0003】
従来から、口腔内細菌の殺菌手段として数多くの抗菌剤、例えば塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼドニウム、塩化ベンザルコニウム等の陽イオン性化合物や、トリクロサン等の非イオン性化合物が口腔用組成物に配合され、口腔疾患の予防や改善の目的で使用されている。例えば、トリクロサンは歯垢抑制剤として歯磨組成物に配合することが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
これら病原性細菌は、口腔内で歯垢、舌苔等様々な形態のバイオフィルムを形成して生息しており、その生態に関する研究が活発になってきている(非特許文献1参照)。中でも、バイオフィルム中の細菌は、バイオフィルムを形成していない浮遊性の細菌と比較して薬剤への感受性が著しく低下していることが明らかとなり、浮遊性細菌に対し有効であった薬剤もバイオフィルム細菌に対しては必ずしも有効であると考えられなくなってきた(非特許文献2参照)。
【0005】
口腔バイオフィルムに関しても同様に、従来から口腔用組成物に用いられてきた抗菌剤は、浮遊性の細菌には高い効果を発揮し、歯垢形成抑制効果を有すると考えられるが、バイオフィルムを形成した細菌に対しては必ずしも十分な効果を発揮するとは考えられていない。このようなことから、口腔内に形成したバイオフィルム中の細菌を抑制する方法として、例えばトリクロサンの口腔内における滞留性を高める技術(特許文献2)や非イオン性抗菌剤と酒石酸、コハク酸等の特定のジカルボン酸を併用することによりバイオフィルムに対する殺菌力を高める技術(特許文献3)が提案されているが、更に、口腔バイオフィルム中の細菌に対してより有効な、新たな殺菌技術の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−239410号公報
【特許文献2】特開平08−26953号公報
【特許文献3】特開2005−015369号公報
【特許文献4】特表2002−542338号公報
【特許文献5】特表2001−510231号公報
【特許文献6】特開2005−145883号公報
【非特許文献1】Costerton,J.W.Stewart,P.S.and Greenberg,E.P.:Bacterial biofilms:a common cause of persistent infections.Science 284:1318−1322,1999.
【非特許文献2】Stewart,P.S.:Mechanisms of antibiotic resistance in bacterial biofilms.Int.J.Med.Microbiol.292:107−113,2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高い口腔バイオフィルム殺菌作用を示し、歯垢形成抑制に有効な口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ピリジンジカルボン酸又はその塩に口腔バイオフィルム中の細菌に対する殺菌活性があること、更にピリジンジカルボン酸又はその塩に特定の非イオン性抗菌剤を特定割合で組み合わせ、界面活性剤及び/又はアルコールを配合することにより、これら成分が相乗的に作用して、口腔内のバイオフィルムに対する殺菌効果が飛躍的に高まり、しかも、香味が良好で、高温で長期保存しても香味が安定に保持されること、よって、歯肉炎,歯周病,う蝕,口臭等の口腔疾患の改善又は予防効果に優れ、香味も良好な口腔用組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
なお、ピリジンジカルボン酸又はその塩は、ビルダーや過酸化物の安定化剤として広く使用されており、口腔用組成物への配合も知られ、また、非イオン性抗菌剤の配合も知られている(特許文献4,5,6参照)。しかし、ピリジンジカルボン酸又はその塩が口腔バイオフィルム抑制活性を有し、非イオン性抗菌剤と、界面活性剤及び/又はアルコールとを組み合わせて配合することで、これら成分の相乗効果によって高い口腔バイオフィルム殺菌活性が発揮され、香味も良好となるという格別の作用効果が得られることは、本発明者が新たに見出したものである。
【0010】
従って、本発明は、(A)ピリジンジカルボン酸又はその塩と、(B)非イオン性抗菌剤と、(C)界面活性剤及び/又はアルコールとを含有し、前記(A)成分の配合量が0.001〜5.0質量%、(B)成分の配合量が0.001〜5.0質量%であり、かつ(A)/(B)が質量比で0.5〜50の範囲であることを特徴とする口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、口腔疾患の原因である口腔バイオフィルムを殺菌する効果が高く、口腔バイオフィルム内の病原性細菌を殺菌又は静菌して病原性歯垢の形成を抑制し、かつ、良好な香味を有し香味安定性も良好であり、う蝕、歯肉炎、歯周炎、口臭等の口腔細菌が原因となり生じるこれら口腔疾患の改善又は予防用剤として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の口腔用組成物は、(A)ピリジンジカルボン酸又はその塩と、(B)非イオン性抗菌剤と、(C)界面活性剤及び/又はアルコールとを含有することを特徴とする。
【0013】
(A)ピリジンジカルボン酸としては、例えば2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸(別名;ジピコリン酸)、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸等が挙げられる。ピリジンジカルボン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。ピリジンジカルボン酸又はその塩としては、これらから選ばれる1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて配合することができるが、特に2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸及びこれらの塩から選ばれるものを用いることが、殺菌効果発現の観点から好ましい。
【0014】
ピリジンジカルボン酸又はその塩の配合量は、組成物全体の0.001〜5.0%(質量%、以下同様)であり、好ましくは0.01〜3.0%である。配合量が0.001%未満の場合は十分なバイオフィルム抑制効果が得られず、5.0%を超えるとえぐみ等の刺激味が発現して好ましくない。
【0015】
(B)非イオン性抗菌剤としては、具体的に3−メチル−4−イソプロピルフェノール、トリクロサン、チモール、カルバクロール、ファルネソール、ビサボロール、シネオール等が挙げられ、これらの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて配合できる。中でも、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、チモール、ファルネソール、ビサボロールから選ばれる非イオン性抗菌剤を用いることが、殺菌効果発現の観点から好ましい。
【0016】
非イオン性抗菌剤の配合量は、組成物全体の0.001〜5.0%、好ましくは0.001〜1.0%である。配合量が0.001%未満の場合は十分なバイオフィルム抑制効果が得られず、5.0%を超えると刺激味が発現して好ましくない。
【0017】
本発明では、製剤中においてピリジンジカルボン酸又はその塩と非イオン性抗菌剤との効果を有効に発揮させるため、(C)可溶化剤として界面活性剤及び/又はアルコールを配合する。
【0018】
ここで、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
陰イオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウムなどのN−アシルザルコシン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウムなどのN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が用いられる。これらの中でも特に、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウムなどのN−アシルザルコシン酸ナトリウムがバイオフィルム殺菌効果発現の観点から好適に使用することができる。
【0020】
また、ノニオン性界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などのポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ラウリン酸モノ又はジエタノールアミド、ミリスチン酸モノ又はジエタノールアミドなどの脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル等が用いられる。これらの中でも特に、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(とりわけ酸化エチレンの付加モル数が20〜100のもの)などのポリオキシエチレン脂肪酸エステルがバイオフィルム殺菌効果発現の観点から好適に使用することができる。
【0021】
両性イオン界面活性剤としては、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジアミノエチルグリシンなどのN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキルN−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウムなどが用いられる。
【0022】
界面活性剤としては、特に陰イオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを併用することが可溶化の点で好ましく、とりわけラウリル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウムと、酸化エチレンの付加モル数が20〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を組み合わせて使用することが好ましい。
【0023】
界面活性剤を配合する場合、その配合量は、組成物全体の0.1〜5%、特に0.1〜2.5%が好適である。配合量が0.1%未満では、ピリジンジカルボン酸又はその塩や抗菌剤を製剤中で可溶化できない場合があり、バイオフィルム殺菌力が発揮されないことがある。また5%を超えて配合すると、ピリジンジカルボン酸又はその塩や抗菌剤の効果が失活してしまうことや口腔粘膜に刺激を与えることがある。
【0024】
また、アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロパノール等の炭素数2〜4の1価アルコール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール200〜20,000、ポリプロピレングリコール300〜4,000等の多価アルコールなどを挙げることができる。特にエタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール400〜4000が非イオン性抗菌剤の可溶化能に優れ、バイオフィルム殺菌効果発現の観点から好ましく使用される。なお、これらアルコールも1種単独でも2種以上を配合してもよい。
【0025】
アルコールを配合する場合、その配合量は、組成物全体の0.1〜45%、特に0.1〜35%が好ましい。配合量が0.1%未満では、ピリジンジカルボン酸又はその塩と非イオン性抗菌剤を製剤中で可溶化できない場合があり、バイオフィルム殺菌力が発揮されないことがある。また45%を超えると口腔粘膜に刺激を与えることがある。
【0026】
可溶化剤としては、界面活性剤又はアルコールを配合しても、界面活性剤及びアルコールを併用してもよいが、特に界面活性剤及びアルコールを配合することが、各配合成分の溶解性向上の点からより好適である。特にアルコールと陰イオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤とを組み合わせて用いること、とりわけエタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール400〜4000から選ばれるアルコールと酸化エチレンの付加モル数が20〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウムから選ばれる界面活性剤を配合することが、上記、可溶化剤としての有効性の点からより好ましい。
【0027】
界面活性剤及びアルコールの合計配合量は、ピリジンジカルボン酸又はその塩と非イオン性抗菌剤の種類や配合量に応じて適宜調整されるが、組成物全体の0.1〜45%、特に0.1〜35%の範囲とすることが好適である。配合量が0.1%未満ではピリジンジカルボン酸又はその塩と非イオン性抗菌剤とを製剤中で可溶化できない場合があり、45%を超えると口腔粘膜に刺激を与えることがある。
【0028】
本発明においては、(A)ピリジンジカルボン酸又はその塩と、(B)非イオン性抗菌剤と、(C)界面活性剤及び/又はアルコールの成分を組み合わせて配合することが、高いバイオフィルム殺菌力を発揮させるのに有効であるが、この場合、非イオン性抗菌剤に対するピリジンジカルボン酸又はその塩の質量比((A)/(B))を0.5〜50の範囲、特に0.5〜20の範囲とすることが、高いバイオフィルム殺菌効果発現の観点から有効である。質量比が0.5未満であったり50を超えると、満足なバイオフィルム抑制効果が得られなかったり、組成物の香味が劣化する問題が生じる。
【0029】
本発明の口腔用組成物は、固体、固形物、液体、液状、ゲル体、ペースト状、ガム状などの形態にすることができ、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等の歯磨類、洗口剤、マウスウォッシュ、トローチ剤等の様々な剤型にすることが可能であり、その製造方法も剤型に応じた常法を採用することができる。この場合、本発明の口腔用組成物は、その目的、組成物の剤型等に応じて、上述した成分以外にも適宜なその他の任意成分を配合することができる。例えば、練歯磨の場合は、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、甘味剤、防腐剤、有効成分、色素、香料等を配合でき、これら成分と水とを混合し製造できる。
【0030】
具体的に歯磨類の場合には、研磨剤として、第2リン酸水素カルシウム・無水和物及び2水和物、第3リン酸カルシウム、第1リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ベンナイト、ケイ酸ジルコニウム、ポリメタリン酸メチル、その他合成樹脂等の1種又は2種以上を配合できる(配合量通常5〜60%、練歯磨の場合には10〜55%)。
【0031】
また、練歯磨等のペースト状組成物の場合には、粘結剤としてカラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体、キサンタンガム、トラガカントガム、ジェラガム、カラヤガム、アラビアガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等の合成粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイト等の無機粘結剤等の1種又は2種以上を配合することができる(配合量通常0.3〜10%)。
【0032】
更に、歯磨類などのペースト状や液状口腔用組成物においては、粘稠剤として、ソルビット、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖アルコールの1種又は2種以上を配合し得る(配合量通常5〜70%)。
【0033】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、グリチルリチン酸ジカリウム、ペリラルチン、ソーマチン、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル等を配合することができる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
本発明の口腔用組成物には、有効成分としてデキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、キシリトール、塩化亜鉛、水溶性無機リン酸化物、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類及びそれらの誘導体などの公知の有効成分の1種又は2種以上を、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる(配合量通常0.0001〜5.0%)。
【0035】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.001〜2.0%使用するのが好ましい。
【0036】
本発明の口腔用組成物は、アルミニウムチューブ、アルミニウム箔の両面をプラスチック等でラミネートしたラミネートチューブ、プラスチックチューブ、あるいは、ボトル状容器、エアゾール容器等の所定の容器に入れて使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実験例及び実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において%は特に断らないかぎりいずれも質量%である。
【0038】
[実験例]
表1〜4に示す組成で各成分(すべて和光純薬工業社製)を配合することにより試験組成物を調製し、バイオフィルム殺菌効果を下記方法で評価した。結果を表1〜4に示す。
【0039】
モデル歯垢でのバイオフィルム殺菌効果の評価:
用いた細菌はアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)より購入し、以下の方法によりプレカルチャーを行った。アクチノマイセス ヴィスコサス(Actinomyces viscosus)ATCC43146、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)ATCC10953、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)ATCC33277は、5mg/L ヘミン(Sigma社製)及び1mg/L ビタミンK(和光純薬工業社製)を含むトッドへヴィットブロス(Becton and Dickinson社製)培養液〔THBHM〕により培養し、ベイヨネラ パルビュラ(Veillonella parvula)ATCC17745は1.26%乳酸ナトリウム(Sigma社製)を含むトッドへヴィットブロス(Becton and Dickinson社製)培養液〔THBL〕により培養した。なお、培養は、37℃で一晩嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。培養後、菌液は遠心分離(10000rpm、10min)により集菌した。
【0040】
遠心集菌した各細菌はベイサルメディウムムチン培養液〔BMM〕*に再懸濁した後、予め同培地1000mLを入れた培養槽に、菌数がそれぞれ1×107個/mLになるように接種し、37℃、嫌気条件下(95vol%窒素、5vol%二酸化炭素)で一晩培養した。その後、BMMを100mL/時間の速度で供給するとともに、同速度で培養液を排出した。上記培養槽から排出された培養液は、液量が300mLに保たれる別の培養槽に連続的に供給した。この培養槽内の回転盤(約80rpmで回転)には、バイオフィルムの付着担体として直径7mmのハイドロキシアパタイト板(ペンタックス社製)を装着した。
【0041】
上記方法による培養は10日間連続して行い、ハイドロキシアパタイト板上にバイオフィルムを形成させた。培養後取り出したバイオフィルムは、リン酸緩衝生理食塩水**(Phosphate Buffered Saline、以下PBSとする)5mLで2回洗浄した後、表1〜4に示した試験組成物(本発明品及び比較品)5gで10分間浸漬した。その後PBS 5mLで3回洗浄することにより、試験組成物を洗浄した。なお、試験組成物の代わりにPBSで同様に処置したものをコントロールとした。
【0042】
試験組成物のバイオフィルム殺菌効果を評価するため、処置後のバイオフィルムを4mLのTHBHMを添加した試験管(直径13mm×100mm)に移し、直ちに超音波処理(200μAの出力で10秒間)によりバイオフィルムを分散させた。このものを段階希釈(10倍希釈を6段階)し、血液寒天平板***に塗沫した。寒天平板は、肉眼でコロニーの生育が確認できるまで嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)し、コロニー数をカウント後、定法により生菌数(単位;cfu/HA板、CFU:clony forming unitの略)を算出し、下式により比較例1に対する残存生菌数率、有効性のレベルを判定した。表1〜4に結果を示した。
残存生菌数率=Log(試験組成物で処置後の生菌数/比較例1で処置後の生菌数)
【0043】
有効性レベル判定基準
×:残存生菌率が、−1以上
△:残存生菌率が、−3以上−1未満
○:残存生菌率が、−5以上−3未満
◎:残存生菌率が、−5未満
【0044】
*BMMの組成:1リットル中の質量で表す。
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製):
4g
トリプトン(Becton and Dickinson社製): 2g
イーストエキス(Becton and Dickinson社製):2g
ムチン(Sigma社製): 5g
ヘミン(Sigma社製): 2.5mg
ビタミンK(和光純薬工業社製): 0.5mg
KCl(和光純薬工業社製): 1g
システイン(和光純薬工業社製): 0.2g
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした)
【0045】
**PBSの組成:1リットル中の質量で表す。
NaCl(和光純薬工業社製): 8.0g
KCl(和光純薬工業社製): 0.2g
Na2HPO4・12H2O(和光純薬工業社製): 3.63g
KH2PO4(和光純薬工業社製): 0.24g
蒸留水: 残
(1N HClによりpH=7.4に調整し、全量が1Lになるようにメスアップした)
【0046】
***血液寒天平板の組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへヴィットブロス(Becton and Dickinson社製):
30g
寒天(Becton and Dickinson社製): 15g
ヘミン(Sigma社製): 5mg
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg
ウサギ脱繊維血(日本バイオテスト製): 100g
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした)
【0047】
また、表1〜4記載の試験組成物の香味及び香味変化について判定士3名により香味を判定し下記基準により評点を付けた。香味変化は40℃、6ヶ月間保存した試験組成物を対照となる4℃保存品と比較して判定し、データは3名の中間値をとり、結果を表1〜4に示した。
【0048】
評点:
判定 香 味 香味変化
○ 問題なし 香味変化なし
△ 僅かに刺激味あり 僅かに香味変化が認められる
× 明らかな刺激味あり 明らかに香味変化が認められる
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
表1〜4の結果から明らかなように、ピリジンジカルボン酸は単独においてバイオフィルム殺菌効果を有するが、特定の非イオン性抗菌剤と組み合わせることにより、高いバイオフィルム殺菌効果を発現することがわかった。ピリジンジカルボン酸の中でも特に2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸は効果が高く、殺菌活性発現の目的で最も好適に使用することができる。一方、併用する非イオン性抗菌剤の中では、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、チモール、ファルネソール、ビサボロールが強い相乗効果を発揮した。なお、本発明のピリジンジカルボン酸又はその塩と非イオン性抗菌剤とを組み合わせたことにより発現するバイオフィルム殺菌効果は、酒石酸ナトリウム(カルボン酸)とトリクロサンを組み合わせた場合や3−メチル−4−イソプロピルフェノールとコハク酸ナトリウムを組み合わせた場合に比較してより優れていた。
【0054】
以下、実施例を示す。なお、上記例及び下記例で用いた香料は以下の通りである。
【0055】
【表5】

【0056】
*フルーツミックスフレーバーFM3000(調合香料)
ストロベリーフレーバー 40%
アップルフレーバー 15
メロンフレーバー 17
バナナフレーバー 10
ピーチフレーバー 5
オレンジ油 2.5
ラズベリーフレーバー 2.0
パイナップルフレーバー 1.5
グレープフレーバー 1.0
トロピカルフルーツフレーバー 1.5
ミルクフレーバー 1.0
グレープフルーツ油 0.5
レモン油 0.5
ローズ油 0.2
溶剤 残
合計 100.0%
【0057】
[実施例1]練歯磨
第2リン酸カルシウム 45.0%
無水ケイ酸 2.0
ソルビット(70%水溶液) 25.0
プロピレングリコール 2.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
アルギン酸ナトリウム 0.5
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 0.8
サッカリンナトリウム 1.0
安息香酸ナトリウム 0.1
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.1
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.1
香料A 1.0
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=1)
【0058】
[実施例2]練歯磨
炭酸カルシウム 40.0%
プロピレングリコール 4.0
グリセリン 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5
酸化チタン 0.5
ラウリル硫酸ナトリウム 0.8
サッカリンナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.1
1,4−シネオール(和光純薬工業社製) 0.001
ビサボロール(和光純薬工業社製) 0.05
香料B 1.0
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=1.96)
【0059】
[実施例3]練歯磨
ジルコノシリケート 25.0%
無水ケイ酸 2.0
ソルビット液 40.0
ポリエチレングリコール400 5.0
ポリアクリル酸ナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
サッカリンナトリウム 0.2
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.2
トリクロサン(和光純薬工業社製) 0.3
香料C 1.0
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=0.66)
【0060】
[実施例4]液状歯磨
グリセリン 25.0%
ソルビット液(70%水溶液) 25.0
プロピレングリコール 5.0
無水ケイ酸 0.3
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 1.0
サッカリンナトリウム 0.2
安息香酸ナトリウム 0.3
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.2
ファルネソール(和光純薬工業社製) 0.05
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.1
香料D 1.0
トラネキサム酸 0.1
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=1.33)
【0061】
[実施例5]マウスウォッシュ
エタノール 15.0%
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 1.0
グリセリン 15.0
サッカリンナトリウム 0.01
安息香酸ナトリウム 0.3
香料E 1.0
色素 0.004
リン酸2ナトリウム 0.05
硝酸カリウム 1.0
イノシン酸ナトリウム 1.0
塩化セチルピリジニウム 0.02
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.3
チモール(和光純薬工業社製) 0.01
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.02
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=10))
【0062】
[実施例6]洗口剤
エタノール 16.0%
グリセリン 10.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 1.0
サッカリンナトリウム 0.1
ラウロイルサルコシンナトリウム 0.2
色素 0.001
香料F 1.0
塩化リゾチーム 0.3
硝酸カリウム 5.0
硫酸アンモニウム 0.2
3,5−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.3
カルバクロール(和光純薬工業社製) 0.01
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.07
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=3.75))
【0063】
[実施例7]洗口剤
エタノール 10.0%
グリセリン 2.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.2
サッカリンナトリウム 0.1
フェノキシエタノール 0.5
香料G 1.0
2,4−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 1.0
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.05
1,8−シネオール(和光純薬工業社製) 0.001
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=19.6))
【0064】
[実施例8]洗口剤
プロピレングリコール 4.0%
グリセリン 2.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.3
サッカリンナトリウム 0.1
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1
フェノキシエタノール 0.2
香料E 1.0
2,6−ピリジンジカルボン酸(和光純薬工業社製) 0.1
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(和光純薬工業社製) 0.05
精製水 残
計 100.0%
((A)ピリジンジカルボン酸/(B)抗菌剤=2))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ピリジンジカルボン酸又はその塩と、(B)非イオン性抗菌剤と、(C)界面活性剤及び/又はアルコールとを含有し、(A)成分の配合量が0.001〜5.0質量%、(B)成分の配合量が0.001〜5.0質量%であり、かつ(A)/(B)が質量比で0.5〜50の範囲であることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
ピリジンジカルボン酸が、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸から選ばれる1種以上である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
非イオン性抗菌剤が、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、チモール、ファルネソール、ビサボロールから選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2009−149535(P2009−149535A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326648(P2007−326648)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】