説明

口腔用組成物

【課題】口腔内に形成されるバイオフィルムを始め、口腔内に存在する病原性細菌の生育を阻害しながら、口腔疾患の予防や治療のために用いられる口腔用組成物の提供。
【解決手段】ロイコノストック(Lenuconostoc)属の乳酸菌を口腔用組成物に含有させることにより、口腔内のバイオフィルムを形成する主要な口腔内細菌に対して共凝集を引き起こし、さらには、かかる乳酸菌が口腔粘膜に付着して口腔内に定着することによって、口腔内に存在する病原性細菌の生育を効率的に阻害しながら、口腔疾患の予防や治療を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を含有する口腔用組成物に関し、さらに詳しくは、う蝕や歯周病などの原因となる口腔内バイオフィルムを形成する構成要素である口腔内細菌との共凝集を行い、さらに口腔内組織への付着性を有する特定の乳酸菌を含有し、口腔疾患の予防や治療のために用いられる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内には500種を超える微生物(細菌)がそれぞれに適した部位あるいは環境でエコシステムを形成して生息している。エコシステムを形成する過程は、まず口腔粘膜や唾液成分の被膜によって覆われた歯面上に細菌が定着することから始まる。初期付着した細菌には、更にそれらに凝集しやすい別の細菌が付着しながら成熟し、強固なバイオフィルムを形成する。そのようにして形成されたバイオフィルムは細菌同士が共生や拮抗を行いながら独自のエコシステムの上に成り立っているが、ひとたび病原菌にとって生育しやすい環境に傾くと、病原菌が優勢になりう蝕や歯周病などのような口腔疾患を引き起こすことになる。
【0003】
この口腔内のバイオフィルムを構成する細菌は様々なものがあるが、その中でも、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)は菌体表面の線毛を介しながら、またフゾバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)はレクチン様タンパク質を介しながら種々の細菌と結合しており、バイオフィルム形成の中心的な役割を果たしていると言われている。
【0004】
従来は、このような病原細菌に対して、歯ブラシなどのブラッシングにより物理的に排除するか、殺菌剤により病原菌を死滅させることが有効であるとされていた。しかしながら、一度形成されたバイオフィルムに対しては、その強固な性質があるために歯ブラシなどによる物理的除去が困難であり、歯と歯の間の隙間などの部位においてはブラシが届きにくいこともあって物理的除去がより一層困難である。また、殺菌剤は浮遊している病原細菌に対して効果を示しても、バイオフィルムに対してはその表層の細菌にしか殺菌効果を示さないなどの問題がある。そのため、口腔内のバイオフィルムに対しては、その形成が完了する前に対処を行うべきであり、かかる形成過程を阻害することが最も望ましいと考えられる。
【0005】
つまりは、このバイオフィルムが形成される前に、上記のような主要な病原細菌にあらかじめ付着・結合などの共凝集を起こさせておいて、かかる病原細菌がバイオフィルムの形成に寄与しないようにする必要があると考えられる。このような口腔内のバイオフィルム形成阻害に関する研究は従前からも行われており、特定のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(特許文献1)などが有効であることが示されている。しかしながら、このような合成化合物を適用させることは人体に対する副作用なども起こり得ると考えられ、長時間の口腔内の適用を避けるとともに十分な安全性が求められる。
【0006】
これに対して、安全性が高いと考えられる天然物由来のバイオフィルム形成阻害に関する剤として、植物体の乾燥粉末または溶媒抽出エキス(特許文献2)が有効であることが示されている。このような安全性の高い有効成分は、さらには口腔内に定着して長時間その効果を発揮することが求められるが、その定着性については具体的に示されてはいない。
【0007】
一方、体内への定着性として細菌その他の微生物を利用することを考えたときには、病原性および為害性のない細菌などを用いることが必要となる。この点について、乳酸菌やビフィズス菌などの利用が挙げられ、乳酸菌の中には腸内の細菌叢に働きかけるなど、多様な作用により健康に寄与するものがあり、「プロバイオティクス」としても注目されている。その作用は多岐に渡るが、その1つは乳酸菌が粘膜に付着、増殖して、乳酸や他の代謝産物を産生することにより、直接的および間接的に有害な細菌の発育を抑制するものと考えられている。
【0008】
プロバイオティクス細菌としては、ビフィドバクテリウム属(特許文献3)、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属(特許文献4)などが腸内組織を中心に利用されており、口腔内においても応用が試みられている(特許文献5)。しかしながら、口腔内の定着後に他種の細菌などに影響を及ぼすことは示されておらず、ましてや口腔内に形成されるバイオフィルムに対しては何らの提案もされておらず、そのう蝕や歯周病などの口腔疾患に対する効果は十分には示されていない。
【0009】
【特許文献1】特開2005−179268号公報
【特許文献2】特開2006−199661号公報
【特許文献3】特開2004−97222号公報
【特許文献4】特表2005−536197号公報
【特許文献5】国際公開第02/016554号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、う蝕や歯周病などの口腔疾患を予防・治療するためには、口腔内に形成されるバイオフィルムを始め、口腔内に存在する病原性細菌の生育を阻害することが重要である。かかる観点に基づいて、本発明は、口腔内のバイオフィルムを形成する主要な口腔内細菌に対して共凝集を引き起こし、また口腔内組織への付着性を有する特徴を有しながら、口腔疾患の予防や治療のために用いられる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、口腔内バイオフィルムを形成する口腔内細菌と共凝集を引き起こし、また口腔内組織への付着性を有することにより、口腔内に定着してバイオフィルムの形成阻害や病原性細菌の低減などを行い、う蝕や歯周病などの口腔疾患を根本的かつ有効に予防し、進行を阻害もしくは遅延し、または治療し得るものを得るべく鋭意検討を重ねた結果、特定の乳酸菌がかかる作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の口腔用組成物を提供するものである。
項1.ロイコノストック(Leuconostoc)属の乳酸菌を含有する口腔疾患の予防および/または治療のために用いられる口腔用組成物。
項2.ロイコノストック属の乳酸菌が、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である項1記載の口腔用組成物。
項3.乳酸菌が、生きている菌体である項1または2何れか記載の口腔用組成物。
項4.乳酸菌が、凍結乾燥された粉末状の粒子である項1〜3何れか記載の口腔用組成物。
項5.口腔疾患が、う蝕および/または歯周病である項1〜4何れか記載の口腔用組成物。
項6.タブレット、チューインガム、トローチ、キャンディー、練歯磨、口腔用ゲル、または口腔用パスタの形態にある項1〜5何れか記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の乳酸菌を作用させることにより、口腔内に形成されるバイオフィルムの構成細菌と共凝集を引き起こし、かかる乳酸菌を口腔内の粘膜に付着させることができる。これにより、口腔粘膜に付着した乳酸菌が増殖を伴って口腔内に定着することが可能となり、かかる乳酸菌をもってバイオフィルムの構築過程を阻害することが可能となり、さらには口腔内の病原性細菌を低減させ、効果的にう蝕や歯周病などの口腔疾患の予防や治療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられる乳酸菌とは、乳糖やブドウ糖を分解して大量の乳酸を産生する細菌を総称したものをいい、顕微鏡観察による菌体の形態から、球状の形態をした球菌と棒状の形態をした桿菌とに分けることができる。また、乳酸菌の性質から、空気(酸素)の有無に関わらず増殖できる通性嫌気性菌と、空気の存在下ではほとんど増殖することができない偏性嫌気性菌に分けることができる。
【0016】
本発明で用いられる乳酸菌は、ロイコノストック(Leuconostoc)属の乳酸菌から選択される。これら以外の乳酸菌も組み合わせて用いることは可能であり、本発明の効果を達成できるものであれば特に限定されるものではなく、ラクトバチルス(Lactobacillus)属ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属の乳酸菌を使用することができ、その他、エンテロコッカス(Enterococcus)属、バゴコッカス(Vagococcus)属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、テトラゲノコッカス(Tetragenococcus)属などの乳酸菌も利用することができる。
【0017】
本発明に係るロイコノストック属の乳酸菌は、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である。これら以外の乳酸菌も組み合わせて用いることは可能であり、本発明の効果を達成できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Lactobacillus brevis、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus casei、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus rhamnosus、Streptococcus thermophilus、Enterococcus fecalis、Enterococcus faecium、Lactococcus lactis、Leuconostoc mesenteroides、Clostridium butyricumなどが挙げられ、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明に係る乳酸菌は、口腔内細菌との共凝集および口腔内組織への付着作用をより効果的に発揮させるため、生きている菌体である乳酸菌を使用する。そのため、本発明に係る口腔用組成物は乳酸菌の菌体自体が含有されるものであって、乳酸菌の産生物質や発酵生成物などは含まないものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の口腔用組成物に含まれる乳酸菌は、その有効性を安定に長期間維持させておくために凍結乾燥された粉末状の粒子の形態を採用する。このとき、当該凍結乾燥品には乳酸菌培養用培地その他安定化剤などが配合されるため、本発明に係る口腔用組成物にはこれら基剤となる成分などを含めることもできる。そして当該凍結乾燥品を用いる場合には、マルトデキストリンを含むものであることが好ましい。なお、本発明で用いられる乳酸菌については、市販品として、例えばセティ株式会社、ビオフェルミン株式会社、森永乳業株式会社、日東薬品株式会社、天野製薬株式会社、東亜薬品工業株式会社などから購入することができる。セティ株式会社においては、Leuconostoc mesenteroides THT040201などがある。
【0020】
本発明に用いられる乳酸菌が共凝集を行う口腔内細菌は、口腔内バイオフィルムの形成に寄与する微生物(細菌)であれば特に限定されないが、少なくとも、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)およびフゾバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)の両方であることが必要である。なぜなら、P. gingivalisは菌体表面に存在する線毛を利用して、またF. nucleatumは菌体表面のレクチン様タンパク質をもって種々の細菌と結合しており、バイオフィルム形成の中心的な役割を果たしているからである。これらの細菌種と本発明にかかる乳酸菌とが共凝集を起こすことにより、効率的にバイオフィルム形成阻害効果を示すことができる。なお、「共凝集」とは、2種類以上の細菌が結合する現象をいい、バイオフィルム自体もこれらの細菌を中心として他の様々な細菌と共凝集を起こして構成されるものである。
【0021】
また、本発明に用いられる乳酸菌は口腔内組織への付着性を有しており、これにより口腔内に定着して、口腔内細菌との共凝集効果をより高めることができる。かかる乳酸菌が付着する口腔内組織は、口腔内における定着性に寄与するものであれば特に限定されないが、例えば、歯肉、舌、頬、口蓋、唇などの粘膜表面を挙げることができる。また、本発明に用いられる乳酸菌は、これらの口腔内組織に直接的または間接的に付着することもできる。これらの口腔内組織の中でも、口腔内バイオフィルムが歯肉縁上付近の歯牙表面に形成されやすいことを考慮すれば、歯肉粘膜の表面に付着できることが好ましい。
【0022】
これに加えて、一般に乳酸菌は、乳糖やブドウ糖などの糖成分を資化して乳酸を産生するものであるため、これを原因として歯牙エナメル質表面のミネラル溶出を引き起こし、結果としてう蝕を誘発することもあり得る。そのため、本発明に用いられる乳酸菌は、その付着性について上記の通り歯肉粘膜の表面になされると同時に、その上でさらに歯牙表面あるいはその表面に形成されたペリクルには付着しないことが特に好ましい。
【0023】
なお、本発明に係る口腔用組成物を用いることにより、口腔内バイオフィルムの構成細菌と付着や結合を行って、バイオフィルムの形成を阻害し得ることは上述の通りであるが、これに加えて、既に形成されたバイオフィルムに対しても効力を及ぼすことができる。すなわち、かかる乳酸菌が形成後のバイオフィルムに付着・結合することにより、乳酸菌自体またはこれから産生される分泌物などによってバイオフィルムの内部微生物叢を変化させ、あるいはバイオフィルムの物理化学的性質を変化させて、口腔内バイオフィルム自体を不活性化させることができる。
【0024】
またあるいは、上記の通り口腔粘膜に付着する乳酸菌は、その後、乳酸菌自体の増殖により、かかる乳酸菌を口腔内に定着させることもできる。そして、乳酸菌の増殖によって細菌叢中の病原性細菌の量的な割合が減少し、またはかかる乳酸菌から産生される酸性物質またはその他の分泌物などによって病原性細菌を低減させることができる。
【0025】
これらのような考えは、一般に、「宿主の腸内細菌叢のバランスを改善することにより宿主にとって有益な作用をもたらしうる、生きた微生物」として定義される「プロバイオティクス」の概念に基づくといえる。そのため、本発明の口腔用組成物はこのプロバイオティクス効果を口腔において応用させることができるものである。これにより、本発明に係る口腔用組成物は、口腔内におけるプロバイオティクス効果を有した状態で、う蝕や歯周病などの口腔疾患の予防または治療のために用いることができる。
【0026】
本発明の口腔用組成物においては、組成物の全量に対して乳酸菌の菌数濃度として10〜1011CFU/g、好ましくは10〜1010CFU/g配合することにより、効果的に当該乳酸菌と他の口腔内細菌との共凝集を引き起こすことができ、かかる乳酸菌を口腔粘膜に効率的に付着させることができる。乳酸菌の配合量が10CFU/gよりも少ない場合は共凝集や口腔粘膜への付着について満足する効果が得られず、一方1011CFU/gよりも多い場合は製剤上あるいはコスト的にも不利となる。
【0027】
本発明の口腔用組成物は、自体公知の方法により、必要に応じて種々の公知成分を配合し、タブレット、チューインガム、トローチ、キャンディー、練歯磨、軟膏剤、口腔用パスタ、口腔用ゲルの形態で提供することができる。
【0028】
本発明の口腔用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、賦形剤、結合剤、滑沢剤、可溶化剤、界面活性剤、香味剤、甘味剤、粘結剤、研磨剤、湿潤剤、pH調整剤などの処方設計に通常用いられる添加剤や薬効成分などを常法に従って配合することができる。このような素材については、具体的には下記のものが含まれる。
【0029】
賦形剤としては還元パラチノース、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、トレハロース、マンニット、キシリトール、結晶セルロース、ガムベース、ゼラチン、アラビアガムなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらは剤形により配合量は異なるが、通常配合量は5〜95重量%である。
【0030】
結合剤としては、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.5〜5重量%である。
【0031】
滑沢剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステルなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.1〜5重量%である。
【0032】
可溶化剤としては、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコールなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.1〜30重量%である。
【0033】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。
【0034】
アニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ミリストイルサルコシン酸ナトリウムなどのアシルサルコシン酸塩、アシルグルタミン酸塩、パルミトイルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン塩、N−メチル−N−アシルアラニン塩などのアシルアミノ酸塩、ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸塩、ラウリルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0035】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン付加モル数が8〜10であってアルキル基の炭素数が13〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤、アルキルグリコシドなどが挙げられる。
【0036】
両性イオン界面活性剤としては、例えば、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジアミノエチルグリシンなどのN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム、脂肪酸アミドプロピルベタイン、N−[アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられる。
【0037】
これらの界面活性剤は、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.01〜30重量%である。
【0038】
香味剤としては、例えば、メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油などを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.1〜10重量%である。
【0039】
甘味剤としては、例えば、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒドなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.01〜1重量%である。
【0040】
粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルヒドロキシセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、結晶セルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウムなどのアルカリ金属アルギネート、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、カラギーナンなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘結剤などを配合することができる。
【0041】
これらの粘結剤は、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.01〜10重量%である。
【0042】
研磨剤としては、例えば、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、水酸化アルミニウム、ゼオライト、カオリンなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は1〜40重量%である。
【0043】
湿潤剤としては、例えば、ソルビット、グリセリン、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチットなどを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は1〜70重量%である。
【0044】
pH調整剤としては、例えば、乳酸、パントテン酸、リン酸塩、リンゴ酸、クエン酸およびそれらの塩などを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの通常配合量は0.1〜5重量%である。
【0045】
上記以外にも、天然色素などの着色剤、オレンジ油、メントール、ユーカリ油などの香料、可塑剤、懸濁剤および被膜形成剤などを適宜配合することができる。
【0046】
上述した添加剤は、特に断らない限り、目的とする用途や、組成物の形態、使用方法などに応じて、適宜含量を調整して配合することによりう蝕や歯周病の予防または治療効果を一層高めることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
<共試菌試料>
Leuconostoc mesenteroides
Lactobacillus brevis
Lactobacillus acidophilus
Lactobacillus salivarius
Lactobacillus plantarum
Lactobacillus bulgaricus
Lactobacillus casei
Lactobacillus curvatus
Lactobacillus fermentum
Lactobacillus rhamnosus
【0049】
<試験例1 細菌共凝集試験(細菌間における共凝集の確認)>
共試菌に加えて、バイオフィルムの構成要素となる口腔内細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス標準株(P. gingivalis ATCC33277)およびフゾバクテリウム・ヌクレアタム標準株(F. nucleatum ATCC25586)を、それぞれ共凝集試験用緩衝液(Tris:10mM、塩化ナトリウム:0.15M、塩化カルシウム:0.1mM、塩化マグネシウム:0.1mM、pH7.5)に懸濁し、吸光度(OD660nm)が2.0となるように調整した。0.5mLの共試菌懸濁液に対して、等量のP. gingivalis懸濁液またはF. nucleatum懸濁液を蓋付きバイアルの中に入れて、100rpmの回転速度で30分間攪拌した。その後、30分間静置して、目視により以下の基準に基づいて共凝集の評価を行った。なお、本発明では、十分な程度の共凝集をしていることが必要であるため、両菌種に対して完全に共凝集をしている「4」であることを合格基準とした。
4:共凝集は完全にしている(上清が完全に透明になり、沈殿が認められる)
3:共凝集はほとんどしている(上清が透明に近づき、沈殿が認められる)
2:共凝集はわずかにしている(濁度の変化は小さいが、大きな沈殿が認められる)
1:共凝集はほとんどしていない(濁度は変化ないが、細かい沈殿が認められる)
0:共凝集は全くしていない(沈殿なし)
【0050】
<試験例2 細菌付着性試験(歯肉上皮細胞に対する付着性の確認)>
MEM培地(含FBS:10%、抗生物質:1%)で培養した歯肉上皮細胞Ca9−22を、細胞数が1ウェル当たり10個となるように96ウェルプレートに分注し、培養した。共試菌のうちL. mesenteroides、L. brevis、L. acidophilus、L. salivariusをリン酸緩衝液(PBS)に懸濁して、細菌数が2×10CFU/mLとなるように調整した。細胞を培養したウェルに共試菌を100μLずつ分注した後、緩やかに攪拌しながら90分間放置する。その後、上清を取り除き、トリプシン溶液(含EDTA)を100μL加えて、37℃で10分間インキュベートして細胞を剥がした。細胞浮遊液をPBSで10倍段階希釈し、MRS培地に塗抹し、細胞に付着した共試菌を24時間培養した(CO:5%、H:10%、N:85%)。培養後、コロニー数をカウントし、細胞に付着した細菌数を算定した。付着した細菌数については、最初に投与した細菌数に対する割合(%)で求めた。なお、本発明では、増殖しながら口腔内に定着できる程度の粘膜付着性が求められることから、付着性試験の結果が5%以上であることを合格基準とした。試験例1および2の結果をまとめて表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
上記の結果によれば、L. mesenteroides(実施例1)については、いずれの口腔内細菌とも完全に共凝集をしており、粘膜に対する付着性も合格基準を満たすことが示された。さらに、う蝕誘発性も非常に低いことが示された。これに対して、L. brevis(比較例1)、L. acidophilus(比較例2)、およびL. salivarius(比較例3)については、L. mesenteroidesよりも口腔粘膜に対する付着性は低く、その他の共試菌(比較例4〜9)においては口腔内細菌との共凝集自体が見られなかった。
【0053】
以下、本発明に係る乳酸菌含有生菌剤を配合する口腔用組成物を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、特に断らない限り配合量は重量%である。
【0054】
実施例2 タブレット
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 2.0
還元パラチノース 79.85
エリスリトール 15.0
スクラロース 0.1
アセスルファムカリウム 0.05
ショ糖脂肪酸エステル 2.0
香料 1.0
合計 100.0
【0055】
実施例3 タブレット
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
マルトデキストリン 30.0
還元パラチノース 66.9
ステビア抽出物 0.1
香料 1.0
ステアリン酸カルシウム 1.0
合計 100.0
【0056】
実施例4 タブレット
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 0.1
還元パラチノース 58.3
マルトデキストリン 35.0
無水結晶マルトース 5.0
アセスルファムカリウム 0.03
スクラロース 0.07
カルボキシメチルセルロース 0.5
香料 1.0
合計 100.0
【0057】
実施例5 チューインガム
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 2.0
ガムベース(打錠用) 93.4
(キシリトール、還元パラチノースを含む。ガムベース分は全体の20%)
スクラロース 0.1
香料 3.5
ステアリン酸マグネシウム 1.0
合計 100.0
【0058】
実施例6 チューインガム
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
ガムベース 18.0
マルチトール 45.0
キシリトール 15.0
還元パラチノース 12.7
還元澱粉糖化物 3.0
グリセリン 1.0
アラビアガム 2.0
光沢剤 0.3
香料 2.0
合計 100.0
【0059】
実施例7 トローチ
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
還元麦芽糖水飴 96.0
アラビアガム 2.0
ステアリン酸マグネシウム 1.0
合計 100.0
【0060】
実施例8 キャンディー
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
マルトデキストリン 2.0
還元パラチノース 85.95
マルチトール 9.0
還元澱粉糖化物 2.5
スクラロース 0.05
香料 0.4
合計 100.0
【0061】
実施例9 練歯磨
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
第二リン酸カルシウム 20.0
グリセリン 20.0
塩化セチルピリジニウム 0.1
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー 40.0
香料 1.0
サッカリンナトリウム 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 4.0
精製水 残部
合計 100.0
【0062】
実施例10 練歯磨
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
第二リン酸カルシウム 25.0
シリカ 9.0
1,3ブチレングリコール 60.0
ラウロイルサルコシンナトリウム 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 3.0
サッカリンナトリウム 0.1
フッ化ナトリウム 0.2
香料 1.0
精製水 残部
合計 100.0
【0063】
実施例11 口腔用ゲル
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.2
1,3ブチレングリコール 80.0
プロピレングリコール 18.8
合計 100.0
【0064】
実施例12 口腔用パスタ
成分 配合量
乳酸菌菌体粉末(L. mesenteroides、1011CFU/g) 2.0
流動パラフィン 18.0
セタノール 12.0
グリセリン 23.0
ソルビタンモノパルミテート 0.8
ポリオキシエチレン(20EO)ソルビタンモノステアレート 4.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1
塩化ベンゼトニウム 0.1
サリチル酸メチル 0.1
サッカリンナトリウム 0.2
香料 0.3
精製水 残部
合計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコノストック(Leuconostoc)属の乳酸菌を含有する口腔疾患の予防および/または治療のために用いられる口腔用組成物。
【請求項2】
ロイコノストック属の乳酸菌が、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、生きている菌体である請求項1または2何れか記載の口腔用組成物。
【請求項4】
乳酸菌が、凍結乾燥された粉末状の粒子である請求項1〜3何れか記載の口腔用組成物。
【請求項5】
口腔疾患が、う蝕および/または歯周病である請求項1〜4何れか記載の口腔用組成物。
【請求項6】
タブレット、チューインガム、トローチ、キャンディー、練歯磨、口腔用ゲル、または口腔用パスタの形態にある請求項1〜5何れか記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2010−53062(P2010−53062A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218964(P2008−218964)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】