説明

口腔用組成物

【課題】マスティックを含有し、かつ抗菌作用、口臭防止作用、歯周炎抑制作用等に優れた口腔用組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(a)〜(c):
(a)マスティック樹脂及び/又はマスティックオイル0.01〜10w/w%、
(b)フッ化ナトリウム0.02〜0.44w/w%及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウム0.07〜1.52w/w%、並びに
(c)クエン酸及び/又はその塩0.005〜1.0w/w%
を含有する口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う蝕及び歯周病の予防に有用な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の2大疾患であるう蝕及び歯周病の原因は、細菌の塊であるデンタルプラーク(歯垢)であり、日常の口腔清掃手段として歯ブラシとその補助の目的から歯磨剤、並びに洗口液が使われている。
【0003】
マスティック樹脂及び/又はマスティックオイル(単にマスティックとも称する)は、デンタルプラークを形成するう蝕や歯周病の原因となる細菌に対して抗菌作用を示すため(特許文献1)、歯磨剤及び洗口液に配合されている。またマスティックの特異な味や刺激を改善するため、マスティックとティートリー油を、同時に配合した口腔用組成物に関する技術(特許文献2)、マスティックとエタノールを同時に配合した口腔用組成物(特許文献3)、マスティックとl−メントール及び/又はカルボンを同時に配合した口腔用組成物(特許文献4)に関する技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−029982号公報
【特許文献2】特開2004−182649号公報
【特許文献3】特開2003−012483号公報
【特許文献4】特開2002−205930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のマスティック含有口腔用組成物の歯周病原細菌等に対する抗菌力は未だ十分満足できるものではなく、さらに口臭防止作用、歯肉炎に対する抑制作用、使用感等もさらなる改善が望まれていた。
従って、本発明の課題は、マスティックを含有し、かつ抗菌作用、口臭防止作用、歯肉炎抑制作用等に優れた口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、マスティックの抗菌作用等を向上させるべく種々検討したところ、全く意外にもマスティックに、フッ化ナトリウム及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウムを一定量配合すれば、マスティックの抗菌作用が顕著に増強され、さらにこれにクエン酸及び/又はその塩を配合すれば、さらに抗菌作用が増強され、かつ口臭防止作用やさっぱり感も向上することを見出した。さらにまた、本発明の組成物は、界面活性剤を配合しない場合、特に歯肉炎抑制作用に優れていることも見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(a)〜(c):
(a)マスティック樹脂及び/又はマスティックオイル0.01〜10w/w%、
(b)フッ化ナトリウム0.02〜0.44w/w%及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウム0.07〜1.52w/w%、並びに
(c)クエン酸及び/又はその塩0.005〜1.0w/w%
を含有する口腔用組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、フッ化ナトリウム及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウムを有効成分とする、マスティック樹脂及び/又はマスティックオイルの抗菌作用の増強剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、う蝕や歯周病の原因菌に対する抗菌作用が強く、口臭防止作用、歯肉炎抑制作用に優れ、かつ刺激のない口腔用組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の口腔用組成物は(a)マスティック樹脂及び/又はマスティックオイルを含有する。当該成分(a)は、う蝕や歯周病の原因となる細菌に対する抗菌作用を有する。マスティック樹脂は、ウルシ科(Anacardiaceae)のPistacia Lentiscusから採取した樹液である。一方、マスティックオイルは、そのマスティック樹脂より抽出された精油である。例えば、特許文献1には、マスティックオイルの製造法として、以下の方法が記載されている。マスティック樹脂1,000gと中鎖脂肪酸トリグリセリド1,000gとを混合し、60℃の湯浴にて約30分間攪拌して完全にマスティック樹脂を溶解し、次に、これを約50μm程度の目開きの網等に通過、濾過させて不純物を取り除いた後、約25℃に冷却して、マスティック樹脂を溶解した油液としたマスティックオイルを得る。
【0011】
成分(a)の本発明口腔用組成物中の含有量は、抗菌作用、口臭防止作用、歯肉炎抑制作用及び味の点から0.01〜10w/w%である。成分(a)の含有量が0.01w/w%未満では十分な抗菌作用、口臭防止作用が得られず、10w/w%を超えると味、刺激性の点で好ましくない。成分(a)のより好ましい含有量は0.03〜5w/w%であり、さらに好ましくは0.05〜3w/w%である。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、(b)フッ化ナトリウム及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウムを含有する。これらの成分(b)は、通常口腔用組成物に歯の石灰化促進作用等によるう蝕防止剤として用いられているが、成分(b)が、成分(a)のマスティック樹脂又はマスティックオイルの抗菌作用を増強させる効果を有することは全く知られていなかった。フッ化ナトリウムの本発明口腔用組成物中の含有量は、成分(a)の抗菌作用増強効果の点から、0.02〜0.44w/w%であり、より好ましくは0.02〜0.21w/w%である。また、成分(a)とフッ化ナトリウムとの配合量は、成分(a)/フッ化ナトリウムが質量比で0.02〜500の範囲内で調整するのが好ましく、より好ましくは0.15〜250である。モノフルオロリン酸ナトリウムの本発明口腔用組成物中の含有量は、成分(a)の抗菌作用増強効果の点から、0.07〜1.52w/w%であり、より好ましくは0.07〜0.72w/w%である。また、成分(a)とモノフルオロリン酸ナトリウムとの配合量は、成分(a)/モノフルオロリン酸ナトリウムが質量比で0.005〜150の範囲内で調整するのが好ましく、より好ましくは0.04〜75である。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、(c)クエン酸及び/又はその塩を含有する。これらの成分(c)は通常口腔用組成物に緩衝剤として用いられているが、成分(c)が成分(b)との併用により、成分(a)のマスティック樹脂又はマスティックオイルの抗菌作用を増強させる効果を有することは全く知られていなかった。クエン酸及び/又はその塩としてしはクエン酸及び/又はクエン酸アルカリ金属塩(特にクエン酸ナトリウム)が好ましい。クエン酸及び/又はその塩の本発明口腔用組成物中の含有量は、成分(a)の抗菌作用増強効果、矯味の観点から、0.005〜1.0w/w%であり、より好ましくは0.01〜0.5w/w%である。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、上記成分に加えて、任意成分として、通常口腔用組成物に配合されるその他の成分、例えば他の薬用成分、湿潤剤、清掃剤又は基剤、粘度調整剤、pH調整剤、着香剤、矯味剤、着色剤、溶剤、清浄剤等の適宜の成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。
【0015】
薬用成分としては、アズレンスルホン酸ナトリウム、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウム、エピジヒドロコレステリン、ジヒドロコレステロール、塩化ナトリウム、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、β−グリチルレチン酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、塩酸ピリドキシン、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、ゼオライト、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、無水ピロリン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール1540、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール2000、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90、塩化リゾチーム、銅クロロフィリンナトリウム、ヒノキチオール等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0016】
湿潤剤としては、グリセリン、濃グリセリン、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール(ソルビット液)等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0017】
清掃剤としては、無水ケイ酸、ポリリン酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸カルシウム等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0018】
粘度調整剤としては、キサンタンガム、カラギーナン、ポリアクリル酸ナトリウム、ベントナイト、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0019】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0020】
着香剤としては、メントール、ペパーミント等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
矯味剤としては、塩化ナトリウム、キシリトール、サッカリンナトリウム、キシリット、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
着色剤としては、酸化チタン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
溶剤としては、精製水、エタノール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
清浄剤としては、エリスリトール等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0021】
上記成分のうち、湿潤剤は本発明口腔用組成物中に1〜30w/w%含有するのが好ましく、より好ましくは5〜15w/w%である。清掃剤は0.1〜50w/w%含有するのが好ましく、より好ましくは1〜30w/w%である。粘度調整剤は0.1〜10w/w%含有するのが好ましく、より好ましくは1〜7.5w/w%である。
【0022】
一般の口腔用組成物には、発泡剤、洗浄剤として界面活性剤が配合されるが、本発明の口腔用組成物においては、抗菌作用が強いため、界面活性剤を配合しなくても、十分な清浄作用により、歯肉炎等の抑制作用が良好である。従って、本発明においては、界面活性剤を配合しないのが好ましい。
【0023】
本発明口腔用組成物の剤型としては、練歯磨剤、液状歯磨剤等の歯磨剤、洗口液、歯ぐきマッサージ剤等が挙げられるが、歯磨剤とするのが好ましい。
【0024】
本発明の口腔用組成物は、その剤型に応じ、上記必須成分及び上記任意成分を配合し、これら成分と水とを混合して製造することができる。本発明の歯磨剤を収容する容器の材質は特に制限されず、通常、歯磨剤に使用される容器を使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のプラスチック容器等が使用できる。
【0025】
本発明の歯磨剤は、通常、後記の製造例1の操作により調製するが、本発明を達成することができる調製方法であればよく、特に限定はされない。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は何らこれに限定されない。
【0027】
製造例1
後記試験例に使用した歯磨剤は、次のようにして製造した。精製水に、濃グリセリン、キサンタンガムを加え撹拌した。別途、精製水にクエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、酸化チタン、ヒドロキシルエチルセルロースを加え溶解した液を加え撹拌した。その後、ソルビトールにヒドロキシエチルセルロースを分散させた液、エタノール、精製水、無水ケイ酸、マスティックオイル、香料、エタノールにl−メントールを分散させた液、軽質無水ケイ酸を加え、さらに撹拌し、口腔用組成物を得た。また、以下の評価においてはラミネートチューブチューブに約50g充填したものを使用した。
【0028】
〔試験例1〕
(抗菌作用)
実施例1〜25及び比較例1〜13の歯磨剤を調製し、初期プラーク形成細菌であるActinomyces naeslundiiの調整菌液(1×107cfu/mL)を試料に対し1%接種した。酵母エキス及び綿羊無菌脱繊血を添加したブレインハートインフュージョン寒天培地で希釈した試料を混釈し、嫌気条件で培養後、集落数を測定した。結果は表1及び2に示した。
◎:集落数が10個未満。
○:集落数が10個以上1,000個未満。
△:集落数が1,000個以上100,000未満。
×:集落数が100,000個以上。
【0029】
〔試験例2〕
(使用感試験1)
実施例1〜25及び比較例1〜13の歯磨剤を調製し、男女20名をパネラーとし、各口腔用組成物を使用したときの有効性を、下記の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
「口臭の予防」
1:口臭が全く軽減されなかった
2:口臭がほとんど軽減されなかった
3:口臭がわずかに軽減された
4:口臭が軽減された
5:口臭が顕著に軽減された
「口腔内の清掃実感の高さ(さっぱり感)」
1:清掃実感(さっぱり感)が全くなかった
2:清掃実感(さっぱり感)がほとんどなかった
3:清掃実感(さっぱり感)がわずかに高かった
4:清掃実感(さっぱり感)が高かった
5:清掃実感(さっぱり感)が顕著に高かった
各使用感は、20名の評点の平均値から以下に示すように評価し、結果は表1及び2に示した。
「20名の平均評点」
×:1以上〜2未満
△:2以上〜3未満
○:3以上〜4未満
◎:4以上
【0030】
〔試験例3〕
(使用感試験2)
実施例5〜8、21〜25及び比較例9〜13の歯磨剤を調製し、歯肉炎(歯茎の腫れや出血)の自覚がある者12名をパネラーとし、各口腔用組成物を使用したときの有効性を、下記の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
「歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)の緩和効果」
1:歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)が全く軽減されなかった感じがした
2:歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)がほとんど軽減されなかった感じがした
3:歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)がわずかに軽減された感じがした
4:歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)が軽減された感じがした
5:歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)が顕著に軽減された感じがした
歯肉炎症状(歯茎の腫れや出血)の緩和効果は、12名の評点の平均値から以下に示すように評価し、結果は表3に示した。
「12名の平均評点」
×:1以上〜2未満
△:2以上〜3未満
○:3以上〜4未満
◎:4以上
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
表1から明らかなように、フッ化ナトリウム及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウムは、マスティック樹脂及びマスティックオイルの抗菌作用を増強することがわかる。表2から明らかなように、成分(a)、(b)及び(c)を特定量含有する口腔用組成物は、抗菌作用に優れ、かつ口臭防止作用を有し、かつさっぱり感に優れていることがわかる。また、表3から明らかなように、本発明の口腔用組成物は、界面活性剤を配合しない場合に、特に歯肉炎抑制作用に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)〜(c):
(a)マスティック樹脂及び/又はマスティックオイル0.01〜10w/w%、
(b)フッ化ナトリウム0.02〜0.44w/w%及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウム0.07〜1.52w/w%、並びに
(c)クエン酸及び/又はその塩0.005〜1.0w/w%
を含有する口腔用組成物。
【請求項2】
界面活性剤を含有しない請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
歯磨剤である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
フッ化ナトリウム及び/又はモノフルオロリン酸ナトリウムを有効成分とする、マスティック樹脂及び/又はマスティックオイルの抗菌作用の増強剤。
【請求項5】
さらにクエン酸及び/又はその塩を含有する請求項4記載の増強剤。

【公開番号】特開2011−173835(P2011−173835A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39634(P2010−39634)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000108339)ゼリア新薬工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】