説明

口腔顔面ヘルペス治療用の粘膜付着性バッカル錠

本発明は、非環式グアノシン抗ウイルス薬を含む徐放性粘膜付着性バッカル錠を用いた、粘膜−皮膚の単純ヘルペスウイルス疾患の治療及び/又は予防に関する。これらの錠剤は、口腔顔面ヘルペスの治療及び/又は予防に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非環式グアノシン抗ウイルス薬を含む徐放性粘膜付着性バッカル錠を用いた、粘膜−皮膚の単純ヘルペスウイルス疾患の治療及び/又は予防に関する。これらの錠剤は、口腔顔面ヘルペス疾患の治療及び/又は予防に特に適している。
【背景技術】
【0002】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヘルペスファミリーの中でも最も広く蔓延しているウイルスである。粘膜−皮膚組織、中枢神経系、及び重症例では内臓での感染を含む、多数の感染過程の病原体であることが同定された。世界中で約10億人が、そのエンベロープタンパク質の抗原性の差によって2つの型に分類される1型HSV(HSV−1)及び2型HSV(HSV−2)に属するヘルペスウイルスに感染してきた。大部分の病原保有者のHSVは、通常その多くが幼児期にHSV−1に感染したことによって生じている、口唇ヘルペスの感染に関連するものである。HSV−1及びHSV−2の罹患率は年齢、人種、性別、婚姻関係の有無、及び社会的地位などの要因によって異なるが、それぞれ50−95%及び6−50%と推測されている。HSV−1は主に口腔の感染を引き起こすが、HSV−2は主に生殖器の潰瘍を引き起こす。
【0003】
口唇ヘルペス(「口腔顔面ヘルペス」、「口唇ヘルペス(orolabial herpes)」、「ヘルペス(cold sore)」又は「熱性疱疹(fever blister)」としても知られている)は、HSV−1が原因の最も一般的な再発性疾患であり、その罹患率はかなり高い(世界人口の85%がHSV−1に対して血清反応陽性である)。多くの症例では、単純疱疹又は熱性疱疹として一般的に知られている、水疱又は潰瘍を口又は口の周りに生じる。そのため、外観が損なわれ、患者に相当な不快感をもたらす。口唇ヘルペスに関連した潰瘍は通常2−3週間以内に治癒するが、それらを生じるウイルスは体内から除去されない。このことは、口腔感染が生じた後、感染したヘルペスウイルスは顔面神経で休止状態になるが、定期的に再活性化されて、最初に感染が起こった口又は顔の同じ場所に潰瘍ができることを意味している。
【0004】
約20-40%の人々が、しばしば口腔顔面ヘルペスを経験していると推測されている。欧州における全発生率は年間で1000人当たりおよそ3人であり、80才を超えた人々では、年間1000人当たり10人以上が罹患する。米国では、13才以上のおよそ1億3000万人がHSV−1に感染する。HSV−1に感染した患者のおよそ3分の1が、口唇ヘルペスの再発を経験する。
【0005】
多くの場合、HSV−1を獲得した時には症状は現れない。一次感染は一般に幼児期に起こる。これは通常無症状であるが、しばしば、発熱を伴う、口腔内の一過性歯肉口内炎、咽頭炎又はその他の病変のような異なる症状を生じる場合もある。
【0006】
HSVは粘膜に感染し、皮膚への侵入部位(表皮及び真皮細胞)で増殖し、そして十分に多くのウイルス粒子が存在する場合には、最初に感染した場所で細胞を刺激する感覚神経の末端に感染し得る。その後ウイルスは感覚神経の核、すなわち口唇ヘルペスの三叉神経節に移動し、宿主細胞の生涯にわたって、感覚ニューロンに潜伏する。HSVの再活性化は、潜伏しているウイルスを保有するニューロンの量が多い部位で起こる可能性がある。再活性化に際しては、感染した細胞から粘膜へ、HSVが軸索に沿って拡散される。そのため、HSVが哺乳動物の体内に残っている限り、口腔顔面ヘルペスは再発する可能性のある疾患である。このことは、潜伏しているHSVが再活性化された後には、患者は生涯にわたって口唇ヘルペスの度重なる再発を経験することを意味している。現在の口唇ヘルペス治療の主要な目的は再発を低減させることであり、再発の低減とは、再発の頻度、期間、及び重篤度を低下させることを意味している。感染力を持続しているHSVの保有部位は、初期感染から再活性化まで、そして再発と再発の間、三叉神経節の後根又は感覚根の神経節であった。しかしながら、神経節中のウイルスゲノムの誘発だけでは、口唇ヘルペスの再発を説明できない。その他の部位もまたHSVに感染している場合があり、そして感染力を持続しているHSVの保有部位を構成している可能性がある。近年では、HSVが上皮細胞にも潜在している可能性が示唆された。従って、粘膜及び皮膚細胞は潜伏しているHSVが多く存在している部位である可能性がある(Zakay-Rones Z. and al., Microbiologica, 1986 ; N. Hochman and al., Israel Journal of Dental Sciences, 1989)。さらに、口唇ヘルペス発症中の唾液でのウイルス量が、HSVの持続性を増加させる。実際に、唾液中でのウイルス粒子の濃度が高いと、口腔粘膜全体での再感染が誘導される。このような感染により、HSV保有部位とそれによるHSVの潜伏がさらに引き起こされる。
【0007】
現在まで、潜伏しているHSVの保有部位で作用する口唇ヘルペスの治療は存在しなかった。
【0008】
再活性化は、患者に特異的な複数の要因、すなわち、心理的ストレス、発熱、紫外線曝露、月経、月経前緊張、外科的手技(歯科的又は神経的などの)、唇への入れ墨、皮膚剥離又は口への外傷によって誘導される可能性がある。免疫抑制もまた、再活性化の一因となる。
【0009】
口唇ヘルペス感染の臨床症状は、感染の解剖学的な位置、宿主の免疫状態、及びウイルスの抗原型によって異なる。大部分の病変は唇に発生する。しかしながら、病変が鼻、頬、又は顎に生じる場合もある。通常病変は、口腔内又は顔面には発生しない。口腔内の病変は発見が困難であり、また、アフタ性潰瘍、口腔咽頭カンジダ症又は口内炎と区別することが難しい。
【0010】
免疫が保たれているヒトでは、口唇ヘルペスが生じた後には、エピソードと呼ばれる、予測される経過をたどる(図1に示した模式図)。口唇ヘルペスのエピソードには、以下の段階が含まれる:
− 前駆:口唇ヘルペスのエピソードは前駆段階から始まり、患者はこの期間に、病変部位での疼痛、ひりひり、かゆみ、うずき、又は不快感を経験する。このことは、口唇ヘルペスが発生していることの患者の最初の前兆である。前駆段階は病変のアウトブレイクをはっきりと予言するものである。
− 紅斑:紅斑、すなわち皮膚の赤みが現れることがあるが、常に全ての患者で見られるものではない。
− 丘疹:粘膜−皮膚病変のアウトブレイクへの進行は早い。病変の臨床症状は丘疹(小さくて硬い、膿を含まない皮膚の炎症性の隆起)又は皮膚の硬化である。
− 水疱:その後の12時間の間に、単純疱疹又は熱性疱疹として知られている、重篤度が最も高い病変が赤く腫れた唇の端に現れる。これは水の溜まった複数の水疱で、速やかに破裂しやすく、そして72−96時間内に融合して潰瘍となる。病変領域及び疼痛は通常、24時間以内が最大である。ヘルペスが最も感染性である時期でもある。
【0011】
最初のヘルペス又は熱の華は一次水疱(又は最初の水疱性病変)と呼ばれている。しばしば、患者には、一次水疱の後及び一次水疱の周りに生じる別のヘルペス又は熱の華である、二次水疱(又は二度目の水疱性病変)が現れる。
− 痂皮:その後、潰瘍は痂皮化段階に進行する。病変が湿った状態を維持していない、口腔のこれらの領域では、潰瘍は乾燥して、かさぶたに覆われた茶色い痂皮になる。このかさぶたの形成はしばしば、かゆみ又はひりひりとした感覚を伴う。しばしばこのかさぶたはひび割れ又は壊れて出血する。この過程が進行するにつれてヘルペスが治癒する。
− 紅斑:紅斑が治癒する期間。紅斑は皮膚に現れることがある赤みであるが、常に全ての患者で見られるものではない。
− 治癒/正常な皮膚:ヘルペスは、通常痕を残さずに完全に解消する。
【0012】
口唇ヘルペスは通常、約7−14日以内に自然に解消する。発症の大部分は軽度であるが、何例かは重症又は酷く痕が残り、精神的な苦痛及び身体的な不快感を生じる場合がある。
【0013】
平均して全発症の25%が丘疹段階よりは先に進行しない。これらの感染は「不完全」(すなわち「不完全性」又は「非水疱性」)発症と呼ばれている。これらの約半数は前駆段階より先に進行しない。
【0014】
多くの患者がその生涯にわたって再発を経験する。このことは、患者は生涯にわたって複数回の口唇ヘルペスの発症を管理しなくてはならないことを意味している。ウイルスが存在する場合、その感染は伝播する。ウイルス量は、病変発生の最初の8時間以内が最大であり、病変が成熟するにつれて減る。口唇ヘルペスは唾液を介して、又は病変のある皮膚若しくは粘膜、又は感染したヒトの口内分泌物の直接的な接触を介して拡散する。託児所の環境では多数の小児が互いに接近しているため、しばしば伝播のリスクが上昇する。このような環境での伝播の大部分が無症状であると考えられている。家庭内での伝播は経口によるものと考えられているため、誰か一人に目に見える症状がある場合には、コップや台所用品の共有を避けること、衣類の洗濯などが感染の抑制に効果的である。
【0015】
HIV患者では、口唇ヘルペスは慢性で、古典的な粘膜−皮膚潰瘍性病変とは異なる過剰増殖性のプラークとして現れ、耐性分離株との関連がある場合がある。
【0016】
歴史的には口唇ヘルペス治療の難しさは、病変の発生が早いこと、ウイルス感染が自然な経過であること、及び未治療患者での病変期間を制限する、強い二次免疫反応が原因であった。
【0017】
ウイルス複製は、前駆症状の前又は発症から最初の8時間が最も活性な状態であり、十分な量の抗ウイルス薬が使用され、かつ、ウイルス複製が宿主の免疫反応に一過的に優勢になった期間に治療を始めた場合に、抗ウイルス薬が効果を示す可能性がある。従って、初期の高用量での抗ウイルス治療が理論的な治療方法であり、ここでは、非常に短期間、分単位での治療を以下のように評価した。
【0018】
現在、HSV疾患の治療で最初に使用することが推奨されている化合物は、ヌクレオシド類似体に分類される、ウイルスのDNAポリメラーゼの競合阻害剤のみである。口唇ヘルペスの現在の治療に用いられている活性物質は、アシクロビル及びペンシクロビルである。アシクロビルが、ヘルペス感染の治療における最も強力な抗ウイルス薬であることが示されてきた。
【0019】
ヘルペス感染の治療及び/又は予防の目的で、200mgアシクロビル錠剤、5%アシクロビルクリーム又は注入用アシクロビル懸濁液などの、アシクロビルを含む複数の異なる製剤が開発されてきた。経口又は局所経路で薬剤を投与した後の全身でのバイオアベイラビリティは、最適にはほど遠い。アシクロビルの経口吸収率は低く、かつ、非常に変動的で、そのためバイオアベイラビリティが15−30%と低くなる。5%アシクロビルクリームの皮膚からの吸収率は、粘膜及び皮膚を介した化合物の移動が制限されるためにさらに低い。パーフュージョンでの使用は、免疫不全患者での全身性感染に限られている。
【0020】
免疫不全患者でのアシクロビルの治療計画は、200mg経口錠剤を1日5回、5日間である。この治療では、痂皮の消失までの期間が短縮されることが示された(Raborn, J. Am. Dent. Assoc, 1987)。しかしながら、アシクロビルの効果が完全ではないために、アシクロビルによる治療はしばしば延長される。さらに、この治療は疼痛がある期間又は回復までの期間には効果がないことが複数の研究から分かってきた(Raborn, Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod, 1997)。
【0021】
Spruanceらは、400mgの経口アシクロビルを1日5回、5日間投与する治療計画について評価した(Spruance, J. Infect. Dis. 1990)。この研究全体ではアシクロビルは疼痛及び病変治癒の期間を短縮させた。しかしながらこれら2種類の治療では、これらの錠剤を1日5回、5日間摂取しなくてはならないため患者にとって非常に不便であり、この治療計画に従うことは難しい。
【0022】
口唇ヘルペスの頻繁な再発(1年間に5回を超える再発)にも、アシクロビル錠剤を使用した予防的治療が推奨される(Rooney, Annals of Internal Medicine, 2004)。しかしながらそのような治療は、400mgのアシクロビル錠剤を1日2回、4ヶ月間にわたって摂取しなければならないことから、患者にとって非常に不便である。現在知られている口唇ヘルペスの頻繁な再発の予防は、抗ウイルス錠剤の定期的で長期間(4−6ヶ月)の投与のみである。
【0023】
薬物動態学的プロファイル及び臨床効果が高い薬剤への必要性により、バイオアベイラビリティが上昇した(バラシクロビルを経口投与した後のアシクロビルの絶対的バイオアベイラビリティは54%)アシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビル(アシクロビルのL−バリンエステル)が開発された。バラシクロビルは経口経路によって投与される(例えば500mg又は1000mgのバラシクロビル塩酸塩を含むValtrex(登録商標)又は500mgのバラシクロビル塩酸塩を含むZelitrex(登録商標))。同様に、ペンシクロビルのプロドラッグであるファムシクロビルが開発され(6−デオキシペンシクロビルのジアセチルエステル、経口投与形態、ファムシクロビルを経口投与した後のペンシクロビルの絶対的バイオアベイラビリティは77%)、口唇ヘルペスの初期治療薬として登録された。最近では、2つの用量単位に分けられたバラシクロビルの4gバラシクロビル経口剤(1日2回用Valtrex(登録商標)2g)(Spotswood L. Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 2004)及び1.5gファムシクロビルが、口唇ヘルペスの前駆症状が現れた1時間以内に投与されている。治療の初期に短期間の間に投与されるこれら2つの治療の全身用量は高く、効果的である。これらの治療では偽薬と比較して、病変治癒までの期間が短縮されることが示された。
【0024】
要約すると、バラシクロビル又はファムシクロビルを用いた治療は、高用量(1.5g又は4g)を1日に1回又は2回投与する、経口治療である。これらの治療には異なる欠点がある。実際、病変が治癒するまでの時間は短縮されるが、それらは水疱性病変を予防せず、また、急性疼痛及びその他の症状を軽減しない。さらに、副作用、特に頭痛(治療した患者の約10%)及び/又は吐き気が、用量及び治療期間によらず頻繁に報告される(Spruance, Antimicrob Agents Chemother 2003)。
【0025】
軟膏のような局所治療はしばしば好ましい選択肢である。実際それらによって、複製部位及び/又は病変部位での活性化合物の濃度を上昇させることができる。現在、口腔顔面ヘルペスを発症している患者に対しては(1年間当たり1−5回のエピソード)、アシクロビル又はペンシクロビルのクリーム又は軟膏が、それらが市販されていること又は処方箋無しの製剤として入手できることから、複数の国で多く使用されている。これにより、経口アシクロビル及びバラシクロビルに必要な処方箋を得るために生じる、治療の遅延を避けることもできる。クリーム又は軟膏媒体中に含まれるアシクロビルはヘルペス病変をより早く治癒する効果をもつが、前駆段階で使用しても、ヘルペス病変が生じることを予防することはできない。治療によって誘導される病変の予防現象は「不完全病変」とも呼ばれ、単純ヘルペス治療の最終目標である(Spruance, Antimicrob. Agents Chemother. 2002)。そのようなクリーム又は軟膏は、水疱の膜を介して容易に移動すること又は皮膚保湿特性から、水疱段階においてより活性なようである。アシクロビルクリームの効果が複数の研究で調査された。しかしながら、それらはどれも全体として、疼痛の期間又は重篤度の現象は報告していない(Opsteltel, Can Fam Physician 2008)。さらに、局所治療の効果は限定的であり、何日間にも渡り、複数回の投与が必要である(Spruance , Herpes, 2002)。いくつかの研究では、この限定的な効果は、薬剤の表皮基底層への浸透が十分でないことによることが示唆された(Parry, J. Invest Dermatol, 1992)。結果として、局所治療も患者にとっては不都合である。例えば患者は、局所用ペンシクロビル1%クリームを、起きている間中2時間おきに4日間、又はアシクロビル5%クリームを1日5回5日間、塗布しなければならない。
【0026】
国際公開第2009/115510号は、アシクロビル、ペンシクロビル及び/又はオマシクロビル(omaciclovir)を活性成分として含む局所用組成物に関する。口腔病変による痛み又は前駆段階のその他の症状などのヘルペス再発の最初の徴候を検出したらできる限り早く、本発明の組成物による治療を開始することが好ましい。治療が適切だった場合、不完全病変となる。この治療には、1日5回、5日間の投与が必要である。
【0027】
ここでも、1日5回、5日間の投与が推奨されることが、患者がそれを実行することを難しくしている。さらに、局所治療は疼痛への効果が低く、部分的な刺激を生じる場合がある。
【0028】
そのため、患者が実行しやすく、全体的な症状を軽減し、及び/又は認容性の高い口唇ヘルペスの別の治療及び/又は予防が必要である。
【0029】
経口(錠剤又はカプセル)又は経皮的(クリーム又は軟膏)投与以外には、アシクロビルのバイオアベイラビリティを改善し、及び/又は複製部位及び/又は病変部位でのアシクロビルの濃度を上昇させるその他の投与経路は探究されてこなかった。
【0030】
そのため、本発明の目的は、粘膜投与、特に口唇及び口腔送達に好適なアシクロビルを含む組成物により、前記ニーズを満たすことである。
【0031】
そのため、口唇ヘルペス治療の先行技術に見られるその他の欠点を克服することもまた、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0032】
本発明は、口腔顔面ヘルペスの治療及び/又は予防に、好ましくは単一用量で使用する、徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。
【0033】
以下に示す開示を適用することができる、番号を付けた下記の実施形態により、本発明を例示する。
【0034】
本発明の第一の実施形態(実施形態1)は、単純ヘルペスウイルス(HSV−1)に感染した患者の口腔顔面ヘルペスの重症化を予防する又は軽減する方法であり、この方法には前記患者の口腔粘膜の粘膜付着性バッカル錠を投与する(例えば、口腔粘膜への粘膜付着性バッカル錠の使用により)工程が含まれ、前記粘膜付着性バッカル錠は、以下に示す少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの又は6つ全ての特性によって特徴付けられる、有効量の非環式グアノシン抗ウイルス薬を含む。
(a)粘膜付着性バッカル錠は投与後少なくとも5時間、前記口腔粘膜に付着する;
(b)粘膜付着性バッカル錠投与後少なくとも20時間、前記非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続して放出する;
(c)非環式グアノシン抗ウイルス薬はアシクロビルであり、かつ、粘膜付着性バッカル錠がもたらす唾液中のアシクロビルの最高濃度(「Cmax」)は少なくとも200,000ng/mlである;
(d)非環式グアノシン抗ウイルス薬はアシクロビルであり、かつ、粘膜付着性バッカル錠がもたらす唾液中のアシクロビル濃度は、投与後少なくとも24時間、22.5ng/mlを超える;
(e)非環式グアノシン抗ウイルス薬はアシクロビルであり、かつ、粘膜付着性バッカル錠が投与後にもたらす唾液中のアシクロビルの最高濃度到達時間(「Tmax」)は7−13時間である;及び
(f)粘膜付着性バッカル錠は、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ全ての以下の要素を含んでいる:
(i)重量が1%−75%;5%−40%、又は10%−20%の1つ以上の希釈剤;
(ii)前記非環式グアノシン抗ウイルス薬の吸収を促進させない、重量が1%−10%、2%−8%、又は4%−6%の1つ以上の安定化剤;
(iii)重量が0.1%−5%又は0.1%−2%の1つ以上の結合剤;
(iv)多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される、重量が5%−80%、10%−50%、又は10%−30%の1つ以上の生体付着性ポリマー;及び
(v)前記非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続して放出し、重量が5%−80%、10%−50%、又は10%−30%の1つ以上のポリマー、
ここで(A)前記非環式グアノシン抗ウイルス薬の単一用量が投与され、及び/又は(B)患者は口腔顔面ヘルペスの水疱症状より前段階の症状を呈している。
【0035】
本発明の実施形態2は、前記非環式グアノシン抗ウイルス薬の単一用量を投与する、実施形態1の方法である。
【0036】
本発明の実施形態3は、患者が口腔顔面ヘルペスの水疱症状より前段階の症状を呈していて、かつ、前記非水疱症状の前の症状の部位に粘膜付着性バッカル錠を投与する、実施形態1又は実施形態2の方法である。
【0037】
本発明の実施形態4は、患者が前駆症状を呈している、実施形態1−3のいずれかに記載の方法である。
【0038】
本発明の実施形態5は、前駆症状が現れてから2時間以内、90分以内、又は1時間以内に粘膜付着性バッカル錠を投与する、実施形態1−4のいずれかに記載の方法である。
【0039】
本発明の実施形態6は、患者が紅斑又は丘疹症状を呈している、実施形態1−5のいずれかに記載の方法である。
【0040】
本発明の実施形態7は、患者が口腔顔面ヘルペスの水疱症状より前段階の症状を呈していて、かつ、その後の水疱症状より前段階の症状を呈している期間に前記投与を繰り返すことをさらに含む、実施形態1−6のいずれかに記載の方法である。
【0041】
本発明の実施形態8は、投与後、粘膜付着性バッカル錠が前記口腔粘膜に少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間又は少なくとも12時間付着する、実施形態1−7のいずれかに記載の方法である。
【0042】
本発明の実施形態9は、患者への投与後、粘膜付着性バッカル錠がアシクロビルを少なくとも24時間、少なくとも70%又は、より好ましくは少なくとも80%持続放出する、実施形態1−8のいずれかに記載の方法である。
【0043】
本発明の実施形態10は、粘膜付着性バッカル錠のCmaxが少なくとも300,000ng/ml、又は少なくとも350,000ng/ml、及び場合により400,000ng/mlまで、450,000ng/mlまで、又は500,000ng/mlまでの、実施形態1−9のいずれかに記載の方法である。
【0044】
本発明の実施形態11は、投与後少なくとも30時間、粘膜付着性バッカル錠による唾液中のアシクロビル濃度が22.5ng/mlを超える、実施形態1−10のいずれかに記載の方法である。
【0045】
本発明の実施形態12は、粘膜付着性バッカル錠によるTmaxが、投与後およそ8−12時間である、実施形態1−11のいずれかに記載の方法である。
【0046】
本発明の実施形態13は、粘膜付着性バッカル錠によるTmaxが、投与後およそ8時間又はおよそ12時間である、実施形態1−12のいずれかに記載の方法である。
【0047】
本発明の実施形態14は、前記非環式グアノシン抗ウイルス薬がアシクロビルである、実施形態1−13のいずれかに記載の方法である。
【0048】
本発明の実施形態15は、前記粘膜付着性バッカル錠が50mgのアシクロビルを含む、実施形態14の方法である。
【0049】
本発明の実施形態16は、粘膜付着性バッカル錠が100mgのアシクロビルを含む、実施形態15の方法である。
【0050】
本発明の実施形態17は、粘膜付着性バッカル錠の重量が100mg−150mgの実施形態1−16のいずれかに記載の方法である。
【0051】
本発明の実施形態18は、粘膜付着性バッカル錠の重量が115mgの実施形態1−17のいずれかに記載の方法である。
【0052】
本発明の実施形態19は、粘膜付着性バッカル錠が、
(i)5%−40%の1つ以上の希釈剤;
(ii)前記非環式グアノシン抗ウイルス薬の吸収を促進しない、2%−8重量%の1つ以上の安定化剤;
(iii)0.1%−2重量%の1つ以上の結合剤;
(iv)多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される、10%−50重量%の1つ以上の生体付着性ポリマー;及び
(v)前記非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続放出するための、10%−50重量%の1つ以上のポリマー;を含む、
実施形態1−18のいずれかに記載の方法である。
【0053】
本発明の実施形態20は、アシクロビルの吸収を促進しない、少なくとも1つの前記1つ以上の安定化剤がアルキル硫酸アルカリ金属である、実施形態1−19のいずれかに記載の方法である。
【0054】
本発明の実施形態21は、アルキル硫酸アルカリ金属がラウリル硫酸ナトリウムである、実施形態1−20のいずれかに記載の方法である。
【0055】
本発明の実施形態22は、粘膜付着性バッカル錠が少なくとも2重量%又は少なくとも4重量%のラウリル硫酸ナトリウムを含んでいる、実施形態21の方法である。
【0056】
本発明の実施形態23は、粘膜付着性バッカル錠がおよそ4.5重量%のラウリル硫酸ナトリウムを含んでいる、実施形態22の方法である。
【0057】
本発明の実施形態24は、少なくとも1つの前記1つ以上の希釈剤が結晶セルロースである、実施形態1−23のいずれかに記載の方法である。
【0058】
本発明の実施形態25は、少なくとも1つの前記1つ以上の結合剤がポビドンである、実施形態1−24のいずれかに記載の方法である。
【0059】
本発明の実施形態26は、アシクロビルを持続放出する少なくとも1つの前記1つ以上のポリマーがヒプロメロースである、実施形態1−25のいずれかに記載の方法である。
【0060】
本発明の実施形態27は、少なくとも1つの前記1つ以上の生体付着性ポリマーが乳タンパク質濃縮物である、実施形態1−26のいずれかに記載の方法である。
【0061】
本発明の実施形態28は、粘膜付着性バッカル錠を、
(a)前記アシクロビルとアルキル硫酸アルカリ金属、及び希釈剤を混合して、混合物を形成する工程;
(b)(a)で作成した前記混合物を結合剤存在下で湿潤させる工程;
(c)(b)で製造した前記混合物を乾燥させて校正する工程;
(d)(c)で製造した前記混合物を造粒し、最初の顆粒を形成する工程;
(e)前記最初の顆粒と、持続放出性ポリマーであり、かつ、圧縮剤である生体付着性ポリマーを混合する工程;及び
(f)(e)で得られた混合物を打錠する工程;を含む方法で製造する、
実施形態1−27のいずれかに記載の方法である。
【0062】
別の態様で本発明は、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1−75重量%の希釈剤、及び1−10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1−5重量%の結合剤、多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される5−80重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、そして、非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続放出するための5%−80重量%の少なくとも1つのポリマーをさらに含む徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。
【0063】
この徐放性粘膜付着性バッカル錠は、長期間の効果的な治療及び/又は予防において、不完全期間を短縮するため、口腔顔面ヘルペスを発症している期間を短縮するため、二次水疱性病変発症を低減させるため、前記組成物による重い副作用なしに口腔顔面ヘルペスを治療及び/又は予防するため、初期又は二次水疱性病変が治癒するまでの期間を短縮するため、口腔顔面ヘルペスの全身症状の強度を低下させるため、唾液中に含まれるウイルス量を低下させて部分的なウイルスの拡散、個体間及び/又は個体内でのウイルス伝播を抑制するため、及び/又は口唇ヘルペスの前駆段階で用いるために使用することができる。
【0064】
別の態様で本発明は、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1−75重量%の希釈剤、及び1−10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1−5重量%の結合剤、多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される5−80重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、そして、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続放出するための5%−80重量%の少なくとも1つのポリマーをさらに含む徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。に関する。
【0065】
さらに別の態様で本発明は、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1−75重量%の希釈剤、及び1−10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1−5重量%の結合剤、多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される5−80重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、そして、口腔顔面ヘルペスの治療のために用いられる活性成分を持続放出するための5%−80重量%の少なくとも1つのポリマーをさらに含む徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供する。
【0066】
本発明に従って用いられる粘膜付着性バッカル錠のその他の態様は、国際公開第2007/110778号中に見出すことができ、その全文は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、口唇ヘルペスが発生する病理の模式図である。
【図2】図2は、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠の製造過程の模式図である。
【図3】図3は、mITT集団での治癒に要する時間を示す。
【図4】図4は、口唇ヘルペスが再発しない患者集団を示す。
【図5】図5は、本発明の生物付着性徐放性担体と経口アシクロビル錠剤を比較した場合の、時間経過に伴う血漿中のアシクロビル濃度を示す図である。
【図6】図6は、本発明の生物付着性徐放性担体と経口アシクロビル錠剤を比較した場合の、時間経過に伴う唾液中のアシクロビル濃度を示す図である。
【図7】図7は、本発明の生物付着性徐放性担体と経口アシクロビル錠剤を比較した場合の、時間経過に伴う唇上のアシクロビル濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
用語「粘膜−皮膚」は、粘膜と皮膚の両方を含む皮膚の領域を意味する。これらの大部分は開口部、例えば唇、の近くにある。
【0069】
用語「口腔」は、口の中の領域を意味する。
【0070】
用語「治療」は、口腔顔面ヘルペス、又は口腔顔面ヘルペスの1つ以上の症状を軽減させる、進行を阻害する、又は治癒することを意味する。
【0071】
用語「症状」は、かゆみ、ひりひりとした感じ、疼痛、ただれ、水疱性病変、不快感、及び圧痛を意味する。
【0072】
用語「予防」は、口腔顔面ヘルペスの再発頻度を低減させることを意味する。
【0073】
用語「長期予防」は、最後の発症から少なくとも9ヶ月間、口腔顔面ヘルペスの再発頻度を低減させることを意味する。
【0074】
同様に、本明細書を通じて、「徐放性」、「ゆっくりとした放出」又は「持続放出」とういう表現は同じ意味で用いられ、かつ、活性成分が投与して30分後すぐから、少なくとも15時間又は少なくとも18時間又は少なくとも20時間又は少なくとも24時間及び36時間までの長期間に渡って放出することを意味する。
【0075】
用語「発症」は、口腔顔面ヘルペスエピソードの開始を意味する。
【0076】
用語「再発」は、最初のエピソードの口腔顔面ヘルペスの全ての病変が治癒した後に、口腔顔面ヘルペスが新たなエピソードが発症することを意味する。
【0077】
表現「頻繁に再発する口腔顔面ヘルペス」は、1年間に5回を超えて発症するものを意味する。
【0078】
表現「重症口腔顔面ヘルペス」は、治りにくい及び/又は病変の大きいもの、具体的には免疫不全患者における口腔顔面ヘルペスを意味する。
【0079】
「口腔顔面ヘルペス」は、顔若しくは皮膚若しくは粘膜病変又は口内炎を伴うヘルペスを意味する。
【0080】
表現「再発までの期間」は、最初のエピソードの口腔顔面ヘルペスの全ての病変が治癒してから、新しい病変が発症するまでの期間を意味する。
【0081】
表現「一次水疱性病変」は、唇上にあり、かつ、唇から1cmを超えて広がっていない最初に現れた病変である。完全に口腔内にある病変は一次病変とは見なされない。
【0082】
表現「不完全病変」は、前駆症状から始まり、丘疹段階を超えて進行しない、ヘルペス病変である。
【0083】
表現「二次病変」は、初期病変に加えて及び/又は初期病変の1日以上後に、初期病変から少なくとも1cmの場所に位置する病変を意味する。
【0084】
表現「エピソードの期間」は、一次及び二次病変の前駆症状が始まってから、治癒するまでの期間を意味する。
【0085】
表現「不完全エピソードの期間」は、前駆症状の開始から、丘疹病変が治癒するまでの期間を意味する。
【0086】
表現「症状が収まっている期間」は、治療の開始から、かゆみ、ひりひりとした感じ、疼痛、ただれ、水疱性病変、不快感、及び圧痛の全ての症状が収まるまでの期間を意味する。
【0087】
表現「不完全初期病変が治癒するまでの期間(TTH)」は、治療開始から、一次病変が治癒するまで又は症状が収まるまでの、どちらか後に来た方までの期間を意味する。
【0088】
表現「口腔内/粘膜の二次病変が治癒するまでの期間」は、治療開始から、一次病変ではない口腔内/粘膜病変が治癒するまでの期間を意味する。
【0089】
用語「治癒」は、痂皮の消失を意味する。痂皮の消失後に紅斑があってもよい。
【0090】
表現「治癒するまでの期間」は、治療開始(記録された日付及び時間)から治癒するまでの期間を意味する。
【0091】
表現「ITT集団」は、少なくとも1用量の被検薬を摂取した、全ての無作為化した患者を意味する。
【0092】
表現「mITT集団」は、少なくとも1用量の被検薬を摂取し、症状が水疱段階まで達した全ての無作為化した患者を意味する。
【0093】
表現「PP集団」は、主要なプロトコールからの逸脱がなかった、全てのmITT集団患者を意味する。
【0094】
本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は米国特許出願第20090169511号に記載されており、その全文は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0095】
本発明は、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性非環式グアノシン抗ウイルス薬の徐放性粘膜付着性バッカル錠の粘膜、特に口唇への使用に関する。前記徐放性粘膜付着性バッカル錠は以下に記載したような数多くの利点を有する。
【0096】
本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠の主要で基本的な利点は、非環式グアノシン抗ウイルス薬を唾液中に迅速に(投与後30分で)、かつ、長期間(24時間を超えて)放出することができることである。以下に示したように、この有利な放出動態は、早期に(最初の数日間)そして長期間にわたって(少なくとも9ヶ月間)、口腔顔面ヘルペスの治療及び/又は予防に効果的である。さらに本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は単一用量で用いられ、そして驚くことに、口腔顔面ヘルペスを罹患した患者の複数の症状の軽減をもたらす。この単一用量は特に、ヘルペス病変の発症を予防することができる。言い換えると、本発明の粘膜付着性バッカル錠は治療を受けた患者での「不完全病変」の数を増加させる。さらに前記単一用量は、当該分野での治療、特に1日5回の使用を5日間(またはそれ以上)継続することが必要な現行の局所治療と比較して、患者が従い易いものである。
【0097】
本発明の別の実施形態は、低用量のアシクロビルを含む口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。この低用量は、1錠当たり10−200mg、好ましくは50mgのアシクロビルを含む。従って、本発明の粘膜付着性バッカル錠は、低用量の活性成分を用いた効果的な治療及び/又は予防を可能にするものである。これは、高用量の活性成分が望まれる、現行の治療と比較して驚くべきことである。不完全病変に関連する、予期しない効果が認められた。実際に、本発明の粘膜付着性バッカル錠は、丘疹段階より先に進行する患者の数を実質的に減少させる。言い換えると、水疱性病変段階まで達する患者の数を実質的に減少させる。この結果は、単一用量によってもたらされる結果であるために、より一層注目に値する。この結果は、前駆症状を経験している患者に使用した場合に特に顕著である。従って、本発明の目的は、口腔顔面ヘルペス、特に前駆段階の治療のための徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。口腔顔面ヘルペスは水疱段階において最も感染力が高いため、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠の別の利点は、水疱性病変の発症を制限することにより、ウイルス伝播のリスクを低減することである。
【0098】
本発明の粘膜付着性バッカル錠が不完全の期間を短縮することもまた認められた。従って本発明の別の態様は、前駆症状を経験している患者の不完全期間を短縮するための、徐放性粘膜付着性バッカル錠の使用に関する。
【0099】
本発明のさらなる態様は、口腔顔面ヘルペスを発症している期間を短縮する徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。実際に、全体的な発症の期間の顕著な短縮が認められた。この効果が発症期間全体において観察されたため、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は前駆段階以降に使用した場合であっても、治療に効果的である可能性が予測される。
【0100】
本発明の別の態様は、口唇ヘルペスの期間を短縮する、又は口唇ヘルペスによって生じる症状(かゆみ、ひりひりとした感じ、疼痛、ただれ、水疱性病変、不快感、及び圧痛)の重篤度を低減するための徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。驚くことに、徐放性粘膜付着性バッカル錠は効果を迅速に示す。実際、全体的な症状強度の顕著な低下が3日目(すなわち、図1で定義した不完全エピソードの期間中)に始まり、5日目に最も効果を表す。
【0101】
より正確には、本明細書で実施した研究から、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠による症状が収まるまでの期間が、偽薬よりも約0.4日短いことが示された。
【0102】
本発明のさらなる実施形態は、二次水疱性病変の発症を低下させることによる、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。実際に、徐放性粘膜付着性バッカル錠により、偽薬と比較して、二次病変の発症が約50%低下したことが分かった。
【0103】
本発明の別の実施形態は、アシクロビルによる副作用を生じない、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。実際に、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠の認容性は非常に良好であり、かつ、もたらされる全身性効果(特に下痢、頭痛)は非常に限られており、現行の局所治療と比較して、部分的な刺激を生じない。
【0104】
本発明のさらなる態様は、初期水疱性病変が治癒するまでの期間を有意に短縮させる事による、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。
【0105】
より正確には、本明細書で実施した研究から、治癒するまでの期間が偽薬よりも約0.4日短縮されたことが示された。
【0106】
本発明の別の態様は、不完全エピソード又はエピソードの再発を減少させることによる、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠に関する。実際、本明細書において、水疱性病変再発の予防が初めて示された。従って、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は、口腔顔面ヘルペス又は重症口腔顔面ヘルペスの再発の治療に特に好適である。
【0107】
本発明の別の目的は、不完全エピソード又はエピソードを早期に短期間で治療及び/又は予防するために効果的な徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。
【0108】
本発明の別の目的は、頻繁に再発する及び/又は重症口腔顔面ヘルペス、特に免疫不全患者の口腔顔面ヘルペスを治療するための徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。
【0109】
本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は皮膚病変だけでなく、粘膜の、拡大した病変の治療にもまた好適である。本発明の別の目的は、ウイルス保有部位において効果的な濃度で非環式グアノシン抗ウイルス薬を維持することを可能にしてウイルスの局所的な拡散を抑制し、それにより、個体間及び個体内でのウイルス伝播を抑制する、アシクロビルの粘膜投与用徐放性粘膜付着性バッカル錠の使用を提供することである。
【0110】
実際、迅速で長期間にわたる非環式グアノシン抗ウイルス薬の濃度が唾液中で十分であることに加えて、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は、粘膜、表皮及び/又は三叉神経節での非環式グアノシン抗ウイルス薬の迅速で長期間にわたる濃度を十分にすることができる。
【0111】
本発明の別の実施形態は、低用量のアシクロビルを含む、口腔顔面ヘルペス治療用の徐放性粘膜付着性バッカル錠を提供することである。前記低用量は、1錠当たり10−200mg、好ましくは50mgのアシクロビルを含む。
【0112】
本発明の別の態様は、アシクロビルを感染部位に迅速に、かつ、持続して放出して、HSV−1に対する「持続した抗ウイルス圧」を及ぼすことができる、アシクロビルの粘膜投与用徐放性粘膜付着性バッカル錠の使用を提供することである。
【0113】
本発明の別の態様は、口腔に付着し、長期間維持され、かつ、いつでも除去することができ、従って柔軟に使用することができる、アシクロビルの粘膜投与用徐放性粘膜付着性バッカル錠の使用を提供することである。
【0114】
本発明の別の態様は、口腔の別の場所、好ましくは歯肉に使用することができる、アシクロビルの粘膜投与用徐放性粘膜付着性バッカル錠の使用を提供することである。
【0115】
本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠は米国特許出願第20090169511号に記載されており、その全文は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0116】
これらの徐放性粘膜付着性バッカル錠は、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1−75重量%の希釈剤、及び1−10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1−5重量%の結合剤、5−80重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、前記生物付着性ポリマーが多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択され、かつ、非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続放出するための5%−80重量%の少なくとも1つのポリマーをさらに含む。
【0117】
希釈剤の例としては、結晶セルロース、ケイ化結晶セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、乳糖、デンプンなどが挙げられる。生物付着性の徐放担体に含まれる希釈剤の量は、1%−75%、5%−40%、又は10%−20重量%である。
【0118】
アルキル硫酸アルカリ金属もまた、本発明の徐放性粘膜付着性バッカル錠の構成要素である。このアルカリ金属硫酸塩は安定化剤として作用し、活性成分の造粒工程を改善する。製剤中に使用することができるアルキル硫酸アルカリ金属には、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びジエチルスルホサクシネートが挙げられる。これらは通常、1−10重量%、2%−4重量%、2%−6重量%、2%−8重量%、又は2%−10重量%の濃度で徐放性粘膜付着性バッカル錠に含まれる。
【0119】
本発明に使用する結合剤は、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム、デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどから選択することができる。結合剤は、生物付着性徐放担体中に、0.1%−5%又は0.1%−2重量%の量で含まれる。
【0120】
生体付着性ポリマーは、
− 天然高分子:
○ 多糖:キトサン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、
○ 天然タンパク質:動物又は植物性、天然の乳タンパク質、天然のエンドウタンパク質、天然のダイズタンパク質、天然の馬鈴薯タンパク質、天然のムギタンパク質、グリアジンタンパク質、
− 合成ポリマー:カルボマー、ポリビニルアルコール、アクリルポリマー、
の群から選択される。
【0121】
生体付着性ポリマーは徐放性粘膜付着性バッカル錠中に5%−80重量%の濃度で含まれる。それらを10%−30重量%、10%−40重量%又は10%−50重量%の量で加えることもできる。天然の乳タンパク質に関しては、は欧州特許出願第0542824号に記載されている。それらを、殺菌した生乳及び全乳タンパク質を含むもの、カゼインタンパク質濃縮物及び乳清タンパク質濃縮物から得ることができる。全乳タンパク質は、スキムミルクを限外ろ過することにより回収される。カゼインタンパク質製品は、乳に含まれるカゼインをその等電点で不溶化し、さらにカゼインを洗浄して乾燥することにより得られる。乳清タンパク質濃縮物は、酵素を用いてチーズを凝固させた後に、黄緑色の液体残留物を分離することにより得られる。この残留物が乳清性である。その後乳清を、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、又は熱沈着によりさらに濃縮する。植物性タンパク質は、エンドウ、大豆、馬鈴薯、ムギ又はグリアジンから得ることができる。エンドウタンパク質の製造方法は、国際公開第2007/017571に記載されている。
【0122】
徐放性粘膜付着性バッカル錠に使用することができる持続放出性ポリマーには、セルロースエーテル、キサンタンガム、スクレログルカン、ローカストビーンガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、イナゴマメガム、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天及びグァーガムのいずれか1種又はその混合物、などの多糖を含む親水性ポリマーが挙げられる。本発明に使用することができるその他のポリマーとしては、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースとも呼ばれる)、酢酸セルロース、セルロースエステル、セロビオース、セルロース樹脂のいずれか1種又はその混合物のような、セルロースを基にしたポリマーが挙げられる。持続放出性ポリマーは5%−80重量%の濃度で含まれる。それらを10%−30重量%、10%−40重量%又は10%−50重量%の量で加えることもできる。
【0123】
本発明の別の実施形態は、10−200mgのアシクロビル、1−75重量%の希釈剤としての結晶セルロース、及び2−10重量%のラウリル硫酸ナトリウムを含み、かつ、0.1−5重量%のポリビニルピロリドン、並びに天然の乳タンパク質とその混合物及び10%−40重量%のヒプロメロースの群から選択される10−40重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーをさらに含む、粘膜生物付着性除放性担体に関する。
【0124】
調製工程を促進するために、粘膜生物付着性徐放性担体に、0.1−5%のステアリン酸マグネシウム及び0.1−1%のコロイド状シリカを添加することができる。少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬は好ましくはアシクロビルである。
【0125】
本発明で使用する粘膜生物付着性徐放性担体は、活性成分が迅速にその場で拡散すること、及び活性成分を長期間にわたって拡散することを可能にし、それによって、迅速で長期間にわたる効果をもたらす。
【0126】
本発明の好ましい実施形態は、50mgのアシクロビル、15重量%の結晶セルロース、4.5重量%のラウリル硫酸ナトリウムを含み、かつ、0.4重量%のポリビニルピロリドン、20重量%の乳濃縮タンパク質、15重量%のヒプロメロース、0.5重量%のステアリン酸マグネシウム、及び0.4重量%のコロイド状シリカをさらに含む、徐放性粘膜付着性バッカル錠である。
【0127】
前記徐放性粘膜付着性バッカル錠の調製方法には、
(a)少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬と、アルキル硫酸アルカリ金属、希釈剤及び結合剤の混合物を造粒する工程;
(b)前記造粒混合物と少なくとも1つの生物付着性ポリマー、少なくとも1つの持続放出ポリマー及び少なくとも1つの圧縮剤を混合する工程;及び
(c)(b)で得られた混合物を打錠する工程;
が含まれる。
【0128】
本発明のさらに別の態様は、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬を哺乳動物に送達する方法を提供し、前記方法は、前記少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬を必要とする哺乳動物に、少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1−75重量%の希釈剤、及び1−10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1−5重量%の結合剤、多糖類又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びその混合物である天然高分子の群より選択される5−80重量%の少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、そして少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬を持続放出するための5%−80重量%の少なくとも1つのポリマーをさらに含む生物付着性徐放性担体を、粘膜投与する工程を含む。
【0129】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。それにも関わらず、当然のことながら、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々は変更を施してもよい。
【0130】
実施例
実施例1 − 50mgのアシクロビルを含む徐放性粘膜付着性バッカル錠の調製(図2)
50mgのアシクロビル、15重量%の結晶セルロース、及び4.5重量%のラウリル硫酸ナトリウムを計量し、0.7−2mmのふるいにかけ、その後ブレンダーを用いて予混合して「最初の混合物」を準備した。
【0131】
同時に、0.4重量%のポリビニルピロリドンを精製水に溶解し、得られた溶液を最初の混合物に加えてさらに撹拌した。次に湿った混合物を、遊星型ミキサー又は高剪断ミキサーのような薬剤用混合機又は造粒機で造粒し、そして乾燥させ、その後0.5−2mmに校正した。得られたペレットは「最初の顆粒」を形成した。
【0132】
20%の乳タンパク質濃縮物、15%のヒプロメロース、0.5%−1%のステアリン酸マグネシウム及び0.4%のコロイド状シリカを計量し、0.5−2mmのふるいに通した。次にこれらの成分を最初の顆粒に加え、「最終的な混合物」を形成した。この最終的な混合物を、ロータリープレスのような打錠機を用いて圧縮し、本発明の圧縮担体を製造した。
【0133】
錠剤の直径は約8−10mmとなった。犬歯窩に適当になるような大きさを選択した。
【0134】
以下の表に、本発明の錠剤に好ましい、組成物の量と質を示す。
【0135】
【表1】

【0136】
実施例2 − 研究計画
マッチング偽薬に対する、口腔顔面ヘルペスを再発している免疫適格患者での、実施例1の徐放性粘膜付着性バッカル錠である「アシクロビル、Lauriad(登録商標)50mg」(これ以降、AMBT50mgとする)による治療の無作為(1:1の比率で無作為化した)、二重盲検、単一用量試験を、複数の施設で行った。
【0137】
口腔顔面ヘルペス患者を治療している複数の施設において試験を行った。参加/除外基準を満たしたおよそ1730人の患者を1:1の比率で、AMBT50mg又はマッチング偽薬のいずれかを単一用量されるように無作為化した。無作為化の後、6ヶ月以内に口腔顔面ヘルペスをエピソードした患者のみに錠剤を使用した。その結果、780人(各群390人)という十分な数の患者がAMBT50と偽薬の効果を比較する試験に参加したことが分かった。従って、無作為化した患者のうち、1170人は治療を受けなかった。
【0138】
それぞれの患者の試験参加期間には、無作為化する前に最大10日間かけて行う、スクリーニング期間も含まれた。その後、患者は新しい口腔顔面ヘルペスがエピソードするまで(最大6ヶ月間)待機した。無作為後6ヶ月以内に口腔顔面ヘルペスがエピソードしなかった場合には、その患者は試験から除外された。患者が前駆症状を経験したらできる限り早く、患者自身により治療を開始した。14日目まで又は初期病変が治癒するまでのどちらかが最初に至るまで、患者を評価した。この治療を開始した患者の、最後の患者の治療が終わるまでの日数は240日であった(6ヶ月の期間を含む)。選ばれたいくつかの施設では9ヶ月間、新しいエピソードの回数、及び再発するまでの期間を記録した。
【0139】
無作為化後6ヶ月以内に口腔顔面ヘルペスが再発しなかったために治療を受けなかった患者の、試験に参加した日数は190日である。
【0140】
参加基準
以下の基準を満たした患者を無作為化した。
− 男性又は女性;
− 年齢>18才;
− 口唇ヘルペス病変の再発歴が、
− 先立つ12ヶ月の間に、少なくとも4回の再発が認められ、
− 口唇ヘルペスの病変が唇の皮膚及び/又は粘膜表面上にあるという特徴をもつ;
− 古典的病変を生じたこれまでのエピソードのうち少なくとも50%が、水疱段階まで進行した(すなわち、エピソードが、紅斑、丘疹、水疱、痂皮と進行し、その後治癒した);
− 口唇ヘルペスの再発の少なくとも50%に、前駆症状(かゆみ、ひりひりとした感じ、疼痛など)が現れた;
− 総体的な健康が良好であり(ECOG<2)、免疫適格である;
− 書面によるインフォームドコンセントに日付と氏名を記入した;
− 妊娠する可能性のある女性は、非常に有効な避妊法(ホルモン避妊法、埋め込み型避妊法、注入可能な二重避妊法(ペッサリーと殺精子剤、コンドームと殺精子剤)又は子宮内装置)を、試験開始の少なくとも1ヶ月前から試験期間中継続して使用している場合に、試験への参加を認めた;
− 前駆部位又は病変を機械的に壊さない(すなわち、ごしごし擦る、つっつく、その部分を剃る、アルコールでこすることなどをしない)ことを承諾した患者。
【0141】
評価項目
口唇ヘルペスの治療における、AMBT50mgの単一用量とマッチング偽薬の単一用量の効果を示す評価項目は、
− 前駆症状から不完全病変への進行;
− 初期病変の治癒;
− 非初期病変の治癒;
− エピソードの期間;
− 症状の期間;
− 全体的な症状の強度;
− 不完全病変の治癒;
− 口腔内及び粘膜病変の治癒;
− 治療後9ヶ月間での再発頻度及び再発するまでの期間(いくつかの施設での補助的な試験);
− 偽薬と比較した場合のAMBT50mgの部分的な認容性及び全体的な安全性;
− 唾液中のアシクロビル濃度の評価(いくつかの施設での補助的な試験)及び唾液中でのウイルス量と効果基準との関係の評価;
− AMBT50mgが付着している期間、離脱及び/又は飲み込まれた割合、並びに交換した錠剤の数の評価。
【0142】
有害事象
有害事象の原因が見いだせなかった場合、その有害事象は薬剤に関連するものと見なした。有害事象との因果関係が見つからなかった場合にもその有害事象は薬剤に関連するものと見なされた。
【0143】
治療によって生じた有害事象(TEAE)を評価した。TEAEは、
− 試験治療の投与前には現れておらず、試験治療の開始後に生じた有害事象;
− 試験治療前に現れていた事象であって、試験治療の投与により、その強度又は頻度が悪化した事象;
と定義した。
【0144】
治療を行った期間は、治療投与の開始から、試験終了までとした。
【0145】
有害事象を報告した全患者のリストを作成した。
【0146】
組織学的及び生化学的指標
治療群による記述的分析を行った。臨床的に有意だと見なされる異常値を同定した。
【0147】
部分的な認容性
治療群による記述的分析を行った。
【0148】
コンプライアンス
コンプライアンス及び2つの治療期間に関する詳細な説明を作成した。2群間でのコンプライアンス及び治療期間の比較を行った。
【0149】
結果
患者集団:
【0150】
【表2】

【0151】
以下の結果を得るために、当業者は既知の統計分析を行うことができる。
【0152】
偽薬と比較して、初期水疱が治癒するまでの期間が有意に短縮した(図3を参照)。
【0153】
【表3】

【0154】
AMBT50mgは、水疱性病変の発症を有意に予防し、そして非水疱性エピソードの期間を有意に短縮した。
【0155】
【表4】

【0156】
AMBT50mgは、エピソード(不完全エピソード及び水疱性エピソード)の期間を有意に短縮した。
【0157】
【表5】

【0158】
AMBT50mgは、口腔顔面ヘルペス症状の期間を有意に短縮した。
【0159】
【表6】

【0160】
全体的な症状強度の低下は3日目から始まり、5日目で最も顕著であった。AMBT50mgは迅速に、疼痛に関連するヘルペスを減少させた。全体的な症状の強度は、当業者に既知のVisual Analog Scale(VAS)により、患者自身が記録した。単位はミリメートル(mm)である。mm単位で大きくなればなるほど、疼痛に関連するヘルペスである。
【0161】
【表7】

【0162】
AMBT50mgは、二次病変の発症及び治癒するまでの期間を有意に短縮した。
【0163】
【表8】

【0164】
AMBT50mgの認容性は非常に良好で、治療による副作用(下痢、頭痛及び/又は部分的なかゆみ)の観点でも偽薬との差は無く、そして組織学的及び生化学的指標にも影響を及ぼさなかった。
【0165】
【表9】

【0166】
【表10】

【0167】
AMBT50mgは、不完全エピソード又はエピソードの再発期間において著明な差を示すことができた。9ヶ月間の経過観察期間中にもAMBT50mgの単一用量は、口腔顔面ヘルペスを再発の回数を減少させ、かつ、再発した患者においても前記新たなエピソードは偽薬と比較して少なくとも1ヶ月遅く生じた(図4を参照のこと)。
【0168】
【表11】

【0169】
患者がAMBT50mgを最初の前駆症状を感じた1時間以内に使用した場合に、効果はより顕著であった。
【0170】
【表12】

【0171】
さらに、AMBT50mgは水疱性病変の発症を制限することにより、ウイルスが伝播するリスクを有意に減少した。
【0172】
要約すると、本試験の徹底的な評価は、主要評価項目である初期水疱性病変が治癒するまでの期間に関してはp=0.043で有意であり、副次的評価項目(感染の経過において水疱性病変を現した患者はより少なく、エピソード期間全体の短縮、症状強度の低下)もまた有意であることを示した。認容性も良好であった。9ヶ月間という長期間にわたる経過観察でも、エピソードの再発を予防する傾向がはっきりと示された。
【0173】
第1相の、薬物動態学的/薬力学的(PK/PD)、単一施設、一般、無作為、3期間の交差試験では、血漿、唾液及び口唇粘膜に投与するアシクロビル、Lauriad(登録商標)50mg粘膜付着性バッカル錠(MBT)及び100mgMBTの単一用量と、アシクロビル200mgの一般的な錠剤(Zovirax(登録商標))との薬物動態学的(PK)指標及び認容性を比較した。3回の治療期間は、7日間の無治療期間で分けた。全ての投与は、治療期間中の朝に単一用量することで行った。Lauriad(登録商標)アシクロビル50mg又は100mgMBTは、切歯のすぐ上の上歯肉に、MBTが完全に無くなるまで又は離脱するまで使用し、アシクロビル経口錠剤200mgはコップ1杯の水と共に摂取した。血漿、唾液及び口唇試料中のアシクロビル濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認した(定量の下限(LOQ)は10ng/mL)。
【0174】
以下に記載する実施例3−7は、第1相試験の様々な態様である。
【0175】
実施例3 − アシクロビル生物付着性徐放性担体の薬物動態
この薬物動態学的試験の主な目的は、健康な治験参加志願者の犬歯窩(上顎歯肉)に生物付着性徐放性担体を投与した後のアシクロビルの全身移行を評価することである。本試験のその他の目的は、ウイルス保有部位である唾液中の、及び単純ヘルペス1の感染エピソード部位である口唇レベルでのアシクロビルの局所的な濃度を評価することである。
【0176】
本発明の新規投与方法によるアシクロビルの吸収レベルを評価するために、本発明の生物付着性徐放性担体の使用に関するデータを収集し、200mgアシクロビル錠剤の経口投与と比較した。さらに、本発明の新規生物付着性徐放性担体の治療効果を評価するために、血漿及び局所的な濃度を、アシクロビルのHSV−1ウイルスに対する最小阻害濃度(MIC)、22.5ng/ml、と比較した。
【0177】
この試験は12人の健康な治験参加志願者の協力を得て、単一施設、無作為、交差、一般評価により行われた。実施例1に従って合成した50mg又は100mgいずれかの量のアシクロビルを含む2種類のアシクロビル生物付着性徐放担体について試験を行った。
【0178】
血漿、唾液及び口唇(唇)試料を、治療投与に先立って、そして投与後24時間目、36時間目及び48時間目に採取した。口唇試料はストリップ法、すなわち付着性ディスクを用いて唇の最表面の細胞層を回収することにより採取した。唾液の混入を防ぐために、口唇試料の採取は唾液試料の採取の前に、唇を注意深く拭いてから行った。
【0179】
次にアシクロビルを抽出し、HPLCを用いて測定した。定量の下限を、血漿及び唾液については10ng/mlに、口唇試料については6.5ng/cm2に設定した。
【0180】
実施例4 − アシクロビルの全身移行の評価
血漿濃度プロファイルを図5に示す。
【0181】
経口投与したアシクロビルに対応する対照錠剤は、投与後1.5時間眼に254ng/mlの最大濃度に達する、迅速な吸収期をもつことによって特徴付けられる、即効性を示す。図5に見られるように、対照錠剤はアシクロビルの血漿濃度を14時間、最小阻害濃度(MIC)よりも高く維持することができた。
【0182】
一方、本発明のアシクロビルの生物付着性徐放担体は、アシクロビルの吸収が6時間遅れ、最大濃度が投与後12時間目で45.9pg/mlという持続放出型プロファイルを示す。吸収が始まった後8時間の平均血漿濃度は、30.9−37.8ng/mlに維持される。加えて、アシクロビルの血漿濃度は、16時間、最小阻害濃度(MIC)を超えて維持された。対照錠剤の結果に基づいて、生物付着性担体によって放出されたアシクロビルの相対的なバイオアベイラビリティを算出した。このバイオアベイラビリティは35%であったが、ここで使用した用量は対照の2分の1未満であった。対照と同じ用量について算出した場合のバイオアベイラビリティは70%である。
【0183】
この実施例から、口腔粘膜の血管にアシクロビルを染みこませること又は経口経路によりアシクロビルを投与すると、可溶化アシクロビル濃度が高まった唾液が飲み込まれ、経粘膜投与によりアシクロビルの全身移行が生じる可能性があることが分かった。
【0184】
実施例5 − 唾液中のアシクロビル濃度の評価
図6は、対照錠剤又は本発明の生物付着性徐放性担体のいずれかから得られた、唾液中のアシクロビル濃度のプロファイルを示している。図6に見られるように、対照錠剤を投与した場合、アシクロビルは投与後およそ30分で唾液中に現れ、最大濃度に相当するピークは112ng/mlであった。唾液中のアシクロビル濃度は4時間、最小阻害濃度(MIC)より高く維持されたが、ピークに達した後は迅速に、投与後10時間目では検出できないレベルまでに減少した。
【0185】
一方、本発明の生物付着性徐放性担体の唾液中でのアシクロビル濃度レベルは、アシクロビル含有量の少ない1番目の試験薬を摂取した場合でも、投与後30分で非常に高かった。例えば、50mg生物付着性徐放性担体を投与した30分後の唾液中のアシクロビル濃度は6.8μg/ml、100mg生物付着性徐放性担体では20μg/mlだと推定された。
【0186】
アシクロビル濃度は24時間から36時間の間、非常に高く維持され、その最大濃度値は、50及び100mg生物付着性徐放担体それぞれにつき、387μg/ml及び471μg/mlであった。これにより、本発明の生物付着性徐放担体は単純ヘルペスウイルス−1の部位で、アシクロビルを非常に迅速に(30分)、かつ、長期間(36時間)拡散させることができることが分かった。これらの濃度は単純ヘルペスウイルス−1の治療に必要とされるアシクロビルの最小阻害濃度(MIC)よりもかなり高く、50mg担体及び100mg担体それぞれで、17,000倍及び21,000倍であった。
【0187】
さらに、本発明の生物付着性担体の唾液中でのAUC/MIC(濃度曲線下面積/最小阻害濃度)比は103,000−216,000に達したが、即効性担体のAUC/MIC比は8であった。これらの非常に高い比は、感染部位に近い唾液中にアシクロビルが非常に多く、その結果、高い局所効果をもたらしていることを示している。
【0188】
総合すると、これらの結果は、本発明のアシクロビル生物付着性徐放性担体は、ウイルス保有部位で、非常に迅速で、かつ、持続的なアシクロビルの放出をもたらすことを示している。さらに、唾液中でのウイルス保有量が、ウイルス拡散にとって重要であることが知られていることから、唾液中でのアシクロビル量が非常に高いことは、個体間及び個体内のウイルスの伝播を制限することに寄与していると考えられる。
【0189】
実施例6 − 口唇でのアシクロビル濃度の評価
図7に開示したように、対照錠剤を投与した後、アシクロビルは口唇では検出されなかった。
【0190】
一方、本発明のアシクロビル生物付着性徐放性担体を投与した場合、測定した唇でのアシクロビル量は、1mg/mlの濃度に達した。この、口唇部位に存在する多量のアシクロビルは、少なくとも24時間維持された。
【0191】
従って、本明細書で表した結果は、本発明の担体は、唇、すなわち疾患のエピソード部位で非常に多量のアシクロビルを長期間にわたってもたらしたことを示している。このことは、特に表皮レベルで、HSV−1ウイルスに対する高い圧力が生じたことを暗示しており、そして、口唇ヘルペスに対するアシクロビルのより高い有効性を示唆している。
【0192】
実施例7 − アシクロビル生物付着性徐放性担体のインビボでの付着持続性の評価
本発明の生物付着性徐放性担体の付着時間を評価するために、このアシクロビル担体を12人の治験参加志願者の上顎に使用した。担体口腔内の有無を、48時間目まで何回か確認した。治験参加志願者は担体が無くなっていないかを、使用開始後24時間目まで定期的に確認した。この評価の結果を以下の表1に開示する。
【0193】
【表13】

【0194】
これらの結果は、この担体の付着性は、「1日1回」という投与形態に非常に適していることを示している。実際、使用部位に担体が維持されている限り、アシクロビルは目的としている感染部位の近くで局所的に放出される。そのため、実施例1で開示した方法によって得られるアシクロビル生物付着性徐放性担体は、ここで、MICに対する活性成分の局所濃度が十分な、アシクロビルの「1日1回」局所投与用薬剤と言うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一用量で用いる、口腔顔面ヘルペスの治療及び/又は予防における使用のための徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項2】
不完全エピソード又はエピソードの長期間に亘る、効果的な治療及び/又は予防における使用のための、請求項1に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項3】
不完全エピソード又はエピソードの初期又は短期間以内の効果的な治療及び/又は予防における使用のための、請求項1又は2に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項4】
ヘルペス病変の発生の予防における使用のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項5】
水疱性病変の発生の予防における使用のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項6】
不完全エピソード又はエピソードの再発を低減させる口腔顔面ヘルペスの治療における使用のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項7】
頻繁に再発する及び/又は重症な口腔顔面ヘルペスの治療における使用のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項8】
口腔顔面ヘルペスエピソードの期間の短縮における使用のための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項9】
不完全エピソードの期間の短縮における使用のための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項10】
口腔顔面ヘルペスの全体的な症状の重篤度の低減における使用のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項11】
一次又は二次水疱性病変が治癒するまでの期間の短縮における使用のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項12】
二次水疱性病変の発生の低減における使用のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項13】
前記組成物による重篤な副作用の無い口腔顔面ヘルペスの治療のための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項14】
唾液のウイルス量の減少並びに、局所のウイルスの蔓延、個体間、及び/又は個体内でのウイルスの拡散の低減における使用のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項15】
口腔顔面ヘルペスの前駆段階での使用のための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。
【請求項16】
少なくとも1つの非環式グアノシン抗ウイルス薬、1〜75重量%の希釈剤、及び1〜10重量%のアルキル硫酸アルカリ金属、0.1〜5重量%の結合剤、5〜80重量%の多糖又は、動物性若しくは植物性の天然のタンパク質、又は合成ポリマー、及びそれらの混合物である天然高分子の群より選択される少なくとも1つの生物付着性ポリマーを含み、かつ、5%〜80重量%の少なくとも非環式グアノシン抗ウイルス薬の徐放を提供する少なくとも1つのポリマーをさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の徐放性粘膜付着性バッカル錠。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2013−513575(P2013−513575A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542553(P2012−542553)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069313
【国際公開番号】WO2011/070125
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(504029558)
【Fターム(参考)】