説明

可剥離性被膜形成用組成物

【課題】構造物等の表面を一時的に保護し、落書きや貼り紙を容易に除去でき、また旧塗膜面や素地面の汚染除去剤としても有用な可剥離性被膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】乳酸系ポリマー(A)の水分散体及び25℃における粘度が25mPa・s以上である可塑剤(B)を含有する被膜形成用組成物であって、該可塑剤(B)を乳酸系ポリマー(A)の固形分100重量部に対して1〜40重量部含有することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物。被塗物面に、該可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜上になされた汚れや落書きを可剥離性被膜と共に除去、また該被膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離性被膜と共に除去する。また汚染物が付着した被塗物面に、該可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜を剥離して、被塗物面に付着した汚染物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物等の表面を一時的に保護し、落書きや貼り紙を容易に除去でき、また旧塗膜面や素地面の汚染除去剤としても有用な可剥離性被膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物外壁、電柱、電話ボックス等、屋外構造物の表面には、無断で落書きや貼り紙が貼着されることがある。近年、特に悪質な落書きや激しい商戦に伴う貼り紙が増加している上、インクやペイントの種類の増加やその特性の高度化、および強力な粘着剤の発展により、一旦形成された落書きや貼り紙の除去はますます困難になってきている。このような落書きや貼り紙を防止する方法として、例えば、特許文献1には、構造物表面にプライマー層、表面層及び可剥離層を形成された落書き対策用の構造体が開示されている。この構造体の製造方法では可剥離層が剥がれやすくなるように表面層を設ける必要があり、またその表面層が難接着性であるため、可剥離性材料の塗布が比較的困難であるという問題があった。
【0003】
また特許文献2には、構造物の基材の表面に、プライマー層、難接着性の表面層を形成し、この表面層に落書きされた後、その上に可剥離性塗料を塗布して可剥離層を形成し、この可剥離層を表面層から剥ぐことによって、表面層の表面から落書きを除去する落書き除去方法が開示されており、特許文献3では可剥離性被覆組成物として、自動車などの塗装された物品の表面を一時的に保護するのに有用な、ガラス転移温度が5〜30℃で重量平均分子量が3万〜10万の範囲であるアクリル系エマルジョンを主成分とする水性塗料が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−11261号公報
【特許文献2】特開平11−131022号公報
【特許文献3】特開平9−192593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記可剥離膜は、いずれも使用後、埋め立てにより廃棄処理された場合に残存したり、投棄された場合には景観を損ねたりすることがあり、また焼却処理された場合には、焼却時の発熱量が高いため、焼却炉を傷める恐れがあるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、生分解性を有し、使用後も自然環境に悪影響を及ぼさないものでありながら、容易に剥離が可能であって、屋外構造物等の表面を一時的に保護し、落書きや貼り紙を容易に除去できる可剥離性被膜形成用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、乳酸系ポリマー(A)の水分散体及び25℃における粘度が25mPa・s以上である可塑剤(B)を含有する被膜形成用組成物であって、該可塑剤(B)を乳酸系ポリマー(A)の固形分100重量部に対して1〜40重量部含有することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物、該可剥離性被膜形成用組成物を被塗物面に塗布し、可剥離性被膜を形成することを特徴とする可剥離性被膜形成方法、該可剥離性被膜形成用組成物を被塗物面に塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜上になされた汚れ及び/又は落書きを可剥離性被膜と共に除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法、該可剥離性被膜形成用組成物を被塗物面に塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離性被膜と共に除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法、及び該可剥離性被膜形成用組成物を汚染物が付着した被塗物面に塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜を剥離して、被塗物面に付着した汚染物を除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の可剥離性被膜形成用組成物によれば、特別な下層塗膜を設けることなく、可剥離膜を構造物表面等に設けられ、その表面に落書きや貼り紙がなされた場合にもこれらと共に容易に剥離することが可能であり、また使用後の剥離膜は生分解性を有するので、環境保全の面からも非常に有用である。
【0009】
また本発明の可剥離性被膜形成用組成物は、上記の如き建築内外面の一時保護剤としてだけでなく、旧塗膜面や素地面についているゴミ・埃、旧塗膜の劣化物、かび、藻、ヤニなどを除去するための汚染除去剤としても優れた性能を有するものであり、建築内外面などの塗装作業時に非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において乳酸系ポリマー(A)の水分散体は、被膜形成成分して配合されるものであり、該乳酸系ポリマー(A)としては、乳酸を主成分とする生分解性樹脂であれば特に制限なく従来公知のものが使用可能で、例えばポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とを共重合した脂肪族ポリエステルなどが好適に例示でき、これらは単独で又は併用して用いることができる。
【0011】
上記乳酸と共重合可能な他のヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸;2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルバレリン酸、5−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。これらのうち、特にグリコール酸やヒドロキシカプロン酸誘導体が、形成被膜の仕上り性や柔軟性付与の点から好適である。
【0012】
上記乳酸系ポリマー(A)は、その構成成分中に乳酸モノマーとしてL体とD体とが、重量比で75/25〜98/2の範囲内で存在することが、貯蔵安定性や造膜性の点から望ましい。また構成成分中に乳酸モノマーが60重量%以上、好ましくは80重量%以上使用されていることが、形成被膜の強度の点から望ましい。
【0013】
上記乳酸系ポリマー(A)は、重量平均分子量が1万〜30万、好ましくは10万〜25万の範囲であることが、形成被膜の強度の点から望ましい。ここで、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1.0ml/min、測定温度40℃でゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、溶媒のゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を使用する。
【0014】
上記乳酸ポリマー(A)には、その貯蔵時等の加水分解を抑制するために、必要に応じて加水分解抑制剤を配合することができる。該加水分解抑制剤としては、例えば、乳酸ポリマーの末端官能基であるカルボン酸や水酸基と反応性を有する化合物等が挙げられ、より具体的には、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。これらのうち、少量の添加で加水分解性を効果的に抑制可能なカルボジイミド化合物が好適に使用できる。
【0015】
上記カルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であれば特に制限なく従来公知のものが使用でき、油溶性でも水溶性でもよい。該カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等のモノカルボジイミド類が挙げられるほか、分子鎖中に2個以上のカルボジイミド基を持つカルボジイミド化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等の有機ジイソシアネート化合物を合成原料としたポリカルボジイミド化合物の重合末端であるイソシアネート基を活性水素化合物で末端封止した変性ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0016】
上記加水分解抑制剤の配合量は、乳酸系ポリマー(A)の固形分に対して0.1〜3重量%の範囲内であることが、加水分解抑制能やゲル化防止の点から望ましい。
【0017】
また上記乳酸系ポリマー(A)には、被膜形成成分として、必要に応じて従来公知の他の樹脂を併用することができ、特に生分解性の点から該乳酸系ポリマー以外の生分解性樹脂を併用することが望ましい。かかる乳酸系ポリマー以外の生分解性樹脂としては、例えばデンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン誘導体、カードラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デキストラン等の多糖類;グルテン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、セリシン、ケラチン、ポリグルタミン酸等のポリペプチド;カシュー樹脂、シェラック、ロジン等の天然樹脂などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。これらの配合量は、乳酸系ポリマー(A)との合計固形分中30重量%以下の範囲内であることが、形成被膜の強度や耐水性の点から望ましい。
【0018】
上記乳酸系ポリマー(A)は、従来公知の方法により水分散することができ、通常、乳酸系ポリマー(A)の有機溶剤溶液を、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などを分散安定剤として用いて水分散した後、その有機溶剤を除去して水分散体を調整することができる。
【0019】
本発明において可塑剤(B)は、上記(A)成分により造膜性を向上させるために配合されるものであり、25℃における粘度が25mPa・s以上、好ましくは27〜1000mPa・sの化合物であり、特に生分解性を有する化合物であることが望ましい。該粘度が25mPa・s未満では、可塑化効果が乏しく、造膜性が低下するので、好ましくない。ここで可塑剤(B)の粘度は、brookfield社製B型回転粘度計を用いて、せん断速度(回転数)60rpm、25℃で測定した値である。
【0020】
かかる可塑剤(B)としては、例えばクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体;ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体;グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等のグリセリン誘導体;エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体;、アジピン酸と1,4−ブタンジオールとの縮合体等のアジピン酸誘導体;ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。これらのうち、特にグリセリン誘導体、アジピン酸誘導体が、造膜性向上効果が高い点から好適である。
【0021】
上記可塑剤(B)の含有量は、前記乳酸系ポリマー(A)の固形分100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜45重量部の範囲内である。該含有量が1重量部未満では造膜性が低下し、形成被膜の柔軟性も劣り、一方50重量部を越えると、形成被膜から可塑剤がブリードアウトする恐れがあるので、好ましくない。
【0022】
また上記可塑剤(B)は、その種類によっては、必要に応じて予め水性エマルションとした上で、前記乳酸系ポリマー(A)の水分散体に配合するのが望ましい。その水性エマルション化には機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0023】
本発明組成物は、上記(A)及び(B)成分を必須として含有するものであり、さらに必要に応じて、塗装作業性、形成被膜の剥離性や造膜性を向上させる目的で水溶性高分子(C)を、また造膜性向上および被膜強度向上の目的で、炭素数6以上の脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂(D)を含有することができる。
【0024】
上記水溶性高分子(C)は、造膜性や耐水性の点から、25℃における水への溶解度が5〜100g/水100g、好ましくは7〜80g/水100gの範囲内であることが望ましく、また生分解性を有していることが望ましい。かかる水溶性高分子(C)としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、スルホン化変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム等の植物ガム;プルラン等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上併用して用いることができる。
【0025】
上記水溶性高分子(C)は、前記乳酸系ポリマー(A)の固形分100重量部に対し0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部の範囲内で配合されることが、塗装作業性、形成被膜の剥離性や造膜性、さらには耐水性の点から好適である。
【0026】
上記脂肪酸又は油脂(D)は、炭素数6以上、好ましくは6〜30のものであることが望ましく、該脂肪酸及び油脂としては、例えば、ヒマシ油、アマニ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、トール油、ヒマワリ油、ヤシ油、およびそれらの脂肪酸が挙げられ、水に分散し易いように変性されていてもよく、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。上記脂肪酸又は油脂(D)の含有量は、前記(A)及び(B)成分の固形分100重量部に対して、0.5〜30重量部、好ましくは1〜25重量部の範囲内が、造膜性や被膜強度、被膜の粘着防止の点から適当である。
【0027】
また上記脂肪酸又は油脂(D)を用いる場合には、必要に応じて形成される被膜の酸化硬化を促進させるために、金属ドライヤーを配合することができる。かかる金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。該金属ドライヤーの配合量は、脂肪酸又は油脂の合計配合重量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%が適当である。
【0028】
さらに本発明組成物は、落書き成分の浸透防止等保護性向上の点から顔料(E)を含有することが望ましい。該顔料(E)としては、例えばチタン白、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの着色顔料;タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、クレ−、マイカなどの体質顔料等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上併用して用いることができる。
【0029】
上記顔料(E)の含有量は、本発明組成物中の樹脂固形分100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは10〜30重量部の範囲内が適当である。
【0030】
本発明組成物は、また、形成被膜の屋外での長期使用時における耐久性向上の点から、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤よりなる耐候性助剤(F)を含有することが望ましい。
【0031】
紫外線吸収剤としては従来から公知のものが使用できる。このものの具体例としてはフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレートなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2´−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレート、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4,6−ジベンゾイルレゾルシノール、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾ−ル系及びその他(シュウ酸アニリド、シアノアクリレートなど)の化合物などが挙げられる。
【0032】
光安定剤としては従来から公知のものが使用できる。主としてヒンダードアミン誘導体であるが、具体的にはビス−(2,2´,6,6´−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテート、4−ベンゾイルオキシ−2,2´,6,6´−テトラメチルピペリジンなどが好適である。
【0033】
上記紫外線吸収剤及び光安定剤は、夫々単独でまたは併用して用いることができる。
【0034】
上記耐候性助剤(F)の配合量は目的に応じて任意に選択できるが、組成物中の樹脂固形分100重量部に対して、紫外線吸収剤が0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、光安定剤が0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部が適当である。
【0035】
さらに本発明組成物は、被塗面への適度な密着性の付与及び長期使用後でも容易に剥離可能とする点から、剥離助剤(G)を含有することが望ましい。該剥離助剤(G)としては、ワックス系、シリコーン系、フッ素系などから選ばれる少なくとも1種以上の化合物が好適に使用できる。これらは水に溶解、もしくは分散化されたもの、もしくは粉末状のいずれのものであっても使用できる。これらのうちポリエーテル変性シリコーンオイルが好適に使用できる。
【0036】
上記の顔料(E)、耐候性助剤(F)、剥離助剤(G)は、必要に応じて予め水性エマルションとした上で、前記乳酸系ポリマー(A)の水分散体に配合するのが望ましい。これら成分の水性エマルション化には機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0037】
本発明組成物には、さらに必要に応じて、ポリマー粒子、顔料分散剤、界面活性剤、表面調整剤、沈降防止剤、帯電防止剤、軟化剤、抗菌剤、香料、硬化触媒、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、アルデヒド捕捉剤、調湿剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン等を適宜配合することができる。
【0038】
本発明では、被塗物面に、本発明の可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥し、可剥離性被膜を形成することができ、これによって該被塗面を一時的に保護することができる。
【0039】
被塗面としては、例えば、建物外壁、橋脚、トンネル内面、ガードレール、電柱、電話ボックス等の屋外構造物の表面;二輪、四輪などの自動車車両、鉄道車両、飛行機、鋼製家具、建材、家電製品、厨房機器等の工業製品の表面などが挙げられる。
【0040】
塗布方法としては、例えばローラー、刷毛、スプレーなど従来公知の方法が特に制限なく採用できる。塗布膜の乾燥は、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。通常、約40℃未満程度の常温乾燥であることが望ましい。
【0041】
可剥離性被膜の膜厚は、乾燥膜厚で30〜300μm、好ましくは50〜200μmであることが、保護性確保及び剥離時の容易性、さらに塗布作業性の点から好適である。
【0042】
本発明では、特に屋外構造物などの被塗物面に、本発明の可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥し、可剥離性被膜を形成した後、該膜上になされた煤塵や排気ガス、タバコ等による汚れや、ラッカーや油性マーカー等による落書きを可剥離性被膜と一緒に容易に除去することができる。また本発明では屋外構造物などの被塗物面に、本発明の可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥し、可剥離性被膜を形成した後、該膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離性被膜と一緒に容易に除去することができる。
【0043】
さらに本発明では、汚染物が付着した被塗物面、例えば建築構造物の内外の旧塗膜面あるいは素地面に、上記可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥後、該可剥離性被膜を剥離して、旧塗膜面あるいは素地面に付着した汚染物(ゴミ・埃、旧塗膜の劣化物、かび、藻、ヤニなど)を除去することができる。素地としてはモルタル、コンクリ−ト、磁器タイル、石材、レンガ、クロス、木材など特に制限なく適用できる。該方法においては、凹凸の大きい被塗面へ適用する場合には塗布量が150g/m以上となるように塗装することが望ましい。150g/m未満では剥離性が不良となり付着汚染十分に除去できなくなるので望ましくない。また被塗面に付着したカビや藻の除去を目的とする場合には上記可剥離性被膜形成用組成物として殺菌剤を配合してなる組成物を用いてよく、被塗面に付着したヤニの除去を目的とする場合には、上記可剥離性被膜形成用組成物として界面活性剤を配合してなる組成物を用いてもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「重量部」及び「重量%」を示す。
【0045】
可剥離性被膜形成用組成物の作製
実施例1〜15及び比較例1〜4
表1に記載の配合に従って混合・攪拌して各可剥離性被膜形成用組成物A〜Sを得た。尚、表1中における(注1)〜(注12)は下記の通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
(注1)乳酸系ポリマーの水分散体(1):ポリ乳酸樹脂(L体/D体=80/20(重量比)、重量平均分子量14万、ガラス転移温度52℃)50部をトルエン200部に溶解した溶液に、「Newcol707SF」(商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%)20部を添加し、ホモディスパーによる攪拌下、水55部を徐々に添加して乳化した後、減圧下でトルエンを除去し、固形分50%、粒径870nmの乳酸系ポリマーの水分散体(1)を得た。
【0048】
ここでガラス転移温度の測定はJIS K 7121に準じて、示差走査熱量測定方法(DSC)により求めた。
【0049】
(注2)乳酸系ポリマーの水分散体(2):L−乳酸92モル%に2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸8モル%共重合した脂肪族ポリエステル樹脂(重量平均分子量17万、ガラス転移温度27℃)を用いた以外は、乳酸系ポリマーの水分散体(1)と同様にして、固形分50%、粒径1200nmの乳酸系ポリマーの水分散体(2)を得た。
【0050】
(注3)「プライマルAC−264」:商品名、ロームアンドハース社製、固形分60.5%のアクリルエマルション、アクリルのガラス転移温度18℃
(注4)「リケマールPL−019」:商品名、理研ビタミン社製、グリセリンジアセトモノラウレート、25℃における粘度31mPa・s、可塑剤
(注5)「アデカサイザーD−55」:商品名、旭電化工業社製、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル、25℃における粘度19mPa・s、可塑剤
(注6)「イナゲルV−10K」:伊那食品工業社製、キサンタンガム、25℃における水への溶解度が約40g/水100g
(注7)「SNデフォーマー380」:商品名、サンノプコ社製、消泡剤
(注8)「スラオフ72N」:商品名、竹田薬品工業社製、防腐剤
【0051】
(注9)チタン白ペースト:酸化チタン(商品名「チタンCR−95」、石原産業社製)560部にポリカルボン酸ナトリウム塩の40%水溶液12部、水160部を加えてよく攪拌し、サンドミル分散機で10ミクロン以下の粒度に分散して、チタン白ペーストを得た。
【0052】
(注10)剥離助剤:変性シリコーンオイル「TSF4445」(東芝シリコーン社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート2部、水68部を加えてよく攪拌し、固形分30%のシリコーンオイルの水分散体を得た。
【0053】
(注11)紫外線吸収剤:「チヌビン1130」(チバスペシャルティケミカルズ社製、ベンゾトリアゾール誘導体)30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水65部を加えてよく攪拌し、固形分30%の紫外線吸収剤の水分散体を得た。
【0054】
(注12)光安定剤:「サノールLS−292」(三共社製、ヒンダードアミン誘導体)50部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水45部を加えてよく攪拌し、固形分50%の光安定剤の水分散体を得た。
【0055】
可剥離性被膜の形成
実施例16〜30及び比較例5〜8
上記の通り得られた実施例及び比較例の可剥離性被膜形成用組成物A〜Sを、下記の3種の試験板上に夫々、ドクターブレードを用い、乾燥膜厚が約100μmになるように塗布し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で乾燥させて、3種の試験塗板を得た。
【0056】
試験板(1):スレート板上に「VPシーラー透明」(関西ペイント社製、塩化ビニル樹脂系透明シーラー)を塗布量120g/mになるように刷毛塗りし、気温20℃、相対湿度60%の条件下で2時間乾燥させ、次いで「アレスセラアクリル」(関西ペイント社製、アクリル樹脂系上塗り塗料)を塗布量100g/mになるように刷毛塗りし、6時間放置後、さらに同一の塗料を塗布量100g/mになるように刷毛で塗り重ねて、気温20℃、相対湿度60%の条件下で10日乾燥を行い試験板(1)を得た。
【0057】
試験板(2):「パルボンド3050」(商品名、リン酸亜鉛系表面処理剤、日本パーカライジング社製)で表面処理した軟鋼板(厚さ0.7mm)にアミノアルキド樹脂塗料(関西ペイント社製、商品名「アミラック」)を乾燥膜厚で約20μmとなるように塗装後、140℃、30分間焼付けし、試験板(2)を得た。
【0058】
試験板(3):塩化ビニル板
【0059】
評価試験
上記可剥離性被膜形成用組成物A〜Sについて、下記基準にて評価した。結果を表2に示す。
【0060】
(*1)造膜性:試験板(1)上にドクターブレードを用い、乾燥膜厚が100μmになるように各可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で造膜性を確認し、以下の基準にて評価を行った。
【0061】
○:異常なし。均一な連続被膜が形成されている
△:ヒビ割れ状の異常が塗面の30%未満に認められる
×:ヒビ割れ状の異常が塗面の30%以上に認められる
【0062】
(*2)剥離性(初期):各可剥離性被膜形成用組成物を、上記3種の試験板上に夫々、ドクターブレードを用い、乾燥膜厚が約100μmになるように塗布し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で1日乾燥させた。得られた被膜を同温度下に、カッターで30mm幅の切り込みを入れ、1m/30秒の速度で被膜を剥離した。
【0063】
◎:極めて容易に剥離できる
○:容易に剥離できる
△:多少抵抗感はあるが、剥離できる
×:剥離できない
【0064】
(*3)剥離性(促進耐候性):各可剥離性被膜形成用組成物を、上記3種の試験板上に夫々、ドクターブレードを用い、乾燥膜厚が約100μmになるように塗布し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で7日間乾燥させて、得られた被膜を、JIS K 5600の7−7(キセノンランプ法)の促進耐候性試験に準じて、150時間照射した後、(*2)と同様の方法で剥離し易さを温度20℃の条件下で試験した。
【0065】
(*4)保護性(落書き):上記(*2)と同様にして各試験塗板を作成し、得られた被膜上に落書きを施し、さらに1日放置した。その後、被膜を剥離し、各試験板上の落書き跡の有無を目視にて観察した。落書きは市販の溶剤タイプ黒色ラッカースプレーを約25cm離れた位置から、3秒間吹き付けることによって施した。
【0066】
○:異常なし
△:やや落書き跡が残っている
×:落書き跡が残っているまたは剥離不可
【0067】
(*5)保護性(貼り紙):上記(*2)と同様にて各試験塗板を作成し、得られた被膜上に貼り紙を施し、さらに1日放置した。その後、被膜を剥離し、各試験板上の貼り紙跡の有無を目視にて観察した。貼り紙は市販のスプレーのり(商品名、スプレーのり77、住友スリーエム社製)を用いてカラー印刷されたB5サイズのコート紙を貼り付けて施した。
【0068】
○:異常なし
△:やや貼り紙跡が残っている
×:貼り紙跡が残っているまたは剥離不可
【0069】
(*6)煙草ヤニ除去性:各試験板(1)〜(3)を9リットルのデシケーターに入れ、所定本数の煙草(商品名、ハイライト)に火をつけて燃焼させ、各試験板の表面にヤニを付着させた。その後、各試験板のヤニの付着面に、可剥離性被膜形成用組成物を夫々、ドクターブレードを用いて、乾燥膜厚が約100μmになるように塗布し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で7日間乾燥させた後、各被膜を剥離し、各試験板上のヤニの有無を目視にて観察し、以下の基準にて評価を行った。
【0070】
○:ヤニが残っていない
△:一部ヤニが残っている
×:ヤニが残っているまたは剥離不可
【0071】
(*7)生分解性:可剥離性被膜形成用組成物を、ドクターブレードを用いて、乾燥膜厚が約100μmになるようにポリプロピレン製の板に夫々塗装し、気温20℃、相対湿度60%の雰囲気で7日放置後、該板から被膜を剥離し、各試験片(被膜)を得た。得られた試験片を2枚のポリプロピレン製の網に挟み、神奈川県平塚市の関西ペイント株式会社内の敷地深さ50cmの土中に埋没し、6ヶ月後に目視で評価を行った。
【0072】
○:試験片が完全に消失している
△:試験片の60%以上が消失している
×:試験片が完全に残っている
【0073】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系ポリマー(A)の水分散体及び25℃における粘度が25mPa・s以上である可塑剤(B)を含有する被膜形成用組成物であって、該可塑剤(B)を乳酸系ポリマー(A)の固形分100重量部に対して1〜50重量部含有することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項2】
乳酸系ポリマー(A)が、ポリ乳酸である請求項1記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項3】
乳酸系ポリマー(A)が、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とを共重合した脂肪族ポリエステルである請求項1記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項4】
さらに水溶性高分子(C)を含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項5】
さらに炭素数6以上の脂肪酸又は油脂(D)を含有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項6】
さらに顔料(E)を含有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項7】
さらに耐侯性助剤(F)を含有する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項8】
さらに剥離助剤(G)を含有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項9】
被塗物面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成することを特徴とする可剥離性被膜形成方法。
【請求項10】
可剥離性被膜の膜厚が、乾燥膜厚で30〜300μmである請求項9記載の可剥離性被膜形成方法。
【請求項11】
被塗物面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜上になされた汚れ及び/又は落書きを可剥離性被膜と共に除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法。
【請求項12】
被塗物面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜上に貼り付けられた貼り紙を可剥離性被膜と共に除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法。
【請求項13】
汚染物が付着した被塗物面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成した後、該被膜を剥離して、被塗物面に付着した汚染物を除去することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物の使用方法。


【公開番号】特開2006−160867(P2006−160867A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353728(P2004−353728)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】