説明

可塑性油脂組成物及びその製造法

【課題】本発明の目的は、トランス酸の殆どない油脂を主体に使用し、または硬化油を用 いなくても、パームステアリンまたはパームステアリン及びパーム油を含んだ低軟化点 油脂にワックス成分を用いて、加熱溶解、急冷、捏和された可塑性油脂組成物を提供す ることを目的とする
【解決手段】本発明は、パームステアリンまたはパームステアリン及びパーム油を含んだ 軟化点25℃以下の低軟化点油脂にワックス成分である蜜蝋を油性成分に対し0.1〜 30重量%配合し加熱溶解し急冷、捏和工程を通した可塑性油脂組成物およびその製造 法で、パン、菓子類の用途に応用されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分が低軟化点油脂とワックス成分からなる可塑性油脂組成物及びその 製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パン、菓子用に可塑性油脂組成物が用いられ、その保型性を出すためには、高融 点の硬化油を多く液体成分を少なくして配合したりあるいは、極度硬化油で調整して使 用されているのが現状であるが口溶けの悪いものになり得る。また最近の傾向として油 脂の硬化に起因するトランス酸を嫌い硬化油の使用制限された低トランス酸食用油脂組 成物の要望があったり、更には硬化油を使用しないノートランス酸食用油脂組成物の要 望が出てきた。
【0003】
特許文献1では可塑性油脂及びその製造法が開示されている。それらは可塑性油脂主体 の油脂ベース中にワックス粉末や粉末油脂が粉末状態で存在するマーガリン、ショート ニングに関するものであり、融解した油脂ベースを常法により急冷した後、又は急冷練 り合わせをした後に、ワックス粉末や粉末油脂を添加、混合する可塑性油脂の製造法で ある。この文献では油脂配合自体では硬化油の多い配合であり、またワックスを完全に 溶解していないために食感としてザラツキの可能性も考えられる。
特許文献2では可塑性油脂組成物およびそれを用いたセンタークリーム類について開示 されている。すなわち大豆油、ナタネ油、コメ油、コーン油等液状油、またはそれらを 水添、分別、エステル交換等して加工した油脂を、単独でまたは2種類以上を混合して 、これに天然ロウであるキャンデリラワックスをセンタークリーム類の油相に対して0 .1〜5.0重量%となるように添加してなるセンタークリーム類用可塑性油脂組成物 の製造法である。この文献ではセンタークリーム類のマイグレションの抑制のため、ワ ックスとしてキャンデリラワックスが選択され、油脂配合自体もトランス酸の殆どない 油脂を全体にまた硬化油を用いないことを考慮した配合ではない硬化油主体の油脂組成 物である。
特許文献3では耐熱性食用油脂組成物の製造法が開示されている。その製造法は油脂よ りなる連続相と不連続相とより成る油脂組成物を融点35℃以下の口溶け良好なマーガ リン、ショートニング又はバターなどの油脂を用いて製造するものであって、安定結晶 型が主としてβプライムである極度硬化油4〜24重量部と液状油脂、微水添油脂の一 方又は双方96〜76重量部とより生成したマーガリン又はショートニングを組成物に 6〜30%重量含有せしめることを特徴とする耐熱性食用油脂組成物の製造方法である 。ここに安定結晶型が主としてβプライムである極度硬化油とは、動植物油脂を沃素価 5程度又はそれ以下に硬化した極度硬化油のうち、パーム油又はそれを分別して得られ る高融点油脂(パーム油ステアリン)又は低融点油脂(パーム油オレイン)、エルシン 酸含有量30%以上のナタネ油、牛脂、魚油などの極度硬化油で融点55℃以上、時に は70℃以上を有するものである。この文献では食用油脂組成物の耐熱性を上げるため にこの極度硬化油と液状油脂、微水添より生成したマーガリン又はショートニングは、 口溶けが悪いために、敢て35℃の口溶けの良いマーガリン又はショートニングを6〜 30重量%含有させて口溶けを良くすることを行っている。又油脂配合自体も硬化油配 合であり、製法も2ステップの工程となり手間と時間が掛かる難点がある。
【特許文献1】特公平7−22488号公報
【特許文献2】特開平6−7087号公報
【特許文献3】特開昭62−22547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、可塑性油脂組成物において、トランス酸の殆どない油脂を主体に使用 し、または硬化油を用いなくても、保型性が良くかつ口当りに優れた可塑性油脂組成物 を効率良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記目的を解決するために鋭意研究を行った結果、低軟化油脂であってもワ ックス成分を用いることにより可塑性油脂として保型性を持たせることを見出し、本発 明に到達した。本発明の第1は油脂成分が低軟化点油脂とワックス成分からなる可塑性 油脂組成物である。第2は低軟化点油脂の軟化点が25℃以下である可塑性油脂組成物 である。第3は低軟化点油脂がパームステアリンを含む可塑性油脂組成物である。第4 は低軟化点油脂がパームステアリン及びパーム油を含む可塑性油脂組成物である。第5 はワックス成分として蜜蝋が油性成分中0.1〜30%含まれている可塑性油脂組成物 である。第6は可塑性油脂組成物を練り込んで製造されたパン、菓子類である。第7は 油性成分が実質的に低軟化点油脂である油脂とワックス成分を融解、急冷、捏和するこ とを特徴とする可塑性油脂組成物の製造法である。
【発明の効果】
【0006】
マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド等の可塑性油脂組成物において、ト ランス酸の殆どない油脂を主体に使用し、または硬化油を用いなくても、低軟化点油脂 にワックス成分を配合することにより保型性のある可塑性油脂組成物を提供することが 可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の可塑性油脂組成物配合において、保型性を上げるために、トランス酸の殆どな い油脂を主体に使用し、または硬化油を用いなくても、パームステアリンまたはパーム ステアリン及びパーム油を含んで軟化点を25℃以下に配合した低軟化点油脂とワック ス成分を配合した油脂組成物の軟化点が25℃以上である可塑性油脂組成物を作る。
可塑性油脂組成物の製造は常法に従って、油相中の油脂原料にワックス成分を完全溶解 し、さらに水相成分を添加し加熱乳化、殺菌、急冷、捏和する。
【0008】
本発明で使用する油脂は、従来可塑性油脂に用いて来られた油脂に比べて、低軟化点油 脂で良く、軟化点が25℃以下でパームステアリンまたはパームステアリン及びパーム 油を含んだ油脂組成物である。
低軟化点油脂とワックス成分を配合した油脂組成物の軟化点が25℃以上の可塑性油脂 組成物である。
【0009】
融点における軟化点(環球法)の測定法は日本油化学会制定 基準油脂分析試験法 2 .2.4.3(1996)2003年版に記載されている。
【0010】
本発明の食用油脂組成物に使用する油脂原料は例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種 子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック 油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、やし油、パーム核油等 の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード等の動物性油脂が例示出来、上記油脂類の単独 又は混合油あるいはそれらの分別、エステル交換等を施した加工油脂を使用出来る。本 発明に使用油脂としては特にパームステアリンあるいはパームステアリンとパーム油を 含んで軟化点25℃以下に調整した低軟化点油脂とワックス成分を組み合わせて使用す るのが良い。従来の硬化油主体ベースでは硬化油の高融点部、中融点部配合で口溶けに 影響してくるが、ここで使用する低軟化点油脂は軟化点25℃以下と低い油脂ベースに ワックスを配合するため、硬化系ベースより口溶けは良い。
【0011】
パームステアリンはパーム油を融解し、温度を制御しながら冷却して結晶化させた後、 濾過して1段分別で得られた固体部分である。
硬化油や極度硬化油を使用しない配合では特に固型脂であるパーム油やパームステアリ ンの利用が有効である。パームステアリンはその融点が体温より高いので、口の中では 固化してしまい、口溶け、食感が悪いものになる。食用には少ししか用いておらず、多 くは工業用に利用されており、このパームステアリンの用途開発に注目した。よってト ランス酸の殆どない油脂を主体に使用し、または硬化油を用いなくても、保型性を確保 するには、固型脂としてパームステアリン及びパーム油の利用が発明としての効果は大 である。
【0012】
本発明の用いるワックス成分は天然ワックス、例えば蜜蝋、キャンデリラワックス、カ ルナバワックス、ホホバワックス、米ワックス、木ロウ等を挙げることが出来る。食用 として使用出来るものでは蜜蝋が最適である。蜜蝋はミツバチが巣作りをするために腹 部から分泌するもので通常巣を溶かし、繭やクズなどの不純物を濾過して得られる。
【0013】
ワックス成分の添加量としては油性成分に対し0.1〜30重量%、より好ましくは0 .5〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%が適している。いずれの場合も使用 するワックス成分以外の油脂の融点や最終製品に求められる保型性により決定される。 添加量が多すぎると口溶けが悪くなり風味的に異味感が出てきて好ましくない。またワ ックス成分添加により、このワックスが固型脂の役目をし、低融点油脂を主体とする可 塑性油脂組成物に配合することにより、保型性改良、特に硬さ改善に効果がある。
【0014】
可塑性油脂組成物とは、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド等のことで ある。
【0015】
本発明の可塑性油脂組成物に使用する油脂又は油脂及び水以外の成分としては、乳成分 、呈味成分、発酵乳、クリーム乳化物、豆乳、糖類、香料、栄養成分、乳化剤、増粘多 糖類、食塩、塩類、酸化防止剤、色素等を適宜選択使用することが出来る。
【0016】
可塑性油脂組成物の製造方法としては上記原材料およびワックスについては完全に溶解 し均一に加熱混合乳化、殺菌処理しコンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の 急冷捏和機を通して製造する。
【0017】
本発明の可塑性油脂を練り込んで製造したパン、菓子類の用途に使用される。
練り込みは公知の方法で行うことが出来る。たとえばパン類以外に菓子類、ビスケット 、クッキー、バターケーキ、スポンジケーキ等焼菓子、洋菓子に使用出来る。
【0018】
パン類生地は、食パン、バターロール、各種パン類への用途が可能である。
小麦粉は強力粉、中力粉の種別は問わないものであり、小麦粉にイースト、食塩、水等 の主原料を加えて通常の方法によりパン類生地が得られる。小麦粉100重量部に対し て表示している。配合は中種生地として小麦粉70、イースト2.5、イーストフード 0.1、水42、本捏生地として小麦粉30、砂糖7、食塩2、可塑性油脂組成物6、 水18である。工程は中種生地として、ミキシング低速3分、中速1分、捏ね上げ温度 24〜25℃、フロアタイム3時間、本捏生地として、ミキシング低速3分、中速4分 、低速3分、中速4分、捏ね上げ温度28℃、分割重量230g、ベンチタイム20分 、ホイロ38℃、湿度85%、ホイロ時間45分、焼成210℃、40分でパン焼成し パン製造においての作業性、口溶け、風味を検討する。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実 施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味す る。
実施例1
精製パームステアリン15%(ヨウ素価31)、精製パーム油10%(ヨウ素価51) 、精製ナタネ油59%、蜜蝋2%、を混合し、完全溶解した後、食塩0.5%、水を1 3.5%添加し調合する。これをマーガリン製造装置コンビネーターで急冷、捏和して 、マーガリンを調製した。蜜蝋なしの比較例1では、低軟化点油脂組成物の軟化点が2 5℃以下の24℃である。実施例1では低軟化点油脂に蜜蝋を配合した油脂組成物の軟 化点が25℃以上で31℃になり、得られたマーガリンの硬さはレオメータ値で400 /10℃で製パン作業性が良好で、マーガリンの口溶けは比較例3の硬化系ベースより 良いものになり、風味も何ら問題なかった。
【0020】
比較例1
蜜蝋なしの配合である低軟化点油脂を使用した。精製パームステアリン15%、精製パ ーム油10%、精製ナタネ油59%、食塩0.5%、水15.5%を実施例1と同様の 方法でマーガリンを調製した。この油脂組成物の軟化点は24.0℃である。この軟化 点油脂だけで得られたマーガリンの硬さはレオメータ値で200/10℃で柔らかく、 製パン作業性が著しく悪く不良であった。
比較例2
精製大豆硬化油(融点36℃)8.5%、精製硬化ナタネ油(融点31℃)50.0% 、精製大豆油25%、食塩0.5%、水16.0%を実施例1と同様の方法でマーガリ ンを調製した。この油脂組成物の軟化点は26.0℃である。得られたマーガリンの硬 さは400/10℃で硬さ的には適度であり製パン作業性は良好である。これは硬化油 を使用した一般的な配合である。
比較例3
精製大豆硬化油(融点36℃)8.5%、精製ナタネ油(融点31℃)50.0%、精 製大豆油25%、蜜蝋2.0%、食塩0.5%、水14.0%を実施例1と同様の方法 でマーガリンを調製した。この油脂組成物の軟化点は29.5℃である。得られたマー ガリンの硬さは550/10℃で硬さ的には硬く、製パン作業性はやや良好である。比 較例2に硬化油ベースに蜜蝋を配合しているために、硬さ的に硬く、口溶けの悪いもの になる。
比較例4
精製大豆硬化油(融点36℃)8.5%、精製ナタネ油(融点31℃)50.0%、精 製大豆油25%、食塩0.5%、水16.0%の比較例2で得られたマーガリンに蜜蝋 を溶解しないで、蜜蝋を2%後添加してマーガリンを調製した。得られたマーガリンの 硬さは420/10℃で硬さ的には比較例2と変わらない。製パン作業性はやや良好で あるが、少し蜜蝋のザラツキが見られた。
【0021】
実施例1、比較例1〜3の結果から、低軟化点油脂(軟化点25℃以下)だけの比較例 1では、硬さが柔らかいためにパンの作業性が悪い結果となり、この低軟化点油脂に蜜 蝋を配合した実施例1では(軟化点31℃)ではパン作業性が良く、問題なかった。パ ンの食感も比較例2、3の硬化系ベースより口溶けの良いものになった。パン作業性か ら油脂組成物の軟化点が25℃を境界に、25℃以下では作業性にならず、蜜蝋を配合 することにより25℃以上の軟化点となり、蜜蝋が固型脂の役目を果たし、保型性のあ る可塑性油脂組成物になった。比較例4の蜜蝋を後添加する方法はザラツキが見られ手 間と時間の掛かる製法になった。
【0022】
レオメータによる硬さの測定はレオメータNRM−2002J(不動工業株式会社製) にて、直径10mmプランジャーを使用し、送り台速度5cm/分で測定した。サンプ ル調製はサンプルを直径8cm、深さ4cmの容器に一杯とり、スリきるような状態に なるが、硬い場合はかたまりのまま容器にサンプリングする。その後プランジャーを挿 入し、負荷を記録する。多くの場合はピークが得られ、その場合はピーク時の負荷を測 定値とする。明確にピークが出ない場合は、プランジャーが底に当り、数値が急上昇す る直前の数値をもって測定値とした。(単位はg/φ10mm)
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、可塑性油脂組成物において、トランス酸の殆どない油脂を主体に使用し、ま た硬化油を用いなくても、パームステアリンまたはパームステアリン及びパーム油を含 んだ油脂にワックス成分を配合することで保型性のある可塑性油脂組成物を得るもので あり、また、トランス酸の問題を解決することに関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分が実質的に低軟化点油脂とワックス成分からなる可塑性油脂組成物 。
【請求項2】
低軟化点油脂の軟化点が25℃以下である請求項1の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
低軟化点油脂がパームステアリンを含んでいる請求項1の可塑性油脂組成物 。
【請求項4】
低軟化点油脂がパームステアリン及びパーム油を含んでいる請求項1の可塑 性油脂組成物。
【請求項5】
ワックス成分として蜜蝋が油性成分中0.1〜30重量%含んでいる請求項 1の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項1の可塑性油脂組成物を練り込んで製造したパン、菓子類。
【請求項7】
油性成分が実質的に低軟化点油脂である油脂とワックス成分を融解し、急冷 、捏和することを特徴とする可塑性油脂組成物の製造法。

【公開番号】特開2006−129819(P2006−129819A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324573(P2004−324573)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】