説明

可変分散補償器

【課題】光ファイバ通信システムにおける光信号の波長分散特性を補償する可変分散補償器を提供することを目的としている。
【解決手段】チャープグレーティングが形成された光ファイバ2と、光ファイバ2を載置する温調体3と、表面に光ファイバ2の光軸2a方向に沿って複数のヒータ4が配設され、複数のヒータ4上に温調体3を載置するヒータ基板5と、複数のヒータ4に電力を供給し、複数のヒータ4の温度を個別に制御するヒータ温度制御装置7と、を備えたもので、効率良く光ファイバ伝送路の分散特性を補償することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信システムにおける光信号の波長分散特性を補償する可変分散補償器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送路に用いた光通信システムでは、光ファイバの持つ波長分散特性(以下、分散特性と称する)により光パルスの波形が歪むため、信号の劣化を生じる。これは、波長の異なる光パルスの波束の群速度が異なるためで、光パルスの波束が一定距離を伝搬するのに要する時間、すなわち群速度遅延(単位ps)が異なるためである。この群遅延時間の波長に対する傾きが分散(単位ps/nm)である。通常の光ファイバ伝送路に用いられるシングルモードファイバ(SMF)では、波長1,550nm近辺では、伝送路1km当たり、約16ps/(nm・km)の分散値を有する。これは、波長が1nm異なる光パルスが1kmのSMFを伝搬するのに要する群遅延時間の差が16psという意味であり、例えば、波長が1nm異なる光パルスが100kmの光ファイバを伝搬した場合の群遅延時間は、100倍の1,600psとなる。
【0003】
一方、変調された光パルスは、変調方式やビットレートにより決まるいくつかの線スペクトルの広がりを持ち、その包絡線はガウス分布型となる。例えば、RZ(Return to Zero)方式では、ビットレート(伝送速度)10Gbpsの場合には、それぞれの線スペクトルの間隔は、0.08nmであるが、ビットレート40Gbpsの場合0.32nmとなる。すなわち、線スペクトルの広がりはビットレートに比例して増大する。また、NRZ(Non Return to Zero)変調方式では、RZ変調方式における線スペクトルの半分の広がりとなる。このようにビットレートが高くなるに従い、光パルスの成分である線スペクトルの間隔が広がるため、光ファイバ伝送路を伝搬したときの群遅延時間の差が大きくなり光パルスの歪みが増大する。また、光パルスが受ける光ファイバ伝送路の分散特性の影響はビットレートの二乗に比例して大きくなる。このため、光ファイバ伝送路の分散特性を相殺する分散特性を有するデバイスを伝送路に挿入し、全体として分散を零に近づける、すなわち、分散補償することが求められ、いくつかの分散補償器が提案されている。
【0004】
特許文献1による可変分散補償器では、基板上に保持され、入力される所定波長の光信号をブラッグ反射するグレーティングが形成されている光導波路(光ファイバ)と、基板上にグレーティングに近接して設けられたヒータと、ヒータを制御してグレーティングに所定の温度分布を付与する温度制御装置とを備え、基板の熱伝導率kは5W/(K・m)以下であり、基板の厚みは(0.018×k)mm以上であって、(0.46×k)mm以下の範囲内とされている。各ヒータに印加する電圧を制御することにより屈折率が変化し、チャープグレーティングでのブラッグ反射波長を変化させることにより分散値を可変にできる可変分散補償器が提案されている。
【0005】
また、特許文献2による可変分散補償モジュールでは、チャープグレーティングが形成されたグレーティング部を含む少なくとも1つの光ファイバと、光ファイバのグレーティング部の光軸方向温度分布を調節する温度制御機構を備えている。温度制御機構は、光ファイバの光軸方向に沿って配列された複数の発熱/吸熱素子と、発熱/吸熱素子の各々と光ファイバのグレーティング部の外周面との間に配置された熱伝導手段(複数の金属リング)とを有しており、複数の金属リングを用いて温度調整を行うことにより分散特性を補償する可変分散補償モジュールが提案されている。
【特許文献1】特開2004−258462号公報
【特許文献2】特開2004−334052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の可変分散補償方法においては、光ファイバのチャープグレーティング部のブラッグ反射波長を調整するため、離間させて配置された加熱源で直接光ファイバを加熱しているため、チャープグレーティング部の光軸方向に要求される線形の温度プロファイルを形成する際、階段状の温度リップルを発生させてしまう。この温度リップルは、光学特性を劣化させ、その結果、光信号の大幅な劣化を引き起こすという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、光ファイバのチャープグレーティング部に線形の温度プロファイルを与え、光信号の劣化を引き起こさない可変分散補償器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る可変分散補償器は、チャープグレーティングが形成された光ファイバと、光ファイバを載置する温調体と、表面に光ファイバの光軸方向に沿って複数のヒータが配設され、複数のヒータ上に温調体を載置するヒータ基板と、複数のヒータに電力を供給し、複数のヒータの温度を個別に制御するヒータ温度制御装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光ファイバとヒータとの間に温度をなだらかにする温調体を設け、加熱する光ファイバのチャープグレーティング部の温度プロファイルを線形に維持することにより、光学特性の劣化がなく、光信号の劣化を引き起こさない可変分散補償器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る可変分散補償器について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における可変分散補償器を示す概略断面図である。図2は、実施の形態1における可変分散補償器を示す概略斜視図である。
図1および図2に示すように、可変分散補償器1のチャープグレーティング部を持つ光ファイバ2は、温調体である管状温調体3の内壁に接した状態で載置され、管状温調体3は表面に光ファイバ2の光軸方向2aに沿って離間して配設された複数のヒータ4を持つヒータ基板5上に載置され、また、接着剤6により管状温調体3はヒータ基板5に接着固定され、これら複数のヒータ4には、電力を供給し、温度を個別に制御するヒータ温度制御装置7が接続され、さらに、管状温調体3にはその温度を検出する温度検出器8が取り付けられ、温度検出器8で検出された温度情報からヒータ温度制御装置7によって個々のヒータ4−1〜4−nに印加する電圧が調整される(なお、図2においては、ヒータ4とヒータ温度制御装置7間の配線の一部が省略されている)。
【0011】
次に、図1から図5を用いて実施の形態1における可変分散補償器1の構成と動作について説明する。
前述したように、光ファイバ伝送路は固有の波長分散特性を持っており、伝送距離とともに光パルスが歪み、信号が劣化する。これを補償するために、波長分散特性と逆の分散特性を与えて相殺させ、光パルスの劣化を抑えるものが(波長)分散補償器である。これは、光ファイバ伝送路の長さや光波長に依存するため、これらの状況に応じて補償分散特性を変化させる必要がある。本発明は光ファイバのチャープグレーティングとヒータとにより高性能な可変分散補償器を実現しようとするものである。
【0012】
ヒータ基板5の表面には光ファイバ2の光軸方向2aに沿って、複数のヒータ4が配置されている。ヒータ温度制御装置7から個々のヒータ4−1〜4−nに独立に要求される分散補償電圧9を印加することにより、管状温調体3を介して光ファイバ2のチャープグレーティング部(管状温調体3の長さにほぼ相当する光ファイバ2の部分に形成されている)に所定の温度プロファイルを与えることができる。例えば、図3では、各ヒータ4−1〜4−n毎に階段状に少しずつ増加する電圧を印加する場合を示す。ここで、温度検出器8は、グレーティング部の中央部10の位置に設置されている。図4は、ヒータ4に図3(a)に示す電圧を印加した場合の光ファイバ2のチャープグレーティング部の温度プロファイルを示す。ここでは、60mm長のチャープグレーティング部に対して24個のヒータ4を配した場合である。図4によると光ファイバ2とヒータ4との間に温度をなだらかにする管状温調体3がある場合には、温度プロファイル12にリップルが少なく、ほぼ直線的に変化するのに対して、管状温調体3がなく光ファイバ2を直接ヒータ4で加熱する場合には、温度プロファイル13は階段状に大きなリップルが生じる。ヒータ4の数が少なくなれば、さらにリップルの変化は大きくなる。このことから、管状温調体3により離散的に配置されたヒータ4の温度をなだらかにし、光ファイバ2に与えられる温度プロファイルでのリップルを抑制する働きをしていることが分かる。
【0013】
次に、図4に示す温度プロファイルを光ファイバ2のチャープグレーティング部に与えた場合の光波長(nm)に対する群遅延時間(ps)の関係を図5に示す。リップルの大きい温度プロファイル13をチャープグレーティング部に与えた場合、群遅延特性15にリップルが生じる。これに対して、リップルの小さい温度プロファイル12の場合には、群遅延特性14にリップルがほとんど現れない。群遅延リップルがあると、光信号の伝送特性を大きく劣化させる要因となる。実際に伝送シミュレータで計算すると上述のリップルのある温度プロファイル13では、約3dBのペナルティが発生する。これに対して、リップルの少ない温度プロファイル12の場合では、ペナルティが0.5dB以下と良好な群遅延特性14を示すことが明らかになった。
【0014】
例えば、管状温調体3として熱伝導率が高く、肉厚のものを使用した場合、光ファイバ2の光軸方向2aの熱伝導性が高く、ヒータ4で形成した温度プロファイルが管状温調体3によって平坦化されてしまうため、分散特性の可変幅が小さくなってしまう。また、同じ分散特性の可変幅を得るためにはヒータ4の消費電力の増大につながる。そこで、可変分散補償器1として良好な光学特性を得るために管状温調体3に要求される特性としては、材質、肉厚が所定の値である必要がある。そこで、次に、熱抵抗の考え方を用いて図6と図7により温調体に要求される条件を導く。熱抵抗は、熱の伝わり難さを抵抗値として表したもので、値が大きいほど熱が伝わり難い。電気抵抗と同じ考え方である。
【0015】
図6に管状温調体3とヒータ基板5の略断面図を示す。管状温調体3の熱抵抗をR3、ヒータ基板5の熱抵抗をR5とした場合、R3がR5より十分大きければ、つまり、光ファイバ2の光軸方向2aへの管状温調体3の熱の伝わり方が、ヒータ基板5の光軸方向2aへの熱の伝わり方より十分小さければ、ヒータ基板5で形成される温度プロファイルに影響されることがない。
【0016】
次に、管状温調体3とヒータ基板5に要求される条件について検討する。図7に、管状温調体3とヒータ基板5の寸法を記載した。管状温調体3の内半径をr3a、外半径をr3b、長さをL3、熱伝導率をγ3とし、ヒータ基板5の幅をW5、厚さT5、長さL5、熱伝導率γ5とする。ヒータ4は、薄膜ヒータを使用した場合を想定し、熱容量が非常に小さいため計算上は無視した。
このとき、管状温調体3の熱抵抗R3は以下の式で求めることができる。
R3=L3/((r3b−r3a)×π×γ3) (1)
また、同様にヒータ基板5の熱抵抗R2は以下の式で求めることができる。
R5=L5/(W5×L5×γ5) (2)
式(1)、式(2)で求めたR3とR5に関し、
R3>>R5 (3)
が成立する条件を満たす形状が必要である。
【0017】
一例として、管状温調体3の内半径r3aを0.51mm、外半径r3bを0.81mm、長さL3を75mm、熱伝導率γ3を16.3W/(m・K)とし、また、ヒータ基板5の幅W5を3mm、厚さT5を1mm、長さL5を75mm、熱伝導率γ5を1.35W/(m・K)として、計算した。その結果、式(1)より、R3は3,698kΩ、式(2)よりR5は18kΩとなる。R3の方が2桁以上大きいことから、上記条件の寸法、材料は式(3)を満足し、適用可能である。
上記条件では、管状温調体3をSUS管(ステンレス管)と想定し、熱伝導率を16.3W/(m・K)とした。また、ヒータ基板5は石英製を想定した。管状温調体3は熱抵抗を大きくする方が望ましい。そのため、なるべく外径が小さく、内径が大きく、熱伝導率の低いものが望ましい。しかし、熱伝導率の低い樹脂などでは、加工精度に限界があり、極細管を製造するのが難しくなる。
【0018】
温調体の材質としては、強度や製造の容易さの点で、金属管が適しているといえる。しかし、金属は熱伝導率が高い。そのため、熱伝導率が比較的小さい金属が望ましい。その点、SUS管は、熱伝導率が16.3W/(m・K)と金属の中では比較的に小さく、加工性にも優れており、また、注射針などの用途で大量生産されているため、製造コストも安いというメリットがあるため、最適な材料といえる。ただし、ヒータ基板の寸法、材質によっては、他の材料でも可能であり、SUS管に限定されるものではない。
【0019】
また、管状温調体3として石英製の管を用いた場合、肉厚が薄く、強度的に弱く破損しやすくなるが、ヒータ基板5にも石英製を用いる場合には、管状温調体3とヒータ基板5の線膨張係数が一致するため、両者に応力が発生せず長期的に接着強度が安定するというメリットもある。したがって、十分な強度が確保できる寸法であれば石英製管状温調体も上記熱伝導条件を満たす限りにおいて、適している材料のひとつである。
【0020】
複数のヒータ4を配設したヒータ基板5では、具体的には、例えば石英基板上に窒化タンタル(TaN、TaN)やクロム(Cr)などで薄膜ヒータを形成したものを用いることができる。薄膜ヒータは、PLC(Planer lightwave Circuits)型光スイッチやアレイ導波路型合分波器などで広く使用されており、信頼性が高く安価に製造が可能である。
【0021】
実施の形態1では、光ファイバ2のチャープグレーティング部は管状温調体3に挿入、載置されているのみで、光ファイバ2と管状温調体3とは接着剤で接合されていないが、光ファイバ2は管状温調体3の内壁底面の曲面により動きが抑制された状態で保持されるので、接着剤を使用した場合に生じる接着剤の硬化に伴う収縮応力やヒータ4の熱による接着剤の膨張に伴う応力が光ファイバ2にかからず、チャープグレーティングの分散特性に影響を与えることがないという特長を持っている。光ファイバ2が温調体でより安定して保持されるよう、管状温調体3や樋状温調体3a,3bの内壁の半径Rと光ファイバの半径rの比(R/r)は2から5であることが望ましい。
【0022】
光ファイバ2のチャープグレーティング部を管状温調体3にしっかりと固定するため、接着剤を使用してもよいが、ヒータ4での発熱が高い効率でチャープグレーティング部に伝わるため、消費電力の低減や温度の安定化を図ることができる。しかし、接着剤は、硬化する際に大きな収縮を伴う。この収縮に伴う応力がチャープグレーティング部に加わり、接着前と接着後では光学特性に変化を生じさせる。すなわち、分散特性に変化を生じさせてしまう。そこで、接着前と接着後のチャープグレーティングの分散特性の変化を予め評価しておき、このことを考慮して予め光学設計しておくとよい。また、光ファイバの温度上昇に伴う接着剤の膨張によっても光学特性の変化が生じる。これは、光ファイバが純度の高い石英でできており、線膨張係数が0.5×10−6と極めて小さいのに対して、接着剤の線膨張係数は、例えばシリコーン系の接着剤でも通常約2.0×10−4程度であり、2桁の差があるためである。従って、可変分散補償器は、常に温度をかけた状態で動作しているため、接着剤が大きく膨張し、この膨張に伴って応力が常にチャープグレーティング部に加わることを考慮しておく必要がある。
【0023】
温度検出器8を一箇所設置する場合には、温度検出器8の位置をチャープグレーティング部の中央部10に配置することにより、図3(b)で示すような特性の異なる分散補償電圧11が必要な場合に対しても、印加電圧変更の際に、個々のヒータに印加する電圧(図示せず)の変化を最小に抑えることができ、分散特性の変化に対して速い応答を実現することができる。
【0024】
このように、実施の形態1の可変分散補償器によると、温度を緩和する温調体を介して滑らかな温度プロファイルを光ファイバのチャープグレーティング部に加えることにより温度リップルがなく、優れた分散補償特性を実現することができ、また、ヒータに印加する電圧を変えることにより温度プロファイルを自由に変化させることができるので、光ファイバの分散特性に応じて、調整することができる可変分散補償特性を実現することができる。
【0025】
なお、上記実施の形態1では、温調体に管状温調体3を使用する場合について述べたが、図8に示すように内壁に曲面を持つ樋状温調体3a,3bであってもよい。例えば、図8(a)に示す管の側面の一部が開放されたものであってもよい(図8では、ヒータ温度制御装置および温度検出器は図示せず。)。また、図8(b)に示す外面が方形で、内壁が曲面を持つものであってもよく、これによれば、樋状温調体3bとヒータ4との接触性が向上し、固定安定性にも優れ、ヒータ4の熱を樋状温調体3bに効率よく伝えることができる。また、温調体3の内壁は必ずしも円弧である必要はなく、光ファイバを安定的に載置できる曲面であればよい。さらに、温調体は、必ずしも管状や樋状でなくてもよく、板状であってもよい。この場合は、チャープグレーティング部と温調体は管状温調体の場合の説明で述べたように接着剤で固定すればよく、接着剤による応力の影響による分散特性を考慮した設計をしておけばよい。
【0026】
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2における可変分散補償器を示す概略斜視図である。図10は、ヒータの抵抗値変化と温度との関係を示す図である。図11は、ヒータ番号と印加電圧の関係を示すものである。
図9に示すように、可変分散補償器1においては、管状温調体3の温度を検出する温度検出器8a,8bが管状温調体3の両端部に取り付けられ、温度検出器8a,8bで検出された温度(図11の16,17の位置に相当)からヒータ温度制御装置7によって個々のヒータ4−1〜4−nに印加する電圧が調整される(図9では、ヒータ4とヒータ温度制御装置7間の配線の一部を省略している)点を除いて、図2の実施の形態1で示すものと同様であるので説明を省略する。なお、図2と同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0027】
次に、実施の形態2の可変分散補償器の動作について説明する。図10に示すようにヒータ4の抵抗値は温度が上昇するに従って、25℃での抵抗値を100%とすると、250℃では抵抗値が96%までに減少する。この例は、薄膜ヒータとして、窒化タンタル(TaN)を用いた場合を示す。このように25℃での測定値を元に発熱量を計算し、ヒータに所定の電圧を印加しても、所望の温度にならない。また、管状温調体3の中央部10一箇所で温度を測定して制御をかけた場合、温度によりヒータ4の抵抗値が変わることにより、中央部10で合わせても、正確に分散特性を補償する温度プロファイルを形成することは困難である。そこで、実施の形態2では、図9に示すように、管状温調体3の2箇所の温度を測定することにより、分散特性を補償する方法を採用し、光ファイバ2のチャープグレーティング部の両端に対応する管状温調体3の両端部16,17に設けられた温度検出器8a,8bで測定された温度から分散特性を補償するのに必要なヒータ4の印加電圧9を決定し、個々のヒータ4−1〜4−nに印加する電圧を調整することができるので、光ファイバ2のチャープグレーティング部に分散特性を補償するのに必要な温度プロファイルが形成されるように精度よく加熱することができる(図11)。これにより、光ファイバ伝送路で伝送される光信号の分散特性を相殺し、歪みの少ない高速光パルス伝送を実現することができる。
【0028】
このように、実施の形態2の可変分散補償器によると、温度を緩和する温調体を介して滑らかな温度プロファイルを光ファイバのチャープグレーティング部に加えることにより温度リップルがなく優れた分散補償特性を実現することができ、また、ヒータに印加する電圧を変えることにより温度プロファイルを自由に変化させることができるので、光ファイバの分散特性に応じて、調整する可変の分散補償特性を実現することができるという実施の形態1の効果の他に、さらに、温調体の両端部の2箇所に温度検出器を設けたことにより、チャープグレーティングによる分散特性の補償に必要な温度プロファイルに精度よく合わせることができ、優れた分散補償特性を実現することができるといった従来にない顕著な効果を得ることができる。
【0029】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3における可変分散補償器を示す概略断面図である。図13は、実施の形態3における可変分散補償器を示す概略斜視図である。
図12および図13に示すように、可変分散補償器1のチャープグレーティング部を持つ光ファイバ2は、温調体である管状温調体3内に載置され、管状温調体3は光ファイバ2の光軸方向2aに沿って離間して配設された複数のヒータ4を持つヒータ基板5上に載置され、さらに、接着剤6により接着固定され、これら複数のヒータ4は、電圧を印加し、温度を個別に制御するヒータ温度制御装置7に接続され、また、管状温調体3にはその温度を検出する温度検出器8が取り付けられ、温度検出器8で検出された温度情報からヒータ温度制御装置7によって個々のヒータ4−1〜4−nに印加する電圧が調整される(なお、図13では、ヒータ4とヒータ温度制御装置7間の配線の一部を省略している)。さらに、ヒータ基板5の管状温調体3の載置面の反対面にはヒートスプレッダ18が配設され、ヒートスプレッダ18には温調素子19が取り付けられており、温度検出器20により検出された温度情報によりヒートスプレッダ18の温度を制御するヒートスプレッダ温度制御装置21に接続されている。なお、図1及び図2と同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0030】
次に、実施の形態3の可変分散補償器の動作について図12から図14を用いて説明する。分散特性を補償するために要求される光ファイバ2のチャープグレーティング部に加えられる温度プロファイルを生成するのに必要とされるヒータ4に印加される分散補償電圧9は、周囲温度によって変わる。これに対して、ヒートスプレッダ18の温度を一定に制御しておくことにより、ヒータ4の印加電圧は一定となり安定し、制御し易くなる。そこで、ヒートスプレッダ温度制御装置21を用いて、温調素子19によりヒートスプレッダ18の温度を室温以上に設定することにより、光ファイバ2のチャープグレーティング部の温度を調節する際に必要とされるヒータ4の分散補償電圧9は、図14に示すように、温調素子19によるヒートスプレッダ18の加温分22を除いた加熱追加分の電圧をヒータ4に印加するだけで済み、チャープグレーティング部の温度の変動が少なく、微調整が容易になるとともに、速い応答で、安定した制御を実現することができる。なお、管状温調体3の温度検出器8は中央部でなくてもよく、実施の形態2のように管状温調体3の両端部に設けてもよい。
【0031】
ヒートスプレッダ18としては、ヒータ基板5の温度を均一化する役割があるため、熱伝導率の高い材料が望ましい。具体的には銅(Cu:約400W/m・K)やアルミニウム(Al:約240W/m・K)などの金属が適している。温調素子19としては、例えばペルチェ素子が利用できる。ヒートスプレッダ温度制御装置21は、温度検出器20によって検出された温度により温調素子19を制御し、ヒートスプレッダ18の温度が常に一定となるように制御を行う。このため、周囲温度が変化してもヒートスプレッダ18の温度は変化しない。したがって、温調素子19は、ヒータ基板5を室温以上に加温するだけでなく、一定の温度に安定させて、ヒータ4によるチャープグレーティング部の温度の調整を容易にしている。
【0032】
このように、実施の形態3の可変分散補償器によると、温度を緩和する温調体を介して滑らかな温度プロファイルを光ファイバのチャープグレーティング部に加えることにより、温度リップルがなく優れた分散補償特性を実現することができ、また、ヒータに印加する電圧を変えることにより、温度プロファイルを自由に変化させることができるので、光ファイバの分散特性に応じて、調整する可変の分散補償特性を実現することができるという実施の形態1の効果の他に、さらに、温調素子により、室温以上に加温しておくことにより、ヒータによる温度の微調整が容易になるとともに速い応答特性が得られる効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施の形態1における可変分散補償器を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態1における可変分散補償器を示す概略斜視図である。
【図3】実施の形態1における可変分散補償器でのヒータ番号と印加電圧の関係を示す図である。
【図4】実施の形態1における可変分散補償器でのチャープグレーティング部位置と温度プロファイルの関係を示す図である。
【図5】実施の形態1における可変分散補償器での光波長と群遅延時間の関係を示す図である。
【図6】実施の形態1における可変分散補償器での管状温調体とヒータ基板の熱抵抗を示す図である。
【図7】実施の形態1における可変分散補償器での熱抵抗計算モデルを示す概略斜視図である。
【図8】実施の形態1における可変分散補償器での樋状温調体を示す図である。
【図9】実施の形態2における可変分散補償器を示す概略斜視図である。
【図10】実施の形態2における可変分散補償器でのヒータの抵抗値の温度依存性を示す図である。
【図11】実施の形態2における可変分散補償器でのヒータ番号と印加電圧の関係を示す図である。
【図12】実施の形態3における可変分散補償器を示す概略断面図である。
【図13】実施の形態3における可変分散補償器を示す概略斜視図である。
【図14】実施の形態3における可変分散補償器でのヒータ番号と印加電圧の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 可変分散補償器
2 光ファイバ
2a 光軸方向
3 管状温調体
3a,3b 樋状温調体
4,4−1,4−2,・・・,4−n ヒータ
5 ヒータ基板
7 ヒータ温度制御装置
8,8a,8b,20 温度検出器
18 ヒートスプレッダ
19 温調素子
21 ヒートスプレッダ温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャープグレーティングが形成された光ファイバと、
前記光ファイバを載置する温調体と、
表面に前記光ファイバの光軸方向に沿って複数のヒータが配設され、前記複数のヒータ上に前記温調体を載置するヒータ基板と、
前記複数のヒータに電力を供給し、前記複数のヒータの温度を個別に制御するヒータ温度制御装置と、
を備えたことを特徴とする可変分散補償器。
【請求項2】
温調体が、内壁が曲面を持つ管状もしくは樋状温調体で構成され、前記光ファイバを前記内壁に載置するものであることを特徴とする請求項1に記載の可変分散補償器。
【請求項3】
光ファイバの光軸方向に対応する温調体の熱抵抗が、前記光ファイバの光軸方向に対応するヒータ基板の熱抵抗よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可変分散補償器。
【請求項4】
光ファイバの分散特性を調整するように複数のヒータの温度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の可変分散補償器。
【請求項5】
温調体に温度検知器設け、前記温度検知器からの信号により複数のヒータの温度を制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の可変分散補償器。
【請求項6】
ヒータ基板のヒータ面の反対面にはヒートスプレッダが取り付けられ、また、前記ヒートスプレッダには温調素子が取り付けられており、前記温調素子により前記ヒータ基板の温度を室温よりも高く設定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の可変分散補償器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−26296(P2010−26296A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188365(P2008−188365)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】