可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関
【課題】簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行う可変動弁機構を提供する。
【解決手段】可変動弁機構1の回転カム4は一対の固定カム4aおよび可動カム4bを有している。この一対の固定カム4aおよび可動カム4bは、カムシャフト2を中心として回転方向に対しては共に動くが、カムシャフト2の軸方向に対しては可動カム4bだけが移動可能であり互いの間隔が可変とされている。回転カム4の回転によりスイングアーム7のローラ8を押し下げる際に、回転カム4の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を変えることによりローラ8の押し下げ量を変えてバルブリフト量を変えるようにした。
【解決手段】可変動弁機構1の回転カム4は一対の固定カム4aおよび可動カム4bを有している。この一対の固定カム4aおよび可動カム4bは、カムシャフト2を中心として回転方向に対しては共に動くが、カムシャフト2の軸方向に対しては可動カム4bだけが移動可能であり互いの間隔が可変とされている。回転カム4の回転によりスイングアーム7のローラ8を押し下げる際に、回転カム4の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を変えることによりローラ8の押し下げ量を変えてバルブリフト量を変えるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関に関し、更に詳しくは、簡単、軽量、低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じて、吸・排気バルブの位相やバルブリフト量を連続的に可変とする可変動弁機構が種々紹介されている。
【0003】
図9〜図11の可変動弁機構の構成では、カムシャフト60のリフトを、コントロールシャフト61にヘリカルギアで固定されているローラーアーム62で受け、同様にスプラインで固定されているアーム63がバルブ64を押し下げる。コントロールシャフト61を軸方向に移動させると、ローラーアーム62のみヘリカルギアに沿って回転しアーム63との相対角が変わることにより、バルブリフトを可変としている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
この構造では、1気筒につき、コントロールシャフト61に2つのアーム63と1つのローラーアーム62とを装着し、その内側にスプラインまたはヘリカルギアを持ったシャフトがあり、さらに、その内側に軸方向に移動させるシャフトを持った三重構造となっている。このため、構造が複雑で、重量も増え、価格が高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−60497号公報
【特許文献2】特開2001−263015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した問題の対策のため、本発明者は、図12および図13に示すように、回転カム70とスイングアーム71との間に、コントロールカム72を設け、そのコントロールアーム72の一対のコントロールレバー72a,72bの間隔を変えることで、スイングアーム71のローラ73の押し下げ量を変えてバルブリフト量dwを変える構成を公知とはされていないが提案している。
【0007】
この構造では、図9〜図11に示した構造に比べて大幅に構造を簡単化、軽量化でき、低価格化を推進することができるが、カムシャフト74とスイングアーム71との間にコントロールアーム72(一対のコントロールレバー72a,72b)が配置されており、運動部品が存在する分、エネルギーロスが生じ、燃費の向上が妨げられるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、排気ガスを低減でき、また、燃費を向上させることが可能で、しかも、車両搭載性に優れた内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の可変動弁機構は、クランクシャフトにより回転駆動するカムシャフトの回転トルクをバルブに伝達し、前記バルブの開閉を制御する可変動弁機構において、前記カムシャフトに設けられた回転カムと、前記カムシャフトから離れた位置に設けられたコントロールシャフトと、前記カムシャフトおよび前記コントロールシャフトから離れた位置に揺動可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に連動するスイングアームと、前記スイングアームに回転可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に際して前記回転カムが接触するローラと、前記スイングアームに接続された前記バルブとを備え、前記回転カムは、第1カムおよび第2カムを備えており、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、前記カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、前記ローラの外周には、前記ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、前記溝に前記回転カムが接触した際に、前記回転カムの前記第1カムと前記第2カムとの間隔に応じて前記ローラの押し下げ量を変えて前記バルブのリフト量を変えるものである。
【0011】
また、上記の可変動弁機構において、前記カムシャフトは、軸方向に沿って交互に配置された第1カムシャフトおよび第2カムシャフトを有しており、前記第1カムは回転方向および軸方向に対して固定された状態で前記第2カムシャフトに設けられており、前記第2カムは回転方向に対しては固定されているが、軸方向に対しては移動可能な状態で前記第2カムシャフトに設けられており、前記コントロールシャフトは、前記第2カムと接続されているとともに、前記第2カムを軸方向に移動する移動手段と接続されており、前記移動手段により前記コントロールシャフトを軸方向に移動すると、前記第1カムは固定されたままの状態で、前記第2カムが軸方向に移動することにより、前記第1カムと前記第2カムとの間隔を変えるものである。
【0012】
また、上記の可変動弁機構において、前記回転カムにおいて前記ローラとの接触側には、前記ローラの前記溝に嵌まるテーパが形成されているものである。この構成によれば、回転カムによるローラの押し下げを滑らかに行うことができ、回転カムとローラとの摩擦を低減できるので、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、前記可変動弁機構を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可変動弁機構によれば、回転カムの第1、第2カムの間隔の調整によりバルブリフト量の可変制御を行うことができるので、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことができる。
【0015】
また、本発明の可変動弁機構を用いた内燃機関によれば、バルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構を用いたことにより、排気ガスを低減でき、また、燃費を向上させることができる。特に、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在されないので、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在される構成に比べて、エネルギーロスを低減できる。その結果、燃費を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の可変動弁機構を用いた内燃機関によれば、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在されないので、回転カムとスイングアームの間に他の運動部材が介在される可変動弁機構を用いた内燃機関に比べて、内燃機関の全高を低く抑えることができる。その結果、車両搭載性に優れた内燃機関となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態である可変動弁機構の構成図である。
【図2】図1のI−I線の断面図である。
【図3】移動手段とコントロールシャフトとの接続状態を示した構成図である。
【図4】バルブの閉弁時の図1の可変動弁機構の構成図である。
【図5】バルブの開弁時の図1の可変動弁機構の構成図である。
【図6】可変動弁機構の一対のカムの間隔を最小(左)および最大(右)にした場合の各々における開弁時のバルブリフト量を比較して示した断面図である。
【図7】一対のカムの間隔を最小に設定した場合の可変動弁機構の図1のI−I線に相当する箇所の断面図である。
【図8】図1の可変動弁機構を搭載したエンジンの要部断面図である。
【図9】従来の可変動弁機構の一例の要部断面図である。
【図10】図9の可変動弁機構の構成要素の要部斜視図である。
【図11】図9の構成要素の一部を破断して示した要部斜視図である。
【図12】本発明者が検討した可変動弁機構の構成図である。
【図13】図12のII−II線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の可変動弁機構およびこれを用いたエンジン(内燃機関)について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は本実施の形態の可変動弁機構の構成図、図2は図1のI−I線の断面図、図3は移動手段とコントロールシャフトとの接続状態を示している。
【0020】
本実施の形態の可変動弁機構1は、車両のエンジンのクランクシャフトにより回転駆動するカムシャフト2の回転トルクをバルブ3に伝達し、バルブ3の開閉を制御する機構であり、上記カムシャフト2およびバルブ3の他に、回転カム4と、コントロールシャフト5と、スイングアーム7と、ローラ8と、エンドピポット9とを有している。
【0021】
カムシャフト2は、図2に示すように、その軸方向に沿って所定の間隔ごとに並んで配置された複数の軸受け10に回転可能な状態で軸支されている。このカムシャフト2は、軸受け10毎に分割されており、第1カムシャフト2aと第2カムシャフト2bとを有している。第1カムシャフト2aおよび第2カムシャフト2bは、軸方向に沿って交互に配置されている。第1カムシャフト2aは軸受け10の位置に配置され、第2カムシャフト2bは軸受け10(第1カムシャフト2a)の隣接間に配置されている。
【0022】
第2カムシャフト2bの表面には、軸方向に沿って延びるスプライン形成用の複数の凹凸が軸の外周方向に沿って交互に配置されている。この第2カムシャフト2bの両端には、スプラインを介して第1カムシャフト2aが溶着されしっかりと固定されている。これにより、第1カムシャフト2aおよび第2カムシャフト2bは軸を中心として回転方向に共に回転する。最も外側の第1カムシャフト2aには、タイミングギア11が接合され固定されている。このタイミングギア11によりクランクシャフトからの回転駆動力がカムシャフト2に伝達される。
【0023】
このカムシャフト2の第2カムシャフト2aには、その軸方向に沿って複数の回転カム4が設けられている。互いに隣接する軸受け10の間には、バルブ数に対応した数の回転カム4が設置されている。回転カム4の外周一部には中心から径方向への距離が部分的に長い突部(ノーズ)4sが形成されており、カムシャフト2に垂直な回転カム4の全体断面形状は略卵形に形成されている。
【0024】
カムシャフト2およびコントロールシャフト5から離れた位置には、図1に示すように、スイングアーム7が揺動可能に軸支されている。このスイングアーム7の揺動動作は回転カム4の回転動作に連動する。このスイングアーム7において、長手方向の一端側にはバルブ3が接続され、他端側にはエンドピポット9が接続され、それらの間には、ローラ8が回転可能に軸支されている。
【0025】
バルブ3は、ポペットバルブが使用されており、ヘッド部3a、フェース部3b、ステム部3cおよびステムエンド部3dを有している。ここでは、バルブ3が閉じており、バルブ3のフェース部3bがエンジンのバルブガイド12に接触している。
【0026】
ローラ8の外周には、図2に示すように、ローラ8の中心方向に向かって狭くなるV字状の溝8aが形成されている。開弁時にはローラ8の外周の溝8aの表面に回転カム4が接触する。なお、スイングアーム7はエンドピポット9を支点として揺動する。エンドピポット9に油圧アジャスターを組み込んだときは、図2に示すように、回転カム4の軸方向両端の円筒面がローラ8に接する状態となり、バルブ3はリフトしない。油圧アジャスターを用いないときは、エンドピポット9の高さを調節して、当該円筒面とローラ8との間に隙間(ギャップ)を設ける。
【0027】
ところで、本実施の形態の可変動弁機構1においては、図2に示すように、上記の回転カム4が、固定カム(第1カム)4aおよび可動カム(第2カム)4bの一対のカムを備えている。この固定カム4aおよび可動カム4bで構成される回転カム4の表面側外周にはテーパ部4cが形成されている。このテーパ部4cは、開弁時にローラ8の外周の溝8aの表面に接する部分であり、一対の固定カム4aおよび可動カム4bで断面略V字状を成している。このようなテーパ部4cを設けたことにより、開弁時に回転カム4の断面V字状のテーパ部4sがローラ8の断面V字状の溝8aに収まるようにしてローラ8を押し下げるので、その押し下げを滑らかに行うことができる。このため、回転カム4とローラ8との摩擦を低減できる。その結果、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0028】
固定カム4aは、第2カムシャフト2bの表面のスプラインを介して第2カムシャフト2bに振動溶着により接合されしっかりと固定されている。すなわち、固定カム4aは、第2カムシャフト2bを中心とした回転方向に対しても軸方向(図2の矢印P1に示す方向)に対しても固定されている。一方、可動カム4bも、第2カムシャフト2bの表面のスプラインにより、第2カムシャフト2bを中心とした回転方向に対しては固定されている。このため、一対の固定カム4aおよび可動カム4bは、カムシャフト2を中心として回転方向に対しては、双方同士が固定され互いの相対的な平面位置がずれることなく共に動く。
【0029】
ただし、可動カム4bは、第2カムシャフト2bの表面のスプラインにより、第2カムシャフト2bの軸方向に対しては移動可能な状態で設置されている。すなわち、可動カム4bを第2カムシャフト2bの軸方向に沿って移動することにより、固定カム4aは固定されたままなので、一対の固定カム4aと可動カム4bとの間隔を所望の間隔に変えることができる。
【0030】
互いに隣接する軸受け10間の複数の可動カム4b同士は、図2に示すように、接続ピン13により接合されており、第2カムシャフト2bの軸方向に沿って共に移動可能な状態で設置されている。接続ピン13は、可動カム4b同士の間にある固定カム4aに形成された貫通孔を通じて一方の可動カム4bから他方の可動カム4bに接続されている。また、接続ピン13は、少なくとも2本以上の接続ピン13が第2カムシャフト2bを挟む位置に互いに対称関係になるように配置されることが好ましい。これにより、複数の可動カム4bの移動を滑らかにすることができる。
【0031】
可動カム4bは、ジョイント部14に接続されている。このジョイント部14はスライダ15を介してコントロールシャフト5に接続されている。コントロールシャフト5は、カムシャフト2から離れた位置に軸受け10に軸支された状態でカムシャフト2の軸方向に沿って設けられている。このコントールシャフト5は、ネジ構造部16を介して軸受け部10と係合され、回転可能な状態で軸受け10に軸示されている。これにより、コントロールシャフト5の移動時のブレを抑制することができるとともに、寸法精度の高い移動を実現することができる。
【0032】
また、可動カム4b同士の間にある固定カム4aには、その固定カム4aから向かい側の可動カム4bに延びる延在部4dが接合されている。この延在部4dは、可動カム4bの移動を制限(制止)する機能を有している。すなわち、一対の固定カム4aと可動カム4bとの間隔を大きくするように動作させる際に、コントロールシャフト5が移動し過ぎた場合に延在部4dが無いとジョイント部14およびスライダ15のみに大きな制止力がかかり、ジョイント部14およびスライダ15の劣化や損傷の原因となる。延在部4dを設けることにより、可動カム4bの移動しすぎを抑えるとともに、延在部4d部分にも制止力がかかりジョイント部14およびスライダ15にかかる制止力を小さくできるので、ジョイント部14およびスライダ15の劣化や損傷を抑制または防止できる。ここでは、ジョイント部14側が軸受け10に接するか、または接する少し前で可動カム4bが停止するように、延在部4dの軸方向長さが設定されている。
【0033】
コントロールシャフト5の他端は、図3に示すように、接続シャフト20を介して直流モータ(移動手段)21に接続されている。
【0034】
直流モータ21のハウジング21a内には、中空状のロータコイル21bが収容され、その外周には、ステータマグネット21cが配置されている。ロータコイル21bの中空内には、回転軸21dのウォーム歯車部分が収容されている。ロータコイル21bは、ブラシ21eを通じてエンジンの制御装置(図示せず)に電気的に接続されている。
【0035】
この直流モータ21の回転軸21dには、接続シャフト20が接続されており、これを介してコントロールシャフト5が接続されている。すなわち、直流モータ21の回転軸21dの回転動作をウォーム歯車部分により軸方向(矢印P1で示す方向)の移動に変換することで、これに接続されたコントロールシャフト5をその軸方向に移動させて一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を調整する(変える)。
【0036】
接続シャフト20の軸方向途中には、接続シャフト20の直径が軸方向に沿って次第に細くなるようなテーパ部20aが部分的に形成されており、そのテーパ部20aにセンサ22が配置されている。センサ22は、コントロールシャフト5の軸方向の実際のストロークを検出するためのものであり、例えばテーパ部20aの外周を取り囲むように配置されたピックアップコイルにより形成されている。
【0037】
次に、本実施の形態の可変動弁機構1の動作について図4、図5および図6を参照しながら説明する。図4はバルブ3の閉弁時の可変動弁機構1の状態を示し、図5はバルブ3の開弁時の可変動弁機構1の状態を示し、図6は可変動弁機構1の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小(図6の左)および最大(図6の右)にした場合の各々における開弁時のバルブリフト量を比較して示した断面図を示している。なお、図4および図5では一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最大とする。また、図4および図5にはカムシャフト2の中心線および回転座標を示す。
【0038】
図4の段階では、回転カム4の突部4sがローラ8の外周には接していない。また、通気口22は閉じており、バルブ3のフェース部3bがエンジンのバルブガイド12に接している。
【0039】
続いて、図5および図6右に示すように、回転カム4を図5の左回りに回転すると、回転カム4の突部4sが次第にローラ8の外周に接するようになり、ローラ8が下方側に押される。この時、回転カム4の断面V字状のテーパ部4cが、ローラ8の外周のV字状の溝8aに嵌まった状態で接触しローラ8を押し下げる。その結果、スイングアーム7の一端側が下方に下がる(エンジン本体側に近づく)ので、バルブ3も押し下げられ、バルブ3のフェース部3bがバルブガイド12から離れ通気口22が開く。すなわち、本実施の形態の可変動弁機構1においては、回転カム4がローラ8を直接押し下げ、回転カム4とローラ8との間に他部材を介在させない。
【0040】
回転カム4の突部4sの頂点がローラ8の外周に接したところでバルブリフト量が最も大きくなる。なお、図5に示すように、この時の回転カム4の回転角度をαとし、バルブリフト量をdmxとする。ここでは、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最大にしているので、バルブリフト量dmxは可変動弁機構1が設定し得る最大のバルブリフト量となる。
【0041】
次に、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔の調整(変更)によるバルブリフト量の調整(変更)動作について図6および図7を参照しながら説明する。図7は一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小に設定した場合の可変動弁機構1の図1のI−I線に相当する箇所の断面図を示している。
【0042】
まず、図7に示すように、コントロールシャフト5をその軸方向(図7の矢印P2に示す左方向)に移動し、可動カム4bを固定カム4aに近づけ、固定カム4aに接触させる(固定カム4aと可動カム4bとの間隔が零)。これにより、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を図2、図4、図5および図6右の場合よりも狭めて最小値にする。
【0043】
この状態で、図6左に示すように、回転カム4を回転させて、回転カム4の突部4sの頂点がローラ8に接したところでバルブリフト量が最大となる。この時、回転カム4の回転角度は図5の場合と同じであるが、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を図5の場合よりも狭めているので、回転カム4のテーパ部4cがローラ8の溝8aに接する点が変わり、テーパ部4cがローラ8を押し下げる量が小さくなる。これにより、図6左に示すように、ローラ8の押し下げ量を小さくすることができるので、バルブリフト量を図5および図6右の場合のバルブリフト量dmxよりも小さくすることができる。図7の設定では、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小にしているので、バルブリフト量は可変動弁機構1が設定し得る最小のバルブリフト量となる。なお、図6のdzは一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小から最大に変えたときのリフト量の差(可変リフト量)を示している。リフト量は、回転カム4の突起4sの形によっても任意に変えることができる。
【0044】
このように本実施の形態の可変動弁機構1によれば、回転カム4の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔調整によりバルブリフト量の可変制御を行うことができる。すなわち、回転カム4とローラ8との間にバルブリフト可変制御用の他部材を設けない簡単な構造でバルブリフト量を可変制御できるので、図9〜図13で説明した構造に比べて、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことができる。
【0045】
次に、上記移動手段を用いたバルブリフト量の可変制御方法について説明する。
【0046】
車両の動作時において、エンジンの制御装置は、エンジンの回転数と負荷に応じたバルブリフト量になるように、直流モータ21に制御信号を連続的に送る。エンジンの回転数については、例えばエンジンの燃料噴射制御装置の制御用データから通信により取得し、負荷については、例えば制御装置のROM(Read Only Memory)に記録された既存の計算値等により取得する。
【0047】
直流モータ21は、エンジンの制御装置からの制御信号に基づいて、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔がエンジンの回転数や負荷に適した間隔、すなわち、バルブリフト量がエンジンの回転数や負荷に最適な値になるように、コントロールシャフト5を移動する。この時、エンジンの制御装置は、センサ22で検出されたコントロールシャフト5の実際の移動量と、目標とした移動量とを比較し、その値にずれがある場合は、直流モータ21にコントロールシャフト5の移動量を補正するための制御信号を送る。
【0048】
このように本実施の形態の可変動弁機構1によれば、バルブリフト量を連続的に最適な値に設定することができる。また、コントロールシャフト5の実際のストローク値を検出してそれに基づいてコントロールシャフト5の移動量(すなわち、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔)を補正できるので、バルブリフト量を高精度に設定することができる。
【0049】
次に、図8は、上記の可変動弁機構1を搭載したエンジン25の要部断面図を示している。
【0050】
エンジン25のシリンダ26内のピストン27は、コネクティングロッド28を通じてクランクシャフト29に接続されている。ピストン27の往復運動(図8の上下動)は、クランクシャフト29により回転運動に変換される。
【0051】
ここでは、可変動弁機構1がエンジン25の吸気口22a側に設置されている場合が例示されている。シリンダ26の燃焼室26aは、吸気口22aを通じて吸気管30aに接続される。一方、エンジン25の排気口22b側には、従来技術の可変動弁機構31が設置されている。従来技術の可変動弁機構31は、回転カム4が一対のカムを持たない単独構成となっている。燃焼室26aは、排気口22bを通じて排気管30bに接続される。
【0052】
本実施の形態の可変動弁機構1は、排気口22b側のみに設置しても良いし、吸気口22a側および排気口22b側の両方に設置しても良い。なお、符号32は、バルブ3に閉じる力を与えているバルブスプリングである。
【0053】
本実施の形態のエンジン25によれば、本実施の形態の可変動弁機構1を用いたことにより、バルブリフト量をエンジン25の状態に応じて連続的に最適値に設定することができるので、排気ガスを低減でき、また、動力性能や燃費を向上させることができる。
【0054】
特に、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在されないので、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在される構成に比べて、エネルギーロスを低減できる。その結果、燃費を向上させることができる。
【0055】
また、本実施の形態のエンジン25においては、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在されないので、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在される可変動弁機構を用いたエンジンに比べて、エンジン25の全高を低く抑えることができる。これにより、車両搭載性に優れたエンジン25となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関は、可変動弁機構の回転カムが、第1カムおよび第2カムを備えており、第1カムおよび第2カムは、カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、スイングアームのローラの外周には、ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、その溝に回転カムが接触した際に、回転カムの第1カムと第2カムとの間隔に応じてローラの押し下げ量を変えてバルブのリフト量を変えることで、バルブリフト量を内燃機関の状態に応じて連続的に最適値に設定することができるので、自動車のエンジンの可変動弁機構および自動車のエンジンに利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 可変動弁機構
2 カムシャフト
2a 第1カムシャフト
2b 第2カムシャフト
3 バルブ
4 回転カム
4a 固定カム(第1カム)
4b 可動カム(第2カム)
4c テーパ部
5 コントロールシャフト
7 スイングアーム
8 ローラ
8a 溝
21 直流モータ(移動手段)
25 エンジン(内燃機関)
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関に関し、更に詳しくは、簡単、軽量、低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じて、吸・排気バルブの位相やバルブリフト量を連続的に可変とする可変動弁機構が種々紹介されている。
【0003】
図9〜図11の可変動弁機構の構成では、カムシャフト60のリフトを、コントロールシャフト61にヘリカルギアで固定されているローラーアーム62で受け、同様にスプラインで固定されているアーム63がバルブ64を押し下げる。コントロールシャフト61を軸方向に移動させると、ローラーアーム62のみヘリカルギアに沿って回転しアーム63との相対角が変わることにより、バルブリフトを可変としている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
この構造では、1気筒につき、コントロールシャフト61に2つのアーム63と1つのローラーアーム62とを装着し、その内側にスプラインまたはヘリカルギアを持ったシャフトがあり、さらに、その内側に軸方向に移動させるシャフトを持った三重構造となっている。このため、構造が複雑で、重量も増え、価格が高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−60497号公報
【特許文献2】特開2001−263015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した問題の対策のため、本発明者は、図12および図13に示すように、回転カム70とスイングアーム71との間に、コントロールカム72を設け、そのコントロールアーム72の一対のコントロールレバー72a,72bの間隔を変えることで、スイングアーム71のローラ73の押し下げ量を変えてバルブリフト量dwを変える構成を公知とはされていないが提案している。
【0007】
この構造では、図9〜図11に示した構造に比べて大幅に構造を簡単化、軽量化でき、低価格化を推進することができるが、カムシャフト74とスイングアーム71との間にコントロールアーム72(一対のコントロールレバー72a,72b)が配置されており、運動部品が存在する分、エネルギーロスが生じ、燃費の向上が妨げられるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、排気ガスを低減でき、また、燃費を向上させることが可能で、しかも、車両搭載性に優れた内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の可変動弁機構は、クランクシャフトにより回転駆動するカムシャフトの回転トルクをバルブに伝達し、前記バルブの開閉を制御する可変動弁機構において、前記カムシャフトに設けられた回転カムと、前記カムシャフトから離れた位置に設けられたコントロールシャフトと、前記カムシャフトおよび前記コントロールシャフトから離れた位置に揺動可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に連動するスイングアームと、前記スイングアームに回転可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に際して前記回転カムが接触するローラと、前記スイングアームに接続された前記バルブとを備え、前記回転カムは、第1カムおよび第2カムを備えており、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、前記カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、前記ローラの外周には、前記ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、前記溝に前記回転カムが接触した際に、前記回転カムの前記第1カムと前記第2カムとの間隔に応じて前記ローラの押し下げ量を変えて前記バルブのリフト量を変えるものである。
【0011】
また、上記の可変動弁機構において、前記カムシャフトは、軸方向に沿って交互に配置された第1カムシャフトおよび第2カムシャフトを有しており、前記第1カムは回転方向および軸方向に対して固定された状態で前記第2カムシャフトに設けられており、前記第2カムは回転方向に対しては固定されているが、軸方向に対しては移動可能な状態で前記第2カムシャフトに設けられており、前記コントロールシャフトは、前記第2カムと接続されているとともに、前記第2カムを軸方向に移動する移動手段と接続されており、前記移動手段により前記コントロールシャフトを軸方向に移動すると、前記第1カムは固定されたままの状態で、前記第2カムが軸方向に移動することにより、前記第1カムと前記第2カムとの間隔を変えるものである。
【0012】
また、上記の可変動弁機構において、前記回転カムにおいて前記ローラとの接触側には、前記ローラの前記溝に嵌まるテーパが形成されているものである。この構成によれば、回転カムによるローラの押し下げを滑らかに行うことができ、回転カムとローラとの摩擦を低減できるので、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、前記可変動弁機構を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可変動弁機構によれば、回転カムの第1、第2カムの間隔の調整によりバルブリフト量の可変制御を行うことができるので、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことができる。
【0015】
また、本発明の可変動弁機構を用いた内燃機関によれば、バルブリフト量の可変制御を行うことが可能な可変動弁機構を用いたことにより、排気ガスを低減でき、また、燃費を向上させることができる。特に、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在されないので、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在される構成に比べて、エネルギーロスを低減できる。その結果、燃費を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の可変動弁機構を用いた内燃機関によれば、回転カムとスイングアームとの間に他の運動部材が介在されないので、回転カムとスイングアームの間に他の運動部材が介在される可変動弁機構を用いた内燃機関に比べて、内燃機関の全高を低く抑えることができる。その結果、車両搭載性に優れた内燃機関となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態である可変動弁機構の構成図である。
【図2】図1のI−I線の断面図である。
【図3】移動手段とコントロールシャフトとの接続状態を示した構成図である。
【図4】バルブの閉弁時の図1の可変動弁機構の構成図である。
【図5】バルブの開弁時の図1の可変動弁機構の構成図である。
【図6】可変動弁機構の一対のカムの間隔を最小(左)および最大(右)にした場合の各々における開弁時のバルブリフト量を比較して示した断面図である。
【図7】一対のカムの間隔を最小に設定した場合の可変動弁機構の図1のI−I線に相当する箇所の断面図である。
【図8】図1の可変動弁機構を搭載したエンジンの要部断面図である。
【図9】従来の可変動弁機構の一例の要部断面図である。
【図10】図9の可変動弁機構の構成要素の要部斜視図である。
【図11】図9の構成要素の一部を破断して示した要部斜視図である。
【図12】本発明者が検討した可変動弁機構の構成図である。
【図13】図12のII−II線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の可変動弁機構およびこれを用いたエンジン(内燃機関)について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は本実施の形態の可変動弁機構の構成図、図2は図1のI−I線の断面図、図3は移動手段とコントロールシャフトとの接続状態を示している。
【0020】
本実施の形態の可変動弁機構1は、車両のエンジンのクランクシャフトにより回転駆動するカムシャフト2の回転トルクをバルブ3に伝達し、バルブ3の開閉を制御する機構であり、上記カムシャフト2およびバルブ3の他に、回転カム4と、コントロールシャフト5と、スイングアーム7と、ローラ8と、エンドピポット9とを有している。
【0021】
カムシャフト2は、図2に示すように、その軸方向に沿って所定の間隔ごとに並んで配置された複数の軸受け10に回転可能な状態で軸支されている。このカムシャフト2は、軸受け10毎に分割されており、第1カムシャフト2aと第2カムシャフト2bとを有している。第1カムシャフト2aおよび第2カムシャフト2bは、軸方向に沿って交互に配置されている。第1カムシャフト2aは軸受け10の位置に配置され、第2カムシャフト2bは軸受け10(第1カムシャフト2a)の隣接間に配置されている。
【0022】
第2カムシャフト2bの表面には、軸方向に沿って延びるスプライン形成用の複数の凹凸が軸の外周方向に沿って交互に配置されている。この第2カムシャフト2bの両端には、スプラインを介して第1カムシャフト2aが溶着されしっかりと固定されている。これにより、第1カムシャフト2aおよび第2カムシャフト2bは軸を中心として回転方向に共に回転する。最も外側の第1カムシャフト2aには、タイミングギア11が接合され固定されている。このタイミングギア11によりクランクシャフトからの回転駆動力がカムシャフト2に伝達される。
【0023】
このカムシャフト2の第2カムシャフト2aには、その軸方向に沿って複数の回転カム4が設けられている。互いに隣接する軸受け10の間には、バルブ数に対応した数の回転カム4が設置されている。回転カム4の外周一部には中心から径方向への距離が部分的に長い突部(ノーズ)4sが形成されており、カムシャフト2に垂直な回転カム4の全体断面形状は略卵形に形成されている。
【0024】
カムシャフト2およびコントロールシャフト5から離れた位置には、図1に示すように、スイングアーム7が揺動可能に軸支されている。このスイングアーム7の揺動動作は回転カム4の回転動作に連動する。このスイングアーム7において、長手方向の一端側にはバルブ3が接続され、他端側にはエンドピポット9が接続され、それらの間には、ローラ8が回転可能に軸支されている。
【0025】
バルブ3は、ポペットバルブが使用されており、ヘッド部3a、フェース部3b、ステム部3cおよびステムエンド部3dを有している。ここでは、バルブ3が閉じており、バルブ3のフェース部3bがエンジンのバルブガイド12に接触している。
【0026】
ローラ8の外周には、図2に示すように、ローラ8の中心方向に向かって狭くなるV字状の溝8aが形成されている。開弁時にはローラ8の外周の溝8aの表面に回転カム4が接触する。なお、スイングアーム7はエンドピポット9を支点として揺動する。エンドピポット9に油圧アジャスターを組み込んだときは、図2に示すように、回転カム4の軸方向両端の円筒面がローラ8に接する状態となり、バルブ3はリフトしない。油圧アジャスターを用いないときは、エンドピポット9の高さを調節して、当該円筒面とローラ8との間に隙間(ギャップ)を設ける。
【0027】
ところで、本実施の形態の可変動弁機構1においては、図2に示すように、上記の回転カム4が、固定カム(第1カム)4aおよび可動カム(第2カム)4bの一対のカムを備えている。この固定カム4aおよび可動カム4bで構成される回転カム4の表面側外周にはテーパ部4cが形成されている。このテーパ部4cは、開弁時にローラ8の外周の溝8aの表面に接する部分であり、一対の固定カム4aおよび可動カム4bで断面略V字状を成している。このようなテーパ部4cを設けたことにより、開弁時に回転カム4の断面V字状のテーパ部4sがローラ8の断面V字状の溝8aに収まるようにしてローラ8を押し下げるので、その押し下げを滑らかに行うことができる。このため、回転カム4とローラ8との摩擦を低減できる。その結果、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0028】
固定カム4aは、第2カムシャフト2bの表面のスプラインを介して第2カムシャフト2bに振動溶着により接合されしっかりと固定されている。すなわち、固定カム4aは、第2カムシャフト2bを中心とした回転方向に対しても軸方向(図2の矢印P1に示す方向)に対しても固定されている。一方、可動カム4bも、第2カムシャフト2bの表面のスプラインにより、第2カムシャフト2bを中心とした回転方向に対しては固定されている。このため、一対の固定カム4aおよび可動カム4bは、カムシャフト2を中心として回転方向に対しては、双方同士が固定され互いの相対的な平面位置がずれることなく共に動く。
【0029】
ただし、可動カム4bは、第2カムシャフト2bの表面のスプラインにより、第2カムシャフト2bの軸方向に対しては移動可能な状態で設置されている。すなわち、可動カム4bを第2カムシャフト2bの軸方向に沿って移動することにより、固定カム4aは固定されたままなので、一対の固定カム4aと可動カム4bとの間隔を所望の間隔に変えることができる。
【0030】
互いに隣接する軸受け10間の複数の可動カム4b同士は、図2に示すように、接続ピン13により接合されており、第2カムシャフト2bの軸方向に沿って共に移動可能な状態で設置されている。接続ピン13は、可動カム4b同士の間にある固定カム4aに形成された貫通孔を通じて一方の可動カム4bから他方の可動カム4bに接続されている。また、接続ピン13は、少なくとも2本以上の接続ピン13が第2カムシャフト2bを挟む位置に互いに対称関係になるように配置されることが好ましい。これにより、複数の可動カム4bの移動を滑らかにすることができる。
【0031】
可動カム4bは、ジョイント部14に接続されている。このジョイント部14はスライダ15を介してコントロールシャフト5に接続されている。コントロールシャフト5は、カムシャフト2から離れた位置に軸受け10に軸支された状態でカムシャフト2の軸方向に沿って設けられている。このコントールシャフト5は、ネジ構造部16を介して軸受け部10と係合され、回転可能な状態で軸受け10に軸示されている。これにより、コントロールシャフト5の移動時のブレを抑制することができるとともに、寸法精度の高い移動を実現することができる。
【0032】
また、可動カム4b同士の間にある固定カム4aには、その固定カム4aから向かい側の可動カム4bに延びる延在部4dが接合されている。この延在部4dは、可動カム4bの移動を制限(制止)する機能を有している。すなわち、一対の固定カム4aと可動カム4bとの間隔を大きくするように動作させる際に、コントロールシャフト5が移動し過ぎた場合に延在部4dが無いとジョイント部14およびスライダ15のみに大きな制止力がかかり、ジョイント部14およびスライダ15の劣化や損傷の原因となる。延在部4dを設けることにより、可動カム4bの移動しすぎを抑えるとともに、延在部4d部分にも制止力がかかりジョイント部14およびスライダ15にかかる制止力を小さくできるので、ジョイント部14およびスライダ15の劣化や損傷を抑制または防止できる。ここでは、ジョイント部14側が軸受け10に接するか、または接する少し前で可動カム4bが停止するように、延在部4dの軸方向長さが設定されている。
【0033】
コントロールシャフト5の他端は、図3に示すように、接続シャフト20を介して直流モータ(移動手段)21に接続されている。
【0034】
直流モータ21のハウジング21a内には、中空状のロータコイル21bが収容され、その外周には、ステータマグネット21cが配置されている。ロータコイル21bの中空内には、回転軸21dのウォーム歯車部分が収容されている。ロータコイル21bは、ブラシ21eを通じてエンジンの制御装置(図示せず)に電気的に接続されている。
【0035】
この直流モータ21の回転軸21dには、接続シャフト20が接続されており、これを介してコントロールシャフト5が接続されている。すなわち、直流モータ21の回転軸21dの回転動作をウォーム歯車部分により軸方向(矢印P1で示す方向)の移動に変換することで、これに接続されたコントロールシャフト5をその軸方向に移動させて一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を調整する(変える)。
【0036】
接続シャフト20の軸方向途中には、接続シャフト20の直径が軸方向に沿って次第に細くなるようなテーパ部20aが部分的に形成されており、そのテーパ部20aにセンサ22が配置されている。センサ22は、コントロールシャフト5の軸方向の実際のストロークを検出するためのものであり、例えばテーパ部20aの外周を取り囲むように配置されたピックアップコイルにより形成されている。
【0037】
次に、本実施の形態の可変動弁機構1の動作について図4、図5および図6を参照しながら説明する。図4はバルブ3の閉弁時の可変動弁機構1の状態を示し、図5はバルブ3の開弁時の可変動弁機構1の状態を示し、図6は可変動弁機構1の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小(図6の左)および最大(図6の右)にした場合の各々における開弁時のバルブリフト量を比較して示した断面図を示している。なお、図4および図5では一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最大とする。また、図4および図5にはカムシャフト2の中心線および回転座標を示す。
【0038】
図4の段階では、回転カム4の突部4sがローラ8の外周には接していない。また、通気口22は閉じており、バルブ3のフェース部3bがエンジンのバルブガイド12に接している。
【0039】
続いて、図5および図6右に示すように、回転カム4を図5の左回りに回転すると、回転カム4の突部4sが次第にローラ8の外周に接するようになり、ローラ8が下方側に押される。この時、回転カム4の断面V字状のテーパ部4cが、ローラ8の外周のV字状の溝8aに嵌まった状態で接触しローラ8を押し下げる。その結果、スイングアーム7の一端側が下方に下がる(エンジン本体側に近づく)ので、バルブ3も押し下げられ、バルブ3のフェース部3bがバルブガイド12から離れ通気口22が開く。すなわち、本実施の形態の可変動弁機構1においては、回転カム4がローラ8を直接押し下げ、回転カム4とローラ8との間に他部材を介在させない。
【0040】
回転カム4の突部4sの頂点がローラ8の外周に接したところでバルブリフト量が最も大きくなる。なお、図5に示すように、この時の回転カム4の回転角度をαとし、バルブリフト量をdmxとする。ここでは、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最大にしているので、バルブリフト量dmxは可変動弁機構1が設定し得る最大のバルブリフト量となる。
【0041】
次に、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔の調整(変更)によるバルブリフト量の調整(変更)動作について図6および図7を参照しながら説明する。図7は一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小に設定した場合の可変動弁機構1の図1のI−I線に相当する箇所の断面図を示している。
【0042】
まず、図7に示すように、コントロールシャフト5をその軸方向(図7の矢印P2に示す左方向)に移動し、可動カム4bを固定カム4aに近づけ、固定カム4aに接触させる(固定カム4aと可動カム4bとの間隔が零)。これにより、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を図2、図4、図5および図6右の場合よりも狭めて最小値にする。
【0043】
この状態で、図6左に示すように、回転カム4を回転させて、回転カム4の突部4sの頂点がローラ8に接したところでバルブリフト量が最大となる。この時、回転カム4の回転角度は図5の場合と同じであるが、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を図5の場合よりも狭めているので、回転カム4のテーパ部4cがローラ8の溝8aに接する点が変わり、テーパ部4cがローラ8を押し下げる量が小さくなる。これにより、図6左に示すように、ローラ8の押し下げ量を小さくすることができるので、バルブリフト量を図5および図6右の場合のバルブリフト量dmxよりも小さくすることができる。図7の設定では、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小にしているので、バルブリフト量は可変動弁機構1が設定し得る最小のバルブリフト量となる。なお、図6のdzは一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔を最小から最大に変えたときのリフト量の差(可変リフト量)を示している。リフト量は、回転カム4の突起4sの形によっても任意に変えることができる。
【0044】
このように本実施の形態の可変動弁機構1によれば、回転カム4の一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔調整によりバルブリフト量の可変制御を行うことができる。すなわち、回転カム4とローラ8との間にバルブリフト可変制御用の他部材を設けない簡単な構造でバルブリフト量を可変制御できるので、図9〜図13で説明した構造に比べて、簡単、軽量および低価格でバルブリフト量の可変制御を行うことができる。
【0045】
次に、上記移動手段を用いたバルブリフト量の可変制御方法について説明する。
【0046】
車両の動作時において、エンジンの制御装置は、エンジンの回転数と負荷に応じたバルブリフト量になるように、直流モータ21に制御信号を連続的に送る。エンジンの回転数については、例えばエンジンの燃料噴射制御装置の制御用データから通信により取得し、負荷については、例えば制御装置のROM(Read Only Memory)に記録された既存の計算値等により取得する。
【0047】
直流モータ21は、エンジンの制御装置からの制御信号に基づいて、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔がエンジンの回転数や負荷に適した間隔、すなわち、バルブリフト量がエンジンの回転数や負荷に最適な値になるように、コントロールシャフト5を移動する。この時、エンジンの制御装置は、センサ22で検出されたコントロールシャフト5の実際の移動量と、目標とした移動量とを比較し、その値にずれがある場合は、直流モータ21にコントロールシャフト5の移動量を補正するための制御信号を送る。
【0048】
このように本実施の形態の可変動弁機構1によれば、バルブリフト量を連続的に最適な値に設定することができる。また、コントロールシャフト5の実際のストローク値を検出してそれに基づいてコントロールシャフト5の移動量(すなわち、一対の固定カム4aおよび可動カム4bの間隔)を補正できるので、バルブリフト量を高精度に設定することができる。
【0049】
次に、図8は、上記の可変動弁機構1を搭載したエンジン25の要部断面図を示している。
【0050】
エンジン25のシリンダ26内のピストン27は、コネクティングロッド28を通じてクランクシャフト29に接続されている。ピストン27の往復運動(図8の上下動)は、クランクシャフト29により回転運動に変換される。
【0051】
ここでは、可変動弁機構1がエンジン25の吸気口22a側に設置されている場合が例示されている。シリンダ26の燃焼室26aは、吸気口22aを通じて吸気管30aに接続される。一方、エンジン25の排気口22b側には、従来技術の可変動弁機構31が設置されている。従来技術の可変動弁機構31は、回転カム4が一対のカムを持たない単独構成となっている。燃焼室26aは、排気口22bを通じて排気管30bに接続される。
【0052】
本実施の形態の可変動弁機構1は、排気口22b側のみに設置しても良いし、吸気口22a側および排気口22b側の両方に設置しても良い。なお、符号32は、バルブ3に閉じる力を与えているバルブスプリングである。
【0053】
本実施の形態のエンジン25によれば、本実施の形態の可変動弁機構1を用いたことにより、バルブリフト量をエンジン25の状態に応じて連続的に最適値に設定することができるので、排気ガスを低減でき、また、動力性能や燃費を向上させることができる。
【0054】
特に、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在されないので、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在される構成に比べて、エネルギーロスを低減できる。その結果、燃費を向上させることができる。
【0055】
また、本実施の形態のエンジン25においては、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在されないので、回転カム4とスイングアーム7との間に他の運動部材が介在される可変動弁機構を用いたエンジンに比べて、エンジン25の全高を低く抑えることができる。これにより、車両搭載性に優れたエンジン25となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の可変動弁機構およびこれを用いた内燃機関は、可変動弁機構の回転カムが、第1カムおよび第2カムを備えており、第1カムおよび第2カムは、カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、スイングアームのローラの外周には、ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、その溝に回転カムが接触した際に、回転カムの第1カムと第2カムとの間隔に応じてローラの押し下げ量を変えてバルブのリフト量を変えることで、バルブリフト量を内燃機関の状態に応じて連続的に最適値に設定することができるので、自動車のエンジンの可変動弁機構および自動車のエンジンに利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 可変動弁機構
2 カムシャフト
2a 第1カムシャフト
2b 第2カムシャフト
3 バルブ
4 回転カム
4a 固定カム(第1カム)
4b 可動カム(第2カム)
4c テーパ部
5 コントロールシャフト
7 スイングアーム
8 ローラ
8a 溝
21 直流モータ(移動手段)
25 エンジン(内燃機関)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトにより回転駆動するカムシャフトの回転トルクをバルブに伝達し、前記バルブの開閉を制御する可変動弁機構において、
前記カムシャフトに設けられた回転カムと、
前記カムシャフトから離れた位置に設けられたコントロールシャフトと、
前記カムシャフトおよび前記コントロールシャフトから離れた位置に揺動可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に連動するスイングアームと、
前記スイングアームに回転可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に際して前記回転カムが接触するローラと、
前記スイングアームに接続された前記バルブとを備え、
前記回転カムは、第1カムおよび第2カムを備えており、
前記第1カムおよび前記第2カムは、前記カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、前記カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、
前記ローラの外周には、前記ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、前記溝に前記回転カムが接触した際に、前記回転カムの前記第1カムと前記第2カムとの間隔に応じて前記ローラの押し下げ量を変えて前記バルブのリフト量を変える可変動弁機構。
【請求項2】
前記カムシャフトは、軸方向に沿って交互に配置された第1カムシャフトおよび第2カムシャフトを有しており、
前記第1カムは回転方向および軸方向に対して固定された状態で前記第2カムシャフトに設けられており、
前記第2カムは回転方向に対しては固定されているが、軸方向に対しては移動可能な状態で前記第2カムシャフトに設けられており、
前記コントロールシャフトは、前記第2カムと接続されているとともに、前記第2カムを軸方向に移動する移動手段と接続されており、
前記移動手段により前記コントロールシャフトを軸方向に移動すると、前記第1カムは固定されたままの状態で、前記第2カムが軸方向に移動することにより、前記第1カムと前記第2カムとの間隔を変える請求項1記載の可変動弁機構。
【請求項3】
前記回転カムにおいて前記ローラとの接触側には、前記ローラの前記溝に嵌まるテーパが形成されている請求項1または2記載の可変動弁機構。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の可変動弁機構を有する内燃機関。
【請求項1】
クランクシャフトにより回転駆動するカムシャフトの回転トルクをバルブに伝達し、前記バルブの開閉を制御する可変動弁機構において、
前記カムシャフトに設けられた回転カムと、
前記カムシャフトから離れた位置に設けられたコントロールシャフトと、
前記カムシャフトおよび前記コントロールシャフトから離れた位置に揺動可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に連動するスイングアームと、
前記スイングアームに回転可能に軸支され、前記回転カムの回転動作に際して前記回転カムが接触するローラと、
前記スイングアームに接続された前記バルブとを備え、
前記回転カムは、第1カムおよび第2カムを備えており、
前記第1カムおよび前記第2カムは、前記カムシャフトの軸を中心として回転方向に対しては固定であるが、前記カムシャフトの軸方向における互いの間隔は可変に構成され、
前記ローラの外周には、前記ローラの中心方向に向かって狭くなる溝が形成されており、前記溝に前記回転カムが接触した際に、前記回転カムの前記第1カムと前記第2カムとの間隔に応じて前記ローラの押し下げ量を変えて前記バルブのリフト量を変える可変動弁機構。
【請求項2】
前記カムシャフトは、軸方向に沿って交互に配置された第1カムシャフトおよび第2カムシャフトを有しており、
前記第1カムは回転方向および軸方向に対して固定された状態で前記第2カムシャフトに設けられており、
前記第2カムは回転方向に対しては固定されているが、軸方向に対しては移動可能な状態で前記第2カムシャフトに設けられており、
前記コントロールシャフトは、前記第2カムと接続されているとともに、前記第2カムを軸方向に移動する移動手段と接続されており、
前記移動手段により前記コントロールシャフトを軸方向に移動すると、前記第1カムは固定されたままの状態で、前記第2カムが軸方向に移動することにより、前記第1カムと前記第2カムとの間隔を変える請求項1記載の可変動弁機構。
【請求項3】
前記回転カムにおいて前記ローラとの接触側には、前記ローラの前記溝に嵌まるテーパが形成されている請求項1または2記載の可変動弁機構。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の可変動弁機構を有する内燃機関。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−242622(P2010−242622A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92497(P2009−92497)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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