説明

可変容量型過給機

【課題】寒冷地で使用した場合においても、リンク機構周辺に溜まった水が凍結しない可変容量型過給機を提供する。
【解決手段】リンク機構35の最下端の下側部分に位置し、排ガスに含まれる水の貯留が可能である貯留溝36Aと、貯留溝36Aと貯留溝36Aの下端において接続しており、水を排出するための排水孔36Bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンの容量が変化可能な可変容量型過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機(ターボチャージャ)は、タービンとコンプレッサが機械的に連結されており、エンジンの排ガスでタービンを回転駆動し、これと連結されたコンプレッサで吸入空気を圧縮して加圧された空気をエンジンに供給し、エンジンの性能を向上させる装置である。
【0003】
ターボチャージャ用のタービンは、一般的にラジアルタービンであり、ラジアルタービンの外周に排ガスを供給するために、スクロールが用いられる。すなわちスクロールは、エンジンからの排ガスの流れを旋回流にしてタービンインペラの外周に一様に分配する渦巻室である。
【0004】
上述したターボチャージャは、スクロールの流路形状により旋回流速が決まり低流量ではその流速が不足するため、タービンが高負荷で稼動可能な排ガスの流量範囲が狭い問題点がある。
そこで、ターボチャージャに供給可能な排ガスの流量範囲を拡大するための可変容量型過給機として、例えば、以下の特許文献1が既に提案されている。
なお、可変容量型過給機とは、圧縮機のディフューザまたはタービンの排ガス流入部のベーンを可動にして流路面積を可変にしたものである。
【0005】
特許文献1に記載の可変容量型過給機は、可変ノズルおよびそのノズルを開閉するためのリンク機構が設置されており、リンク機構の動作によって、タービンの容量を変化させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4292615号公報、「可変容量過給機」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可変容量型過給機を寒冷地で使用した場合、エンジン停止中に排ガス中に含まれる水がリンク機構周辺に溜まり、凍結するおそれがあった。
この場合、エンジン再起動時に、リンクが動作せず、過給機の機能を妨げられる場合が発生していた。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。
すなわち、本発明の目的は、寒冷地で使用した場合においても、リンク機構周辺に溜まった水が凍結しない可変容量型過給機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、タービンインペラ及びコンプレッサインペラと接続しており、かつ、回転させるシャフトと、
タービンハウジングの外周に形成されたスクロール部と、
可変ノズルを開閉させるためのリンク機構と、を有する可変容量型過給機において、
前記リンク機構の最下端の下側部分に位置し、排ガスに含まれる水の貯留が可能である貯留溝と、
前記貯留溝と前記貯留溝の下端において接続しており、前記水を排出するための排水孔と、を有する、ことを特徴とする可変容量型過給機が提供される。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、前記排水孔は、下端において取り外しが可能であるボルトを有する。
【0011】
また、本発明の別の実施例によれば、前記貯留溝は、前記スクロール室と前記シャフトの軸方向に隣接した位置であって、前記スクロール室を基準に前記コンプレッサインペラと反対位置に設置されており、前記スクロール室との間が仕切られている。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明の構成によれば、可変ノズルを開閉させるためのリンク機構の下側に水の貯蔵が可能である貯留溝を有していることにより、リンク機構周辺又はリンク機構内に水が溜まることなく、寒冷地で使用しても水の凍結によってリンク機構が動作しなくなるという事態を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る可変容量型過給機の断面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る可変容量型過給機の断面図における排水機構付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る可変容量型過給機の断面図であり、図2はA−A矢視図である。
この図において、1は可変ノズル、2はタービンインペラ、3はカップリング、4はタービンハウジング、5はボルト、6はコンプレッサインペラ、8はコンプレッサハウジング、9はスクロール室、10は可変容量型過給機、11は環状ガス流路、12はシャフト、14はセンターハウジング、17は排気口、19は軸受、21はスクロール室、22は油供給路、24は油排出路、25はディフューザ部、26はタービン側シールリング、27は吸気口、35はリンク機構、35aは駆動リング、35bはレバー、36は排水機構、Aは空気、Gは排ガスである。
【0016】
排気通路側には、内燃機関の排ガスGにより回転駆動されるタービンインペラ2と、このタービンインペラ2を囲むタービンハウジング4が配設されている。タービンハウジング4は、タービンインペラ2の周囲に形成されたスクロール室9を有し、このスクロール室9は環状ガス流路11を介してタービンインペラ2と連通している。また、タービンハウジング4には、中央部にタービンインペラ2と同心の排気口17が形成されている。
【0017】
吸気側通路には、吸気を圧縮するコンプレッサインペラ6と、このコンプレッサインペラ6を囲むコンプレッサハウジング8が配設されている。コンプレッサハウジング8は、コンプレッサインペラ6の周囲に環状に形成され圧縮空気Aを吐き出すスクロール室21を有する。コンプレッサインペラ6出口とスクロール室21との間には、その間を連通するようにコンプレッサインペラ6出口から半径方向外方に延びる環状のディフューザ部25が形成されており、これによりコンプレッサインペラ6によって加速された空気Aを減速加圧してスクロール室21へ導くようになっている。また、コンプレッサハウジング8には、中央部にコンプレッサインペラ6と同心の吸気口27が形成されている。
【0018】
可変ノズル1は、タービンハウジング4とセンターハウジング14に挟持される位置に設けられた複数のノズルベーンを有しており、エンジンの回転数に応じてタービンの流量を調整することが可能である。
【0019】
タービンインペラ2とコンプレッサインペラ6はシャフト12により連結されており、シャフト12はセンターハウジング14に内蔵された軸受19によって回転自在に支持されている。タービンハウジング4とセンターハウジング14とは、カップリング3により連結され、コンプレッサハウジング8とセンターハウジング14とは、ボルト5により連結されている。
【0020】
センターハウジング14には、軸受19に潤滑油を供給するための油供給路22と、軸受19内部を通過して軸受19を潤滑・冷却した潤滑油を排出するための油排出路24とが形成されている。油供給路22には、外部に設置された潤滑油ポンプ(図示せず)により例えば80℃前後の潤滑油が供給されるようになっている。
【0021】
センターハウジング14のタービンインペラ2側には、センターハウジング14とシャフト12の隙間から潤滑油が漏れるのを防止するためのタービン側シールリング26が介装されている。
【0022】
リンク機構35は、可変ノズル1を開閉させるために設置されたものであり、レバー35bによって駆動リンク35aを駆動させることによって、タービン容量を変化させることが可能になる。
【0023】
図3は、発明の実施形態に係る可変容量型過給機の断面図における排水機構付近の拡大図である。
この図において、36Aは貯留溝、36Bは排水孔、36Cはボルトである。
【0024】
貯留溝36Aは、リンク機構35の最下端に対して下側部分に設置されており、エンジン停止中に発生する排ガス中に含まれる水を貯留する。
本発明において、貯留溝36Aは、スクロール室9からシャフト12の軸方向にずれた位置であって、スクロール室9を基準にコンプレッサインペラ6と反対位置に設置されている。
【0025】
かかる貯留溝36Aを有することによって、寒冷地で本発明の可変容量型過給機を使用した場合でも、排ガス中に含まれる水がリンク機構周辺で凍結し、エンジン再起動時においてリンク機構の正常な動作を妨げることがなくなる。
また、貯留溝36Aは、スクロール室9に穴を開ける形では設けられていないため、貯留溝36Aを設けることによる性能に影響しない構成になっている。
なお、貯留溝36Aは、タービンハウジング4に設けられる場合に限らず、センターハウジング14に設けられる構成であってもよい。
【0026】
排水孔36Bは、貯留溝36Aに溜まった水を外部に排出するために設置された通路であり、排出時にはボルト36Cを緩めることによって排出を行う。
【0027】
かかるボルト36Cを有することによって、通常時においては、ボルト36Cによってシールが行われているため、水が常に排出されている状態を防ぐと同時にガス漏れを防ぐことが可能になる。
また、外部排出のために配管を常に設置しておく必要がなく、かかるスペースを必要としないというメリットを有する。
【0028】
なお、この実施例において、可変容量型過給機10は、電動機を有さない過給機であるが、電動機を有する可変容量型過給機であってもよい。
【0029】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 可変ノズル、2 タービンインペラ、3 カップリング、
4 タービンハウジング、5 ボルト、6 コンプレッサインペラ、
8 コンプレッサハウジング、9 スクロール室、
10 可変容量型過給機、11 環状ガス流路、12 シャフト、
14 センターハウジング、17 排気口、19 軸受、
21 スクロール室、22 油供給路、24 油排出路、
25 ディフューザ部、26 タービン側シールリング、27 吸気口、
35 リンク機構、35a 駆動リング、35b レバー、36 排水機構、
36A 貯留溝、36B 排水孔、36C ボルト、A 空気、G 排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラ及びコンプレッサインペラと接続しており、かつ、回転させるシャフトと、
タービンハウジングの外周に形成されたスクロール部と、
可変ノズルを開閉させるためのリンク機構と、を有する可変容量型過給機において、
前記リンク機構の最下端の下側部分に位置し、排ガスに含まれる水の貯留が可能である貯留溝と、
前記貯留溝と前記貯留溝の下端において接続しており、前記水を排出するための排水孔と、を有する、ことを特徴とする可変容量型過給機。
【請求項2】
前記排水孔は、下端において取り外しが可能であるボルトを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型過給機。
【請求項3】
前記貯留溝は、前記スクロール室と前記シャフトの軸方向に隣接した位置であって、前記スクロール室を基準に前記コンプレッサインペラと反対位置に設置されており、前記スクロール室との間が仕切られている、ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102660(P2012−102660A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251417(P2010−251417)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】