説明

可変熱抵抗を利用した冷却システム

【課題】ブレーキからモータへの熱の影響の排除とモータからブレーキを介した放熱とを簡単な構成で両立させることのできる冷却システムを提供する。
【解決手段】モータ2と制動を行うブレーキ1とを備え、少なくとも前記モータ2の冷却を行う可変熱抵抗を利用した冷却システムにおいて、前記モータ2とブレーキ1との間で熱の伝達を媒介する熱伝達経路に、通電状態に従って熱抵抗が変化するペルチェ素子3が配置されている。したがって、モータ2からブレーキ1への熱伝達を促進してモータ2を効果的に冷却でき、またブレーキ1の温度をモータ2の熱で速やかに上昇させてブレーキ性能を確保でき、さらにブレーキ1からモータ2に対する熱伝達を遮断してモータ2の過熱や性能の低下を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキとモータとを備えた装置の冷却システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両などの制動を行うブレーキとして、摩擦力によって制動力を発生させるように構成されたものが広く知られている。この種のブレーキでは、制動を行うことにより熱が発生するので、例えば特許文献1に記載された発明では、制動時にブレーキパッドとブレーキディスクとで発生する熱を、ペルチェ素子によって電力に変換するように構成している。また、運動エネルギを電力として回生することによるいわゆる負のトルクを制動力とすることも可能であり、そのため例えば特許文献2に記載された装置は、リターダを発電機によって構成し、その発電機における固定子にペルチェ効果を生じる半導体を設け、銅損および鉄損によって生じる固定子の発熱をその半導体を利用して冷却するように構成されている。
【0003】
また一方、車両用のブレーキとしてディスクブレーキが知られており、そのディスクブレーキでは、ディスクがホイールと共に回転するので、ディスクを放熱部として使用することが可能である。そのため、特許文献3に記載された発明では、ホイールに内蔵されているインホイールモータにおけるステータの温度が高くなった場合、ステータとディスクロータとの間に設けられた熱伝達部材によって、ステータの熱をディスクロータに伝達し、放熱するように構成された装置が記載されている。
【0004】
なお、上記のペルチェ効果を生じる素子は、いわゆる熱−電変換素子と称されることもあり、熱の出入りおよび電流の出入りの関係に応じてペルチェ効果を生じたり、あるいはこれと反対の現象であるゼーベック効果を生じたりする。そこで、特許文献4に記載された燃料電池システムでは、熱電素子を発熱手段および発電手段に切り替えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−282851号公報
【特許文献2】実開昭61−159876号公報
【特許文献3】特開2006−211764号公報
【特許文献4】特開2006−24418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータとその制動を行うブレーキとを設けた装置においては、例えば上記の特許文献3に記載されているように、モータで生じた熱を熱伝達部材を介して、ブレーキにおけるディスクロータに伝達し、そのディスクロータから放熱させることによりモータを冷却することができる。しかしながら、特許文献3に記載された構成は、ステータの温度が高く、かつディスクロータが停止している際に、熱伝達部材をそのディスクロータに接触させ、またディスクロータが回転していたり、あるいはステータの温度が相対的に低い場合には、その熱伝達部材をディスクロータから離すようになっている。そのため、熱伝達部材を移動させるための機構が必要となり、その結果、装置が大型化したり、あるいはディスクロータが回転している場合には、ディスクロータから放熱させることができないなどの不都合がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、ブレーキからモータへの熱の影響の排除とモータからブレーキを介した放熱とを簡単な構成で両立させることのできる冷却システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の目的を達成するために、モータと制動を行うブレーキとを備え、少なくとも前記モータの冷却を行う可変熱抵抗を利用した冷却システムにおいて、前記モータとブレーキとの間で熱の伝達を媒介する熱伝達経路に、通電状態に従って熱抵抗が変化するペルチェ素子が配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、モータとブレーキとの間の熱抵抗を、ペルチェ素子の通電状態を変えることにより、大小に変化させることができる。したがって、例えばモータの温度がブレーキの温度より高く、かつブレーキの温度が適正温度より低い場合には、ペルチェ素子による熱抵抗を小さくしてモータからブレーキへの熱伝達を相対的に促進する。こうすることにより、短時間のうちに、ブレーキ性能を所期の性能に設定することができる。併せて、モータの熱をブレーキに移動させてモータを冷却することができる。これとは反対に、繰り返し制動操作が行われるなどのことによってブレーキの温度が高く、またモータの温度も上昇していれば、ペルチェ素子による熱抵抗を増大させ、ブレーキからモータへの熱の伝達を阻止もしくは抑制する。その結果、モータの過熱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一例を模式的に示すブロック図である。
【図2】そのペルチェ素子をモデル化して示す模式図である。
【図3】空気圧に基づいて熱抵抗を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明の他の例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、モータと制動を行うブレーキとを備えた装置を対象とした冷却システムであり、この種の装置の一例は、特開2008−184111号公報に記載されたインホイールモータである。その構成を簡単に説明すると、ホイールには、ブレーキディスクが一体となって回転するように取り付けられており、そのホイールの内部には、ホイールに対して駆動トルクを付与するモータユニットが設けられている。このモータユニットは、ロアーアームによって支持されており、そのケーシングの内部には、モータと減速機とが内蔵されており、モータが出力した動力を減速機で減速してホイールに伝達するように構成されている。そして、そのモータユニットのハウジングに対してホイールハブがベアリングを介して回転自在に連結されている。したがって、ブレーキとモータユニットとの間の熱の伝達は、主として、このベアリングを介して生じるようになっている。すなわち、上記の特開2008−184111号公報に記載された構成においては、ベアリングのインナーレースおよびアウターレース、並び裏インシュレータおよびロータ接合面によって、ブレーキとモータユニットとの間の熱の伝達経路が形成されている。
【0012】
この発明に係る冷却システムは、このような熱伝達経路にペルチェ素子が設けられている。その構成を模式的に示せば、図1のとおりである。図1において、ブレーキ1と前記モータを内蔵しているユニット2との間に熱伝達経路が形成されており、その熱伝達経路中にペルチェ素子3が設けられている。このペルチェ素子3は、従来熱電素子として知られているものであって、そのモデルを図2に示すように、N型半導体3NとP型半導体3Pとを電極3Sによっていわゆるπ(パイ)型に接続したものであり、通電の方向に応じて一方の電極3Sで発熱し、かつ他方の電極3Sで吸熱が生じるように構成されている。したがって、これを熱伝達経路中に配置することにより、その熱伝達経路での熱抵抗が変化する。図1に示す構成では、ブレーキ1と前記モータ2との間の熱伝達経路での熱抵抗をそのペルチェ素子3によって変化させるために、ペルチェ素子3は切替スイッチ4を介して直流電源5に接続されている。
【0013】
上記のペルチェ素子3による熱抵抗の制御は、ブレーキ1およびユニット2の動作環境を適正に維持するために行われる。具体的には、ブレーキ1あるいはユニット2の温度が相対的に低い場合には、その温度が上昇するように熱抵抗を変化させ、またブレーキ1あるいはユニット2の温度が相対的に高い場合には、その過熱を防止するように熱抵抗を変化させる。その例を図1に併記してあり、ブレーキ1が高温であり、かつユニット2が低温である場合、ペルチェ素子3による熱抵抗が増大させられる。なお、「高温」および「低温」の判断は、ブレーキ1やユニット2の動作保証温度や耐熱温度などに基づいて予め閾値を定め、その閾値と検出された温度とを比較することにより行うことができる。また、熱抵抗は、ペルチェ素子3における電極3Sのうち、高温側の電極3Sで発熱するように電流を制御することにより、増大させることができる。このように制御すれば、高温のブレーキ1からユニット2に向けた熱の伝達が制限されて小さくなるので、ユニット2の温度上昇を抑制してモータ効率を向上させることができ、またユニット2の過熱を防止することができる。
【0014】
また反対に、ブレーキ1が低温であり、かつユニット2が高温である場合、ペルチェ素子3による熱抵抗が低下させられる。なお、「高温」および「低温」の判断は、ブレーキ1やユニット2の動作保証温度や耐熱温度などに基づいて予め閾値を定め、その閾値と検出された温度とを比較することにより行うことができる。また、熱抵抗は、ペルチェ素子3における電極3Sのうち、高温側の電極3Sで吸熱するように電流を制御することにより、低下させることができる。このように制御すれば、高温のユニット2からブレーキ1に向けた熱の伝達が促進されて大きくなるので、ユニット2の熱をブレーキ1に伝達するとともにブレーキ1から放熱させることができるので、ユニット2を効果的に冷却してモータ効率を向上させることができると同時にその過熱を防止することができる。また、ブレーキ1の温度を制動特性の良好な温度に早期に上昇させて、制動性能を良好な状態にすることができる。
【0015】
また、この発明では、車両に適用した場合の転がり抵抗を、上記の熱伝達経路の熱抵抗を制御することにより低下させ、燃費の向上を図ることができる。これを具体的に説明すると、転がり抵抗はタイヤの空気圧や温度などが要因となって増大するから、先ず、タイヤの空気圧や温度を検出し、その判断を行う。図3には空気圧に基づいて制御を行う例を示してあり、検出した値(図3に示す例では空気圧)が予め定めた閾値より低いか否かが判断される(ステップS1)。検出された値が閾値より大きいことにより、ステップS1で否定的に判断された場合には、タイヤを特に昇温する必要はないので、通常制御に移行する(ステップS2)。これに対して、タイヤの空気圧や温度が閾値より低いことによりステップS1で肯定的に判断された場合には、熱移動を開始する(ステップS3)。具体的には、ユニット2からブレーキ1に向けた熱伝達に対する熱抵抗を低下させ、ユニット2からブレーキ1に対する熱伝達を促進する。その後、通常制御に移行する(ステップS2)。
【0016】
したがって、図3に示すように制御することにより、タイヤの空気圧が適正圧力に上昇し、あるいはタイヤ温度が適正温度に上昇するので、転がり抵抗を低減することができる。またこれと併せて、ユニット2が冷却されてモータの効率が向上するので、転がり抵抗の低減と相まって、車両の燃費を向上させることができる。
【0017】
上述したようにペルチェ素子3を動作させるためには電源を必要とする。これに対してブレーキ1とユニット2との間に温度差があれば、これを利用して電力を得ることができるので、その電力によってペルチェ素子3を動作させるように構成することができる。その例を図4に示してあり、ブレーキ1とユニット2との間の熱伝達経路には、前述したペルチェ素子3と併せてゼーベック素子6が設けられている。このゼーベック素子6は、温度差が生じることにより起電力を生じ、熱エネルギを電力に変化する素子であり、例えば前述したインシュレータに配置される。ゼーベック素子6の起電力をペルチェ素子3に供給するようにこれらゼーベック素子6とペルチェ素子3とが電気的に接続されている。例えば、ブレーキ1の温度がユニット2の温度より相対的に高いことによりゼーベック素子6で電力が生じた場合、その電力がペルチェ素子3に供給されて、ペルチェ素子3がブレーキ1からユニット2に向けた熱の伝達に対する熱抵抗を増大させ、また反対にユニット2の温度がブレーキ1の温度に対して相対的に高いことによりゼーベック素子6で電力が生じた場合、その電力がペルチェ素子3に供給されて、ペルチェ素子3がユニット2からブレーキ1に向けた熱の伝達に対する熱抵抗を低下させるように、ゼーベック素子6とペルチェ素子3とが電気的に接続されている。
【0018】
したがって、図4に熱の移動を併記してあるように、ブレーキ1の温度がユニット2の温度より高い場合、その温度差に応じてゼーベック素子6で起電力が生じ、これがペルチェ素子3に供給される。その結果、ペルチェ素子3は、ブレーキ1側の電極3Sで発熱するように動作するので、ブレーキ1からユニット2に向けた熱の移動に対する熱抵抗が増大し、ユニット2に対するブレーキ1からの熱影響を防止もしくは抑制することができ、ユニット2の温度を適正温度に維持してモータ効率を向上させることができる。これとは反対に、ユニット2の温度がブレーキ1の温度に対して相対的に高い場合、その温度差に応じてゼーベック素子6で起電力が生じ、これがペルチェ素子3に供給されるが、この場合、ペルチェ素子3は、ユニット2からブレーキ1に向けた熱の移動に対する熱抵抗を低下させるように動作する。その結果、ユニット2の熱がブレーキ1に積極的に伝達された後、ブレーキ1から放散させられるので、ユニット2が積極的に冷却され、それに伴ってモータ効率を向上させることができる。そして、このようなペルチェ素子3による熱抵抗の制御は、ゼーベック素子6を電源として行うことができるので、車両における燃費の悪化要因を削減でき、また特別な制御を介在させることなく、自動的に熱抵抗を制御することができる。
【符号の説明】
【0019】
1…ブレーキ、 2…ユニット、 3…ペルチェ素子、 4…切替スイッチ、 5…電源、 6…ゼーベック素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと制動を行うブレーキとを備え、少なくとも前記モータの冷却を行う可変熱抵抗を利用した冷却システムにおいて、
前記モータとブレーキとの間で熱の伝達を媒介する熱伝達経路に、通電状態に従って熱抵抗が変化するペルチェ素子が配置されていることを特徴とする可変熱抵抗を利用した冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−178466(P2010−178466A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16909(P2009−16909)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】