説明

可溶性共重合ポリエステル樹脂

【課題】天然由来のモノマーを使用した、ガラス転移温度が75℃よりも高く汎用溶剤可溶な共重合ポリエステルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる可溶性共重合ポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を40モル%以上含み、グリコール成分としてイソソルビドを3〜80モル%含み、25℃において2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)に濃度10質量%以上で溶解することを特徴とする可溶性共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた可溶性共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可溶性共重合ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度と分子量を自由にコントロールすることができ、コーティング用途や接着剤用途をはじめ様々な用途で使用されている。しかしながら、そのような可溶性共重合ポリエステル樹脂は、耐熱性を高めるために、ガラス転移温度を75℃以上にしようとすると、トルエン等の汎用溶剤に不溶となり、また、汎用溶剤に易溶な可溶性共重合ポリエステル樹脂として設計すると、耐熱性が低くなり、耐熱性と溶剤溶解性を両立する可溶性共重合ポリエステル樹脂は、なかなか得られなかった。
【0003】
また、近年石油資源の枯渇から、天然由来のモノマーに注目が集められており、中でも、イソソルビドは、糖類やでんぷんから容易に得ることができるので、共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分として用いられている。さらに、イソソルビドは、共重合ポリエステル樹脂の耐熱性を高めるグリコール成分としても注目されている。特許文献1〜2では、イソソルビドを共重合した成型用の結晶性樹脂の開示があり、耐熱性を生かしたポリエステル樹脂を作ることができるとしている。特許文献3では、イソソルビドを共重合したポリエステルを用いたフィルムは透明性を有し、食品包装等で用いることができるとしている。特許文献4では、透明性と耐熱性を生かしたホットフィルボトルの開示を行っている。特許文献5では、イソソルビドを水溶液として取り扱い、ポリエステルの重合の効率を高める開示を行っている。しかしながら、これらの特許に開示されている組成では、汎用溶剤には溶解することができず、また、塗料またはコーティング剤として扱うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3413640号公報
【特許文献2】特許3399465号公報
【特許文献3】特表2007−508412号公報
【特許文献4】特表2007−504352号公報
【特許文献5】特表2006−506485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、前記問題点を解決し、天然由来のモノマーを使用した、ガラス転移温度が75℃よりも高く汎用溶剤可溶な共重合ポリエステルおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究した結果、モノマー成分として、特定のジオール成分を使用すれば前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0008】
(1)ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる可溶性共重合ポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を40モル%以上含み、グリコール成分としてイソソルビドを3〜80モル%含み、25℃において2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)に濃度10質量%以上で溶解することを特徴とする可溶性共重合ポリエステル樹脂。
(2)ガラス転移温度が75℃以上あることを特徴とする(1)の可溶型共重合ポリエステル樹脂
(3)(1)または(2)の可溶性共重合ポリエステル樹脂を10〜50質量%
溶解したポリエステル溶液であって、用いる溶媒が、シクロヘキサノン、2−ブタノン、トルエンのいずれかから選ばれる1種以上であることを特徴とするポリエステル溶液。
(4)(3)のポリエステル溶液を用いた塗料またはコーティング剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性が高い塗料およびコーティング用のポリエステル樹脂およびその溶液が提供され、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明でいう可溶性共重合ポリエステル樹脂とは、主としてジカルボン酸(A)成分とグリコール(B)成分の等モル量から構成され、必要に応じてヒドロキシカルボン酸(C)成分などが共重合されたものである。
【0012】
ジカルボン酸(A)成分としては、芳香族カルボン酸を共重合する必要がある。芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等があげられる。芳香族カルボン酸は、全ジカルボン酸成分に対し、40モル%以上共重合することが必要である。芳香族カルボン酸の配合が40モル%未満であると、得られる可溶性共重合ポリエステル樹脂の耐熱性が低くなるので好ましくない。なお、「全カルボン酸成分」とは、本発明のポリエステルの構成成分とすることのできるカルボン酸(A)成分、ヒドロキシカルボン酸(C)成分、モノカルボン酸成分、3価以上のカルボン酸成分などの総和を意味する。
【0013】
(A)成分を構成する他のジカルボン酸成分としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、アイコサン二酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸の脂環族ジカルボン等を例示できる。これらは無水物であってもよい。
【0014】
グリコール成分(B)としては、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以降「イソソルビド」と呼び、下記に化学式を示す)を共重合する必要がある。イソソルビドは、再生可能資源、例えば糖類およびでんぷんから容易に得ることができ、例えば、D−グルコースを水添し、脱水反応をすればイソソルビドを得ることができる。イソソルビドは、ロケット社から入手することができる。
【0015】
【化1】

【0016】
イソソルビドは、全ジオール成分に対し、3モル%〜80モル%共重合することが好ましい。3モル%未満であるとガラス転移温度を高める効果がほとんどないので好ましくない。また、80モル%よりも高いと、溶融粘度が高くなるため高分子量のポリマーを得ることができなくなり、コーティング塗膜がもろくなるばかりか、汎用溶剤に溶解しにくくなるので好ましくない。
【0017】
一方操業面においては、イソソルビドは二級アルコールであるため、重合性が低く、配合量を増やすと重合時間が長くなる傾向があり、経済面で不利となる。したがって、重合性を損なわないで、ガラス転移温度を高め、高分子量、汎用溶剤に対する可溶性をバランスさせるためには、10モル%〜50モル%にすることがさらに好ましく、25モル%〜40モル%にすることが最も好ましい。
【0018】
なお、「全ジオール成分」とは、本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂の構成成分とすることのできるジオール(B)成分、ヒドロキシカルボン酸(C)成分、モノアルコール成分、3価以上のアルコール成分などの総和を意味する。
【0019】
(B)成分を構成する他のジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、
2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3(4)、8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.1/2.6)デカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4′−ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、等が挙げられ、中でも、汎用性があるエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0020】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂には、適度な柔軟性、接着性の向上、ガラス転移温度の調整などの目的に応じて、ヒドロキシカルボン酸(C)を用いることができる。(C)成分は全カルボン酸成分の20モル%以下とすることが好ましい。(C)成分の割合が20モル%よりも高いと、ガラス転移温度が下がるので好ましくない。
【0021】
(C)成分としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、オキシラン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられ、これらの中でも、汎用性があるε−カプロラクトンが好ましい。
【0022】
少量であれば、3官能以上のカルボン酸成分やアルコール成分を共重合成分として添加してもよい。
【0023】
3官能以上のカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0024】
3官能以上のアルコール成分としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0025】
これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、樹脂に対し付与したい特性に応じて複数種以上混合して用いることが可能である。このとき、3官能以上のモノマーの割合としては、全カルボン酸成分または全アルコール成分に対して0.2〜5モル%程度が適当である。0.2モル%未満では添加した効果が発現せず、5モル%を超える量を含有せしめた場合には、重合の際、ゲル化点を超えゲル化が問題になる場合がある。
【0026】
また、本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0027】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂は前記のモノマーを組み合わせて、公知の重合釜で製造することができる。
【0028】
一般的に共重合ポリエステル樹脂を製造する反応は、エステル化反応工程および重縮合反応工程からなる。エステル化反応工程は、全モノマーおよび/または低重合体から、所望の組成の低重合体を作製する工程あり、重縮合反応は、低重合体からグリコール成分を留去させ、所望の分子量の重合物を得る工程である。
【0029】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する方法を用いることができる。
【0030】
以下、各工程について説明する。
【0031】
エステル化反応では、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下、加熱熔融して反応させる。イソソルビドは2級アルコールであるため、1級アルコールと比べて、反応性が低い。そのため、エステル化温度は、180〜250℃が好ましく、220〜250℃がより好ましく、反応時間は2.5〜10時間が好ましく、4時間〜6時間がより好ましい。なお、反応時間は所望の反応温度になってから、つづく重縮合反応までの時間とする。
【0032】
重縮合反応では、減圧下、240〜300℃の温度で、エステル化反応で得られたエステル化物から、グリコール成分を留去させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。重縮合の反応温度は、250〜300℃が好ましく、270〜300℃がより好ましい。重縮合の反応温度が低い場合、本発明のポリエステル樹脂はTgが75℃以上と高く、溶融粘度も高いため、所望の分子量に達することが難しくなる。減圧度は、130
Pa以下であることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる傾向があるので好ましくない。大気圧から130Pa以下に達するまでの減圧時間としては、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0033】
なお、組成によっては、グリコール成分とともにイソソルビドが留去し、留去液からイソソルビドが析出する場合があるが、その場合は、留去ラインを40〜80℃に加熱することで、グリコール成分に対し析出したイソソルビドを溶解させ、留去ラインから排出することができるため好ましい。
【0034】
エステル化反応および重縮合反応の際には、必要に応じて、テトラブチルチタネートなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物を用いて重合をおこなう。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0質量%以下で用いるのが好ましい。
【0035】
また、一般的に共重合ポリエステル樹脂に所望の酸価や水酸基価を付与する場合には、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分や多価グリコール成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合を行うことができる。
【0036】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する場合と同様に解重合を行い、所望の酸価や水酸基価を付与することができる。
【0037】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂は、25℃において、2−ブタノン/トルエン(質量比1/1)混合溶媒に10質量%以上の濃度で溶解することが必要である。濃度10質量%以上で溶解しない場合には、塗料やコーティング剤として使用する際の作業性が低下する。溶解濃度の上限は特にないが、溶液の粘性が高くなりすぎないためには50質量%以下が好ましい。
【0038】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂は、溶剤への溶解性に優れるため、様々な汎用溶媒に溶解させてポリエステル溶液として利用することができる。溶液濃度は10〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。また、好ましい溶媒としては、シクロヘキサノン、2−ブタノン、トルエンからなる少なくとも1種が挙げられる。中でも2−ブタノン/トルエンの混合溶媒は一般に溶解性が高いので好ましく、両者の質量比を8/2〜2/8の範囲としたものが最も好ましい。
【0039】
本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は4,000以上とすることが好ましく、8,000以上であることがより好ましい。数平均分子量が4,000未満では、コーティングした際に皮膜が割れてしまうので好ましくない。
【0040】
また、本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、75℃以上である必要があり、85℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が75℃よりも低いと耐熱性があるとはいえないので好ましくない。
【0041】
また、本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料、染料、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、セルロース誘導体等を配合することができる。
【0042】
また、本発明の可溶性共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて、顔料分散剤、紫外線吸収剤、離型剤、顔料分散剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0044】
1.測定方法
【0045】
(1)可溶性共重合ポリエステル樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製,300MHz)より求めた。
【0046】
(2)可溶性共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型及び紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶媒:クロロホルム、ポリスチレン換算)により求めた。
【0047】
(3)可溶性共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度
可溶性共重合ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
【0048】
(4)溶解性能
ガラス製容器に、樹脂10g、2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)90gを入れ(濃度10質量%)、ペイントシェーカーを用いて25℃で6時間振動させ、溶解状態を観察した。溶解したものを「○」、溶解しなかったものを「×」とし、さらに、その後、25℃で1日放置し、溶解状態が維持されていれば「○」、相分離などを起したものを「×」とした。樹脂30g、混合溶媒70gとしたもの(濃度30質量%)について同様の評価を行った。また、溶媒としてシクロヘキサノンを用いて同様の試験を行った。いずれかの溶媒で「○」になった場合、溶解性能があるとした。
【0049】
実施例1
テレフタル酸1661g(100モル部)1,2−プロパンジオール898g(118モル部)、イソソルビド(ロケット社製)467g(32モル部)、トリメリロールプロパン2.7g(0.2モル部)からなる混合物に、触媒としてヒドロキシブチルスズオキサイド1.3gを添加して、攪拌しながら、オートクレーブ中、240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、270℃に昇温し、触媒としてテトラブチルチタネート3.4gを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。4時間後、系を窒素ガスで加圧状態にしてペレット状に樹脂を払い出し表1の可溶性共重合ポリエステル樹脂を得た。この可溶性共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は12000、ガラス転移温度は107℃であった。樹脂組成と特性値および溶解性評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2
テレフタル酸831g(50モル部)、イソフタル酸831g(50モル部)、ネオペンチルグリコール906g(87モル部)、イソソルビド978g(63モル部)からなる混合物を攪拌しながら、オートクレーブ中、240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなう以外は実施例1と同様におこなった。
【0052】
実施例3〜6
使用するモノマーとそのモル比を表1のようにし、実施例1と同様の操作をおこなって、表1の可溶性共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0053】
比較例1〜5
使用するモノマーとそのモル比を表2のようにし、実施例1と同様の操作をおこなって、表2の可溶性共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例1〜6においては、いずれもガラス転移温度が75℃以上あり、しかも汎用溶剤に溶解した。
【0056】
比較例1,2では、イソソルビドの共重合量が低かったために、ガラス転移温度が75℃に達せず耐熱性が低いものであった。
【0057】
比較例3では、イソソルビドの共重合量が高かったために、汎用溶剤に溶解しなかった。
【0058】
比較例4では、芳香族カルボン酸の共重合量が低かったために、ガラス転移温度が75℃に達せず耐熱性が低いものであった。
【0059】
比較例5では、ヒドロキシカルボン酸の共重合量が高く、イソソルビドの共重合量が低かったために、ガラス転移温度が75℃に達せず耐熱性が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる可溶性共重合ポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を40モル%以上含み、グリコール成分としてイソソルビドを3〜80モル%含み、25℃において2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)に濃度10質量%以上で溶解することを特徴とする可溶性共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
ガラス転移温度が75℃以上あることを特徴とする請求項1記載の可溶型共重合ポリエステル樹脂
【請求項3】
請求項1または2に記載の可溶性共重合ポリエステル樹脂を10〜50質量%
溶解したポリエステル溶液であって、用いる溶媒が、シクロヘキサノン、2−ブタノン、トルエンのいずれかから選ばれる1種以上であることを特徴とするポリエステル溶液。
【請求項4】
請求項3記載のポリエステル溶液を用いた塗料またはコーティング剤。

【公開番号】特開2010−95696(P2010−95696A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47997(P2009−47997)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】