可視光・近赤外分光分析方法及びその装置
【課題】 400nm〜2500nmの波長領域の可視光及び/又は近赤外光を利用して各試料中の成分の判別や成分の特性を測定する分光分析方法及びその装置において、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、また超低濃度成分の検出を可能とし、さらに成分の特性や、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化をリアルタイムに測定可能とする可視光・近赤外分光分析方法及びその装置を提供することである。
【解決手段】 試料検体に所定の条件を付加し摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら前記試料検体のスペクトル測定を行うことで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えてスペクトル解析もしくは多変量解析して、前記試料検体の成分の判別及び/又は成分の特性を判別可能とする構成とした。
【解決手段】 試料検体に所定の条件を付加し摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら前記試料検体のスペクトル測定を行うことで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えてスペクトル解析もしくは多変量解析して、前記試料検体の成分の判別及び/又は成分の特性を判別可能とする構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光及び/又は近赤外光を利用して各試料中の成分の判別や成分の特性を測定する分光分析方法及びその装置に関し、特に、得られる吸収スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別や各成分の特性を測定する可視光・近赤外分光分析方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、種々の分野で近赤外光を用いた成分分析が行われている。例えば、可視光及び/又は近赤外光を検体試料に照射して、特定成分に吸収される波長または波長領域を検出することで、前記特定成分を定量分析することが行なわれている。
【0003】
これは、例えば石英セル中に試料を注入し、これに近赤外分光器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いて、400nm〜2500nmの波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して、その透過光、反射光、又は透過反射光(以後これらを総称して透過反射光と称する)を分析することで行う。
【0004】
一般に、近赤外光は、物質の吸光係数が非常に小さく散乱を受け難く、エネルギーの低い電磁波であるので、試料に損傷を与えることなく化学的・物理的情報を得ることができる。
【0005】
そのために、試料検体からの透過反射光スペクトルの強度を検出して、試料検体による吸光度を求めて、得られた吸光度データを多変量解析することで、直ちに試料検体の情報を得ることができる。
【0006】
そして、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の領域の連続波長光を照射して試料検体のスペクトルを得る工程と、得られたスペクトル中のピークを分光学的手法により要素ピークに分解する工程と、その中の水分子の要素ピークを多変量解析して解析モデルを作成する工程とを備えるとした試料検体の情報を得る方法が既に公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
さらに、可視光及び/又は近赤外光領域における水分子の吸収バンドを用いて、得られた吸光度データを多変量解析することで、牛乳/又は乳房中の体細胞を測定して牛の乳房炎の診断を行うとした出願も公開されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−5827号公報(第1−9頁、第1図)
【特許文献2】国際公開WO01/75420号公報(第1−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の可視光及び/又は近赤外光を用いた成分分析方法においては、特定条件下で400nm〜2500nmの波長領域の光を照射し、試料中に存在する水分子と被検体中の注目成分との相互作用で水分子の要素ピークが変化するのを検出することで、被検体の成分情報を得る方法であり、測定できる成分や測定の精度には限界がある。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解消するために、400nm〜2500nmの波長領域の光を利用して各試料中の成分の判別や成分の特性を測定する分光分析方法において、従
来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、また超低濃度成分の検出を可能とし、さらに成分の特性や、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化をリアルタイムに測定可能とする可視光・近赤外分光分析方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に係る発明は、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与えながらスペクトル測定を行い、スペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴としている。
【0011】
上記の構成を有する請求項1に係る発明によれば、摂動を与えることで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えて解析することで、従来検出不可能であった成分の判別が可能となる。また、濃度や粒子の大きさ等の各成分の特性を測定することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating
perturbations:WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させ、全部又は一部の波長領域のスペクトル測定を行うことで、前記試料検体中の成分の特性に応じて変化する水分子の要素ピークを含む応答スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、応答スペクトルのパターンの変遷を捉え、捉えられた前記パターンの変遷から各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴としている。
【0013】
上記の構成を有する請求項2に係る発明によれば、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら試料検体の各成分に応じてシフトする所定の水分子の応答の変化を測定して分光分析を行いスペクトル解析もしくは多変量解析を行うので、微小な変化を積極的に生じさせると共に、前記微小な変化を解析して捉えることができる。そのために、スペクトルのグラフからは直接視認できない応答スペクトルのパターンの変遷を捉えることで、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、さらに超低濃度成分の検出を可能とし、成分の特性をリアルタイムに測定可能とする精度の高いモデルを得ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記摂動が、前記試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更のいずれか、または、それらの組み合わせであることを特徴としている。
【0015】
上記の構成を有する請求項3に係る発明によれば、試料検体の種類や特性に応じた条件を選択することで所定の効果的な摂動(WAP)を与えることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記摂動が、試料検体の10倍ずつ(例えば10-1〜10-10まで)の濃度変更と、それぞれに少なくとも3回繰り返し照射の組み合わせであることを特徴とする。
【0017】
上記の構成を有する請求項4に係る発明によれば、試料検体の濃度を広範囲に変更して希釈しているので、試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用により応答が変化する際に、水の影響が強調されて、水分子の特定の要素ピークを含む応答スペクトルのパターンの変化を明確にすることができる。この結果、水溶液中の微小濃度成分の測定も行うことが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記試料検体がバクテリアであって、前記試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別を行うことを特徴とする。
【0019】
上記の構成を有する請求項5に係る発明によれば、例えば、バクテリアの濃度を10倍ずつ段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)とを判別する高精度なモデルを構築することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(Cu)及び/又はPrP(Mn)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする。
【0021】
上記の構成を有する請求項6に係る発明によれば、間隔を空けて光を繰り返し照射するという摂動(WAP)を与えることで、特定の波長領域の応答スペクトルに変化が生じ、この応答スペクトルを多変量解析することで、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)とPrP(Mn)とを判別することができるモデルを構築することができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、光路長及び/又は濃度を変更すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(metal)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする。
【0023】
上記の構成を有する請求項7に係る発明によれば、光路長及び/又は濃度を変更し複数回照射する摂動(WAP)を付与した近赤外分光分析方法により、金属成分をその構造体中に含有するプリオン蛋白質PrP(metal)と金属成分を含有しないプリオン蛋白質PrPを判別することができる。
【0024】
請求項8に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに繰り返し照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の抗原の濃度を測定することを特徴とする。
【0025】
上記の構成を有する請求項8に係る発明によれば、抗原濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中の抗体濃度を測定可能となるモデルを構築することができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定することを特徴とする。
【0027】
上記の構成を有する請求項9に係る発明によれば、各粒子径の粒子を溶解する濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP
)を与えることで、溶解前の粒子径を測定可能なモデルを構築することができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の異なるバクテリアを判別することを特徴とする。
【0029】
上記の構成を有する請求項10に係る発明によれば、バクテリア濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中の異なるバクテリアを微量濃度であっても判別可能とするモデルを構築することができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生乳から前記哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする。
【0031】
上記の構成を有する請求項11に係る発明によれば、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら、牛等の哺乳動物の生乳を分光分析することで、前記牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液に含有される成分濃度を予測し測定することができ、牛等の生態情報を容易に取得可能なモデルを構築することができる。
【0032】
請求項12に係る発明は、一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生体液から前記哺乳動物の生乳の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする。
【0033】
上記の構成を有する請求項12に係る発明によれば、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら、牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液を分光分析することで、前記牛等の哺乳動物の生乳に含有される成分濃度を予測し測定することができ、生乳の品質特性を容易に判定可能なモデルを構築することができる。
【0034】
請求項13に係る発明は、光路長を変化すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えると共に、700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域において、前記第1の波長領域のみの又は前記第1、第2の波長領域の分光分析を行うことで、生乳の複数の成分の濃度を測定することを特徴とする。
【0035】
上記の構成を有する請求項13に係る発明によれば、光路長を変更して分光分析することで、短波長領域の第一の波長領域においても、成分の濃度を測定可能な高精度のモデルを構築することができる。
【0036】
請求項14に係る発明は、10Vの電圧を付加すると共に、500〜1000nmの波長領域の光を少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析を行うことで、生乳中の脂肪濃度を測定することを特徴とする。
【0037】
上記の構成を有する請求項14に係る発明によれば、電圧を付加して電磁場を変化させるという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで牛乳中の脂肪濃度を高精度に測定可能なモデルを構築することができる。
【0038】
請求項15に係る発明は、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を発生させるための近赤外光発生手段と、前記近赤外光発生手段からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備える可視光・近赤外分光分析装置において、前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を設けると共に、前記データ処理手段が、前記摂動を与えて得られる応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行うことを特徴とする。
【0039】
上記の構成を有する請求項15に係る発明によれば、摂動を与えることで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えて解析する装置とすることで、従来検出不可能であった成分の判別が可能となる。また、濃度や粒子の大きさ等の各成分の特性を測定することができる。
【0040】
請求項16に係る発明は、前記摂動手段が、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させる手段であって、照射時間と照射回数を設定可能な照射制御装置を備えていることを特徴とする。
【0041】
上記の構成を有する請求項16に係る発明によれば、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら試料検体の各成分に応じて変化する所定の水分子のスペクトルを含むスペクトルパターンの応答の変化を測定して分光分析を行い多変量解析を行うことができるので、微小な変化を積極的に生じさせると共に、前記微小な変化を解析して捉えることができる。そのために、従来の方法では判別困難なものを判別し、超低濃度成分の検出を可能とし、成分の特性をリアルタイムに測定可能な可視光・近赤外分光分析装置となる。
【0042】
請求項17に係る発明は、前記摂動付与手段が、付加電磁力調整、光路長変更、温度変更が可能な手段の少なくとも一つを備えていると共に、前記光学手段と前記検知手段とを同時にまたは別々に備えるプローブから光の照射と受光を行いデータ処理を行うよう、前記摂動付与手段による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0043】
上記の構成を有する請求項17に係る発明によれば、測定する試料検体の種類や特性に応じた条件を選択することで所定の摂動(WAP)を与えて、これまで判別困難であった成分の判別や、超低濃度成分の検出が可能な可視光・近赤外分光分析装置を得ることができる。
【0044】
請求項18に係る発明は、前記データ処理手段が、応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行い、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化を捉えて解析する手段であることを特徴とする。
【0045】
上記の構成を有する請求項18に係る発明によれば、所定の摂動(WAP)を与えることで、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化程度を直接的にまたリアルタイムに得ることができる可視光・近赤外分光分析装置とすることができる。
【0046】
請求項19に係る発明は、試料検体収容部と該収容部に収容された試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって、試料検体に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペク
トルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段と、測定結果を表示する表示手段を備える可視光・近赤外分光分析装置であることを特徴とする。
【0047】
上記の構成を有する請求項19に係る発明によれば、摂動(WAP)を付与してスペクト測定することで得られる近赤外領域の応答スペクトルから、試料検体の特定成分を測定可能な可視光・近赤外分光分析装置とすることができる。
【0048】
請求項20に係る発明は、請求項6から15のいずれかに記載の可視光・近赤外分光分析方法を実施するための可視光・近赤外分光分析装置であって、それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域を予め設定していることを特徴とする。
【0049】
上記の構成を有する請求項20に係る発明によれば、それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域の分光分析を行うことで、簡易に特定の試料検体の測定をすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法及びその装置によれば、試料検体に所定の条件を付加することで、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら、前記試料検体の各成分に応じて変化する所定の水分子のスペクトルを含むスペクトルパターンの応答の変化を測定して分光分析を行いスペクトル解析もしくは多変量解析を行うので、スペクトルのグラフからは判別できない応答の変化を捉えることができ、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、また超低濃度成分の検出を可能とし、さらに成分の特性や、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化をリアルタイムに測定可能となる可視光・近赤外分光分析方法及びその装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法及びその装置の実施の形態について、図1から図31に基づいて説明する。
【0052】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法は、市販の分光分析器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いて、400nm〜2500nmまでの又はその一部の領域の連続波長光(可視光及び/又は近赤外光)を照射して得られる透過反射光のスペクトルを解析することで行う。
【0053】
スペクトルの解析とは、検出されたスペクトルを吸収スペクトルに変換するために、光反射率の逆数を対数変換し、得られたスペクトル中のピークを分光学的手法により要素ピークに分解し、該要素ピークを多変量解析し、帰属バンドを求めて、モデルを構築することである。
【0054】
近赤外光を試料検体(液状試料)に照射すると、対象物に含まれる各種分子により特定の波長のみが吸収される。そして、分子構造(分子の種類)により吸収される光の波長が異なる。液状試料のように水分子が含まれるものでは、水分子に特有の波長領域帯にて複雑な吸光現象が起こる。また、水分子と被検体中の注目成分との相互作用で水分子の要素ピークがシフトする。
【0055】
つまり、光を照射すると、特定分子が特定波長の光を吸収し、エネルギー準位が遷移する。また、前記エネルギー準位の遷移は分子間の相互作用や水分子と注目成分との相互作用や水素結合状態等により特定の波長領域でのスペクトルパターンが変化する。
【0056】
分子のエネルギーとは振動エネルギーであり、エネルギー準位が遷移するとは、基底振動状態から第一励起振動状態に遷移することである。また、この遷移を基本音という。さらに、第二・第三励起振動状態に遷移することを倍音遷移と称する。また、二つ以上の基準振動が励起される遷移を結合音という。
【0057】
近赤外光の波長領域においては、水素を含む官能基(例えばOH)に帰属されるバンドが多く、その倍音や結合音も現れる。つまり、試料検体に近赤外光を照射することで、特定の波長領域に基本音や倍音や結合音に対応した変化が生じることになる。
【0058】
上記したように、近赤外光を用いた分光分析方法においては、得られるスペクトルデータには多数の倍音や結合音のデータが重なって現れることになる。また、これらの倍音や結合音の強度は弱く、さらに、基本音→第一倍音→第二倍音、と進むに連れて強度が段階的に弱くなる。
【0059】
そのために、従来の近赤外光を用いた分光分析方法においては、多くの情報量を有するけれども、弱いバンドが複雑に重なり合ったスペクトル解析を行う必要があり、正確な測定を行うことは困難であった。
【0060】
しかし、試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更である、段階的値の濃度変更、光の繰り返し照射、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度、pH、圧力等の所定の条件を積極的に付加しながら摂動を与えることで、特定の波長領域に、後に算出可能なスペクトルパターンの変化(データ上からは視認不可能であるが)を生じさせることができた。つまり、所定の条件を積極的に付加しながら分光分析を行うことで、被検体成分特有のスペクトルパターンを動的に変化させて明確に発現し、得られるスペクトルデータを多変量解析することで、各試料の成分に応じた応答の変化を検出することができ、特定成分を判別あるいは測定可能となった。
【0061】
上記したように、得られたスペクトルの検出吸光度(光の吸収される度合い)を波長ごとにプロットすることにより近赤外吸収スペクトルが得られる。また、この近赤外吸収スペクトルを用いて定量分析 を行うには、目的特性の値(濃度或いは特性値)とスペクトルデータとを関係づける関係式(検量線)が必要となる。通常検量線は、目的特性値が既知な試料のスペクトルを計測し、そのスペクトルデータを、オートスケール、スムージング処理、一次微分処理等の前処理を行った後で、部分二乗回帰分析(PLS)により演算して得ることができる。さらに、クロスバリデーションにより検証を行いながら高精度なモデルを構築することができる。また、主成分分析(PCA)により成分の判別を行うと共に、得られた各モデル間の距離をSIMCA法にて検定することができる。
【0062】
上記の前処理や多変量解析等のデータ解析には、Pirouette3.02(GLサイエンス社製)のデータ処理ソフトを使用した。
【0063】
近赤外分光分析ではエネルギーレベルが弱いので同一物質に繰り返し照射しても損傷を与えず、所定の条件を加えながら(摂動を付与して)分光分析を行うことができる。また、前記摂動を与えながらスペクトル測定を行うことで、応答スペクトルが動的に変化していることが判った。そのために、動的に変化する応答スペクトルをスペクトル解析あるいは多変量解析することで、微小な応答スペクトルの変遷を検知することができ、今まで検知不能であった成分の判別や成分の特性が検知できるようになった。
【0064】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法の流れの概略を図1に示す。既知の試料1に所定の条件を付加することで摂動を与えながら、スペクトル測定を行う。得られたスペク
トルをデータ変換・データ解析を行い、吸収バンドの強度の違いを検証しながら所定の試料の帰属バンドを求めてモデルを構築するものである。また、新たな試料2に同様な摂動を与えながらスペクトル測定を行い、前記モデルと比較することで、モデルの実証性を評価する流れである。
【0065】
また、図2には、本発明方法の特徴部分を示している。図に示すように、本発明方法では、試料検体に濃度変更等の所定の条件を付与して摂動を与えながら複数回のスペクトル測定を行うことを特徴としている。また、少なくとも3回の照射データから応答スペクトルのパターンを求めて、照射の度に生じる、水分子と注目成分との相互作用による特定の波長領域の変化を捉えて前記応答スペクトルのパターンの変遷を捉えることができる。そのために、今まで検知不能であった成分の判別が可能となる定性モデルの作成や、成分の特性が検知可能となる定量モデルの作成を行うことができ、これらのモデルにより試料検体の成分の情報を得ることができる。
【0066】
図3は本発明装置の特徴部分を示す概略説明図であって、近赤外発生手段11からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体S1に照射する光学手段12Aと、前記試料検体S1からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段12Bを備えるプローブ12を有する可視光・近赤外分光分析装置10が示されている。また、前記装置10には前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段15と、温度やpH等の環境条件を調整する試料検体環境調整手段14と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段13と、前記摂動付与手段15による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段16が配設されている。
【0067】
前記データ処理手段13は、得られる応答スペクトルを多変量解析して、PLS法及び/又はクロスバリデーション法を用いて成分の特性を数値化する定量的解析、もしくは、PCA法及び/又はSIMCA法を用いてクラス判別を行う定性的解析を行い、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とすべく構築されたモデルを使用する構成とされている。そのために、可視光・近赤外分光分析装置10により、試料検体S1の成分の判別が可能で、成分の特性の測定が可能となる。
【0068】
分光分析を行う際には、前述した分光分析器を用いて波長領域400nm〜2500nmを波長分解能2nmで走査する構成としているので、1走査で1051個のデータを取り込むことができる。また、連続的に3回走査すると3153個のデータが得られると共に、それらをデータ処理すると、水分子の所定の要素ピークに各成分との相互作用によるシフトが各種の波長域に現れていることが判る。
【0069】
図4に水分子の吸収バンドの強度変化を示すが、これは15分毎に6時間400nm〜2500nmの連続波長光を水のみの試料検体に照射した際に、強度変化を生じるつまりシフトが生じる波長領域を示している。つまり、黒く塗りつぶした部分のバンドにて応答(response)が生じていることが判る。
【0070】
また、前述した倍音や結合音に対応したシフトが生じ易い水分子に特有の波長領域帯として図5に600〜850nmの水の吸収バンドの強度変化(変化が同時に生じるSynchronousなもの)を等高線状に示している。さらに、図6にはその時に特徴的なスペクトルピーク(正の相関で生じるピークと負の相関で生じるピーク)を示している。つまり、606nmの波長でのピークに対しては、640nm、738nmの波長領域で同時に正の相関でピークが生じ、808nmの波長領域で負の相関でピークが生じていることを示している。
【0071】
また、同時に変化が生じるのではなく、特定の波長のスペクトル変化に対して追随して
生じるAsynchronousな変化も生じていることが判っている。このように水の情報を多く含む特定の波長領域において、それぞれのスペクトルが関連しあって複雑に変化している様子が理解できる。
【0072】
そのために、特定の試料検体を分光分析する際に生じる水分子の所定の要素ピークの応答(response)は、前記試料検体の成分に応じて特定の波長領域において変化が生じていることになる。また、この変化の程度は、得られるスペクトルデータからは判別されず、多変量解析によるデータ処理を行って初めて確認される。
【0073】
さらに、試料の成分濃度を段階的値に変化させて走査しても、光路長を変化して走査しても、温度やpH等の外的条件を付加して走査しても、一回目と二回目、あるいは二回目と三回目とでその応答が僅かに変化しており、各試料成分に応じた水分子の所定の要素ピークに応答(response)の変化が生じていることが判る。
【0074】
そのために前記摂動は、時間間隔をおいて複数回照射してスペクトル測定を行うことで、応答スペクトルに動的な変化を生じさせる条件の変更であって、本発明者は、この摂動を、WAPOT(Water Activating Perturbation Over the Time)と称している。
【0075】
つまり、試料検体に濃度変更、光の繰り返し照射、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更等の物理的または化学的な変化を与える所定の条件を付加して、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら走査することで、各試料の成分に応じた応答(水分子の所定の要素ピークを含むスペクトルパターンの変動)を検知可能であることが明らかとなった。
【0076】
以下に各試料の測定結果について説明する。
【実施例1】
【0077】
実施例1は、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別とそれぞれの濃度を測定した例であって、緩衝液BPW(Buffer peptone water)中にそれぞれのバクテリアを混入した試料検体を作成し、石英セル1mmに前記試料検体を注入して、それぞれの基準濃度CFU(コロニーフォーミングユニット)を10-1倍から10-10倍まで10倍毎に予め濃度変更して準備したサンプルに、400nm〜2500nmの波長領域の光を3回連続して繰り返し照射し分光分析を行い、2nm間隔の測定を行った例である。
【0078】
また、それぞれのバクテリアを判別する際には、試料検体として、前記緩衝液に替えて、牛乳中にそれぞれのバクテリアを混入した試料検体を採用してもよい。また、シャーレに培養したバクテリアをそのまま測定することも可能である。
【0079】
この時に使用した分光分析器はニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500であり、測定温度は37℃の一定温度とした。
【0080】
図7には測定された吸収スペクトルを示しているが、網掛け部はノイズとしてデータから除去した部分を示している。この得られたデータを、Pirouette3.02(GLサイエンス社製)のデータ処理ソフトを用いて、オートスケール、スムージング処理、一次微分処理の各種の前処理、及び変換を行った後で、PLSとクロスバリデーション解析によりそれぞれのバクテリアの濃度を測定するモデルを作成し検証を行う。また、主成分分析(PCA)とSIMCA解析によりそれぞれの試料検体中のバクテリアの判別を行う。
【0081】
ここで、図8にはPLS解析の結果得られたCNSの濃度の回帰ベクトルを示し、図9
にはCPSの濃度の回帰ベクトルを示している。この時に、得られる応答スペクトルが変遷する重要な波長(Important wavelengths)はそれぞれ、CNSの場合は、1406−1500nm、1180nm、1306nmであり、CPSの場合は、740nm、770nm、808nm,1156−1198nm、1466nm,1476nm、1650nm、1686nm、1704nm、1720nm、1750nm、1846nm、1890nmであった。さらに、図10にCNSの濃度の検量線を示し、図11にはCPSの濃度の検量線を示している。
【0082】
上記検量線を示す図は、測定値(既知の試料検体を薄めた従来方法による測定値)をX軸(横軸)とし、多変量解析して構築されるモデルから得られる予想値をY軸(縦軸)とした図である。
【0083】
ここで、図10に示すCN^6−2とは、CNSの濃度を10-1倍から10-10倍まで10段階に希釈した時の6段階目の試料検体の2回目の走査データであることを示している。同様に図11に示すCP^6−3とは、CPSの濃度が10段階に希釈した時の6段階目の試料検体の3回目の走査データであることを示している。
【0084】
図10の横軸の数値はCNS濃度の自然対数目盛りであって、例えば1.12×108CFU/ml濃度のCNS原液を基準試料として用いて、この濃度を10倍ずつ10段階に希釈したサンプルで測定した結果を示している。すなわち、In(1.12×108)=18.53が基準濃度(図中のCNgen-2etc.)であり、これを初めに10倍希釈したものは、CP^10=In(1.12×107)=16.23となる。さらにもう10倍希釈したものは、CP^9=In(1.12×106)=13.93となる。
【0085】
図11には、1.05×108CFU/ml濃度のCPSを基準試料として用いて、この濃度を10倍ずつ10段階に希釈したサンプルを測定した結果を示している。図10および図11から判るように、CNSとCPSとをその濃度が10-1倍から10-10倍までの範囲で測定可能な検量線を得ることが可能であり、特に人体に有害なバクテリアであるCPSを、その濃度が1.05×108CFU/mlの10-10倍まで希釈した超低濃度の試料でも確実に測定できることができる。
【0086】
さらに、図12にはクロスバリデーションの解析結果を示しており、バリデーション誤差SEVとバリデーションの相関rVal等の結果を表示している。この結果から、例えばCPSの検量線においては、Factor6の累積寄与率(cumulative)は97.56091%であり、その時のバリデーション誤差SEVが3.096218であることを示している。また、その時の相関係数rVal=0.944926となり、精度の高い検量線が得られた。
【0087】
また、CNSとCPSとを混入した混合液の濃度を段階的値にまで希釈したサンプルを用いて前記CNSとCPSとの判別を行った。各サンプルに対して3回測定したスペクトルのうち、2,3回目の測定データを用いて使用波長領域からノイズをカットしたサンプル群において主成分分析(PCA)を行い、前記PCAにより得られた第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)に基づく3次元プロットを図13に示している。この図から判るように、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、境界L1を境にCNSとCPSのクラスターを明確に分離することができる。つまり、従来困難であったCNSとCPSとの判別が、本実施例に係る可視光・近赤外分光分析方法により容易に判別することができる。
【0088】
図14(a)には各前処理や変換処理を変更した際のSIMCA解析の結果を示している。それぞれの測定条件A1〜A6に示している、水、BPW、希釈サンプル、ノイズ除
外、3回とは、それぞれ、水分子のスペクトルを除去、緩衝液BPWを使用、予め濃度を所定の段階的値にまで希釈して準備したサンプルを使用、ノイズ除去処理、3回連続照射であることを示している。
【0089】
また、Autoscaleとはオートスケール処理のことであり、smooth(15)とは15nm毎にスムージング処理したことであり、1st Derivative(25)とは25nm毎に一次微分処理したことをそれぞれ示している。
【0090】
つまり、測定条件A6に示す、水分子のスペクトルを除去、緩衝液BPWを使用、予め段階的値に希釈して準備したサンプルを使用、ノイズ除去処理、3回連続照射の測定条件において、オートスケ−ル、スムージング処理(15nm毎に)、一次微分(25nm毎に)のデータ処理を行いSIMCA解析した場合にCNSとCPSとのクラス間距離が4.254であることがわかる。
【0091】
また、A4とA8とを比較すると、この相違点は予め希釈しているかどうかであり、A4でのクラス間距離1.156であったものが、予め希釈して準備された希釈サンプルを用いることで、クラス間距離4.132となっており、識別力が向上している。濃度の希釈にはこのように、予め所定濃度の原液に所定量の水や緩衝液を付加して所定の段階的値の濃度サンプルを準備しておく希釈法(以後、置注ぎ希釈と称する)と、所定濃度の原液をサンプルとして測定し、測定終了後に新たな水や緩衝液を追加して濃度を薄くしていく希釈法(以後、注足し希釈と称する)とがあるが、本実施例においては、予め極端に薄い濃度まで希釈した置注ぎ希釈サンプルを用いることで、バクテリアの判別が可能となることが判った。さらに、A8とA6とを比較すると、この相違点は1回照射か3回照射かであり、3回照射であるA6でのクラス間距離が上記したように4.254と識別力が向上していることが判る。
【0092】
一般に前記クラス間距離が3以上であればクラス判別が有意とされており、上記で得られたクラス間距離が4.254なので、CNSとCPSを十分に判別可能なSIMCAモデルが得られたことが判る。
【0093】
また、図14(b)にはSIMCAを使った判別結果を示しており、例えばCNSでは34回全て判別成功であり、CNSでないと誤判別した例は0回であった。またCPSでは36回全て判別成功であり、CPSでないと誤判別した例は0回であり、判別誤差が生じていないことを示している。
【0094】
上記したように、摂動(WAP)として、試料濃度の10-1倍から10-10倍までの広範囲な段階的希釈(置注ぎ希釈)と、3回繰り返し照射という条件の変化を与えながらの分光分析により、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別と濃度測定を行う高精度なモデルを構築することが可能となった。
【0095】
そのために、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法により、判別が困難で人体に有害なバクテリアを確実に判別することができ、従来の培養法によれば48時間程度のバクテリア培養時間が必要であったものが、本発明によれば、培養する必要もなくリアルタイムに測定することができるという効果が得られる。
【実施例2】
【0096】
実施例2は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)とPrP(Mn)の判別を行なった例であって、400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行うと共に、光を15分毎に6時間繰り返し照射し
て分光分析を行い、PCA法とSIMCA法により多変量解析を行ったものである。
【0097】
また、プリオン蛋白質PrPのみの試料と分子構造内に銅を含有する試料PrP(Cu)と分子構造内にマンガンを含有する試料PrP(Mn)とをそれぞれ準備し、さらに、それぞれの濃度を、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlと予め変更して準備した複数の希釈サンプル(置注ぎ希釈)のプリオン水溶液をそれぞれ分光分析した。
【0098】
得られたスペクトルをPCA法(主成分分析)により多変量解析を行い、その時に得られた第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)による判別結果およびローディングを図15に示す。
【0099】
図15(a)は第1主成分(Factor1)と第3主成分(Factor3)によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別結果であり、図15(b)は第3主成分(Factor3)と第5主成分(Factor5)によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別結果を示している。また、図15(c)はそれぞれの主成分のローディングを示している。
【0100】
図15(a)からPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)とが明確に判別されていることが明らかである。ただ、図中に示すPrP1が破線で囲むPrPグループから離れており、Cu1がPrP(Cu)グループから離れており、Mn1がPrP(Mn)グループから離れていることが判る。前記PrP1、Cu1、Mn1とはそれぞれ一回目の照射時のデータであって、一回だけでは正確な判別を行うことができず、摂動(WAP)を与えながら繰り返し測定することで、グループ判別が可能となるモデルが得られることを示している。
【0101】
図15(a)(b)から明らかなように、摂動(WAP)として、試料濃度の段階的な希釈と、光を15分毎に繰り返し照射という条件変化を与えながら分光分析を行うと、プリオン蛋白質PrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別が可能となるモデルを得ることができる。
【0102】
図15(c)から判るように、第1主成分(Factor1)を構成するファクターとしては
第1主成分(Factor1)のローディングを示すラインPC1により1466nmの波長光の寄与が大きく、第3主成分(Factor3)のローディングを示すラインPC3により1340nm、1424nmの波長光の寄与が大きく、第5主成分(Factor5)のローディングを示すラインPC5により1364nm,1394nm、1476nmの波長光の寄与が大きいことが判る。
【0103】
また、SIMCA解析を行い、各クラス間の距離を算出した結果を図16に示す。この図から、PrP(Cu)とPrP(Mn)と距離が28.81であり、PrP(Cu)とPrPとの距離が4.15であることが判る。前に説明したようにこの距離が3以上であれば、クラス判別が有意であるので、本方法によりプリオン蛋白質を明確に判別することが可能となる。
【0104】
つまり、光を時間間隔を空けて(15分毎に)繰り返し照射する摂動(WAP)を与えながら分光分析を行うことで、PrP(Cu)とPrP(Mn)などの金属分子を含有した蛋白を検出可能となり、プリオン蛋白質PrPと、狂牛病に関係あると見られているプリオン蛋白質PrP(Cu)とを確実に判定可能なモデルを得ることができる。
【0105】
また、別のサンプルを用いて15分毎に6時間繰り返し26回照射した時の各測定時においてSIMCA処理を行い、得られるクラス間距離の変化を計測して得られた結果を図
17に示す。この図から判るように、ある回数までの照射回数の増加に応じてクラス間距離が大きくなっている。つまり、判別力が大きくなっていることが判る。
【0106】
例えばPrP(Cu)とPrP(Mn)とのクラス間距離は、3回照射では5.6であったものが、20回照射で25.8まで増加している。しかし、PrP(Cu)とPrPとのクラス間距離は11回照射で最大となっており違ったパターンとなっている。つまり、特定の成分を判別する最適な照射回数(摂動付与の条件)があることが判る。
【0107】
上記のように、似た構造のプリオン蛋白質であっても、成分の違いにより、摂動を付与された際の応答に変化が生じていることが判る。つまり、生体高分子の構造又は機能の違いやその変化により、摂動を付与した際の応答に変化が生じている。そのために、前記応答の変化を捉えることで生体高分子の構造や機能を検知することが可能となる。
【0108】
さらに、図18に、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと、金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)と、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)との判別を行った時の各サンプル濃度によるクラス間距離の測定結果を示す。それそれ、サンプル濃度を1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlとなるようにそれぞれ所定量の原液と緩衝液を調合して複数のサンプル(置注ぎ希釈サンプル)を用意して、それぞれのクラス間距離を計測した。
【0109】
例えば、PrP(Cu)とPrPとのクラス間距離は、検体濃度が1mg/mlの時には0.861595であり、濃度が0.5mg/mlでは2.434433であり、濃度が0.1mg/mlでは2.674994であり、濃度が0.05mg/mlでは7.862999となっている。前述したように、このクラス間距離が3以上であれば、クラス判別が有意とされているので、検体濃度を薄くすると計測されるクラス間距離が大きくなり判定可能となる。
【0110】
上記の実験結果により、本分光分析方法によれば、置注ぎ希釈により検体濃度を広範囲に薄くしていくと、成分の判別力が向上していることが明らかである。
【実施例3】
【0111】
実施例3は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(metal)としての銅を含有する試料検体PrP(Cu)の判別を、光路長を変更(1mmと4mm)して行った例であって、400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行うと共に、光を6時間毎に48時間繰り返して分光分析を行い、PCA法とSIMCA法により多変量解析を行ったものである。また、この時に、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)の測定を行い、測定結果にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0112】
図19には、得られた第3主成分(Factor3)と第9主成分(Factor9)のローディングを示し、図20(a)にはSIMCAによる解析結果を示し、図20(b)にはSIMCAによるクラス間距離を示し、図20(c)には判別結果を示している。
【0113】
図20(a)により、光路長を変更して測定した時に、PrPおよびPrP(Cu)はそのクラス分けが明確に判別できることが判った。また、PrP(Cu)とPrPinW(Cu)とを混同することなく分別できることも判る。また、図20(b)より、PrP(Cu)とPrPinW(Cu)とのクラス間距離は24.84であり、明確に判別されることが判る。PrPとPrP(Cu)とのクラス間距離は1.19と小さいが、図20(c)に示す判別の結果、誤判別が0であり、問題ないことが判る。
【0114】
上記のように、プリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)の判別は、光路長を変更して分光分析することで可能であることが判る。しかし、図20(a)からは、PrPinW(Cu)の測定は、光路長を変更しても差が見られない。つまり、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加しただけの試料検体では、光路長を変更して分光分析を行っても、応答スペクトルにパターンの変化が生じず、水分子と注目成分との間に相互作用が生じていないことが判る。このことは逆に、本実施例に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、金属成分をその分子構造内に含むプリオン蛋白質PrP(metal)の判別が可能となり有効といえる。
【0115】
このように、光路長を変更(1mmと4mm)するという摂動を与えることでも、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(metal)との判別を行うことができる。
【実施例4】
【0116】
実施例4は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと、金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)と、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)との判別を、温度を変更(21℃、30℃、35℃、37℃)すると共に、それぞれの濃度を、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlと予め変更して準備した複数の希釈サンプル(置注ぎ希釈)のプリオン水溶液をそれぞれ分光分析した例である。
【0117】
それぞれの試料検体の前記4段階の濃度サンプルを、それぞれ温度を4段階に変更して分光分析を行い、スペクトルデータを得た。つまり、それぞれの所定濃度サンプルについてそれぞれ4個のスペクトルデータが得られる。つまり、温度を摂動として応答に変化を与えた際に得られる4個のスペクトルデータを主成分分析して、それぞれの濃度段階における試料検体のSIMCA距離を求めた。
【0118】
図21に、得られたSIMCA距離を立体的にグラフ表示している。この図から明らかなように、全ての試料検体において、検体濃度が0.05mg/mlと最も低い時に、SIMCA距離が最大となっている。また、いずれもそのSIMCA距離は5以上であり、明確にクラス判別が行なわれていることが判る。
【0119】
また、それぞれの検体成分によりそのSIMCA距離のパターンが変化していることも明らかである。つまり、温度変更という摂動を与えた時の応答に、それぞれの検体成分に応じて変化が生じており、前記検体成分の構造及び機能の違いにより差が生じていることを示している。このように、試料検体の温度を変更することも、被検体成分特有の応答スペクトルのパターンを動的に変化させる摂動となる。
【実施例5】
【0120】
実施例5は、試料検体中の抗原濃度を測定した例であって、抗体としてAnti-bisphenol
A scFvを用い、抗原としてBisphenolAを用いて、緩衝液(PBSバッファー)中にそれぞれの濃度を段階的に希釈した希釈サンプルを試料検体として、光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長領域の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0121】
前記抗体のサンプル濃度は10ng/ml、100ng/ml、1μg/ml、10μg/mlの4段階であった。また、前記抗原の濃度は、1pg/ml〜100ng/mlまでの6段階のサンプルを使用した。また、それぞれを混ぜ合わせた混合サンプルとして16種を各2個の計32サンプルと、それぞれの単独サンプル(10種22サンプル)及び水のみ(1サンプル)、緩衝液のみ(3サンプル)の合計58サンプルの分光分析を行
った。
【0122】
得られたスペクトルデータをノイズ処理、スムージング処理、オートスケール処理を行い、PLSとクロスバリデーション解析を行った。
【0123】
解析結果を図22に示す。図22(a)は検量線であり、横軸Measured Yが従来法による測定値を示し、縦軸Pred Calが本発明による可視光・近赤外分光分析方法により得られた予測値を示している。この結果から、抗原の濃度が1ppt(1兆分の1)の濃度まで測定可能であることが判った。
【0124】
またクロスバリデーション解析により得られるバリデーション誤差SEVを図22(b)に示しているが、1回の照射によるFactor5の累積寄与率(cumulative)は99.94188%であり、その時のバリデーション誤差SEVが3.558607であることを示している。しかし、3回繰り返し照射によるFactor9の累進寄与率が99.94567%の場合に、バリデーション誤差SEVが1.008785であることを示している。
【0125】
つまり、複数回(3回)連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により、バリデーション誤差SEVが三分の一となって、従来の3倍の精度で試料検体中の抗原濃度を測定可能となることが判った。
【0126】
また、図22(c)にはSIMCA処理して得られるクラス間距離を示している。これから判るように、1回照射では8.65であったものが、2回までの照射(1&2)で9.79となり、3回までの繰り返し照射(1&2&3)では10.11まで向上していることが判る。つまり、複数回繰り返し照射することで、抗原の成分判別を精度よく行うことができる。
【実施例6】
【0127】
実施例6は、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定する例として、溶解前のコーヒー粒子径を測定した実施例であって、ミキサーによってインスタントコーヒーを粉砕する際に、0秒、20秒、60秒、90秒とその粉砕時間を延長して、コーヒーの粒子径を段階的に粉砕して細かくしていったサンプルを用いると共に、それぞれの濃度を4%、3%、2%、1%と段階的に変更したサンプルを光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長範囲の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0128】
得られたスペクトルデータをノイズ処理、スムージング処理(17ポイント、34nm毎)、オートスケール処理を行い、前述したPLS法とクロスバリデーション解析を行い、回帰モデルを構築した。
【0129】
解析結果を図23に示す。図23(a)は横軸Measured Yが従来法による測定値を示し、縦軸Pred Calが本発明による可視光・近赤外分光分析方法により得られた予測値を示している。前記測定値Yは実際にコーヒー粒子の径を測定したものではなく、粉砕時間の対数表示としている。これは粉砕時間が長いと粒子径が小さくなると見なしたものである。この結果から、本発明によれば、溶解前のコーヒー粒子径を推測できるモデルが得られることが判った。
【0130】
またクロスバリデーション解析により得られるバリデーション誤差SEVを図23(b)に示しているが、1回の照射によるFactor5の累積寄与率(cumulative)は98.31849%であり、その時のバリデーション誤差SEVが0.937039であることを示している。しかし、3回繰り返し照射によるFactor6の累進寄与率が99.8904%の
場合に、バリデーション誤差SEVが0.466675であることを示している。
【0131】
つまり、3回連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により1回のみの照射による分光分析と比較して2倍の精度で溶解前のコーヒー粒子径を測定可能となることが判った。
【0132】
また、検体濃度を変更した時に、前述したクラス判別を行う定性的解析であるSIMCA解析により、溶解前の粒子径の違い、つまり、粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとの判別距離(SIMCA DISTANCE)がどのように変化するかを測定してみた。
【0133】
図24(a)には、コーヒーの粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時のそれぞれの検体濃度毎に算出したSIMCA距離を示している。また、図24(b)には、砂糖(Sugar)の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時のそれぞれの検体濃度毎に算出したSIMCA距離を示している。図24(c)には砂糖の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のもののPLS解析とクロスバリデーション解析を行った時の回帰モデルの相関係数(Rv)とバリデーション誤差(SEV)を示している。
【0134】
図24(a)によれば、1〜4%のいずれの濃度においても、5以上のSIMCA距離となっており、本実施例に係る測定方法により、コーヒーの粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを十分判別可能であることを示している。また特に濃度1%と薄くした時には、SIMCA距離が15.96と最大値となっており、判別力が最大であることを示している。
【0135】
図24(b)によれば、砂糖(Sugar)の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時に、検体濃度が4%の時は、そのSIMCA距離が1.59であり、値が小さく判別は困難であるが、濃度をその半分の2%以下とすると十分判別可能な程度の数値となっている。このように、測定する検体成分によって最適な検体濃度が異なっていることが判る。これは、すなわち、それぞれの検体成分により濃度変更という摂動を与えた時の応答に変化が生じており、前記検体成分の構造及び機能の違いにより差が生じていることを示している。
【0136】
また、図24(c)によれば、砂糖測定時の回帰モデルの相関係数が、粒状(Granule)のものでは0.995であり、粉状(Powder)のものでは0.9998となっており、非常に高い相関でその粒度を測定可能となる。
【0137】
上記のように、本実施例による可視光・近赤外分光分析方法により、コーヒーの粒子の大きさや砂糖粒子の大きさを高精度に判別することができる。
【実施例7】
【0138】
実施例7は、試料検体中の異なるバクテリアを判別した例であって、牛乳中のバクテリアStaphylococcus(msta)と、Streptococcus(mstr)をそれぞれ緩衝液(PBSバッファー)により段階的に希釈して、10-1〜1016(colony/ml)濃度とした76サンプルを光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長領域の光をそれぞれ3回繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0139】
得られたスペクトルデータから、前述したのと同様な解析方法である主成分分析(PCA)とSIMCA解析を行った。
【0140】
解析結果を図25に示す。図25は第1主成分(Factor1)と第2主成分(Factor2)と
第3主成分(Factor3)でのmstaとmstrとの判別結果を表しており、バクテリアmsta群とバクテリアmstr群とが確実に判別されることを示している。
【0141】
上記したように、複数回(3回)連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により、牛乳中のバクテリアmsta群とバクテリアmstr群とが確実に判別可能となることが判った。つまり、従来の培養法によれば、48時間程度のバクテリア培養時間が必要であったものが、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、培養する必要もなく、異なるバクテリアをリアルタイムに判別することができるという効果が得られる。
【実施例8】
【0142】
実施例8は、牛等の哺乳動物の血漿や胃液や生乳の成分濃度を測定した例であって、牛の生体液を用いて、光路長1mmの石英セルに注入した試料検体に400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行ったものである。測定は一日に2回(朝、夕各1回)の分光分析を三日連続して行った。さらに、その後3週間違う餌を与えた後で、同様に一日に2回(朝、夕各1回)の分光分析を三日連続して行い、その効果を確認したものである。
【0143】
上記の測定回数を朝夕各1回で三日連続としたが、一日に2回以上測定してもよく、また継続日数も三日以上としてもよいと思われる。このように測定間隔と測定回数を変化させて得られたスペクトルデータの前処理を行い、PLS法とクロスバリデーション解析を行った。
【0144】
解析結果を図26と図27に示す。図27(a)(b)は牛の血漿(Blood Plasma)のスペクトルを計測することで、その牛の牛乳の成分濃度(Fat脂肪、Crude Protein粗蛋白質 、Caseinカゼイン 、True protein蛋白質 、MUN乳中尿素態窒素 、Lactose乳糖)を予測した結果であって、図27(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルを計測することで、その牛の血漿の成分濃度(Albuminアルブミン、Glucoseグルコース、BUN血中尿素態窒素)を予測した結果である。
【0145】
また、図27(a)(b)は牛の胃液のスペクトルを計測することで、その牛の牛乳の成分濃度(Fat脂肪、Crude Protein粗蛋白質 、Caseinカゼイン 、True protein蛋白質 、MUN乳中尿素態窒素 、Lactose乳糖)を予測した結果であって、図27(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルを計測することで、その牛の胃液の成分濃度(PHペーハー、NH3-Nアンモニア態窒素、C2脂肪酸、C3脂肪酸、C4脂肪酸)を予測した結果を示している。
【0146】
図27(b)から判るように、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法により、牛の血漿のスペクトルを計測して高い相関にて生乳の成分濃度が予測可能となった。特にカゼインではその相関係数R=0.938であり、この時の統計的有意p<0.001であって、1000回に1回以下の予測誤差となる。また、図27(b)に示す牛の胃液のスペクトルを計測することで、生乳中に含有されるカゼイン濃度をR=0.902、p<0.001にて予測できることが判る。
【0147】
このように、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら分光分析を行うことで、牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液から、前記牛等の哺乳動物の生乳に含有される成分濃度を予測し測定することができる。また、前記生乳から、前記牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を測定することが可能となるので、乳牛等の生態情報を容易に得ることができる。
【実施例9】
【0148】
実施例9は、牛乳の複数の成分濃度を測定した例であって、光路長を変更して複数回の測定を行うという摂動を与えながら、石英セルに注入した試料検体に対して700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域の分光分析を行ったものである。
【0149】
近赤外光であっても短波長域、具体的には700nm〜1100nmの領域の近赤外光であれば、長波長域よりも10〜100倍ほど透過力が大きく、短波長域の近赤外光を用いれば光路長を1〜2cm程度にすることができる。さらに、特殊な石英セルに替えて試験管等の安価な容器を使用することもできる。
【0150】
そのために、光路長がそれぞれ1mm、4mm、10mmの石英セル/又は試験管に注入した試料検体を用いて、700nm〜1100nmの短波長領域の分光分析を行うことができる。
【0151】
また、図28(a)に示す幅1mmの矩形試料検体注入部3Aを備える石英セル3に試料検体を注入した後で、図28(b)に示す方向4,5に所定の光を照射することで、任意の光路長に設定することができる。この方法により同一試料検体の光路長を1mm、4mm、10mmと変化させて測定したところ、光路長が長くなる程ノイズが減り、高精度となることが判った。
【0152】
得られたスペクトルをPLS法とクロスバリデーションにより解析し得られたSECV(クロスバリデーション誤差)を図29(a)(b)(c)に示す。
【0153】
図29(a)にはFAT(牛乳中の脂肪濃度)を測定した時のSECVであり、図29(b)にはPROTEIN(牛乳中の蛋白質濃度)を測定した際のSECVであり、図29(c)にはLACTOSE(牛乳中の乳糖濃度)を測定した際のSECVを示している。
【0154】
図29(a)に示す脂肪分の測定結果から、光路長1mmでは波長領域700〜1100nmのSECVが0.45であるが、光路長4mmおよび10mmで波長領域700〜1100nmでのSECVは0.2となるので、光路長を長くすることで短波長領域700〜1100nmにおいても十分精度よく測定可能であることが確認される。
【0155】
また図29(c)に示す乳糖の測定結果からは、短波長領域700〜1100nmと長波長領域1100〜2400nmでのSECVが共に0.09であり、高精度の測定が短波長領域700〜1100nmで測定可能であることを示している。
【0156】
上記したように短波長領域にて長い光路長にて、試料検体を測定可能となるので、ノイズの少ない、誤差の小さい判定を行うことができると共に、特殊な石英セルではなく、通常の試験管等により測定することもできる。
【0157】
また、光路長を変化させて多数のデータを測定することでさらに精度のよいモデルが得られることは明らかである。
【実施例10】
【0158】
実施例10は牛乳中の脂肪濃度を測定した例であって、試料検体を光路長1mmの石英セルに注入し、摂動(WAP)として10Vの電圧を付加しながら、500〜1000nmの波長領域の光を3回繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0159】
電圧付加手段として牛乳の電気伝導度を測定するための装置であるMilk Checker(オリ
エンタルインスツルメント社製)を使用し、10Vの電圧を付加しながら、クボタ社製の分光分析器を用いて500nm〜1000nmの波長領域の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行った。また、分光分析器としてその他の分光分析器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いてもよく、特に限定するものではない。
【0160】
その時に得られたスペクトルをPLS法とクロスバリデーションにより解析した例を図30に示す。図30(a)は解析された回帰ベクトルを示しており、図30(b)には解析結果を示している。
【0161】
図30(b)から、電圧を付加しない場合(Without EMF)にはFactor10のバリデーション相関(rVal)が0.98であり、その時のバリデーション誤差(SEV)が0.204269であることを示している。
【0162】
また、電圧を付加した後(After Applying EMF)では、Factor9でそれぞれrVal=0.996256でSEV =0.087212である。さらに、電圧を付加しながら(In the presence of EMF)の測定では、Factor9でrVal=0.997483でSEV=0.071528となっている。
【0163】
つまり、摂動(WAP)として10Vの電圧を付加しながら分光分析すれば、バリデーション誤差が1/3となるので、測定の精度が3倍となるモデルが得られたことが判る。
【0164】
上記の実施例1から実施例10で説明したように、400nm〜2500nmの波長領域の光を利用して各試料中の成分の特性を測定する分光分析方法において、試料検体に所定の条件を付加することで、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら分光分析を行い、前記試料検体の各成分に応じて変化する所定の応答スペクトルのパターンを計測してスペクトル解析もしくは多変量解析を行うことにより、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、さらに超低濃度成分の検出や成分の判別及び/又は成分の特性をリアルタイムに測定可能とする可視光・近赤外分光分析方法を得ることができる。
【0165】
さらには、測定する検体成分により、所定の検体成分を判別容易とする最適な摂動(WAP)があるので、所定の摂動を付与しながら分光分析を行うことで、所定の検体成分の測定を簡易に行なうことも可能である。
【0166】
上記のように、本発明でいう摂動とは、試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更以外にも、実施例8で示した、牛に与える飼料の変更もある。また、さらには、試料検体に振動や音波や圧力を付与することで前記試料検体に物理的または化学的な変化を与えるようにしてもよい。
【0167】
上記したように、ある特定の波長(Important wavelengths)の光が、試料検体の特定成分を判別あるいは測定するのに重要な光であるので、簡易型の可視光・近赤外分光分析装置としては、ある特定の波長(Important wavelengths)の光を照射して分光分析可能な装置であればよい。そのために、図31に示すような簡易構成の特定成分測定用の可視光・近赤外分光分析装置20とすることができる。
【0168】
前記可視光・近赤外分光分析装置20は、試料検体収容部21に収容された試料検体S2に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段22を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって
、試料検体S2に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段23と、前記試料検体S2からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段24と、得られたスペクトルについて所定のスペクトル解析もしくは多変量解析を行う処理ソフトを内蔵するデータ処理手段25を備える構成とされている。さらには、処理された結果を判別して判別結果を表示する表示手段26を備える構成とすることもできる。
【0169】
上記の構成の可視光・近赤外分光分析装置20であれば、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定するのに適した特定の波長(Important wavelengths)の光を照射して分光分析することができるので、それぞれの特定成分を短時間にまた容易に推定可能となる。また、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とすべく構築されたモデルを使用することで、特定成分の簡易判定や簡易測定が可能となる可視光・近赤外分光分析装置20を構成することができる
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法の流れを示すブロック図である。
【図2】本発明方法の特徴部分を示す概略説明図である。
【図3】本発明装置の特徴部分を示す概略説明図である。
【図4】水分子の吸収バンドの強度変化を示す概略説明図である。
【図5】水分子の吸収バンドの強度変化を等高線状に示す。
【図6】Synchronousに変化する波長を示す一覧図である。
【図7】試料検体中のバクテリアを測定した際の吸収スペクトルを示す。
【図8】CNSの回帰ベクトルを示す。
【図9】CPSの回帰ベクトルを示す。
【図10】CNSの検量線を示す。
【図11】CPSの検量線を示す。
【図12】クロスバリデーション解析後の検量結果を示す。
【図13】第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)に基づくCNSとCPSの3次元プロットである。
【図14】(a)にはCNSとCPSのクラス間距離を求めたSIMCA解析の結果を示し、(b)にはSIMCAを使った判別結果を示している。
【図15】(a)は第1主成分(Factor1)と第3主成分(Factor3)とによるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)の判別結果を示しており、(b)は第3主成分(Factor3)と第5主成分(Factor5)とによる判別結果を示し、(c)はそれぞれの主成分のローディングを示している。
【図16】SIMCA解析によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)の各クラス間の距離を示す。
【図17】繰り返し照射によるSIMCA解析の結果を示している。
【図18】プリオン蛋白質の濃度を変更した時のクラス間距離の結果を示している。
【図19】光路長を変更してPrPとPrP(Cu)を判別した時の回帰ベクトルを示している。
【図20】光路長を変更してPrPとPrP(Cu)を判別した結果であり、(a)はSIMCA解析の結果を示し、(b)はクラス間距離を示し、(c)は判別結果を示している。
【図21】温度変更の摂動を与えてプリオン蛋白質の判別を行なった時のSIMCA距離を示すグラフである。
【図22】(a)は試料検体中の抗原濃度を測定した際の検量線を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示し、(c)にはSIMCA解析によるクラス間距離を示している。
【図23】(a)は溶解前のコーヒー粒子径を測定した際の検量線を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示す。
【図24】粒子の大きさを判別した例を示し、(a)にはコーヒー粒子を判別した時のSIMCA距離を示し、(b)には砂糖粒子を判別した時のSIMCA距離を示し、(c)には砂糖粒子を測定した時の相関係数とバリデーション誤差を示している。
【図25】試料検体中のバクテリアを測定した際の第1主成分(Factor1)と第2主成分(Factor2)と第3主成分(Factor3)とによるmstaとmstrの判別結果を表している。
【図26】(a)(b)は牛の血漿スペクトルから、その牛の牛乳の成分濃度を予測した結果を示し、(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルから、その牛の血漿の成分濃度を予測した結果を示している。
【図27】(a)(b)は牛の胃液のスペクトルから、その牛の牛乳の成分濃度を予測した結果を示し、(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルから、その牛の胃液の成分濃度を予測した結果を示している。
【図28】石英セルを示しており、(a)は全体斜視図であり、(b)は平面図である。
【図29】牛乳の複数の成分濃度を測定した際のSECVを示し、(a)にはFAT(脂肪分)のSECVであり、(b)はPROTEIN(蛋白質)のSECVであり、(c)はLACTOSEのSECVを示している。
【図30】(a)は牛乳中の脂肪濃度を測定した際の回帰ベクトルY1を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示す。
【図31】特性成分測定用の可視光・近赤外分光分析装置の一例を示す。
【符号の説明】
【0171】
1 既知の試料
2 新たな試料
3 石英セル
3A 試料検体注入部
4 照射方向
5 照射方向
10 可視光・近赤外分光分析装置
20 可視光・近赤外分光分析装置(特定成分用の)
L1 境界
S1 試料検体
S2 (特定の)試料検体
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光及び/又は近赤外光を利用して各試料中の成分の判別や成分の特性を測定する分光分析方法及びその装置に関し、特に、得られる吸収スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別や各成分の特性を測定する可視光・近赤外分光分析方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、種々の分野で近赤外光を用いた成分分析が行われている。例えば、可視光及び/又は近赤外光を検体試料に照射して、特定成分に吸収される波長または波長領域を検出することで、前記特定成分を定量分析することが行なわれている。
【0003】
これは、例えば石英セル中に試料を注入し、これに近赤外分光器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いて、400nm〜2500nmの波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して、その透過光、反射光、又は透過反射光(以後これらを総称して透過反射光と称する)を分析することで行う。
【0004】
一般に、近赤外光は、物質の吸光係数が非常に小さく散乱を受け難く、エネルギーの低い電磁波であるので、試料に損傷を与えることなく化学的・物理的情報を得ることができる。
【0005】
そのために、試料検体からの透過反射光スペクトルの強度を検出して、試料検体による吸光度を求めて、得られた吸光度データを多変量解析することで、直ちに試料検体の情報を得ることができる。
【0006】
そして、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の領域の連続波長光を照射して試料検体のスペクトルを得る工程と、得られたスペクトル中のピークを分光学的手法により要素ピークに分解する工程と、その中の水分子の要素ピークを多変量解析して解析モデルを作成する工程とを備えるとした試料検体の情報を得る方法が既に公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
さらに、可視光及び/又は近赤外光領域における水分子の吸収バンドを用いて、得られた吸光度データを多変量解析することで、牛乳/又は乳房中の体細胞を測定して牛の乳房炎の診断を行うとした出願も公開されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−5827号公報(第1−9頁、第1図)
【特許文献2】国際公開WO01/75420号公報(第1−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の可視光及び/又は近赤外光を用いた成分分析方法においては、特定条件下で400nm〜2500nmの波長領域の光を照射し、試料中に存在する水分子と被検体中の注目成分との相互作用で水分子の要素ピークが変化するのを検出することで、被検体の成分情報を得る方法であり、測定できる成分や測定の精度には限界がある。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解消するために、400nm〜2500nmの波長領域の光を利用して各試料中の成分の判別や成分の特性を測定する分光分析方法において、従
来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、また超低濃度成分の検出を可能とし、さらに成分の特性や、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化をリアルタイムに測定可能とする可視光・近赤外分光分析方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に係る発明は、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与えながらスペクトル測定を行い、スペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴としている。
【0011】
上記の構成を有する請求項1に係る発明によれば、摂動を与えることで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えて解析することで、従来検出不可能であった成分の判別が可能となる。また、濃度や粒子の大きさ等の各成分の特性を測定することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating
perturbations:WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させ、全部又は一部の波長領域のスペクトル測定を行うことで、前記試料検体中の成分の特性に応じて変化する水分子の要素ピークを含む応答スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、応答スペクトルのパターンの変遷を捉え、捉えられた前記パターンの変遷から各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴としている。
【0013】
上記の構成を有する請求項2に係る発明によれば、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら試料検体の各成分に応じてシフトする所定の水分子の応答の変化を測定して分光分析を行いスペクトル解析もしくは多変量解析を行うので、微小な変化を積極的に生じさせると共に、前記微小な変化を解析して捉えることができる。そのために、スペクトルのグラフからは直接視認できない応答スペクトルのパターンの変遷を捉えることで、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、さらに超低濃度成分の検出を可能とし、成分の特性をリアルタイムに測定可能とする精度の高いモデルを得ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記摂動が、前記試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更のいずれか、または、それらの組み合わせであることを特徴としている。
【0015】
上記の構成を有する請求項3に係る発明によれば、試料検体の種類や特性に応じた条件を選択することで所定の効果的な摂動(WAP)を与えることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記摂動が、試料検体の10倍ずつ(例えば10-1〜10-10まで)の濃度変更と、それぞれに少なくとも3回繰り返し照射の組み合わせであることを特徴とする。
【0017】
上記の構成を有する請求項4に係る発明によれば、試料検体の濃度を広範囲に変更して希釈しているので、試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用により応答が変化する際に、水の影響が強調されて、水分子の特定の要素ピークを含む応答スペクトルのパターンの変化を明確にすることができる。この結果、水溶液中の微小濃度成分の測定も行うことが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記試料検体がバクテリアであって、前記試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別を行うことを特徴とする。
【0019】
上記の構成を有する請求項5に係る発明によれば、例えば、バクテリアの濃度を10倍ずつ段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)とを判別する高精度なモデルを構築することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(Cu)及び/又はPrP(Mn)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする。
【0021】
上記の構成を有する請求項6に係る発明によれば、間隔を空けて光を繰り返し照射するという摂動(WAP)を与えることで、特定の波長領域の応答スペクトルに変化が生じ、この応答スペクトルを多変量解析することで、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)とPrP(Mn)とを判別することができるモデルを構築することができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、光路長及び/又は濃度を変更すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(metal)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする。
【0023】
上記の構成を有する請求項7に係る発明によれば、光路長及び/又は濃度を変更し複数回照射する摂動(WAP)を付与した近赤外分光分析方法により、金属成分をその構造体中に含有するプリオン蛋白質PrP(metal)と金属成分を含有しないプリオン蛋白質PrPを判別することができる。
【0024】
請求項8に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに繰り返し照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の抗原の濃度を測定することを特徴とする。
【0025】
上記の構成を有する請求項8に係る発明によれば、抗原濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中の抗体濃度を測定可能となるモデルを構築することができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定することを特徴とする。
【0027】
上記の構成を有する請求項9に係る発明によれば、各粒子径の粒子を溶解する濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP
)を与えることで、溶解前の粒子径を測定可能なモデルを構築することができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の異なるバクテリアを判別することを特徴とする。
【0029】
上記の構成を有する請求項10に係る発明によれば、バクテリア濃度を段階的値に濃度変更するという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで、試料検体中の異なるバクテリアを微量濃度であっても判別可能とするモデルを構築することができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生乳から前記哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする。
【0031】
上記の構成を有する請求項11に係る発明によれば、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら、牛等の哺乳動物の生乳を分光分析することで、前記牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液に含有される成分濃度を予測し測定することができ、牛等の生態情報を容易に取得可能なモデルを構築することができる。
【0032】
請求項12に係る発明は、一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生体液から前記哺乳動物の生乳の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする。
【0033】
上記の構成を有する請求項12に係る発明によれば、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら、牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液を分光分析することで、前記牛等の哺乳動物の生乳に含有される成分濃度を予測し測定することができ、生乳の品質特性を容易に判定可能なモデルを構築することができる。
【0034】
請求項13に係る発明は、光路長を変化すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えると共に、700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域において、前記第1の波長領域のみの又は前記第1、第2の波長領域の分光分析を行うことで、生乳の複数の成分の濃度を測定することを特徴とする。
【0035】
上記の構成を有する請求項13に係る発明によれば、光路長を変更して分光分析することで、短波長領域の第一の波長領域においても、成分の濃度を測定可能な高精度のモデルを構築することができる。
【0036】
請求項14に係る発明は、10Vの電圧を付加すると共に、500〜1000nmの波長領域の光を少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析を行うことで、生乳中の脂肪濃度を測定することを特徴とする。
【0037】
上記の構成を有する請求項14に係る発明によれば、電圧を付加して電磁場を変化させるという摂動(WAP)と、複数回連続照射するという摂動(WAP)を与えることで牛乳中の脂肪濃度を高精度に測定可能なモデルを構築することができる。
【0038】
請求項15に係る発明は、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を発生させるための近赤外光発生手段と、前記近赤外光発生手段からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備える可視光・近赤外分光分析装置において、前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を設けると共に、前記データ処理手段が、前記摂動を与えて得られる応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行うことを特徴とする。
【0039】
上記の構成を有する請求項15に係る発明によれば、摂動を与えることで応答スペクトルに変化を生じさせると共に、前記応答スペクトルの変遷を捉えて解析する装置とすることで、従来検出不可能であった成分の判別が可能となる。また、濃度や粒子の大きさ等の各成分の特性を測定することができる。
【0040】
請求項16に係る発明は、前記摂動手段が、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させる手段であって、照射時間と照射回数を設定可能な照射制御装置を備えていることを特徴とする。
【0041】
上記の構成を有する請求項16に係る発明によれば、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら試料検体の各成分に応じて変化する所定の水分子のスペクトルを含むスペクトルパターンの応答の変化を測定して分光分析を行い多変量解析を行うことができるので、微小な変化を積極的に生じさせると共に、前記微小な変化を解析して捉えることができる。そのために、従来の方法では判別困難なものを判別し、超低濃度成分の検出を可能とし、成分の特性をリアルタイムに測定可能な可視光・近赤外分光分析装置となる。
【0042】
請求項17に係る発明は、前記摂動付与手段が、付加電磁力調整、光路長変更、温度変更が可能な手段の少なくとも一つを備えていると共に、前記光学手段と前記検知手段とを同時にまたは別々に備えるプローブから光の照射と受光を行いデータ処理を行うよう、前記摂動付与手段による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0043】
上記の構成を有する請求項17に係る発明によれば、測定する試料検体の種類や特性に応じた条件を選択することで所定の摂動(WAP)を与えて、これまで判別困難であった成分の判別や、超低濃度成分の検出が可能な可視光・近赤外分光分析装置を得ることができる。
【0044】
請求項18に係る発明は、前記データ処理手段が、応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行い、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化を捉えて解析する手段であることを特徴とする。
【0045】
上記の構成を有する請求項18に係る発明によれば、所定の摂動(WAP)を与えることで、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化程度を直接的にまたリアルタイムに得ることができる可視光・近赤外分光分析装置とすることができる。
【0046】
請求項19に係る発明は、試料検体収容部と該収容部に収容された試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって、試料検体に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペク
トルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段と、測定結果を表示する表示手段を備える可視光・近赤外分光分析装置であることを特徴とする。
【0047】
上記の構成を有する請求項19に係る発明によれば、摂動(WAP)を付与してスペクト測定することで得られる近赤外領域の応答スペクトルから、試料検体の特定成分を測定可能な可視光・近赤外分光分析装置とすることができる。
【0048】
請求項20に係る発明は、請求項6から15のいずれかに記載の可視光・近赤外分光分析方法を実施するための可視光・近赤外分光分析装置であって、それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域を予め設定していることを特徴とする。
【0049】
上記の構成を有する請求項20に係る発明によれば、それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域の分光分析を行うことで、簡易に特定の試料検体の測定をすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法及びその装置によれば、試料検体に所定の条件を付加することで、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら、前記試料検体の各成分に応じて変化する所定の水分子のスペクトルを含むスペクトルパターンの応答の変化を測定して分光分析を行いスペクトル解析もしくは多変量解析を行うので、スペクトルのグラフからは判別できない応答の変化を捉えることができ、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、また超低濃度成分の検出を可能とし、さらに成分の特性や、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化をリアルタイムに測定可能となる可視光・近赤外分光分析方法及びその装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法及びその装置の実施の形態について、図1から図31に基づいて説明する。
【0052】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法は、市販の分光分析器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いて、400nm〜2500nmまでの又はその一部の領域の連続波長光(可視光及び/又は近赤外光)を照射して得られる透過反射光のスペクトルを解析することで行う。
【0053】
スペクトルの解析とは、検出されたスペクトルを吸収スペクトルに変換するために、光反射率の逆数を対数変換し、得られたスペクトル中のピークを分光学的手法により要素ピークに分解し、該要素ピークを多変量解析し、帰属バンドを求めて、モデルを構築することである。
【0054】
近赤外光を試料検体(液状試料)に照射すると、対象物に含まれる各種分子により特定の波長のみが吸収される。そして、分子構造(分子の種類)により吸収される光の波長が異なる。液状試料のように水分子が含まれるものでは、水分子に特有の波長領域帯にて複雑な吸光現象が起こる。また、水分子と被検体中の注目成分との相互作用で水分子の要素ピークがシフトする。
【0055】
つまり、光を照射すると、特定分子が特定波長の光を吸収し、エネルギー準位が遷移する。また、前記エネルギー準位の遷移は分子間の相互作用や水分子と注目成分との相互作用や水素結合状態等により特定の波長領域でのスペクトルパターンが変化する。
【0056】
分子のエネルギーとは振動エネルギーであり、エネルギー準位が遷移するとは、基底振動状態から第一励起振動状態に遷移することである。また、この遷移を基本音という。さらに、第二・第三励起振動状態に遷移することを倍音遷移と称する。また、二つ以上の基準振動が励起される遷移を結合音という。
【0057】
近赤外光の波長領域においては、水素を含む官能基(例えばOH)に帰属されるバンドが多く、その倍音や結合音も現れる。つまり、試料検体に近赤外光を照射することで、特定の波長領域に基本音や倍音や結合音に対応した変化が生じることになる。
【0058】
上記したように、近赤外光を用いた分光分析方法においては、得られるスペクトルデータには多数の倍音や結合音のデータが重なって現れることになる。また、これらの倍音や結合音の強度は弱く、さらに、基本音→第一倍音→第二倍音、と進むに連れて強度が段階的に弱くなる。
【0059】
そのために、従来の近赤外光を用いた分光分析方法においては、多くの情報量を有するけれども、弱いバンドが複雑に重なり合ったスペクトル解析を行う必要があり、正確な測定を行うことは困難であった。
【0060】
しかし、試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更である、段階的値の濃度変更、光の繰り返し照射、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度、pH、圧力等の所定の条件を積極的に付加しながら摂動を与えることで、特定の波長領域に、後に算出可能なスペクトルパターンの変化(データ上からは視認不可能であるが)を生じさせることができた。つまり、所定の条件を積極的に付加しながら分光分析を行うことで、被検体成分特有のスペクトルパターンを動的に変化させて明確に発現し、得られるスペクトルデータを多変量解析することで、各試料の成分に応じた応答の変化を検出することができ、特定成分を判別あるいは測定可能となった。
【0061】
上記したように、得られたスペクトルの検出吸光度(光の吸収される度合い)を波長ごとにプロットすることにより近赤外吸収スペクトルが得られる。また、この近赤外吸収スペクトルを用いて定量分析 を行うには、目的特性の値(濃度或いは特性値)とスペクトルデータとを関係づける関係式(検量線)が必要となる。通常検量線は、目的特性値が既知な試料のスペクトルを計測し、そのスペクトルデータを、オートスケール、スムージング処理、一次微分処理等の前処理を行った後で、部分二乗回帰分析(PLS)により演算して得ることができる。さらに、クロスバリデーションにより検証を行いながら高精度なモデルを構築することができる。また、主成分分析(PCA)により成分の判別を行うと共に、得られた各モデル間の距離をSIMCA法にて検定することができる。
【0062】
上記の前処理や多変量解析等のデータ解析には、Pirouette3.02(GLサイエンス社製)のデータ処理ソフトを使用した。
【0063】
近赤外分光分析ではエネルギーレベルが弱いので同一物質に繰り返し照射しても損傷を与えず、所定の条件を加えながら(摂動を付与して)分光分析を行うことができる。また、前記摂動を与えながらスペクトル測定を行うことで、応答スペクトルが動的に変化していることが判った。そのために、動的に変化する応答スペクトルをスペクトル解析あるいは多変量解析することで、微小な応答スペクトルの変遷を検知することができ、今まで検知不能であった成分の判別や成分の特性が検知できるようになった。
【0064】
本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法の流れの概略を図1に示す。既知の試料1に所定の条件を付加することで摂動を与えながら、スペクトル測定を行う。得られたスペク
トルをデータ変換・データ解析を行い、吸収バンドの強度の違いを検証しながら所定の試料の帰属バンドを求めてモデルを構築するものである。また、新たな試料2に同様な摂動を与えながらスペクトル測定を行い、前記モデルと比較することで、モデルの実証性を評価する流れである。
【0065】
また、図2には、本発明方法の特徴部分を示している。図に示すように、本発明方法では、試料検体に濃度変更等の所定の条件を付与して摂動を与えながら複数回のスペクトル測定を行うことを特徴としている。また、少なくとも3回の照射データから応答スペクトルのパターンを求めて、照射の度に生じる、水分子と注目成分との相互作用による特定の波長領域の変化を捉えて前記応答スペクトルのパターンの変遷を捉えることができる。そのために、今まで検知不能であった成分の判別が可能となる定性モデルの作成や、成分の特性が検知可能となる定量モデルの作成を行うことができ、これらのモデルにより試料検体の成分の情報を得ることができる。
【0066】
図3は本発明装置の特徴部分を示す概略説明図であって、近赤外発生手段11からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体S1に照射する光学手段12Aと、前記試料検体S1からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段12Bを備えるプローブ12を有する可視光・近赤外分光分析装置10が示されている。また、前記装置10には前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段15と、温度やpH等の環境条件を調整する試料検体環境調整手段14と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段13と、前記摂動付与手段15による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段16が配設されている。
【0067】
前記データ処理手段13は、得られる応答スペクトルを多変量解析して、PLS法及び/又はクロスバリデーション法を用いて成分の特性を数値化する定量的解析、もしくは、PCA法及び/又はSIMCA法を用いてクラス判別を行う定性的解析を行い、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とすべく構築されたモデルを使用する構成とされている。そのために、可視光・近赤外分光分析装置10により、試料検体S1の成分の判別が可能で、成分の特性の測定が可能となる。
【0068】
分光分析を行う際には、前述した分光分析器を用いて波長領域400nm〜2500nmを波長分解能2nmで走査する構成としているので、1走査で1051個のデータを取り込むことができる。また、連続的に3回走査すると3153個のデータが得られると共に、それらをデータ処理すると、水分子の所定の要素ピークに各成分との相互作用によるシフトが各種の波長域に現れていることが判る。
【0069】
図4に水分子の吸収バンドの強度変化を示すが、これは15分毎に6時間400nm〜2500nmの連続波長光を水のみの試料検体に照射した際に、強度変化を生じるつまりシフトが生じる波長領域を示している。つまり、黒く塗りつぶした部分のバンドにて応答(response)が生じていることが判る。
【0070】
また、前述した倍音や結合音に対応したシフトが生じ易い水分子に特有の波長領域帯として図5に600〜850nmの水の吸収バンドの強度変化(変化が同時に生じるSynchronousなもの)を等高線状に示している。さらに、図6にはその時に特徴的なスペクトルピーク(正の相関で生じるピークと負の相関で生じるピーク)を示している。つまり、606nmの波長でのピークに対しては、640nm、738nmの波長領域で同時に正の相関でピークが生じ、808nmの波長領域で負の相関でピークが生じていることを示している。
【0071】
また、同時に変化が生じるのではなく、特定の波長のスペクトル変化に対して追随して
生じるAsynchronousな変化も生じていることが判っている。このように水の情報を多く含む特定の波長領域において、それぞれのスペクトルが関連しあって複雑に変化している様子が理解できる。
【0072】
そのために、特定の試料検体を分光分析する際に生じる水分子の所定の要素ピークの応答(response)は、前記試料検体の成分に応じて特定の波長領域において変化が生じていることになる。また、この変化の程度は、得られるスペクトルデータからは判別されず、多変量解析によるデータ処理を行って初めて確認される。
【0073】
さらに、試料の成分濃度を段階的値に変化させて走査しても、光路長を変化して走査しても、温度やpH等の外的条件を付加して走査しても、一回目と二回目、あるいは二回目と三回目とでその応答が僅かに変化しており、各試料成分に応じた水分子の所定の要素ピークに応答(response)の変化が生じていることが判る。
【0074】
そのために前記摂動は、時間間隔をおいて複数回照射してスペクトル測定を行うことで、応答スペクトルに動的な変化を生じさせる条件の変更であって、本発明者は、この摂動を、WAPOT(Water Activating Perturbation Over the Time)と称している。
【0075】
つまり、試料検体に濃度変更、光の繰り返し照射、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更等の物理的または化学的な変化を与える所定の条件を付加して、水を活性化する摂動(WAP)を与えながら走査することで、各試料の成分に応じた応答(水分子の所定の要素ピークを含むスペクトルパターンの変動)を検知可能であることが明らかとなった。
【0076】
以下に各試料の測定結果について説明する。
【実施例1】
【0077】
実施例1は、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別とそれぞれの濃度を測定した例であって、緩衝液BPW(Buffer peptone water)中にそれぞれのバクテリアを混入した試料検体を作成し、石英セル1mmに前記試料検体を注入して、それぞれの基準濃度CFU(コロニーフォーミングユニット)を10-1倍から10-10倍まで10倍毎に予め濃度変更して準備したサンプルに、400nm〜2500nmの波長領域の光を3回連続して繰り返し照射し分光分析を行い、2nm間隔の測定を行った例である。
【0078】
また、それぞれのバクテリアを判別する際には、試料検体として、前記緩衝液に替えて、牛乳中にそれぞれのバクテリアを混入した試料検体を採用してもよい。また、シャーレに培養したバクテリアをそのまま測定することも可能である。
【0079】
この時に使用した分光分析器はニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500であり、測定温度は37℃の一定温度とした。
【0080】
図7には測定された吸収スペクトルを示しているが、網掛け部はノイズとしてデータから除去した部分を示している。この得られたデータを、Pirouette3.02(GLサイエンス社製)のデータ処理ソフトを用いて、オートスケール、スムージング処理、一次微分処理の各種の前処理、及び変換を行った後で、PLSとクロスバリデーション解析によりそれぞれのバクテリアの濃度を測定するモデルを作成し検証を行う。また、主成分分析(PCA)とSIMCA解析によりそれぞれの試料検体中のバクテリアの判別を行う。
【0081】
ここで、図8にはPLS解析の結果得られたCNSの濃度の回帰ベクトルを示し、図9
にはCPSの濃度の回帰ベクトルを示している。この時に、得られる応答スペクトルが変遷する重要な波長(Important wavelengths)はそれぞれ、CNSの場合は、1406−1500nm、1180nm、1306nmであり、CPSの場合は、740nm、770nm、808nm,1156−1198nm、1466nm,1476nm、1650nm、1686nm、1704nm、1720nm、1750nm、1846nm、1890nmであった。さらに、図10にCNSの濃度の検量線を示し、図11にはCPSの濃度の検量線を示している。
【0082】
上記検量線を示す図は、測定値(既知の試料検体を薄めた従来方法による測定値)をX軸(横軸)とし、多変量解析して構築されるモデルから得られる予想値をY軸(縦軸)とした図である。
【0083】
ここで、図10に示すCN^6−2とは、CNSの濃度を10-1倍から10-10倍まで10段階に希釈した時の6段階目の試料検体の2回目の走査データであることを示している。同様に図11に示すCP^6−3とは、CPSの濃度が10段階に希釈した時の6段階目の試料検体の3回目の走査データであることを示している。
【0084】
図10の横軸の数値はCNS濃度の自然対数目盛りであって、例えば1.12×108CFU/ml濃度のCNS原液を基準試料として用いて、この濃度を10倍ずつ10段階に希釈したサンプルで測定した結果を示している。すなわち、In(1.12×108)=18.53が基準濃度(図中のCNgen-2etc.)であり、これを初めに10倍希釈したものは、CP^10=In(1.12×107)=16.23となる。さらにもう10倍希釈したものは、CP^9=In(1.12×106)=13.93となる。
【0085】
図11には、1.05×108CFU/ml濃度のCPSを基準試料として用いて、この濃度を10倍ずつ10段階に希釈したサンプルを測定した結果を示している。図10および図11から判るように、CNSとCPSとをその濃度が10-1倍から10-10倍までの範囲で測定可能な検量線を得ることが可能であり、特に人体に有害なバクテリアであるCPSを、その濃度が1.05×108CFU/mlの10-10倍まで希釈した超低濃度の試料でも確実に測定できることができる。
【0086】
さらに、図12にはクロスバリデーションの解析結果を示しており、バリデーション誤差SEVとバリデーションの相関rVal等の結果を表示している。この結果から、例えばCPSの検量線においては、Factor6の累積寄与率(cumulative)は97.56091%であり、その時のバリデーション誤差SEVが3.096218であることを示している。また、その時の相関係数rVal=0.944926となり、精度の高い検量線が得られた。
【0087】
また、CNSとCPSとを混入した混合液の濃度を段階的値にまで希釈したサンプルを用いて前記CNSとCPSとの判別を行った。各サンプルに対して3回測定したスペクトルのうち、2,3回目の測定データを用いて使用波長領域からノイズをカットしたサンプル群において主成分分析(PCA)を行い、前記PCAにより得られた第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)に基づく3次元プロットを図13に示している。この図から判るように、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、境界L1を境にCNSとCPSのクラスターを明確に分離することができる。つまり、従来困難であったCNSとCPSとの判別が、本実施例に係る可視光・近赤外分光分析方法により容易に判別することができる。
【0088】
図14(a)には各前処理や変換処理を変更した際のSIMCA解析の結果を示している。それぞれの測定条件A1〜A6に示している、水、BPW、希釈サンプル、ノイズ除
外、3回とは、それぞれ、水分子のスペクトルを除去、緩衝液BPWを使用、予め濃度を所定の段階的値にまで希釈して準備したサンプルを使用、ノイズ除去処理、3回連続照射であることを示している。
【0089】
また、Autoscaleとはオートスケール処理のことであり、smooth(15)とは15nm毎にスムージング処理したことであり、1st Derivative(25)とは25nm毎に一次微分処理したことをそれぞれ示している。
【0090】
つまり、測定条件A6に示す、水分子のスペクトルを除去、緩衝液BPWを使用、予め段階的値に希釈して準備したサンプルを使用、ノイズ除去処理、3回連続照射の測定条件において、オートスケ−ル、スムージング処理(15nm毎に)、一次微分(25nm毎に)のデータ処理を行いSIMCA解析した場合にCNSとCPSとのクラス間距離が4.254であることがわかる。
【0091】
また、A4とA8とを比較すると、この相違点は予め希釈しているかどうかであり、A4でのクラス間距離1.156であったものが、予め希釈して準備された希釈サンプルを用いることで、クラス間距離4.132となっており、識別力が向上している。濃度の希釈にはこのように、予め所定濃度の原液に所定量の水や緩衝液を付加して所定の段階的値の濃度サンプルを準備しておく希釈法(以後、置注ぎ希釈と称する)と、所定濃度の原液をサンプルとして測定し、測定終了後に新たな水や緩衝液を追加して濃度を薄くしていく希釈法(以後、注足し希釈と称する)とがあるが、本実施例においては、予め極端に薄い濃度まで希釈した置注ぎ希釈サンプルを用いることで、バクテリアの判別が可能となることが判った。さらに、A8とA6とを比較すると、この相違点は1回照射か3回照射かであり、3回照射であるA6でのクラス間距離が上記したように4.254と識別力が向上していることが判る。
【0092】
一般に前記クラス間距離が3以上であればクラス判別が有意とされており、上記で得られたクラス間距離が4.254なので、CNSとCPSを十分に判別可能なSIMCAモデルが得られたことが判る。
【0093】
また、図14(b)にはSIMCAを使った判別結果を示しており、例えばCNSでは34回全て判別成功であり、CNSでないと誤判別した例は0回であった。またCPSでは36回全て判別成功であり、CPSでないと誤判別した例は0回であり、判別誤差が生じていないことを示している。
【0094】
上記したように、摂動(WAP)として、試料濃度の10-1倍から10-10倍までの広範囲な段階的希釈(置注ぎ希釈)と、3回繰り返し照射という条件の変化を与えながらの分光分析により、試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別と濃度測定を行う高精度なモデルを構築することが可能となった。
【0095】
そのために、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法により、判別が困難で人体に有害なバクテリアを確実に判別することができ、従来の培養法によれば48時間程度のバクテリア培養時間が必要であったものが、本発明によれば、培養する必要もなくリアルタイムに測定することができるという効果が得られる。
【実施例2】
【0096】
実施例2は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)とPrP(Mn)の判別を行なった例であって、400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行うと共に、光を15分毎に6時間繰り返し照射し
て分光分析を行い、PCA法とSIMCA法により多変量解析を行ったものである。
【0097】
また、プリオン蛋白質PrPのみの試料と分子構造内に銅を含有する試料PrP(Cu)と分子構造内にマンガンを含有する試料PrP(Mn)とをそれぞれ準備し、さらに、それぞれの濃度を、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlと予め変更して準備した複数の希釈サンプル(置注ぎ希釈)のプリオン水溶液をそれぞれ分光分析した。
【0098】
得られたスペクトルをPCA法(主成分分析)により多変量解析を行い、その時に得られた第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)による判別結果およびローディングを図15に示す。
【0099】
図15(a)は第1主成分(Factor1)と第3主成分(Factor3)によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別結果であり、図15(b)は第3主成分(Factor3)と第5主成分(Factor5)によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別結果を示している。また、図15(c)はそれぞれの主成分のローディングを示している。
【0100】
図15(a)からPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)とが明確に判別されていることが明らかである。ただ、図中に示すPrP1が破線で囲むPrPグループから離れており、Cu1がPrP(Cu)グループから離れており、Mn1がPrP(Mn)グループから離れていることが判る。前記PrP1、Cu1、Mn1とはそれぞれ一回目の照射時のデータであって、一回だけでは正確な判別を行うことができず、摂動(WAP)を与えながら繰り返し測定することで、グループ判別が可能となるモデルが得られることを示している。
【0101】
図15(a)(b)から明らかなように、摂動(WAP)として、試料濃度の段階的な希釈と、光を15分毎に繰り返し照射という条件変化を与えながら分光分析を行うと、プリオン蛋白質PrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)との判別が可能となるモデルを得ることができる。
【0102】
図15(c)から判るように、第1主成分(Factor1)を構成するファクターとしては
第1主成分(Factor1)のローディングを示すラインPC1により1466nmの波長光の寄与が大きく、第3主成分(Factor3)のローディングを示すラインPC3により1340nm、1424nmの波長光の寄与が大きく、第5主成分(Factor5)のローディングを示すラインPC5により1364nm,1394nm、1476nmの波長光の寄与が大きいことが判る。
【0103】
また、SIMCA解析を行い、各クラス間の距離を算出した結果を図16に示す。この図から、PrP(Cu)とPrP(Mn)と距離が28.81であり、PrP(Cu)とPrPとの距離が4.15であることが判る。前に説明したようにこの距離が3以上であれば、クラス判別が有意であるので、本方法によりプリオン蛋白質を明確に判別することが可能となる。
【0104】
つまり、光を時間間隔を空けて(15分毎に)繰り返し照射する摂動(WAP)を与えながら分光分析を行うことで、PrP(Cu)とPrP(Mn)などの金属分子を含有した蛋白を検出可能となり、プリオン蛋白質PrPと、狂牛病に関係あると見られているプリオン蛋白質PrP(Cu)とを確実に判定可能なモデルを得ることができる。
【0105】
また、別のサンプルを用いて15分毎に6時間繰り返し26回照射した時の各測定時においてSIMCA処理を行い、得られるクラス間距離の変化を計測して得られた結果を図
17に示す。この図から判るように、ある回数までの照射回数の増加に応じてクラス間距離が大きくなっている。つまり、判別力が大きくなっていることが判る。
【0106】
例えばPrP(Cu)とPrP(Mn)とのクラス間距離は、3回照射では5.6であったものが、20回照射で25.8まで増加している。しかし、PrP(Cu)とPrPとのクラス間距離は11回照射で最大となっており違ったパターンとなっている。つまり、特定の成分を判別する最適な照射回数(摂動付与の条件)があることが判る。
【0107】
上記のように、似た構造のプリオン蛋白質であっても、成分の違いにより、摂動を付与された際の応答に変化が生じていることが判る。つまり、生体高分子の構造又は機能の違いやその変化により、摂動を付与した際の応答に変化が生じている。そのために、前記応答の変化を捉えることで生体高分子の構造や機能を検知することが可能となる。
【0108】
さらに、図18に、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと、金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)と、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)との判別を行った時の各サンプル濃度によるクラス間距離の測定結果を示す。それそれ、サンプル濃度を1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlとなるようにそれぞれ所定量の原液と緩衝液を調合して複数のサンプル(置注ぎ希釈サンプル)を用意して、それぞれのクラス間距離を計測した。
【0109】
例えば、PrP(Cu)とPrPとのクラス間距離は、検体濃度が1mg/mlの時には0.861595であり、濃度が0.5mg/mlでは2.434433であり、濃度が0.1mg/mlでは2.674994であり、濃度が0.05mg/mlでは7.862999となっている。前述したように、このクラス間距離が3以上であれば、クラス判別が有意とされているので、検体濃度を薄くすると計測されるクラス間距離が大きくなり判定可能となる。
【0110】
上記の実験結果により、本分光分析方法によれば、置注ぎ希釈により検体濃度を広範囲に薄くしていくと、成分の判別力が向上していることが明らかである。
【実施例3】
【0111】
実施例3は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(metal)としての銅を含有する試料検体PrP(Cu)の判別を、光路長を変更(1mmと4mm)して行った例であって、400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行うと共に、光を6時間毎に48時間繰り返して分光分析を行い、PCA法とSIMCA法により多変量解析を行ったものである。また、この時に、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)の測定を行い、測定結果にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0112】
図19には、得られた第3主成分(Factor3)と第9主成分(Factor9)のローディングを示し、図20(a)にはSIMCAによる解析結果を示し、図20(b)にはSIMCAによるクラス間距離を示し、図20(c)には判別結果を示している。
【0113】
図20(a)により、光路長を変更して測定した時に、PrPおよびPrP(Cu)はそのクラス分けが明確に判別できることが判った。また、PrP(Cu)とPrPinW(Cu)とを混同することなく分別できることも判る。また、図20(b)より、PrP(Cu)とPrPinW(Cu)とのクラス間距離は24.84であり、明確に判別されることが判る。PrPとPrP(Cu)とのクラス間距離は1.19と小さいが、図20(c)に示す判別の結果、誤判別が0であり、問題ないことが判る。
【0114】
上記のように、プリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)の判別は、光路長を変更して分光分析することで可能であることが判る。しかし、図20(a)からは、PrPinW(Cu)の測定は、光路長を変更しても差が見られない。つまり、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加しただけの試料検体では、光路長を変更して分光分析を行っても、応答スペクトルにパターンの変化が生じず、水分子と注目成分との間に相互作用が生じていないことが判る。このことは逆に、本実施例に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、金属成分をその分子構造内に含むプリオン蛋白質PrP(metal)の判別が可能となり有効といえる。
【0115】
このように、光路長を変更(1mmと4mm)するという摂動を与えることでも、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(metal)との判別を行うことができる。
【実施例4】
【0116】
実施例4は、金属成分を含まないプリオン蛋白質PrPと、金属成分を含むプリオン蛋白質PrP(Cu)と、PrP水溶液中に金属成分Cuを添加したPrPinW(Cu)との判別を、温度を変更(21℃、30℃、35℃、37℃)すると共に、それぞれの濃度を、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/ml、0.05mg/mlと予め変更して準備した複数の希釈サンプル(置注ぎ希釈)のプリオン水溶液をそれぞれ分光分析した例である。
【0117】
それぞれの試料検体の前記4段階の濃度サンプルを、それぞれ温度を4段階に変更して分光分析を行い、スペクトルデータを得た。つまり、それぞれの所定濃度サンプルについてそれぞれ4個のスペクトルデータが得られる。つまり、温度を摂動として応答に変化を与えた際に得られる4個のスペクトルデータを主成分分析して、それぞれの濃度段階における試料検体のSIMCA距離を求めた。
【0118】
図21に、得られたSIMCA距離を立体的にグラフ表示している。この図から明らかなように、全ての試料検体において、検体濃度が0.05mg/mlと最も低い時に、SIMCA距離が最大となっている。また、いずれもそのSIMCA距離は5以上であり、明確にクラス判別が行なわれていることが判る。
【0119】
また、それぞれの検体成分によりそのSIMCA距離のパターンが変化していることも明らかである。つまり、温度変更という摂動を与えた時の応答に、それぞれの検体成分に応じて変化が生じており、前記検体成分の構造及び機能の違いにより差が生じていることを示している。このように、試料検体の温度を変更することも、被検体成分特有の応答スペクトルのパターンを動的に変化させる摂動となる。
【実施例5】
【0120】
実施例5は、試料検体中の抗原濃度を測定した例であって、抗体としてAnti-bisphenol
A scFvを用い、抗原としてBisphenolAを用いて、緩衝液(PBSバッファー)中にそれぞれの濃度を段階的に希釈した希釈サンプルを試料検体として、光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長領域の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0121】
前記抗体のサンプル濃度は10ng/ml、100ng/ml、1μg/ml、10μg/mlの4段階であった。また、前記抗原の濃度は、1pg/ml〜100ng/mlまでの6段階のサンプルを使用した。また、それぞれを混ぜ合わせた混合サンプルとして16種を各2個の計32サンプルと、それぞれの単独サンプル(10種22サンプル)及び水のみ(1サンプル)、緩衝液のみ(3サンプル)の合計58サンプルの分光分析を行
った。
【0122】
得られたスペクトルデータをノイズ処理、スムージング処理、オートスケール処理を行い、PLSとクロスバリデーション解析を行った。
【0123】
解析結果を図22に示す。図22(a)は検量線であり、横軸Measured Yが従来法による測定値を示し、縦軸Pred Calが本発明による可視光・近赤外分光分析方法により得られた予測値を示している。この結果から、抗原の濃度が1ppt(1兆分の1)の濃度まで測定可能であることが判った。
【0124】
またクロスバリデーション解析により得られるバリデーション誤差SEVを図22(b)に示しているが、1回の照射によるFactor5の累積寄与率(cumulative)は99.94188%であり、その時のバリデーション誤差SEVが3.558607であることを示している。しかし、3回繰り返し照射によるFactor9の累進寄与率が99.94567%の場合に、バリデーション誤差SEVが1.008785であることを示している。
【0125】
つまり、複数回(3回)連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により、バリデーション誤差SEVが三分の一となって、従来の3倍の精度で試料検体中の抗原濃度を測定可能となることが判った。
【0126】
また、図22(c)にはSIMCA処理して得られるクラス間距離を示している。これから判るように、1回照射では8.65であったものが、2回までの照射(1&2)で9.79となり、3回までの繰り返し照射(1&2&3)では10.11まで向上していることが判る。つまり、複数回繰り返し照射することで、抗原の成分判別を精度よく行うことができる。
【実施例6】
【0127】
実施例6は、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定する例として、溶解前のコーヒー粒子径を測定した実施例であって、ミキサーによってインスタントコーヒーを粉砕する際に、0秒、20秒、60秒、90秒とその粉砕時間を延長して、コーヒーの粒子径を段階的に粉砕して細かくしていったサンプルを用いると共に、それぞれの濃度を4%、3%、2%、1%と段階的に変更したサンプルを光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長範囲の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0128】
得られたスペクトルデータをノイズ処理、スムージング処理(17ポイント、34nm毎)、オートスケール処理を行い、前述したPLS法とクロスバリデーション解析を行い、回帰モデルを構築した。
【0129】
解析結果を図23に示す。図23(a)は横軸Measured Yが従来法による測定値を示し、縦軸Pred Calが本発明による可視光・近赤外分光分析方法により得られた予測値を示している。前記測定値Yは実際にコーヒー粒子の径を測定したものではなく、粉砕時間の対数表示としている。これは粉砕時間が長いと粒子径が小さくなると見なしたものである。この結果から、本発明によれば、溶解前のコーヒー粒子径を推測できるモデルが得られることが判った。
【0130】
またクロスバリデーション解析により得られるバリデーション誤差SEVを図23(b)に示しているが、1回の照射によるFactor5の累積寄与率(cumulative)は98.31849%であり、その時のバリデーション誤差SEVが0.937039であることを示している。しかし、3回繰り返し照射によるFactor6の累進寄与率が99.8904%の
場合に、バリデーション誤差SEVが0.466675であることを示している。
【0131】
つまり、3回連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により1回のみの照射による分光分析と比較して2倍の精度で溶解前のコーヒー粒子径を測定可能となることが判った。
【0132】
また、検体濃度を変更した時に、前述したクラス判別を行う定性的解析であるSIMCA解析により、溶解前の粒子径の違い、つまり、粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとの判別距離(SIMCA DISTANCE)がどのように変化するかを測定してみた。
【0133】
図24(a)には、コーヒーの粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時のそれぞれの検体濃度毎に算出したSIMCA距離を示している。また、図24(b)には、砂糖(Sugar)の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時のそれぞれの検体濃度毎に算出したSIMCA距離を示している。図24(c)には砂糖の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のもののPLS解析とクロスバリデーション解析を行った時の回帰モデルの相関係数(Rv)とバリデーション誤差(SEV)を示している。
【0134】
図24(a)によれば、1〜4%のいずれの濃度においても、5以上のSIMCA距離となっており、本実施例に係る測定方法により、コーヒーの粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを十分判別可能であることを示している。また特に濃度1%と薄くした時には、SIMCA距離が15.96と最大値となっており、判別力が最大であることを示している。
【0135】
図24(b)によれば、砂糖(Sugar)の粒状(Granule)のものと粉状(Powder)のものとを判別した時に、検体濃度が4%の時は、そのSIMCA距離が1.59であり、値が小さく判別は困難であるが、濃度をその半分の2%以下とすると十分判別可能な程度の数値となっている。このように、測定する検体成分によって最適な検体濃度が異なっていることが判る。これは、すなわち、それぞれの検体成分により濃度変更という摂動を与えた時の応答に変化が生じており、前記検体成分の構造及び機能の違いにより差が生じていることを示している。
【0136】
また、図24(c)によれば、砂糖測定時の回帰モデルの相関係数が、粒状(Granule)のものでは0.995であり、粉状(Powder)のものでは0.9998となっており、非常に高い相関でその粒度を測定可能となる。
【0137】
上記のように、本実施例による可視光・近赤外分光分析方法により、コーヒーの粒子の大きさや砂糖粒子の大きさを高精度に判別することができる。
【実施例7】
【0138】
実施例7は、試料検体中の異なるバクテリアを判別した例であって、牛乳中のバクテリアStaphylococcus(msta)と、Streptococcus(mstr)をそれぞれ緩衝液(PBSバッファー)により段階的に希釈して、10-1〜1016(colony/ml)濃度とした76サンプルを光路長1mmの石英セルに注入し、400nm〜2500nmの波長領域の光をそれぞれ3回繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0139】
得られたスペクトルデータから、前述したのと同様な解析方法である主成分分析(PCA)とSIMCA解析を行った。
【0140】
解析結果を図25に示す。図25は第1主成分(Factor1)と第2主成分(Factor2)と
第3主成分(Factor3)でのmstaとmstrとの判別結果を表しており、バクテリアmsta群とバクテリアmstr群とが確実に判別されることを示している。
【0141】
上記したように、複数回(3回)連続繰り返し照射による摂動(WAP)を与えながらの分光分析により、牛乳中のバクテリアmsta群とバクテリアmstr群とが確実に判別可能となることが判った。つまり、従来の培養法によれば、48時間程度のバクテリア培養時間が必要であったものが、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法によれば、培養する必要もなく、異なるバクテリアをリアルタイムに判別することができるという効果が得られる。
【実施例8】
【0142】
実施例8は、牛等の哺乳動物の血漿や胃液や生乳の成分濃度を測定した例であって、牛の生体液を用いて、光路長1mmの石英セルに注入した試料検体に400nm〜2500nmの波長領域の光により分光分析を行ったものである。測定は一日に2回(朝、夕各1回)の分光分析を三日連続して行った。さらに、その後3週間違う餌を与えた後で、同様に一日に2回(朝、夕各1回)の分光分析を三日連続して行い、その効果を確認したものである。
【0143】
上記の測定回数を朝夕各1回で三日連続としたが、一日に2回以上測定してもよく、また継続日数も三日以上としてもよいと思われる。このように測定間隔と測定回数を変化させて得られたスペクトルデータの前処理を行い、PLS法とクロスバリデーション解析を行った。
【0144】
解析結果を図26と図27に示す。図27(a)(b)は牛の血漿(Blood Plasma)のスペクトルを計測することで、その牛の牛乳の成分濃度(Fat脂肪、Crude Protein粗蛋白質 、Caseinカゼイン 、True protein蛋白質 、MUN乳中尿素態窒素 、Lactose乳糖)を予測した結果であって、図27(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルを計測することで、その牛の血漿の成分濃度(Albuminアルブミン、Glucoseグルコース、BUN血中尿素態窒素)を予測した結果である。
【0145】
また、図27(a)(b)は牛の胃液のスペクトルを計測することで、その牛の牛乳の成分濃度(Fat脂肪、Crude Protein粗蛋白質 、Caseinカゼイン 、True protein蛋白質 、MUN乳中尿素態窒素 、Lactose乳糖)を予測した結果であって、図27(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルを計測することで、その牛の胃液の成分濃度(PHペーハー、NH3-Nアンモニア態窒素、C2脂肪酸、C3脂肪酸、C4脂肪酸)を予測した結果を示している。
【0146】
図27(b)から判るように、本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法により、牛の血漿のスペクトルを計測して高い相関にて生乳の成分濃度が予測可能となった。特にカゼインではその相関係数R=0.938であり、この時の統計的有意p<0.001であって、1000回に1回以下の予測誤差となる。また、図27(b)に示す牛の胃液のスペクトルを計測することで、生乳中に含有されるカゼイン濃度をR=0.902、p<0.001にて予測できることが判る。
【0147】
このように、測定間隔と測定回数を変化させるという摂動(WAP)を与えながら分光分析を行うことで、牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液から、前記牛等の哺乳動物の生乳に含有される成分濃度を予測し測定することができる。また、前記生乳から、前記牛等の哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を測定することが可能となるので、乳牛等の生態情報を容易に得ることができる。
【実施例9】
【0148】
実施例9は、牛乳の複数の成分濃度を測定した例であって、光路長を変更して複数回の測定を行うという摂動を与えながら、石英セルに注入した試料検体に対して700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域の分光分析を行ったものである。
【0149】
近赤外光であっても短波長域、具体的には700nm〜1100nmの領域の近赤外光であれば、長波長域よりも10〜100倍ほど透過力が大きく、短波長域の近赤外光を用いれば光路長を1〜2cm程度にすることができる。さらに、特殊な石英セルに替えて試験管等の安価な容器を使用することもできる。
【0150】
そのために、光路長がそれぞれ1mm、4mm、10mmの石英セル/又は試験管に注入した試料検体を用いて、700nm〜1100nmの短波長領域の分光分析を行うことができる。
【0151】
また、図28(a)に示す幅1mmの矩形試料検体注入部3Aを備える石英セル3に試料検体を注入した後で、図28(b)に示す方向4,5に所定の光を照射することで、任意の光路長に設定することができる。この方法により同一試料検体の光路長を1mm、4mm、10mmと変化させて測定したところ、光路長が長くなる程ノイズが減り、高精度となることが判った。
【0152】
得られたスペクトルをPLS法とクロスバリデーションにより解析し得られたSECV(クロスバリデーション誤差)を図29(a)(b)(c)に示す。
【0153】
図29(a)にはFAT(牛乳中の脂肪濃度)を測定した時のSECVであり、図29(b)にはPROTEIN(牛乳中の蛋白質濃度)を測定した際のSECVであり、図29(c)にはLACTOSE(牛乳中の乳糖濃度)を測定した際のSECVを示している。
【0154】
図29(a)に示す脂肪分の測定結果から、光路長1mmでは波長領域700〜1100nmのSECVが0.45であるが、光路長4mmおよび10mmで波長領域700〜1100nmでのSECVは0.2となるので、光路長を長くすることで短波長領域700〜1100nmにおいても十分精度よく測定可能であることが確認される。
【0155】
また図29(c)に示す乳糖の測定結果からは、短波長領域700〜1100nmと長波長領域1100〜2400nmでのSECVが共に0.09であり、高精度の測定が短波長領域700〜1100nmで測定可能であることを示している。
【0156】
上記したように短波長領域にて長い光路長にて、試料検体を測定可能となるので、ノイズの少ない、誤差の小さい判定を行うことができると共に、特殊な石英セルではなく、通常の試験管等により測定することもできる。
【0157】
また、光路長を変化させて多数のデータを測定することでさらに精度のよいモデルが得られることは明らかである。
【実施例10】
【0158】
実施例10は牛乳中の脂肪濃度を測定した例であって、試料検体を光路長1mmの石英セルに注入し、摂動(WAP)として10Vの電圧を付加しながら、500〜1000nmの波長領域の光を3回繰り返し照射して分光分析を行ったものである。
【0159】
電圧付加手段として牛乳の電気伝導度を測定するための装置であるMilk Checker(オリ
エンタルインスツルメント社製)を使用し、10Vの電圧を付加しながら、クボタ社製の分光分析器を用いて500nm〜1000nmの波長領域の光を3回連続繰り返し照射して分光分析を行った。また、分光分析器としてその他の分光分析器(例えば、ニレコ社製近赤外分光器NIRSystem6500)を用いてもよく、特に限定するものではない。
【0160】
その時に得られたスペクトルをPLS法とクロスバリデーションにより解析した例を図30に示す。図30(a)は解析された回帰ベクトルを示しており、図30(b)には解析結果を示している。
【0161】
図30(b)から、電圧を付加しない場合(Without EMF)にはFactor10のバリデーション相関(rVal)が0.98であり、その時のバリデーション誤差(SEV)が0.204269であることを示している。
【0162】
また、電圧を付加した後(After Applying EMF)では、Factor9でそれぞれrVal=0.996256でSEV =0.087212である。さらに、電圧を付加しながら(In the presence of EMF)の測定では、Factor9でrVal=0.997483でSEV=0.071528となっている。
【0163】
つまり、摂動(WAP)として10Vの電圧を付加しながら分光分析すれば、バリデーション誤差が1/3となるので、測定の精度が3倍となるモデルが得られたことが判る。
【0164】
上記の実施例1から実施例10で説明したように、400nm〜2500nmの波長領域の光を利用して各試料中の成分の特性を測定する分光分析方法において、試料検体に所定の条件を付加することで、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えながら分光分析を行い、前記試料検体の各成分に応じて変化する所定の応答スペクトルのパターンを計測してスペクトル解析もしくは多変量解析を行うことにより、従来の方法では判別困難なものを判別可能とし、成分特性の高精度な測定を可能とし、さらに超低濃度成分の検出や成分の判別及び/又は成分の特性をリアルタイムに測定可能とする可視光・近赤外分光分析方法を得ることができる。
【0165】
さらには、測定する検体成分により、所定の検体成分を判別容易とする最適な摂動(WAP)があるので、所定の摂動を付与しながら分光分析を行うことで、所定の検体成分の測定を簡易に行なうことも可能である。
【0166】
上記のように、本発明でいう摂動とは、試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更以外にも、実施例8で示した、牛に与える飼料の変更もある。また、さらには、試料検体に振動や音波や圧力を付与することで前記試料検体に物理的または化学的な変化を与えるようにしてもよい。
【0167】
上記したように、ある特定の波長(Important wavelengths)の光が、試料検体の特定成分を判別あるいは測定するのに重要な光であるので、簡易型の可視光・近赤外分光分析装置としては、ある特定の波長(Important wavelengths)の光を照射して分光分析可能な装置であればよい。そのために、図31に示すような簡易構成の特定成分測定用の可視光・近赤外分光分析装置20とすることができる。
【0168】
前記可視光・近赤外分光分析装置20は、試料検体収容部21に収容された試料検体S2に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段22を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって
、試料検体S2に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段23と、前記試料検体S2からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段24と、得られたスペクトルについて所定のスペクトル解析もしくは多変量解析を行う処理ソフトを内蔵するデータ処理手段25を備える構成とされている。さらには、処理された結果を判別して判別結果を表示する表示手段26を備える構成とすることもできる。
【0169】
上記の構成の可視光・近赤外分光分析装置20であれば、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定するのに適した特定の波長(Important wavelengths)の光を照射して分光分析することができるので、それぞれの特定成分を短時間にまた容易に推定可能となる。また、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とすべく構築されたモデルを使用することで、特定成分の簡易判定や簡易測定が可能となる可視光・近赤外分光分析装置20を構成することができる
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明に係る可視光・近赤外分光分析方法の流れを示すブロック図である。
【図2】本発明方法の特徴部分を示す概略説明図である。
【図3】本発明装置の特徴部分を示す概略説明図である。
【図4】水分子の吸収バンドの強度変化を示す概略説明図である。
【図5】水分子の吸収バンドの強度変化を等高線状に示す。
【図6】Synchronousに変化する波長を示す一覧図である。
【図7】試料検体中のバクテリアを測定した際の吸収スペクトルを示す。
【図8】CNSの回帰ベクトルを示す。
【図9】CPSの回帰ベクトルを示す。
【図10】CNSの検量線を示す。
【図11】CPSの検量線を示す。
【図12】クロスバリデーション解析後の検量結果を示す。
【図13】第1主成分(Factor1)、第3主成分(Factor3)、第5主成分(Factor5)に基づくCNSとCPSの3次元プロットである。
【図14】(a)にはCNSとCPSのクラス間距離を求めたSIMCA解析の結果を示し、(b)にはSIMCAを使った判別結果を示している。
【図15】(a)は第1主成分(Factor1)と第3主成分(Factor3)とによるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)の判別結果を示しており、(b)は第3主成分(Factor3)と第5主成分(Factor5)とによる判別結果を示し、(c)はそれぞれの主成分のローディングを示している。
【図16】SIMCA解析によるPrPとPrP(Cu)とPrP(Mn)の各クラス間の距離を示す。
【図17】繰り返し照射によるSIMCA解析の結果を示している。
【図18】プリオン蛋白質の濃度を変更した時のクラス間距離の結果を示している。
【図19】光路長を変更してPrPとPrP(Cu)を判別した時の回帰ベクトルを示している。
【図20】光路長を変更してPrPとPrP(Cu)を判別した結果であり、(a)はSIMCA解析の結果を示し、(b)はクラス間距離を示し、(c)は判別結果を示している。
【図21】温度変更の摂動を与えてプリオン蛋白質の判別を行なった時のSIMCA距離を示すグラフである。
【図22】(a)は試料検体中の抗原濃度を測定した際の検量線を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示し、(c)にはSIMCA解析によるクラス間距離を示している。
【図23】(a)は溶解前のコーヒー粒子径を測定した際の検量線を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示す。
【図24】粒子の大きさを判別した例を示し、(a)にはコーヒー粒子を判別した時のSIMCA距離を示し、(b)には砂糖粒子を判別した時のSIMCA距離を示し、(c)には砂糖粒子を測定した時の相関係数とバリデーション誤差を示している。
【図25】試料検体中のバクテリアを測定した際の第1主成分(Factor1)と第2主成分(Factor2)と第3主成分(Factor3)とによるmstaとmstrの判別結果を表している。
【図26】(a)(b)は牛の血漿スペクトルから、その牛の牛乳の成分濃度を予測した結果を示し、(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルから、その牛の血漿の成分濃度を予測した結果を示している。
【図27】(a)(b)は牛の胃液のスペクトルから、その牛の牛乳の成分濃度を予測した結果を示し、(c)(d)は牛の牛乳のスペクトルから、その牛の胃液の成分濃度を予測した結果を示している。
【図28】石英セルを示しており、(a)は全体斜視図であり、(b)は平面図である。
【図29】牛乳の複数の成分濃度を測定した際のSECVを示し、(a)にはFAT(脂肪分)のSECVであり、(b)はPROTEIN(蛋白質)のSECVであり、(c)はLACTOSEのSECVを示している。
【図30】(a)は牛乳中の脂肪濃度を測定した際の回帰ベクトルY1を示し、(b)にはクロスバリデーションによる解析結果を示す。
【図31】特性成分測定用の可視光・近赤外分光分析装置の一例を示す。
【符号の説明】
【0171】
1 既知の試料
2 新たな試料
3 石英セル
3A 試料検体注入部
4 照射方向
5 照射方向
10 可視光・近赤外分光分析装置
20 可視光・近赤外分光分析装置(特定成分用の)
L1 境界
S1 試料検体
S2 (特定の)試料検体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、
前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与えながらスペクトル測定を行い、スペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴とする可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項2】
試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、
前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させ、全部又は一部の波長領域のスペクトル測定を行うことで、前記試料検体中の成分の特性に応じて変化する水分子の要素ピークを含む応答スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、応答スペクトルのパターンの変遷を捉え、捉えられた前記パターンの変遷から各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴とする可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項3】
前記摂動が、前記試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更のいずれか、または、それらの組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項4】
前記摂動が、試料検体の10倍ずつ(例えば10-1〜10-10まで)の濃度変更と、それぞれに少なくとも3回繰り返し照射の組み合わせであることを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項5】
前記試料検体がバクテリアであって、前記試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別を行うことを特徴とする請求項4に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項6】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(Cu)及び/又はPrP(Mn)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項7】
光路長及び/又は濃度を変更すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(metal)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項8】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに繰り返し照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の抗原の濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項9】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項10】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の異なるバクテリアを判別することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項11】
一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生乳から前記哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項12】
一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生体液から前記哺乳動物の生乳の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項13】
光路長を変化すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えると共に、700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域において、前記第1の波長領域のみの又は前記第1、第2の波長領域の分光分析を行うことで、生乳の複数の成分の濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項14】
10Vの電圧を付加すると共に、500〜1000nmの波長領域の光を少なくとも3回の連続照射を行なうという摂動を与えて分光分析を行うことで、生乳中の脂肪濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項15】
400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を発生させるための近赤外光発生手段と、前記近赤外光発生手段からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備える可視光・近赤外分光分析装置において、
前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を設けると共に、前記データ処理手段が、前記摂動を与えて得られる応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行うことを特徴とする可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項16】
前記摂動付与手段が、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させる手段であって、照射時間と照射回数を設定可能な照射制御装置を備えていることを特徴とする請求項15に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項17】
前記摂動付与手段が、付加電磁力調整、光路長変更、温度変更が可能な手段の少なくとも一つを備えていると共に、前記光学手段と前記検知手段とを同時にまたは別々に備えるプローブから光の照射と受光を行いデータ処理を行うよう、前記摂動付与手段による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項15または16に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項18】
前記データ処理手段が、応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行い、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化を捉えて解析する手段であることを特徴とする請求項17に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項19】
試料検体収容部と該収容部に収容された試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって、試料検体に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備えていることを特徴とする可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項20】
請求項5から14のいずれかに記載の可視光・近赤外分光分析方法を実施するための可視光・近赤外分光分析装置であって、
それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域を予め設定していることを特徴とする請求項19に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項1】
試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、
前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与えながらスペクトル測定を行い、スペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴とする可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項2】
試料検体に400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を照射して試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを解析して各成分の判別や各成分の特性を測定する分光分析方法において、
前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(water activating perturbations:WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させ、全部又は一部の波長領域のスペクトル測定を行うことで、前記試料検体中の成分の特性に応じて変化する水分子の要素ピークを含む応答スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、応答スペクトルのパターンの変遷を捉え、捉えられた前記パターンの変遷から各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築することを特徴とする可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項3】
前記摂動が、前記試料検体に物理的または化学的な変化を与える条件の変更であって、光の繰り返し照射、試料検体の濃度変更、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度変更、pH変更、圧力変更のいずれか、または、それらの組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項4】
前記摂動が、試料検体の10倍ずつ(例えば10-1〜10-10まで)の濃度変更と、それぞれに少なくとも3回繰り返し照射の組み合わせであることを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項5】
前記試料検体がバクテリアであって、前記試料検体中のバクテリアのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)とCPS(コアグラーゼ陽性ブドウ球菌)の判別を行うことを特徴とする請求項4に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項6】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(Cu)及び/又はPrP(Mn)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項7】
光路長及び/又は濃度を変更すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、金属成分を含む蛋白質PrP(metal)と金属成分を含まない蛋白質PrPとの判別を行うことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項8】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに繰り返し照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の抗原の濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項9】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中に溶解した粒子の溶解前の粒子径を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項10】
試料検体の濃度を段階的値に濃度変更し、それぞれに少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えて分光分析することで、試料検体中の異なるバクテリアを判別することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項11】
一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生乳から前記哺乳動物の血漿や胃液等の生体液の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項12】
一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行い、さらに与える飼料を変更した後で、再度一日に少なくとも朝夕各1回の分光分析を複数日連続して行うという繰り返し照射の摂動を与えて分光分析することで、牛等の哺乳動物の生体液から前記哺乳動物の生乳の成分濃度を予測可能としたことを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項13】
光路長を変化すると共にその都度に少なくとも3回の連続照射を行うという摂動を与えると共に、700nm〜1100nmの第一の波長領域と、1100nm〜2400nmの第二の波長領域において、前記第1の波長領域のみの又は前記第1、第2の波長領域の分光分析を行うことで、生乳の複数の成分の濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項14】
10Vの電圧を付加すると共に、500〜1000nmの波長領域の光を少なくとも3回の連続照射を行なうという摂動を与えて分光分析を行うことで、生乳中の脂肪濃度を測定することを特徴とする請求項3に記載の可視光・近赤外分光分析方法。
【請求項15】
400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光を発生させるための近赤外光発生手段と、前記近赤外光発生手段からの可視光及び/又は近赤外光を試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備える可視光・近赤外分光分析装置において、
前記試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を設けると共に、前記データ処理手段が、前記摂動を与えて得られる応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行うことを特徴とする可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項16】
前記摂動付与手段が、前記試料検体中及び/又は周囲に存在する水を活性化する摂動(WAP)を与えることにより、前記試料検体中に含まれる所定の成分と水分子との相互作用を促進させる手段であって、照射時間と照射回数を設定可能な照射制御装置を備えていることを特徴とする請求項15に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項17】
前記摂動付与手段が、付加電磁力調整、光路長変更、温度変更が可能な手段の少なくとも一つを備えていると共に、前記光学手段と前記検知手段とを同時にまたは別々に備えるプローブから光の照射と受光を行いデータ処理を行うよう、前記摂動付与手段による摂動の付与と、光の照射と受光の作動タイミングを制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項15または16に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項18】
前記データ処理手段が、応答スペクトルの全部又は一部の波長領域のスペクトル解析を行い、生体高分子の構造又は機能及びそれらの変化を捉えて解析する手段であることを特徴とする請求項17に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項19】
試料検体収容部と該収容部に収容された試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与える摂動付与手段を備えると共に、400nm〜2500nmまでの又はその一部の波長領域の可視光及び/又は近赤外光であって、試料検体に応じて予め選定された特定波長領域の光を前記試料検体に照射する光学手段と、前記試料検体からの透過光、反射光、又は透過反射光のスペクトルを得る検出手段と、得られたスペクトルについて所定の多変量解析を行うデータ処理手段を備えていることを特徴とする可視光・近赤外分光分析装置。
【請求項20】
請求項5から14のいずれかに記載の可視光・近赤外分光分析方法を実施するための可視光・近赤外分光分析装置であって、
それぞれの試料検体を測定するのに適した特有の波長(Important wavelengths)領域を予め設定していることを特徴とする請求項19に記載の可視光・近赤外分光分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【国際公開番号】WO2005/050176
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515585(P2005−515585)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016680
【国際出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/016680
【国際出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】
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