説明

台金に固着した構成の焼結摺動部材及びその製造方法

【課題】 従来の、台金に固着した構成の焼結摺動部材は、鉛青銅等が多く使われてきたが、鉛が環境に悪影響を与える。ここで鉛を含まないこと、境界潤滑条件下で焼付きせず長寿命であること、良好な接合が得られること、硬度が低くないこと、強度低下がないことを満たす焼結摺動部材が求められている。
【解決手段】 Fe:20〜45%、Mo:7〜15%、S:0.5〜1.5%、Cu:35〜65%、Sn:3〜8%、および不可避不純物の組成で、気孔率が5〜20%の合金が、鋼、銅、または銅合金の台金に固着して一体化している焼結摺動部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車、産業機械等には、多数の回転部があり、該回転部には摺動部材が用いられる。自動車では回転シャフトを受ける軸受、油圧機械のギヤポンプでは歯車の側面を押えるサイドプレート、そしてピストンポンプではシリンダー、斜板、シュー部品等があり、本発明はこれら摺動部材に係わる分野である。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動部材の多くは、安価でしかも適度の摺動性を有することから、鉛青銅が使用されている。これらはJIS H 5120に規格化されている。しかし、これらが使用後、埋め立て処分されると、地下水を汚染し鉛中毒の原因になるため、地球規模で使用規制されるようになってきている。したがって、鉛を含まない摺動部材が緊急課題として強く求められている。
【0003】
その対応として鉛に代わりビスマスとする提案がなされ、同程度の摺動特性が得られるとしている(特許文献1参照)。鉛は含むが、黒鉛の添加なども提案されている(特許文献2参照)。また、台金の鉄合金に接合する方法としては鉛青銅の溶湯を固化して素材とし、それを規定寸法に加工後、必要によりろう付け等により固着することや、銅メッキした後に接合し摺動部材として使用するなどが知られている(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−60808号公報
【特許文献2】特開平4−198440号公報
【特許文献3】特開平10−1704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の摺動部材である鉛青銅は、環境に悪影響を及ぼす鉛を多く含む重大な欠点がある。また、鉛青銅系摺動部材では、潤滑油が存在する使用条件下では、良好な摺動性能を持っている。
【0006】
しかしながら、該合金は作業機ブッシュのような摺動条件が高回転、高面圧であったり、潤滑油が十分に供給できない苛酷な境界潤滑条件下では、極めて簡単に焼き付き、耐摩耗性に劣り、摩耗することや剥離すること、硬度が十分に高くないことから容易にへたる(鉛が多くなる程低硬度になる)など十分な摺動特性が得られていないことが問題となる。このように低寿命が課題であり、寿命をなんとか伸ばせないかとの要求も加わる。
【0007】
なお、鉛青銅粉末で製作の場合、700〜900℃で鋼板上に鉛青銅粉末を置き焼結、その後ローラ等でプレス圧延、また同じ温度で焼結して摺動部材として使用する場合が通常であるが、その場合も気孔のコントロールには従来は注意がはらわれていない。また、素材を鋳込みにより製作される場合は、気孔は当然ない。
【0008】
また、鉛青銅系の焼結材を接合するためには、焼結時の温度を高くして焼結しなければならない。ところが、焼結温度を高くすると摺動特性の上でなじみ性を確保する鉛粒子が成長し大きくなって焼結材の強度低下を招いてしまう。一方、鉛の粒子を細かくして分散させるためには、低い温度で焼結しなければならない。ところが、低い焼結温度では、発生する液相量が少なくて濡れが十分でなく、接合不十分となってしまう問題もある。
【0009】
したがって、解決しようとする課題は、鉛を含まないこと、境界潤滑条件下で焼付きせず長寿命であること、良好な接合が得られること、硬度が低くないこと、強度低下がないこと、の5項目が主となり、実際に摺動部材として使用されて長寿命であることが、最重要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこれら解決しなければならない課題について、摩擦係数の低減と摩耗率の軽減、高強度、高硬度を併せもつ特性を、鉛を含まない組成で鋭意研究した結果、質量百分率(気孔を除く実質部分について)がFe:20〜45%、Mo:7〜15%、S:0.5〜1.5%、Cu:35〜65%、Sn:3〜8%、および不可避不純物の組成で、気孔率が5〜20%の合金を見出した。
【0011】
これにより、従来技術品に比べものにならない摩擦係数の低減と摩耗率の軽減、高強度を併せ持つ高性能の焼結摺動部材が得られて、固体接触(境界潤滑)あるいは、油きれ状態(枯渇潤滑)の環境下においても摩擦係数の上昇が少なく、しかも、焼結時に鋼、銅、または銅合金の台金に強固に固着、一体化が可能となり、従来技術品に比べ長寿命品が得られるという発明に至った。以下に本発明品の組成限定理由について述べる。
【0012】
Fe含有量:
FeはMo、Sと結びつき、素材自身の自己潤滑性を付与する。19%以下と少ないと、素材の自己潤滑性の付与効果が少ない。(FeSの形は自己潤滑性に寄与しない。)46%以上と多いと、素材の強度を低下させる。したがって、Fe含有量は20〜45%が好適である。
【0013】
Mo含有量:
MoはSと結びつき、素材の自己潤滑性を付与する。6%以下と少ないと、素材の自己潤滑性の付与効果が少ない。16%以上と多いと、硫化物の形成が飽和し、潤滑性能のそれ以上の向上が認められなくなる。また、焼結時の収縮量が大きくなりすぎ、さらに素材の強度を低下させる。したがって、Mo含有量は7〜15%が好適である。
【0014】
S含有量:
Sは硫化物を形成し、自己潤滑性を与える。境界潤滑、無潤滑領域での非焼き付き性、耐摩耗性を向上させる。0.4%以下と少ないと、硫化物の形成付与が少なく、自己潤滑性を付与する効果が少ない。1.6%以上と多いと、固体潤滑に寄与しない硫化物生成が多くなると共に素材の強度を低下させる。したがって、S含有量は0.5〜1.5%が好適である。
【0015】
Cu含有量:
Cuは素材の結合材として作用し、強度の向上、台金との接着作用をする。34%以下と少ないと、台金との接着作用の効果が少なく剥がれやすくなる。66%以上と多いと、潤滑特性を減じ、焼き付きが生じ易くなる。したがって、Cu含有量は35〜65%が好適である。
【0016】
Sn含有量:
SnはCuの結合材を強化する。2%以下と少ないと、Cuマトリックスの強化が不十分であり、また、焼結性も悪くなる。9%以上と多いと、焼結性は良くなるが、Cu−Sn化合物が形成され脆くなると共に、耐熱性も減じる。また、相対的に他成分が少なくなるので、潤滑特性も減じる。したがって、Sn含有量は3〜8%が好適である。
【0017】
気孔率:
摺動条件が高回転、高面圧下では、境界潤滑あるいは枯渇潤滑になるが、気孔を含有させることで、素材の潤滑特性に援用し、枯渇潤滑を防止することができ、摩擦係数の上昇を軽減する。4%以下と少ないと、潤滑特性の援用効果が少ない。21%以上と多いと、素材の強度低下(剥離の原因の一つ)をもたらす。したがって、気孔含有量は5〜20%が好適である。
【0018】
次にこれら発明品組成の合金の製造方法について述べる。通常の粉末冶金法により、Fe、Mo、S、Cu、Sn各粉末を配合組成に秤量後、らいかい機にて攪拌、混合する。粉末の粒度は、Fe、MoおよびSは100μmの篩を通る粒度、Cu、Snは通気度法で5〜15μmが望ましい。
【0019】
潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛等を用いる。これら混合各粉末を金型に入れ200〜700MPaで加圧し、圧粉体を作製する。各粉末は、その中の2種類以上を合金化した物を用いても良い。
【0020】
次に、圧粉体を台金と共に真空、Ar、またはN等の非酸化性雰囲気下で800〜1100℃の範囲かつ台金の融点より低い温度で焼結し、一体化し焼結摺動部材を得る。ここで、気孔率は焼結温度とその保持時間により制御できる。すなわち焼結温度が高いほど、また保持時間が長いほど気孔率は小さくなる。
【0021】
従来品より高温の800〜1100℃で真空、Ar、またはN等の非酸化性雰囲気下で台金と焼結するのは、摺動部材の焼結と、摺動部材と台金との結合を同時に行うのに好適であるためである。
【0022】
台金は、摺動部材と強固に接着できること、および強度が必要とされることから、鋼、銅、または銅合金を用いる。鋼材は、炭素を含まない、例えば一般構造用圧延鋼材が、接着強度が良好でありまた焼結温度で変形しにくいので望ましいが、これに限定されるものではない。高温で焼結できる事は、耐熱性に優れることも意味する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、課題である、鉛を含まないこと、境界潤滑条件下で焼付きせず長寿命であること、良好な接合が得られること、硬度が低くないこと、強度低下がないこと、をクリアしており、強く代替を求められていた鉛を含まない摺動部材の提供ができ環境対応ができる。特に苛酷な条件下での摺動部材の提供ができ、産業上の貢献が大きい。
【実施例】
【0024】
ここで本発明の製造方法による実施例と比較例について述べる。
【実施例1】
【0025】
本発明品及び比較品は、通常の粉末冶金法に従って粉末を調製し、この粉末を、金型を用いて200MPaの圧力で成形して圧粉体とし、この圧粉体を真空中において焼結することで、超硬工具協会規格CIS 026(1983)に基づく24×8×4mm長さの焼結体を、単体、及び一般構造用圧延鋼材と接着したものとして、それぞれ作製した。なお、接着したものは摺動部材部0.5mm、鋼材部3.5mmの厚さとした。
【0026】
単体試験片を用いて、抗折力およびビッカース硬さの測定を行った。また、接合した試験片で、接合強度の測定を行った。これは0.1mm/sの速度で3点曲げ試験を行い、最高圧に達した後、除荷し、120〜150°に変形した個所の接合面を観察して剥離の有無により判定した。
【0027】
さらに、直径9mm×長さ15mmの円柱型試験片も作製し、それを3本1組として用いて、底面を摩擦面としてピンオンディスク摩擦試験を実施して、各焼結体の焼付きの起こる最小のPV値(圧力と速度の積)をそれぞれ測定した。なお、ピンオンディスク摩擦試験は、相手材ディスクとしてマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cを使用すると共に、摺動速度0.4m/s、荷重98〜2352Nで、相手材ディスクにエステル油を塗布し、大気中常温で実施した。
【0028】
これらの結果を表1に示す。また接合強度の測定後の試験片の様子を図1、2に示す。なお、組成の合計が100%になっていないのは、不可避不純物のためである。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
油圧機械用ギヤポンプの歯車の側面を押える摺動材を本発明品(表1の2に示す試験片該当)で製作、ギアポンプに組み込み、ポンプ性能および摺動材としての性能を測定した。その結果、実機条件を再現した加速試験において、従来の鉛青銅が使用されているギヤポンプと同等もしくはそれ以上の性能を満足した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明品(表1の2)の接合強度の測定後の試験片の様子である。
【図2】比較例(表1の8)の接合強度の測定後の試験片の様子である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率(気孔を除く実質部分について)がFe:20〜45%、Mo:7〜15%、S:0.5〜1.5%、Cu:35〜65%、Sn:3〜8%、および不可避不純物の組成で、気孔率が5〜20%の合金が、鋼、銅、または銅合金の台金に固着して、一体化している事を特徴とする焼結摺動部材。
【請求項2】
質量百分率がFe:20〜45%、Mo:7〜15%、S:0.5〜1.5%、Cu:35〜65%、Sn:3〜8%、および不可避不純物の組成の各粉末を配合後、プレス成形し、圧粉体を、鋼、銅、または銅合金の台金と共に、非酸化性雰囲気中にて800〜1100℃の範囲かつ台金の融点より低い温度で焼結して、一体化することによる、焼結摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−214129(P2011−214129A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96452(P2010−96452)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000238016)冨士ダイス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】