説明

合成多重四級アンモニウム塩

【課題】多重四級アンモニウム塩(多重クワット)を含む組成物、これらの組成物を用いる方法、およびこれらの組成物を製造すること。
【解決手段】
本発明は、新たな多重四級アンモニウム塩および、下記式で表されるそれらの誘導体に関し:ここで、R、R’、R、R’、R、R’、RまたはRは、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+からなる群から選択され;1つ以上のR基はからなる群から選択され;Anはアニオンである。さらに、本発明は、新たな多重四級アンモニウム塩および、下記式で表されるそれらの誘導体に関し:ここで、R、R’、R、R’、RまたはR’基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+からなる群から選択され;1つ以上のR基はからなる群から選択され;Anはアニオンである。
【化1】



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年3月5日に出願した、米国仮出願「Synthetic Multiple Quaternary Ammonium Salts」、出願番号不明、の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、多重(multiple)四級アンモニウム塩(多重クワット(multiple quats))を含む組成物、これらの組成物を用いる方法、およびこれらの組成物を製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
テトラ有機アンモニウム塩としても知られている有機四級アンモニウム塩は、正電荷を帯びた窒素原子を含む化合物である。これらの化合物は脂肪族鎖を含み、それにもかかわらず、ある場合において水に溶解することができる。
【0004】
四級アンモニウム塩(「クワット塩」または「多重クワット」)に関連する正電荷は、pH値が変化しても影響を受けない。すなわち、窒素中心の電荷は、アミンの単なるプロトン化によるものではないので、これらの塩の水溶液のpH値は、窒素中心の正電荷の損失をもたらすことなく幅広く調整され得る。
【0005】
他の分子または高分子と共有結合を形成することができる基を含むクワット塩は、「カチオン化剤」と称される場合がある。このようなカチオン化剤は、高分子に永久的な正電荷を付与するために用いられている。具体的には、以下の2,3−エポキシプロピル基、
【化1】


または、以下の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基を含むカチオン化剤が、このような適用において特に有用である。
【化2】

原則的に、これらの基は、水酸基、チオール、第一級および第二級アミン、ケトン、カルボン酸、イソシアネート(isocynate)、置換ウレアなどの種々の有機官能基と反応することによって共有化学結合を形成することができる。
【0006】
本発明は、2,3−エポキシプロピル基または3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基のいずれかを含むカチオン化剤に関する。これらのカチオン化剤はまた、1分子当たり2個以上の正電荷を含む。さらに、これらのカチオン化剤は、永久(過渡的に対する意味として)正電荷を、高分子において適切な置換基と共に共有化学結合を形成することにより、高分子に付与することができる。
【0007】
その結果、「カチオン化された」高分子は、廃水処理における凝集剤として、紙、繊維、セメントおよび洗剤の製造における助剤として、および、エポキシを含む樹脂との押出可能な混合物の成分としての用途が見出されている(米国特許第6,376,583号、Dow Chemical Company)。
【0008】
ある例において、反応性を有する官能基を有する四級アンモニウム塩は、廃水処理における凝集剤として、および、紙、繊維、セメントおよび洗剤の製造において有用なカチオン性デンプン誘導体を形成するために用いられている。
【0009】
ある例においては、リサイクルパルプから紙を製造する場合、公知のカチオン化剤でデンプンに与えることができるカチオン電荷は、高いイオン強度のプロセス媒体がもたらす影響に打ち勝つには不十分である。さらに、公知のカチオン化剤で十分な電荷が得られる場合、そのデンプン粒子が他の理由(例えば、過度の膨潤)で許容不可能になってしまう方法で電荷が付与されなければならない場合がある。合成ポリビニルアルコール等の、他の種類の水酸基含有高分子は、現在公知のカチオン化剤におけるものと同様のカチオン化反応を経て同様の欠陥を被る。
【0010】
米国特許第5,616,800号および米国特許第6,177,577号は、2価カチオン性および多価カチオン性のモノ一級(monoprimary)アルコールを開示する。しかし、開示された構造は、直鎖状であり、分子末端に単一の1級アルコール基を含み、ある種の適用において望ましくない特性を生じ得る。
【0011】
上述の理由より、優れた特性を有する複数の正電荷を帯びたアミン基を含む四級アンモニウム塩を見出すことが望まれている。種々の産業において用いられる改善したカチオン炭水化物を製造する化合物および方法を見出すこともまた有用であろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、下記一般式で表される多重クワット化合物を提供する:
【化3】

ここで、R、R’、R、R’、R、R’、RまたはR基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+からなる群から選択され;1つ以上のRは、
【化4】

および
【化5】

からなる群から選択され、Anはアニオンである。
【0013】
ある実施形態においては、多重クワット化合物は環式であり、1つのR基および1つのR基は、1つ以上の炭素を有する単一アルキル基を含む。アルキル基の架橋によってそのように形成された環式構造は、−OR基を支持する3個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された、正電荷を帯びた2つの窒素中心を含む。
【0014】
本発明は、下記一般式で表される多重クワット化合物をさらに提供する:
【化6】

ここで、R、R’、R、R’、RまたはR’基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+からなる群から選択され;1つ以上のRは、
【化7】

および
【化8】


からなる群から選択され、Anはアニオンである。
【0015】
ある実施形態においては、化合物は環式であり、1つのR基および1つのR’基は、1つ以上の炭素を有する単一アルキル基を含む。アルキル基の架橋によってそのように形成された環式構造は、−OR基を支持する3個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された、正電荷を帯びた2つの窒素中心を含む。
【0016】
本発明は、本発明の多重クワット化合物と1つ以上の水酸基を有する炭水化物との反応により形成される変性炭水化物をさらに提供する。ある好ましい実施形態においては、炭水化物はデンプンである。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の多重クワット化合物および変性炭水化物を製造する方法を提供し、ならびに、変性炭水化物を用いる方法を提供する。例えば、本発明は、廃水処理剤として、あるいは製紙プロセスにおいて、本発明の変性炭水化物を用いる方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のある局面をさらに例示することを含む。本明細書の具体的な実施形態の詳細な記載と組み合わせて、1つ以上のこれらの図面を参照することで、本発明をさらに理解し得る。
【0019】
本明細書で用いられる「組成物(composition)」は、組成物を含む材料の混合物、ならびに、組成物を含む材料の反応または分解により形成された生成物を含む。
【0020】
本明細書で用いられる「〜に由来する(derived from)」とは、特定の材料から形成または混合されることを意味するが、これらの材料の単純な混合物からなる必要はない。特定の材料に由来する物質は、原材料の単純な混合物であり得、さらにこれらの材料の反応生成物を含み得、あるいは、原材料の反応または分解生成物からなり得る。
【0021】
本明細書で用いられる「ハロ」とは、クロロ、ブロモ、フルオロまたはヨードなどのハロゲンを含む群を示す。
【0022】
本明細書で用いられる「アルキル」とは、1つの水素原子の除去によってアルカン分子に由来する炭素および水素の原子団をいう。「アルキル」は直鎖、環式または枝分かれした部分を有する飽和した一価の炭化水素基を含み得る。上記「アルキル」基は、該アルキル基が少なくとも2個の炭素原子を含む場合、必要に応じて炭素−炭素の二重結合または三重結合を含み得る。上記アルキル基において、環式部では少なくとも3個の炭素原子が必要であることが理解される。アルキル基は任意の数の炭素原子を含み得、本発明の目的においては、約20以下の炭素原子が好ましい。例えば、2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19または20個の炭素のアルキル基が、本発明において用いられ得る。もちろん、さらに炭素数の多いアルキル基を本発明において用いてもよい。当業者は、通常の実験を通じ、以下に記載の技術に基づいて、様々なアルキル長を含む分子を合成し、試験することが可能である。
【0023】
本明細書で用いる「アラルキル」とは、アルキル基の水素原子をアリール基に置換した基をいう。「アリール」はフェニル、ナフチル、フルオレニル、フェナントリルなどの単純なまたは置換した芳香族構造である。アラルキル基は、任意の数の炭素原子を含み得、本発明の目的においては、約20以下の炭素原子が好ましい。例えば、7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19または20個の炭素のアラルキル基が、本発明において用いられ得る。もちろん、さらに炭素数の多いアラルキル基を本発明において用いてもよい。当業者は、通常の実験を通じ、以下に記載の技術に基づいて、様々なサイズのアラルキルを含む分子を合成し、試験することが可能である。
【0024】
本明細書に記載されるあらゆる数値は、小さい値から大きい値へと増加する1つの単位において全ての値を含み、任意の小さい値と任意の大きな値との間での少なくとも2つの分離した単位が存在する。例えば、成分の量、または、温度、圧力、時間等のプロセス変数が例えば1〜90、好ましくは20〜80、より好ましくは30〜70であると記載する場合には、15〜85、22〜68、43〜51、30〜32等の値が本明細書に明確に列挙されていることが意図されている。1より小さい値については、1つのユニットが0.0001、0.001、0.01または0.1であると適宜考慮される。これらは、具体的に意図された単なる例示であり、最小値と最大値との間で列挙される全ての可能な組み合わせは、同様に本明細書に明確に記載されていると考えられる。
【0025】
本明細書で用いるAnは、本発明の多重クワットと関連する1つ以上のアニオンを意味する。本発明の四級アンモニウムイオンと関連する負の電荷を帯びたアニオンの数値および全電荷は、混合物のpH、中和に用いられる1つ以上の酸のアニオンによって変化し得る。本発明のアニオンは、当業者に公知のアニオンであり得、スルホン酸塩、トリフレート(triflate)、トリフィルアミド(trifylamide)、カルボン酸塩、F、Cl、Br、I、ClO、HSO、SO2−、PO3−、HPO、BF、PF等の一価、二価、多価のアニオンを含む。
【0026】
本発明の多重クワットは、1つ以上の化合物を含む。したがって、本発明の多重クワットは純粋な化合物であってもよく、化合物の混合物であってもよい。
【0027】
(多重クワット)
本発明の多重クワット化合物は、化学構造Iを有するものを含む。
【化9】

化学構造Iにおいて指定された、R、R’、R、R’、R、R’、RまたはRは、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+Anからなる群から選択され、ここで、任意のR、RまたはR基は、構造における他のR、R’、R、R’、RまたはR’基と同一であってもよく異なっていてもよく、Anは1つ以上のアニオンである。RおよびRは共有結合であり得、環式構造を形成し得る。したがって、この環式分子は、−OR基を支持する三個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された、正電荷を帯びた2つの窒素中心を含む。共有結合したRおよびRは、合計で少なくとも1つ以上の炭素結合を含むことができる。Rで指定された基は、それぞれ独立して水素、アルキルまたはアラルキルからなる群から選択することができるが、少なくとも1つのR基は、以下の2,3−エポキシプロピル基、
【化10】

または以下の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基
【化11】


のいずれかでなければならない。独立して選択される他の基に関して、任意のR基は、構造における他のR基と同一であってもよく異なってもよい。
【0028】
本発明の多重クワット化合物はまた、化学構造IIを有するものを含む。
【化12】

【0029】
化学構造IIにおいて、R、R’、R、R’、RまたはR’で指定された基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキル、および−CH−CH(OR)−CH+Anからなる群から選択され、ここで、R、RおよびR基は構造における他のR、R’、R、R’、RまたはR’基と、同一であってもよく異なっていてもよく、Anは1つ以上のアニオンである。中央の−CH−CH(OR)−CH−フラグメントにより分断された1つ目の窒素におけるRおよび2つ目の窒素におけるR’は、共有結合を形成し得、したがって、分子内に−OR基を支持する3個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された正電荷を帯びた2つの窒素中心を含む、環式構造を形成する。共有結合したRおよびR’1基は、合計で少なくとも1つ以上の炭素を含むことができる。Rで指定された基は、それぞれ独立して水素、アルキルまたはアラルキルからなる群から選択することができるが、少なくとも1つのR基は、以下の2,3−エポキシプロピル基、
【化13】


または以下の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基
【化14】


のいずれかでなければならない。独立して選択される他の基に関して、任意のR基は、構造における他のR基と同一であってもよく異なってもよい。
【0030】
(構造I−IIを有する化合物およびこれらの混合物の製造方法。)
カチオン化剤の前駆物質は、多くのプロセスにより調製することができる。下記の各プロセスI−Vは、少なくとも1つの水酸基とエピクロロヒドリンとの反応によってカチオン化剤に転換され得る、多数の帯電した水酸基含有四級塩を生じる。
【0031】
【化15】

【0032】
プロセスIにおいて、第二級アミンは、最初に1つの等価なエポキシプロピルクワットと反応する。この反応は代表的にはゆっくりと行われ、エポキシプロピルクワット水溶液を約25℃のアミン水溶液に滴下し、通常の発熱を注意深く調整する。約25℃で数時間撹拌した後、反応完了を促進させるために1時間程度50℃と90℃との間で加熱を必要とする場合がある。この反応による生成物は三級アミン中心を含み、これは、上述の段階と同様の代表的な条件で、1つの等価なクロロヒドリンクワットと反応する。あるいは、三級アミン含有中間体は、塩酸の添加によって塩酸塩へ転化することができ、次いで、エポキシプロピルクワットと反応する。
【0033】
【化16】

【0034】
プロセスIIにおいて、塩酸塩形態の二級アミンは、プロセスIのいずれかの工程と同様の代表的な条件の下、2つの等価なエポキシプロピルクワットと反応する。プロセスIにおける最終生成物とは異なり、プロセスIIにおける最終生成物は、RおよびR置換基を支持するクワット基を中心として、必然的に対称性を有する。しかし、R、RまたはR基が−CH−CH(OR)−CH+側鎖である特定の実施形態においては、当該側鎖のR、RまたはR基は、構造における他のR、RまたはR基と同一であってもよく異なってもよい。
【化17】

【0035】
プロセスIIIにおいて一級アミンは、プロセスIのいずれかの工程と同様の代表的な条件の下、2つの等価なエポキシプロピルクワットと反応する。この反応の生成物は三級アミン中心を含み、これは、上述の工程と同様の代表的な条件の下、1個の等価なクロロヒドリンクワットと反応する。最終工程で用いられるクロロヒドリンクワットのN−置換基(R’、R’およびR’)は、最初の工程において用いられるエポキシクワットのN−置換基(R、RおよびR)と同一であってもよく異なってもよい。あるいは、三級アミン含有中間体は、塩酸を添加することによって、その塩酸塩に転化することができ、次いでエポキシプロピルクワットと反応する。R、RまたはR基が−CH−CH(OR)−CH+側鎖である特定の実施形態においては、当該側鎖のR、RまたはR基は構造における他のR、R’、R、R’、RまたはR’基と同一であってもよく異なってもよい。
【化18】

【0036】
プロセスIVにおいて、2個の等価な中性の三級アミンは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)等の1個の等価な1,3−二置換−2−プロパノールと反応する。ここで、置換された部分は、SN2反応において良好な離脱基であり、例えば、ハロゲン基が挙げられる。この反応の生成物はジクワットアルコールである。あるいは、テトラメチルエチレンジアミン等のジ−三級アミンが、重合よりも環化反応が進行し得る希薄条件の下、用いられ得る。
【化19】


【化20】

【0037】
プロセスVにおいて、2個の等価な中性の二級アミンは、遊離HClを受け入れる塩基の存在下において、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)等の1個の等価な1,3−二置換−2−プロパノールと反応する。この反応の生成物は、ビス三級アミンである。この中間体は、次いで2個の等価なクロロヒドリンクワットと処理され得る。あるいは、ジ−三級アミンは、プロセスI−IVと同様に、2個の等価なエポキシプロピルクワットとの反応において、そのジ−塩酸塩の形態で用いられ得る。いずれの場合においても、生成物はテトラクワットアルコールである。
【0038】
プロセスI−Vにおいて記載されたそれぞれの化合物について、R、R’、R、R’、R、R’、RまたはR基は、それぞれ同一であってもよく異なってもよい。本発明のある実施形態においては、同様の指定を有するすべての基、すなわち、R、R、R、RまたはRは同一の化学基であり得る。別の実施形態においては、同様の指定を共有する基は、それぞれの基がアルキル基、アラルキル基または−CH−CH(OR)−CH+An基である限り、その指定を共有する1つ以上の他の基と異なっていてもよい。
【0039】
環式構造を含むカチオン化剤の前駆物質は、化学文献において公知である。例えば、6員環構造は、AxenrodらによるJ.Organic Chemistry,Vol.65,pp1200-1206(2000)、またはChapmanらによる、米国特許第6,310,204号(2001)に記載された方法によって調製され得る。
【化21】

【0040】
次いで、得られたジ−二級アミンの四級化が、適切なアルキル化剤による逐次的または包括的なアルキル化によって完成する。
【化22】

【0041】
ここで、RおよびRは、前述の通りである。好ましい実施形態においては、環式のジ−二級アミンはまず、各窒素における還元的アルキル化によって、環式のジ−三級アミンに変換され、次いで、得られた環式のジ−三級アミンの各窒素は、(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド等の反応性四級アンモニウム塩によってアルキル化される。
【化23】

【0042】
7個以上の環原子を含む環式ジアミン前駆物質は、2つの一般的な方法によって調製され得る。第1の方法は、SaariらによるJ.Organic Chemistry,vol.36,pp1711-1714(1971)、または、WuらによるSynth.Communications,vol25,pp1427-1431(1995)に記載されているような、1,3−ジハロ−2−プロパノールとα,ω−ジトシルアミドとの環化反応の後、トシル保護基を除去する方法である。
【化24】

【0043】
ここで、R=−CHCH−、−CHCHCH−、またはo−Cであり、X=Cl,Br,またはIである。α,ω−ジトシルアミドは、Mooreらによる方法(WO94/04485)によって高い収率で好適に調製される。遊離環式ジアミンは、6員環前駆物質に関して前述したような適切なアルキル化剤によって四級化され得る。
【0044】
【化25】

【0045】
環式ジアミン前駆物質の調製に関する第2の公知の方法は、Kanstrupらによる(WO02/02560A2)に記載されているように、1,3−ジハロ−2−プロパノールとα,ω−ジベンジルアミンとの環化反応の後に、水素化分解によってベンジル保護基を除去する方法である。
【化26】

【0046】
ここで、R=−CHCH−、−CHCHCH−、またはo−Cであり、X=Cl,Br,またはIであり、Bzはベンジル基(−CH65−)を意味する。最終生成物において、RまたはRがベンジル基であることが望ましい場合には、水素化分解工程は省略され得、変性していないベンジル基を含む直接環化生成物は、1個の等価なアルキル化剤との反応によって四級化され得る。
【0047】
上述の水酸基含有クワット塩は、単にカチオン化剤の前駆物質に過ぎない。これらは、エピクロロヒドリンと分子内の少なくとも1つの水酸基との誘導体化によって、カチオン化剤に転化することができる。エピクロロヒドリンとの反応によって水酸基を(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルまたは2,3−エポキシプロピルエーテルに転化する方法は周知であり、エポキシ構造接着剤の処方において用いられるエポキシ樹脂の合成方法と実質的に同一である。
【化27】

【0048】
上記のスキームにおいて、Rは多数の帯電したクワット塩前駆物質の残基を表す。周知の化学によって調製される市販品の1つとして、ビスフェノールAと2個の等価なエピクロロヒドリンとの間の反応から得られるジグリシジルエーテルが挙げられる。このエポキシ樹脂は、商標D.E.R331TM(Dow Chemicals)およびEpon828(登録商標)(Resolution
performance products)として知られている。
【0049】
(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)アンモニウム塩、2,3−エポキシプロピルアンモニウム塩、第一級、第二級または第三級アミン、あるいはアミンハイドロハライドを接触させる方法は、所望の反応が生じる限り特に重要とならない。これらの化合物を接触させる方法は、当業者に公知の任意の方法を用いることができる。さらに、出発化合物を直ちに利用できる場合が多く、加えて、所望の出発化合物を調製する、多くの合成が当業者に利用可能である。
【0050】
混合条件は、用いられる具体的な化合物および所望の生成物に応じて変化し得る。多くの場合、大気圧で、かつ、出発化合物の分解または煮沸が生じるほど高温ではなく、効率的に反応が進行するに十分な高温下で、化合物と任意の溶媒とを接触させることは許容可能である。
【0051】
(本発明の多重クワットの特性および使用)
本発明のプロセスによって製造される多重クワットの純度は、90%より高くなることができ、好ましくは93%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
【0052】
一般的に、多重活性水酸基を含む多重クワットは、多重クワットモノマーを含む特製の化合物または高分子を形成する場合において有用である。本発明の化合物の特に好ましい使用は、カチオン性炭水化物、特にカチオン性デンプンを調製するための使用である。
【0053】
変性炭水化物は、本発明の化合物と反応することが可能な水酸基を有する任意の炭水化物であり得、単糖類、二糖類、ポリヒドロキシアルデヒドおよびポリヒドロキシケトン等の炭水化物モノマーおよびダイマーを含む。本発明の変性炭水化物はまた、デンプン、セルロース、キトサン、アルギン酸塩、ガム、粘物質、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトン等に加水分解される得る高分子化合物などのような多糖類を含む炭水化物ポリマーを含むことができる。
【0054】
ここで炭水化物はデンプンであり、デンプンは、トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカ、小麦、サゴ、米、マイズ(maize)、グレインソルガム、ろう状ソルガム、アマランス、クズウコン、バナナ、オオムギ、キャッサバ、キビ、カラスムギ、ライムギ、サツマイモ、ヤムイモ等を含む源から得ることができる。デンプンは、デンプンを精製または変性した形態でもよく、あるいは、穀物の成分は変性されなくてもよい。適切な炭水化物ポリマーはまた、例えば、ガムトラカガース(gum tracagarth)、グアーガム(guar gum)、変性グアーガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナンガム、タマリンドガム(tamarind
gum)、カラヤ(karaya)、オクラ、キサンタンガム(xanthan gum)等のガム類を含む。外皮繊維またはセルロースエーテル由来のようなヘミセルロース含有材料を含むセルロース材料もまた、本発明の炭水化物として用いることができる。
【0055】
セルロースエーテルは、セメント系および粘着性組成物において好ましく用いられる場合がある。適切なセルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース等を含む。
【0056】
炭水化物材料は、非変性炭水化物材料、酸変性、デキストリン化(dextrinized)、酸化、加水分解または誘導体化炭水化物材料のような化学変性炭水化物材料、反応性の水酸基部を有する炭水化物エーテルおよびエステル、およびこれらの混合物からなる群から選択され得る。変性炭水化物は、酸、アルカリ、塩およびこれらの混合物、および、変性炭水化物類を生成する酵素等で処理されていてもよい。あるいは、炭水化物は、トリポリリン酸ナトリウム、プロピレンオキサイド、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、クロロ酢酸ナトリウム、エポキシクロロヒドリン、無水酢酸、無水マレイン酸、2−クロロエチルジエチルアミン塩酸塩、2,3−エポキシプロピルスルホネート、トリエチルアミン、三酸化硫黄、尿素等の誘導体化剤で処理され得る。
【0057】
デンプン等の炭水化物は、いわゆる、アニオンと結合し得るカチオン性炭水化物、カチオンと結合し得るアニオン性炭水化物、および、アニオンおよびカチオンのいずれとも結合し得る両性炭水化物の主だった群に分類される。本発明は、カチオン性または両性炭水化物の調製に関する。
【0058】
カチオン性炭水化物は、多くの商業用途を有する。例えば、カチオン性デンプン、ガム等は、製紙、紡織サイジング、廃水処理等に用いられる。特に、カチオン性デンプンは、結果物である紙の強度特性を増加させつつ精密性およびフィラー保持を改善するために、製紙工程におけるウエットエンド添加剤として、幅広く用いられる。小さいが、見逃すことができないこととして、製紙での適用は、カチオン性デンプンが紙製品の力学的強度および表面特性に寄与するサイズプレスおよびコーティング範囲で行われ、加えて、再パルプ化における損紙を生じる生化学的酸素要求量を減少させる。
【0059】
カチオン性炭水化物ポリマーは、特に、紙、鉱業、石油の掘削および他の産業において、水処理(特に懸濁物の凝集および浮遊)に用いられる。
【0060】
製紙、紡織サイジング、廃水処理等の用途に用いるために投入されるカチオン性炭水化物の量は、当業者に公知の評価方法を用いて通常の実験により決定され得る。
【0061】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明することに含まれる。当業者は、以下の実施例に開示された技術が、発明の実施において良好に機能する、発明者によって見出された技術を表すものであり、したがって、本発明を実施する好ましい形態を構成すると考えられ得ることを認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らすと、本発明の精神と範囲から逸脱することなく開示された具体的な実施形態において多くの改変がなされ得、同類のまたは類似した結果が得られることを理解すべきである。
【0062】
(実施例1)
テトラクワットの合成:N,N’−ビス[3-[ジメチル(フェニルメチル)アンモニオ]−2−ヒドロキシプロピル]−2−ヒドロキシ−N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミニウムテトラクロライド[ExpellTMSP,CAS#415938-92-0]。まず、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)を、実質的にPerrineらによるJ.Organic
Chemistry,vol.18,pp1137-1141(1953)に記載された2個の等価なジメチルアミンとの反応によって、1,3−ビス(N,N−ジメチルアミノ)−2−プロパノール(DIMAPOL)に転化した。次いで、新たに蒸留したDIMAPOL(146.2g、1.0mol)と約170mlの水とを、還流冷却器を備えた丸底フラスコに注入した。水性の(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド(905.7g、固形分59.8%=541.6g=2.05mol)を、3時間にわたって滴下した。得られた溶液を、室温で11時間撹拌した。溶液を次いで50℃に加熱し、この温度で撹拌しながら1時間保持し、その後室温まで冷却した。得られた水性のテトラクワット溶液を瓶詰めし、暗所に保存した。
【0063】
(実施例2)
トリクワットの合成:2−ヒドロキシ−N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−N,N,N’,N’−ペンタメチル−1,3−プロパンジアミニウムトリクロライド[DMTQ]。滴定分析(テトラブチルアンモニウムヨウ化物/過塩素酸法)によって、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(Aldrich,CAS 登録#3033-77-0)の水溶液が、72.9重量%の活性エポキシ種を含むことを見出した。411mlの水中でジメチルアミン塩酸塩(407.75g,5.0mole, Aldrich)を、還流冷却器を備えた丸底フラスコ内で強く撹拌し、その間1040gのエポキシプロピルクワット塩溶液(=758.2g活性=5.0mol)を外部加熱および冷却を行うことなく1時間にわたって滴下した。この添加において顕著な発熱は生じなかった。添加終了後、得られた溶液を室温で1時間撹拌した。この時点で、他の等量のエポキシプロピルクワット塩溶液(5.0mol)の滴下を開始した。この滴下により強い発熱が生じ、継続した添加は最終的に溶液を還流へと導いた。この2番目のエポキシプロピルクワット塩電荷の添加速度は、発熱を管理しながら調整した。滴下が終了した後、溶液を放冷しながら撹拌した。温度が70℃に達した時(約3時間後)、電子制御装置(J−Kem Electronics)によって設定が70℃に制御された加熱マントルを用いて適用された。溶液は約24時間70℃に保持された。DMTQの溶液は、室温まで下げられ、瓶詰めされ、暗所に保存した。
【0064】
(実施例3)
ジクワットの合成:2−ヒドロキシ−N,N,N,N’,N’ ,N’−ヘキサメチル−1,3−プロパンジアミニウムジクロライド[BTA]。DCP(80g,0.62mol)および40%トリメチルアミン水溶液(188g、40重量%=75.2g=1.27mol)を、還流冷却器を備えた500ml丸底フラスコに投入した。この混合物を75℃に加熱して保持し、マグネチックスターラーで48時間強く撹拌した。この操作が終了した後、無色透明の液体を室温まで冷却した。BTAの収率は>98%であった。
【0065】
(実施例4)
カチオン化剤の合成:N,N,N,N’,N’ ,N’−ヘキサメチル−2−(オキシラニルメトキシ)−1,3−プロパンジアミニウムジクロライド[BTA−GE]。エピクロロヒドリン(18.5g,0.2mol,Aldrich)とヘキサン(100mL)とを、還流冷却器を備えた丸底フラスコに投入した。BTA(24.74g,0.1mol)、NaOH(12g,0.3mol)および44gの水からなるアルカリ性溶液を調製し、強く撹拌しながら約30分かけてこの溶液をエピクロロヒドリン溶液に滴下した。BTA溶液の添加を、全ての成分が室温の状態で開始したが、強い発熱反応によって急激な温度上昇が生じた。添加速度を、反応混合物の温度が50℃を超えない範囲で調整した。強い撹拌を、アルカリ性BTA溶液の添加終了後約1時間継続した。反応混合物を室温まで冷却した後、撹拌を止め、液体部分をデカンテーションして塩化ナトリウム沈殿物から分離した。水およびヘキサン層を分離し、ヘキサン層を廃棄した。水層を減圧下でエバポレートした。得られた残渣を100mL無水MeOHを用いて粉末化し、さらなる不溶性塩化ナトリウム沈殿物をろ過した。溶媒を減圧下でエバポレートし、32gの濃く黄色がかった液体を得た。エポキシ基(テトラブチルアンモニウムヨウ化物/過塩素酸法)の直接滴定によれば、粗生成物の純度は91.4%(収率96.4%)であった。1H−NMR、13C−NMRおよび質量分析は、割り当てられた構造と一致した。
【0066】
本出願で開示されおよび請求項に記載された全ての組成物および方法は、本開示に照らせば過度の実験を行うことなく、作成および実施することができる。本発明の化合物および方法を好ましい実施形態に関して記載してきたが、本明細書に記載された組成物および/または方法、ならびに、工程または方法の工程順序において、本発明の思想、精神および範囲から逸脱することなく、改変がなされ得ることを当業者は明確に理解できるであろう。より具体的には、化学的または生理学的に関連する試薬が、同一または類似する結果を得られる限り本明細書に記載した試薬と置換され得ることが明確に理解できるであろう。当業者に明確に理解されるこのように類似する置換および改変の全ては、添付の請求項によって定義される発明の本発明の精神、範囲または思想に属するとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される化合物:
【化1】

ここで、R、R’、R、R’、RまたはR’基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+Anからなる群から選択され;1つ以上のRは、以下の構造を有する2,3−エポキシプロピル基:
【化2】

および以下の構造を有する3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基からなる群から選択され:
【化3】

Anはアニオンである。
【請求項2】
下記式を有する請求項1に記載の化合物:
【化4】

ここで、R、R’、R、R’、R、R’、RまたはRは、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルおよび−CH−CH(OR)−CH+Anからなる群から選択され;1つ以上のRは、以下の構造を有する2,3−エポキシプロピル基:
【化5】

および以下の構造を有する3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基からなる群から選択され:
【化6】

Anはアニオンである。
【請求項3】
1つを超える−OR基が存在する場合、Rはそれぞれ独立して、H、アルキルおよびアラルキル、以下の構造を有する2,3−エポキシプロピル基:
【化7】

ならびに以下の構造を有する3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基からなる群から選択することができ:
【化8】

Anはアニオンであり、R基の少なくとも1つが、前記2,3−エポキシプロピル基または前記3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記Rおよび前記R’基が、1つ以上の炭素を有する単一アルキル基を含み、
該アルキル基が、−OR基を支持する3個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された、正電荷を帯びた2つの窒素中心をさらに含む環式構造の一部を形成する、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記R基および前記R基が、1つ以上の炭素を有する単一アルキレン基を含み、該アルキレン基が、−OR基を支持する3個の炭素原子を有するフラグメントによって分離された、正電荷を帯びた2つの窒素中心をさらに含む環式構造の一部を形成する、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5に記載の化合物と1つ以上の水酸基を有する炭水化物との反応により形成される変性炭水化物。
【請求項7】
前記炭水化物がデンプンである、請求項6に記載の変性炭水化物。
【請求項8】
請求項6に記載の変性炭水化物を廃水へ添加することを含む、廃水処理方法。
【請求項9】
請求項1、2、3、4または5に記載の化合物と炭水化物とを反応させることを含む、変性炭水化物の製造方法。
【請求項10】
前記炭水化物がデンプンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上のR基の少なくとも一つが、2,3−エポキシプロピル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項12】
以下の構造を有する化合物:
【化9】


ここでR、R、R、RおよびR基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルからなる群から選択され得、Anは1つ以上の有機または無機の一価または多価のアニオンであり得、中性化合物を得るために用いられ得る。
【請求項13】
以下の構造を有する請求項12に記載の化合物。
【化10】

【請求項14】
以下の構造を有する化合物:
【化11】


ここでR、R、R、RおよびR基は、それぞれ独立してアルキル、アリール、アラルキルからなる群から選択され得、Anは1つ以上の有機または無機の一価または多価のアニオンであり得、中性化合物を得るために用いられ得る。
【請求項15】
以下の構造を有する請求項14に記載の化合物。
【化12】

【請求項16】
以下の構造を有する請求項14に記載の化合物。
【化13】


【公表番号】特表2007−526922(P2007−526922A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501892(P2007−501892)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/006552
【国際公開番号】WO2005/097732
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(593059980)サッチェム, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】