説明

合成樹脂エマルジョン組成物

【課題】本発明は、三次元架橋構造を形成しうる構造中に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物を架橋剤として使用しても、ゲル化せず貯蔵安定性に優れ、さらに、塗布して各種用途に用いた際には、耐水性や被膜強度などの諸物性に優れる常温架橋性合成樹脂エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による合成樹脂エマルジョン組成物は、水溶性高分子化合物、カルボニル基含有アクリル系樹脂、および重量平均分子量5,000以上で、かつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有するヒドラジノ基含有高分子化合物を含んでなる。このエマルジョン組成物は耐水性等の諸物性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性等の諸物性に優れる常温架橋型の合成樹脂エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂エマルジョンの分野において、カルボニル基を含有する共重合体を、ヒドラジノ基を有する化合物により架橋させ、その耐水性などの諸物性を向上させることは公知である。特に水性の合成樹脂エマルジョンでは、物性向上の手段として、積極的に用いられている。合成樹脂エマルジョンは親水性成分である乳化剤により水媒体に分散されているため、単独では耐水性向上に限界がある。このため、上記のように、ポリマー架橋構造を形成させることによって、エマルジョンの物性向上することができる。特に、カルボニル基とヒドラジノ基との架橋は、常温で容易に架橋構造が形成されるため非常に有効である。
【0003】
このような常温架橋システムは、具体的には、ジアセトンアクリルアミドなどの構造中にカルボニル基を有する単量体と、共重合可能な他の単量体とを乳化重合して合成樹脂エマルジョンを得、これにアジピン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド化合物を混合した混合組成物を用意し、塗料や接着剤などの各種用途においてこの混合物を乾燥させてフィルムを形成する際に、架橋構造を有する樹脂とするものである。
【0004】
従来、このような用途に用いられるヒドラジノ基を有する化合物は、その構造中に1または2個のヒドラジノ基を有するものが用いられてきた。具体的にはヒドラジンやアジピン酸ジヒドラジドなどである。例えば、特許文献1や特許文献2には、水性エマルジョンとヒドラジド化合物とを配合してなる合成樹脂エマルジョン組成物が開示されており、ヒドラジド化合物に、アジピン酸ジヒドラジドを使用した例が記載されている。さらに、最近では、高分子量の炭素化合物両末端にヒドラジノ基を有するポリヒドラジドなども用いられている。
【0005】
しかしながら、近年、市場では有機溶剤を使用しない合成樹脂のニーズが高まっており、溶剤系代替品として合成樹脂エマルジョンに求められる耐水性のレベルは非常に高くなっている。これに対応するためには、従来のカルボニル基含有エマルジョンとヒドラジノ化合物では充分満足できない場合がある。
【0006】
この市場のニーズに対応するため、前記したような低分子のヒドラジド化合物の代わりとして、三次元架橋構造を形成しうる構造中に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物が開発されている。この高分子化合物は、両末端のみならず、高分子側鎖に多数のヒドラジノ基を有するものである。これを使用することによって、緻密な架橋構造を形成することができ、耐水性や被膜強度の大幅な向上が期待できる。
【0007】
例えば、特許文献3には、このような構造中にヒドラジノ基を3以上有する高分子化合物と、ジアセトン基を有するポリビニルアルコール系重合体を分散剤とし、エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンとからなる合成樹脂エマルジョン組成物が開示されている。
【0008】
しかしながら、このような構造中にヒドラジノ基を3以上有する高分子化合物は、従来のように合成樹脂エマルジョンと混合した際、短期間でゲル化してしまうことがあり、また、保存安定性が乏しく使用しづらい場合があった。また上記のようなジアセトン基を有するポリビニルアルコールは、製造にかなりの手間を要し、その使用はコスト的に不利である。
【0009】
【特許文献1】特公平1−60192号公報
【特許文献2】特開2001−220409号公報
【特許文献3】特開平10−17746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは今般、水溶性高分子化合物、カルボニル基含有アクリル系樹脂、および重量平均分子量5000以上でかつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物とを組み合わせることによって調製した合成樹脂エマルジョン組成物が、ゲル化することなく、貯蔵性に優れるものであることを見出した。また、この合成樹脂エマルジョン組成物は、塗布して各種用途に用いた際に、耐水性や被膜強度などの諸物性に優れた効果を奏するものであった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
よって、本発明は、三次元架橋構造を形成しうる構造中に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物を架橋剤として使用しても、ゲル化せず貯蔵安定性に優れ、さらに、塗布して各種用途に用いた際には、耐水性や被膜強度などの諸物性に優れる常温架橋性合成樹脂エマルジョン組成物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水溶性高分子化合物、カルボニル基含有アクリル系樹脂、および重量平均分子量5,000以上で、かつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有するヒドラジノ基含有高分子化合物を含む合成樹脂エマルジョン組成物に関する。
【0013】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水溶性高分子化合物を乳化剤として用いて、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な単量体とを含む単量体を乳化重合して得られるものであることが好ましい。
【0014】
カルボニル基を有する単量体が、ジアセトンアクリルアミドであることが好ましい。
【0015】
共重合可能な単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
【0016】
水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0017】
ポリビニルアルコールが、ケン化度85〜99.5モル%で、かつ平均重合度300〜2000であることが好ましい。
【0018】
ヒドラジノ基含有高分子化合物の重量平均分子量が、10,000以上であることが好ましい。
【0019】
ヒドラジノ基含有高分子化合物が、アミノポリアクリルアミド誘導体であることが好ましい。
【0020】
ヒドラジノ基含有高分子化合物が、分子内に10以上のヒドラジノ基を有することが好ましい。
【0021】
カルボニル基を含む単量体におけるカルボニル基が、ヒドラジノ基含有高分子化合物におけるヒドラジノ基に対して0.1〜20当量であることが好ましい。
【0022】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水系媒体に分散した水性エマルジョンの形態であって、合成樹脂エマルジョン組成物が液状であることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、前記カルボニル基含有アクリル系樹脂のエマルジョンを噴霧乾燥して得たエマルジョン粉末と、ヒドラジノ基含有高分子化合物の粉末とを混合して得られる合成樹脂エマルジョン組成物の再分散性粉末に関する。
【0024】
本発明は、(A)水溶性高分子化合物、およびカルボニル基含有アクリル系樹脂を含んでなる第1の組成物、および(B)平均分子量5,000以上でかつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有する、ヒドラジノ基含有高分子化合物を含んでなる第2の組成物からなる混合物に関する。
【0025】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水溶性高分子化合物を乳化剤として用いて、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な単量体を含む単量体を乳化重合してなる合成樹脂エマルジョンであることが好ましい。
【0026】
本発明は、液状の合成樹脂エマルジョン組成物、または再分散性粉末を水に再分散させてなる液状組成物を、塗工面に塗布する工程、塗布した液状組成物を乾燥させる工程からなる耐水性架橋フィルムの形成方法に関する。
【0027】
また、本発明は、合成樹脂エマルジョン組成物、または再分散性粉末と、無機水硬性材料とを含んでなる無機水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ゲル化せず貯蔵安定性に優れた合成樹脂エマルジョン組成物、またはその再分散性粉末、および無機水硬性材料を含む無機水硬性組成物を提供することができる。本発明の合成樹脂エマルジョン組成物は、水性の合成樹脂エマルジョンにヒドラジノ基含有高分子化合物を混和した液状タイプと、水性の合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥して得た再分散性合成樹脂エマルジョン粉末とヒドラジノ基含有高分子化合物粉末を混合した粉末タイプの2種の形態で提供することができる。液状タイプは、貯蔵安定性に優れ、2成分を混合した後でもゲル化することがなく、これを塗布・乾燥してフィルムを形成した際には常温で緻密な架橋フィルムが得られ、そのフィルムは耐水性などの諸物性に優れたものである。また、粉末タイプの場合は、水に再分散させる際に、容易に再分散することができ、再分散された組成物を塗布・乾燥させれば、液状タイプ同様に諸物性に優れるフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明おける合成樹脂エマルジョン組成物は、水溶性高分子化合物、カルボニル基含有アクリル系樹脂、および重量平均分子量5,000以上で、かつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有するヒドラジノ基含有高分子化合物を含んでなる。
【0030】
本発明において使用するカルボニル基含有アクリル系樹脂は、水溶性高分子化合物を乳化剤として用い、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な他の単量体とを水性媒体中で乳化重合して得られるものであることが好ましい。
【0031】
乳化剤として使用する水溶性高分子化合物は、通常の乳化重合において使用可能なものであれば特に制限は無く、例えば、ポリビニルアルコール(以下において「PVA」ということがある)、セルロース誘導体、でんぷん誘導体、ポリアクリル酸およびその塩、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、スチレン/マレイン酸共重合体、水溶性オリゴマーなどが挙げられる。これらは、単独、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、重合安定性や供給面の観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0032】
ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性、メルカプト基変性、アセトアセチル基変性、スルホン酸変性、カルボキシル基変性などの変性ポリビニルアルコールも使用できる。変性ポリビニルアルコールを使用することによって、重合安定性を改善させたり、エマルジョン粉末とする際の再分散性を向上することができる。例えば、メルカプト基変性ポリビニルアルコール、またはアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、アクリル系単量体の重合を円滑に行う上で有用である。また、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを使用することによって、ポリビニルアルコール骨格にカルボニル基が含有されることになり、通常に乳化重合しただけでカルボニル基を含有する合成樹脂エマルジョンが得られる点で有利である。
【0033】
ポリビニルアルコールは、ケン化度が85〜99.5モル%、平均重合度300〜2000であることが好ましい。耐水性の観点から、ケン化度は90モル%以上のものがより好ましく、重合時の安定性の観点から、平均重合度は100〜2000のものがより好ましい。
【0034】
なお、本明細書において、ケン化度および平均重合度は、慣用の方法により測定し求めることができる。例えば、JIS K6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0035】
本発明において、水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを使用する場合、その使用量は、合成樹脂エマルジョン組成物の製造に使用される全単量体量に対して通常3〜15重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。PVAの使用量が少なすぎると、乳化重合の際の乳化剤量が不足となり、重合安定性が不良となる傾向がある。また、PVAの使用量が多すぎると、重合が安定に進行しにくくなり、ゲル化して良好なエマルジョンが得られない場合がある。またこの場合、応用用途での耐水性が低下してしまうことがある。
【0036】
本発明において、ポリビニルアルコールは、通常、水系媒体を用いて水溶液とし、これが乳化重合の過程において使用される。この水溶液におけるポリビニルアルコールの量(不揮発分換算)については特に限定されないが、取扱い容易性の観点からは、5〜30重量%であることが望ましい。水溶液中におけるPVA量が少なすぎると、重合した合成樹脂エマルジョンの不揮発分が低くなり過ぎることがあり、また、多すぎると、水溶液の粘度が高くなり、また、経時増粘して製造上取扱い難くなる傾向がある。
【0037】
ここで、本明細書において水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、本発明においては、水が好ましく用いられる。
【0038】
カルボニル基を有する単量体としては、カルボニル基を有し、かつ、合成樹脂エマルジョンを形成するためのモノマーとして使用可能なものであれば特に制限はなく、具体例としては、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ジアセトンアクリルアミドが、他の単量体との共重合性の点から好ましい。
【0039】
本発明において、カルボニル基を有する単量体は、全単量体に対して50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、20重量%以下である。使用量が多すぎると重合時の安定性が低下する傾向がある。
【0040】
カルボニル基を有する単量体と共重合可能な単量体としては、通常の乳化重合に使用可能なものであれば特に制限なく使用でき、具体例として、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンなどの芳香族基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸;および、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を含有する単量体;(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有する単量体;アクリロニトリルなどのニトリル基を含有する単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、塩化ビニル等が挙げられる。さらには、ジビニルベンゼン、トリアリルオキシエタン、テトラオキシエタン等の構造中に2以上の不飽和結合を有する単量体;ビニルシラン等のアルコキシシリル基を有する不飽和単量体;および、グリシジル(メタ)アクリレートなどの公知の架橋構造を形成しうる官能性単量体も、共重合可能な単量体として使用することができる。
【0041】
前記共重合可能な単量体のなかでも、耐候性、耐久性などの諸物性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として含んでなるものが好ましい。具体的には、メチルメタクリレート/ブチルアクリレートの組合せ、メチルメタクリレート/アクリル酸2−エチルヘキシルの組合せ、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸2−エチルヘキシルの組合せ、ブチルアクリレート/酢酸ビニルの組合せ、ブチルアクリレート/酢酸ビニル/バーサティック酸ビニルの組合せなどが、共重合可能な単量体として好適に挙げられる。
【0042】
共重合可能なモノマーの使用量は、全単量体量に対して50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。共重合可能なモノマーの使用量が少なすぎると、重合時の安定性が低下する傾向がある。
【0043】
カルボニル基含有アクリル系樹脂の重合においては、前記水溶性高分子化合物、カルボニル基を有する単量体、および共重合可能な単量体の成分以外に、必要に応じて、他の成分をさらに用いることができる。このような他の成分としては、合成樹脂エマルジョンとしての性質を低下させることがない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このような他の成分としては、例えば、重合開始剤、還元剤、重合調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;有機過酸化物、過酸化水素、ブチルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。本発明においては、これらの中でも、皮膜物性や強度増強に悪影響を与えず重合が容易な点で過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0045】
還元剤は、好ましくは、還元性有機化合物(例えば、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等)、または、還元性無機化合物(例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)から選択することができる。より好ましくは、還元剤は、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムからなる群より選択される1種以上のものである。重合時の安定性の点から、酸性亜硫酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0046】
重合調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファーなどが挙げられる。
【0047】
ここで、連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、アセトフェノン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等の炭素数2〜8のケトン類やアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、カルボニル基を有する単量体の重合度を低下させるため、得られるエマルジョンの応用用途における耐水性および耐久性の向上を妨げることがある。このため、本発明においては、連鎖移動剤の使用を回避するか、または使用する場合でも、その使用量をできる限り低く抑えることが望ましい。
【0048】
ここで、前記バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明においては、補助乳化剤として界面活性剤をさらに使用しても良い。補助乳化剤としては、乳化重合に用いることができるものとして当業者に公知のものであれば、いずれのものでも使用可能である。例えば、補助乳化剤は、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性界面活性剤等の公知のものの中から適宜選択することができる。
【0050】
界面活性剤の好ましい具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤、および、プルロニック型構造を有するものやポリオキシエチレン型構造を有するものなどのようなノニオン性界面活性剤が挙げられる。また、該界面活性剤として、構造中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。ただし、これら界面活性剤を乳化剤として多く使用すると、高分子量のヒドラジン化合物と混合した際に、ゲル化してしまったり、あるいは、エマルジョン粉末として使用する際、エマルジョン組成物の乾燥時に粒子が凝着してしまい、再分散性が低下することがある。このため、界面活性剤を使用する場合には、その使用量は水溶性高分子化合物に対して補助的な量であること、すなわち、できる限り少なくすることが望ましい。
【0051】
本発明において、カルボニル基含有アクリル系樹脂は、水溶性高分子化合物を乳化剤として、カルボニル基を有する単量体と、共重合可能な他の単量体とを、水性媒体中で乳化重合して得ることができる。
【0052】
乳化重合の方法としては、特に制限はなく、例えば、重合缶に、水、乳化剤、モノマー全てを仕込み、昇温して、適宜重合開始剤を加えて重合を進行させるバッチ式乳化重合法;重合缶に、水、乳化剤を仕込み、昇温して、モノマーを滴下するモノマー滴下式乳化重合法;および、滴下するモノマーを予め乳化剤と水とで乳化させた後、滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法などが挙げられる。
【0053】
重合に用いるモノマーおよび他の成分は、前記したモノマーおよび/または成分から適宜選択することができる。通常、乳化重合は、乳化剤および前記モノマー成分以外に、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤等のような前記した他の成分を必要に応じて用いて実施する。また、重合の反応条件は、特に制限はなく、共重合成分の種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0054】
本発明におけるカルボニル基含有アクリル系樹脂の重合過程を、具体例を挙げて説明すると、以下の通りである。まず反応缶に保護コロイド成分としてのポリビニルアルコールと必要に応じて他の成分とを仕込み、これを昇温(例えば50〜90℃)した後、(メタ)アクリル酸エステルなどのエチレン性単量体と、重合開始剤をここに添加して乳化重合を行う。次いで、モノマー成分を、一括もしくは滴下しながら添加し、必要によりさらに重合開始剤を添加しながら乳化重合を進行させる。重合反応が完了したと判断されたところで、反応缶を冷却し、目的とするカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョンを取り出すことができる。
【0055】
本発明において、乳化重合により得られる前記カルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョンは、典型的には、均一な乳白色であって、その平均粒子径は0.05〜3.0μm(好ましくは0.5〜2.0μm)である。なおここで、エマルジョンの平均粒子径は、慣用の方法、例えばレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置LA−910(株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0056】
本発明においては、重合後のカルボニル基含有アクリル系樹脂に、必要に応じて添加剤をさらに加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0057】
水溶性添加剤は、本発明によるカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥して得られる再分散性エマルジョン粉末として供する場合に、水への再分散性を向上させる目的で加えられるものである。水溶性添加剤を使用する場合、通常、水溶性添加剤は、乳化重合後であって乾燥前の水性合成樹脂エマルジョン(以下、単に合成樹脂エマルジョンまたは水性エマルジョンとすることがある)に添加する。水溶性添加剤の使用量は、好ましくは、乾燥前の水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分に対して、5〜50重量%である。使用量が、多すぎると、再分散性エマルジョン粉末の耐水性が充分でなくなる傾向があり、少なすぎると、再分散性向上が充分に図れない傾向がある。
【0058】
水溶性添加剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、澱粉誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ウレア樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性グアナミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、および、水溶性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0059】
なかでも、ポリビニルアルコールは再分散を向上させるために有効である。使用するポリビニルアルコールは、重合過程において乳化剤として使用したものと同じものであっても良く、また異なるものであってもよい。重合中は重合度の高いポリビニルアルコールはその重合安定性から使用できないが、重合後の添加であればそのようなポリビニルアルコールであっても特に問題なく使用することができる。ただし、水への溶解度が低いものは、再分散性に悪影響を与える場合があるので、事前に水への溶解度を確認した上で使用することが望ましい。
【0060】
本発明においては、乳化重合により得られたカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョンを乾燥することによって、再分散性粉末組成物の原料として使用できるエマルジョン粉末とすることができる。
【0061】
乾燥方法は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥等が挙げられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギー、得られる粉末の再乳化性の観点から、噴霧乾燥することが好ましい。
【0062】
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式は、特に制限はなく、例えばディスク式、ノズル式などの形式により実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気などが挙げられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥基の大きさ、種類、エマルジョンの濃度、粘度、流量等に応じて適宜選択することができる。噴霧乾燥の温度は、典型的には、80〜150℃程度である。
【0063】
噴霧乾燥処理をさらに具体例を挙げて説明すると、まずカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョン中の不揮発分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により粉末化させる。
【0064】
なお、本発明においては、さらにブロッキング防止剤を併用することができる。ブロッキング防止剤は、噴霧乾燥後にエマルジョン粉末に混合したり、噴霧乾燥時にカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョンと別のノズルから噴霧するなどして使用することができる。ブロッキング防止剤としては、公知の不活性な無機または有機粉末、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト等を使用することができる。これらの中でも、平均粒径が0.01〜0.5μm程度の無水珪酸、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム等が好ましい。ブロッキング防止剤の使用量は、得られる再分散性エマルジョン粉末に対して、2〜30重量%程度であることが好ましい。
【0065】
本発明において使用するヒドラジノ基含有高分子化合物は、平均分子量が5,000以上であって分子内に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物である。
【0066】
ヒドラジノ基含有高分子化合物の重量平均分子量は、5,000以上であって、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上である。なお、上限としては通常210,000である。重量平均分子量が、5,000より少ないと、充分に強靭なフィルムができないことがある。また、分子内のヒドラジノ基の数は3以上で、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。分子内のヒドラジノ基の数が3よりも少ない場合は、フィルム強度や耐水性が低下する傾向がある。
【0067】
ヒドラジノ基含有高分子化合物は、重量平均分子量が5,000以上であって分子内に3以上のヒドラジノ基を有する高分子化合物であれば特に制限はないが、アミノポリアクリルアミドのヒドラジン変性したもの、すなわちアミノポリアクリルアミド誘導体が好ましい。本発明の好ましい態様によれば、ヒドラジノ基含有高分子化合物は、その構造が下記の構造式で表されるものである。
【0068】
【化1】

【0069】
ここで式(I)中、nは3以上であり、mは、nが3以上となって、かつヒドラジノ基含有高分子化合物の重量平均分子量が5000以上となるような範囲において適宜選択することができる。
【0070】
例えば、mは、5〜500の範囲であり、nは、3〜2000の範囲であることができる。好ましくは、mは、10〜400の範囲であり、より好ましくはmは、20〜300の範囲である。またnは、好ましくは5〜1500の範囲であり、より好ましくは10〜1000の範囲である。
【0071】
本発明において、ヒドラジノ基含有高分子化合物は、常温で粉末の形状であり、液体の合成樹脂エマルジョンと混合する際には、典型的には、水へ溶解して使用する。また、ヒドラジノ基含有高分子化合物は、水への溶解度が高く、40〜50%の高濃度の水溶液として使用することもできる。従来、ヒドラジノ基を有する化合物(低分子化合物)として使用されているアジピン酸ジヒドラジドなどの多くのものは、10%以下の濃度でしか水に溶解しない。このため、本発明においては、水への溶解度が高いヒドラジノ基含有高分子化合物を使用するため、混合後の合成樹脂エマルジョン組成物の不揮発分を高く維持することができ、その結果、塗布した際に早く組成物を乾燥をさせることが可能となる。
【0072】
合成樹脂エマルジョン組成物の製造
本発明による合成樹脂エマルジョン組成物は、成分(A)の水溶性高分子化合物とカルボニル基含有アクリル系樹脂を含んでなる合成樹脂エマルジョンと、成分(B)のヒドラジノ基含有高分子化合物とを混合して撹拌することによって得ることができる。例えば、混合および撹拌の操作は、慣用の撹拌機を用いて合成樹脂エマルジョンを撹拌しながら、そこに徐々にヒドラジノ基含有高分子化合物の水溶液を添加することにより実施することができる。
【0073】
よって、本発明の一つの態様によれば、カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水系媒体に分散した水性エマルジョンの形態であって、合成樹脂エマルジョン組成物が液状である。
【0074】
また、本発明の別の態様によれば、水溶性高分子化合物を乳化剤として、カルボニル基を有する単量体と、共重合可能な他の単量体とを、水系媒体中で乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョンに、ヒドラジノ基含有高分子化合物の水溶液を混合させて攪拌することを含んでなる、合成樹脂エマルジョン組成物の製造方法が提供される。
【0075】
本発明の合成樹脂エマルジョン組成物は、再分散性粉末とすることができる。ここで「再分散性」粉末とは、水系媒体(例えば水)に再分散させるとエマルジョンを生成することができる粉体のことをいう。再分散性粉末は、液状の合成樹脂エマルジョン組成物を前記したように噴霧乾燥することによって得ても良いが、前記カルボニル基含有アクリル系樹脂のエマルジョンを噴霧乾燥して得たエマルジョン粉末と、ヒドラジノ基含有高分子化合物の粉末とを混合(粉体混合)して得ることもできる。
【0076】
よって、本発明の別に態様によれば、前記カルボニル基含有アクリル系樹脂のエマルジョンを噴霧乾燥して得たエマルジョン粉末と、ヒドラジノ基含有高分子化合物の粉末とを混合(粉体混合)して得られる、本発明の合成樹脂エマルジョン組成物の再分散性粉末が提供される。製造効率の観点からは、前記カルボニル基含有アクリル系樹脂のエマルジョンを噴霧乾燥する際に、別のノズルより同時に噴霧して、乾燥と同時に混合を行うこともできる。
【0077】
本発明による合成樹脂エマルジョン組成物におけるカルボニル基含有アクリル系樹脂とヒドラジノ基含有高分子化合物との配合割合は、カルボニル基を含む単量体のカルボニル基と、ヒドラジノ基含有高分子化合物のヒドラジノ基との比に着目して決定することが望ましい。したがって、ヒドラジノ基含有高分子化合物におけるヒドラジノ基に対して、カルボニル基を含む単量体のカルボニル基が、0.1〜20当量となるような量で配合してなることが好ましく、より好ましくは、0.5〜10当量となるような量で配合してなる。
【0078】
用途
本発明による合成樹脂エマルジョン組成物は、耐水性等の諸物性に優れた常温架橋型のものである。このため、本発明によるエマルジョン組成物は、セメント・モルタル混和剤、セメント・モルタル塗布剤、土木用原料、塗料、接着剤、粘着剤(感圧接着剤)、繊維加工剤、紙加工材、無機物バインダー、塩化ビニル等の樹脂改質剤、汚泥や産業廃棄物等の粘性土の固化安定剤、表面保護用再剥離性被覆材、化粧品用途等に好適に用いることができる。
【0079】
また、本発明による再分散性粉末は、水硬性材料への添加剤、粉末塗料、接着剤などの各種用途に用いることができる。好ましくは、各種セメント、石膏等の水硬性材料への添加剤として使用できる。
【0080】
本発明による合成樹脂エマルジョン組成物または再分散性粉末は、無機水硬性材料と粉末のままで混合でき、その他の材料も加えて、一材の粉末製品として現場で水を練り混ぜるだけで使用できる。本発明による合成樹脂エマルジョン組成物を水硬性材料に添加すると、常態接着力の向上のみならず、湿潤時の接着力も向上させることできる。このため、一材化製品の利用範囲をさらに広げることができる。
【0081】
したがって、本発明によれば、本発明による合成樹脂エマルジョン組成物または再分散性粉末と、無機水硬性材料とを含んでなる無機水硬性組成物が提供される。ここで、無機水硬性材料としては、例えば、ポルトランドセメント、早強性セメント、速硬性セメントなどの各種セメント系材料、無水石膏、半水石膏、焼石膏などの各種石膏系材料、高炉スラグ等が挙げられる。ここで、無機水硬性組成物は、さらに他の材料も含むことができる。このような他の材料としては、例えば、珪砂、フライアッシュ、石灰石紛、水酸化カルシウム、消石灰、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0082】
無機水硬性組成物における、本発明による再分散性粉末の含有量は、無機水硬性材料の量100重量部に対して、通常1〜30重量部程度であることが好ましく、より好ましくは5〜20重量部である。少なすぎると、接着力向上が不充分となる傾向があり、多すぎると、水硬性材料本来の性能が発揮されない傾向がある。
【0083】
本発明の別の態様によれば、下記成分(A)および(B)からなる組合せ物が提供される:
(A)水溶性高分子化合物、およびカルボニル基含有アクリル系樹脂を含んでなる第1の組成物、
(B)平均分子量5,000以上でかつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有する、ヒドラジノ基含有高分子化合物を含んでなる第2の組成物からなる混合物。カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水溶性高分子化合物を乳化剤として用いて、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な単量体を含む単量体を乳化重合してなる合成樹脂エマルジョンであることが好ましい。
【0084】
本発明による組合せ物を使用する場合、第1の組成物および第2の組成物を別々に用意し、使用する現場において、必要に応じて混合して使用することができる。第1の組成物および第2の組成物は、必要に応じて、それぞれ、液状(または水溶液)としたり、粉末としたりすることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の要旨を超えない限りこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、実施例において「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。
【0086】
合成樹脂エマルジョンの製造
合成樹脂エマルジョン1:
撹拌装置、温度計、コンデンサー、および滴下ロートを備えたセパラブルフラスコ(反応缶)に、250部の水と、平均重合度300でケン化度98.0〜99.0%のポリビニルアルコール(商品名:PVA103、クラレ株式会社製)7部とを仕込み、反応缶を80℃に加熱して、ポリビニルアルコールを水に溶解させた。次に、反応缶の温度を80℃に保ち、ここに、共重合可能な単量体として、ブチルアクリレート5部、メチルメタクリレート5部、およびジアセトンアクリルアミド0.1部を反応缶に添加して、緩衝剤として酢酸ナトリウム0.36部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1部、還元剤として酸性亜硫酸ナトリウム0.2部をそれぞれ用いて、初期重合反応を1時間行った。次いで、モノマー成分として、ブチルアクリレート70部、メチルメタクリレート20部、およびジアセトンアクリルアミド0.9部を反応缶に約4時間にわたって滴下し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部をさらに加えながら滴下重合反応を進行させた。滴下終了後に熟成させ、冷却して反応を完結させた。これにより不揮発分濃度約30%のカルボニル基含有アクリル系樹脂の合成樹脂エマルジョン1を得た。
【0087】
合成樹脂エマルジョン2:
ジアセトンアクリルアミドの添加量を初期重合反応で1部、滴下重合反応で2部に変更した以外は、前記合成樹脂エマルジョン1と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョン2を得た。
【0088】
合成樹脂エマルジョン3:
反応缶へ仕込む水を260部とし、ジアセトンアクリルアミドの添加量を初期重合反応で3部、滴下重合反応で7部に変更した以外は、前記合成樹脂エマルジョン1と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョン3を得た。
【0089】
合成樹脂エマルジョン4:
反応缶へ仕込む水を270部とし、ポリビニルアルコールを、平均重合度500でケン化度86.5〜89.0%のポリビニルアルコール(商品名:GL05、日本合成化学工業株式会社製)に変更し、ジアセトンアクリルアミドの添加量を初期重合反応で2部、滴下重合反応で3部に変更した以外は、前記合成樹脂エマルジョン1と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョン4を得た。
【0090】
合成樹脂エマルジョンA(比較例):
反応缶へ仕込む水を240部とし、ポリビニルアルコールを、ノニオン性界面活性剤であるエマルゾーゲンEPN287(商品名)(70重量%溶液:クラリアントジャパン株式会社製)5.7部に変更した以外は、前記合成樹脂エマルジョン1と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョンAを得た。
【0091】
合成樹脂エマルジョンB(比較例):
反応缶へ仕込む水を240部とし、ポリビニルアルコールを、ノニオン性界面活性剤であるエマルゾーゲンEPN287(商品名)(クラリアントジャパン株式会社製)1.4部とアニオン性界面活性剤であるエマルゾーゲンEPA073(商品名)(30重量%溶液:クラリアントジャパン株式会社製)3.3部に変更した以外は、合成樹脂エマルジョン1と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョンBを得た。
【0092】
合成樹脂エマルジョンC(比較例):
反応缶へ仕込む水を260部とし、ポリビニルアルコールを、エマルゾーゲンEPA073(商品名)(クラリアントジャパン株式会社製)6.6部に変更した以外は、前記合成樹脂エマルジョン3と同様にした。これにより不揮発分濃度約30%の合成樹脂エマルジョンCを得た。
【0093】
合成樹脂エマルジョン1〜4および合成樹脂エマルジョンA〜Cの組成およびその物性を、表1に示した。
【0094】
合成樹脂エマルジョンの粉末化
エマルジョン粉末1〜3:
100部の合成樹脂エマルジョン1に、ポリビニルアルコール(商品名:AH−17、日本合成化学工業製)の10%溶液を50部混合して、これを、抗粘結剤(商品名:ハイドロカルブ、プルス−スタウファ(PLUSS-STAUFER)社(スイス)製、炭酸カルシウム)の存在下において、噴霧乾燥させ、エマルジョン粉末(エマルジョン粉末1)を得た。
【0095】
合成樹脂エマルジョン1を、それぞれ合成樹脂エマルジョン2または3に変更した以外は、前記手順と同様にして、エマルジョン粉末2および3を得た。
【0096】
使用するヒドラジノ基を含有する化合物(ヒドラジン化合物)
使用するヒドラジノ基を含有する化合物としては、市販品を用いた。比較例としては、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を使用した。使用した化合物は表2にまとめた。
【0097】
合成樹脂エマルジョン組成物の製造
実施例1:
合成樹脂エマルジョン1に、ヒドラジン化合物APA−P950(商品名)(分子量約9万のヒドラジノ基含有高分子化合物:大塚化学製)の50重量%水溶液を、ジアセトンアクリルアミドに対するヒドラジン化合物のモル比が1になるように攪拌しながら添加して混合した。
【0098】
実施例2〜8:
実施例1と同様に合成樹脂エマルジョン1〜4を表3の組成に従って混合した。
【0099】
実施例9:
エマルジョン粉末1 100部に、ヒドラジン化合物APA−P950(商品名)(分子量約9万のヒドラジノ基含有高分子化合物:大塚化学製)を、ジアセトンアクリルアミドに対するヒドラジン化合物のモル比が1になるように添加して混合し、粉末組成物とした。この粉末組成物100部を水200部の入った容器に充分攪拌しながら添加し、均一なエマルジョン状態となるまで攪拌し、評価試験に供した。
【0100】
実施例10〜11:
実施例9と同様にエマルジョン粉末2および3を表4の組成に従って混合し、粉末組成物とし、その後再乳化させ、評価試験に供した。
【0101】
比較例1:
合成樹脂エマルジョン1 100部に、ヒドラジン化合物としてのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)の5%水溶液を、ジアセトンアクリルアミドに対するヒドラジン化合物のモル比が1になるように攪拌しながら添加して混合した。
【0102】
比較例2〜8:
比較例1と同様に合成樹脂エマルジョン2〜4および合成樹脂エマルジョンA〜Cを、表5の組成に従って混合した。
【0103】
評価試験
評価A:混合安定性試験
得られた合成樹脂エマルジョン組成物を、それぞれ40℃の条件下にて7日間静置し、粘度上昇やゲル化などの変質がないかを下記の基準に基づいて評価した。
判定基準:
○:粘度上昇率が1〜2倍である場合
×:粘度上昇率が2倍より大きい場合
【0104】
結果は表3〜表5に示されるとおりであった。
なお表中の数値は、各合成樹脂エマルジョン組成物に使用したカルボニル基含有単量体(ジアセトンアクリルアミド)に対するヒドラジン化合物のモル比を表す。
【0105】
評価B:フィルムの引っ張り強度試験
ガラス板に貼り付けたポリエチレンフィルムの四方にセロテープ(登録商標)を貼り付けて100×100mm2の枠を作り、その中に不揮発分20重量%の各合成樹脂エマルジョン組成物10重量部を流し込み、40℃の条件下にて16時間乾燥させ、フィルムを形成させた。乾燥後、各フィルムを1.0cm×3.0cmの大きさに切り取って、それを各5片ずつ用意した。これらを、引っ張り試験機(商品名:島津オートグラフIM−100、島津製作所株式会社製)(引っ張り速度30cm/1min)を用いて、その切断時の強伸度を測定した。測定値は、各合成樹脂エマルジョン組成物について試験片の5回の平均値として求めた。
【0106】
ヒドラジノ基を構造中2つ有するアジピン酸ジヒドラジドを、実施例1〜11および比較例1〜8において使用したヒドラジド化合物と同モル比になるようにそれぞれ配合したものを作成し、各例について、それぞれフィルムの引っ張り最大強度との比較を行った。結果を下記判定基準に従って評価した。
判定基準:
◎:1.50倍以上
〇:1.20倍以上で、1.50倍未満
△:0.90倍以上で、1.20倍未満
×:0.90倍未満
【0107】
結果は表3〜表5に示されるとおりであった。
なお表中の数値は、各合成樹脂エマルジョン組成物に使用したカルボニル基含有単量体(ジアセトンアクリルアミド)に対するヒドラジン化合物のモル比を表す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物、カルボニル基含有アクリル系樹脂、および重量平均分子量5,000以上で、かつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有するヒドラジノ基含有高分子化合物を含む合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項2】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水溶性高分子化合物を乳化剤として用いて、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な単量体とを含む単量体を乳化重合して得られるものである請求項1記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項3】
カルボニル基を有する単量体が、ジアセトンアクリルアミドである請求項1または2記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項4】
共重合可能な単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む請求項2または3記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項5】
水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールである請求項1〜4のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項6】
ポリビニルアルコールが、ケン化度85〜99.5モル%で、かつ平均重合度300〜2000である請求項5記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項7】
ヒドラジノ基含有高分子化合物の重量平均分子量が、10,000以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項8】
ヒドラジノ基含有高分子化合物が、アミノポリアクリルアミド誘導体である請求項1〜7のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項9】
ヒドラジノ基含有高分子化合物が、分子内に10以上のヒドラジノ基を有する請求項1〜8のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項10】
カルボニル基を含む単量体におけるカルボニル基が、ヒドラジノ基含有高分子化合物におけるヒドラジノ基に対して0.1〜20当量である請求項2〜9記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項11】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水系媒体に分散した水性エマルジョンの形態であって、合成樹脂エマルジョン組成物が液状である請求項1〜10記載の合成樹脂エマルジョン組成物。
【請求項12】
カルボニル基含有アクリル系樹脂の水性エマルジョンを噴霧乾燥して得たエマルジョン粉末と、ヒドラジノ基含有高分子化合物の粉末とを混合して得られる請求項1〜11のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物の再分散性粉末。
【請求項13】
(A)水溶性高分子化合物、およびカルボニル基含有アクリル系樹脂を含んでなる第1の組成物、および(B)平均分子量5,000以上でかつ分子内に3以上のヒドラジノ基を有する、ヒドラジノ基含有高分子化合物を含んでなる第2の組成物からなる混合物。
【請求項14】
カルボニル基含有アクリル系樹脂が、水溶性高分子化合物を乳化剤として用いて、カルボニル基を有する単量体、およびそれと共重合可能な単量体を含む単量体を乳化重合してなる合成樹脂エマルジョンである請求項13記載の混合物。
【請求項15】
請求項11記載の液状の合成樹脂エマルジョン組成物、または請求項12記載の再分散性粉末を水に再分散させてなる液状組成物を、塗工面に塗布する工程、塗布した液状組成物を乾燥させる工程からなる耐水性架橋フィルムの形成方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の合成樹脂エマルジョン組成物、または請求項12記載の再分散性粉末と、無機水硬性材料とを含んでなる無機水硬性組成物。

【公開番号】特開2007−16218(P2007−16218A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157056(P2006−157056)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】