合成樹脂製カップ状容器
【課題】 本発明は、目的に応じてフランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することを課題とするものである。
【解決手段】 合成樹脂製カップ状容器において、フランジの、全厚さに亘る範囲や、上面側部分や、下面側部分や、中間部分を除いた上面側部分と下面側部分等の所定部分を熱板での予熱とその後のレーザー光照射による熱結晶化領域とする。
【解決手段】 合成樹脂製カップ状容器において、フランジの、全厚さに亘る範囲や、上面側部分や、下面側部分や、中間部分を除いた上面側部分と下面側部分等の所定部分を熱板での予熱とその後のレーザー光照射による熱結晶化領域とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジが熱結晶化処理された合成樹脂製のカップ状容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)樹脂製のプリフォームを二軸延伸ブロー成形することにより得られる所謂PETボトル等の容器は、機械強度、耐熱性、透明性、バリヤー性、衛生性等に優れており、飲料などの食品容器等に多用されている。
【0003】
そして、PETボトルのほかにも、上記したような優れた性質を生かして、コーヒー、乳飲料等80〜90℃程度での殺菌のための高温充填、あるいは無菌充填を要する用途向けに、2軸延伸ブロー成形したPET樹脂製の、あるいはポリプロピレン樹脂製の広口のカップ状容器が普及している。そしてこのカップ状容器は上端に外鍔状に周設したフランジの上面を利用してアルミ箔や樹脂合成紙などの蓋材を接着して容器を密閉するようにして利用される。
【0004】
たとえば、特許文献1にPET樹脂製の広口のカップ状容器の2軸延伸ブロー成形方法に関する記載があるが、その2軸延伸ブロー成形は図11の概略説明図に示されるようなものであり、上端にフランジ114を周設した小型カップ状のプリフォーム111のフランジ114部分を固定して、2軸延伸ブロー成形が実施され、カップ状容器101が成形される。
【0005】
ここで、2軸延伸ブロー成形された成形品において、2軸延伸された部分は延伸による配向結晶化により耐熱性が向上しているが、PETボトルにおける口筒部、あるいは上記したカップ状容器のプリフォーム111におけるフランジ114は無延伸状態であり、70℃程度の耐熱性はあるものの、上記したような高温での充填工程、あるいは過酸化水素の熱風殺菌工程により熱変形してしまう。
【0006】
上記のような口筒部やフランジ等の無延伸部分等の耐熱性を向上させるためにはプリフォームの状態で、あるいは容器の状態で、これら部分だけを加熱して熱結晶化処理(所謂白化処理)を実施する。たとえばPETボトルの場合には、多くの場合プリフォームの状態で、口筒部を赤外線または近赤外線で照射する方法が採用されている。この際、試験管状のプリフォームを治具に固定し、中心軸回りに回転させながら口筒部の全周に亘って均一になるようにする。
【0007】
また、カップ状容器のフランジあるいはフランジと頸部の熱結晶化処理方法として特許文献2には、フランジ等に熱板を接触させて部分的に熱結晶化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−268570号公報
【特許文献2】特開2004−58602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、PETボトルの口筒部が肉厚円筒状であるのに対して、カップ状容器のフランジ、あるいは頸部は比較的薄肉であり、僅かな熱結晶化処理の強度の違い(斑)により、大きく変形するし、また、たとえばフランジのみを熱結晶化する場合には、フランジという極く限定された箇所を加熱する必要があり、この点、赤外線を照射する従来の方法での部分的な加熱は難しい。
【0010】
また、特許文献2に記載されている、熱板を接触させて部分的に加熱する方法には以下の問題がある。
(1)熱板が接触したフランジ面に小さなクレーター状の凹凸が発生し、外観が損なわれ、また蓋材によるシール性が不完全となる。なおこの凹凸は加熱により揮散した成分が、フランジ面と熱板との間にトラップされて発生するものと推定される。
(2)フランジだけに接触させて、フランジだけを加熱するためには、熱板を極く小型にする必要があり、フランジの全周に亘って加熱を均一にすることが困難である。
たとえば熱板の影響でプリフォームの胴部の一部で熱結晶化が進行してしまうと2軸延伸ブロー成形での延伸が不均一になってしまう。また当該部分の白化により外観が損なわれる。
(3)赤外線の照射のように非接触でないのでプリフォームや最終成形品を回転させて全周に亘って均一に加熱することができない。
【0011】
そこで本発明は、カップ状容器のフランジを含む部分の熱結晶化処理方法に係る上記問題点を解決するために創案した新たな熱結晶化処理方法により目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここで、まず本願発明者らが創出した、カップ状容器のフランジを含む部分の熱結晶化処理方法に係る、上記した従来技術の問題点を解決するための新たな熱結晶化処理方法について説明し、次に本願発明の合成樹脂製カップ状容器について説明する。
この熱結晶化処理方法に係る第1の方法は、
合成樹脂製カップ状容器のフランジをまず熱板で予熱し、その後にレーザー光の照射により加熱して熱結晶化すること、あるいは2軸延伸ブロー成形して合成樹脂製カップ状容器を成形するためのプリフォームのフランジをまず熱板で予熱し、その後レーザー光の照射により加熱して熱結晶化すること、にある。
【0013】
本願発明者らは、まずレーザー光の照射によるフランジの加熱を検討した。
レーザー光の照射による加熱は、赤外線の照射のように非接触で加熱でき、そしてレーザー光は直線性に優れているので、所定箇所に限定して照射することができ、幅が数mm程度のフランジという限定した部分のみを加熱することが可能である。
【0014】
しかしながら、このレーザー光による加熱条件を検討する中で、加熱時間を短縮するためレーザー光の出力を大きくすると、フランジ全体が急激に加熱され、溶融し大きく変形したり、焼けが発生し、実際の製造工程での加熱条件の制御が難しいという問題があることが判った。
また、このような変形や焼けが発生しないようにレーザー光を緩やかな条件で照射して加熱すると処理時間が長くなってしまう。
また、熱板で上下から挟み込むこともないので、レーザー光の出力を比較的小さくして時間を長くするような加熱条件であっても熱収縮が発生してフランジの幅がかなり狭くなってしまうという問題があることも判った。
【0015】
上記した第1の方法は、上記したレーザー光による加熱の長所と問題点、そして従来技術の熱板による加熱の長所と問題点を考慮して創案されたものである。
すなわち、第1段階の熱板により予熱する工程(以下予熱工程と記す。)により、予め決めた温度範囲まで熱板からの熱伝導により短時間にフランジを予熱することができ、次に第2段階のレーザー光を照射して加熱する工程(以下加熱工程と記す。)では非接触で加熱するので、フランジ面での揮散成分によるクレーター状の凹凸の発生を防止することができ、熱板単独での加熱による凹凸発生の問題と、レーザー光照射単独での加熱による生産性の問題を共に解消することができる。
【0016】
ここで、予熱工程でより高温、長時間で予熱するとトータルの時間を短縮することができるが、一方でその限界があり、揮散成分によると推定される小さなクレーター状の凹凸が発生しないように、あるいはフランジ等の所定領域以外の部分が加熱されて熱結晶化しないようにする必要があり、この予熱をどの程度までにするかは、フランジの肉厚、残留応力の状態、そしてトータルの処理時間等を考慮しながら、予備試験等を実施して決めることができる。
【0017】
また、予熱工程で加熱時間を短縮できるので、加熱工程におけるレーザー光の出力を、フランジが変形したり焼けが発生したりする問題のない範囲として、安定した操業条件で実際の熱結晶化処理工程に組み込むことができると共に、予熱工程と加熱工程のトータル時間をレーザー光単独による加熱時間より略1/2程度にも短くすることができる。
【0018】
また、予熱工程では熱板の押圧力によりフランジのフリーな変形を拘束した状態で加熱して、フランジにおける残留応力を緩和することができ、加熱工程でのフリーな状態でのレーザー光照射による加熱での大きな収縮変形の発生や、反り変形の発生を抑制することができる。
【0019】
また、レーザー光照射による加熱は非接触の加熱方式であるので被照射部分を回転しながら照射による加熱をすることができ、フランジの全周に亘ってのより均一な熱結晶化が可能となる。
【0020】
また、レーザー光の照射は必要に応じて、フランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からも、することができる。
また、必要に応じてフランジ全体でなく、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能となる。たとえばフランジの基端部と先端部を除いた部分だけ、レーザー光を照射することもできるし、フランジの上面側近傍あるいは下面側近傍を除いた部分だけを限定して加熱して熱結晶化処理することも可能である。
【0021】
また、この第1の方法により必要に応じて、フランジと同時に頸部の限定された高さ幅領域を熱結晶化処理することも可能である。
この頸部についてはフランジ同様、予熱と加熱の2段階で加熱することもできるし、比較的薄肉であり、レーザー光照射による加熱のみとすることもできる。
【0022】
上記のように、熱結晶化処理に係る第1の方法は、フランジの加熱を熱板による予熱と、レーザー光照射による加熱の2段階に分けて実施することにより、変形を規制しながら短時間に加熱できるという熱板による加熱の長所と、限定した範囲を非接触で加熱できるというレーザー光による加熱の長所を組み合わせたものであり、これにより、レーザー光による加熱を実際の熱結晶化処理工程取り入れて、安定して短時間にフランジに大きな変形のない、そしてフランジ面に凹凸にない容器、あるいはプリフォームを提供できるようになった。
【0023】
なお、プリフォームの段階で、熱板とレーザー光による2段階の加熱を実施する方法では、このプリフォームを用いて2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ、あるいは頸部も含めて耐熱性の高いカップ状容器を提供することができる。
【0024】
熱結晶化処理を最終成形品であるカップ状容器で実施するか、あるいはプリフォームで実施するかは、全体的な生産工程を考慮して選択することができるが、プリフォームのほうが小型の成形品であり、また成形品として全体的に厚肉であるので治具による姿勢の保持がしやすく一般的には高い生産で実施できるという利点がある。
【0025】
熱結晶化処理方法に係る第2の方法は、さらに熱板による予熱の温度および時間条件を、フランジで熱結晶化が進行しないように、かつフランジの内部応力の緩和が可能なように、予め決めた範囲とすること、にある。
【0026】
第2の方法は、熱板による予熱をどの程度の範囲にするかの指針の一つに相当するものであり、フランジで熱結晶化が進行しないような範囲とすることにより、予熱工程での結晶化を最小限に抑えて、所定の範囲外の部分での結晶化を抑制することができる。
【0027】
また、フランジの内部応力の緩和が可能なようにすることにより、予熱段階で内部応力を十分に緩和させることができる。より具体的には、フランジの温度が合成樹脂のガラス転移温度以上の温度、そして熱結晶化が促進される温度以下の温度になるようにして、所定時間予熱するのが好ましい。
【0028】
熱結晶化処理方法に係る第3の方法は、さらにレーザー光の照射後に、冷却板でフランジを冷却すること、にある。
【0029】
第3の方法によって、冷却板による冷却によりフランジの形状、微細な凹凸に係る表面性状を設計通りの適切なものとでき、また、特にフランジ上面をよりフラットにして蓋材の熱シールを容易なものとすることができる。
【0030】
熱結晶化処理方法に係る第4の方法は、さらにフランジを上下から熱板で挟んで予熱すること、にある。
【0031】
第4の方法によって、上下から熱板で挟んでフランジをより確実に拘束しながら、より短時間に、均一に予熱することができる。
なお、熱板での予熱は必ずしも上下から熱板で挟む上記方法に限定されるものではなく、目的に応じて上側だけ、あるいは下側だけを熱板とすることもできるが、変形に係る拘束を確実にするために少なくとも反対側を板片等で支えておくことが好ましい。
【0032】
熱結晶化処理方法に係る第5の方法は、さらにカップ状容器、あるいはプリフォームを中心軸回りに回転させながら、レーザー光をフランジに照射すること、にある。
【0033】
第5の方法は、特にフランジが円筒状の頸部の上端から中心軸対象に外鍔状に円形環状に周設されている場合に有効であり、レーザー光の照射位置は固定して、カップ状容器、あるいはプリフォームを回転可能な治具に固定して、中心軸回りに回転させることにより、レーザー光をフランジ、あるいは頸部の全周に亘って均一に照射することができる。
【0034】
次に、本願発明の合成樹脂製カップ状容器について説明するが、これらは上記説明した本願発明者らによる、カップ状容器のフランジを含む新たな熱結晶化処理方法によって実現可能なものである。
本願の合成樹脂製カップ状容器係る請求項1記載の構成は、
合成樹脂製カップ状容器において、フランジの所定部分を、熱板での予熱とその後のレーザー光照射による熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0035】
フランジの加熱を熱板による予熱と、その後のレーザー光照射による加熱の2段階に分けて実施することにより、安定した条件でレーザー光照射でき、短時間にフランジ面に凹凸にないカップ状容器を提供できるが、レーザー光の照射はフランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からもでき、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能であり、請求項1記載の上記構成により、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することができる。
【0036】
以下に記載する請求項2〜5に記載される構成はそれぞれ請求項1記載の構成において、具体的な熱結晶化領域を定めたものである。
請求項2記載の構成は、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0037】
請求項2記載の上記構成により、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とすることにより、無菌充填等の高い耐熱性が必要とされる用途に使用することができる。
【0038】
請求項3記載の構成は、フランジの上面側部分を熱結晶化領域とし、他の部分を非晶部分とする、と云うものである。
【0039】
請求項3記載の上記構成により、上面側部分を熱結晶化領域とすることにより、上述した全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする場合ほどの耐熱性はないものの、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができる。また下面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
またレーザー照射による加熱工程ではレーザー光源を上面側だけに配設すれば良い。
【0040】
請求項4記載の構成は、フランジの上面側部分を非晶部分とし、あるいは結晶化を進行させない状態で残して、残りの部分を熱結晶化領域とすること、にある。
【0041】
請求項4記載の構成は、フランジの下面側からレーザー光を照射して実現することが可能であり、特にフランジの上面を利用してアルミラミネートフィルムや樹脂合成紙等を基材とした蓋材を熱溶着により接着して容器をシールする際に効果的である。すなわち、シール面であるフランジの上面の結晶化を進行させると、蓋を熱溶着する際に、フランジの上面の軟化、あるいは溶融が困難になり、蓋の接着が難しくなってしまう。本請求項にあるように上面側部分を非晶部分として残し、あるいは結晶化を進行させないでおくことにより、蓋材の接着を容易に達成することができる。
【0042】
また請求項4記載の上記構成により、上面側部分を除いた他の部分を熱結晶化領域とすることにより、全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする場合ほどの耐熱性はないものの、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができる。
また上面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
【0043】
ここで、たとえばポリプロピレン系樹脂は未延伸部分であるフランジも部分的に結晶化しているが、PET樹脂の場合には未延伸部分のフランジは非晶状態であるので、本請求項4では上面側部分を非晶部分として、あるいは結晶化を進行させない状態でというように記載をした。
【0044】
請求項5記載の構成は、フランジの上面側部分と下面側部分を熱結晶化領域とし、中間部分を非晶領域、あるいは結晶化の進行のない領域とする、と云うものである。
【0045】
請求項5記載の上記構成により、靭性の優れた非晶領域を、耐熱性および剛性の高い熱結晶化領域で挟んだサンドイッチ構造にすることができ、フランジの耐熱性および剛性と、靭性を共に高いレベルで発揮せしめることができる。
【0046】
なお、前述したように請求項4の構成はフランジの下面側からレーザー光を照射することにより実現することが可能であるが、フランジのどの部分を結晶化領域にするかに応じてレーザー光の照射は上面側から、あるいは両側からも実施できる。また必要に応じて横から同時に頸部に照射することもできる。そしてこれらの照射態様によって、請求項3〜5に記載されるように目的に応じて非晶部分を上面、下面、あるいは中間層に残すこともでき、さまざまに結晶化領域と非晶領域を配分したり、領域によって結晶化の程度を変えて配分することができる。
【0047】
請求項6記載の構成は、さらにフランジと共に、フランジ直下の頸部を熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0048】
請求項7記載の構成は、さらにPET系樹脂製とする、と云うものである。
【0049】
PET系樹脂は、射出成形により透明性に優れ、剛性の高いカップ状容器を提供することができるし、また、プリフォームを2軸延伸ブロー成形したり、シート成形品を2軸延伸状に熱成形することにより、より優れた耐熱性、剛性、強度、ガスバリア性を有するカップ状容器を提供することができる。
【0050】
なお、本請求項7において、PET系樹脂としては、主としてPETが使用されるが、PET樹脂の本質が損なわれない限り、エチレンテレフタレート単位を主体として、他のポリエステル単位を含む共重合ポリエステルも使用できると共に、たとえばガスバリア性や耐熱性を向上させるためにナイロン系樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等の樹脂をブレンドして使用することもできる。共重合ポリエステル形成用の成分としては、たとえばイソフタル酸、ナフタレン2,6ジカルボン酸、アジピン酸等のジカルボン酸成分、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等のグリコール成分を挙げることができる。
【0051】
さらに、本請求項7において、PET系樹脂製のカップ状容器、あるいはプリフォームとしては、PET樹脂製としての本質が損なわれない限り、たとえば耐熱性、ガスバリア性の向上のために、PET樹脂/ポリエチレンナフタレート樹脂、あるいはPET樹脂/ナイロン樹脂/PET樹脂等のように他樹脂との積層したものであっても良い。
【発明の効果】
【0052】
本発明の合成樹脂製カップ状容器は上記した構成であり、以下に示す効果を奏する。
請求項1記載の構成にあっては、レーザー光の照射はフランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からもでき、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能であり、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することができる。
【0053】
請求項2記載の構成にあっては、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とすることにより、無菌充填等の高い耐熱性が必要とされる用途に使用することができる。
【0054】
請求項3記載の構成にあっては、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができ、また下面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
【0055】
請求項4記載の構成にあっては、フランジの上面部分を非晶部分として、あるいは結晶化を進行させないで残すことにより、アルミラミネートフィルムや樹脂合成紙等を基材とする蓋材を熱溶着により容易に接着することができ、容器を容易に、確実に密閉することができる。
【0056】
請求項5記載の構成にあっては、非晶領域を、熱結晶化領域で挟んだサンドイッチ構造にすることができ、フランジの耐熱性および剛性と、靭性を共に高いレベルで発揮せしめることができる。
【0057】
請求項6記載の構成にあっては、フランジと共に、フランジ直下の頸部を熱結晶化領域とすることにより、フランジと共に、横方向への延伸がほとんどなく用途によっては耐熱性が不足する頸部の耐熱性を高くしたカップ状容器を提供することができる。
【0058】
請求項7記載の発明にあっては、PET系樹脂は2軸延伸成形に適した合成樹脂であり、2軸延伸ブロー成形すると共に、フランジを熱結晶化処理することにより、優れた耐熱性、強度、ガスバリア性を有するカップ状容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】熱結晶化処理方法の実施形態を概略的に示す説明図である。
【図2】図1中の予熱工程を一部縦断して示す正面図である。
【図3】図1中の加熱工程を一部縦断して示す正面図である。
【図4】図3中でのレーザー光の照射状態をプリフォームの平面図で示す説明図である。
【図5】図1中の冷却工程を一部縦断して示す正面図である。
【図6】図1の処理方法によって得られた本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームのフランジの熱結晶化領域のパターンの例を概略的に示す半縦断面図である。
【図7】本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームの他の熱結晶化領域のパターン例を示す説明図である。
【図8】加熱工程の他の例を示す概略説明図である。
【図9】本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームのさらに他の熱結晶化領域のパターン例を示す説明図である。
【図10】本発明のカップ状容器の一実施例を示す半縦断正面図である。
【図11】カップ状容器の2軸延伸ブロー成形の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は本願発明者らが創出した、カップ状容器あるいはそのプリフォームのフランジを含む部分の新たな熱結晶化処理方法を概略的に示す説明図であり、熱板33による予熱工程H1と、レーザー光32の照射による加熱工程H2と、冷却板35による冷却工程CLを有する。また、図2は予熱工程H1、図3は加熱工程H2、図5は冷却工程CLをそれぞれ取り出して示したものである。
【0061】
図2は予熱工程H1を示すが、使用するプリフォーム11は射出成形したPET樹脂製であり、無色透明で全体が非晶状態である。また、プリフォーム11は小型のカップ状で、底部13を有し、胴部12の上端部は円筒状の頸部15であり、上端に外鍔状にフランジ14が周設されている。このフランジ14の幅は4mm、肉厚は平均で2mm、外径は80mmである。
【0062】
予熱は上下一対のリング状の熱板33(33a、33b)で上側と下側から押圧状に挟持した状態で、フランジ14の変形を拘束しながら実施する。
【0063】
次に、図3はレーザー光の照射による加熱工程H2を示す。
プリフォーム11を、コア21aを嵌入し、フランジ14の上面14aを平板部21bに当接させた状態で回動固定治具21に倒立姿勢で固定する。この状態で、回動固定治具21を、軸体21cにより中心軸回りに回動させながら、レーザー照射装置31から照射されるレーザー光32をフランジ14の下面14b側から照射する。なお、図4は幅4mmのフランジ14に照射径4mmのレーザー光32を照射した状態をプリフォーム11の平面図で示す説明図であるが、レーザー光32の直進性により安定してこの照射状態を維持することができる。
【0064】
次に、図5は冷却工程CLを示すが、冷却は冷却配管36を配設した上下一対のリング状の冷却板35(35a、35b)で上側と下側から押圧状に挟持した状態で実施する。
【0065】
次に図1で示した実施形態についての実施例を示す。詳細な実施条件は下記のようである。
(1)予熱工程H1
・熱板33の温度115〜135℃、予熱時間10秒
なお上記条件は、フランジ14に熱結晶化が進行しない(熱結晶化による白化が発生しない)範囲で、フランジ14の温度をPET樹脂のガラス転移温度(80℃程度)以上にして内部応力が十分緩和されるように予備試験により決めたものである。
(2)加熱工程H2
・使用したレーザー照射装置31;炭酸ガスレーザー装置(波長10.6μm)
パルス周波数1000HZ、パルス幅100μm、照射径4mm
・回動固定治具21の回転速度;60rpm
・照射時間;20秒
(3)冷却工程CL
・冷却板35の温度25〜30℃、冷却時間5秒
【0066】
上記実施条件による熱結晶化処理で、予熱工程H1でフランジ14の白化は全くなかった。
また、上記冷却工程CLまでの一連の工程で得られたプリフォーム11の白化状態を観察すると、図4中にクロスハッチングで示した環状の熱結晶化領域C(白化領域)が観察され、フランジ14の全周に亘って、一定幅で熱結晶化が実現されている。
また、図6中の部分拡大図はフランジ14の縦断面で熱結晶化領域Cをみたものであるが、上面14a側部分において、略一定厚みを非晶領域Nとして残して、他の部分(クロスハッチングした部分)を熱結晶化領域Cとすることができた。
また、フランジ14の上面14a、および下面14bにはクレーター状の凹凸は無く、フランジ14が反って先端部が斜め上方に変形するようなこともなく水平で平坦な状態とすることができた。
【0067】
次に、比較例として予熱工程H1を省略し、冷却工程CLは実施例と同様にして、加熱工程H2において他の条件は変えずに、照射時間を変えて熱結晶化処理を実施したが、熱結晶化によりフランジ14に実施例と同様な耐熱性を付与するためには略60秒程度の時間を必要とした。また、フランジ14を拘束しない状態での加熱のため、最終的にはフランジ幅Wが50%程度収縮してしまった。
【0068】
さらに、上記照射時間を短くするためにレーザー照射装置31の出力を上げると、急激に温度が上昇してフランジ14が部分的に溶融して大きく変形したり、樹脂の焼けが発生する等、加熱の制御ができず安定した加熱が困難であった。
このような実施例と比較例の結果から判るように熱板33による予熱工程H1を設けることにより、加熱のための時間を60秒から予熱も含めた30秒にまで短縮することができ、本発明の熱結晶化処理方法の効果が確認された。また、本発明の方法はフランジ14の変形(特にフランジ幅Wの熱収縮)を抑制する観点からも効果的であることが判った。
【0069】
図10は、図6に示されるようにフランジ14の上面14a側部分において、略一定厚みを非晶領域Nとして残して、他の部分を熱結晶化領域Cとしたプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形した、本発明のカップ状容器1の一実施例を示す半縦断正面図であり、底部3および円筒状の胴部2を有し、頸部5の上端には外鍔状に、図6中の部分拡大図に示されるフランジ14の熱結晶化領域のパターンと同様なパターンを有するフランジ4が周設されている。
また、図10ではこのフランジ4を利用して蓋材6を熱溶融により接着し、容器をシールした状態を示している。
【0070】
蓋材6の基材してはポリプロピレン系樹脂製フィルム、PET樹脂製フィルム、合成樹脂と無機フィラーからなる合成紙、アルミラミネートフィルムを使用することができ、接着層としては例えば低密度ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニール共重合体等のホットメルトタイプのもの等を使用することができるが、フランジ4の上面4a部分は、水平状平坦で、また図6に示したように非晶領域Nであり、80℃程度の温度で軟化するので容易にかつ確実に蓋材6をヒートシールすることができる。
【0071】
なお、上記実施例では、フランジ14を上下両側から熱板33で予熱し、加熱工程H2で下面14b側からレーザー光32を照射するようにしたが、熱板33による予熱は上面側からだけ、あるいは下面側からだけとすることもでき、またレーザー光32の照射は上面側からだけ、あるいは両面側からとすることもでき、さらには上下の熱板33の温度を変えたり、上下のレーザー光32の強度や照射面積を変えることもできる。
【0072】
すなわち、目的に応じて予熱あるいは加熱方法をさまざまな態様で組み合わせて、フランジ14の熱結晶化領域のパターンをさまざまな態様とすることができる。図7には(a)、(b)、(c)3種の熱結晶化領域Cのパターン例を示した。
(a)はフランジ14の全厚さ範囲を、(b)は上面14a側部分を、(c)は中間部分を非晶状態Nのままにして上面14a側部分と下面14b側部分を熱結晶化領域Cとしたものであり、このようにフランジ14に熱結晶化領域Cのパターンを有するプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ4に同様な熱結晶化領域Cのパターンを有するカップ状容器を得ることができる。
【0073】
次に、上記実施例ではフランジ14のみを熱結晶化する例を記載したが、使用目的に応じて、フランジ14直下の頸部15も含めて熱結晶化処理を実施することもできる。たとえば図11に示した2軸延伸ブロー成形の例ではプリフォーム111の頸部115は縦方向には若干延伸されるものの横方向への延伸はほとんどなく、用途によってはカップ状容器101の頸部105の耐熱性が不足する場合があり、このような場合にはプリフォーム111のフランジ114と共に頸部115についても熱結晶化処理が必要となる。
【0074】
たとえば、図2で示される予熱工程H1において、下側の熱板33bの形状を側面の一部が頸部15に接するようにすることによりこの頸部15を予熱することができる。また、加熱工程H2では図8に示したように、レーザー照射装置31を横方向にも設置して頸部15にレーザー光32を照射することができる。
【0075】
図8のようにレーザー照射装置31を横方向にも設置して、フランジ14と共に頸部15についてもレーザー光32の照射による熱結晶化処理した場合のフランジ14近傍の白化領域Cの形成パターンの2つの例を、図9(a)、(b)に示す。
そして、このようにフランジ14と共に頸部15についてもレーザー光32の照射による熱結晶化処理したプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ4と頸部5に図9(a)、(b)に示すのと同様な熱結晶化領域Cのパターンを有するカップ状容器を得ることができる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本願発明は上記した実施例に限定されるものではない。
たとえば2軸延伸ブロー成形のカップ状容器はPET樹脂製に限定されるものではなく、ポリプロピレン系樹脂製のものも2軸延伸ブロー成形によって、優れた耐熱性、強度を有するカップ状容器となる。
【0077】
また、上記実施例はプリフォーム14の状態で熱結晶化処理を実施する例であるが、最終成形品であるカップ状容器1の状態でもフランジ4の熱結晶化処理を実施することができる。
【0078】
また、本発明の効果は2軸延伸ブロー成形されたカップ状容器の他にも熱成形されたカップ状容器、あるいは射出成形されたカップ状容器等についても十分発揮されるのであり、フランジ、あるいは頸部の限定された部分の結晶化を促進し、剛性を高くしたり、耐熱性を向上させるのに極めて有効な方法である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように本発明の合成樹脂製カップ状容器は、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を付与できるものであり、幅広い利用展開が期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 ;カップ状容器
2 ;胴部
3 ;底部
4 ;フランジ
4a;上面(シール面)
4b;下面
5 ;頸部
6 ;蓋材
11;プリフォーム
12;胴部
13;底部
14;フランジ
14a;上面(シール面)
14b;下面
15 ;頸部
21;回動固定治具
21a;コア
21b;平板部
21c;軸体
31;レーザー照射装置
32;レーザー光
33、33a、33b;熱板
35、35a、35b;冷却板
101;カップ状容器
104;フランジ
105;頸部
111;プリフォーム
114;フランジ
115;頸部
N ;非晶領域
C ;熱結晶化領域(白化領域)
W ;フランジ幅
H1;予熱工程
H2;加熱工程
CL;冷却工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジが熱結晶化処理された合成樹脂製のカップ状容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)樹脂製のプリフォームを二軸延伸ブロー成形することにより得られる所謂PETボトル等の容器は、機械強度、耐熱性、透明性、バリヤー性、衛生性等に優れており、飲料などの食品容器等に多用されている。
【0003】
そして、PETボトルのほかにも、上記したような優れた性質を生かして、コーヒー、乳飲料等80〜90℃程度での殺菌のための高温充填、あるいは無菌充填を要する用途向けに、2軸延伸ブロー成形したPET樹脂製の、あるいはポリプロピレン樹脂製の広口のカップ状容器が普及している。そしてこのカップ状容器は上端に外鍔状に周設したフランジの上面を利用してアルミ箔や樹脂合成紙などの蓋材を接着して容器を密閉するようにして利用される。
【0004】
たとえば、特許文献1にPET樹脂製の広口のカップ状容器の2軸延伸ブロー成形方法に関する記載があるが、その2軸延伸ブロー成形は図11の概略説明図に示されるようなものであり、上端にフランジ114を周設した小型カップ状のプリフォーム111のフランジ114部分を固定して、2軸延伸ブロー成形が実施され、カップ状容器101が成形される。
【0005】
ここで、2軸延伸ブロー成形された成形品において、2軸延伸された部分は延伸による配向結晶化により耐熱性が向上しているが、PETボトルにおける口筒部、あるいは上記したカップ状容器のプリフォーム111におけるフランジ114は無延伸状態であり、70℃程度の耐熱性はあるものの、上記したような高温での充填工程、あるいは過酸化水素の熱風殺菌工程により熱変形してしまう。
【0006】
上記のような口筒部やフランジ等の無延伸部分等の耐熱性を向上させるためにはプリフォームの状態で、あるいは容器の状態で、これら部分だけを加熱して熱結晶化処理(所謂白化処理)を実施する。たとえばPETボトルの場合には、多くの場合プリフォームの状態で、口筒部を赤外線または近赤外線で照射する方法が採用されている。この際、試験管状のプリフォームを治具に固定し、中心軸回りに回転させながら口筒部の全周に亘って均一になるようにする。
【0007】
また、カップ状容器のフランジあるいはフランジと頸部の熱結晶化処理方法として特許文献2には、フランジ等に熱板を接触させて部分的に熱結晶化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−268570号公報
【特許文献2】特開2004−58602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、PETボトルの口筒部が肉厚円筒状であるのに対して、カップ状容器のフランジ、あるいは頸部は比較的薄肉であり、僅かな熱結晶化処理の強度の違い(斑)により、大きく変形するし、また、たとえばフランジのみを熱結晶化する場合には、フランジという極く限定された箇所を加熱する必要があり、この点、赤外線を照射する従来の方法での部分的な加熱は難しい。
【0010】
また、特許文献2に記載されている、熱板を接触させて部分的に加熱する方法には以下の問題がある。
(1)熱板が接触したフランジ面に小さなクレーター状の凹凸が発生し、外観が損なわれ、また蓋材によるシール性が不完全となる。なおこの凹凸は加熱により揮散した成分が、フランジ面と熱板との間にトラップされて発生するものと推定される。
(2)フランジだけに接触させて、フランジだけを加熱するためには、熱板を極く小型にする必要があり、フランジの全周に亘って加熱を均一にすることが困難である。
たとえば熱板の影響でプリフォームの胴部の一部で熱結晶化が進行してしまうと2軸延伸ブロー成形での延伸が不均一になってしまう。また当該部分の白化により外観が損なわれる。
(3)赤外線の照射のように非接触でないのでプリフォームや最終成形品を回転させて全周に亘って均一に加熱することができない。
【0011】
そこで本発明は、カップ状容器のフランジを含む部分の熱結晶化処理方法に係る上記問題点を解決するために創案した新たな熱結晶化処理方法により目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここで、まず本願発明者らが創出した、カップ状容器のフランジを含む部分の熱結晶化処理方法に係る、上記した従来技術の問題点を解決するための新たな熱結晶化処理方法について説明し、次に本願発明の合成樹脂製カップ状容器について説明する。
この熱結晶化処理方法に係る第1の方法は、
合成樹脂製カップ状容器のフランジをまず熱板で予熱し、その後にレーザー光の照射により加熱して熱結晶化すること、あるいは2軸延伸ブロー成形して合成樹脂製カップ状容器を成形するためのプリフォームのフランジをまず熱板で予熱し、その後レーザー光の照射により加熱して熱結晶化すること、にある。
【0013】
本願発明者らは、まずレーザー光の照射によるフランジの加熱を検討した。
レーザー光の照射による加熱は、赤外線の照射のように非接触で加熱でき、そしてレーザー光は直線性に優れているので、所定箇所に限定して照射することができ、幅が数mm程度のフランジという限定した部分のみを加熱することが可能である。
【0014】
しかしながら、このレーザー光による加熱条件を検討する中で、加熱時間を短縮するためレーザー光の出力を大きくすると、フランジ全体が急激に加熱され、溶融し大きく変形したり、焼けが発生し、実際の製造工程での加熱条件の制御が難しいという問題があることが判った。
また、このような変形や焼けが発生しないようにレーザー光を緩やかな条件で照射して加熱すると処理時間が長くなってしまう。
また、熱板で上下から挟み込むこともないので、レーザー光の出力を比較的小さくして時間を長くするような加熱条件であっても熱収縮が発生してフランジの幅がかなり狭くなってしまうという問題があることも判った。
【0015】
上記した第1の方法は、上記したレーザー光による加熱の長所と問題点、そして従来技術の熱板による加熱の長所と問題点を考慮して創案されたものである。
すなわち、第1段階の熱板により予熱する工程(以下予熱工程と記す。)により、予め決めた温度範囲まで熱板からの熱伝導により短時間にフランジを予熱することができ、次に第2段階のレーザー光を照射して加熱する工程(以下加熱工程と記す。)では非接触で加熱するので、フランジ面での揮散成分によるクレーター状の凹凸の発生を防止することができ、熱板単独での加熱による凹凸発生の問題と、レーザー光照射単独での加熱による生産性の問題を共に解消することができる。
【0016】
ここで、予熱工程でより高温、長時間で予熱するとトータルの時間を短縮することができるが、一方でその限界があり、揮散成分によると推定される小さなクレーター状の凹凸が発生しないように、あるいはフランジ等の所定領域以外の部分が加熱されて熱結晶化しないようにする必要があり、この予熱をどの程度までにするかは、フランジの肉厚、残留応力の状態、そしてトータルの処理時間等を考慮しながら、予備試験等を実施して決めることができる。
【0017】
また、予熱工程で加熱時間を短縮できるので、加熱工程におけるレーザー光の出力を、フランジが変形したり焼けが発生したりする問題のない範囲として、安定した操業条件で実際の熱結晶化処理工程に組み込むことができると共に、予熱工程と加熱工程のトータル時間をレーザー光単独による加熱時間より略1/2程度にも短くすることができる。
【0018】
また、予熱工程では熱板の押圧力によりフランジのフリーな変形を拘束した状態で加熱して、フランジにおける残留応力を緩和することができ、加熱工程でのフリーな状態でのレーザー光照射による加熱での大きな収縮変形の発生や、反り変形の発生を抑制することができる。
【0019】
また、レーザー光照射による加熱は非接触の加熱方式であるので被照射部分を回転しながら照射による加熱をすることができ、フランジの全周に亘ってのより均一な熱結晶化が可能となる。
【0020】
また、レーザー光の照射は必要に応じて、フランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からも、することができる。
また、必要に応じてフランジ全体でなく、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能となる。たとえばフランジの基端部と先端部を除いた部分だけ、レーザー光を照射することもできるし、フランジの上面側近傍あるいは下面側近傍を除いた部分だけを限定して加熱して熱結晶化処理することも可能である。
【0021】
また、この第1の方法により必要に応じて、フランジと同時に頸部の限定された高さ幅領域を熱結晶化処理することも可能である。
この頸部についてはフランジ同様、予熱と加熱の2段階で加熱することもできるし、比較的薄肉であり、レーザー光照射による加熱のみとすることもできる。
【0022】
上記のように、熱結晶化処理に係る第1の方法は、フランジの加熱を熱板による予熱と、レーザー光照射による加熱の2段階に分けて実施することにより、変形を規制しながら短時間に加熱できるという熱板による加熱の長所と、限定した範囲を非接触で加熱できるというレーザー光による加熱の長所を組み合わせたものであり、これにより、レーザー光による加熱を実際の熱結晶化処理工程取り入れて、安定して短時間にフランジに大きな変形のない、そしてフランジ面に凹凸にない容器、あるいはプリフォームを提供できるようになった。
【0023】
なお、プリフォームの段階で、熱板とレーザー光による2段階の加熱を実施する方法では、このプリフォームを用いて2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ、あるいは頸部も含めて耐熱性の高いカップ状容器を提供することができる。
【0024】
熱結晶化処理を最終成形品であるカップ状容器で実施するか、あるいはプリフォームで実施するかは、全体的な生産工程を考慮して選択することができるが、プリフォームのほうが小型の成形品であり、また成形品として全体的に厚肉であるので治具による姿勢の保持がしやすく一般的には高い生産で実施できるという利点がある。
【0025】
熱結晶化処理方法に係る第2の方法は、さらに熱板による予熱の温度および時間条件を、フランジで熱結晶化が進行しないように、かつフランジの内部応力の緩和が可能なように、予め決めた範囲とすること、にある。
【0026】
第2の方法は、熱板による予熱をどの程度の範囲にするかの指針の一つに相当するものであり、フランジで熱結晶化が進行しないような範囲とすることにより、予熱工程での結晶化を最小限に抑えて、所定の範囲外の部分での結晶化を抑制することができる。
【0027】
また、フランジの内部応力の緩和が可能なようにすることにより、予熱段階で内部応力を十分に緩和させることができる。より具体的には、フランジの温度が合成樹脂のガラス転移温度以上の温度、そして熱結晶化が促進される温度以下の温度になるようにして、所定時間予熱するのが好ましい。
【0028】
熱結晶化処理方法に係る第3の方法は、さらにレーザー光の照射後に、冷却板でフランジを冷却すること、にある。
【0029】
第3の方法によって、冷却板による冷却によりフランジの形状、微細な凹凸に係る表面性状を設計通りの適切なものとでき、また、特にフランジ上面をよりフラットにして蓋材の熱シールを容易なものとすることができる。
【0030】
熱結晶化処理方法に係る第4の方法は、さらにフランジを上下から熱板で挟んで予熱すること、にある。
【0031】
第4の方法によって、上下から熱板で挟んでフランジをより確実に拘束しながら、より短時間に、均一に予熱することができる。
なお、熱板での予熱は必ずしも上下から熱板で挟む上記方法に限定されるものではなく、目的に応じて上側だけ、あるいは下側だけを熱板とすることもできるが、変形に係る拘束を確実にするために少なくとも反対側を板片等で支えておくことが好ましい。
【0032】
熱結晶化処理方法に係る第5の方法は、さらにカップ状容器、あるいはプリフォームを中心軸回りに回転させながら、レーザー光をフランジに照射すること、にある。
【0033】
第5の方法は、特にフランジが円筒状の頸部の上端から中心軸対象に外鍔状に円形環状に周設されている場合に有効であり、レーザー光の照射位置は固定して、カップ状容器、あるいはプリフォームを回転可能な治具に固定して、中心軸回りに回転させることにより、レーザー光をフランジ、あるいは頸部の全周に亘って均一に照射することができる。
【0034】
次に、本願発明の合成樹脂製カップ状容器について説明するが、これらは上記説明した本願発明者らによる、カップ状容器のフランジを含む新たな熱結晶化処理方法によって実現可能なものである。
本願の合成樹脂製カップ状容器係る請求項1記載の構成は、
合成樹脂製カップ状容器において、フランジの所定部分を、熱板での予熱とその後のレーザー光照射による熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0035】
フランジの加熱を熱板による予熱と、その後のレーザー光照射による加熱の2段階に分けて実施することにより、安定した条件でレーザー光照射でき、短時間にフランジ面に凹凸にないカップ状容器を提供できるが、レーザー光の照射はフランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からもでき、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能であり、請求項1記載の上記構成により、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することができる。
【0036】
以下に記載する請求項2〜5に記載される構成はそれぞれ請求項1記載の構成において、具体的な熱結晶化領域を定めたものである。
請求項2記載の構成は、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0037】
請求項2記載の上記構成により、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とすることにより、無菌充填等の高い耐熱性が必要とされる用途に使用することができる。
【0038】
請求項3記載の構成は、フランジの上面側部分を熱結晶化領域とし、他の部分を非晶部分とする、と云うものである。
【0039】
請求項3記載の上記構成により、上面側部分を熱結晶化領域とすることにより、上述した全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする場合ほどの耐熱性はないものの、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができる。また下面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
またレーザー照射による加熱工程ではレーザー光源を上面側だけに配設すれば良い。
【0040】
請求項4記載の構成は、フランジの上面側部分を非晶部分とし、あるいは結晶化を進行させない状態で残して、残りの部分を熱結晶化領域とすること、にある。
【0041】
請求項4記載の構成は、フランジの下面側からレーザー光を照射して実現することが可能であり、特にフランジの上面を利用してアルミラミネートフィルムや樹脂合成紙等を基材とした蓋材を熱溶着により接着して容器をシールする際に効果的である。すなわち、シール面であるフランジの上面の結晶化を進行させると、蓋を熱溶着する際に、フランジの上面の軟化、あるいは溶融が困難になり、蓋の接着が難しくなってしまう。本請求項にあるように上面側部分を非晶部分として残し、あるいは結晶化を進行させないでおくことにより、蓋材の接着を容易に達成することができる。
【0042】
また請求項4記載の上記構成により、上面側部分を除いた他の部分を熱結晶化領域とすることにより、全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とする場合ほどの耐熱性はないものの、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができる。
また上面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
【0043】
ここで、たとえばポリプロピレン系樹脂は未延伸部分であるフランジも部分的に結晶化しているが、PET樹脂の場合には未延伸部分のフランジは非晶状態であるので、本請求項4では上面側部分を非晶部分として、あるいは結晶化を進行させない状態でというように記載をした。
【0044】
請求項5記載の構成は、フランジの上面側部分と下面側部分を熱結晶化領域とし、中間部分を非晶領域、あるいは結晶化の進行のない領域とする、と云うものである。
【0045】
請求項5記載の上記構成により、靭性の優れた非晶領域を、耐熱性および剛性の高い熱結晶化領域で挟んだサンドイッチ構造にすることができ、フランジの耐熱性および剛性と、靭性を共に高いレベルで発揮せしめることができる。
【0046】
なお、前述したように請求項4の構成はフランジの下面側からレーザー光を照射することにより実現することが可能であるが、フランジのどの部分を結晶化領域にするかに応じてレーザー光の照射は上面側から、あるいは両側からも実施できる。また必要に応じて横から同時に頸部に照射することもできる。そしてこれらの照射態様によって、請求項3〜5に記載されるように目的に応じて非晶部分を上面、下面、あるいは中間層に残すこともでき、さまざまに結晶化領域と非晶領域を配分したり、領域によって結晶化の程度を変えて配分することができる。
【0047】
請求項6記載の構成は、さらにフランジと共に、フランジ直下の頸部を熱結晶化領域とする、と云うものである。
【0048】
請求項7記載の構成は、さらにPET系樹脂製とする、と云うものである。
【0049】
PET系樹脂は、射出成形により透明性に優れ、剛性の高いカップ状容器を提供することができるし、また、プリフォームを2軸延伸ブロー成形したり、シート成形品を2軸延伸状に熱成形することにより、より優れた耐熱性、剛性、強度、ガスバリア性を有するカップ状容器を提供することができる。
【0050】
なお、本請求項7において、PET系樹脂としては、主としてPETが使用されるが、PET樹脂の本質が損なわれない限り、エチレンテレフタレート単位を主体として、他のポリエステル単位を含む共重合ポリエステルも使用できると共に、たとえばガスバリア性や耐熱性を向上させるためにナイロン系樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等の樹脂をブレンドして使用することもできる。共重合ポリエステル形成用の成分としては、たとえばイソフタル酸、ナフタレン2,6ジカルボン酸、アジピン酸等のジカルボン酸成分、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等のグリコール成分を挙げることができる。
【0051】
さらに、本請求項7において、PET系樹脂製のカップ状容器、あるいはプリフォームとしては、PET樹脂製としての本質が損なわれない限り、たとえば耐熱性、ガスバリア性の向上のために、PET樹脂/ポリエチレンナフタレート樹脂、あるいはPET樹脂/ナイロン樹脂/PET樹脂等のように他樹脂との積層したものであっても良い。
【発明の効果】
【0052】
本発明の合成樹脂製カップ状容器は上記した構成であり、以下に示す効果を奏する。
請求項1記載の構成にあっては、レーザー光の照射はフランジの上面側から、下面側から、あるいは両側からもでき、フランジの中でも限定された部分の熱結晶化処理が可能であり、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を有したカップ状容器を提供することができる。
【0053】
請求項2記載の構成にあっては、フランジの全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域とすることにより、無菌充填等の高い耐熱性が必要とされる用途に使用することができる。
【0054】
請求項3記載の構成にあっては、熱結晶化領域の厚さによって必要に応じた耐熱性を確保することができ、また下面側に非晶領域(あるいは熱結晶化の進行のない領域)が確保でき、この非晶領域の靭性によりフランジ全体を割れ難くすることができる。
【0055】
請求項4記載の構成にあっては、フランジの上面部分を非晶部分として、あるいは結晶化を進行させないで残すことにより、アルミラミネートフィルムや樹脂合成紙等を基材とする蓋材を熱溶着により容易に接着することができ、容器を容易に、確実に密閉することができる。
【0056】
請求項5記載の構成にあっては、非晶領域を、熱結晶化領域で挟んだサンドイッチ構造にすることができ、フランジの耐熱性および剛性と、靭性を共に高いレベルで発揮せしめることができる。
【0057】
請求項6記載の構成にあっては、フランジと共に、フランジ直下の頸部を熱結晶化領域とすることにより、フランジと共に、横方向への延伸がほとんどなく用途によっては耐熱性が不足する頸部の耐熱性を高くしたカップ状容器を提供することができる。
【0058】
請求項7記載の発明にあっては、PET系樹脂は2軸延伸成形に適した合成樹脂であり、2軸延伸ブロー成形すると共に、フランジを熱結晶化処理することにより、優れた耐熱性、強度、ガスバリア性を有するカップ状容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】熱結晶化処理方法の実施形態を概略的に示す説明図である。
【図2】図1中の予熱工程を一部縦断して示す正面図である。
【図3】図1中の加熱工程を一部縦断して示す正面図である。
【図4】図3中でのレーザー光の照射状態をプリフォームの平面図で示す説明図である。
【図5】図1中の冷却工程を一部縦断して示す正面図である。
【図6】図1の処理方法によって得られた本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームのフランジの熱結晶化領域のパターンの例を概略的に示す半縦断面図である。
【図7】本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームの他の熱結晶化領域のパターン例を示す説明図である。
【図8】加熱工程の他の例を示す概略説明図である。
【図9】本発明のカップ状容器に成形されるプリフォームのさらに他の熱結晶化領域のパターン例を示す説明図である。
【図10】本発明のカップ状容器の一実施例を示す半縦断正面図である。
【図11】カップ状容器の2軸延伸ブロー成形の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は本願発明者らが創出した、カップ状容器あるいはそのプリフォームのフランジを含む部分の新たな熱結晶化処理方法を概略的に示す説明図であり、熱板33による予熱工程H1と、レーザー光32の照射による加熱工程H2と、冷却板35による冷却工程CLを有する。また、図2は予熱工程H1、図3は加熱工程H2、図5は冷却工程CLをそれぞれ取り出して示したものである。
【0061】
図2は予熱工程H1を示すが、使用するプリフォーム11は射出成形したPET樹脂製であり、無色透明で全体が非晶状態である。また、プリフォーム11は小型のカップ状で、底部13を有し、胴部12の上端部は円筒状の頸部15であり、上端に外鍔状にフランジ14が周設されている。このフランジ14の幅は4mm、肉厚は平均で2mm、外径は80mmである。
【0062】
予熱は上下一対のリング状の熱板33(33a、33b)で上側と下側から押圧状に挟持した状態で、フランジ14の変形を拘束しながら実施する。
【0063】
次に、図3はレーザー光の照射による加熱工程H2を示す。
プリフォーム11を、コア21aを嵌入し、フランジ14の上面14aを平板部21bに当接させた状態で回動固定治具21に倒立姿勢で固定する。この状態で、回動固定治具21を、軸体21cにより中心軸回りに回動させながら、レーザー照射装置31から照射されるレーザー光32をフランジ14の下面14b側から照射する。なお、図4は幅4mmのフランジ14に照射径4mmのレーザー光32を照射した状態をプリフォーム11の平面図で示す説明図であるが、レーザー光32の直進性により安定してこの照射状態を維持することができる。
【0064】
次に、図5は冷却工程CLを示すが、冷却は冷却配管36を配設した上下一対のリング状の冷却板35(35a、35b)で上側と下側から押圧状に挟持した状態で実施する。
【0065】
次に図1で示した実施形態についての実施例を示す。詳細な実施条件は下記のようである。
(1)予熱工程H1
・熱板33の温度115〜135℃、予熱時間10秒
なお上記条件は、フランジ14に熱結晶化が進行しない(熱結晶化による白化が発生しない)範囲で、フランジ14の温度をPET樹脂のガラス転移温度(80℃程度)以上にして内部応力が十分緩和されるように予備試験により決めたものである。
(2)加熱工程H2
・使用したレーザー照射装置31;炭酸ガスレーザー装置(波長10.6μm)
パルス周波数1000HZ、パルス幅100μm、照射径4mm
・回動固定治具21の回転速度;60rpm
・照射時間;20秒
(3)冷却工程CL
・冷却板35の温度25〜30℃、冷却時間5秒
【0066】
上記実施条件による熱結晶化処理で、予熱工程H1でフランジ14の白化は全くなかった。
また、上記冷却工程CLまでの一連の工程で得られたプリフォーム11の白化状態を観察すると、図4中にクロスハッチングで示した環状の熱結晶化領域C(白化領域)が観察され、フランジ14の全周に亘って、一定幅で熱結晶化が実現されている。
また、図6中の部分拡大図はフランジ14の縦断面で熱結晶化領域Cをみたものであるが、上面14a側部分において、略一定厚みを非晶領域Nとして残して、他の部分(クロスハッチングした部分)を熱結晶化領域Cとすることができた。
また、フランジ14の上面14a、および下面14bにはクレーター状の凹凸は無く、フランジ14が反って先端部が斜め上方に変形するようなこともなく水平で平坦な状態とすることができた。
【0067】
次に、比較例として予熱工程H1を省略し、冷却工程CLは実施例と同様にして、加熱工程H2において他の条件は変えずに、照射時間を変えて熱結晶化処理を実施したが、熱結晶化によりフランジ14に実施例と同様な耐熱性を付与するためには略60秒程度の時間を必要とした。また、フランジ14を拘束しない状態での加熱のため、最終的にはフランジ幅Wが50%程度収縮してしまった。
【0068】
さらに、上記照射時間を短くするためにレーザー照射装置31の出力を上げると、急激に温度が上昇してフランジ14が部分的に溶融して大きく変形したり、樹脂の焼けが発生する等、加熱の制御ができず安定した加熱が困難であった。
このような実施例と比較例の結果から判るように熱板33による予熱工程H1を設けることにより、加熱のための時間を60秒から予熱も含めた30秒にまで短縮することができ、本発明の熱結晶化処理方法の効果が確認された。また、本発明の方法はフランジ14の変形(特にフランジ幅Wの熱収縮)を抑制する観点からも効果的であることが判った。
【0069】
図10は、図6に示されるようにフランジ14の上面14a側部分において、略一定厚みを非晶領域Nとして残して、他の部分を熱結晶化領域Cとしたプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形した、本発明のカップ状容器1の一実施例を示す半縦断正面図であり、底部3および円筒状の胴部2を有し、頸部5の上端には外鍔状に、図6中の部分拡大図に示されるフランジ14の熱結晶化領域のパターンと同様なパターンを有するフランジ4が周設されている。
また、図10ではこのフランジ4を利用して蓋材6を熱溶融により接着し、容器をシールした状態を示している。
【0070】
蓋材6の基材してはポリプロピレン系樹脂製フィルム、PET樹脂製フィルム、合成樹脂と無機フィラーからなる合成紙、アルミラミネートフィルムを使用することができ、接着層としては例えば低密度ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニール共重合体等のホットメルトタイプのもの等を使用することができるが、フランジ4の上面4a部分は、水平状平坦で、また図6に示したように非晶領域Nであり、80℃程度の温度で軟化するので容易にかつ確実に蓋材6をヒートシールすることができる。
【0071】
なお、上記実施例では、フランジ14を上下両側から熱板33で予熱し、加熱工程H2で下面14b側からレーザー光32を照射するようにしたが、熱板33による予熱は上面側からだけ、あるいは下面側からだけとすることもでき、またレーザー光32の照射は上面側からだけ、あるいは両面側からとすることもでき、さらには上下の熱板33の温度を変えたり、上下のレーザー光32の強度や照射面積を変えることもできる。
【0072】
すなわち、目的に応じて予熱あるいは加熱方法をさまざまな態様で組み合わせて、フランジ14の熱結晶化領域のパターンをさまざまな態様とすることができる。図7には(a)、(b)、(c)3種の熱結晶化領域Cのパターン例を示した。
(a)はフランジ14の全厚さ範囲を、(b)は上面14a側部分を、(c)は中間部分を非晶状態Nのままにして上面14a側部分と下面14b側部分を熱結晶化領域Cとしたものであり、このようにフランジ14に熱結晶化領域Cのパターンを有するプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ4に同様な熱結晶化領域Cのパターンを有するカップ状容器を得ることができる。
【0073】
次に、上記実施例ではフランジ14のみを熱結晶化する例を記載したが、使用目的に応じて、フランジ14直下の頸部15も含めて熱結晶化処理を実施することもできる。たとえば図11に示した2軸延伸ブロー成形の例ではプリフォーム111の頸部115は縦方向には若干延伸されるものの横方向への延伸はほとんどなく、用途によってはカップ状容器101の頸部105の耐熱性が不足する場合があり、このような場合にはプリフォーム111のフランジ114と共に頸部115についても熱結晶化処理が必要となる。
【0074】
たとえば、図2で示される予熱工程H1において、下側の熱板33bの形状を側面の一部が頸部15に接するようにすることによりこの頸部15を予熱することができる。また、加熱工程H2では図8に示したように、レーザー照射装置31を横方向にも設置して頸部15にレーザー光32を照射することができる。
【0075】
図8のようにレーザー照射装置31を横方向にも設置して、フランジ14と共に頸部15についてもレーザー光32の照射による熱結晶化処理した場合のフランジ14近傍の白化領域Cの形成パターンの2つの例を、図9(a)、(b)に示す。
そして、このようにフランジ14と共に頸部15についてもレーザー光32の照射による熱結晶化処理したプリフォーム11を2軸延伸ブロー成形することにより、フランジ4と頸部5に図9(a)、(b)に示すのと同様な熱結晶化領域Cのパターンを有するカップ状容器を得ることができる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本願発明は上記した実施例に限定されるものではない。
たとえば2軸延伸ブロー成形のカップ状容器はPET樹脂製に限定されるものではなく、ポリプロピレン系樹脂製のものも2軸延伸ブロー成形によって、優れた耐熱性、強度を有するカップ状容器となる。
【0077】
また、上記実施例はプリフォーム14の状態で熱結晶化処理を実施する例であるが、最終成形品であるカップ状容器1の状態でもフランジ4の熱結晶化処理を実施することができる。
【0078】
また、本発明の効果は2軸延伸ブロー成形されたカップ状容器の他にも熱成形されたカップ状容器、あるいは射出成形されたカップ状容器等についても十分発揮されるのであり、フランジ、あるいは頸部の限定された部分の結晶化を促進し、剛性を高くしたり、耐熱性を向上させるのに極めて有効な方法である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように本発明の合成樹脂製カップ状容器は、目的に応じて、フランジの所定部分を熱結晶化領域として必要な耐熱性、蓋材のシール性、外観性等を付与できるものであり、幅広い利用展開が期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 ;カップ状容器
2 ;胴部
3 ;底部
4 ;フランジ
4a;上面(シール面)
4b;下面
5 ;頸部
6 ;蓋材
11;プリフォーム
12;胴部
13;底部
14;フランジ
14a;上面(シール面)
14b;下面
15 ;頸部
21;回動固定治具
21a;コア
21b;平板部
21c;軸体
31;レーザー照射装置
32;レーザー光
33、33a、33b;熱板
35、35a、35b;冷却板
101;カップ状容器
104;フランジ
105;頸部
111;プリフォーム
114;フランジ
115;頸部
N ;非晶領域
C ;熱結晶化領域(白化領域)
W ;フランジ幅
H1;予熱工程
H2;加熱工程
CL;冷却工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジ(4)の所定部分を、熱板(33)での予熱とその後のレーザー光(32)照射による熱結晶化領域(C)とした合成樹脂製カップ状容器。
【請求項2】
フランジ(4)の全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域(C)とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項3】
フランジ(4)の上面(4a)側部分を熱結晶化領域(C)とし、他の部分を非晶部分とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項4】
フランジ(4)の上面(4a)側部分を非晶部分とし、あるいは結晶化を進行させない状態で残して、他の部分を熱結晶化領域(C)とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項5】
フランジ(4)の上面(4a)側部分と下面(4b)側部分を熱結晶化領域(C)とし、中間部分を非晶領域(N)、あるいは結晶化の進行のない領域とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項6】
フランジ(4)と共に、該フランジ(4)直下の頸部(5)を熱結晶化領域(C)とした請求項1、2、3、4または5記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製とした請求項1、2、3、4、5または6記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項1】
フランジ(4)の所定部分を、熱板(33)での予熱とその後のレーザー光(32)照射による熱結晶化領域(C)とした合成樹脂製カップ状容器。
【請求項2】
フランジ(4)の全厚さに亘る範囲を熱結晶化領域(C)とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項3】
フランジ(4)の上面(4a)側部分を熱結晶化領域(C)とし、他の部分を非晶部分とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項4】
フランジ(4)の上面(4a)側部分を非晶部分とし、あるいは結晶化を進行させない状態で残して、他の部分を熱結晶化領域(C)とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項5】
フランジ(4)の上面(4a)側部分と下面(4b)側部分を熱結晶化領域(C)とし、中間部分を非晶領域(N)、あるいは結晶化の進行のない領域とした請求項1記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項6】
フランジ(4)と共に、該フランジ(4)直下の頸部(5)を熱結晶化領域(C)とした請求項1、2、3、4または5記載の合成樹脂製カップ状容器。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製とした請求項1、2、3、4、5または6記載の合成樹脂製カップ状容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−51345(P2011−51345A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228242(P2010−228242)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【分割の表示】特願2005−131085(P2005−131085)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【分割の表示】特願2005−131085(P2005−131085)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】
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