説明

合成樹脂製断熱容器

【課題】合成樹脂製断熱容器において、二重構造の断熱容器で内容器と外容器との接合部分での熱ロスを少なくし、通気性多孔質体と内外壁面との磨耗による破壊をなくしガスバリア性の低下を防止する。
【解決手段】断熱タンク21は、断熱容器22と蓋23とからなり、断熱容器22は内容器24と外容器25とからなり、合成樹脂製の内容器24を合成樹脂製の外容器25内に空隙26を保って配し、内容器24と外容器25との接合部を除く合成樹脂製の内容器24外面と外容器25内面とにプラズマCVDでDLCコート層34を設け、空隙26に通気性多孔質体27を充填し、かつ空隙26内を減圧とし、内容器24と外容器25のそれぞれの口元同士を溶着接合してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱温水タンクや魔法瓶、保温弁当箱などの断熱容器のなかでも設計自由度の高い合成樹脂製断熱容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、断熱温水タンクや魔法瓶、保温弁当箱などの断熱容器は主にステンレス製の二重構造体の真空容器が使用されているが、金属接合部での熱リークが大きい問題があり、また、残留ガスの対流を抑制するには高真空度が必要となり真空引きに時間がかかった。
【0003】
また、プレス加工での深絞りが困難で、設計自由度に限界があるため円形のものが主体となり、さらに金属では携帯用には重くて適さない問題があった。
【0004】
また、設計自由度が高く、熱伝導率の比較的低い合成樹脂製の二重構造体で真空容器を構成しても、空気中の酸素や窒素のガス透過量が大きく、水蒸気透過量も大きいため、時間とともに真空度が低下し断熱性能の長期信頼性に問題があった。
【0005】
設計自由度を高め、断熱性能を維持する容器としては、特許文献1のような合成樹脂製真空容器が紹介されている。
【0006】
この合成樹脂製真空容器は、型成形によりガスバリア性を有する二重の容器本体からなり、その外瓶と内瓶との間に所要真空度の空間を有する真空容器であって、外瓶の耐圧底部に大径の空気排出口を開口し、その排出口を塞ぐ栓蓋をそれらの間に残存する導電性の高周波誘導用のショートリングを介して永久固着し、少なくとも内瓶の外面に合成樹脂膜を設け、さらに両瓶にアルミ蒸着の反射膜を設けた合成樹脂製真空容器である。
【0007】
このような真空容器は残留ガスの対流による熱伝達を抑制するために1Pa以下の高真空度に保つ必要があり、容器の断熱性能は初期の残留ガス量だけでなく実用時において内外瓶壁面から透過してくるガスの影響を著しく受けることになる。
【0008】
よって、排出口を塞ぐ詮蓋を高周波により溶着する作業時の真空度条件の制約が厳しくなり、また、高透明度のアクリル合成樹脂膜やアルミ蒸着による反射膜を設けたとしても、アルミ蒸着では密着性の問題から1μm以上の厚みを確保することは難しく、ピンホールも多いため長期においてガスバリア性を維持することは困難で、合成樹脂製断熱容器を長時間使用していると徐々に断熱性能が低下する問題がある。
【0009】
この問題を解決し、断熱性能を維持する方法としては、特許文献2に示されるように、内容器を外容器内に空隙を隔てて口部で連結してなる二重壁構造の容器で、前記内容器と外容器との間の空隙に通気性多孔材料を0.1〜0.4g/cmの充填密度で充填して減圧に保持してなり、さらに断熱層には合成ゼオライトや天然ゼオライト、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、無水燐酸等の吸水性の吸着剤が充填されている断熱容器の紹介がある。
【0010】
通気性多孔材料としては、パーライトや合成シリカ、珪藻土、シラスバルーン、珪酸カルシウム等があり、これらの通気性多孔材料で空隙が埋められると間隙が小さくなりガスの対流が抑制されるため1Pa以下の高真空度を確保する必要がなくなり、真空容器を製造するのが非常に楽になるばかりか、内容器が外容器に通気性多孔材料で固定されるようになり衝撃や振動に強く、継時変化による断熱性能の低下も抑制される。
【0011】
しかし、ジャーポットのように熱水等を貯湯するタンクでは条件が厳しく、壁面を透過して水分が内部に進入してくるため真空度が悪くなり通気性多孔質体が挿入されていても、また、吸着剤が充填されていても時間とともに断熱性能が悪くなる。
【0012】
さらに、図6は特許文献3に示された従来例の合成樹脂製断熱容器を示すものである。図6を参考に従来例の合成樹脂製断熱容器を説明する。
【0013】
断熱容器1は、容器本体2と蓋3とからなり、容器本体2は、内容器4と外容器5とからなり、内容器4の外方にそれよりも寸法の大きな外容器5を被せてそれぞれの口元を一体に接合した二重壁構造になっている。内容器4と外容器5の間の空隙には、低熱伝導率ガスを封入してなる断熱層6が形成されている。
【0014】
内容器4と外容器5とは、耐熱性のABS樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの合成樹脂材料からなっている。
【0015】
外容器5は有底円筒形をなし、その開口側の上端部は拡径して段部8が形成されている。この外容器5の底部中央には排気孔10が形成され、該排気孔10は封止板11によって閉塞されている。内容器4は有底円筒形をなしており、その上部は外容器5の内周に接するように拡径部9が形成され、さらに拡径部9の上端にはフランジ12が形成されている。
【0016】
この内容器4のフランジ12は外容器5の段部8内に挿入可能な径寸法とされている。この内容器4のフランジ12は外容器5の段部8内に挿入され、該フランジ12下面と段部8上面は、超音波溶着法、高周波誘導加熱溶着法などの加熱溶着法によって溶着接合された接合部15が形成されている。
【0017】
内容器4の外周面のうち、外容器5内周面と接する接合部16を除く胴部と底部外面、および外容器5の内面のうち、上記接合部16を除く胴部と底部の内面には、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、クロムなどの金属からなるメッキ層14が形成されている。
【0018】
これらメッキ層14の厚さは2〜15μm程度とされ、好ましくは10μm程度とされる。このメッキ層14の厚さが2μmより小さいと、このメッキ層14によるガスバリア性向上の効果が十分に得られなくなり、断熱層6内の低熱伝導率のガスが失われて長期間にわたって優れた断熱性能を維持し得なくなる。一方、メッキ層14の厚さが15μmより大きいと、このメッキ層14を介しての内容器4側から外容器5側への熱伝導が増加し、断熱性能を悪化させることになる。
【0019】
断熱層6内に封入されるガスとしては、熱伝導率が小さく不活性なガスである、キセノン、クリプトン、アルゴンの各ガスやそれらの混合ガスが用いられる。これらキセノンガス、クリプトンガス及びアルゴンガスは、熱伝導率が小さく、しかもその使用により環境保全上の問題もなく、特に好適である。
【0020】
この低熱伝導率ガスを封入した断熱層6の厚み7は3〜10mm程度とされる。断熱層6の厚み7が10mmを越えると、ガスの熱伝導による伝熱ロスは小さくなるが、対流伝熱ロスが生じるようになる。断熱層6の厚み7を3〜10mmとすることにより、ガスの対流を防止することができ、断熱性能が向上する。
【特許文献1】特公昭63−43087号公報
【特許文献2】特開平2−265513号公報
【特許文献3】特許第3009832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら特許文献3の従来の合成樹脂製断熱容器は、内外容器間の空間部へのガスバリア性を高めるために、内容器の外面および外容器の内面に約10μmの厚みで、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、クロムなどの金属からなるメッキ層が形成されており、特に内容器4と外容器5との熱伝導性が極めて高い金属メッキ層が連続しやすい口元接合部分での短絡による熱ロスは大となる。
【0022】
また、内容器と外容器との空隙にキセノン、クリプトン、アルゴン等の低熱伝導性ガスを封入した断熱層を形成することで、高真空度を必要とせず封入ガスと空気との置換による断熱性能の変化は少ないが、対流による熱伝達が大きいため初期の断熱性能は真空断熱に比べると悪い。
【0023】
また、対流による熱伝達を抑えるため、パーライト、合成シリカ、珪藻土、シラスバルーン、珪酸カルシウム、ガラス繊維等の通気性のある多孔質材料を充填する方法も考えられるが、充填材は固定されていないために、外部の振動や衝撃ごとに充填材が空隙内で躍動し、内容器外面と外容器内面に形成した摩擦係数の比較的高い金属メッキ層の面で摺動するため、金属メッキ面を荒らし、磨耗させ、最終的には金属メッキ面が破壊されガスバリア性が低下するという問題があった。
【0024】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた断熱性能を持つとともに、長期信頼性を有し容積効率に優れた合成樹脂製の断熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本発明の合成樹脂製断熱容器は、合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内外容器面にプラズマCVDでDLCコート層を設け、もしくは、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内容器外面と外容器内面とにプラズマCVDでDLCコート層を設け、前記空隙に通気性多孔質体を充填し、かつ前記空隙内を減圧とし、内容器と外容器のそれぞれの口元同士を溶着接合してなることを特徴とする。
【0026】
ここで、プラズマCVDは、Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition(プラズマ化学気相成長法)であり、DLCは、Diamond Like Carbon(ダイヤモンド・ライク・カーボン)である。また、DLCコート層がフッ素を含むDLCコート層であってもよい。
【0027】
これによって、内容器と外容器との空隙に通気性多孔質体を充填し減圧した断熱層を形成したので、空隙が小さくなり、高真空度を確保しなくとも対流による熱伝達性能は低く維持され、内容器と外容器との接合部を除く内容器と外容器の表面にプラズマCVDにより熱伝導率の低いDLCコート層またはフッ素を含むDLCコート層を設けたので、断熱性能がよくなる。また、従来の金属メッキ層に比べるとDLCコートは重金属等の毒性もなく、水や食品に接触する壁面に利用しても問題はなく、プラズマCVDは蒸着工法に比べて形成された層の密着性、緻密性が高く、強度も高く、ガスバリア性の高い層となる。特に、通気性多孔質体と接する内容器外側と外容器内側面では、表面硬度が高く、摩擦係数の低いプラズマCVDによるDLCコート層が保護膜として働き、外部からの振動により充填材が躍動を繰り返してもDLCコート面が磨耗され破壊されることはない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の合成樹脂製断熱容器は、合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、これら内容器と外容器とのそれぞれの口元を接合して一体化するとともに、内容器と外容器との空隙に通気性多孔質体を充填し減圧した断熱層を形成してなる二重壁構造の合成樹脂製断熱容器で、内容器と外容器との接合部を除く内容器と外容器の表面にプラズマCVDによりDLCコート層、またはフッ素を含むDLCコート層を設け、かつ内容器の口元と外容器の口元とのそれぞれの合成樹脂同士を溶着接合してなるもので、内容器と外容器との空隙に通気性多孔質体を充填し減圧した断熱層を形成したので、空隙が小さく高真空度を維持しなくとも対流による熱伝達は低く、高断熱性能が長期間において確保できる。
【0029】
また、耐水性のあるプラズマCVDによりDLCコート層、またはフッ素を含むDLCコート層は、カーボンを主体とする化合物であり、蒸着により形成された層に比べて、密着性と緻密性と強度を有し、ガスバリア性が高いだけでなく、水や食品と接触して使用されても問題がないので、魔法瓶や弁当箱等の食品容器に使用されても問題はない。
【0030】
また、内容器と外容器との接合部を除く内容器外面と外容器内面とにプラズマCVDにより熱伝導率の低いDLCコート層またはフッ素を含むDLCコート層を設けたので、コート層の短絡による熱リークは小さく抑えられ、断熱性能の低下は抑制される。さらに、プラズマCVDによるDLCは表面硬度が高く、低い摩擦係数を有するので、耐摩耗性が良く、外部振動により充填材が躍動を繰り返してもDLCコート面を荒らし磨耗させ破壊させることはなく、長期にわたって断熱性能は維持できる。よって、優れた断熱性能を持つとともに、長期信頼性を有し、設計自由度が高く容積効率に優れた合成樹脂製の断熱容器を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
請求項1に記載の発明は、合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内外容器面にプラズマCVDでDLCコート層を設け、前記空隙に通気性多孔質体を充填し、かつ前記空隙内を減圧とし、内容器と外容器のそれぞれの口元同士を溶着接合してなるもので、内容器と外容器との空隙に通気性多孔質体を充填し減圧した断熱層を形成したので、空隙が小さく高真空度を確保しなくとも対流による熱伝達性能は低く維持され、高断熱性能が確保でき、内容器と外容器との接合部を除く内容器と外容器の表面にプラズマCVDにより熱伝導率の低いDLCコート層を設けたので、金属のメッキ層に比べて断熱性能がよくなり、プラズマCVDによるDLCは従来の蒸着に比べて密着性があり、緻密性があり、金属めっきに比べて重金属による食品衛生面での問題も無く、水や食品と接触する容器の壁面にも使用が可能となる。
【0032】
請求項2に記載の発明は、合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内容器外面と外容器内面とにプラズマCVDでDLCコート層を設け、前記空隙に通気性多孔質体を充填し、かつ前記空隙内を減圧とし、内容器と外容器のそれぞれの口元同士を溶着接合してなるもので、内容器と外容器との空隙に通気性多孔質体を充填し減圧した断熱層を形成したので、空隙が小さく高真空度を確保しなくとも対流による熱伝達性能は低く維持され、高断熱性能が確保でき、充填材と接触する内容器外面と外容器内面とに、表面硬度が高く、摩擦係数が低いDLCコート層を設けたので、耐摩耗性が良く、外部の振動で充填材が振動を繰り返してもDLCコート面を荒らし磨耗させ破壊させることはないので、長期にわたって断熱性能が維持されるものである。
【0033】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明におけるプラズマCVDにより設けられたDLCコート層がフッ素を含むDLCコート層であるもので、プラズマCVD工程においてカーボン以外にフッ素を含むガスを所定量注入することにより形成されたフッ素を含むDLCコート層は、DLCコート層の緻密性と柔軟性を高め、作業時や使用時の割れを防止するもので長期断熱性能の信頼性をさらに高めた合成樹脂製の断熱容器を提供するものである。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の概略断面図で、図2は本実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の接合部を示す要部拡大断面図である。また、図3は本実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の内容器外側と外容器内側へのプラズマCVDによるDLCコートを施すプラズマイオン注入成膜装置の模式的縦断面図で、図4は本実施の形態1における高電圧パルスを印加した場合の被処理品付近のプラズマシースの変化を示す図で、図5は本実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の接合工程を示す概略断面図である。
【0036】
図1において、断熱タンク21は、断熱容器22と蓋23とからなり、断熱容器22は内容器24と外容器25とからなり、内容器24の外方に内容器24よりも寸法の大きな外容器25を被せてそれぞれの口元を一体に接合した二重壁構造になっている。
【0037】
内容器24と外容器25との間の空隙26には、通気性多孔質体27を充填し減圧した断熱層28を形成してなる二重壁構造を有し、内容器24と外容器25とは、耐熱性のABS樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、変性PPE、変性PPSなどの合成樹脂材料からなっている。
【0038】
また、内容器24の上部は外容器25のフランジ29に接するように拡径部30が形成されている。この内容器24の拡径部30は外容器25のフランジ29外周と同寸法となり、この内容器24拡径部30の外容器25フランジ29に接する面は接合部31となり、赤外線レーザ溶接により接合されている。
【0039】
図2は接合前の内容器24の拡径部30と外容器25のフランジ29との要部拡大断面図であるが、内容器24の拡径部30の外容器25フランジ29と接する面にレーザを集光する突起部32が全周に設けられてある。
【0040】
また、内容器24の外面のうち外容器25フランジ29面との接合部31を除く外面、および外容器25の内面のうち接合部31を除く内面には、プラズマCVDにより設けられたフッ素を含むDLCコート層34が形成してある。
【0041】
これらのプラズマCVDにより設けられたフッ素を含むDLCコート層34の厚さは0.1〜20μmの範囲内とされ、好ましくは2μm程度とされる。このフッ素を含むDLCコート層34の厚さが0.1μmより小さいと、ピンホール等が発現し、このDLCコート層34によるガスバリア性向上の効果が十分に得られなくなり、断熱層28内に空気や水分が透過して入り真空度が失われて長期間にわたって優れた断熱性能を維持し得なくなる。一方、DLCコート層34の厚さが20μmより大きいと、このDLCコート層34が短絡する部分から内容器24側から外容器25側への熱伝導が増加し、断熱性能を悪化させることになる。
【0042】
外容器25の底部中央には水分を吸収するゼオライト、酸化カルシウム、塩化カルシウム等の吸着剤35を設置してある。
【0043】
断熱層28内に封入される通気性多孔質体27としては、パーライト、合成シリカ、珪藻土、シラスバルーン、珪酸カルシウム、ガラス繊維等の多孔質材料を充填するが、本発明の実施の形態1では、平均一次粒子径が100nm以下の乾式シリカと、平均繊維径10μm以下の無機繊維材料とを含む複合粉末成形体を用いる。
【0044】
一般的なシリカ粉末と繊維材料とでは混合撹拌して圧縮成形しても成形体とはなりにくいが、平均一次粒子径が100nm以下の乾式シリカと平均繊維径10μm以下の無機繊維材料と混合・圧縮成形することにより、強固な成形体を得ることができる。この理由は、粒子径の小さい粉末同士であるため分子間力が働き粉末同士が付着する、あるいは乾式であるため表面官能基が少なく相互反発が少ないため粉末同士が付着しやすい、あるいはシリカと無機繊維という親和性のよい組合せであるため相互に付着しやすい、さらに無機繊維の繊維径が小さいため比表面積が大きくなるすなわち表面エネルギーが大きくなり粉末と結びつきやすくなる、あるいはそれらの複合的な相互作用によるものと考える。
【0045】
本発明の実施の形態1では、乾式シリカと無機繊維材料を混合するステップと、これを型枠に入れ0.5N/mm以上の圧力で加圧成形し複合粉末成形体を得るステップと、前記複合粉末成形体をガスバリア性を有する外容器25と内容器24の間に挿入し、1Pa以下の減圧状態で赤外線レーザ溶接により開口部を密封するステップで構成されている。
【0046】
断熱容器22の上方に取り付けられた蓋23は断熱容器22の開口端にヒンジ結合されて開閉可能とされ、かつ良好な断熱性能を有するものであることが望ましい。蓋23の断熱構造は特に限定されることはないが、断熱容器22と同じ断熱構造としたものが良い。
【0047】
次に、この断熱容器22の製造方法について説明する。
【0048】
まず、射出成形法などの適宜な方法によって、内容器24と外容器25とを製造する。その内容器24には、図2に示すように拡径部30の下面に、断面が角形の突起32を全周にわたって設けておく。この突起32の形状はこれに限定されることなく、断面がV字状や半円形としても良い。
【0049】
次いで、内容器24と外容器25との接合部33となる内容器24の拡径部30の外周下部面の突起32の接合部33付近と、外容器25のフランジ29の接合部33付近を、固定部材を密着させて覆い、或いは剥離容易な接着剤や粘着テープを用いて覆うことによりマスキングし、それ以外の内容器24の外面と外容器5の内面の露出部分についてCVD法によりDLCコート層34を形成する。
【0050】
次に、このCVD法によるフッ素を含むDLCコート層34の形成方法について詳しく説明する。
【0051】
図3は本発明の実施の形態1における断熱容器22の製造に用いる三次元イオン注入方式によるプラズマイオン注入成膜装置の模式的縦断面図である。
【0052】
図3のプラズマイオン注入成膜装置51は、三次元被処理物を所望の材料で被覆するために用いられる。本実施の形態1では、被処理物としてPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂により射出成型された内容器24外面及び外容器25の内面にコートをする場合を説明する。
【0053】
このプラズマイオン注入成膜装置51は、内部のガスを排気する真空排気系53と、ガスを導入するガス導入系54とが接続されているチャンバ52が備えられている。また、本実施の形態1では、ガス導入系54により、チャンバ52内にメタン(CH)および四フッ化炭素(CF)を導入する。
【0054】
本実施の形態1では、チャンバ52内に内容器24外面と外容器25内面とが上方に向けて配置され、この内容器24内面と外容器25外面とは金属等の治具50を介して導体55に接続されている。導体55は、高絶縁フィードスルー56を通してチャンバ52の外部に引き出され、重畳装置57に接続されている。重畳装置57には、RF高周波電源58および高電圧パルス電源59が接続されている。高電圧パルス電源59の電圧値は例えば10kVであり、パルス幅は例えば2μsである。また、チャンバ52内にアーク方式の金属プラズマ源60が接続されている。
【0055】
RF高周波電源58は、チャンバ52内でのプラズマの生成のためにRF電力を発生する。本実施の形態1では、RF高周波電源58はパルス状のRF電力を発生する。RF電力の出力周波数は13.56MHzであり、出力電力は例えば0.5kW〜1.5kWで可変であり、パルス幅は例えば20μsで可変である。
【0056】
高電圧パルス電源59は、イオン注入および成膜のために負の高電圧パルスを発生する。高電圧パルスの電圧値は0〜−50kVで可変であり、パルス幅は2μsで可変である。
【0057】
重畳装置57は、RF高周波電源58により発生されたRF電力および高電圧パルス電源59により発生された高電圧パルスを交互に遅延したタイミングまたは重複するタイミングで導体55を通じ治具50に印加する。それにより、被処理物として絶縁性の容器を用いた場合でも、後述するように内容器24外面と外容器25内面を被覆することができる。
【0058】
次に、図3のプラズマイオン注入成膜装置を用いて内容器24外面と外容器25内面の表面をDLC薄膜で被覆する原理を図4を参照しながら説明する。図4は高電圧パルスを印加した場合の内容器24外面と外容器25内面付近のプラズマシースの変化を示す図である。
【0059】
チャンバ52内に導入されるガスとしては、炭化水素ガスが用いられる。ここでは、ガス導入系54から導入されるガスとしてメタンおよび四フッ化炭素を用いる場合を説明する。
【0060】
まず、チャンバ52内に内容器24外面と外容器25内面を治具50を介して導体55に接続した状態で配置し、真空排気系53によってチャンバ52内を排気した後、ガス導入系54によりチャンバ52内にメタンおよび四フッ化炭素を導入し、チャンバ52内を所定のガス圧にする。この状態で、RF高周波電源58から重畳装置57および導体55を通してパルス状のRF電力を内容器24外面と外容器25内面に印加する。それにより、内容器24外面と外容器25内面の周囲に正のイオンおよび電子を含む一様なプラズマが内容器24外面と外容器25内面の形状に沿って発生する。
【0061】
その後、高電圧パルス電源59から重畳装置57および導体55を通して負の高電圧パルスを内容器24外面と外容器25内面に印加する。それにより、プラズマ中の正のイオンが内容器24外面と外容器25内面に誘引される。
【0062】
内容器24外面と外容器25内面に高電圧パルスを印加しない場合は、図4の(1)に示すように、プラズマは一様な状態になっている。内容器24外面と外容器25内面に高電圧パルスを印加すると、図4の(2)に示すように、プラズマ中の電子は内容器24外面と外容器25内面付近から遠ざかり、正のイオンは質量が大きいのでほとんど動かない。それにより、内容器24外面と外容器25内面周囲には、正のイオンのみが残り、プラズマシースが形成される。
【0063】
また、図4の(3)に示すように、高電圧パルスの印加開始から数μs程度経過して、電界が強くなると、正のイオンはプラズマシースのシース電圧により内容器24外面と外容器25内面の表面の方向に加速される。正のイオンが内容器24外面と外容器25内面に衝突すると、内容器24外面と外容器25内面付近の電荷のバランスが崩れるので、図4の(4)に示すように、さらに電子はイオンと逆方向に加速され、プラズマシースの厚みは増加する。このようにして、内容器24外面と外容器25内面にイオンが注入されるとともに、内容器24外面と外容器25内面の表面に膜が形成される。
【0064】
本実施の形態では、チャンバ52内にガスとしてメタンおよび四フッ化炭素を導入するので、プラズマ中には、炭化水素の正イオン、水素の正イオン、炭素の正イオンおよびフッ素の正イオンが含まれる。それにより、内容器24外面と外容器25内面の表面にDLC薄膜が形成される。
【0065】
このプラズマイオン注入成膜装置51によれば、被処理物である内容器24外面と外容器25内面をプラズマ生成用アンテナとして用いることにより、内容器24外面と外容器25内面の形状に沿ったプラズマを生成することができる。その結果、必然的に内容器24外面と外容器25内面の周囲におけるプラズマの密度が高くなり、イオンの誘引注入の効率が向上し、高い密着性を有するDLC薄膜の形成が可能となる。
【0066】
ここで、合成樹脂からなる内容器24外面と外容器25内面は絶縁性および柔軟性を有する。一方、一般的なDLCは、高い硬度を有し、低摩擦性およびガスバリア性に優れるという特性を有するが、その反面、剥離しやすく、厚膜を形成することが困難である。特に、柔軟性を有する合成樹脂の表面にDLC薄膜を形成した場合、合成樹脂の変形によりDLC薄膜が容易に剥離する。
【0067】
空気や水蒸気を長期にわたって確実にシールすることができる断熱容器22を製造するためには、合成樹脂からなる内容器24外面と外容器25内面の表面に高硬度、耐摩耗性および高ガスバリア性を有しかつ高密着性および柔軟性を有するDLC薄膜を所定の厚さに形成する必要がある。
【0068】
次に、図5を参照して、真空溶接機76の構成と、フッ素を含むDLCコート層34を形成した内容器24と外容器25との組み立て工程を説明する。
【0069】
真空溶接機70は真空ポンプ71を有する真空チャンバ72と、赤外線レーザを発するダイオード73が内蔵されたプレス機74とからなり、プレス機74は上金型75と下金型76とからなり。上金型75は内容器24を固定するもので、内容器24の拡径部30全周に対応してレーザダイオード73が並べられている。下金型76は外容器25のフランジ部29を固定できるようになっている。
【0070】
まず、外容器25を下金型76にセットし、先で説明した方法で形成され所定の寸法に切断した10mm厚の複合粉末成形体77を外容器25の底と前後左右の内面に仮置きし、底の複合粉末成形体77の上面には吸収剤35をセットする。
【0071】
次に、内容器24を取り付けた上金型75を下金型76上方にセットし、上金型を内容器24拡径部の下面と外容器25のフランジ上面とが接する手前まで下降させておき、チャンバ72の開口部を閉じ真空引きを開始する。真空度が1Pa以下になったことを真空度計78で確認して再度上金型を下降させ内容器24拡径部30の下面と外容器25のフランジの上面とを圧着させる。
【0072】
次に、圧着させると同時にレーザダイオードを駆動させ、外容器フランジ部上面にある突起部を溶着させて内容器と外容器とを接合させる。
【0073】
このとき、外容器のPPS樹脂にはレーザ光を吸収し適度に発熱させるために吸収色素を混ぜたものを使用する。
【0074】
このとき、主として突起32を加熱溶融せしめ、必要に応じて内容器24を押圧して溶融した突起32を押し広げ、内容器24のフランジ29部の下面と外容器55の拡径部29上面とを溶着し、内容器24と外容器25とを一体に接合する。
【0075】
このような溶着を行う方法としては、今回偉赤外線レーザ溶着法を用いたが、超音波溶着法、振動溶着法などが好適である。このように、拡径部30に設けた突起32とそれに当接したフランジの突起32間の溶着によって、内容器24と外容器25とを一体に接合することにより、内容器24と外容器25自体を熱変形させることなく、しかも確実な溶着接合が可能となる。
【0076】
次に、以上のように構成された断熱タンク21の中に、お湯を保存したときの熱の移動について説明する。
【0077】
断熱タンク内の熱は、内容器24壁面と、減圧状態の空隙にある通気性多孔質体27と、外容器25の壁面を通過して外気に移動するA経路と、内容器24の拡径部30を経て移動するB経路と、内容器24壁面からDLCコート34層を短絡して外容器25の壁面に移動するC経路とが考えられる。
【0078】
まず、A経路では減圧状態にある通気性多孔質体27の断熱性能が重要となる。本発明の実施の形態1においては、ガスの対流を防止する通気性多孔質体27があり、また透湿度が低く、ガスバリア性の高い1μmのDLCコート処理が内容器24と外容器25とに施されているので、空隙26へのガスの導入による初期真空度の低下は抑えられる。また、多少の水分の浸入は吸着剤により捕捉されるため、初期真空度は長期において確保できるものである。
【0079】
次に、B経路については、ステンレス等の金属に比べて、樹脂は1/50近くの熱伝導率であり断熱性能は高く、本発明の実施の形態1では大きな熱の移動とはならない。
【0080】
また、Cの経路については、従来の金属メッキに比べて、DLCコート層は1/10以下の熱伝導率であり、また、CVDによるDLCコートは蒸着に比べて緻密であり、必要とする透湿性およびガスバリア性を確保するには厚みも薄くできるので、従来に比べると熱移動は大幅に小さくなる。
【0081】
さらに、DLCコート層の摩擦係数は金属メッキ層に比べると非常に低いものであり、多孔質材料.の充填材は固定されていないために、外部の振動や衝撃ごとに充填材が空隙内で躍動し、壁面を荒らし、磨耗させ、最終的には金属メッキ面が破壊し、ガスバリア性が低下するという問題も解決できるものである。
【0082】
本発明の実施の形態1では、合成樹脂製の内容器外面と外容器内面とにプラズマCVDでフッ素を含むDLCコート層を設けたが、内容器と外容器の外面と内面を全ての面にフッ素を含むDLCコート層を設けてもより信頼性を高めることができるものであり、内容器外面と外容器内面に限定するものではない。
【0083】
また、フッ素を含むDLCコート層を使用したが、柔軟性では劣るものの、フッ素を含まないDLCコート層でも、透湿度は低く、ガスバリア性もよく、摩擦係数も低いものであり、フッ素を含むものに限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明にかかる合成樹脂製断熱容器は、従来の様に断熱温水タンクや魔法瓶、保温弁当箱などの断熱容器として使用されるばかりか、設計自由度のメリットと高いガスバリア性能を活かし、小さなスペースでも収納できる為自動車のエンジン周りの環境の厳しい蓄熱タンクや保温カバーとして、耐久消費財である耐用年数の長い冷蔵庫などの箱体にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の概略断面図
【図2】本発明の実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の接合部を示す要部拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の内容器外側と外容器内側へのプラズマCVDによるDLCコートを施すプラズマイオン注入成膜装置の模式的縦断面図
【図4】本発明の実施の形態1における高電圧パルスを印加した場合の内容器外面と外容器内面付近のプラズマシースの変化を示す概略図
【図5】本発明の実施の形態1における合成樹脂製断熱容器の接合工程を示す概略断面図
【図6】従来の合成樹脂製断熱容器の概略断面図
【符号の説明】
【0086】
22 断熱容器
24 内容器
25 外容器
26 空隙
27 通気性多孔質体
34 DLCコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内外容器面にプラズマCVDでDLCコート層を設け、前記空隙に通気性多孔質体を充填し、かつ前記空隙内を減圧とし、内容器と外容器のそれぞれの口元同士を溶着接合してなることを特徴とする合成樹脂製断熱容器。
【請求項2】
合成樹脂製の内容器を合成樹脂製の外容器内に空隙を保って配し、内容器と外容器との接合部を除く前記合成樹脂製の内容器外面と外容器内面とにプラズマCVDでDLCコート層を設け、前記空隙に通気性多孔質体を充填し、かつ前記空隙内を減圧とし、内容器と外容器のそれぞれの口元同士を溶着接合してなることを特徴とする合成樹脂製断熱容器。
【請求項3】
プラズマCVDにより設けられたDLCコート層がフッ素を含むDLCコート層であることを特徴とする請求項1または2に記載の合成樹脂製断熱容器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−50020(P2008−50020A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226198(P2006−226198)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能、高機能真空断熱材」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】