説明

合成繊維の溶融紡糸装置および合成繊維の製造方法

【課題】極細のポリアミドマルチフィラメント糸を、ウースター斑の少ない均斉なポリアミドマルチフィラメント糸を製造することを可能にする合成繊維の溶融紡糸装置と合成繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】環状に配列した多数の吐出孔を有する紡糸口金、該紡糸口金の直下に該口金面に向けて蒸気を噴出する噴射口を有する蒸気噴出装置、該蒸気噴出装置の下方に配されて冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置を有する合成繊維の溶融紡糸装置であり、また、該溶融紡糸装置を用いて、単繊維繊度1.3デシテックス以下のフィラメントの多数からなるマルチフイラメント糸として引取り速度3500m/分以上で引き取る合成繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の溶融紡糸装置と製造方法に関する。
例えば、特に、1.3dtex以下、具体的には、0.3〜0.8dtexという極細の合成繊維マルチフィラメント糸を溶融紡糸引取り法で製造するに際して、好適に使用することができる合成繊維の溶融紡糸装置と溶融紡糸引取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維フィラメントの溶融紡糸法によって、例えば、1.3dtex以下などという極細フィラメントからなるマルチフイラメント糸を製造することが要請されている。すなわち、太繊度でマルチフィラメント糸を製造してから後に特別な分割処理や構成成分の溶出処理などの極細繊維化処理を施すというような技術を利用せずとも、直接、紡糸・延伸工程で極細マルチフィラメント糸を製造せんとする技術である。
【0003】
このような極細フィラメントからなるマルチフイラメント糸を製造するに際しては、わすかな単繊維の太さ斑や繊度斑、あるいは断面斑(以下、これらを総称して「ウースター斑」と称す)が発生した場合でも、基準である単繊維の太さが非常に細いものであるために、後加工工程において該マルチフィラメント糸を製編織して染色をしたときなどに、明確に視覚的に認識される染色ムラの発生となることが多いものであった。
【0004】
このため、紡糸・延伸工程によって、直接的に極細マルチフィラメント糸を製造する場合には、単繊維のウースター斑が発生しない溶融紡糸技術と工程管理が要求されるものであった。
【0005】
従来、極細マルチフィラメント糸を溶融紡糸法により直接的に製造する技術としては、例えば、冷却風による紡糸口金面の温度斑が減少して口金面の雰囲気温度が安定し、高速で紡糸した場合にも、ウースター斑の発生を抑制できるポリエステル極細マルチフィラメント糸の製造方法と溶融紡糸装置として、単繊維繊度が1.2デシテックス以下のポリエステル極細マルチフィラメント糸を製造する方法において、ポリエステルを紡糸口金から溶融紡出し、紡出された糸条を紡糸口金下方で冷却風により冷却しながら引き取るに際し、該紡糸口金面と該冷却風の吹き出し部の上端面との距離を10から40mmに設定するとともに、冷却風が糸条の走行方向に直角方向から下向きに吹き出すようにするという提案がされている(特許文献1)。
【0006】
しかし、この方法は、特にポリエステル極細マルチフィラメント糸を製造する場合には、効果があっても、ポリアミド極細マルチフィラメント糸を製造する場合には、細繊度であるためトータル吐出繊維表面積が大きいことから口金面に酸化物が発生しやすく、その結果、細繊度であることも相俟って口金吐出孔での糸曲がりもさらに大きなものとなりやすく、糸切れ等の操業性が大いに悪化するため十分な効果が得られるものではなかった。
【0007】
一方で、保温筒内に装着された紡糸口金の下方に水蒸気供給装置を設け、水蒸気を溶融紡糸口金面に供給するようにした装置において、該水蒸気供給装置は紡糸保温筒下部に装着された内周面に水蒸気噴出ノズルを有する水蒸気供給室と、該供給室に対応して中央部に糸条通過部を有し、その外周面が前記噴出ノズルからの噴出気体が衝突するように設けられた緩衝装置と、該緩衝装置外周壁および前記保温筒下部内壁面に沿って形成される気体流路と、前記水蒸気供給室の下部に設けられた加熱装置とを有し、かつ前記水蒸気供給装置は水蒸気導入管を有するが、凝縮水排出管は設けせしめないことを特徴とする溶融紡糸装置が提案されている(特許文献2)。
【0008】
しかし、このような溶融紡糸装置で単糸繊度の小さい極細マルチフィラメントを紡糸した場合、紡糸口金面と冷却風の吹き出し部の上端面との距離が長いため、糸条が冷却風を付与される前に該糸条が固化してしまう。その結果、各単糸間で固化する位置が不均一となるため、ウースター斑を引き起こしてしまうといった問題がある。
【特許文献1】特開2004−300614号公報
【特許文献2】特願昭48−114710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、例えば、1.3dtex以下、具体的には、0.3〜0.8dtexというような極細のポリアミドマルチフィラメント糸を、ウースター斑の少ない均斉なポリアミドマルチフィラメント糸を製造することを可能にする合成繊維の溶融紡糸装置と合成繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成する本発明の合成繊維の溶融紡糸装置は、以下の(1)の構成を有する。
【0011】
(1)環状に配列した多数の吐出孔を有する紡糸口金、該紡糸口金の直下に該口金面に向けて蒸気を噴出する噴射口を有する蒸気噴出装置、該蒸気噴出装置の下方に配されて冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置を有することを特徴とする合成繊維の溶融紡糸装置。
【0012】
かかる本発明の合成繊維の溶融紡糸装置において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(8)のいずれかの構成になるものである。
【0013】
(2)環状に配列された多数の吐出孔が、複数列の環状を形成して配列されているものであることを特徴とする上記(1)記載の溶融紡糸装置。
【0014】
(3)より内側の環状列を成す吐出孔の配置位置は、その環状列の一つ外側にある環状列を成す吐出孔の配置位置との関係において、吐出孔群の外周側から該吐出孔群の中心に向けて引く同一の直線上には実質的に存在しないように配置されていることを特徴とする上記(2)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0015】
(4)蒸気噴出装置が、紡糸口金の直下に該口金面に向けて蒸気を噴出する環状の噴射口を有するものであることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0016】
(5)前記紡糸口金下面から、前記環状冷却装置の上端位置までの距離L1 (mm)が、20≦L1 ≦50であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0017】
(6)前記紡糸口金下面から、前記蒸気噴出装置の上端位置までの距離L2 (mm)が、3≦L2 ≦20であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0018】
(7)環状冷却装置が、糸条の吐出方向に沿って紡糸口金側の外周が引取り側の外周よりも小径に形成された段差を有して構成されており、該小径の部分の周囲に蒸気噴出装置の一部が配置されてなることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)または(6)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0019】
(8)口金から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸を、該吐出後、最初の引取りローラーで引取るときに、単繊維繊度1.3デシテックス以下のマルチフイラメント糸として引き取りを行う溶融紡糸装置であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)または(7)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0020】
(9)口金から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸を、該吐出後、最初の引取りローラーで引取るときに、引取り速度3500m/分以上として引き取りを行う溶融紡糸装置であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)または(8)記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【0021】
また、上述した目的を達成する本発明の合成繊維の製造方法は、以下の(10)の構成を有する。
【0022】
(10)環状に配列した多数の吐出孔を有する紡糸口金から溶融ポリマーを吐出させ、該溶融ポリマーを、該紡糸口金の直下に設けられた前記紡糸口金面に向けて蒸気が噴射されている蒸気噴出ゾーンと、該蒸気噴射ゾーンの下流側に設けられ、かつ環状の列を形成して存在する多数の溶融ポリマー群の外周側から中心側に向けて冷却風が吹き流れている環状冷却ゾーンを通過させて冷却固化を行なわせ、しかる後、単繊維繊度1.3デシテックス以下のフィラメントの多数からなるマルチフイラメント糸として引取り速度3500m/分以上で引き取ることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【0023】
また、かかる本発明の合成繊維の製造方法は、より具体的に好ましくは、以下の(11)〜(15)のいずれかの構成からなるものである。
【0024】
(11)噴射される蒸気の温度が150〜300℃であることを特徴とする上記(10)記載の合成繊維の製造方法。
【0025】
(12)合成繊維のフィラメントが、ポリアミドフィラメントであることを特徴とする上記(10)または(11)記載の合成繊維の製造方法。
【0026】
(13)合成繊維のフィラメントが、異形断面の合成繊維フィラメントであることを特徴とする上記(10)、(11)または(12)記載の合成繊維の製造方法。
【0027】
(14)異形断面の合成繊維フィラメントが、断面がY字型もしくはT字型の合成繊維フィラメントであることを特徴とする上記(13)記載の合成繊維の製造方法。
【0028】
(15)合成繊維のフィラメントが、中空率が10%以上35%以下の中空断面合成繊維フィラメントであることを特徴とする上記(10)、(11)、(12)、(13)または(14)記載の合成繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
請求項1にかかる本発明によれば、ウースター斑を生ずることなく極細のマルチフィラメント糸を得ることができる点で優れた合成繊維の溶融紡糸装置が提供される。
【0030】
また、請求項10にかかる発明によれば、ウースター斑を生ずることなく、均斉さの点で優れた合成繊維マルチフイラメント糸の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面等に基づいて、更に詳しく本発明の合成繊維の溶融紡糸装置について説明する。
【0032】
本発明の合成繊維の溶融紡糸装置1は、図1に概略モデル断面図を示したように、環状に配列した多数の吐出孔2を有する紡糸口金3、該紡糸口金3の直下に該口金面に向けて蒸気Sを噴出する噴射口4を有する蒸気噴出装置5、該蒸気噴出装置5の下方に配されて、前記環状にある吐出糸条群6の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風Aを吹き出す環状冷却装置7を有してなるものである。
【0033】
かかる本発明の合成繊維の溶融紡糸装置によれば、紡糸口金3の直下に該口金面に向けて蒸気Sを噴出することにより、口金直下での酸素濃度が低減され、酸化物の発生を抑制でき、また、口金下での雰囲気温度を長期間にわたり適正に維持することができるため、溶融紡糸時には、糸切れ減少、口金修正周期延長といった操業性が良好で、かつウースター斑の少ない極細のマルチフィラメント糸を溶融紡糸することができることになる。
【0034】
本発明において、好ましくは、紡糸口金3において環状に配列された多数の吐出孔2が、複数列の環状を形成して配列されているものであることが好ましい。また、その場合、より内側の環状列を成す吐出孔2の配置位置は、その環状列の一つ外側にある環状列を成す吐出孔2の配置位置との関係において、吐出孔群の外周側から該吐出孔群の中心に向けて引く同一の直線上には実質的に存在しないように配置されていることがより好ましい。
【0035】
図3は、紡糸口金の吐出孔の配置状態の一実施態様例を示したものである。
本発明の溶融紡糸装置において、蒸気噴出装置5は、紡糸口金3の直下に該口金面の中心点に向けて外側から蒸気Sを環状に噴出する経路を設けた噴射口4を有するものであることが好ましい。
【0036】
さらに、図1に示した、紡糸口金3の下面位置から、環状冷却装置7の上端位置までの距離L1 (mm)が、20≦L1 ≦50であることが好ましい。蒸気の作用を明確に与えた後、吐出ポリマーの固化が開始する前になるべく早く冷却作用を該吐出ポリマーに与えるためである。
【0037】
また、図1に示した、紡糸口金3の下面位置から、蒸気噴出装置5の上端位置までの距離L2 (mm)が、3≦L2 ≦20であることが好ましい。L2 を該範囲とすることにより、適度な蒸気噴出速度で口金面に蒸気をあてること、かつ蒸気でシールされた雰囲気状態を口金面直下において有効に形成せしめることができるようになる。
【0038】
なお、L2 を該範囲とするために、図1に示したように、環状冷却装置7は、糸条の吐出方向に沿って、紡糸口金側の外周が引取り側の外周よりも小径に形成された段差を有するように構成して、該小径の部分の周囲に蒸気噴出装置5の一部が配置されるように装置を構成するのがよい。
【0039】
また、図1に示したように、好ましくは、環状に配置された吐出孔2の中心点の最大外径(直径)Dp(mm)と、環状に配置された蒸気Sの噴射口4の最内端部の直径Df(mm)とが、1.0<Df/Dp≦1.7の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、1.1≦Df/Dp≦1.5の範囲内にあることであり、これらの範囲を満足することより、蒸気噴射の効果を良好にえることができる。
【0040】
冷却風の静圧値は、3〜15mmAqが好ましく、より好ましくは、5〜10mmAqである。
【0041】
噴出する蒸気の好ましい温度は、150〜300℃であり、より好ましくは、200〜250℃である。該蒸気の静圧値は、5〜30mmAqが好ましく、より好ましくは、10〜20mmAqである。
【0042】
本発明の溶融紡糸装置において、口金3から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸を、該吐出後、最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)で引取るときに、単繊維繊度1.3デシテックス以下のマルチフイラメント糸になるようにして延伸と引取りを行うことが好ましい。このような構成とすることにより、最も合理的なプロセス構成下で、実用的な機械的物性を有する合成繊維マルチフィラメント糸を製造することができる。また、 口金から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸は、該吐出後、最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)で引取るときに、引取り速度を3500m/分以上、好ましくは、4000m/分以上、7000m/分以下として引取りを行うことが、コスト面や安定生産の上で好ましい。
【0043】
図2は、本発明にかかる溶融紡糸装置で溶融紡糸された合成繊維糸条6が、給油装置8、最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)9、第2ゴデットローラ10を通過して、ワインダー11に至り、巻取られるまでの工程を示した概略モデル図であり、本発明の溶融紡糸装置では、高速下で溶融紡糸し、最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)9に至るまでに、所望の極細マルチフィラメント糸の単繊維繊度を有するものであるように延伸をするのがよい。通常の場合は、該最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)9での引取り速度は、3500m/分以上とするのがよいものである。
【0044】
しかして、本発明は、以下のとおりの合成繊維の製造方法を提供するものである。
すなわち、環状に配列した多数の吐出孔2を有する紡糸口金3から溶融ポリマーを吐出させ、該溶融ポリマーを、紡糸口金3の直下に設けられた紡糸口金面に向けて蒸気が噴射されている蒸気噴出ゾーンと、該蒸気噴射ゾーンの下流側に設けられ、かつ環状の列を形成して存在する多数の溶融ポリマー群の外周側から中心側に向けて冷却風が吹き流れている環状冷却ゾーンを通過させて冷却固化を行なわせ、しかる後、単繊維繊度1.3デシテックス以下のフィラメントの多数からなるマルチフイラメント糸として引取り速度3500m/分以上で引き取ることを特徴とする方法である。
【0045】
かかる方法において、噴射される蒸気の温度が150〜300℃であることが好ましい。蒸気の温度をかかる範囲とすることにより、良好で安定した蒸気の噴出効果を得ることができる。
【0046】
また、本発明の合成繊維の製造方法において、好ましくは、合成繊維フィラメントが、ポリアミドフィラメントであることである。ポリエステル繊維でも、効果はある程度は期待できるものの、使用されているポリエステル樹脂材料の触媒などによって効果が乏しくなる場合があるからである。ポリアミド繊維としては、特に限定されるものではないが、ポリカプロラクタム(ナイロン6)繊維やポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)繊維が好ましい。
【0047】
本発明の合成繊維繊維の溶融紡糸装置と合成繊維の製造方法によれば、ウースター斑を良好にし、かつ均斉・均一な太さ(細さ)を有するマルチフィラメント糸を製造することができることになる。
【0048】
このことは、本発明の装置と製造方法が、通常の丸断面繊維からなる糸を製造する場合にはもちろんのこと、細繊度かつ異形断面繊維からなるマルチフィラメント糸を製造する場合にも、特に良好にウースター斑が小さく安定したものを製造することができるようになるものである。
【0049】
本発明の溶融紡糸装置は、異形断面の合成繊維フィラメント糸を製造する場合にも特に有効に用いられるものであり、例えば、該異形断面の合成繊維フィラメント糸が、単繊維断面がY字型もしくはT字型の合成繊維フィラメントである場合などに有効なものである。
【0050】
例えば、図4に示したような単繊維横断面における最大内接円直径がIcであって、最小外接円直径がOcである異形断面繊維の場合、異形度M値=(外接円直径Oc/内接円直径Ic)としたときに、M値が2.4以上であるようなY字型もしくはT字型の合成繊維フィラメントの製造をする場合などに本発明の溶融紡糸装置は好適なものである。その場合、M値の上限は3.5以下程度が好ましい。
【0051】
また、本発明の溶融紡糸装置によれば、ウースター斑を小さな状態にしつつ極細の合成繊維マルチフィラメント糸を製造できる結果、特に、単繊維繊度が好ましくは2.5デシテックス以下、より好ましくは、1.3デシテックス以下で、かつ中空率が10%以上35%以下の中空断面合成繊維フィラメント糸を製造する場合等にも好適で有効である。
【実施例】
【0052】
実施例1、比較例1
図1に示した装置態様で、口金孔配列は、例えば図3に示した通りの環状配列での糸条当たりの孔数を96孔とし、さらに、Df=86mm、Dp=76mm(Df/Dp=1.13)、L1 =45mm、L2 =10mmとして、56デシテックス96のナイロン66マルチフィラメント糸を溶融紡糸して、図2に示した態様で巻き取った(実施例1)。
【0053】
第1ゴデットローラでの引取り速度は4250m/分である。
また、噴出した蒸気は20mmAq、ヒータ温度は250℃であり、チムニー静圧10mmAq、風速にして30m/分である。
【0054】
得られたナイロン66マルチフィラメントを、zellweger uster社製のUSTER TESTER III を用いて試料長300m、測定糸速度100m/分で、設定を12.5%HIとして8個測定して繊維長方向の繊度斑の変動状態(U%値)を求めた。
【0055】
その結果、本発明の糸条はU%が0.60%の良好なレベルを得ることができた。
なお、この実施例の溶融紡糸を行うに際して、本発明の上述実施例1の場合での口金汚れに起因する糸切れと、蒸気の噴出のみを止めた場合(比較例1)での口金汚れに起因する糸切れの回数を比較したところ、本発明により蒸気の噴出を行った場合は4回/トンであり、これに対して蒸気の噴出を停止させた場合は、9回/トンとほぼ本発明による場合の2倍であり、本発明による場合が優れていることが確認できた。
【0056】
また、蒸気の噴出をさせなかった比較例1の糸条はU%が1.60%のレベルであり満足できないものであった。
【0057】
以上の条件と結果を表1にまとめて示した。
【0058】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の合成繊維の溶融紡糸装置の一実施態様例を示した概略モデル断面図である。
【図2】図2は、本発明にかかる溶融紡糸装置で溶融紡糸された合成繊維繊維糸条が、給油装置8、最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)9、第2ゴデットローラ10を通過して、ワインダー11に至り、巻取られるまでの工程を示した概略モデル図である。
【図3】図3は、紡糸口金の吐出孔の配置状態を示す一実施態様例を示したものである。
【図4】図4は、最大内接円直径がIcであって、最小外接円直径がOcであるような異形断面繊維における異形度の測定手法を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1:溶融紡糸装置
2:吐出孔
3:紡糸口金
4:蒸気噴射口
5:蒸気噴出装置
6:吐出糸条群
7:環状冷却装置
8:給油装置
9:最初の引取りローラ(第1ゴデットローラ)
10:第2ゴデットローラ
11:ワインダー
S:蒸気
A:冷却空気
1 :紡糸口金3の下面位置から環状冷却装置7の上端位置までの距離(mm)
2 :紡糸口金3の下面位置から蒸気噴出装置5の上端位置までの距離(mm)
Dp:環状に配置された吐出孔2の中心点の最大外径(直径)(mm)
Df:環状に配置された蒸気Sの噴射口4の最内端部の直径(mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に配列した多数の吐出孔を有する紡糸口金、該紡糸口金の直下に該口金面に向けて蒸気を噴出する噴射口を有する蒸気噴出装置、該蒸気噴出装置の下方に配されて冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置を有することを特徴とする合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項2】
環状に配列された多数の吐出孔が、複数列の環状を形成して配列されているものであることを特徴とする請求項1記載の溶融紡糸装置。
【請求項3】
より内側の環状列を成す吐出孔の配置位置は、その環状列の一つ外側にある環状列を成す吐出孔の配置位置との関係において、吐出孔群の外周側から該吐出孔群の中心に向けて引く同一の直線上には実質的に存在しないように配置されていることを特徴とする請求項2記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項4】
蒸気噴出装置が、紡糸口金の直下に該口金面に向けて蒸気を噴出する環状の噴射口を有するものであることを特徴とする請求項1、2または3記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項5】
前記紡糸口金下面から、前記環状冷却装置の上端位置までの距離L1 (mm)が、20≦L1 ≦50であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項6】
前記紡糸口金下面から、前記蒸気噴出装置の上端位置までの距離L2 (mm)が、3≦L2 ≦20であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項7】
環状冷却装置が、糸条の吐出方向に沿って紡糸口金側の外周が引取り側の外周よりも小径に形成された段差を有して構成されており、該小径の部分の周囲に蒸気噴出装置の一部が配置されてなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項8】
口金から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸を、該吐出後、最初の引取りローラーで引取るときに、単繊維繊度1.3デシテックス以下のマルチフイラメント糸として引き取りを行う溶融紡糸装置であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項9】
口金から吐出された合成繊維マルチフィラメント糸を、該吐出後、最初の引取りローラーで引取るときに、引取り速度3500m/分以上として引き取りを行う溶融紡糸装置であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の合成繊維の溶融紡糸装置。
【請求項10】
環状に配列した多数の吐出孔を有する紡糸口金から溶融ポリマーを吐出させ、該溶融ポリマーを、該紡糸口金の直下に設けられた前記紡糸口金面に向けて蒸気が噴射されている蒸気噴出ゾーンと、該蒸気噴射ゾーンの下流側に設けられ、かつ環状の列を形成して存在する多数の溶融ポリマー群の外周側から中心側に向けて冷却風が吹き流れている環状冷却ゾーンを通過させて冷却固化を行なわせ、しかる後、単繊維繊度1.3デシテックス以下のフィラメントの多数からなるマルチフイラメント糸として引取り速度3500m/分以上で引き取ることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項11】
噴射される蒸気の温度が150〜300℃であることを特徴とする請求項10記載の合成繊維の製造方法。
【請求項12】
合成繊維のフィラメントが、ポリアミドフィラメントであることを特徴とする請求項10または11記載の合成繊維の製造方法。
【請求項13】
合成繊維のフィラメントが、異形断面の合成繊維フィラメントであることを特徴とする請求項10、11または12記載の合成繊維の製造方法。
【請求項14】
異形断面の合成繊維フィラメントが、断面がY字型もしくはT字型の合成繊維フィラメントであることを特徴とする請求項13記載の合成繊維の製造方法。
【請求項15】
合成繊維のフィラメントが、中空率が10%以上35%以下の中空断面合成繊維フィラメントであることを特徴とする請求項10、11、12、13または14記載の合成繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−247118(P2007−247118A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75830(P2006−75830)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】